自分の書いたゲーム転生小説の主人公に成り代わってしまった主人公の話   作:ぱgood(パグ最かわ)

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癒羽希カルミアは補助魔法だけでいいかもしれない………。

☆☆☆

癒羽希さんはダンジョン内にあった大きな円形の空間にいた。

ここがダンジョンでなければ小さな広場と言っても良い大きさの場所だ。

 

そこで、何故か体育すわりをして縮こまっていたから、声をかけた。

 

本当に何がしたいんだこの娘は。

ダンジョンで体育座りで俯くなんて普通に自殺行為だぞ?

 

まあ、今はいいや、その後は俺の怪我に気づいた癒羽希さんが治療をするかと聞いてきてくれたため、俺はお言葉に甘えて、癒羽希さんの張った結界の中に入り、怪我を治してもらう。

 

あぁ、効くわ~。

 

ここに来るまでのボスラッシュ、ならぬ雑魚(モブ)ラッシュによって俺の体は正直ボロボロになっていた。

それが、癒羽希さんの治療によって治っていく、ほんと、補助魔法だけで良いんじゃないか?

 

この娘。

 

まあ、今はそんなことどうでもいいや、聞きたいことも山ほどあるけど、取り敢えずここから出るのが先決だしね。

 

「癒羽希カルミア、付与魔法のマジックチップは持っているか?」

「は、はい、≪フィジカルオーガ≫と≪イモータルウォーリアー≫を持ってきています。」

「なら、≪フィジカルオーガ」を俺に使え。奴らを一掃して帰るぞ」

「わ、分かりました…≪フィジカルオーガ≫」

 

うぉぉぉぉ、漲る。

力が漲る。

 

ヤバい、マジで、相変わらず何でこんな強化できるのか意味わからんくらい力が漲る。

まあ、いいや、俺は結界の中で自前の≪シャープネス≫を発動し、空になったマジックチップを抜くと新しく≪アクアバインド≫をセットする。

そして、結界の外に出て、予めセットしておいた≪アクセラレーター≫を使い、加速する。

 

加速した時間の中、俺は敵の首を落としていく。一体、二体、三体、四体、五体、六体、七体、八体、九体、十体、十一体、十二体、十三体、十五体、十六体、十七体、十八対、十九体、二十体、二十一体、二十二体、二十三体、二十四体、二十五体、二十六体、二十七体。

 

俺は敵を、斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って、次々と魔物を倒していく。

 

…………ただ、そこまでだった。

 

加速した俺は確かに敵を次々と屠ることが出来た。

 

しかし、相手とて無防備で倒されてくれるわけでは無く、何よりも数が多かった。

そのため、≪アクセラレーター≫の効果が敵を倒しきる前に切れてしまったのだ。

 

「クソっ!」

 

俺は舌打ちをする。ここから再使用するか?

その考えを抱く前に敵の反撃を受けた。

向こうとて、ただ攻撃を受けるだけのサンドバックなんかじゃない。

ずっと反撃の時を伺っていたのだろう。そんな奴らが、≪アクセラレーター≫が切れ、その変化に対応できていない無防備な俺を見逃すはずがない。

顔と腹に敵の拳を受ける。

 

幸いだったのは拳だったため、パプリカの被り物が破れなかったことだろう。

 

とはいえ、パプリカの被り物が無傷でも俺の体はボロボロだ。

いや、二発しか食らってないだろうが!と思うかもしれないが、二発で致命傷なのだ。

 

むしろ、癒羽希さんの≪フィジカルオーガ≫があるから二発も耐えれているだけで、本来なら二発目を食らった時点で倒れていても可笑しくない。

 

まあ、ここからダメージを受けたら、どのみち倒されてしまうだろう。

そして、これだけ怪我を負ってしまえば、≪アクセラレーター≫は使えない。

 

一度、癒羽希さんの下に戻るべきか?

