レイは、いつの間にか眠っていた。彼が気がついた時、既に窓の外は暗闇に包まれていた。
確かシィナと話していた時に急に眠気に襲われたような気がした。彼女がレイに対して官能的な行動をし、レイはそれを拒否した。そこまでは覚えているが、そこからどうなかったのかは分からない。
問題は今、自分がどこにいるのかと言う事だ。目覚めたばかりの眼では今自分がどこの部屋にいるのか全く理解出来ないでいる。
「眠ってたの……いつの間に……?」
と、自身の眼をこすり、起きようとした時――
「あ、起きたね」
側に、シィナがいた。
「うわっ!?」
と、思わず声を上げてしまうレイ。
「シッ、静かに。」
それに対してシィナはレイの口を塞いだ。全てが余りに突然の出来事であり、理解が出来ない。一体どうなっていると言うのか。
「ちょっと、良い声が聞こえるよ。フフ……」
何を言っているのか分からない中で、レイは彼女の言葉に耳を傾ける。良い声とは、何なのか?
『んあっ……んうぅ……!』
『あぁっ……!』
それは、少女が出す嬌声だった。壁越しにそれが聞こえるのが分かる。
聞き覚えのあるその声。隣の部屋にはモーナとミャンがいる?これは、どう言う事なのか?
「これって……!?」
「そうだよ。あの2人は今、お互いに求め合ってるの。可愛い声を出して。」
壁越しではあるが、間違いなく2人は何らかの行為をしていると推測出来た。
少女同士が行う淫らな行為と推定出来る。聞こえてくる嬌声はこの場にいる2人にも何かしらの影響を与えているようにも見える……
「人間って不思議なんだよ。いくら人生に絶望していても、結局は人を求めちゃう。SNSとかで知らない人間に会っても嫌に思わず、寧ろ安心しちゃう。だからあの2人はこうして家に入り浸って、酒を飲んで寂しい気持ちになったら互いを慰め合うんだ。可愛いでしょ。まるで兎さんみたい。女の子同士の人間の慰め合い。だからあんな甘い声が出せちゃう。お互いを許しているから。」
シィナがどこか官能的に状況の説明をしている。それはモーナとミャンの行動を楽しんでいるかの如き対応だ。
『あぁっ……ん!』
『ふぅ……ぁぁ!』
再び聞こえた嬌声。この、明らかに異様な状況の中、シィナはただ、レイを見るばかり。
「人が甘い声を上げるとね、それに影響される事だってあるんだよ。人同士のエッチなやり取りを見てる人は互いにそれに似た行動を取ろうとしてしまうんだよ。」
と、言いながらシィナは自らの服を脱ぎ、下着姿になる。銀髪がベッドに落ち、暗闇ではあるが上下黒揃いの下着がレイの眼に映るのだ。
「待って……それって……!?」
レイの視線が泳いでいる。シィナは、レイをどうする気なのか。
「レイ、私は所謂オードソックスな手順を踏まなくても人間は知っていける関係になれると思うんだよ。出会ったばかりの人間だって人は交わったり出来るんだ。人の背景因子とか、そんなのなんて幻想に過ぎない。人は経験から人を知っていけると思うから。」
遠回しに聞こえる言葉。だがこの状況でレイに対して言いたい事。それは、一つ。
「僕と、するって事……?」
と、言った時、シィナがレイを押し倒すかの如く、ベッドにのしかかった。彼女の柔い身体がレイの身体に触れる。
「待ってよ……!いきなり過ぎるよ!こんなのって!」
レイは混乱している。状況の整理が出来ていない。しかし相手はその行為をせんと、レイを求めている。その理由も全く、理解出来ない。
「けれど、隣で2人は既に愛し合ってる。私達もそれに便乗して愛し合っても良いと思うんだ。」
確かに嬌声は聞こえる。とはいえ自分達がする理由はあるのか?
