光と殻   作:すからぁ

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第六話 ボランティア その3

夕刻になり、一日のボランティアは終了した。レイはそこで多くの子供達との交流を果たすことが出来た。

ボランティアの帰り道、二人は喫茶店に寄った。そこでシィナはコーヒーとサンドイッチ、そしてフライドチキンを注文した。この時、レイはシィナが思いの外食欲がある人間であると感じていた。

「どうだった?ボランティア。」

「うん、とても楽しかったよ。大変な中、皆が元気で生きているのを見るのは嬉しいから。」

シィナは週に一度この児童施設に来ている。その度に彼女は感謝されている。シィナの一面を知ることが出来たと同時に、自身の在り方に悩んでしまっていたのだった。

子供達の立場になれない事や、様々な事情を抱えている子供達。皆が大人によって人生を狂わされている者ばかり。それにはフォローが必要だ。誰でも良い、親になる人間が必要なのだ。

「クラーラさん、優しい人だったでしょ」

シィナがうんと腕を伸ばし、言った。

「うん、とても。」

自分の過去の事で落ち込んでいた時にクラーラに言われた言葉を振り返る、レイ。

 

 

――多分その経験があるからそうやって人を見れるんじゃないのかなって思うのよね――

 

 

彼の“経験は”決して人には言えないもの。だが彼の過去にその事実があった事に変わりはない。変えられない過去、語れない過去。それらによってもしかしたら苦しめられている子供がいるかも知れないと言う事はレイを気負わせる。

 やがてシィナがテーブルに用意されたメニューを一つずつ口に運ぶ。丁寧な食べ方。口元の動きや素振り。それらの全てが綺麗で、シィナ・ソンブルという人間を映し出している。

 レイはこの時、タイミングを見てシィナに聞いた。

「シィナさんはどうしてボランティアに参加しているの?」

クラーラはシィナの事を非常にリスペクトしている。その事を思い出したレイ。

「私、子供が大好きなんだ。だからボランティアに来ているっていうのもある。」

コーヒーを一口飲み、シィナが言った。子供好きという一面を知ったレイ。これもまた、彼女を知る事に繋がったと呼べるだろう。

「子供って、人類の宝なんだよ。なのに大人の都合で蔑ろにされてしまう事が多いんだ。あの子達はまさにその被害者。戦災孤児とかならまだしも虐待とかネグレクトとかされてきた子だっている」

「そんな……」

レイは愕然とした。その事実は知らなかった為だ。

「レイが喋っていた女の子もその1人。父親が軍の兵士だったけど母親と仲が余り良くなくて、父親が死んだ事を皮切りに別の男と繋がって、娘を捨てたんだ。」

シィナは淡々と述べていく。その事実はレイを困惑させていく。

「本当に子供達が安心して暮らせるようになるには本当は国とかの仕組みが機能しなければならないんだよ。なのに肝心の大人達は子供達を利用する事しか考えてない。世の中がダブルスタンダードばっかりなのも正直嫌になるって時がある。」

世の中を憂うシィナ。この時の彼女の朱色の眼は美しさを際立たせている反面、寂しげに感じられる。

「建前では子供を支援するって言って、本音ではそんなもの全く考えてない人ばっかりなんだ。本来ならしっかりするべき立場の政治家とかがエゴイストが多いからあんな、民間の児童施設の子供達みたいなのが必要になるんだ。」

それもまた、事実なのだろう。レイは彼女の事を少し理解出来た気がした。

「僕は、本当に現実を知らなさすぎたって思った……」

シィナが食事を口に運ぶ中で、レイがふと、呟いた。

「僕は両親もいて、こうして学校にも行けている。それがどれだけ幸せな事かを考えないと行けないなって感じたよ。」

「綺麗な言葉だね。」

シィナが微笑した。

「その通りだよ。本当は子供には他人じゃなくて“実の親”が必要なんだ。子供は多くの人間達と協力して育てていくものだし、比較するものでもない。個々の能力の違いでマウントを取る大人の道具なんかでもない。だけど本質的に人を育てるのは“実の親”だと思う。だから親が子供を捨てたり異常な虐待、ネグレクトなんて歪んだ贅沢も良いところだよ」