俺の中でその考えが頭を過ったが、今、目の前にいる四体の魔物がそれを見逃すとは思えない。

ここで何とかしなくては………………死ぬ。

 

「⁉、魔剣師さん、今行きます!」

「ッ来るな‼」

「え?」

「お前はそこでふんぞり返ってろ。こいつは俺が倒す。」

 

いや、そもそも、君に死なれたらここに来た意味が無いんよ。君なしじゃあ、ここから出ることも難しくなるだろうし。

 

「分かったら援護に集中しろ。」

 

俺はそう言い、敵に向き合う。

何かすげぇ、強キャラ的なことを言っているが、これどうやって勝つんだろう?

現実逃避気味にそんなことを考える。

 

それから、刹那の攻防があった。

 

初めに一体目の魔物が拳を振るう。俺はそれを剣で受け、後ろに下がった。

そこに二体目の魔物が横合いから現れ、蹴りを放つ。俺は再度、剣で受けようとしたが、間に合わなかったため、出来るだけ後ろに跳び、威力を抑える。

そして、そこを三体目が魔法弾で狙撃し、吹き飛んだところを四体目が俺の首を鷲掴みにし、癒羽希さんの結界に押し当てた。

 

本来なら、癒羽希さんの結界は癒羽希さんが許可した人は通れるはずなのだが、恐らく、魔物が俺に接触している状態であるため、俺も中に入れず魔物の腕力で押し潰されようとしているのだろう。

 

十中八九相手はそれを分かっていてやっている。俺がこのまま癒羽希さんの結界で押し潰されてもよし、癒羽希さんがそれを恐れて結界を解いてもよし。

 

とても、悪辣な戦法だ。

 

しかも、こっちは抵抗しようにも、魔法弾を撃ち込まれた時に剣を落としてしまった。

俺はそれでも悪足掻きとして、マジックチップを一枚取り出す。

勿論、マジックチップ単体で魔法を発動することは出来ない。

 

だから、このマジックチップは後ろに投げる。俺自身は通れなくても俺が投げたものは入るだろうから。

 

そして、俺の意図に気づいてくれたのか、後ろで魔法名を叫ぶ癒羽希さんの声が聞こえる。

 

「≪シャープネス≫‼」

 

それは切れ味を上げる魔法。

 

これを俺自身にかけて貰ったのだ。

 

通常であれば刃物でない人体にかけても大した効果は発揮しない。

しかし、ヒロイン設定の癒羽希カルミアがかけた場合は別だ。

 

俺は手刀でもっても敵の腕を斬り落とし、そのまま敵の胸を貫く。

 

まずは一体。

 

折角、癒羽希さんのいる場所まで連れてきてくれたので、結界内に入り、回復もしてもらう。

 

ふぅ~、効く~。

 

「やっぱり行くんですか?…………明日になれば防人の人たちが魔物を倒しにくると思うので待っていても良いと思いますが。」

「…それまで、結界は持つのか?」

「……………それは。」

「では行ってくる。援護は任せた。」

 

その言葉を残し、俺は飛び出す。

それに合わせて、敵も動き出す。

 

相手は魔法弾を用意し、今にも打ち出そうとしている。いくら≪シャープネス≫を使っているからと言って、こちらの手刀で魔法弾を防ぎきれるほど甘くはない。

腕の方が折れるだろう。

 

正直このままでは勝ち目はない。

俺がそんな風に癒羽希さんが魔法を唱える。

 

「≪ホーリーバインド≫」

≪ホーリーバインド≫は≪アクアバインド≫と違い、敵を完全に拘束し、魔法の行使すら、阻む魔法だ。勿論、その代わりに拘束時間が非常に短いというデメリットもある。

 

これにより、相手は魔法弾を構えたまま止まる。

とはいえ、発動待機の状態にある魔法弾の行使をキャンセルすることが出来るわけでは無いので、急いで刀を取りに行く。

 

そして、俺が刀を手に取ったと同時、魔物たちの拘束が解け、魔法弾が飛んでくる。

 

