光と殻   作:すからぁ

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第二話 シィナ・ソンブル  その1

『また会おうね。もっとレイの事を知りたいな』

シィナ・ソンブルからのメッセージ。これに対してレイは当たり障りのないメッセージを送り返す。

『うん、またね』

と。彼は気取らずに返信した。初対面だった人間に対し、余りに凝った内容を送るのも妙だと判断した為だ。

 シィナ・ソンブルという名の少女と出会ったレイはこの日の夜、学校から帰って来てからシャワーを浴び、休息している間、ふと、Eフォンを開いた。

 彼女の事がどこか気になっている様子のレイは彼女の情報を調べようと、SNSアプリを開いた。

 SNSアプリは当該人物の実名を検索した場合、候補者が幾つも上がる。その中でもし、当人の顔写真などが載っていればそれは紛れもなく本人であり、第三者が当該人物がどのような生活を送っているのか、どのような発言をしているのかと言う事が一目で分かるようになっている。

 彼は正直、気が引ける所もあった。まるでストーカーのような事をしているような気さえしたからだ。だがシィナ・ソンブルのその麗しい容姿、眼、彼を揶揄うような態度等、今の学校生活を送るレイから見れば魅力的に見えてしまったのだ。それ故の、好奇心なのだろう。

「顔写真、上げてるんだ……」

ベッドに横たわるレイは瞬きをする。自身の情報を載せている事に、彼は驚いた。

 彼女のプライベート情報が羅列している。何を食べたのか、どこへ行ったのか。誰と過ごしたのか。まるでそれは年相応の少女のよう。自身の情報を上げないレイとは対照的にさえ感じた。

 その中に、今日の昼間の食事の写真が上がっていた。学食のローストチキンサラダ。いつの間に撮ったのだろうか。それ程目立つような内容でもないのに、いつの間に……?

「多分、普段は友達も多い人なんだろうな。でも、どうして僕の名前を知ってたんだろう。歳だって……」

シィナと話していた時、不思議に思う事が多々あった。初対面とは思えないような慣れている様子の接し方や、どこか世の中を冷めた目で見ているかのような印象を持っている事。しかしその一方で自分はSNSに写真を上げて、まるで人生を謳歌しているかのような自己顕示欲を見せ付けんとしている写真の数。これはまるで、矛盾だ。

 彼女に会った印象も、“派手”という印象は持たなかった。寧ろ神秘的で、どこか大人びているような印象。彼女の事が、どこか読めない。

「また会う時があるんだろうな、うん。」

呆然と、レイは部屋で過ごしている。部屋に置いているコンピュータからはジャズ・ミュージックの緩やかなBGMが部屋に流れ、一人の時間を過ごす。

 この、自分一人が謳歌出来る時間は好きだ。知人は増えど、この部屋に誰かを呼んだ事はない。無理もなかった。キャンパスまでバイクで30分離れている環境にわざわざ来る人間がいるとは思えないからだ。

 時に寂しいとさえ感じる時はある。だが部屋のBGMがレイをどこか心地良く癒していく。緩やかな旋律は耳触りが良い。シャワーで汗を流し、下着姿で過ごしているこの時間は彼自身を癒していくのだ。

「……寝よう」

レイの眼が閉じられようとしている。今日の体験はレイにとっては良い刺激と言えた――

 

 しかしその時、Eフォンから着信音が聞こえてきた。特有のメロディを聞いたレイの眼は開かれ、すぐに反応する。

「もしもし?」

電話に出た。相手の声が、聞こえる。

「もしもし、レイ。あ、ごめん、寝てた?」

「あ、ううん、大丈夫だよ。」

電話の主は、リルム・エリアスと言った。レイの幼馴染。故郷、モントリオールで共に過ごした仲。愛らしい表情を見せる少女。

 彼等は戦争中、実は様々な体験をしている。レイが経験した壮大な体験の中に、リルムの存在もあった。現在リルムはかつての軍が使用していた人型兵器の工学を学ぶ為のハイスクールに居た。レイと同様、親元を離れて一人暮らしをしている。

「学校はどう?友達とかもいるの?」

「うん。まあ、それなりに。」

当たり障りのない話から両者の会話が始まる。

 一見すれば微笑ましい幼馴染同士の会話。しかし、彼等は一度壮絶な体験をしている。

 元々レイとリルムは恋人同士だった。しかし、幼馴染の期間が長すぎたが故に、レイはリルムと接吻や性交を重ねる関係にはなり得なかった。

その中で、レイは自らの力の真相に気付き、大きく悩んだ事があった。その力を誰にも打ち明けられず、苦悩していた時に、彼は今は亡きリルムの姉、ヒューナに優しく諭され、身体を交わった事があった。

