光と殻   作:すからぁ

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第三話 奇妙なクリスマスパーティ その3

「止めなよ、モーナ」

それを止めたのはシィナだった。モーナの手を把持し、彼女の行動を止めるのだ。

「なんで!?シィナ!あんたもお楽しみに来たんじゃないの!?」

「この子は巻き込んで欲しくないの。私の大切な友達だから。」

「じゃあ連れてくるんじゃねぇよ!」

冷静なシィナと、酩酊状態のモーナ。何やら雲行きが怪しい様子だが……?

「お楽しみなら“ミャン”として……ね?」

シィナの朱色の眼がモーナを睨む。酩酊状態のモーナではあったが、シィナのこの眼がどこか恐怖に感じられたようで、彼女は自らシィナの手を払ったのだ。

「つまんねぇーの!まぁーいいやぁ……あー、なんか眠たぁ……」

すると、モーナは大きな欠伸をし始める。その後で、まるで力尽きたかのように床に眠り始めたのだ。

 ふと、レイが視線をミャンの方にやっても、彼女も眠ってしまっている。酒の効力がここに来て効いたのかも知れない。

「びっくりした……」

と、驚愕するレイ。服を脱がされる事はあってはならないというのは彼が想像していたよりも衝撃と言えるのだ。

「ごめんね、レイ。モーナは酔っちゃうとあんな感じで誰これ構わず襲っちゃうの。この子は女の子が大好き。とってもね。」

意味深な様子で話す、シィナ。

「さて、2人とも眠っちゃったし。ケーキ作りでもしようかな。」

まるで気が変わったかのようにシィナは上腕のストレッチを行いながらケーキの話をする。そうだ、ケーキ作りをする予定だったのにいつの間にか酒を飲んで、2人の過去の話を聞いて……いつしか2人は眠ってしまって。妙な状況が続いたので肝心な事を忘れてしまっていたのである。

「あの、僕も手伝うよ。」

「え?レイはケーキ、作れたりするんだ?」

「ちょっと趣味程度でお菓子作りとかしたりした事あるから。」

シィナは瞬きをした後、すぐに笑みを浮かべた。

「へぇ、それは良いね。じゃあ、一緒に作ろうか」

レイ自身、この混沌とした状況を払拭したいという気持ちがあった。妙な所に来てしまったような感触。それを、ケーキ作りをする事で忘れたいと、彼なりに感じていたのでいる。

 

 

 

***

 

 

 

冷蔵庫を開け、材料を取り出す2人。本来ならば4人でケーキを作る予定だったのだろうが、2人は酒を飲んで酩酊状態である為、作れる状態ではない。

 一見すれば4人の少女がクリスマスパーティをするというのは華があり、微笑ましいように見える。だが実際はレイという少年が1人、そして酒を飲んでいる少女が2人。それも事情を抱えている人間がいるという状況だ。

 その中でシィナは終始冷静な様子である。そのまま、黙々とケーキ作りの作業に取り掛かっている。

 やがてスポンジ部分が出来上がり、後はクリームを塗り、苺等の果物をセットするだけの状態になった。

「上手に出来たね。レイ、やっぱり才能がある。」

「そんな事ないよ。材料が揃ってたから出来たようなものだから。」

椅子に座る両者。この際、シィナはカップにコーヒーを入れ、レイに渡した。ミルクか砂糖がいるのかを確認し、レイは僅かばかりそれらを入れ、啜り、やがて飲み干した。

 それからコーヒーを飲み終えた後、2人は会話を続ける。

「レイは、あの2人がお酒飲んで酔っ払っているのを見てびっくりした?」

シィナが突如口を開いた。

「正直言うと……うん。」

レイは静かに答えた。

「未成年でお酒を飲んでいる人を見た事が無いわけじゃないけど、皆それだけ思い詰めてるんだなって思って……」

レイはこの時、ヒューナ・エリアスの事を思い出していた。

 ヒューナ・エリアス。幼馴染であるリルムの姉。彼女はレイにとっての性交渉の初体験の相手だった。だが彼女はレイとの交わりの後、自死を遂げてしまう。彼にとってはその事は大きなトラウマとなっており、故に酒を飲む少女の存在を見るとどうしてもヒューナの事が想起されてしまうのだ。