ヤバい、せめて≪シャープネス≫を魔剣に施したかった。

とはいえ、今から魔剣に≪シャープネス≫をセットしている時間はない。

 

なら、後は受け流すしかない。

 

 

 

 

 

「≪シャープネス≫」

 

背後から魔法を唱える声が聞えた。

 

癒羽希さんの声だ。

 

一応、言って置くと、俺が癒羽希さんに渡したマジックチップの数は一枚だ。

そのため、俺のような木端防人なら、一度の魔法行使しかできない。

 

しかし、以前にも話した通り、()()()()()()()()()()()()マジックチップに込められた魔法を小出しにし、更に自前の魔力で強化することが出来る

 

当然ではあるが、ヒロイン設定を持つ癒羽希カルミアも例外ではない。

使ってもらうまで完全に失念していたけど。

…………パーティー組んでいた時もやってたんだけど、やっぱりアクシデントの時って頭が働かないわ。

 

まあ、戦局はこっちに傾いた。

 

俺は魔物たちが飛ばして来た魔法弾を手に持つ魔剣で斬り捨てる。

うん、自分で≪シャープネス≫を発動させた時と比べて切れ味が段違い。

 

とはいえ、相手もこの程度で臆したりはしない魔法弾を斬り捨てた俺に向かって、拳を振るう。

魔物の拳は俺の顔面を再度狙っているが関係ない、俺は魔剣で拳を斬り捨てる。

そして、相手の心臓を一刺し。

 

これで二体目。

 

俺がそう思っていると、刺された魔物は残っている腕で俺の腕を握ってくる。

どうやら、自分の命と引き換えに俺の動きを封じようとしていたらしい。

他の魔物たちもその時間を無駄にしないためにこちらに接近し、片方が拳、もう片方が蹴りを放ってくる。

 

ただ、彼らはどうやら忘れているらしい。俺の体は現在、全身が刃物になっているということを。

 

俺は捕まれた手とは反対の手で手刀を作り、敵の腕を斬る。

そして、魔剣を引き抜き、蹴りを仕掛けてきた魔物の足を魔剣で斬り、拳を放ってきた魔物には手刀を向ける。

 

魔剣は敵の足を綺麗に斬り飛ばし、手刀は相手の拳に刺さったものの、こちらの手も潰れてしまう。

 

「ッ!」

 

とはいえ、止まるわけには行かない。

俺は拳を放った魔物に≪アクアバインド≫を使い、動きを抑制し、斬る。

そして、片足を失いバランスを崩した方にも続けざまに留めを刺した。

 

「………お、終わった?」

「ああ、終わり…………。」

 

 

俺はそう言おうとした。言おうとして辞めた。

魔物が現れたのだ。ただ、その魔物は雑兵級ではなかった。

 

何でそれが分かったかというと顔だ。

その顔に俺は見覚えがあった。

 

この前まで一緒に何気ない会話を楽しんで、戦いのときは背中を任せたパーティーメンバー、棚加君の顔だった。

 

 




おまけ

棚加からノートを借りた二人は唸っていた。
何故唸っていたかと言うと…………

音長・毒ノ森「「どうやって、燃やそうか……」」

どのような手段で燃やすかについてであった。
二人としてはゴミ箱にボッシュートしてやっても良いとまで思っているが、出来ればもっと悔いる方法が良い。

というか、「タケノコフォレスト」と「コアラの行進」を返せ。

二人はお菓子を取られたことでとんだ鬼畜屑野郎に成り下がっていた。

器が小さい。非常に小さい。

そんな時、二人の耳にある話が入ってくる。

生徒A「そう言えばさ、雪白先生が屋上で一人バーベキューするらしいぜ?」

生徒B「へ~、そうなのか。くるみちゃん、ほんと自由人だよな」

生徒A「ま、くるみちゃんだからな~」

彼らは防人魔法学校の教師の話題で盛り上がっていた。

雪白狂実(ゆきしろ くるみ)
クリーム色の髪に黄金の瞳が印象的な少女のように小柄な女教師である。
うちの学校では主に生物の授業を受け持っているのだがそれよりも有名なのが彼女の自由すぎる行動である。