「大丈夫。レイはその容姿も、声も女の子にしか見えないから。私達が交わっても2人は盛り上がっているようにしか見えないよ。あの2人は女の子しかいない環境に安心しているから。」
それがおかしいのだ。知り合って間もない人間が何故そのような行為に及ぶのか?レイには理解出来ないのである。
「シィナさん……僕はそれを望んでないよ!」
焦る、レイ。しかし――
「ウソツキ」
シィナは朱色の眼をレイに向け、冷たく言い放った。
「男の子は分かり易いよ。だって勃ってるじゃない。レイだって今、シたいんでしょう?だから興奮してる。」
不思議な感覚だ。乙女が着るような純白の衣装を纏っているのに彼の象徴は、紛れもなく反応している。シィナと言う名の奇妙で美しい人間に翻弄され、レイはその誘惑に囚われつつある。
「私で欲情してくれてるの、嬉しい。レイは私を求めつつあるんだね……」
心と身体は乖離しているようで異なる。レイは困惑しつつも彼女に身体を触れられるのを望んでいるのか。
それらを含めてシィナはレイを翻弄する。その目的も分からぬまま。
「私はレイを知りたいの。今からする事が、レイにどんな影響を与えるのかとか、知りたいな……」
と、言った時、シィナはレイの口唇に接吻を行った。
彼女との初めての接吻は柔い感触だった。口唇の柔さと滑らかな感触。それがレイを包んでいくのが感じられる。
接吻自体の経験はある。しかしこのようにされるのは、初めてだった。奇妙な状況で、知り合ったばかりの少女にレイはリードされ、されるがままの状態だ。
「ん……むぅ……」
「はぁ……む……」
舌が絡んできた。シィナがレイを我が物にするかの如き対応だ。
「しちゃったね、キス。舌を絡めちゃった、大人のキス。」
接吻の後、レイは呼吸を荒げている。
「はぁ、はぁ……」
顔が赤い。濃厚な接吻を経験したレイは更にシィナに求められていく。
「んあっ……!」
彼女はレイの首筋に口唇を当て、優しく触れた。そのまま、レイの股間部に触れていく。銀髪の美女がまるで遊女の如き動きをしている。
「レイを理解するなら、いっそセックスから入る関係でも良いと思うんだ。レイのその、声を聞いて……私、もっと好きになれそうだから。」
そのままシィナはレイの身に纏っていた衣装を脱がし、やがて彼は下着姿のみになる。互いに裸に近い姿で、過激に求め合うのだ。
「ふぁぅ!ああっ……!」
シィナは更にレイを求める。彼は自らの秘密を知られるかのように嬌声を上げる。
「レイの秘密の声、聞けた……私、嬉しいよ……!」
人間の秘密はそれぞれだ。しかしそれら様々なものがある。レイの場合は過去の事や、自らの力の事。しかし今は性的な状況。
彼がその行為の際に善がった顔を見せたのはリルムの姉、ヒューナにのみ。しかしその顛末は余りにも残酷なものであった。
「え……?」
独り善がりにレイを弄んでいたシィナだったが、一方のレイはヒューナの事を思い出してしまっていた。あの体験の想起は今のレイの活動を止めてしまったのである。
「……レイ。どうしたの?」
ヒューナ・エリアスの事がどうしても忘れられないレイにとって、今の行為はレイを満たすものとは呼べなかった。ただ、シィナによって翻弄されるだけの行為。故にレイの象徴は段々と反応し無くなって行ったのだった。
「……ごめん、僕……」
性行為も、コミュニケーションだ。シィナはレイを求めたが、今のレイはそれが出来ない。過去の体験が大きく関与している為である。
「……そっか、「今」は駄目なんだね。」
それは精神的なものなのだろう。性交渉は精神的に安定していなければ行えない、生きる事に直結する行為だ。それを求めて人は本能的に動く。それそのものが、人の目的と言っても過言ではない。
しかしその過程は人による。全ての人間が同じとは限らないのだ。