光と殻   作:すからぁ

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第十一話 虜 その4

更に時間は流れた。既にレイがシィナと共に暮らすようになってから2週間余りが過ぎていた。

 この頃になればレイは学校にも行く事は出来ていた。学園内ではレイは何一つ変わらない生活を送っている。一つ変わったとすれば、ノレッドと距離が出来てしまった事ぐらいか。

 しかし今のレイにとってはそれすらも気にするような事ではない。ただ、シィナの事ばかりが気になってしまう。その上で追い討ちを掛けるように、シィナは正論を述べている。

 学内での生活は至って普通を装っている。シィナも積極的にレイとコンタクトを取ろうとしない。その辺りの配慮は出来ているのだ。公然とレイと一緒にいる事はない。

 だがその時間が終われば彼女が主導権を握る時間となる。レイを翻弄し、誘惑するシィナは個人の空間の中でレイを弄ぶのだ。

 この行動が続けば彼の感性も次第に変わっていくのが分かる。しかしレイには今、シィナ以外とは誰とも連絡が取れない状態。完全に心が彼女のものとなってしまっているのだ。

(シィナは困らせる訳には行かない……僕が側にいないとダメだ……僕がシィナを満たしてあげないと行けない……けど……)

 学校でも友人と呼べる人間がおらず、元々一人暮らししているレイ。その中でのEフォンでの繋がりをシィナに消され、向こうからの連絡ですら嫉妬される状態ではレイ自身何も出来ないのだ。

 今、シィナは満たされつつある。レイが常に側にいる環境で、彼を翻弄し、愛している状態だから。

 

 

 

***

 

 

 

 更に時が流れて12月31日。この日は学校も休みである。新年を迎える為の時期に入るからだ。

 この時、シィナはレイを家に残し、1人出掛けた。彼女の恒例行事、児童施設へのボランティアに行く為である。

「じゃあ、行ってくるね。レイ」

ウインクをしてシィナは去る。これ程に彼女はレイに好意を抱いており、そしてレイもシィナの虜となってしまっている。

 だが相変わらず彼女に対する違和感は残ったままだ。氷河族のボスの娘として反社会行動を行なっていたり、ボランティアスタッフとしての行動を行っていたり、レイを独占しようとする等、多くの面で謎が残る。

 レイは広いリビングにてミリナに用意された茶を飲んでいた。彼女は初対面の時のローブ姿を変えず、今も同じ服装で仕えているようだ。シィナの拘りなのだろうか。

 レイとシィナが様々な行動をしている中でも、彼女は寡黙な姿勢のまま、自らの意思を示す様子を見せない。今回、シィナがボランティアに出掛けている事もあり、彼女の事を聞こうとレイは思っていたのだ。

「あの……」

「はい」

レイの言葉はどこか、弱々しい。シィナに魅入られてしまっているが故なのかも知れない。

「シィナの事について聞きたい事があるんですけど……」

「何でしょうか」

レイは、3秒程度考えた後で、言葉を発した。

「シィナの過去について知りたいんです。ミリナさんなら何か知っているのかなと思いまして」

「どうしてですか。レイ様がシィナ様に好意を抱かれているからですか。」

それも一つだが、いくつか気になる点がある。それらを一つ一つ、レイは語っていく。

「シィナの僕に対する独占欲とか、シィナの氷河族の事とか……どうして彼女がそのような性格になってしまったのかを知りたいと思うんです。」

思えば、シィナからの情報は限定的だ。彼女は自分の事を確かに明かしたが、その経緯などに関してはレイに明かしていない。

 彼女に直接の身元引受人や肉親がいれば、そこから情報を得られただろう。だが彼女の父親は氷河族のボス。連絡も取れない存在。それ以外の人間関係も大きくは分かっていない。強いて言えば、以前レイと一緒に時間を過ごしたモーナとミャンぐらいか。

 だが彼女達をシィナが信用しているようには見えない。ならば、この場で聞ける人間はミリナしかいないのだ。

「彼女が僕を好きでいてくれるのは、正直とても嬉しい事だとは思っています……けど、あれでは独占欲が強過ぎます……」

ミリナにそれを語る。彼女はシィナの従者。何か、分かるかも知れないとレイは思ったのだ。

「シィナ様は昔から常に“何か”に満たされたいと願っていました。恐らくそれがレイ様なのではないでしょうか」

ミリナは茶を飲みながら言った。

「シィナ様はレイ様と一緒に居て、常に笑みを浮かべられております。自身の事を殻と言っていたあの人が、常に笑顔を見せて、まるで満たされている様子です。それは貴方の存在が大きく関与していると考えられます」