ミステリアスな少女は子供について強く語る。彼女に何か、あったのだろうかとさえ感じる程に強い言葉だ。

「本来ならレイみたいに恵まれてて余裕がある人間が子供を育てる事が良い循環を作ると思う。人間は余裕が必要だよ。その為には欲求が満たされる状態が必要なんだと思うから。」

彼女の独自の思想が語られていく。それに耳を傾け、レイは聞く。

「何を持って人は満たされるのかは分からないかも知れないけど、せめて私は本能的に満たされる事はしたいなって思うんだ。そしたら子供だっていつかは育てられると思うから。自分が卵の殻じゃなくなるような気がするんだ。」

以前も彼女は言っていた。本能を満たす事が大切と。それ故にレイに過激なアプローチをした事がある。

「シィナさんが子供が好きなのは、もしかしたら母性本能があるからなのかな……なんて、思ったりして。」

本能というワードからそれを想起したレイ。

「有り得るかも。それを満たす事も大切なのかなって。」

シィナは微笑した。

「あのボランティアね、私以外にも何人か参加してた事があるんだ。だけど大半の人間は小論文の為だったりとか単位の為だったりとか就職活動の為だったりとかばかりだった。結局子供達はその踏み台に使われてた。」

シィナに残されたコーヒーが、なくなっていく。出された食事は既に彼女の胃の中だ。

「確かに病気した人とかを研究した学会で発表したりするっていうのは人間の発展の為に必要な事だけれど、その事に拘りすぎて肝心な事を見失っている人間、多いんだよ。それ以外だと、私目当てでボランティアに参加している人間もいたし。」

「え、それって……」

「文字通りの意味。子供が好きっていう建前で本音は女子と交際したいとか、そんな事を考えている浅はかな考えの男の子とか。男の子ならまだしも一回り下の年齢に接触を持ち掛ける人間だっていたよ。自分に子供がいるのにそんな事をしてる人間だっているんだよ。偉い人か何か知らないケド人間の本性なんてそんなものだったりするよ」

語る、シィナ。ボランティアに参加する中で彼女は様々な人間に出会って来た。

 大半は、純粋なボランティアで参加している人間はいなかった。学校の単位ならまだしも、彼女目当ての人間も居たという。

 シィナは美少女だ。その容姿故に異性からのアプローチは絶えない。しかしそれは、彼女にとっては浅はか過ぎると言えるのだ。

 

 今回の事でシィナの一面を知る事が出来たレイ。それは、肉体関係のみで理解出来ていなかったシィナを知るのに十分な事と言えた。プラトニックな環境で人を知る事の大切さ。それを彼は学んだのだ。しかし――

 

「私、今度はレイをもっと知りたいよ。」

 

シィナが突如言い出した。

「レイを知る為にはどんなところに住んでいるのかとか知る必要があると思うんだ。ね、レイ。お家に行きたい。私を連れて行ってよ。」

「え……!?」

誰かを家に入れる。それは、今の彼はした事がない事だ。

 増してや異性を招き入れるなど、レイにとっては驚愕としか言いようがないのだ。

「レイは私の事を知ったじゃない。だから、今度は私がレイの事を知る番。レイのお家に遊びに行きたい。良いでしょ?だって、もう私達はキスもその先もしている関係なんだから。レイさえ良ければお付き合いしたいのに。」

再び、彼女の色香漂う言葉が出た。シィナは何故レイにこれ程拘るのだろう。彼の事を何故、欲しているのか。それは全く理解出来ない。

「このまま私を連れて行って。レイのお家。」

シィナと2人で家に行く。そうなれば、どのような事になるのか。レイはこれを断る訳には行かないと考え、渋々、縦に頷く事にしたのである。

「嬉しい!とても楽しみだよ。」

この時、シィナは満面の笑みを浮かべていた。これがレイにとっても不思議でならなかったのである。

 

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