光と殻   作:すからぁ

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第十話 殻の中の闇 その5

「シィナ……やめてよ……こんな事、僕は望んでないよ……!」

懇願するレイ。四肢が動きにくい中で、懸命に訴える。

「さっきの涙は、何だったの……こんな事、やめて……!」

レイはシィナの事を振り返る。彼女の涙の意味は一体何だったのか。何を示していたというのか。それが理解出来ず、ただ、納得出来ないのだ。

「レイ、演技って生きていく上でとっても大切なんだよ。人は皆ペルソナを持って生きている。そして場面によって使い分ける。特に反社会組織とかは粗暴な印象を持ってその場の劇場を演出する。茶番のように思えても、白身の演技があれば全ては本当に見える。そして利益を得る。俳優と反社会組織の組員は紙一重なんだ。」

「何を……言ってるの……?」

彼女の言葉が理解出来ない。レイは困惑するばかりだ。

「演技をする事で人はそれに魅入られていく。だから人は演技する。その演技という名の嘘に翻弄されていく。それは私の最愛の人の確認をするのにとても有効だったの。デートしている中で突然テロリストが襲ってくるなんて舞台を整えるのには、とても理想的な形だったから」

「待って……それって……?」

嫌な予感が過ぎる。まさか、シィナは先日のテロリストと何らかの関係があると言うのか……?

「そうだよ。私が雇ったんだ。テロリストをね。そして演技をした。怖がる1人の女の子を演じた。そしてレイが頑張ってくれて、アドバンスドタイプの力を発揮した。そして、確信したの。嬉しかったな、あれで真実が分かって。」

次々と語られる、事実。シィナはあのテロリストを呼んでいたのだ。恐らくそれは、彼女が氷河族のボスの娘という立場であるが故に出来た事と言えるだろう。

「“こんな”立場だから、舞台装置だって作れるんだ。政府に不満のあるテロリストだって氷河族と提携してる存在。そこに何かしらの援助があればすぐにでも動いてくれる。そして私を“襲う”フリをしてくれる。その中で、レイが守ってくれる。」

「だけど!そんな事したらシィナが疑われるよ!?」

「それはないよ。だって、テロリストだって知ってるもの。氷河族の恐ろしさを。いくら勢力が衰えたとしてもその影響力は変わらない。新平和国連盟になっても、そこへの捜査は及ばない。氷河族という組織自体が、多額の納付金を納めてくれてるからね。」

つまり、彼女の立場は万全極まっていると言えるのだ。それ程にシィナという少女の影響力……いや、氷河族の影響力が強いと言えるのだ。

「だから私は何も発覚しない。証拠も残らない。元締めは私だとしても、そんなものは関係ないの」

語られていく真実はレイを精神的に追い遣る。何故このような状態になったというのか。シィナは何が目的なのか。

「あれで……人だって死んだのに……こんなのって……!」

「舞台装置を作るには犠牲者だって必要なんだよ。よりリアリティを増す為に。」

実際、あのテロリスト襲撃時に犠牲者がいた。何かの撮影と勘違いしていた女性が武装勢力に対して声を掛け、そのまま銃殺された。罪なき女性が殺されたのだ。

 それの指示をしたのもシィナと言うのならば、これは余りに間違いすぎている。彼女は歪んでしまっている。

「さて、ここまで私の事情をレイは知った。つまり、秘密を知った事になる。秘密を知るって事はその人を知ると同時に、相手の事をずっと想い続ける事にも繋がるよ」

朱色の眼がレイを見つめ、捉え続ける。笑顔すら見えないこの眼に、レイは明らかに何らかの意味があると考えるのだ。

「それって……?」

「さっきも言ったでしょう?レイは私と永遠にここで暮らす。互いに添い遂げる者同士だからこそ秘密を知っていった。誰にも話していない秘密を、キミは知った。物語で言えば核心に迫った場面になるよ。」

レイは本能的に察した。逃げなければならないと。彼女のレイに対する愛情はどこか歪んでいる。闇を抱えている少女のそれだ。

 だが逃げられない。四肢が動かし辛い状態で彼女から逃れる術はない。レイはシィナの策略に嵌ってしまったのだ。

「ケドレイは私と添い遂げるから、関係ないよね。互いに秘密を知った者同士が今後愛し合うってどんな感じなんだろうね?」

彼女の狙いは、レイの秘密を知る事。そして、自分の秘密も明かし、その上で愛し合う事が目的と言うのだ。

「ダメだよ……こんなの……おかしいよ……こんなの、愛情なんて言わない……やめて……お願いだから……」

懇願するレイ。しかしシィナはそれを許そうとしない。

「イヤ。おかしくないもの。私は殻。それがレイによって満ちるのなら、とても嬉しい事だから。」

シィナの言葉。暗く、闇が蠢いているように聞こえる言葉だ。

 やがてレイから感じる途方もない「魅力」に惹かれていく。その正体は、レイ自身の力だった。そこからシィナは動いていった。彼との性交、親密な関係になる事で交際関係に至った。

やがて彼女は仮説を立てる。彼の魅力は恐らく人智を超えているものだと。だからこそ、危機的状況を作り出した。氷河族のボスの娘という立場を利用した、テロリストによる舞台設定。これによってレイがアドバンスドタイプであると言う事が確定した。

 それからシィナはレイを誘う為に自らの家に招き、自分の事を明かした。秘密を明かす事で、レイが逃げられない状態に仕立て上げたのである。そこを、2人の愛の巣にする為に。全ては彼女の計画という訳なのだ。

 今は完全にシィナにイニティアティブを取られている。抵抗など、出来る筈がないのだ。

「レイ、これから“ずっと”宜しくね。」

シィナ・ソンブル。彼女は殻。そして、殻の中は底なしの闇。殻の中の闇は広く、深い。

 彼女の殻はただの卵の殻とは違う。いくら注いでも満ちない。彼女は本能的な行動を好いている。食欲、睡眠欲、性欲。これらを中心とした生活を送るのがシィナという人間なのだ。それでいて好奇心も旺盛だ。故の、レイに対する行動は明らかに異常と呼べる。

 闇は光を包んでいく。光は抗えない闇に、堕ちて行こうとしていたのだった――




十一話の更新は未定です。
公開日が決まれば近況報告にてお知らせします。
育児の為執筆が遅れてしまっていますがご了承下さい。
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