自分の書いたゲーム転生小説の主人公に成り代わってしまった主人公の話   作:ぱgood(パグ最かわ)

14 / 32
見つけ次第、地の底まで追っかけて○す
プロロー……………どっちかと言うとエピローグ?


☆☆☆

 

俺達は今、一年の間だけ月に一度、無料で利用できるレストランの中にいる。

 

ミーティング、とかではない。

 

祝勝会でもない。

 

では、何をやっているのか、と言うと

 

「皆さん、今日までありがとうございます。」

 

癒羽希さんは瞳を潤ませながら、頭を下げる。

 

そう、送別会だ。

 

癒羽希さんは今日を以て毒ノ森班を抜けることになった。

 

事の顛末を語るには既に一週間前の出来事となる癒羽希さんが単身でダンジョンに突入した日、その後何があったかを語らなければならない。

 

とは言っても、俺も他の人から聞いた話だから、詳しいことは言えない。

 

けど、話によると癒羽希さんはダンジョン前まで来ていた教師や防人の人にこっぴどく怒られたらしい。

 

 

 

……予想は出来ていた。

教師の人に癒羽希さんがダンジョンに入っていないか確認をとって貰ったの俺だし。

 

だからこそ、敢えて時間を空けて一人でダンジョンを抜け出したんだしな。

 

俺のことは良い。ダンジョンに入ったことはばれていないし、何食わぬ顔で寮に帰ったので、特段語ることもない。

 

話は戻して、癒羽希さんに関してだけど、その後、一人でダンジョンから帰還する腕前を買われ、特別防人に、そして、一人でダンジョンに潜った責任を取らされ、毒ノ森班から真道班へ異動となった。

 

 

……まあ、ただの口実だ。

 

実際のところは剣凪さんや穿間さんが真道君たちと共にウェアウルフを討伐したことで特別防人に任命されたため、上層部が若い世代の台頭を感じ、戦巫女の孫である彼女も特別防人にした、といった所だろう。

 

期待を掛けられているってことだな。

それと同時に真道君のパーティーに攻撃魔法士、防御魔法士、魔剣士が既にいるから、回復魔法士も欲しいという考えもあったのだろう。

 

 

 

ズズズと鼻をすする音が聞える。

 

「……寂しく、なるわね。でも、貴方と一緒にパーティーを組めて本当に良かった。特別防人になったけど、無理だけはしないでね?」

 

未裏さんは涙と鼻水を必死に堪えながら、癒羽希さんに話しかけている。

別に今生の別れってわけでも…………いや、特別防人は今まで以上に危険も増えるだろうし、今生の別れかもな。

 

何より、授業とかも特別なものに置き換わるから、教室とか訪ねても会えないかもしれないしね。

 

あっ、毒ノ森君が未裏さんにティッシュを渡した。

 

あれが、デキル男って奴か。

 

そして、未裏さんにティッシュを渡した毒ノ森君は未裏さんに向き直る。

未裏さんのように泣いてはいないが、どこか寂しそうな顔だ。

 

「割と未裏さんと被る内容になっちゃうんだけど、君と一緒に戦えてよかった。君なら真道君たちと共にもっともっと輝ける。

……でも無理だけはしないで欲しい。

僕らは君が戦果を挙げるより、君が無事でいてくれる方がよっぽど嬉しいから」

「未裏さん、毒ノ森君……………………ありがとうございます。毒ノ森班の名に傷をつけないように精一杯頑張ってきます!」

 

二人は強く強く、頷く。

 

「うん、何があろうと君が毒ノ森班ってことは変わらない………。

ただ、君が気にするほど僕らの名前は大きなものでもないよ?だから、僕らの名前に、いや君自身の責任感に潰されないようにね?」

 

毒ノ森君はそう言って穏やかに笑った。

その笑顔にはやはり、寂しさが宿っていたが、それと同時にどこか誇らしげでもあった。

 

うん、とてもいい話だと思うんだけど………こっち向くのは止めないか?