 この衝撃的な出来事により、両者の縁を切る事となる。だが時が経った時に、あろうことかリルムからレイに連絡をしたのだ。それも、レイが決戦に向かう前の時に。

 それは、幼馴染と言う縁が結んだものと呼べるだろう。普通の男女の関係ならば恐らく永遠に交わる事のない関係。それらを乗り越えた、幼馴染の関係。彼等の関係は修復しつつあった。

 だが幼馴染と言う関係は彼等にとっては安定の関係の外にならない。切っても切れない関係というべきか。遠ざかる事もないし、接近しすぎる事もない。故に今の電話の関係が、一番彼等にとっては楽な関係と呼べるかも知れないのだ。

 互いの学校の近況の話でその場は盛り上がる。何があったのか、どうした事を学んだのか。他愛のない会話。それが幼馴染の会話。

「けれど……本当に信じられないって思う時がある。」

リルムが会話の中で、言った。

「それは、何?」

「レイがこうして普通に留学して、私と連絡取ってるって事。宇宙に行って、戦争をするって聞いた時は本当にびっくりしたんだからね……?」

それはレイが最終決戦に向かう時、リルムから連絡をした事だ。縁が切れたものとばかり思っていたレイは、彼女からの連絡に驚愕したのである。

「でも、それだけ平和になったっていう事だと思う。良い事だよ。本当に……」

安寧の表情を浮かべるレイ。壮絶な体験をしたレイだからこそ、言える事なのだ。

「あと……その……レイの力の事って、学校の人は知ってる人いるのかな?」

「いないよ。うん。僕は僕だから。僕なりに、生活はしているから。」

リルムはレイの秘密を知る数少ない人物だ。今現在連絡を取る人間関係では、リルム以外では両親や彼の姉、妹ぐらいか。

レイにとって余程信用出来る人間でなければ秘密は明かせない。そして、今彼が自らの力の話をしたからと言ってそもそも信じて貰えない。仮にそれを見せつけた所で何にもならない。今はもう、戦争がない平和な時代だ。この力も使う事は無い。

 レイは、力を持っているごく普通の人間なのだから。

「なんか、ごめんね。変な事聞いちゃったかな。でもレイが気にしていたら嫌だなーって思ったし、もし何か嫌な事があったりしたら遠慮なく言ってね!」

リルムは声越しに明るく振舞っているのが聞こえた。彼女自身も色々な事があり、大変だろうに。レイは静かに息を吐いた。

「そういえば――」

レイが口を開いた。

「今日、ちょっと不思議な人に会った。」

「不思議な人?」

「奇麗な人、だった。僕が名乗った訳じゃないのに僕の名前を言い当てたんだ。それで、早速連絡先を交換した。」

思わずリルムにシィナの事を言ってしまった。

「その人は、男の人?」

「女の人。なんか、分からないけど、不思議な感じの人……」

抽象的な言い方しか出来ないのが自分でも歯痒い感覚に陥る。

「なんか面白そう!レイはその人が、好きなの?」

リルムは咄嗟に聞いてきた。

「そ、そんなのじゃない!なんだろう、ちょっと話したくなった……それだけ。ごめん、変な事言ったね。」

自分でも、何をやっているんだろうと思った。シィナの事を話して何になるのか。別に何になる訳でもないのに。馬鹿だなぁと自分で感じた。

 もしかすればそれ程自分は寂しいのかも知れない。せっかくの学生生活、一人暮らし。なのに知人の誰も部屋に上げた事がない。それはそれで、どこか寂しい。その事が関係したのかも知れない。

「まあ、またその人の事聞かせてよ!じゃあね!」

と言って、電話は切れた。

 レイはこの時、手の力が抜ける感覚に陥った。Eフォンは充電される事もなく、レイの瞼が静かに降ろされていく。

 やがてレイの眼は完全に閉じられ、彼の金色の髪がふわりと、シーツに落ちた。

 

 

***

 

 

 

 レイは夢を見た。それは、彼がかつて倒した男の夢。

 しかし何故今になってその夢を見るのかは分からない。彼の中で男の存在はやはり、大きなものとして存在していたのだろうか。

『戦争のない時代で力を持たない人間はどのように生きるというのだろうな』

男の姿は暗闇の中で白いシルエットとして存在している。直接的な顔は見えない。ただ、声自体は男が生きていた時の声、そのものだ。

『お前は確かに今の日常を謳歌しているかも知れない。だが忘れるな。お前の力は本来戦争の為にある力。その平穏な日常が崩れ去った時に他者を圧倒する力となる事をな』

まるで忠告するかのような言葉。白いシルエットはレイに語りかけてくる。

 今になって何故その夢を見るのかは不明だ。レイはこの時、シルエットに対して暖かな感情と、どこか奇妙な感情を同時に感じ取っていたのである。

(どうしてこの人が今になって現れたの?)

 

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