金の笛を奏でて   作:frio

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レオニードいいよね。


第二話「かわいい後輩たちと約束破りな同居人」

 学校が終わり、夕方。

 

 決まって私は公園で練習をする。ママ―あの人何してるのー?という声をバックに、今日も今日とてミュートをつけながら練習をする。外部にはむぉーという音が聞こえるだけなので、猶更何をしてるかわからないだろう…少女よ、いつか訪れるであろう演奏会の見学を、楽しみにしているが良いぞ。

 

 さてはて今日は、齢一個下なあの子は来るのだろうか。一つ通し練習を終わらせ、周りに目線を配る。

 

 …居た。そこには私を探しているのか、あたりを見渡している【星乃 一歌】の姿を見つける。いたずら心が芽生えた私は、後ろからそろりそろりとミュートを外しつつ、一歌の背中目掛けて鈍い音をぶち当てる。

 

「ひゃ!?…あ、暁先輩…。」

 

「ん。一歌、驚いた?」

 

「もう…何回もやられて慣れちゃいました。」

 

「むむむ、残念。中学生のころは心臓バクバクさせたのに。」

 

 おしとやかに笑う一歌。私の周辺には顔面と髪が美しく、どんなしぐさでも様になる人しかいない。じぇらしー。

 すると、遠くから缶ジュースを抱えた金髪の女性が走ってきた。うお、極光。陽キャトップ層女子かな?

 

「…あ、咲希…待っててって言ったのに。」

 

「もう、ひどいよいっちゃん!私もっといっちゃんと一緒に…あれ、あの…いっちゃんのお友達?」

 

「どうも、お嬢さん。私はさすらいのトランペットガンマン。あなたのハートを打ち抜くぜ。」

 

トランペットの音程を調節する指かけを支点に、くるくると回す。ひもでくくっているため、すっぽりと抜けず、カチャンカチャンと鉄がぶつかり合う音がする。

 

「え、え!?す、すごい、かっこいい!」

 

「ふふふのふ…バキューン。」

 

「や、やられた―!」

 

トランペットの銃口を向け、打ち抜く。咲希と呼ばれた子は、胸を抱えてやられたふりをした。ふふ、ノリがいい…彼女は、将来大物になりそうだぜ…。

 

「咲希、楽しそう。暁先輩と相性よさそうだね。」

 

「うん!楽しい…ってえ、先輩!?」

 

「じゃあらためて。初めまして、私の名前は暁燈。ぴちぴちの宮女二年生。」

 

「はわわ…ご、ごめんなさい!わ、私先輩だって知らなくて…制服も同じなのに…。」

 

「ん、別に問題ない。一番リラックスできる態度で構わない。…一歌、例の心配していた子?」

 

「はい。退院して、今日から私と同じクラスメイトに…。」

 

「ええ、もしかしていっちゃん、この人に私のこと話していたの?!恥ずかしいよ~。」

 

ふむ、まさしく親友同士、阿吽の呼吸。お互いのパーソナルスペースや会話のテンポをよく理解して、聞いてて心地よく感じるほど、仲がいいとわかる。

 

私の持論の中に、会話も又音楽というのがある。調和のとれた合奏は、ついついアドリブを入れて楽しく崩したくなるものだ。意外と私はSなのかもしれない。もちろん、会話が不快にならない程度に、いたずらをしよう。

 

「咲希…っていうんだったけ?」

 

「はい!【天馬 咲希】って言います!今年から宮女一年生です!」

 

「おおお…かっこいい名前。」

 

「えへへへ…ありがとうございます!」

 

「あ、それでね咲希さん。一歌はいつも咲希さんのことを嬉しそうに話していたよ。なんか聞いてて口の中が甘くなるぐらいに。」

 

「え、それって本当ですか?!」

 

「ちょ、あ、暁先ぱ…」

 

「うん。トランペット片手じゃなかったら、ブラックコーヒー片手に聞いていたいほど…改めて、咲希さんのこと本当に大事なんだね、一歌。」

 

「いっちゃん…!!!」

 

「あ、あうう…。」

 

咲希さんはうれしさのあまり、あたり一面が輝くほどに喜びを全身で表していた。

あらあら一歌さん、顔真っ赤にして会話が弾まなくなってしまいましてよ?ほほほ、奇麗な顔がリンゴのごとく赤くなってしまって…眼福眼福。

 

「一歌の照れ顔、おいしいヤミー感謝感謝。」

 

「も、もう!暁先輩、からかわないでください!」

 

「いっちゃん…これから喫茶店とか、ゲームセンターとか、いっぱい遊ぼうね!!」

 

「…うん。これから、いっぱい遊ぼう、咲希。」

 

ふふふのふ。やはりお約束事のような音楽に、突飛なアドリブをしたかのような会話の後は、さらに仲良くなれるものだ。見ていて眩しい。まだまだ若い齢だが、なんだかさらに若返った気がする。

 

「…あ、そうだ燈先輩!先輩も一緒に遊びませんか?今度の休日とかに!」

 

「ん、遠慮していく。今は幼馴染との時間を取り戻すべき。」

 

「…と、燈先輩…!!」

 

…なんとも、全身で憧れます、と伝えられると、むず痒く感じてしまう。なるほど、これが極光型陽キャ。

 

「暁先輩、私は構いませんよ?…咲希はどう?」

 

「うん、燈先輩とお話するの、とっても楽しいし!」

 

「ふふふ…ここまで愛されキャラになれるとは、私はまだ無限大の可能性があると見た。…でも、一歌達にそんな暇はないんじゃない?」

 

二人は虚を突かれたのか、目をぱちくりした。

一歌の話を思い出せば、まだまだ足りてないピースが大量。二人とも、それを回収することに集中すべきだ。

 