 

癒羽希さん。

 

毒ノ森君、未裏さんも君らもつられてこっち向かないでよ。

 

「…………あ~、まあ、困ったことがあったら相談に乗るよ。それに俺の出来る範囲のことであれば、力も貸す。」

「……ふ~ん、貴方がそんなことを言うなんてね」

「別に頼まれたから、少しくらいは力になろうと思っただけさ。」

 

少し訝し気な表情を浮かべる未裏さんに対し、俺はそう告げる。

 

………あんな、約束を守れるとは思ってないけど、それでも少しくらいは力になってっもいいかなと思う程度には俺にも情はある。

 

「……約束、ですか?」

「………ああ、無責任クソ野郎とのね」

 

首を傾げる癒羽希さんい対し、俺は吐き捨てるように言った。お前のことだぞ棚加‼

 

本当に、本当に厄介な遺言を残してくれたものだ。

 

「……………音長君は何でそんな無責任な人との約束を守るんですか?」

「……それは。

 

 

 

 

…………………………………………多分だけど、カッコイイって思ったんだ。

確かに自分は約束をほっぽり出した癖に、俺には無理難題な約束を一方的に押し付けて来てクソ野郎だけど…………それでも、アイツは変わらなった。

どれだけ、絶望的でも、救いが無くても……………………確かに輝いて見えたんだ」

 

言って気づいたけど、すごい、すごい、こっ恥ずかしいこと言ってるな。

 

うん、今のなし、無しにしようか。

 

「って、言うのを昨日の内に考えていたんだ。

ほら、約束を守る男ってなんだかカッコいいだろ?

癒羽希さんに振り向いて欲しくてさ」

「…………ふふ、そうですか。一瞬本気にしちゃいました。

胸もドキってしちゃたんですよ?」

 

おい、なんだい、その意味深な笑顔は⁉

どっち、それ、どっちの笑顔?

 

魔性の女アピ?

 

それとも、私は分かってますよ、的な?

 

いやいやいや、そう言うのは良いからぁぁぁぁぁ‼

 

 

その後、送別会は恙なく終わった。

 

☆☆☆

 

送別会が終わり、寮に帰ろうとした時、未裏さんに呼び止められた。

 

「どうしたの?」

「い、いや、その、この前は言い過ぎたと思って…………その、ごめんなさい」

 

俺と未裏さんが最後にまともに会話をしたのは棚加君たちとパーティーに行き、棚加君たちが魔物に捕まった日のことだろう。

 

「……ああ、別に気にしてないよ。お互い、切羽詰まっていたいしね。冷静じゃなかっただけだ」

「……でも、あんたに当ったのは事実。

だから、謝らせて。

 

 

ごめんなさい。

 

………それと、今日であんたが私の思ってるような奴じゃないって分かった。」

「それは……どういう意味かな?」

「……………私はあんたが、他人に合わせて、自分の本心は言わない。私たちを………いえ、人を信頼しないし、他人を大切にしない奴だと思ってた。

…………………でも、今日のあんたの目には確かに誰かの期待に、約束に応えようとしてた。

……目に熱が宿ってた。

だから、ごめんなさい。」

 

彼女が何を言いたいのか、分からないし、分かりたくない。

だから、俺は曖昧に笑って返した。

 

まったく、皆、人のことを買いかぶりすぎた。

 

俺はそんな大それた人間じゃない。

 

もしほんとに君らの言うような人なら、あの場で直ぐさま撤退を選ばなかっただろう。

 

棚加君との約束を守るためにもっと躍起になっていただろう。

 

俺はそんな風にはなれない。直ぐに自分の命のことを考えてしまう。

 

直ぐに他人の命に見切りをつけてしまう。

 

棚加君や癒羽希さんみたいに自分の命を捨てて他人を守る献身なんて持ち合わせていない。

 

俺は只の臆病者だ。

 

彼らのような精神から滲み出る英雄性なんて持ち合わせてないんだ。

 

ただ、彼らの光に照らされて、その光に飛びついているだけ。

 

……………………だから、どうか買いかぶらないでくれ。

 

☆☆☆

 

 

送別会の後、俺は自室に引きこもっていた

引きこもって何をしていたかと言うと……………………ベットに寝っ転がりながら、スマホをいじる、そんな風に過ごしていた。

特段何もやる気が起きない。

 

「はぁ」

 

魔剣師とか魔導師では無く、音長盆多として、勘違いをされてしまった。それが殊更に居心地が悪い。胃の辺りがむかむかして気持ちが悪い感じだ。

 

それと、何だか毒ノ森君と会うのも億劫になり、唯々、時間を浪費する。

 

普段なら見ない動画を再生してみたり、ニュースやゴシップ、SNSに目を通す。

適当にスクロールしているだけなのに不思議と飽きない。

 

どれもこれも新鮮な情報ばかりだからだろう。言ってしまえば情報のバイキングってやつだ。

 

俺はひたすら脳死でスクロールを続けていく。

 

いや、もう何分、こうしていただろうって思うくらい。

でも、画面がピタリと止まった。

 

俺の指が止まった訳じゃない。画面が一人でにピタリと止まったのだ。

 

バグだろうか、俺は首を傾げながら、再起動しようとスマホを弄る。

 

しかし、再起動できない。

 

あれ?再起動も出来なくなった。

 

俺は頭にクエスチョンマークを浮かべる。なに、これ。

 

そして、次の瞬間、画面が砂あらしのように荒れる。

えっ、えっ?

