光と殻   作:すからぁ

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第十話 殻の中の闇 その2

シィナの部屋。それは彼女の趣味嗜好等の情報収集をするのに適した情報材料の一つ。彼女の事を知るにはやはり部屋を見るのは大切なのかも知れない。最も、今回はレイが彼女に誘われた形になるが。

 シィナの部屋は彼女の印象とは違い、棚には熊や兎のぬいぐるみ等が飾っている、思いの外ファンシーな印象を持つ部屋と呼べた。だが一方でベッド周辺等は特に目立った物も置いておらず、綺麗に片付けられている印象を持つ。あと気になるとすれば、置かれているテーブルの上にやや大型のディスプレイのコンピュータが置かれているぐらいか。

 来賓用に片付けをしたのかも知れないが、レイは何故かこの部屋の様子に対して違和感を覚えていた。

「部屋の中に男の人を入れたのはレイが初めてだよ。」

「そう、なんだ……」

それはある意味嬉しい事ではある。交際相手として認めてくれているが故なのだろう。

「あのね、シィナ。その……さっきの人は誰なの?従者って言ってたけど……」

まず、レイはミリナの話をした。独特の雰囲気を醸し出している寡黙な印象を持つ女性。一体シィナとどのような関係があると言うのだろうか。

「そのままの意味だよ。私にとって“信用”出来る従者。だから一緒に住んでいるの。私の身の回りの世話をしてくれる人。」

意味深長な台詞が出た。身の回りの世話をしているという、ミリナ。やはり彼女は資産家か富豪の娘なのだろうと、レイは感じていた。

「単刀直入に聞くけど、シィナって……その……お金持ちの人だったり……する?」

少し言い辛そうにレイは言った。金銭に関係する話題というのは本人から言い出さない限りは余り聞き辛い。いくら恋人同士の関係とは言え、センシティブな話に踏み込む事になる為である。

「え?うーん、お金は基本的に自分で稼いだりしてるかな。お父さんの資産もあるにはあるけれど」

「お金を、稼いでる……?」

レイにはこの時、彼女の言葉が理解出来なかった。彼女は働いているのだろうか。

 仮に働いているとするならば、色々と妙な点が多い。女子学生が従者を雇う為に働いているというのも変な話だ。それ以外とすればこの土地の維持費?それも妙だ。女子学生が稼ぐ事が出来る額など知れている筈だ。

 生活苦の印象は受けない。寧ろ彼女の振る舞いを見る限り、学校内では一匹狼の印象を持つがどこか余裕がある印象がある。

 となれば、彼女は学内で噂されているパトロンからの支援があるのかと考えてしまう。レイと交際している事を考えると、それは複雑な心境だ。

「お金はね、色々な手段で稼ぐ事は出来るよ。ネットとかSNSを使って稼ぐなんて当たり前の話。特に今は経済状況が不安定だから、目先のお金を欲しい人が多い。そうした人達ってとても動かし易いの。若い人が多い印象かな。」

この内容に、レイは違和感を覚えた。彼女の稼ぐ方法を言っている筈なのに、話がどこかおかしい。

だが構う事なくシィナはベッドに腰掛け、脚を組んでから引き続き口を開く。

「その中で私は反社会組織の名前を借りてちょっとしたビジネスをする事にしたよ。その名前を借りれば大抵の人は恐れ慄くから都合が良いんだ。」

「なんか、言ってる事が物騒だよ……?」

レイの額がやや汗で濡れている。シィナの言葉に対する違和感は更に強くなる。

「そんな事ないよ。SNSなんて匿名だし、幾らでも情報は盛れるから都合が良いんだ。そうした組織の名前を出せば、大抵の人間は言う事を聞いてくれる。それだけ影響が広がってるから」

何を言っているのか、理解が出来ない。それを言うシィナの言葉は怖さを含んでいるようで、抑揚がない。奇妙としか言いようがない。

「反社会組織って言うけど、そんな名前を使って大丈夫なの?すぐにバレる嘘になるし、何よりも下手したらその組織からメッセージが来たりするんじゃないの……?」

虚偽の内容はリスクしかない。特に反社会組織と偽って発信すれば悪質な場合は組織からの制裁を受ける危険性だってある。

 誰が見ているか分からない場所で、そうした発信をするのは危険極まりないのだ。

「多分レイも聞いた事がある名前だと思うよ。それは」

「反社会組織の名前……それは……?」

シィナの口元が僅かに緩む。

 

「氷河族」

 

レイの眼が見開かれた。猫のような、いや、それ以上の大きさを今のレイの眼は形成している。

「それは……危険すぎない?いくら悪戯でも危ないよ……あれって良い噂聞かないし……」

レイは氷河族と呼ばれる組織の悪業を目の当たりにした事があった。かつえの壮大な出来事の中で、それらを名乗る組織と戦った事があった。それらによって危険な目に遭いそうになっていた人間を助け出したりもした。

