光と殻   作:すからぁ

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第十三話 光と殻 その5

「何を、言ってるの……?」

当然の言葉。だがレイの眼は真剣そのものだ。真面目なレイが茶化した台詞を言うとは思えない。紛れもない、彼の言葉だ。

「氷河族が反社会組織で、シィナのお父さんがボスで……それを利用してビジネスをし続けて……その、悪いイメージが有り続けるのなら、僕はそれを受け入れる。そこから、組織の印象を変えるぐらい、やってみせる。」

氷河族を変革するという余りに無謀な事を言い出したレイ。この発言にはいつも冷静である筈のシィナですら驚嘆せざるを得ない。

 組織の改革をしようと言うレイ。それは、一つの国に所属している、知識も財力もコネクションも何もない人間が無謀な夢を語るも同然な事である。途方もない野望と言っても過言ではないだろう。

「誇大妄想も甚だしい!氷河族を変える!?レイ、気は確か!?」

いつもレイを褒める立場である筈のシィナが明らかに冷静さを失い、彼に聞く。これも互いの関係性の真の変化と呼べるだろう。

 しかし今のレイの発言は余りに常軌を逸脱していると呼べる。彼女を愛するが余りの過激とも呼べる発言なのだろうか?

「シィナが僕の事を、好きでいてくれるのなら出来ると思いたいよ。」

この自信はどこから溢れ出てくるのか。

 もしかすればそれは、去年までの壮絶な経験が彼を突き動かしているのかも知れない。あの戦争でレイは生き延びた。死の淵に立った事もあったが多くの人間に支えられ、今、こうして生きている。

 戦後になってシィナと出会い、彼女に翻弄される形になりながらも彼女の真相を知り、レイは行動しなければと感じていた。

 これはその結果なのかも知れない。シィナと添い遂げたい。だが彼女の思考を変えたい。そうとなるなら、自分が彼女を受け入れ、それらを変える意気込みが必要なのだと、彼は感じたのだ。

 シィナの心は非常に硬かった。レイに対する独善的な愛情は所詮は振る舞い。彼と出会い、彼の事を知り、真実を知る事でシィナの心境は変わっていく。本当の意味でレイを理解しなければと、感じていくのだ。

「……無謀。」

シィナが笑った。銀髪を掻き上げ、微笑する。

「レイの言葉とは思えない。可愛い男の子の台詞とは思えない。」

確かに無謀極まっている。だが、一つ言えるのは今、この発言によってシィナを笑わせる事が出来たと言う事だ。

「無謀かも知れないけど、僕は少しずつでもやっていこうと思っている。その為には人の力が必要なんだ。シィナが人を動かして犯罪行為を行なっていたように、それを違う方向にやって行ければ良い。」

シンプルな発言。だがやはり、現実問題それを行うのは問題が多過ぎる。

「氷河族は多くの業界や界隈、政界にもに影響を与えてる……その根は遥かに根深いの……忌み嫌われ、恐怖の象徴として存在している……だけどそれもある意味、信用。それそのものの印象を変えるって、出来るの?」

一度根付いた印象を覆すのは難しい。個人ですら難しいのに、組織となれば尚の事難しい。それが負の印象となれば、尚の事だ。

 その無謀な挑戦をレイはすると言った。それも、シィナと共に。

「不確かかも知れないけど、僕はシィナとそれをやっていきたいと思う。シィナが僕の事を好きで居てくれるのなら、僕はそれに応えていきたい。2人の力があれば、氷河族の印象だって変えられると思うんだ。」

レイの言葉は強い。弱々しい印象がない。

 これまでの経験は彼を成長させた。一度は彼女に翻弄されていたレイだが、共通の知人であるエファンの存在を経て、彼はシィナに意見をする事が出来ている。

 かつて地球に住む人類そのものを減らそうとしていた男はレイに大きな影響を与えた。男の行動は愚業であり、人類そのものに悪影響を与える。その傍ら男は人としての悩みの一部である、矛盾を抱えていた。

 矛盾を抱えた男はレイによって倒された。そして、その影響を受けている少女を目の当たりにし、レイはそれにも応じた。彼女を受け入れるという事は、エファンの思想の一部を受け入れるという事だ。