 

ベットから起き上がる。そして駆け出す。

 

ある場所に向かうために………。

 

 

「……いぃぃやぁぁァァァァァァァァァ、毒ノ森君助けてぇぇぇぇぇっ、スマホおかくなったぁぁぁぁぁァァァァァァァァ」

 

俺が毒ノ森君の部屋の前でそう叫ぶと、毒ノ森君が思いっきり、ドアを開ける。

 

いたっ!

 

ドアに顔ぶつけた。

 

「……びっくりしたぁ。えっと……、それでスマホだっけ?

実は俺のも変なんだよね。

砂嵐みたいになって使えなくなった」

 

 

なんてことだ。毒ノ森君も同じ状況になっていたなんて。

俺と毒ノ森君が話していると、さっきの俺の声に反応して、自室から出て来た男子生徒が話に入ってくる。

 

「……………お前らも、なのか?

俺も何だよ。

 

……あと、音長、お前声でけぇよ。

普通に迷惑だわ」

 

まさか、よく分からん、男子生徒まで被害に遭っているなんて………。

 

その後、談話室に集まったところ、他の生徒のスマホも同じ状況になっているらしい。

因みにテレビも駄目だった。

砂嵐が起こって見れない。

 

生徒の一人が言っていたんだけど、凶悪なクラッカー集団が攻撃を仕掛けてきているのかもしれないんだって。

 

ふ~ん。

 

これ、今こそ、雪白先生の教えを実行する時だよね?

 

見つけ出して、原型をとどめないレベルで細切れにしなくちゃ。

 

そんで、被害者の人たちで、チーズとかハムとか、ミントを挟んでパーティーだ!

 

って、それは別のクラッカーか。

まあ、いいや、とりあえず、どうやって見つけるかだよね。

 

☆☆☆

 

部屋を灯すシャンデリア、新雪のように柔らかい絨毯。

いくらするか分からない壺や絵画が飾られている部屋で四人の男女が円卓を囲んでいた。

 

「……それでは、一人、欠席者が出てしまいましたが、会議を始めましょう」

 

モノクルを掛けた金髪の女はそう言うと書類を全員に配っていく。

 

それを一人はじっくりと読み込み。

一人はパラパラと概要だけ頭に入れていく。

そして、最後の一人は欠伸をし、椅子に寄りかかると目を瞑る。

 

「…【不滅】、折角用意しているのですから、少しは見てくれませんか?」

「あっ?だりぃよ。俺の役目は敵を殺す事だろ?こんな紙切れ読むことじゃねんだよ。

そう言うちまちました仕事はてめぇらの役目だろ?」

 

【不滅】と呼ばれた男はそう言いながらニヤリと笑う。

女はそれに対し、分かりやすく舌打ちをする。

 

ただ、不快に思ったのはどうやら彼女だけではなかったようだ。

 

「……ふっ。先代の【不滅】が戦えなくなって、仕方なく代替わりをした若造が随分と偉そうだな?」

「んだとッ【解毒】‼

状態異常の回復しか能のねぇてめぇが俺に反論してんじゃねぇッ‼」

 

【不滅】と呼ばれた男は頑丈そうな円卓を素手で叩き割り、威嚇する。

 

しかし、【解毒】はその男の行動を鼻で笑う。

 

「おいおい、癇癪を起すなよ?

大人だろう?

 

それにさっきの話も事実じゃないか、【無二】には勝てずじまいで【虚心】に関してもこの前の模擬戦じゃあ負けそうになっていたしなぁ?

……あれ、【真理】が止めてくれてなかったら、負けてたんじゃないか?

なあ、【虚心】からも言ってやれ」

 

その言葉に一人縮こまり、じっと資料を読み込んでいた中性的な少年はびくりと震える。そして、肉食動物を前にした小動物のようにびくびくとした様子で顔を上げる。

 

「え、えっと、ぼ、ぼ、ぼ、ボクは皆さんと仲良くできたらなぁって、お、お、おおおお思います。はい!」

 

その様子はお世辞にも強者には見えなかった。教室の隅っこで静かに本を読んでいそう。

そんな印象を抱かせる。

 

彼らのやり取りを見ていた、【真理】と呼ばれた女は見かねて手をパンっと叩き、場を支配する。

【真理】は自分に他の面々の意識が向いたのを理解すると今回渡した資料の内容………つまり会議の本題に入る。

 

