頭は、まるで鐘が叩かれているかのように、一定のテンポで響くように痛む。
自分の部屋でくつろいでいるはずなのに、何もかもがむかついて安らぐことができない。親からの夕飯時の声を無視し、ベッドで寝転がる。
私はここまで短気だったか…思えば、小学生のころの私はいつもこんな具合だった気がする。
私がまだ小学生のころ。自分より大人であろうと、年下であろうと、何かと気が食わないやつは突っかかり、親どもからしこたま怒られていた。その説教でさえも、私にとって耳障りだったものには徹底的に無視し、黙らせた。
中には暴力をするものもいたが、それすらも無視しながら、然るべきところに通報し、永遠に表に顔を出すことができないほどのことをやり通した。私は、あらゆる者たちすべてを、私から遠ざけるためにどんな手段も使ったのだ。
一人でいる時は気分がよかった。一人でいる時は、外から聞こえる風の音や、キッチンから聞こえる水滴の音、人が嫌いなくせに遠くの誰かの足音でさえ、私は愛おしく感じた。思えば、あの頃から風が運んでくる音というものが大好きだったのかもしれない。
なまじ頭は良かった私は、自分によって親に負担が掛かることも業腹だったため、ひたすら面の皮を良くし、試験も合格点を取り、そこそこの良い中学校へと進学した。
入学後、多少はいい子でいたのだが、生意気な同期はさらに増え、結局周りから恐れられるほどの問題児となった。
そんな私に、夏休み前、転機が訪れた。
「…それでは、毎年恒例、吹奏楽から大会曲の発表会をさせていただきます。」
吹奏楽の顧問をしている先生の声が響く。いつも調子に乗り、何かとちゃらちゃらしている胡散臭い親父が、嬉しそうな声で宣言する姿に嫌悪しつつ、まあ同クラスの何も考えていない雑談を聞くよりはましかと思い、目を閉じる。
「曲は『展覧会の絵』です。それでは、聴いてください。」
しばらく、張り詰めた静寂が訪れる。
どうせそううまくはない。期待しないで耳を傾ける。
気づけば、私は目を開け、響いてくる音に心を奪われていた。
堂々と、どこまでも響きながら、まるで奇麗に澄み切った水が流れているかのような、しかして歯抜けではない…そう、大地から水が溢れ出してくるかのような、そんな音。
もしこれが歌ならば、私は物語の精霊が歌っているのではないかと勘違いするほど、心に染み渡った。
砂漠に水で溢れさせる。不可能なことが、私の心の中で起きたのだ。誰だ、この音を響かせるものは。
このトランペット以外はそううまく無く、タイミングがずれたり、音がいやな交じり方をして不愉快な音になっている。だがそれすらも許せてしまうほど、美しい者がそこにいるのだ。
私は必死に目を動かし、その人を探す。
…見つけた。指の動きと、息継ぎのタイミングが、この響く音と同じだ。
どこまでも輝いて、でも鋭くなく、そして体育館全体を包みこむような、だが圧力に圧倒されてしまうかのような…一つの音だけで、いくつもの味がする。私は、あまりの気持ちよさに、まるで酔っ払ったかのように、夢想の中へと落ちていった。
その子のソロが終わった瞬間、私は現実へと戻った。しばらく演奏が続いたのち、誰かが正気に戻ったのだろう、まばらだった拍手が稲妻のように騒がしくなった。
私も、その子の姿を見ながら、初めて立ち上がりながら拍手をした。
その子はソロが終わったからだろう、先ほどまで立って演奏していたのだが、一区切りついた後座り小休憩をしていた。この拍手が、自分にに捧げられていると少女が気づく。先ほどまで大人顔負けの音を響かせた、幼さが残る少女の顔は、さくらんぼができたかのように赤くなり、少し照れていた。
その姿を見た時、私は、この吹奏楽に入り、彼女のそばに居ようと決めたのだ。