「それって、どう言う意味……?」
「そのまんまの意味だよ。私は組織に大切にされてる人間。だから氷河族の名前を使っても構わない。虚偽に当たらないし、組織から消されるとかそんな物騒な話はあり得ない。」
と、言うシィナは更にレイに接近する。これ以上距離を空けられないほどに、彼を包み込もうとする程に。
「そして、組織に敵対する人間が私の情報を特定して私を殺そうとしても無意味。だって、私はアドバンスドタイプ。死にそうになる経験をすればレイみたいに光り輝くの。そしたら相手は意識を失っちゃう。私は殺される事はないの。」
と、言った後でシィナはレイを抱擁した。そして、そのまま静かにレイの唇を塞いでいく。
それはまるで、驚愕しているレイの緊張を少しでも解そうとせん限りの行動と呼べるのだ。
最初はソフトな口唇でのタッチ。だがそこからシィナの舌が侵入していき、へレイの舌に絡まる。一方的に見える行為だが彼女が舌を絡ませる事でレイ自身もそれを受け入れざるを得ない状態になってしまう……
「ン……むぅ……」
「ア……む……」
舌を絡める行為は10秒程度行われ、互いに口唇を離す。唾液による糸がこの時に引かれ、すぐに切れた。
「また、レイとキスをした。やっぱりレイのキスはとても気持ち良いよ」
微笑するシィナ。
「シィナは……氷河族の人間なの?組織に所属しているの?そんな、そんなのって……」
驚愕の事実。彼女は組織の人間だったのだ。その上で名前を使い、何らかの方法で金銭を得ていたのだと言う。
「でも、シィナはお金を持っているでしょ!?そんな事をする必要はないよ!お金に困って犯罪行為をするって言う話は聞くけど、シィナがそれをする必要はない!」
「どうして?」
わざとらしく、シィナは振る舞う。
「こんなお家にいて、さっきの従者の人まで雇ってるのに……学費とかを稼いでいるって言うの?」
「うーん、違うな。簡単なお小遣い稼ぎだよ。そしてそれを還元してる。すぐにお金を欲している人達にね。」
「何の為に……?」
「戦後の経済困窮者を救う為だよ」
それはどう言う意図で言っているのかは分からない。反社会組織である氷河族に所属しているとされる人間が、何を言っていると言うのか。
「レイ。世の中の政治家達やトップの人間って言うのはね、ダブルスタンダードで物を言う人間ばっかりなんだよ。」
ダブルスタンダード。二重規範。政治家等がよくこうした事例を作る事が多いとされる。自分達が都合の良いような世の中を作り出しているのが政治家と呼ばれる人間。国民の事を思っている政治家というのは本当に存在しているのか不明とされ、それに対する皮肉を込めてダブルスタンダードと呼ばれる現象が生じる。
「例えば戦争があって親を亡くしたり親から捨てられた子供達を預かる児童施設って確かに国がお金を出してはいるけどその額って充分じゃないし、何よりもスタッフが足りてない。それを補填する為の人員さえいない状態。その中で民衆に対して子供を救おうって言って建前を言って、本音はそれを利用した利権が絡んで発生する金銭を得て、結果的に子供達に還元されない状態が続いたりするんだ。そして、不幸な子供達はやがては人身売買の犠牲となっていくんだよ。政治家がダブルスタンダードでいる限りは安寧なんてあり得ないんだよ。」
そうかも知れないのだが、そもそもその人身売買をしているのは氷河族だろう。それに所属している彼女が政治家批判をするのはおかしい話と言える。
「人身売買は氷河族がやっているんだよ!子供達が売られたりするのなんてどうかしてる!シィナはボランティアをやってて子供達のお世話をしているのにそんな組織に所属してるなんておかしいよ!」
レイの言葉は間違っていない。彼女が氷河族の人間ならば、ボランティアの行動は明らかに矛盾しているのだ。
「一部の人間がやってるかも知らないけど、悪いイメージが残るだけだ!あの子供達だってシィナが氷河族に所属してるって知ったら悲しむよ!」
レイは懸命に言う。すると、シィナは眼を瞬きさせ、笑みを浮かべ始めた。
「レイは私のコト、やっぱり心配してくれてるんだね。」
突然の言葉にレイは言葉を失う。
「だからこそ、“本当のコト”を言ってアゲル……」
本当の事。それは何を示すのか。シィナは何を語ろうと言うのだろうか。氷河族に所属している事以上の事が、あるとでも言うのだろうか。
「知っての通り、私にはお父さんがいる。だけどお父さんの顔は一度も見た事がない。声しか聞いてない。お父さんとはEフォン上でしかやり取りをしてない。」
当然シィナは自身の父親の話を始めた。一見すれば先程の話とは全く関係ないように聞こえる、言葉。
「お父さんは私に色々と援助してくれた。こんな家も用意してくれたし、ミリナも用意してくれた。お父さんはとてもお金を持ってる。だからミャンにお家を貸してあげられる。顔を見たことがなくても、お父さんは凄い人なんだよ。」
シィナの言う、“お父さん”とはどのような人間なのかは分からない。ただ、彼女を裕福にするほどの資産家なのだろう。
「だけどね、お父さんとはもう連絡が取れない。もう1年ぐらいになるかな。去年に何かがあったのは間違いないけどね。それと同時に氷河族という組織の勢いが少し弱くなっていったって話。それでも氷河族の存在は大きなものである事に変わりないケドね。」
示指を口元に持っていき、レイを舐めるようにシィナは見つめ、言う。
「そして、お父さんは組織で絶対的な立場にある人間。誰も逆らえない、立場にいる人間なんだ」
この意味深長な台詞にレイは思考を巡らせる。シィナには父親がいて、彼女に資金援助をしていた。しかし約1年前から連絡が取れない状態だったという。それと同時期に氷河族が勢力を弱めた。
これを聞き、レイは、ある仮説を立てる。それは彼自身考えたくもない仮説だった。
「待って……もしかして……シィナのお父さんって……嘘……嘘だ……!こんな……こんなのって!?」
レイは耳を疑った。まさか、彼女は“只の”氷河族の構成員という訳ではないという事実が重く圧し掛かるのだ。
「シィナのお父さんは……氷河族の幹部って事……?」
恐る恐る、聞いた。
「うーん、惜しい。もっと上の立場って言うべきかな」
「え……それって……?」
レイは何故か、寒気がした。彼女は恐ろしく大きなものを背負っているような、どこか得体の知れない怖さを感じ取ったのだ。
「私のお父さんは氷河族のボスなんだ」
衝撃の言葉がシィナから出た。