「…では、今回の会議の本題に入るわ。

今回は政府から依頼された今起こっているクラッキング事件に関して説明していくわよ」

「………はぁ⁉んなもん俺らの仕事じゃねぇだろ?他の組織にやらせとけよ‼」

 

【不滅】は今回の会議の内容に噛みついて来る。そこには【解毒】に痛い所を突かれた八つ当たりも若干ながら入っていた。

しかし、敢えてその点には触れず、【真理】は冷静に現状を説明する。

 

「貴方の言う他の組織が、お手上げ状態だから、私たちにお鉢が回ってきたのよ。」

「成程な……………しかし、クラッキング……………人でありながら、人の世に仇なすか、本当に魔物みたいな奴らだな」

「【解毒】貴方の言いたいことは痛い程分かるけれど、どうやら今回は当たりみたい」

 

その場にいた男三人衆は同時に首を傾げる。

当たり、とは?

しかし、暫く頭を傾げていた【虚心】は何か考えついたのか、弾かれたように手を挙げながら立った。

 

「わ、わ、わ、分かりました‼。つ、つ、つ、つまり、人間のような魔物でも、ま、ま、魔物のような人間でも、どっちも殺せってことですね‼」

「……………………ええ、そうよ」

 

「なんだ、簡単じゃねぇか」

「ふむ、どうやら今回の仕事も楽そうだ」

 

余りにもキラキラした目で発言する【虚心】。

そして、残り二人の男どももそれで納得したため、【真理】は説明することを放棄した。

 

(………実際、黒幕を殺すことには変わりないし……………………良いわよね。

というか、問題は【無二】の方よ⁉一応場所には検討は付いているし、一応部下に情報を持たせて向かわせたけど……………………こんな状況だし、いつあの子に情報が伝わるかしら?)

 

その場にとても緩い空気が流れる。

若干お馬鹿な男衆、額に手を当てる女性。

まるで、大学のサークルのような緩さだが、それでも彼らは紛れもない強者だった。

あらゆる局面に対応できる国が抱える最終兵器、五本の指に入る防人の最高峰。

 

その名は護懐。

彼らにはそれぞれ別々の称号と役割が設けられている。

 

【不滅】

その者、何人も殺すこと叶わず

 

【真理】

その目、何人も欺くこと叶わず

 

【解毒】

その体、何人も侵すこと叶わず

 

【虚心】

その心、何人も揺るがすこと叶わず

 

 

 

 

そして、

 

長髪を靡かせた女は防人魔法学校の屋上でグッと伸びをする。

 

そして、大きく息を吸った。

 

「いやぁ、久しぶりの母校。今はくるみんと、何より、先輩の息子さんがいるんだよね‼

楽しみだなぁ‼

 

……………………でも、うちの学校の屋上ってこんなにお洒落だったっけ?」

 

女は無断で侵入した学園の屋上で首を傾げる。

 

 

 

 

 

【無二】

 

その技、何人も模倣(まね)すること叶わず

 




おまけ

音長と毒ノ森は談話室でお菓子を食べながら、今日のことを振り返っていた。

音長「まさか、スマホもテレビも使えなくなるなんてね」

毒ノ森「うん、こんなことになるなんてね」

二人はそれだけ言うと暫くの間、沈黙する。
毎日のようにあっている分、話すことも限られてくるのだ。
それでも、その沈黙は二人にとっては特段不愉快ではなかった。

むしろ、日常の一部に近い。何故なら、毎日会っているため話すことが少ないから。

ただ、この日、毒ノ森は何気なく、音長に話題を振った。

毒ノ森「そう言えば、音長君が昼に言っていた約束の相手って、俺も知っている人?」

音長君「…………言えないし、言いたくない」

毒ノ森「……………そっか。」

音長君「……………………うん」

毒ノ森「……タケノコフォレスト、いる?」

毒ノ森は自分が食べていたお菓子、タケノコフォレストを差し出す。

音長君「…え?いや、コアラの行進食べてるし、別にいらないんだけど…………」

しかし、音長もまた、コアラの行進を開けて食べていた。

毒ノ森「……はっ?戦う?」

音長「いやいやいや、なんでコアラの行進とタケノコフォレストが戦うのさ‼
君らが毎日戦ってるのはキノコシティーボーイでしょ‼」

毒ノ森「いや、関係ないが?シティーボーイだろうがプレイボーイだろうが、コアラだろうが、俺らはタケノコが一番であると世界が認めるけど、この歩み(覇道)を止める気はないが?」

その後、どっちが美味しいか討論がなされたが、生憎、決着に関しては音長と毒ノ森しか知らない。


作者の一言

それは過激すぎるよ、毒ノ森。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。