光と殻   作:すからぁ

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第十二話 パスト・オブ・シィナ その3

今の家に住むようになったのはこの後から。マーレの死を知ったエレグは従者としてミリナを派遣し、シィナの世話役としていた。

 ミリナはシィナの世話をし続けた。母親をこうした形で殺された悲劇の少女を、放って置けなかった為である。

 ミリナはシィナに献身的だった。その背景の一つとして、彼女もまた、エレグから援助を受けていた人間の1人であり、尚且つシィナがその娘という事が関係しているのかも知れない。

 エレグはこのような悲劇があったとしても、表立って姿を見せない。彼は組織のボスとして君臨し続ける必要があったからだ。

 それからはミリナの献身が幸いし、シィナの精神状態は少しずつ回復するようになった。会話も、僅かだが出来るようになっていった。

 しかし、ある時シィナはメディアを見ていた時に政治家の男の汚職が発覚した事を知る。そこから男の余罪が芋蔓式に発覚し、その内の一つにテロリストと結託して街を焼き、再生した街を復興させたという事実を知ってしまう。

それこそが、政治家が絡むダブルスタンダードによるもの。その結果が更なる悲劇を生み、謂れのない怒りを抱いた人間によって彼女の母親が殺された。

 この時からだろうか。シィナが自らを殻と言うようになったのは。こうした情報を得てから世の中の仕組みを理解し、自分の立ち位置が分かった時、彼女の心は再び砕けようとしていたのだ。

 

「結局お金があるところに絡もうとしたダブルスタンダードな政治家とか、それらが絡んできたからなんだ。結果的にそれで何も悪くないお母さんが殺されちゃった。もう、どうでも良くなった」

 

やがてシィナは自死をしようとする。部屋にあるナイフを自らの手首に当て、動脈の切断を試みるのだ。荒んだ精神状態での鋭利な刃物は危険極まりない。それこそが、今回シィナの自作自演によるテロリスト襲撃の際に言っていた“死に近い経験”なのだという。

だが、その体験はシィナの中に秘められていた力を解き放つ結果となる。それがアドバンスドタイプのきっかけ。自分は死の淵に陥った時に力を発揮し、光を放つという事実を知った彼女。

 皮肉にもその出来事がシィナの好奇心を刺激した。自分自身が何者なのかという疑問。やがてそれは彼女に生きる希望を与えていく。

彼女はアドバンスドタイプの関連の資料、文献を見ていき、自身の特徴を理解した。そして、他にも同じ人間がいるのではないかという考察をした。

 一度壊れてしまった殻は満たされたいと常に思うようになった。その知識欲は留まる事を知らない。際限ない欲が、今の彼女を作り出した。それ故に、彼女は満たされる事がなくなってしまった。

 その中で、シィナはある人物に出会う。それこそが彼女の今の矛盾に満ちた行動を行わせるきっかけとなった人物、エファン・ドゥーリアだった。

 彼はエレグ・スウィードの友人としてシィナとコンタクトを取った。シィナの前に姿を見せなかったエレグ。電話のやり取り以外でエファンの言葉から発せられる言葉がシィナにとっての希望となっていくのだった。その中で、彼女は父親の名前を知る事になる。

 

 

 

「シィナ・ソンブル。友人エレグ・スウィードの娘か。」

「お父さんの名前、知ってるんだね。」

「友人という立場故にな。お前には私自身が興味はある。友人の娘故にな。」

「そんなに、お父さんを信用してるんだ。」

「そうだな。関心はある。それ故に知りたいと思うのだ。」

「じゃあ、貴方からお父さんの事を聞いたりしたんだ」

「そうだ。お前のように知識を満たそうとするのも人の欲。それを知っていく中で人を理解していく。」

「私にすら名前を教えないお父さんの事を知れるなんて、貴方は凄いんだね」

「人を知りたいと願うのは特別な事ではない。だが、一方で合理的な判断が出来なくなるのもまた、人。人故に矛盾に満ちた行動をし、それらを試行錯誤していく。だからこそ醜く、そして愛おしい。」

「どうして矛盾しているのに愛おしいの?」

「私自身がそうであるからだ。お前は力を持っている。私と同じ、力。私の使命は本来ならお前を殺さなければならない。しかしお前は友人の娘。これは私に葛藤を生み出させる。そして、私の行なっている行動を振り返る。その時に私は思うのだ。これもまた矛盾。私は人を超えた力を持っていようと所詮は“人”なのだ……と。」

「哲学的だね、興味あるな。貴方の名前は?」

「エファン・ドゥーリア。私自身も時に迷う時はあるよ。この矛盾の行く末や、結論をどう出すべきなのか。人の矛盾は社会的地位の互い人間ですらあり得る話だ。例えるなら医者という立場の人間が患者に対して食事指導を行う傍らで自らが不摂生極まった生活をするという事もまた矛盾だ。また、それは国をはじめとした組織に絶大なる影響を与える特権階級の人間ですらあり得る話。ならば、それ以下の一般階層は余計に混乱をするだろう。それらにはいずれ答えを出さなければならんと私は思うのだ。」