「一歌…今度は、昔言ってた残り二人の幼馴染と仲良くしてるところが見たい。」

 

「…ッ!…。」

 

「アンサンブルは楽しい。何より、人が多ければ多いほど。…昔、一歌も賛同してた。忘れたとは言わせない。」

 

一歌と出会ってから、今に至るまで、彼女は残り二人の幼馴染といろいろあったみたいなのだが、ずっと何かしらの未練が残り続けてる。幼馴染とバンドをしていたことも聞いていたし、何より、彼女も音楽が大好きなのだ。ぜひ、彼女たちの奏でる音を聞いてみたい。さんざん我慢してきたし、ちょっとは小突いてもいいだろう。

 

デリカシーがない、と私の頭から言葉がはじき出される。うるさいうるさい、一歌の話を聞いていた限り、絶対彼女たちのバンドは楽しい音を奏でるはずだ。私はグルメなのだぞ、犬の調教のごとく永遠と待てをされたのだ。いい加減空腹で倒れそうなのだ。

 

「…いっちゃん、やっぱり私、みんなとまたバンドしたり、遊びたい。」

 

「…さ、咲希…。」

 

お、おお…なんとも美しい。真剣な彼女の顔は、誰でも魅入ってしまうほど、魅力的なものだった。これは…近いうちに彼女たちのバンド演奏を聴けるかもしれない。オラわくわくしてきたぞ。

 

とはいえ、功を焦る必要はない。一歌だっていろいろあったのだ。息が上がった状態で演奏しても、がたつくし演奏がばらばらになって曲にならない可能性が高い。練習はコツコツとやるように、彼女たちに取り巻くものも、またコツコツと向き合う必要があると思う。

 

「燈先輩…今度、絶対みんな連れてきますね!」

 

「おお、それは楽しみ。…一歌。」

 

「…はい。」

 

「慌てなくていいからね。でも、きっと大切なことだから…いっぱい考えて。」

 

演奏を通じて何を伝えようとするのかは大事なことだ。きっと、それは人間関係も変わらないのだろう。いい音を出すには健全な精神と肉体からである。うおお、音楽から何度だって人生を見出してしまう。なんと奥が深い学問なのだ…感動した、一生音楽やっていよう。

 

いつもは、私が演奏者で一歌がお客さんだった。今度はきっと、私はお客さんになれるかもしれない

。立ち去っていく二人に手を振りつつ、そろそろ奏のご飯を作るために帰る時間だというのを確認したのち、楽器を片付け私も帰路に立った。

 

 

 

 

 

さて、さっそくなのだが、私は今最高に気分が悪い。

 

正面に正座させた奏を見据える。ため息を漏らすたびに、奏の方はびくりと震えた。

まるで獲物の前の小動物である。しかしこれは私が肉食動物で奏を食べようとしているわけでもなく、ましてはキュートアグレッションをしているわけでもない。こうなったのは、この奏ってやつの仕業なのだ。

 

「奏、なぜ正座しているのかわかってる?」

 

「…えっと…徹夜したから…?」

 

「前私が怒ったとき、それに関しては作品作りって言うのもあるから一日ぐらいなら何も言わない…もしかして、何回も徹夜してるの?」

 

「し、してな…えっと…ごめん、二日目。」

 

流石に予想外。つまりこの貧弱っ子、私との約束をすべて破りよった。

 

「…おいは恥ずかしか。生きてはおられんご…。」

 

「な、なんで薩摩弁なの…?」

 

「士道不覚悟で自決したほうが奏にとっていい薬になるかなって。」

 

「…え?!や、やめて…!!」

 

…私は悪い人間である。奏の青ざめているかと見間違えるほどの白い顔が、完全に真っ白になってもはや文字通り青い顔になっていた。どうやらトラウマのスイッチを押してしまったらしい。

 

「…本気で言ってないけど、悪いことをしたと思えた?」

 

「…う、うん…次から気を付ける…。」

 

しないって言わない時点で、これはあんまり反省していないなと考える。ぶっちゃけこのやり取り一度や二度ではない。何回も約束は破られているのだ。

まったく、我ながら甘いというかなんというか…等身大の私としても、演奏家としての私としても、辛い過去を持ちなお囚われ続けている作曲者のことを、ついつい甘やかしてしまう。…このままでは、いずれ破綻することは目に見えているのに。

まあ…私も同じところがある。少なくとも音楽に何かを見出した者同士、共感できる部分は多いのだろう。わかってしまうからこそ、ついつい黙認してしまうのだ。

 

「奏、今日はちゃんと寝る。いいね?」

 

「え…で、でも…今日頑張ればできるところまで来てる…」

 

「…じゃ、明日はちゃんとご飯食べること。良い曲は健全な精神と健全な肉体から…口やかましく言うからね。」

 

静かに奏はうなずく。…いけない、心配が先走ってしまった。できてないことを、人に説教できるほど、私は厚顔無比ではない。

 

「…別に、守らなくてもいいけどね。」

 

「…え?」

 

「ん…健康面で、私もちゃんと守れているのかと言われたら、微妙だから。…ごめん、心配しすぎた。ご飯できたら部屋に持っていくから、好きなタイミングで食べて。」

 

「…わかった。」

 

エプロンを身にまとい、冷蔵庫の中身をあさる。…お肉しかない。買い出しに行っておくべきだった…。

 

「…私だって、完璧じゃないのにね。」

 

誰にも聞こえないように、ひっそり一人で呟く。さて、気分を切り替えて、今日は楽しく焼肉丼を作ろう。もちろん、余計な油分を取り除いて、奏でも食べられるぐらいのボリュームで。

 

 

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