金の笛を奏でて   作:frio

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第五話「片頭痛」

私は、どうやら運がいいようだ。

 

 理由は、かのワルキューレ、【白石 杏】が前、店に行ったとき、相方を見つけ二人のデュエットを聴くことができた。名は【小豆沢 こはね】と言い、シャイだが、とても美しい歌声を聴かせていただいた。

 

 一度大きなトラブルに見舞われ、どうなることかと冷や冷やしたが、どうやらうまく立ち直り、勢い余ってライバルである「BADDOGS」の【東雲 彰人】と【青柳 冬弥】とチームを組み、「VividBADSQUAD」という名で活動するようになった。

 

「…それで、次の公演はいつなのだ?待ちきれないのだが…。」

 

「あ、えっと…あんちゃん、この人って…杏ちゃんと初めて会ったとき店にいた…。」

 

「この人は私の学校の先輩、【夜崎 まどか】さん。えっと…すごくクラシック音楽に精通している人で、多分…すごい人?」

 

「なんだそれ…にしても、うちらみたいな音楽なんか聴いて、クラシックできなくなっても知らないっすよ。」

 

「なに、安心するがいい。すでに引退済みだ。…そこのツートンカラーの君も、肩の力を抜いてくれないか。君たちの音楽は確かに私の心に響いた、それだけのことだ。」

 

「…すみません。あまり、いい思い出がないので。」

 

 こういう、特定のグループや人物のことを好んで追っかける者のことを、「推し活動」というらしい。初めての経験だが、心地の良いものだった。

 

 さらには、屋上でともに時間を過ごす仲である神代も、フェニックスワンダーランドの役者【鳳 えむ】、まさしく役者根性の名を持つ男【天馬 司】、歌声が美しく、まさしく歌姫の名にふさわしい神代類の幼馴染【草薙 寧々】とともにショーをすることになったようだ。

 

 初めての公演は、とても楽しみにしていた。昨日の夜は寝れないほどに。

 だが、まさか事故が起きてしまうとは…締めとしても荒さが見えた。ショーの最中は神代らしいこだわりがたくさん見えただけに、しこりが残ってしまった。

 

「なになに、久しぶりに機嫌悪そうじゃん、まどっち。」

 

「暁山か…なんだ、課題未提出で呼び出しか?」

 

「まあ、そんなところ。それで、どうしたの?眉間に皺が残っちゃうよ~?」

 

 暁山はわざとおどけた様子でからかう。まるで軽やかに、でも優しいマリンバのような音だ。おかげで少しずつだが、でこに集まった力が抜けていった。

 

「なに、私にはどうしようもなかったことだ。…ただ、一流の音楽家は一億をかけたとしても、最後の一音をずらすことはない。…少々、見た団体の者たちの心中を察していただけだ。」

 

「ふーん…そっか。今日は類来なさそうだし、もう帰るね、僕。」

 

 暁山からの信頼は、残念なことに私は勝ち取れていない。しかし、暁山は猫のような人物だ、追っかけるほど逃げられてしまう。

 

 屋上という居場所を失うわけにはいかない。私は手のひらをふるという、軽い挨拶で暁山を見送った。

 

 落ち着き、学校から去ろうとする。…そこには同じく帰宅を始めようとしている神代を見つけてしまった。

 顔をあわせるにも気まずい…が、聞きたいことが一つできた。少し声を掛けるか。

 

「神代。」

 

「ん…ああ、夜崎くんか。今日もここでショーをする予定だから、見ていくかい?」

 

「その前に、私から神代に聞きたいことがある。いいか?」

 

「…いいよ。」

 

 神代の顔が、少し険しくなる。ふん、大方この前のショーについて、苦言を聞かされると思ったのだろう。私をそんな脆弱な者どもと同等に扱われること、業腹に思うがここでは関係のないこと。

 

「なぜ帰ろうとしている。仲間ができたのだろう、待とうとはしないのか?」

 

「ああ、そのことならもう問題はないよ。やっぱり、僕は一人でショーをするほうが落ち着くみたいなんだ。」

 

「嘘をつけ。ショーの最中のお前の顔、今まで見たこともないほど輝いていたぞ。」

 

 飄々としていた神代の顔が歪む。図星と見ておこう。そのほうが、私にとって都合がよく感じる。

 

「…夜崎くんには関係のない話だろう?」

 

 …確かにそうだ。私には関係のない話…

 

『むかついたとき、見ていてほっとけない時、私は突撃する。お節介かもだけど、楽しんだもの勝ち。私はみんなと楽しみたい。』

 

 唇を噛む。…嫌なことを思い出してしまった。胸が張り裂けてしまうかと思うほど、きつく痛む。あの頃の日々は、いまだに、私にとっての栄華だったのか。

 

「夜崎くん、唇から血が…。」

 

「もはや守るほどのものではないものだ、ほっておけ。…その通り、私にとって関係のないことだったな。ここに詫びよう。」

 

 血をぬぐい、袖を染みらせる。

 

「聞きたいことは以上だ。お前に、ここまで荒ぶる私を見せるのは、初めてだったな。…ただ、それだけあそこの舞台に立った者たちすべて、楽しく輝いて見えていたのだ。…あのからくりでさえもな。」

 

「…ッ!」

 

…いかん、私はここまでお節介ではなかったはずだ。これ以上は、踏み込みすぎている。さっさと帰るとしよう。

 

「夜崎くん。」

 

「…なんだ。これ以上はいつもの私でいられるか不安だ、手短に頼む。」

 

「君は…もし君が…」

 

「類くん、確保ぉ!!!!」

 

 まるで桜が舞ったかのように、私の目の前はピンクに染まった。唖然としていると、他にも見覚えのある人物たちが姿を現し始めた。

 

「こ、こらえむ、少し待てと言っただろうが!」

 

「だ、だってぇ…。」

 

「ど、どうするの。このままだと、せっかく確保したのに、“あそこ”に連れていけない…。」

 

 あれは…鳳、天馬、草薙か。どうやら、邪魔をしてしまったようだ。それもこれも…

 

『もし、仲良しな人が困っているのを見たら、手を差し伸べてほしい。…私は、そんな人とデュオがしたい。きっといい音が、隣から聞こえてくるから。』

 

 唇を噛みかけ、先ほど嚙みちぎった部分がかさぶたになりかけていることに気づく。

 …ああ、今日は本当についてない。

 

「あ、あの!」

 

「こ、こらえむ!立ち去ろうとしている者を、何引き留めているんだ!優先順位を考えろ!!」

 

「だ…だって…なんだか、悲しそうだったから…。」

 

 …そうか、今の私は、そんな顔をしているのか。

 だめだ、噴き出すほどの怒りと、どこまでも身を凍えさせる悲しみが混ざり合い、可笑しくなってしまいそうだ。

 

 私は、後ろから呼び止めようとする鳳の声を無視し、走り出した。

 

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