 その上で、彼は負の印象を与えている氷河族の改革を行おうとシィナに提案する。途方もない事は承知の上で、それを言うのだ。

「シィナが望みさえすれば、氷河族は変われる。僕はそれをフォローする。お父さんが死んだのなら、もう負の印象を拭えば良い。より、認められる組織へと変わるべきなんだ。シィナにはそれが出来る権利があるから……」

組織のボスの娘という立場。それは組織に大きく関わってなくても世間は肩書を見る。肉親である以上関係性を断つのは無理なのだ。

 だが、シィナは声を震わせながら口を開いた。

「氷河族には多くの人間が関与しすぎてる……お父さんの独裁で成り立ってる組織って訳じゃないの……一部の国の政界にも、他のマフィア、ギャング組織とか企業にも関係している……それって1人の独裁じゃ無理なの……氷河族の印象を利用して、それをビジネスに変えている所は幾らでもある……私がボスの娘だとしても、それはすぐに変えられる訳じゃない……」

肉親という立場であれ、ビジネスが絡めばそうは行かない。シィナはそれを言いたいのだ。現実問題、彼女はその立場を利用して犯罪行為を行なっていた。これから変えようにも、どうすれば良いのだろうか。

「だからこそ、人の力が必要なんだよ。シィナが望んでくれれば、氷河族そのものを変革する為に動く努力だって出来ると思うんだ。」

レイは青い眼で、真剣に彼女を見つめた。

「それは簡単じゃないわ……途方もない道のり……デウス動乱後に出現した氷河族は各方面に影響を与えすぎたの。その存在は多くの人間に知られるようになっていった……悪い意味で。」

負の印象を覆す事は誠実で居続けること以上に難しい事である。一度でも根付いた負の印象を変えるのは途方もない努力が必要だ。

「だったら、信用を得られるようにするしかない」

「信用……?」

「信用を得られるように、働き掛けて行けば良いよ」

信用は大切だ。それはシィナの父であるエレグが言っていた。

 しかしエレグの語る“信用”はあくまでも本人にとっての信用であり、それが強い人間でなければ彼の顔を見る事すら許されない。世間に対する信用とは異なる。

 結局、言葉は使う人間によって印象を変える。綺麗な言葉を言っていても行動が伴わず、真逆の行動をしていればそれは矛盾している行動と見做されるのが普通、普遍的な考えだ。エレグはその事を逆手に取り、男にとって都合の良い事を“信用”と言った。

 今度は、世界中の人々にとっての信用を得ていく必要があると、レイは言う。今の氷河族の印象を払拭するには、途方もない時間を要するが。

「僕はシィナを好きでいたい。だけど、シィナの行動は矛盾している。それも、悪い方向に。だけどシィナの良い部分はあるから、それをもっと活かして行ければ良いと思うんだ。子供達を想う事が出来るのなら、もっとそうするべきだよ!僕はそれに尽力するよ。シィナと、一緒に……」

と、言いながらレイはシィナに手を差し伸べた。その時の彼は、温和で優しい表情をしていた。

 人を殺したという、強い言葉を使っていたレイの姿はそこにはない。彼女を本心から受け入れ、共に歩んでいきたいと考える純粋な善意に満ちた少年の姿がそこにあったのだ。

「なんだろう……まさか、レイとここまで話をしたの初めてな気がする……」

弱気になっていたシィナが声を出し、そして、レイの手に振れる。

 今までもレイとは様々な意味で触れ合っていたが、レイの方から手を差し伸べる事はなかった。これも、両者の関係性に進展が起きたと言うべきか。

 互いの手が触れ合い、握手を交わす。これは、シィナの中で変化が訪れた何よりの証拠だった。矛盾を孕みながらも犯罪行為を行なっており、それを正当化していた少女はレイの説得に応じ、理解したのだ。

「氷河族を変える……それが無謀だとしても、凄い志だなって思った。」

「2人でやって行こう。壁があるのは間違いないけど、組織の印象を変えて行こう。シィナとなら、出来るから……」

レイの眼が綺麗に映る。朱色の眼がレイの青い眼を見つめる。曇り一つのない、純粋な眼はシィナの中にある曇った闇がない事を指していた。

 




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