「ケド、そんな人が選択を間違っていたらそこに至れない人間達は人間不信になると思うけれど?」

「私はそれを含めて愛おしいとさえ感じる時があるのだよ。そして醜く、憎悪を募らせる時がある。これもまた、矛盾なのだろうな」

「お父さんも、そんな感じなのかな?」

「彼は人に対する独自の美学を持っている。私は彼のそこに興味を持った。やがて、娘であるお前に会った。麗しい娘だと思ったと同時にまさか私と同じ力を宿しているとは思わなかったが。」

「アドバンスドタイプの力だね」

「それらをはじめとする力を持つ存在を、私は消さなければならなかった。それが私の中にある使命として残っているからだ。」

「使命?」

「私には役割がある。それは本来の私のすべき事。それに準じるのならば私はお前を殺さなければならなかった」

「私、貴方に殺されていたの?」

「人間特有の感情の情けというやつがお前を生かしているのだろう。よく特別扱いはするなというが、人である以上それは難しい事だ。友人の娘を殺す事は出来ん。」

「特別扱いは嬉しいけど、その使命に反して大丈夫なの?」

「それもまた、愛おしい事なのだとは思うよ。人故に。」

「不思議な人。矛盾している事を誇りに思うなんて。」

「人であるが故だよ。人は本来なら平等に扱うべきなのかも知れないが、現実は違う」

「うん、それは思うかな。特別に感じたらそれは特別だと思うから。だから不平等。」

「生まれも育ちも異なれば待遇も全て異なるからな。そして感情も込みで考えればそうなる。感情だけでない、金銭のやり取り等もあれば更に待遇も異なるだろう。貧困は冷遇され、富裕は優遇されるのは古来から至極当然」

「だからお母さんが殺されたのかな」

「嫉妬や妬みは時に行動する時の原動力となり得る。こうした感情は人の特権ではある」

「感情が、特権……か」

「それが人の大きな特徴だ。例えば民主主義の国家では法の下では人は平等。例えばその国家の下で政治家を1人殺めたとしてもすぐに判断は下されない。仮に死刑制度があった場合に死刑と決めるのは感情の先走りだ。最も、裁きを受けた後にその人間がどうなるのかは分からぬが。」

「人間特有の感情で、別の人間に殺されちゃうかも知れないんだね。お母さんが殺されたみたいに。お母さんは何も悪くなかったのに。」

「感情を持つが故に人は時に暴走する。許せないと思う事があればそれを暴走させて凶行に走らせる事もある。それが、例え自分に関係のない事だとしても……だ」

「結局人は何らかの形で特別扱いをしてるって事なんだ」

「感情があるが故にな。だから私はそれに従おう。お前を殺さぬ。人として扱う。それはあの人の娘であるが故だ。」

「それは貴方の行動に対する矛盾だね」

「だからこそ人間であると感じられるのだ」

「私、貴方と話していて思った。お母さんの死も受け入れて、そして動いていかないとって思った」

「それがお前の原動力なら、それもまた、一つだろう」

 

 

 

 

 矛盾した行動は人特有の行動。合理的に考える一方で違う事を行う事もある。その思想を愛おしいと判断したエファンはシィナの思想に大きく影響を与えていく事になった。

 人の業を目の当たりにして母親を失い、自らの立場を利用されて心が砕けていた少女は徐々に再生していく。そして、父であるエレグが氷河族のボスとして君臨している事も知っていく。

 その影響力が絶大である事を利用し、彼女は“ビジネス”を開始した。そして、彼女なりの考えで子供達を見るようになった。その傍らで氷河族が人身売買を行なっている事も、うすらとは分かっていた。それでも、彼女は止まらない。矛盾している行動が人間であり、愛おしいと感じたからだ。

 ミリナはシィナが、一度心が砕けた事を知っている。だからこそシィナを止めない。真相を知ってしまった時、彼女の心が砕けてしまう事を知っているからだ。

 矛盾に満ちた行動は更なる知識を掻き立てる。やがてエファン以外の自分と同じ人間が他にもいると思い、シィナなりにその人物を探したりしていた。それはある意味、同族を知りたいという欲がそうさせるのかも知れない。

 結果、彼女はレイに会った。彼が宿している強大な力は彼女にとっては間違いなく惹かれる魅力として映っていたのである。それは彼を特別扱いしている他ならないのだ。

 皮肉にも、彼女の愛した少年が憧れの存在だったエファン・ドゥーリアの仇だとは……

 

 

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