「レイ、何かトラウマでも抱えてるのかな。」

見破るようにシィナは言った。その事にレイは内心びくりと反応する。

「いや、そう言うわけじゃないよ」

取り繕う、レイ。しかし――

「なんかレイに色々と気を遣わせたみたい。ちょっと、楽しんでもらえたらって思って誘ったんだけど、あんまり良い思い出がなさそうなんて思わなかったから」

「けど、誘ってくれたのは嬉しいよ。なんか、こうして色んな人とパーティとかするのって本当に久し振りというか……なんて言うか。」

留学して以来、家に友人を呼んだりと言う事をした事がないレイにとっては刺激的な事と言えた今回の事。それは素直に喜ぶべきと、彼は考えている。

 

「ね、レイ。気になった事があるの。」

朱色の眼がレイの眼を見る。透き通っている色に、レイの眼が反応した。

 

「レイはどうして自分の話を全然してくれないの?」

 

その言葉を聞き、レイは瞬きをする。何を言っているのか……と、感じていた。

「そんな事ないよ。」

「嘘だ。私にはレイは本音で何かを話そうとしていないように見える。」

図星である。レイは本当の事を言えないでいる。表面を取り繕う事しか出来ない。何故ならば、彼は去年、普通の生徒ではなく、人型兵器のパイロットとして生き残ってきたから。そして、アドバンスドタイプという未知なる力を宿しているから。誰に言っても理解されないその力を、言ったところで何になるというのか。

 しかし気になるのは、何故シィナがこれほどにレイの事を見透かしているのかという事だ。

「出会った時から思っていたけど、レイは本音で人と話をしていない。それが私は気になるな。」

人間話したくない事はある。そればかり追求されているのが少しばかり嫌に感じたレイは、表情をしかめる。

「それは、個人の自由だと思うんだ。誰だって秘密の一つや二つはあるよ。」

それは間違いない。しかし、妙な様子を見せるのはシィナの方だ。

「私はレイと仲良くなりたい。けれどレイは私と仲良くなりたくない?」

こうした縁は大切にしたいと思っている。彼女はどこかミステリアスな印象を持つ。それだけでない魅力を、シィナは持っている。

 だからと言って自分の秘密を喋る必要はあるのか?それが、レイには分からない。

「仲良くしたいとは思う。」

「本当に?」

シィナの表情が変わった。

「仲良くなりたいと思うなら、秘密は話すものだと思うんだ。モーナやミャンみたいに。まあ、あの2人は酒を飲んでいたけれど。」

シィナは脚を組み、レイを見る。脚線美が彼を魅了するが、レイはそれでも彼女の眼を見るのだ。

「仲良くなるっていうのは、それぞれが持っている秘密を喋ったりだってするものだと思うんだ。私はレイの事をもっと知りたい。だから。」

彼は自らの壮大な体験を話したくないと思っている。もう、あれは過去の事だ。平和になった今の世であの体験は不必要な存在だ。今はごく普通の学生。それで良いのだ。

「僕の事を知った所で、何も出て来ないよ。」

あくまでも自分には何もないように振る舞うレイだが――

「それは違う」

即答でシィナが言った。

「レイは無自覚な魅力を持っている。だから私は貴方の事を知りたいと思う。だからこんな風に貴方を呼んだ。そして、レイも仲良くなりたいって言ってくれた。」

彼女の言葉は全てが意味深であり、理解が出来ない。何かを知っているようで、彼女の方が取り繕っているようにも見える。

 この、シィナのはっきりとしない様子にレイは苛立ちを感じてしまっていた。自分に関心があるのは良い事だ。だが、レイの事を知りたいと思う反面、自身の事を語らない彼女は何なのか?

