「宜しくねー!レイ・キレスさん!」
「可愛い。白ワンピ凄く似合ってる、うん。」
シィナの友人宅にて、レイは歓迎された。彼女はレイの事を友人に“大切な友達”という言い方をしていた。故に、彼女達は受け入れたのだ。
ここにはシィナを含め、3人の少女と1人の少年がいる。シィナ以外の少女。1人は赤毛、ツインテールの少女。名はモーナ・ジルム。二重の垂れ目、泣きぼくろが特徴的な少女。
もう1人は黄緑のショートヘア、眼鏡を掛けている。少し上がった吊り目が特徴的な、少女。名は、ミャン・スー。いずれもがシィナの友人。彼女のSNSに映っていた人物。
少女達がいる環境の中、1人男のレイ。最も、彼女たちにとって今のレイは少女にしか見えていないが。
ある意味、“レイ”という名前が幸いしていたのかも知れない。男性にも、女性にも取れるその名前は中性的で、どちらと名乗っても違和感がないのだ。
今、この4人がいるのはミャン・スーの住むマンション。ミャンとモーナはよく、この家に出入りする事が多いのだと言う。
「レイさんはシィナとどこで知り合ったの?」
「同じ学校で……はい。」
レイは声も甲高く、少女と間違えられやすい。つまり彼は身体的な男性の特徴以外は服装さえ身に纏えば女性としても本当に問題なく行けるのだ。
後は喋り方。普段“僕”と喋っているから、この場では“私”と自称を変えれば良いだけである。
「皆さんはシィナさんとは知り合いなんですか?」
今度はレイが聞いた。彼女達が何者かを知る為だ。
「まあー、知り合いっちゃ知り合いだよー!SNS繋がりの!」
明るく、モーナが言った。
「SNS上で連絡取る内に知り合った仲間だね、うん。」
ミャンが言った。この様子から、シィナとは以前からの知り合いの様子だ。それも、SNSを通じて知った仲のようだ。
「結構、それで連絡とったり会ったりする事って多いんですね……」
レイは普段SNSを多用する人間でない。故に、そうした事には鈍感だ。
「けれど、それで怖いって思ったりした事ってないんですか?」
何気なくレイは聞いた。彼女達は元々顔見知りでない関係。つまりは赤の他人だ。どのような人間がいるか分からない環境、それがSNS。その中で友人を探すという事は、レイには理解出来ない事と言えたのだ。
「えー?ワクワクしない?退屈じゃないじゃん!」
人によって価値観は異なるのだなと、レイは感じていた。
「まあ……ちょっとだけ暗い話をすると、私達皆戦争で家族亡くしてるんだ。その中でSNSを通じて知り合ったのが皆って訳、うん。」
「そう……なんだ」
モーナの能天気のような印象とは裏腹、彼女達は彼女達で悩んでいたのかも知れないと、レイは感じた。
「私達はかれこれ1年ぐらいの間柄になるのかな、うん。」
つまり、その間彼女達はここ、ダーウィンの地に居たという事になる。という事は、約1年前にあったあの激戦の後に知り合ったという事なのだろうか。
「シィナはあんまり家族の事とか言ってくれないんだよねー。ま、皆訳アリだしまあ気にする事はないけどね!」
戦争により家族を失い、居場所がない者がいる。モーナとミャン。この2人がそれらに該当する。家族がいない寂しさを埋めようとした結果、SNSを通じて知り合ったと言う訳だ。
(シィナさんには家族がいるという事なのかな……)
2人の事情は分かったが、やはりシィナの事が分からない。彼女に関しては謎が多いと言える。
「で、あの事が話題で。うん。」
「うん、そうそう!それでー」
「あー、それ分かる!」
女子の会話が始まった。紅茶を用意しているのはミャンだ。その中でクッキーなどの菓子類が籠の中に入っている。
更にこの日はクリスマスパーティという事もあり、ケーキを手作りするという事になっていた。材料は既に購入されており、後は作るだけ。
レイはこの状況を見て、楽しいと感じていた。いつしか自分も少女のような感覚でいたのである。
だがその時、1人の少女がとある瓶ボトルを取り出した。そこに記載されている「14%」の文字を見た時、レイは目を疑った。
「さー、今日はパーティ!飲みましょ!シャンパン!」
