光と殻   作:すからぁ

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第八話 カップルの危機 その3

何があったのだろうと振り返る2人。そこには、機関銃を持った屈強な男が5人、居た。穏やかな日常が覆った瞬間だったのだ。

 男達は皆が迷彩柄の軍服を着ている。その風貌はまるで大昔のゲリラの軍人のよう。

 サバイバルゲーム好きなコスプレイヤーならばこの場にいる誰もがごく普通の日常の一部として処理される事なのだろうが、明らかに異常なのは男が大声で、この場にいた誰もに対して怒号を発したという事だ。その上で機関銃を持っている。大抵の人間はそれらに対して警戒をするのは至極当然と言えるだろう。しかし――

 

「びっくりしたー、映画の撮影?」

「演技力すごー」

「けどそんな予定ってあったっけ?」

 

一部の人間が、普段通りの会話をしている。無理もない。何故ならば今までごく普通に流れていたショッピングモールでの時間が突然変わるのだ。皆がそれを受け入れられる筈がないのだ。

 その中で、1人の中年女性が男に対して言葉を発した。突然の出来事に対する怒りの声だ。

「あのね!ちゃんと許可取ってんの!?でかい声出さないでよ!びっくりするわホントに!」

普通、イベントというのは施設内のポスターや電光掲示板で告知しておくものだ。だが今回はそれすらなく、突然の迷彩柄の服を着た男達の登場。

 一見すれば来場者を驚かせるイベントにしては少しばかり悪質な印象を持つこの件だが、今回は様子が違った。

 

「……ぁ……」

 

中年女性は、機関銃によって腹部を撃ち抜かれていた。空気を弾丸が弾ける音が響く。それに合わせて倒れる女性。腹部は血液の色で染まっていた。大量出血によるショック死だった。

 この光景を見た人々は驚嘆する。この場にいた誰もが衝撃を隠せない様子でいる。逃げ惑おうとする者、警察を呼ぼうとする者もいる。しかし――

 

「動いたらこいつみたいになる!死にたくなければ動くな!!」

女性を撃ち殺した男が再び周囲の人間に対して怒号を浴びせた。この言葉で、周囲にいた人間達は黙ってしまうのだった。

 日常に於ける非日常。それが今、レイ達の目の前で繰り広げられている状況。平和なショッピングモールの一場面が突如出現した謎の男達によって大きく変化する事となってしまったのである。

 血とは無縁の環境で血が流れれば、それは明らかに異質なものである。ここは民間人の憩いの場。なのに銃声が響くと言う事自体が本来あり得ない事だ。彼等は一体何者なのか。何故このような惨劇を起こそうとするのだろうか。

「よし、お前達はお利口だな……」

1人の男が動く。金地の短髪の、屈強な褐色肌の男。機関銃を持ちながら1人の男がこの場に対し、言葉を放つのだ。

 

「お前達はここに居合わせてしまった哀れな羊だ。だが言い方を変えれば選ばれし人間という事にもなる」

 

 場は静まり返る。異様な緊張感。穏やかな時間の流れはどこへ行ったのか。シアター前は緊迫した空気と化した。

この状況から考えられるのは、彼等はテロリストであるという事は明確だろうと言う事だ。

 平和になった筈の世界。だが何故この場にテロリストが出現するのだろうか。余りに突然の出来事に、この場にいた誰もが戦慄している。彼等の目的も、何もかもが分からない中で、シアター前にいた十数名が事実上の人質状態となった。

 シアターから逃げようにも、逃げるにはエレベーターしか移動手段がない。非常階段は封鎖されている。シアター内には観客がいるが、今の惨状に気付いていない状態。職員は3名。彼等は中に状況を上手く伝えられないかと模索している最中だ。迂闊な事をすれば撃たれる為、下手に動けない。

 そもそもテロリストの目的が不明だ。このシアターには政府要人のような人間はいない。この場にいるのは紛れもない、一般人のみ。なのに、テロリストが彼等を狙う理由がない筈だ。

 そこで考えられるのは無差別テロである。民間人を巻き込み、犠牲者を増やす事を目的とするのならば話は変わってくる。彼等は偶然居合わせた被害者となる為だ。

 

「この腐った世界を変える為にも、哀悼の意を込めてお前達には犠牲になって貰う。選ばれし生贄としてな。」

 

何を言っている?生贄?何を捧げると言うのか。何の組織かも分からない中で、明らかに異常な発言をするその男。

 何の事情かは知らないが民間人を巻き込んでいる時点で論外だ。このようなテロ行為が許されて良い筈がないのだ。

(まさか、こんな状況に追い込まれるなんて思いもしなかった……こんなのって……!)

