金の笛を奏でて   作:frio

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ちなみにアマデウス症候群なる病名がつけられた病気はありません。架空の言葉です。


第十八話「アマデウス症候群」

 何か、頭に挟まっていたものが、ぽろっと取れた感覚がした。

 

 でも、だからと言って、納得なんてできなかった。

 

 まどかは何か言おうとして、口を開くが、声は出ず、一度閉じもう一度を繰り返す。その姿はまるで金魚のようだ。

 

「…いや待て類、俺はその考えに違和感を持つぞ。」

 

「何かな、司君。」

 

「ああ…もしそうなら、まどかのことだ、今からでも走ってともに演奏をすることだろう。それに、さっき類に声を掛けたと言っていたな…それとどうつながるんだ?」

 

「待って司、喧嘩別れしたから…気まずいんじゃないの…?」

 

「いいか寧々、このまどかというのは、したいと思ったらすぐにする、即断即決を擬人化したかのような人物だ。少なくとも俺はそう思うし、きっと類もそう思っているはずだ。」

 

「そうだね司君。君の言う通り、夜崎くんはすぐに行動する人だ。それに、ボクに声を掛けたというのは、ボクがまだ未練があるように見えたから、というところから、彼女もまた未練があったのではないか、という推測だね。

 …それでだ、夜崎くんはすぐ行動をする人だというのもわかっている…だけどね、司君、ボクは夜崎くんが本気で怒っていないとも言っていないよ?」

 

「…つまり、どういうことだ?」

 

「…そうだね…これはボクから見た夜崎くんだから、本当かどうかわからないし、それに、偏見に近いことを本人の前に言うのも良くないかもだけど…。」

 

「いいよ類、同じ屋上仲間としておっけーだしちゃう!」

 

「そうですね…彰人も我慢の限界に見えますし、俺としても、このまま何もわからないで帰るのは嫌です。」

 

 賛同した二人に合わせて、一同も頷く。刺激を与えることになる…わかっていないものもいるが、それでも覚悟を決めた。

 

 まるで解体ショーだな…と他人を見ているかのようで、まどかはもはやどうでもよくなっていた。

 

「さて、では少し順を追って確認してみよう…夜崎くん、君は暁さんと初めて会った時は、吹奏楽部の夏休み前定期演奏会の時…それで、初めて聴いた音に心底惚れ込んだ…そうだね?」

 

「…そうだ。」

 

「君は彼女の元へと勇み足で入部し、必死に練習して…見事、暁さんの隣で座って演奏する権利を手に入れた…だけど、その当人がとても遊び人で、素晴らしい演奏を知らない人に無償で届けることをしていた…そうだね?」

 

「ああ…だから何だ?」

 

「…ん?いや、待て類…これは…。」

 

「ふふ、さすが司君だ。この段階で気付くということは…夜崎くんのエピソードは、細かくは違うが、大きな視点から見ればとある偉人にそっくりなんだ。」

 

「え、何々?ちょっと教えてよ~二人とも~。」

 

「こら瑞希…まだ最後まで聞いていないんだから、ちょっと落ち着きなさい。」

 

 ちぇーと口を細める瑞希。

 

 似ている…何に似ているのだ?私が知っている話は、とある音楽家の嫉妬の話…あ…?

 

「待て…待て神代。…それは違う、違うぞ、そんな馬鹿な…!?」

 

「…どうやら当人も気づいたみたいだね。…そう、これはかの有名な音楽家、モーツァルト・アマデウスの…その友人、サリエリの話だ。」

 

「さりえり…?」

 

「あ、うん。さすがのえむもモーツァルトぐらいわかるよね。…同じ年代の音楽家の偉人、アントニオ・サリエリ。私もよく知ってる…映画で。」

 

「はえぇ…彰人知ってた?」

 

「まあ、オーケストラも少し聞いたりして…ただまあ、サリエリの曲は聴いたことはないな。モーツァルトで調べた時に、少し見かけたぐらいか。」

 

「…俺は、知っている…無理矢理、学ばされたからな…ということは、神代先輩…夜崎先輩はもしや、暁さんの音楽が素晴らしいからこそ、自分の理想通りにならないことに苛立ちを覚えている…と?」

 

 頭がズキズキと痛む。ガン、ガン、という音が響き、まるで警報を鳴らす音のようだ。

 

「…夜崎くん…君は」

 

「暁のことを、神聖視している…そう言いたいのか。」

 

 抱えている二人を突き飛ばし、ゆらりと神代の前に立つ。一瞬の隙を突かれた二人に、止めることは難しい勢いだった。

 

「…よ、夜崎先輩。落ち着いて…ね?神代先輩だって、悪気があったわけじゃ…。」

 

「おい、類…やり過ぎたんじゃないか…?」

 

