光と殻   作:すからぁ

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第六話 ボランティア その2

レイは戦争を生き残った人間である。しかしその最中、多くの人間を殺めて来た。

 彼が戦う理由の一つとして、“守る為に戦う”というものがあった。自身を守る為、大切な人を守る為、自分を助けてくれた人を守る為。それらの為にレイは戦って来た。無我夢中だった。

 しかし彼は人を殺めている。自分に迫る敵を倒さなければ自分が生き残れないからだ。その中で殺された兵士の数は数え切れない程。

 もしかすれば、目の前にいる1人の幼女はその中の1人なのかも知れない。壮絶な戦争がある中で、レイも生きる為に必死だった。

 今でこそ日常を謳歌しているレイだが、この十字架は消えないだろう。幼女の言葉は、レイの過去を抉る効果を持っているのだ――

 

 

 

***

 

 

 

「お父さん、お母さんって何?分かんない、分からない……お母さん、いつ帰ってくるの?」

この幼女の背景因子は恐らくもっと根深いものなのだろう。レイは、気の毒に思えて仕方がなかったのだ。

 戦争後の世界では、大半が戦争によって親を亡くしたと思われがちだ。だが彼女の場合は母親が行方をくらましているという。消息が経っている状態ではどうなっているのか等、分かる筈がない。

 もしかすればあの戦争で殺してしまった兵士の娘がこの子なのかも知れないという罪悪感がレイを襲う。生きる為に必死にやっていた事が、もしかすればこのような子供を生み出したのではないかと考えたのだ。

 そう考えた時、彼はただ幼女の頭を撫でるしか出来なかった。自分と立場が違う事が、これ程苦しいものだとは思わなかったのである。

 確かに戦争は終わった。しかし、戦争の爪痕というのはこうした形で残っている。レイは確かに地球を救った。救った後でもまだ、こうして親なき子達がいる現状に、彼はただ、罪悪感と虚無感に駆られているのだった。

 

 

 

 休憩時間。シィナはまだやる事があると言って休憩を取っていない。レイは先に休憩させて貰っていた。その際、施設長のクラーラが彼に声を掛ける。

「レイさんは子供達に好かれて本当にありがたいわぁ、また是非来て欲しいと思うわ!本当に!」

喜びの声を上げるクラーラ。しかしレイは虚な様子で言った。

「僕はあの子達の立場になれないなって思いました……僕はこうして留学させて貰ってるのも両親の理解があるお陰なんです。それに今が平和になっているからこそ、勉強ができるんです。だけど、あの子達は平和とされる筈の世の中なのに、肝心な親がいないなんて……」

親がいない、或いは戦争で亡くしたという同世代の少年少女と知り合いだった事はあった。だからこそ、自分の立場というのは如何に恵まれているかは理解している。それ故に子供達の現状を見て、彼は憂う。その親が兵士だとすれば、それを殺めてしまった可能性がある事を考えると気が気でないのだ。

「だけどね、こうして誰かが来て遊んでくれたり勉強を教えてくれたり、人としてのマナー、在り方を教えてくれるのは本当にありがたい事なのよ?立場とかは私は余り関係ないと思うの。大切なのは、その気持ち。シィナさんは良い人を連れて来てくれたと思うわ。」

クラーラの言葉がレイに響く。自分は情けないとさえ思うのだが、こうした言葉にレイはどこか救われた気持ちになる。

「レイさんは真面目なのね。それでいて色々と経験をしている……そんな気がする。」

クラーラは特別な力を持つ人間と言う訳ではない。だが、まるで見透かされたかのような感覚に陥った、レイ。

「多分その経験があるからそうやって人を見れるんじゃないのかなって思うのよね、私。」

「……。」

ごく普通の生活を送っていた筈の少年はいつしか戦争に巻き込まれ、やがては自らの意思で戦う事を決めた。彼はただ、無我夢中で戦い抜き、平和を勝ち取れた。  

 しかし自分には親がいる。平和そのものの人生を歩んでいる。目の前にいる子達は親がいない。どのような事情かは分からないが、彼は彼女達に立場を変わってやる事は出来ない。

 そして、レイは生きる為に敵を殺して来た。その積み重ねを繰り返したレイは、自分がこのような子供を生み出しているのではないかと考えてしまう。

 それを可哀想と言うのは易いが、それを言ってしまってはいけないと考える。

 では、何をすれば良い?自分に出来る事はシィナのように子供達に対してボランティアをする事が良いのか?見て見ぬ振りは出来ない筈だ。

「どうして、そんなに悲しい顔をしているの?」

クラーラの優しい言葉がレイに響く。

「どう、反応したら良いか分からなくて……」

様々な感情が渦巻いている。レイは今、混乱している。戦争に参加していたのは事実。もう、過去の話の筈。しかし今はその過去がレイに迫るのだ。

「レイさんは多分恵まれてると思うのよ。なら、それに甘えたら良いと思う。恵まれてるから経験もいっぱい出来るし、それに対して何か罪悪感を覚える必要は無いと思うのよ」

クラーラが再び言った。確かに恵まれているのだろう。あの戦争が終わった後でもこのように学校に学びに行けるのだから。

「……すみません、僕……」

レイはティーカップに入っている茶に手を付ける事が出来なかった。ただ、視線を落として目の前にある茶を見る事しか、出来ないのだった。

 

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