と、言いながら用意していたグラスにそれを入れる。黄白色のその液体は炭酸特有の泡立つ音を立て、瞬く間にモーナの体内に入っていった。
「それ、白ワインでしょ。また酔って潰れるのが目に見えてるんだから。うん。」
と、ミャンが冷静な様子で言った。
いや、冷静にそれを言う事自体がおかしい。白ワインを、未成年が飲んでいる。レイはこの光景に疑問を抱くのに数秒時間を要した。
「え……お酒……ですか!?」
彼の青い眼が見開かれた。明らかに手慣れている光景に、レイは驚愕しているのだ。
「え、レイさんまさかお酒飲んだ事ないとか!?真面目すぎん!?」
「レイさん、見た目は正統派美少女だけど、やっぱりお酒ぐらいは解禁したら良いと思う、うん。」
これが普通の光景なのか?いや、絡む人間によっては有り得る光景なのかも知れないが真面目なレイにとってはどうなのかとさえ、考えてしまう光景だ。
この間にもモーナは酒を飲む。既に2杯。早い。早過ぎるペースだ。
「あー、一応聞くケドぉ、レイさんSNSやってる?絶対アップしちゃダメだよぉ!こう言うの世の中の歪んだ大正義マンが徹底的に叩きだすから要注意ね!バレたら学校退学とかフツーに有り得るから!」
「世界中に写真が発信されるから、情報知ってる人間が特定とかするから……そしたら人生終わっちゃう、うん。」
「まー、要はバレなきゃ良いのよ!アハハ!!だからリテラシー大切ね!つーか酒ぐらい許せっつーの!せっかくのクリスマスなのに!人様に迷惑かけてる訳じゃないのにさぁ!」
それは事実なのだが、レイにとっては違和感しかないように感じる。この光景をシィナはただ、笑って見ているだけ。その当人は白ワインに手を触れていないのが確認出来た。
「結局さぁ、あーいうのって所詮やっかみなんだよぉ!ちょっとしたヤンチャに対して罵詈雑言言いまくるヤツってのはさぁ!」
モーナの愚痴が始まった。酒故の本音なのかも知れない。
「そいつらはよぉー、親にも恵まれてよォ、選択肢も多い人生を歩んでるクセにさぁ、なんか知らんけど充実した人生送ってないからってちょっとしたヤンチャに対して目鯨立てちゃってさ!その結果未来ある若者の人生をぶち壊して何が楽しいんだっつーの!」
モーナの頬が赤い。明らかに酩酊している。
「つーか死んだ親だっておんなじだ!自分達だって若い時ヤンチャしてた癖によぉ!自分勝手に生きて金なくなったからって子供に迷惑掛けて勝手に死にやがってよーって話よ!」
最早ヤケ酒。明らかに出会った時と印象が違い過ぎる。
「まあ、それって度合いによるよね、うん。あんまり公共の場でやらかしたら多分ダメだと思うけど。」
ミャンの方は酒を飲んでいても比較的落ち着いている印象がある。
「ここはうちのプライベートルームじゃあ!そこに女の子4人が集まってのクリスマスパーティ、女子会!それぐらいええやろがい!」
モーナとミャンは酒に酔っている。そして、モーナから出る台詞は彼女の事情を反映しているようにも聞こえた。それを傾聴するミャンも、もしかすれば似たような境遇なのかも知れない。
「んで、レイさんは酒飲まねーの?」
初対面である筈のレイに対してもやや乱雑な呼び方になっている、モーナ。酒は人相を変えるとは聞くが、人間としての距離が近いように見える。
「僕……いや、私は良いです。下戸だから……ちょっと、お酒は……ね?」
分かりやすい嘘を、レイはついた。
「えー、つまんな!シィナも相変わらず酒、飲まないしさぁ!まあ良いや!ミャンみたいに飲める人が飲んだらええねん!」
と、言いながら白ワインを飲むモーナ。だがレイは一連の言葉を聞き、明日感じていた。彼女は暗い過去を持っているのではないかと思い、興味本位で聞いてみた。
「あの、モーナさんは両親の事とかで過去に何かあったんですか?」
普段自らの話をしないレイだが、人の話を聞く事に関しては興味を抱く。この様子を、シィナは側で微笑しながら見ているだけだ。
「えー?聞いちゃう??まぁ良いやー!アレはねー、デウス動乱って戦争が終わった頃時だったかなぁー!……私両親に売られた事があったんよー!金ないからっつーて怪しい組織に!確か氷河族って言ったっけぇ。」