 レイは自身の事を本当に理解している近親者にしか自らの事を言わない。シィナはまだ知って間もない存在。なのに積極的に話をしろと言われても困惑するに決まっている。それはまるで誘導だ。

 そのフラストレーションはレイの中で次第に大きくなっていき――

「いい加減にしてよ!それを言ったところで何になるって言うの!?」

遂に立腹するレイ。だがこの様子を見て、シィナは笑った。

「アハハ、レイが感情を出した!うん、その怒った顔も素敵だよ。でもその姿で怒っても説得力がないな。可愛いだけだよ。」

彼女の言うように、純白の白いワンピースはレイに余りに似合い過ぎている。だがレイは男だ。それなのに、その格好この光景だけを見れば少女同士が話をしているようにしか見えないのだ。

「茶化さないで!シィナさんの目的が、分からない、分からないよ!」

感情を見せているレイ。それとは対照的に揶揄うシィナ。互いの感情は余りに違っている。

「大体、こんな格好をさせて何の意味が!!僕はシィナさんの玩具じゃないよ!」

「モーナを刺激しない為だよ。あの子は男の子に対してトラウマがあり過ぎるから。貴方のその綺麗な顔は彼女も違和感なく受け入れてくれてるの。」

冷静な様子でシィナが言った。それは、彼女の表情を見てある程度把握はした。だからこそ、レイは更に怒る。

「じゃあ、最初から誘わなくて良いじゃないか!僕を女装して、女の子の中に入れて揶揄う事が目的なのなら僕は帰るから!」

揶揄われてばかりと判断したレイは、ここを去りたいと思っていた。彼女の厚意と思って女装までしてパーティに参加したのに、ただ、揶揄われていただけ。レイとしても怒るのは当然と言える。

 

 

「嫌だ……帰らないで……」

すると、シィナは目元に涙を浮かべて言った。突然の涙に、レイの表情は戸惑いへと変わる。

「嫌なの……レイ、ここにいて……じゃないと、私……!」

と言った時――

 

「えっ……!?」

シィナがレイの側に近付く。そして、彼の胴体をそっと、抱き締めるのだ。

「うん、やっぱり身体は男の人なんだ……可愛いのに逞しい。レイってホント、魅力を感じる……素敵な、魅力……」

まだ、彼女と出会って四日しか経っていない。なのにシィナはレイに触れ、抱き締めた。この、妙であり心地良い感覚はレイを困惑させる効果を持つ。

 明らかに人としての距離が近い。あの、シャワー室内で彼が体験した距離よりも、今は遥かに近いのだ。

「シィナさん……!?あの……?」

「レイの事が良いって思ってるから、するんだよ。他の人にこんな事、しないんだから……」

それは、少女同士がしているように見える抱擁。だが実際は違う。レイは少年であり、シィナは少女。その違いを表すには、実際に接触しなければならない。

 少女に限りなく近い容姿をしている少年を判別する方法は、ただ一つ。レイに触れる事。そしてその場所は……

 

「ひぁっ!?」

あろうことか、シィナはレイの秘部に触れ始めた。突然の奇妙な感触に彼の動きが止まる。

「レイは女の子みたいな格好をしていても、身体は男の子なんだよ……レイにいて欲しい。なのに、離れるなんて言わないでぇ……」

シィナはレイを困惑させる。一見すれば銀髪の少女が金髪の少女を後ろから抱擁している様子。だが、実際は金髪の少年が銀髪の少女に秘部を触られていると言う奇妙な状態。それを体験し、レイは困惑しない筈がないのだ。

「離して……離してよ……!!」

「嫌。離したくない。レイは、私といて欲しいの。お願い!」

妙な状況。レイは口頭では話して欲しいとは言うが、彼の象徴は反応しつつある。彼女の目的が理解出来ない中で、レイは躊躇うばかり。その間も彼女はレイに触れている。彼を求めんとする行動だ。

