光と殻   作:すからぁ

43 / 53
第十二話 パスト・オブ・シィナ その2

このような悲劇があった中でもシィナは学校に通う事が出来る程の資金を持っており、その上でエレグ・スウィードの娘という立場もあり、ある意味守られている立場にあった。当の本人は政治家の男の成り上がりに利用されたというのに。

 壊滅的な被害を受け、復興を進めていこうとする街。その中で、被害を受けていない家が、シィナの家だったのである。

 その事に疑問を抱いた1人の人間がいた。政治家の男のダブルスタンダードによって住処を追われる事になった男である。彼はマーレとシィナの住む家が何故テロリストによる襲撃を受けていないのか疑問を抱いていた。

 いつしか、その疑問は疑惑、疑念へと変貌していき、もしかすれば、テロリストとマーレの家は結託していたのではないかという噂が流れるようになった。そこに根拠はない。だが街を焼かれ、子供達が犠牲になった中でマーレ達が裕福に暮らしている姿に疑問を抱く者が現れてしまうのにそう時間を要しなかったのだ。

 元々貧困層と富裕層が対立する様式になるのはよくある話で、貧困層の人間達の怒りは次第にマーレ達に向けられていくようになっていく。

 それは、一つのSNSでのキーワードがきっかけだった。テロリストとマーレ達が結託して街を襲撃したという、根も葉もない情報のみが流れ、それを見た人間達は情報の根源を調べず、上辺の言葉に踊らされて怒り狂うようになってしまっていた。

 怒り心頭の状態での情報の判断は人を過激にさせていく。平穏時ならば冷静に見極められる筈の情報ですら、非常時ではそれが残酷なものに変わっていくのだ。

 

 

 

「俺達は家を焼かれた!お前がテロリストと結託した!俺達があんな目に遭っているにも関わらずのうのうと暮らしているのが何よりの証拠だ!クソ女め!!」

「嫌……嫌ぁ!!やめて……やめて!!」

「それに、お前らは肉を食べている!俺達は水すらまともに飲む事が許されてない!なのにお前らは肉を食べている!」

「栄養調整の味のない、基礎代謝量のカロリーしか得られない固形物ばかりを食べ、無理やり生きている人間の気持ちなんざてめぇら富裕層には分かんねえよな!」

「俺達の生活は滅茶苦茶にされた!食料すらままならねえ状態なのに!お前らは裕福に暮らしてるってのかよ!許されねぇ!」

「そんなの、私は関係がない!」

「黙れよ!!!」

 

 

 

 マーレ・ソンブルはその後に殺されてしまう。男達に嬲られ、暴力を受けた。果てに家ごと燃やされてしまった。この時、シィナは学校に行っていて無事であったという。

 マーレはアドバンスドタイプである筈なのに何故この時イズゥムルートの光を放てず、男達にされるがままだったのだろうか?それは、死の淵に追い遣られる状況になかった可能性が高かったと考えられる。死の危機に直面する事がなければ、マーレも光を放ち、男達の戦意を喪失させる事が出来たのかも知れない……

 

「え……?」

 家に帰れば母親と家がない状態となり、シィナは大きなショックを受けた。テロリストによる襲撃ではなく、その被害者の根も葉もない噂話のみが広がり、その疑惑の目を何故かマーレに向けられ、彼女は酷い仕打ちを受けた。

 焼けた家の跡からは彼女の焼死体が見つかった。シィナはこれを見てしまっており、最初は誰かは分からなかったが、常に母親が着用していたネックレスを見て、その死体が母親のものであると理解するのに時間を要さなかった。

 

「お母さん……?これ……が……?う……あぁぁ……」

 

シィナの心は、この時に壊れてしまったのだ。卵の殻が握力によって粉々になるように、シィナの殻は一度壊れてしまっている。

 それから彼女は一時的に児童施設に預けられる事になったが、その際も誰とも喋る事がなかったという。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。