今回の件以外にも、訓練場に花壇を設置し、校庭の一部を畑に変えている。

また、人を殺していそうな教師ランキングでも学園長を抑え、一位に君臨している。

というのも、彼女が授業の初めに言う言葉がその印象を生徒たちに根付かせたのだ。

『えぇ、始めに言って置きますが、防人に人権はありませ~ん。でも~、皆さん悲観しないでください。それはつまり、憲法だろうが、法律だろうが、私たちを縛ることが出来なということです!
なので、防人はむかついたら人を斬り殺してもOKです。
先生も皆さんの行動にむかついたら斬り殺すのでよろしくお願いしますね!」

これが件の彼女の第一声である。
これを言われた生徒たちは皆一様に固まる。

ただ、その愛らしい容姿ゆえに、ぎりぎり、許されているかもしれなくもない。

とはいえ、今はそのことはあまり関係ないだろう。
重要なのは音長と棚加が顔を見合わせニヤリと笑ったことだろう。

音長「雪白先生の所に行って炭と一緒に燃やしてもらうか」

毒ノ森「そうだね。棚加君のノートもきっと成仏してくれるだろう」

二人はそんな訳の分からない理論を並べ立て雪白狂実の下に向かった。

音長「せんせ~い。炭と一緒にこれも燃やしてもらって良いですか?」

雪白「ん~? 学生さんですか~。せんせ~今忙しいので後にしてください」

雪白狂実は缶ビールの蓋を開けながら、そう宣う。

因みに、既に網の上には肉と野菜が並べられ焼き始めていた。

毒ノ森「そこを何とかお願いできますか?」

毒ノ森の真摯な訴えに雪白狂実はめんどくさそうに音長達が持っているものに目を向ける。
そして、目を丸くする。

雪白「…それ~、ノートじゃないですか~。燃やしちゃ駄目ですよ~。」

バタン

屋上の扉が開く音がする。

棚加「お~い、くるみちゃ~ん。俺にも肉食わせて~。って音長と棚加も肉貰いに来たのか?」

音長「いや?これを燃やしてもらえないか、頼みに来た」

音長は手に棚加から借りたノートを持ちながらそう告げる。そして毒ノ森もその発言に同意する。

因みに二人は一切悪びれていなかった。
これを器が小さいで済ませていいものか…………。

棚加「って、おい。お前らなに人から借りたもの燃やそうとしてんだよッ!!てめぇらほんとに人間か⁉ほんとは魔物なんじゃねぇの⁉」

毒ノ森「いや、ノートを借りたと思ったら、どうやらゴミを渡されたみたいだったから…………。代わりに燃やしてあげようかなって?」

棚加「いや、ゴミじゃねぇよ!ちゃんと書いてんだろ、ほら!」

そう言い、棚加はノートを開く。
話の行く末を見守っていた、雪白狂実は缶ビールをクシャリと潰す。

音長・毒ノ森・棚加「「「え?」」」

雪白「おい、てめぇら、何だこのノート?」

音長「い、いや、ノート書いたのは俺らじゃ…………。」

雪白「かんけぇねぇよ。なんせ、話聞く限り、てめぇらも同じ穴の狢だろ?いや、それ以下か?」

棚加「く、くるみちゃん?俺、被害者、だよね?」

雪白「うるせぇ!!教師が毎日どんな思いで授業考えてると思ってやがる!てめぇら全員血祭りだ!!」

音長・毒ノ森・棚加「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」」」

この日、三人の生徒が全身複雑骨折で保健室に運ばれることになった。

因みに余談ではあるが、雪白狂実は元護懐である。

称号は「不滅」

「その者、何人も殺すこと叶わず」

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