「こんなの、おかしいよっ!」

レイは力づくで彼女の抱擁と、官能的行動から振り解いた。これによってシィナの腕から身体が解放される。何故、このような事をするのか?レイは呼吸を激しく荒げながら、シィナに言った。

「シィナさんは何がしたいの!?そんな、いきなりそう言う事をしたいとか言うの、意味が分からない!そんな事されて喜ぶ訳がないよ!痴女のつもり!?」

美麗な女性からのアプローチは人によっては羨ましいとされる事かも知れない。だが、レイは彼女の事をよく知らない。なのに彼女はレイを求めてきている。それが奇妙に思えて仕方がないのだ。

「こんなの、破廉恥だよ!他に女の子達がいる状態で、僕をたぶらかして!」

レイは精一杯声を荒げる。彼女の事が理解出来ないが故の苛立ちが、彼女にぶつけられる。

「困らせたいの、レイを!貴方が可愛すぎるから……だから……!」

それだけなのか?それだけの為に、何故このような事を?理解が全く出来ない。

「迷惑だよ!大体僕が男って分かったらモーナさんがショックを受けるって知っててこんな事をするの!?女装させて、こんな事して!?意味が分からないよ!」

レイから感情が溢れ出す。嫌だと、レイははっきりと伝えるのだ。だが――

「その事だけどね……夜になったら分かる。もし、真相が知りたいのなら今日はここに泊まって。」

“泊まって”と、彼女は言った。その言葉自体がおかしい。そもそもここはミャンのマンションだ。彼女がそれを決める権利があるのも理解が出来ない。

「泊める、泊めないのを決めるのはここに住んでいるミャンさんじゃないの?シィナさんは関係ない筈だよ!?」

「ううん。関係あるよ」

どう言う事なのか。

「この家は私の父親がミャンに貸している家だから。」

「貸している、家……?」

この瞬間にレイが得た情報の一つ。それは、彼女には父親がいると言う事。何の情報も得られてなかった中でレイは一つ彼女から情報を得る事が出来た。それでも、シィナ・ソンブルが何者なのか分からない事に変わりはないが。

「彼女、天涯孤独状態で住む所に困ってたから家を貸してあげてるんだよ。優しいでしょ。」

先程まで寂しげな表情をしていた筈のシィナは微笑している。この表情の変化にレイは僅かながら違和感を覚えていた。 

「シィナさんは、何者なの……?」

「フフ、レイともっと親密になったら、分かるかも。」

レイは困惑している。彼女の事が少し分かったとはいえ、未知なる部分が多過ぎる為だ。それに、彼女も自身の事を秘密と言っている。これ自体がそもそもおかしい。矛盾そのものだ。自分がレイに秘密を明かすように言っておいて、自分は明かさないのはおかしいだろう。

「だから最終的な決定権は私にあるの。家を貸している以上、ミャンは私に指図出来ない。彼女とは友人だけれど、決定権は彼女にはないってワケだから。」

それは果たして友人と呼べるのかとレイは僅かに疑問を抱いた。

「それよりも私は、レイと一緒が良いの。貴方の事を知りたい。レイは私に興味無い?」

シィナに興味自体はある。だが、問題はシィナのスキンシップの取り方だ。彼女はレイに痴女のような行動を取っている。それがどこか恐ろしく感じるのは無理もない話と言えるのだ。

「分からないよ、全く……」

「じゃあ、大丈夫……すぐに“分かるようになる”から。」

「え――」

シィナの言葉が聞こえた、その3秒程した時――

 

 レイは、力が抜けてしまった。彼の眼は閉じられている。そして、シィナは白い清純な衣装を纏うレイを抱え、静かに笑みを浮かべるのだった。

「眠たくなっちゃったんだね……ごめんね、ちょっと手荒だけど、私、レイの事が“好き”だから。」

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