今から7年前。それはかつて起きたデウス動乱と呼ばれる大規模な戦争が終結した頃。
この時地球は戦争による傷痕によって荒廃している場所が多かった。
しかしその中でシィナはそうした被害者に遭う事なく暮らす事が出来ていた。父親の顔を知らず、母親と父親の資産がある中で暮らして来た。
父親の名前はエレグ・スウィード。反社会組織、氷河族のボスと呼ばれる人物だ。この戦後の混乱を経て地球に勢力を急激に拡大させ、世界中に構成員を作り出すに至った人物である。
シィナは父親と苗字が異なる。それは母親であるマーレ・ソンブルの姓が使われていたからだ。マーレに子供がいる事が発覚した時にエレグは姿を見せる事なく、資金のみ彼女に提供し続けたという。
この時、エレグ・スウィードはマーレがアドバンスドタイプの力を持つ人間だと分かっていなかった。何故ならば、彼女の力を確認する事がなかった為である。故に娘のシィナはアドバンスドタイプの力を宿して産まれて来たのだ。
アドバンスドタイプの力は遺伝する。片親がその力を持っていれば、性交渉の相手に何の力を持たなくも関係なく遺伝するのだ。
エレグの資金力もあり、裕福と言える家庭で育って来た2人。戦後の時代は貧困な家庭が数多く存在している中で、彼女達は側から見て恵まれている環境にあった。貧困とは程遠い環境で、衣食住にも恵まれている。それらすら許されていない、戦後の貧困層のいる環境とは雲泥の差と呼べた。
何不自由なく暮らしていたシィナ。だが彼女は産まれてから父親の顔も名前もを知らないで育った。母マーレも娘を授かってからエレグとは一切会っていない。電話越しでの声だけだ。
ある時、シィナとマーレは1人の政治家と知人関係になった。その人間は、当時地球を統一していた政府の上院議員と呼べる男だった。男は戦争によって荒廃した世界を復興する為の政治を行いたいという一心で動いている人間だったという。
彼の掲げるマニフェストは戦争被害に遭った子供達を救い、被災した国民を救い、貧困の差を無くすと言う、綺麗なものだった。それは、戦災孤児や戦争被害に遭った人間達を救うものとして受け入れられた。極限の状態で、人は救いの光に弱い。そうした影響もあり、男は政治家として躍進を遂げる事になった。
当時マーレとシィナが住んでいた地域は特に戦争被害が大きく及んでいた場所だった。故に大衆はその政治家に希望を託した。
政治家の男の言うようにその国復興は始まっていく。貧困は減っていき、食べるものにさえ困っていた子供達の数は減っていったように見えた。食料の調達も当時地球圏を制していた組織が行い、人道支援も行われているものと考えられてきた。
だが、その後で悲劇が起こる。ある日、街に暴動が起きた。それは当時蔓延していた人型兵器を使っての暴動。テロリストによる事件だ。
それらは当時地球圏を統一していた勢力によって鎮圧された。だが、民間人にも大きな犠牲が出る事となった。
復興した筈の街がテロの業火によって焼かれた。これは側から見れば一部の人間による仕業と見られがちではある。だが実際は違った。
政治家の男がマニフェストを掲げた「実績」を残した上で利権を得る為にテロリストに根回しをしていたのだ。
これにより、戦争によって荒廃していた中で政治家の手腕によって復興した街がテロリストに襲われるという悲劇が起きながらもそこから立ち上がると言う、綺麗なプロパガンダが出来上がった。全ては政治家の男のシナリオ通りと言う訳だ。この宣伝は男の躍進に大きく貢献した。全ては、貧困や戦後の被害に遭った人々や子供達を利用する為に仕組まれた事だったのだ。
政治家の男は復興する資金を得る中で一方としてテロリストにも資金を横流しをし、結果的に莫大な資産を得る事に成功した。戦後の荒廃した環境に置かれていた民間人、子供達の犠牲を経て。
政治家の男はマーレとシィナの父親がエレグ・スウィードである事を理解していた。それ故に彼女達に近付き、信用を得させた。政治家という立場は社会的信用は絶大である。故に多くの企業や人物とコネクションがある。故に信用をさせるのは易い。その裏ではエレグによる資金援助の存在も関係していたのだが。
元々氷河族のボスであるエレグは人型兵器の製造を行っている会社、クレーディト・メカニクス社の社長を務めていた事もあり、その上で政治家と密接に関わっていたのだ。その情報を知っていた政治家の男は直接会えないボスではなく、マーレとシィナに接触を試みた。当時のクレーディト・メカニクス社の社長である、エレグ・スウィードの名前を利用して。