 類は、覚悟を決めていた。あの時夜崎は一歩引いたのに、自分は土足で踏み抜いた。どんな言われを受けても、仕方がないと受け入れるしかない。

 

 目をつぶり、ぐっと耐える準備をする。…しかし、いくら経っても衝撃は来ない。

 

 ゆっくりと目を開けると、そこにはまるで迷子の子供のように、泣きじゃくるまどかの姿があった。

 

「…なら、なら私はどうすればいいというのだ!!?これが、これが愛と嫉妬が煮詰まってできた愛憎というのであれば…私は、どうすればこの苦しみから抜け出せるというんだ…!!」

 

 類は、臆してしまった。自分がここまで追い詰めたこと、そして何より、鉄の如き冷たさと硬さを持っていた人が、子どものように幼くなってしまったということに。

 

 類の肩に、とん、と衝撃が入る。後ろを振り返れば、交代だと言わんばかりな、司がそこにいた。

 

 やっぱり、君には叶わないな。類は内心にひそめながら、司との立ち位置を入れ替えた。

 

「…まどか、君ならもうわかるはずだ。」

 

「わかるものか!!私が…理解していることなんて何も…。」

 

「いや、俺が知っているまどかだったら、もうわかっている。…答えはすぐそこだ。最初っから、すぐそばにあったんだ。…よく見渡して、考えて、掴んでみせてくれ…まどかだけの輝きと思いを…!」

 

「…っく…!」

 

 司の手を振り払い、まどかは逃げ出してしまう。

 えむは思わず追いかけようとしたが、寧々に泊められてしまった。

 

「…えむ、私たちができることは、きっとここまで…だよね、類、司。」

 

「…っく…なぜだまどか…お前なら、すぐに…!!」

 

 類も、こんな真似なんてしなかったのだろう。悔しそうにうつむくしかなかった。

 

「…大丈夫、まどかの心は、変わったよ絶対に。」

 

 瑞希は力強く、ここまでの工程を良しとした。瑞希の表情は、いつもような飄々としたものではなく、目に力がこもっている。

 

「…そうね。ここまでできたら上場じゃないかしら?…って、初めて会う人からこんなこと言われても、しょうがないか。」

 

「…心底いやだが、姉貴と同感だ。先輩方はよくやったと思うっすよ。」

 

「とても恰好が良かったですよ、司先輩。」

 

 弟からの余計な一言に、顔をゆがめるも、弟とは違うというところを見せつけるために平気な顔を頑張ってする絵名であった。

 

「…よし!みんな、ご飯食べに…ってえっと、彰人のお姉さんは、これから授業でしたっけ…?」

 

「ああいい、授業はパス。もう今日は疲れたわ。」

 

「親父に何言われても知れねえぞ…。」

 

「良いわよ。友達助けたって言えば黙るでしょ。…まあ、風紀委員からしたら見過ごせないかもだけど…。」

 

「…いえ、大丈夫です!…そうだ、こんな感じなことこはねもあっただろうし、小羽根も一緒にご飯食べるか誘おっと!」

 

「あ“ぁ…マジで疲れた。抑えんの必死で、体もボロボロだし…パンケーキ食べねえとやってらんねぇ…。」

 

「そうだな…俺も、何か特別なものを食べたい。…先輩たちを元気づけたいというのも、ありますが。」

 

 冬弥からの心配をうけ、類と司は嬉しさのあまり笑顔となる。

 

「…おお!こ、これは…燈先輩とまどかさんを救出したい連合、結成ってことだよね!」

 

「えむ、その名前はどうかと思うぞ…そうだな、俺はホープペガサス…」

 

「ああいいっすいいっす、変な名前決めないで、あーっと、暁さん?と夜崎先輩が仲直りするまでの仲っすから。あとだせえし。」

 

 えむと司はショックを受け、意気消沈してしまう。

 

「えっと…ま、まあまあ…今日は頑張りましたし、ご飯、行きましょう!…あ、こはねから連絡来た。いけるって!」

 

 暁の星と夜の星、それぞれが運んだ人々は、お互いの輝きに合わせ更なる輝きを見せる。

 

 その輝きは、すべての闇を照らせるほどの、大きな光となり始めた。

 

 

 

「っていうことがあってさぁ…大変だったよぉ…奏ぇ私を癒してぇ…。」

 

「こら瑞希ずる…ってそうじゃない!奏も今大変なんだから…そういえば、あんたのほうは大丈夫だったの…?」

 

「うん…新しい居場所、見つけられたみたいだから…。」

 

「…よかったわね…本当に…奏、どうしたの…?」

 

 

「…ううん、新しい曲…できそうだから。協力、お願いみんな。」

 

 最後の鍵は、確かに今煌めいた。

 

 




こはねちゃんごめんよ…うまく動かすことができなかった俺を許してくれ…。

3/25修正:会話に違和感があったため修正しました。
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