シィナと添い遂げる為に、氷河族と言う組織の変革を宣言したレイ。それは当然ながら途方もない道のりであるのは言うまでもない。
シィナはボスであったエレグ・スウィードの娘という立場ではあるが、娘が組織のボスを務める事は不可能に近い。
そもそも組織に入るには本来“印”が必要だ。身体に印を刻み、組織に忠誠を誓わせるのが元々の組織の在り方だった。それを最も、今はボスがいない状態である為にその定義も曖昧となっているが。
レイはこの時の宣言の後で学校を辞める事を決意。彼はシィナの元を離れてから、戦争前に共に過ごした仲間達の所へ訪れる事を決めた。それは、戦争後の日常生活内で連絡を取る事がなくなり、どこか連絡を取る必要がなくなった関係性を払拭した瞬間だった。
改革をするには人の力が必要だ。レイは少しでも氷河族を変える為にそれを説明する為、知人を訪れる事を決めた。レイと共にあの戦争を生き抜いた人間達との連絡を取り、自分の状況を説明するのだ。
彼は今、氷河族に所属している。目先の利益を得る為?違う。反社会行為を行う為?違う。組織そのものを改革する為だ。最愛の人間、シィナ・ソンブルと添い遂げ、氷河族を変えていきたいという強い意志があった為である。
「レイ君、久し振りに会えたのは嬉しいけど……その選択肢は間違いなく過酷な道を歩む事になるよ。愛情だけでは成り立たない事だって世の中圧倒的に多い。それでも、やろうとするの?」
ある、一人の女性がレイに尋ねた。それはレイにとって恩人も同然の人間である。
エリィ・レイス。今は姓が変わり、エリィ・アルビューズ。かつてレイと共に行動し、あの戦争を生き抜いた人間の1人だ。
レイはそれ以外の人間とも話をしている。彼の体験は、多くのコネクションを作り上げた。
「僕は決めたんです。本当に平和の為に出来る事として、それが僕の役目なのかなって思いましたから。」
そう言った時、側に居た1人の男が言った。
ネルソン・アルジュース。エリィの夫。かつての壮大な体験の中で彼女と共に行動していた男性。人型兵器のパイロットと、医者を兼ねていた男性だ。
「氷河族を変革するという行動に至れるのは凄い事ではある。確かにあの組織は負の印象が強いが、レイの言葉を信用していきたいとは思う。大変だろうが、頑張ってくれ」
「はい、ネルソンさん。」
彼は知人を訪れ、そして会話をする。レイなりのコネクション。一度シィナによって消された連絡先ではあったが、エリィやネルソンの名前をSNS等で調べる事で連絡をする事が出来た。
コンタクトを取る手段は様々。膨大に発達したコミュニケーション手段はその気になれば連絡を容易に取り易くする事が出来るのである。
ある時はレイが助けられたヒパック村の人間達を訪れ、彼は事情を説明した。
「まさか、君がそんな事を考えるなんてね」
かつて陸上戦艦の艦長を務めていた人物である、ゲイル・ゼノイア・バーダが言った。
「あんた、それってどれだけ大変か分かってて言ってる?」
整備士の少女、シャルア・ジェインが言った。
「僕が氷河族になった事でどのように見られるかは分からないです。だけど、僕は変えていきたいって思いました。それが世の中を変えていけるのなら、僕は行動します。これが戦争が起きた後の世界を変えるきっかけになると思うから……」
レイの言葉は綺麗だ。しかし綺麗な言葉はいつまで続くかは分からない。彼の行動は、始まったばかり。氷河族という負の印象を覆し、世の為に行動する。いくら兵器を全面的に禁止になり、表向きでは平和になった世界とは言えまだまだ闇が多い世界。それらを照らす光になり得るのかは分からない。彼はそれでも動く。行動し続けると、決意したのだ。
「れいなんか頑張るんか?」
側に居たのはシャルアの妹、メナンだ。約2年の時が経ち、彼女の容姿は成長してこそいるが、口調は相変わらずな様子だ。
「うん、自分の役目を果たそうと思うんだ。」
「よー分からんけど頑張れー!」
相変わらずの様子だが、この言葉もレイにとっては励みである。彼はもしかすれば、知人と会う事で自分自身を奮い立たせようとしているのかも知れない。
レイが知人を訪れ、自らの取り組みを説明している頃、シィナはミリナと共に自宅に居た。その日の外は僅かばかり雲が見える晴天であり、日差しが穏やかに窓を照らしていた。
シィナは今、外を見ている。その側を、ミリナが笑みを浮かべて見ている。
「今のシィナ様は非常に穏やかな表情をされています。あの方が貴方をここまで変えられるとは思いもしませんでした。」
ミリナの優しい声に対し、シィナが言った。
「あの子の熱意は本物だよ。本当の意味で、レイの事が好きになれた。ただ、可愛いだけじゃない。やっぱり平和を真剣に考えていたから、行動に移そうとしたのかな。」
「それを機にシィナ様は慈善事業の取り組みを始められましたね。それは素敵な事です。今の貴方ならば氷河族の改革を成せるかも知れません。」
「私だけじゃないよ。あの子との共同作業。そして、あの子の知り合った人々をはじめとした多くの人達。あの子は私を救ってくれた。本当の意味で。本当に今、私は幸せだよ。」
シィナの朱色の眼は空を見ている。窓の外は小鳥がさえずり、小さな羽を羽ばたかせて移動している。まるでそれは、絵になるような光景。
「平和な世界は、未来のためにも必要だもんね。私利私欲の世界はもう、ごめんだから」
以前のシィナからは考えられないような言葉。以前の彼女は腐敗し、ダブルスタンダードで成り立っていた世に対して歪んだ解釈をしていた。
その上で出会ったエファンの存在は彼女の矛盾した行動を後押しした。しかしレイという名の光はそれを止めた。彼女の闇を照らしたのだ。
「シィナ様が幸せならば、私も幸せです。今、あの方は忙しそうですね。世界中を回って、行動されています。彼は世界中に知人がいるのですね。」
「私はレイを独占しようとしすぎてたな。レイさえいればそれで良いと思ってた。だけどそうじゃない。人は繋がって生きてる。そして、それは次の世代にも繋がっていくと思うから……」
シィナの優しい朱色の眼は視線をそのまま自らの下腹部にやり、そして、優しくそこをさすった。その後、青く澄んだ窓を見て、シィナは遠くにいるレイの存在を想うのであった。
この度閲覧ありがとうございました。
レイのその後を描いた物語となってました。
もう少し短くまとめる予定でしたが色々と書いている内に長くなってしまいました。
育児などもあり、なかなか執筆するのに想定していた以上に時間を要してしまいましたが、どうにか完結させることが出来ました。
これにてこの物語は終わりとなります。ありがとうございました。