ある、一人の少年が居た。
彼は元々ごく普通の生活を送る人間だった。ただ、その容姿は軒並み少女と瓜二つで、初対面の人間には悉く少女に間違えられる、少年。
金色の髪に青い眼。襟足まで伸び、すらりと長いその髪にまるで猫のような二重瞼はやはり少女に間違えられる。
だが、彼は紛れもない“少年”だ。人に会う度に彼は少女に間違えられる。彼は、それが苦痛だった。
彼は今、オーストラリア、ダーウィンにて語学留学をしている。元々モントリオール出身の彼は多くの人の為に役立つ為に医療者になりたいという夢を見て、単身で留学をしている。
それは、世界が平和だからこそ出来る事と呼べるだろう。平和でなければそのような事は難しい。例えば世界の一部でも何らかの戦争行為が起きた場合、その周辺国への立ち入りは難しいものとなる。それが留学をするとなった場合、より困難を極める事になる。状況によっては諦めざるを得ないものとなるかも知れない。
かつて、この世界は大きく歪んでいた。過去に、宇宙にある一つの帝国と、地球は戦争をしていた。地球は宇宙の帝国と百年以上も戦った。
その果てに帝国は敗れ、その力を失う事となった。だが地球はその戦争を経て、新たな指導者を生み出し、その存在が平和となった筈の地球をより混沌とした状況に陥れていった。
軍備増強の徹底を続けた世界。それに反対する者もいる中で、地球は勢力を伸ばし続けた。かつての帝国のような脅威が居ない世界を作る為に。
この世界には人型の兵器があった。百年以上前、地球側が最初に開発した、全高約18メートル程度の人型の兵器。その兵器が一人の指導者によって大きく普及する事となり、世界は混迷を極める事となったのだ。
元々地球には二つの軍があった。だがそれらは大きく衝突する事は無く、表向きは協力関係を築いていた。しかし、やがてその両者は地球上で対立する事となる。それにより、更に世界は混迷を極めていく事となった。
戦争状態となった地球。そこに迫るのはかつての帝国の残党。そして、戦争状態が進むに連れて更に勢力が作られた。合計四つ巴となったその戦争は、かつての戦争に迫る程の規模となっていったのだった。
激戦の果てに、その戦争は終わった。あろうことか、かつて地球と対立していた筈の宇宙の帝国が、地球のある勢力と停戦協定を結ぶという形で幕を閉じたのである。
これにより、大きな戦争状態はなくなった。世界は、平和となったのだ。
話を戻していく。その、女顔の少年はその戦争に参加していた。その人型兵器に乗り、戦っていた。そして、生き残ったのだ。彼はその中で最大の敵と呼べる存在を倒した。これだけ聞けば、彼はまるでアニメやゲームの主人公のようだ。
彼は、それ自体が夢物語なのではないかとさえ思う。本当になった平和な世界の中で、本当にあれは事実だったのかとさえ、思うのだ。
こうした背景を聞くと、この少年は“ごく普通の少年”とは言い難いだろう。しかし、彼は紛れもなくごく、普通の少年だった。この“壮大な経験”をするまでは。
彼はこの経験の中で、“力”を付けて行った。その力は従来の人間には理解されない力だった。そして、彼自身受け入れたくない力だった。
普通の人間でありたいと願った少年はこの壮大な経験を経て、人ならざる力を得た。常人よりも治癒能力に優れ、空間認識能力にも優れ、死の危機に直面するか、怒りを覚えた時に眼の色が変色するという現象。果ては自身が碧色の光を放つという。
その力を持つ存在の名前。それは、“アドバンスドタイプ”。それだけ聞けば、彼は超人と呼べる存在だ。そのような力を秘めている人間が、今は語学留学をしている。本当に平和になった世界で、その平和な日常を謳歌しているのだ。
彼はその事を学校に通っている、誰にも話していない。知れば誰もが羨むかも知れないその力。だが何故彼は誰にも話していないのか。信じて貰えないから?違う。痛々しい人間に思われるから?それも、違う。
答えは一つ。話す必要がないからだ。話しても何にもならない。自分の夢の為に日常を送る彼には必要のない、力だ。その力はもう使う事は無い。役目を終えたスーパーヒーローの如く、彼は人間社会の中で生きている。今まで通り、ごく普通の生活を送っているのだ。
これは、アドバンスドタイプと呼ばれる力を宿し、かつて大きな戦争を生き延びたとされる、美しい少年が経験した、日常の一部。もう使う事が無い筈の力は、彼にどう影響を与えようと言うのか――
話が出来次第更新していく予定です。