“売られた”。その言葉はレイに衝撃を与えた。そして、“氷河族”と言う言葉。この言葉もレイは知っている。まさかこのような所でその存在の名前を聞くとは、思いもしなかったのである。
氷河族。かつて起きた戦争、デウス動乱後の混乱期の中で生まれた犯罪組織。戦後瞬く間に裏社会を牛耳る存在となり、数多の構成員を生み出した組織。その内容は多種多様であり、基本的には反社会行動を起こす事が多い存在とされる。
現在その元締めとなる存在は行方不明となっている。一説によれば死亡したと言う話もあるが、詳細は謎の中だ。
彼等の狂ったビジネスの一つに人身売買がある。それら未成年を狂った軍人や金持ち等に売るという非道。旧世紀でも起きていたその異常な現象ではあるが、デウス動乱という戦争の後では未成年の存在は希少価値が高いとされ、戦後の混乱もあって闇ビジネスが横行してしまっていたのである。
モーナはこの被害者だ。しかも、親が彼女を売ったと言うのである。
「戦後の戦争被害を受けて金がないからっつーて娘を養えなくなったから娘を売ったんだよねぇ!そんな、胡散臭い存在にさぁ!」
と、言いながら更に酒のペースが進む。愚痴の内容が平穏とは言えないものだ。彼女は相当大変な人生を歩んできたのだろう。
「その結果ね、狂ったクソみたいな男の相手をさせられまくってさぁ……う……思い出しただけで吐き気が……!うぶっ……!」
その時、モーナは口元を手で含み、急いで立ち上がり、走り出したのだ。その際の彼女の眼は、明らかに恐怖が蘇っているかのような状態に見えた。恐らくそれは、酒で見せる陽気な彼女ではない、本当のモーナの表情なのだろう。一瞬ではあるがその表情は印象的に思えたのだ。
数分後モーナは戻る。そっと溜息を吐き、相変わらず酩酊している様子だ。
「親はクズ、男はやばいヤツ……その中で親が何らかの戦闘に巻き込まれたって話聞いて死んだって!私思わず笑っちゃったよォー!あーははは!」
彼女の暗い過去とは思えない程、モーナは何故か笑っている。この場が女子ばかりと言う彼女の認識が、そうさせるのかも知れない。
「あー、色々語りすぎたぁ。なんかレイさん初対面なのにぃ、聞き上手っつーか!?ねー、そんな感じよねぇ!」
別に聞き上手と言う訳ではない。言葉を出す事が出来ないだけだ。
氷河族という言葉を知っているだけでなく、実際にそのような組織に連行された事もある。所謂人身売買の被害に遭いかけた事もある。だからこそ、レイは彼女の話を真剣に聞いた。聞かざるを得なかったのだ。
「モーナ、大変だったんだぁ。うん。」
ミャンも少し、酒が回ってきている様子だった。
恐らくら彼女達はこうした暗い状況を体験した上で、今に至るのだろう。そこからSNSを通じてこうしてどうにか人との繋がりを得られたという事なのだろうか。
「ミャンは比較的両親はまともだったんだよねぇ?」
酔った勢いでモーナが言う。
「いやいや、どこが。あれがまともな訳ないよ、うん。うちは戦争状態から来る不安煽りに負けた親がある宗教にゾッコンでハマって。近所から嫌われてたのにも関わらず“お布施が足りない”とか言ってるの。生活費も全てそこに注いで。所謂2世問題ってやつ。うん。」
ミャンも別の闇を抱えているのだろう。モーナ程では無いにしても彼女も酒に逃げているのが何よりの証だ。
「あー、そっち系かぁー。親は子供の為に救いを求めてとか抜かしてる系ねぇー。何となくだけど、分かるぅー」
家族に売られたと言う事と比べるとまだ親がいる分良いと言う解釈もあるかも知れない。だが、現実はそうではない。最初、親は恐らく子供の為に頑張っていたのかも知れない。だがその努力の方向性を誤った。結果的に宗教に多額を貢ぐ事になり、破産した。暴力こそは振るわれなかったが、ミャンはある種の虐待を受けていたのだ。
そのストレスも相まって、彼女の心は壊れつつあった。彼女の場合はモーナと違い、戦闘に巻き込まれたのではなく、親の自殺によって天涯孤独となったのである。途方に暮れていたその中で、彼女はモーナ、シィナという少女達と出会ったという訳なのだ。