次にミリナがレイを褒めるような事を言った。それは従者故の言葉なのだろうか。

「シィナに好かれているのは嫌じゃないんです。独占欲はとても強くて、少し怖いとさえ思う時がありますが。」

「それでも、“今の”貴方はシィナ様を受け入れていますよね」

「……“全て”とは、言えないですけど……」

シィナからのアプローチではあるが、結果的にレイは彼女からの好意を受けて入れている。この家で過ごすに連れ、最初の彼女に対する異様な恐怖は無くなっていったのだ。

 だが、違和感だけは残る。それがレイにとって不快に感じる部分と言えた。

「多分、僕が彼女に惹かれるようになったのはシィナと僕は同じ人間というところがあるからなんだと思います。」

「アドバンスドタイプ……そう呼ばれる人間という事ですか」

予想外の言葉が出た。ミリナはその人種の事を知っていたのだ。

「ご存じだったんですか……?」

「ええ」

驚愕した――が、よくよく考えればミリナはシィナの従者である。彼女の事情を知っていてもおかしくはないのだ。

それと同時に、レイはミリナを責めた。当然だ。彼女はシィナを止められる立場にあった筈なのだから。

「じゃあ、ミリナさんはシィナがあんな惨劇を引き起こしたのを、分かっていたって事ですよね!?」

シィナが引き起こした、ショッピングモールでのテロリスト襲撃。ミリナはそれを分かっていた。その目的も、全て。

「ええ、そうなりますね」

と、悪びれる様子を見せずにミリナは言った。

「どうして止めなかったんですか!?一般の人も死んでいるのに!僕の力を確認する為にあんな事を引き起こさせるなんて!」

彼女が従者ならば、それを止める役割もミリナにはある筈だ。なのに、それを止めなかった。それがレイには理解出来ないのだ。

 しかし、ミリナは表情一つ変える事なく口を開いた。

「私はシィナ様の行う事を見守るだけです。私は従者に他なりません。その行動に対して何かこちらが物を申す事は私の仕事の管轄外です。」

冷めた言葉。そのような印象を受けた。

「そして、シィナ様の事を知ったレイ様は今、ここであの方と一緒に過ごされているではありませんか。」

と、今度はミリナがレイの青い眼を見て言った。

「シィナ様のレイ様に対する慕心は紛れもない物です。だからこそレイ様の事を知りたいと、常に言っておられました。ですから貴方を招いて、シィナ様は自らの事を語られました。そして、貴方と……」

この時、少しばかり言い辛そうな様子でミリナは言う。どこか恥じらいを感じているようにも見える彼女の仕草を見て、レイも顔を赤めてしまう。連想している事が理解出来た為だ。

(そんな事まで話してるなんて……)

普通秘め事を他者に話す事はしない。だが、ミリナは知っている。つまり、ミリナの存在はシィナにとっては信用に足る存在と言う事になる。でなければ秘め事を話す事など、まず有り得ないのだ。

「だとしても!やっぱり、間違ってますよ!あんな……いくら彼女が氷河族のボスの娘だからって……僕の事を好きでいるからって!氷河族として自分の都合の良いように犯罪を起こすなんて間違ってる!」

それは、彼女の行動の事だ。

 シィナはレイから魅力を感じていた。そこに至るまでに彼等は交際している。そして、シィナはレイの力を確認する為に氷河族のボスの娘という立場を利用してテロリストを呼び、レイの力を発揮させた。

 彼女の仮説は合っていた。レイが只ならぬ人間であるという事を、証明した。

「何故、レイ様は怒っているのですか」

突如、ミリナが口を開いた。

「他の人を傷付けてまで僕の事を知ろうとして、それを分かっていて止めないなんて!そんなのおかしいです!」

「では、レイ様はシィナ様から離れれば良いと思うのですが」

ミリナの提案は、極端だ。全か無かでしか語っていない。

 レイはシィナに関心がある。だが、一方でシィナのアプローチは過激だ。彼の事を知る為に民間人すら巻き込む。それを分かっていてもミリナは止めなかった。それが許せないでいるのだ。

「違うんだ……!シィナの事は、僕は好きなんだ……」

シィナの行動は容認出来るものではない一方で、彼女と同じ人種であったという事はレイにとっての喜び。これもまた、矛盾している感情と呼ぶべきだろうか。

「彼女の事は好きだけど、どうしても理解出来ないんです!シィナはボランティア活動とかで子供達と接するのが好きだと言っていたのに……その人が、氷河族のボスの娘だなんて……そして、それを利用しているなんて……一般の人まで巻き込んで!」

レイは今、悩んでいる。彼女の闇の中にある矛盾について。

 彼女の行動には一貫性がない。この矛盾に満ちた行動が、レイに理解出来ない。故に彼はシィナを知らなければならないと考えるのだ。

 氷河族のボスの娘であり、その立場を使って行う闇のビジネス。そして、一般人を平気で巻き込む出来事も行うという悪業。その一方で子供達を好きと言うもの。レイはこれが、理解出来ない。彼女を本気で好きでなる為にはその矛盾の真相を知らなければならないと、彼は考えているのだ。

 

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