レイ達も当然巻き込まれている被害者だ。しかし、何故彼はこの状況でパニックにならずに冷静でいられるのだろう。

 それは、あの戦争を経験している事が関係しているのかも知れない。

そして、隣にいるシィナも何故か表情に怖さを感じない。側にいるレイは彼女の表情を見てどこか違和感を覚えていた。何故彼女は目の前で血飛沫が人から飛び散っている光景を見て、表情を変えないでいられるのか?もしかすれば、彼女もそうした現場を見た事があるのか……と、思った時――

 

「嫌……嫌だよ……怖いよ……!」

 

シィナの表情が突如変わった。身体が震えているのも見えた。この状況に対して怖さを感じているのだろう。恐らく突然の出来事に恐怖の感情が遅れてきたのではないかと思われる。

 言い方は悪いが、それが本来の正しい姿と思われる。十七歳の、こうした経験がない少女が突然のテロリストの襲撃に驚愕するのは至極当然だ。

 幸いテロリストの視線から彼女の顔は見えていない。隣にいたレイはシィナを庇うように腕を覆い、伏せさせる。予期せぬ異常な状況に、レイは身を守るように促すのだ。

 思えば似た状況を経験した事がある。その時も側にいた少女をレイが庇った事があった。迫る悪意から身を守った事があった。今はその時を思い出し、目の前にいるシィナを守ろうとレイは動く。この状況に恐怖している少女を守らなければと、レイの中の正義感が動く。

 今は自らの格好を恥ずかしがっている場合ではない。テロリストが迫っている状況だ。いつ、自分が撃たれるかも分からない。外見こそ少女そのものではあるが、今のレイはこの状況を冷静に分析している。とにかく、目立たないように。その上でどうにか突破口を開かなくては行けないと考えているのだ。

「大丈夫……静かにして、様子を見て……」

レイがシィナに、静かに言った。テロリストに聞かれないように。とにかく、目立たないように。

 シィナはこれを聴き、コクリと頷く。レイの意図を把握したかのように。

 

 テロリストの男達は機関銃を構え、シアター入口周辺を歩いている。すぐにここにいる人々を銃殺する気は無さそうではあるが、どう動くのかは検討もつかない。彼等の目的も不明な状況で、迂闊に動くのは危険以外の何者でもない。

 訪れた危機をどう乗り越えるべきかと、レイは考える。突然訪れた非日常は確かに今までレイに試練を与え、その都度乗り越えてきた。

 しかし長らく平和に過ごしてきたレイにとってこれは余りに不利だ。戦争をしていた時の感覚など、忘れてしまって当然である。レイは生身での戦闘能力は持たない。彼が力を発揮していたのは人型兵器に乗っている時のみだ。それ以外では彼はひ弱である。

 今、仮に生身で飛び出し、テロリストから機関銃を奪って反撃する事が出来ればなんと格好が良い事だろう。しかし現実はそうはいかない。俊敏な動きをイメージしても、機関銃で撃ち殺されるのが目に見えている。レイはどうする事も出来ないのかと、少しばかり絶望する。

 そもそもこの平和になった筈の世の中で何故こうしたテロリストがショッピングモールを襲撃するような事をするのか?予期せぬ事が起きた時、人はイメージしていたり知識で得ていたとしても実際に行動する事は難しい。しなければならないと分かっていても、止まってしまう。この状況を打開出来るのは余程の非常時の訓練を受けている人間ぐらいか。平穏な日常を過ごしている人間にはこの状況を覆す方法は、ない――

 

「死にたくないぃぃぃ!嫌あああ!」

 

だが、恐怖に震えていたシィナが思わず声を上げてしまったのだ。余りに最悪のタイミング。彼女の甲高い声は当然ながらテロリストの耳に入るのは当たり前であり、機関銃の重い鉄の音と同時に足音を立てて迫ってくるのが耳に聞こえるのだ。

「叫ぶんじゃねえ!」

怒号が再び鳴る。周囲の民間人は恐怖するだけで何も出来ない。厄介な事に、テロリストはこの2人を完全に標的に捉えたのだ。

「へぇ、女2人か。随分粒揃いだが……不運だな。まあ、2人仲良く死ねるのなら本望だろう。」

金短髪の男が機関銃を構え、言う。シィナが震えている状況に対し、レイは男の眼を見る。その姿は少女が威嚇しているようにしか見えないのだ。

「気に入らない眼だな。お前の眼。何でか知らないが全然怯えているように見えない。何故そんな眼をしている?」

自分でも分からない。危機的状況の筈なのにレイはテロリストを恐れていない。不思議な感覚だ。撃たれて殺されるかも知れないのに、何故彼は冷静なのか。

 それは、非日常の中で覚醒したとある力が関係しているから。彼は特別な訓練は受けていない一般市民だった。しかし彼が経験したあの壮大な体験は自らの中に刻まれている。

 今は日常を過ごしていてそれを使う事がなかったが、状況が一変し、変わったのならば話は変わる。今は隣にいるシィナを守り、自らも生きなければならない。

「ま、どうでも良いか。死ぬんだからな。」

屈強な男が、機関銃を肩に乗せ、言う。

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