この時点でレイはある事に気付く。ここにいる皆は何らかの事情を抱えている少女ばかりが集まっていると言う事に。
「まぁー、所謂毒親持ちって損やねーって話さね!まぁこんな世の中だから?親もロクでもないのが増えるんだろーけどさぁ!?」
「こんなになるのならいっそ地球なんて壊れてくれれば良かったって思う、うん。」
彼女達はある意味狂った世の中の犠牲者なのかも知れないと、レイは感じた。
確かに世界は平和になった。だが、その爪痕はまだ大きく残っている。人類の大半が死滅した世界でも人間というのは様々な問題を抱え過ぎているのだ。
(なんだろう、僕はまだまだ世界を知らな過ぎる気がする……僕は所詮、あの戦いを生き残っただけに過ぎない……)
レイは家族に恵まれていた。その中で去年までの戦争状態だった世界情勢を生き残った。
彼の行動は世界を守った。もし彼が、“最大の敵”を倒していなければ地球はどうなっていたかも分からない。
だが今、ミャンが言った台詞は本人からすれば切実な思いなのかも知れない。エゴな台詞とはいえ、地球が壊れて欲しいと願う。そして、未成年の飲酒。それ程に心が壊れていたのかと、レイは感じたのだ。
「こんなのになるのなら、いっそ大昔の人がAIの普及をしっかりとしていけば良かったんだと思う、うん。人間なんてAIに監視されてるぐらいが丁度良いんだよ、うん。不完全な存在のクセに法律だーとか規則だーとか偉そうに作って。それを司る政治家連中が腐ってるのに。うん。」
彼女の言葉はまさに世の中への批判だ。不幸な自分が生まれ、自分と同じような境遇の人間と集まり、傷の舐め合いをしている状況。
それ自体に生産性はない。しかし彼女達はそれでも生にしがみついている。やはり人は仲間を求めている生き物なのかも知れない。
「でもAIには形がないからねぇー、仮にAIに励ましてもらうってなってもぉ、あんな形ないロボットに励ましてもらうんかって話よー」
「外見は人間に出来たりするって話、うん。」
「けど触れ合いがないじゃん。」
いつの間にかモーナとミャンが会話の中心となっている。この間、レイはただ、2人の話を聞くしか出来ていない。自分が守った地球ではあるが、こうした人間がいると言う事にやや、衝撃を持っている様子だったのだ。
「てかさぁー、レイさんいつまでその格好でいてんのー!?」
すると、突如モーナが目線をレイの方に向けたのだ。
「ふぇっ?」
不意打ちのような言動にレイは思わず感嘆の声を上げてしまう。
「なんか色々語り過ぎて疲れたぁ。レイさん、ねぇ、その純情そうな白ワンピ脱いで私と一緒に裸になろうよぉー!」
と言った時、モーナは突如自らの服を脱ぎ始めたのだ。瞬く間に上下薄紅色の下着姿になるモーナ。余りに突然の事に、レイは困惑する。
何がどうなっているのか?酒に酔った勢いというやつか?それにしては何故レイの方に視線が向くのかが分からない。
「今日ここに集まったってことはさぁー、“慰め合い会”も兼ねてるって事なんだよねぇー!?レイさん!?」
「え、ええ!?何ですかそれ!?」
モーナが最早何を言っているのかが分からない。何だ、それは……?
「文字通り、女の子同士が慰め合う会。うん。」
ミャンが冷静な様子で言った。その言葉は、明らかにただならぬ雰囲気を匂わせているように見える。
「そんなの、聞いてないですよ!?」
「じやあ尚の事レイさんを脱がしちゃうからぁ!清純貧乳女子でも裸になれば皆一緒なんだよぉ〜!」
モーナはすっと立ち上がり、レイの側に来た。突然訪れた危機。もしレイの服を脱がされたら彼が男だと発覚してしまう。そうなった場合、この場はより混乱する事になる。
先のモーナの男に対する拒絶反応は明らかにトラウマによるものと推定すれば、レイが男と判明するのはまずい。どうにかして守らなくては!
しかしモーナは両手指を屈曲させてレイに迫る。レイの後ろは壁。逃げ場がない。脱がされたら本当にまずい。
(こんな……こんなのって……!)
予想外の危機がレイに迫る。どうすれば良いのだろうか……