 故に彼はシィナから出た言葉に驚愕している。そして、彼女は組織の名前を笑いながら言うのだ。

「あの組織の名前は凄いんだ。誰もが黙って言う事を聞いてくれる。指示通りに動いて、きちんと仕事してくれる。ネームバリューって凄いんだ。特に大した素材を使っていなくてもブランドだけで市場価値が約束されるようなものなんだ。」

シィナは再び脚を組み直した。彼女の言葉が、レイにとってどこか恐ろしく、奇妙に感じられたのだ。

「私、ここまで自分の事を言うのは初めてだよ。それはレイだから言える事だから。キミが私と交際している上で、アドバンスドタイプという同じ人種という事もあるからね」

「それは嬉しい事だけど、そんな危ない橋を渡る必要なんてないよ!氷河族なんて名前は使わない方が良いんだ……」

自分が経験しているからこそ、言える事だ。組織の存在は絶大であり、多くの人間を不幸にしてきたからだ。

「どうして?」

「シィナが危ない目に遭うかも知れないからだよ!」

彼はシィナの為に言葉を発する。危険な目に遭って欲しくないという純粋な優しさだ。

「心配してくれてる。嬉しいな。」

と、言うシィナの表情からは本当の嬉しさを感じていない。どこか他人事のように感じるのだ。何故、彼女は恐怖しないのだろう。この状況で笑っていられるのだろう。レイにはそれが全く理解出来ないのだ。

「どうしてシィナはそんなに人事のように語るの?最悪な話、いつか、殺されてしまうかも知れないんだよ!?怖くはないの?あの時テロリストに襲われた時だって怖がっていたのに!氷河族とかだってテロリストと殆ど変わらないよ!危険な人間しかいないんだから!」

レイの懸命な心配に対し、シィナは右示指を口元に運ぶ。あざといように見える仕草もレイからすれば違和感しかない。その上でレイは彼女を心配するのだ。

「レイの心配の仕方は明らかに“経験”がある心配の仕方をしてるね。少なくともある程度氷河族の事を知ってるような感じだよ。ネットの知識とか、評論家の知識とか、体験記を鵜呑みにしたものとかそんなものじゃない、実際に感じた印象を述べてるって感じかな」

と、言いながらシィナはすっと立ち上がった。

「だからこそ、その心配の価値は凄くあるよ。それはね、私にとってはとても嬉しい事なんだよ。私はそんな人に心配されてるんだ。とっても、とっても幸せ。」

何故、彼女の言葉はどれも意味深長なのだろう。その振る舞いや動作。全てが何らかの意味ありげな行動をしている。

 それがシィナ・ソンブル。ミステリアスな印象を持つ少女なのだ。

「シィナがさっきから、何を言ってるのか分からない……」

「敢えて分かりにくく言ってるんだよ。レイはとても賢いから、私の言葉の意味を把握してくれると信じてるから。」

すると、シィナは立ち上がってからそのままレイのいる方向に歩き出す。レイは彼女の動作に対して後退りをしてしまうが、後は壁。故にどこかに行く事は出来ない。

 そのままシィナはレイの顔に触れる。柔いタッチは顔の表在感覚全体に鳥肌を作り出す。

「ねえ、レイ」

「何……?」

シィナとの距離が近い。レイは彼女の言葉に翻弄されつつある。

「レイの心配だけど、私は絶対に安全なんだよ。だから安心して良いんだ。」

「え……それは、どういう事……?」

またしても意味深長な台詞だ。

「だって、私はその発信をしたからと言って“組織”に殺される事はないよ。組織に恨みを持つ人間がいて、私を殺そうとしても、私は絶対に殺される事はないよ」

彼女は自信満々な様子でそれを語る。氷河族という組織は崩壊して来ているという話は聞くものの、まだその影響力は強いという話はある。

 噂ではボスと呼ばれる人物が行方不明となったが、そのボスに忠実に仕えていた人間が氷河族の存在を残し、束ねようとしているという話もある。

 故に、氷河族という存在が表向きには力が衰退しているとは言えまだまだ組織の影響力は残っていると言えるのだ。

 だが、問題がある。彼女は何故これ程に氷河族の事を語り、それも堂々とにレイに語っているのかが分からない。

「何を、言ってるのかが分からない、分からないよ……どうしてそう言い切れるの?」

と、言った時――

 

「だって、私は組織から大切にされてる人間だから」

 

「え――」

レイの眼が再び見開かれ、そのままシィナを見続けた。焦点が合っていないような感覚に陥ったのだ。

 

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