自分の書いたゲーム転生小説の主人公に成り代わってしまった主人公の話 作:ぱgood(パグ最かわ)
18話におまけを追加しました。
幕間 前編
勇利は信濃を連れて防人本部に来ていた。
出来るのならファミレスで信濃と一緒に昼ご飯を食べたかったのだが、残念ながら急ぎの呼び出しだったため、結局代金だけ払い、ここに来る羽目になっていた。
一応、コンビニで軽食程度は買っているが、呼び出しの内容が内容だけに勇利の内心はかなり荒れていた。
勿論、子どものいる手前そんな様子を見せることは出来ないが…………。
「勇利?一体本部に何しに行くんだ?」
「ああ………。どうやら、お偉いさんが俺たちのことを待ってるみたいでな。」
「なんだ?任務か?」
「ああ、今度、心海市の奪還作戦があるから、そのための作戦会議に参加しろだとさ。」
「そうなのか⁉なら、私もレクイエムみたいに戦うぞ‼」
信濃は両手の拳をギュッと握り、やる気を示す。
しかし、それに対し、勇利はため息を吐き、信濃のやる気に水を差す。
「戦わせるわけねぇだろ?お前は俺と一緒に後方支援だ。」
「なんでだ!私は強いぞ!魔物なんて私にかかれば、ぎったんぎったんに出来るんだぞ!」
勇利の指示に信濃は噛みつく。
信濃には今まで様々なダンジョンと様々な魔物を倒して来た実績がある。
本人の中では不当な評価を受けていると感じても仕方がないのかもしれない。
それでも、勇利は頷くことはしない。
「ば~か、そういうのは俺に勝てるようになってからいえ、後、大規模作戦は集団行動が基本だ。お前みたいなじゃじゃ馬がいれば、隊が壊滅し兼ねない。
大規模作戦に参加したかったら、学校を出て集団行動を身につけてからにしろ」
「~‼勇利の馬鹿、あほ、頑固者‼」
「はいはい、分かった、分かった」
勇利はなけなしの罵倒を浴びせてくる信濃を適当に流しながら歩く。
この時、勇利は初めて成長限界に達している己の体に感謝をした。
仮にまだ勇利に戦う余地があったのなら、信濃を連れて戦場に出なくては行けなかっただろう。
何故なら、勇利の実力はこの国の五本指に入るほどであり、攻略の要と言えるものであるからだ。
(…………まったくこの体に感謝するとはな)
勇利は内心で苦笑する。
しかし、その様子に気づいていない信濃は見るからに怒っていますというように頬を膨らませながら、手を大きく振り、大股で歩いていってしまう。
「おいおい、ちょっとは待ってくれよ。」
「ふん!勇利のことなんてしらないからな!」
一人で歩いて行ってしまう信濃の背を勇利は少し早歩きで追いかける。
遠くない未来でこんな風に実力すらも追い越していくであろう少女の可能性を予感しながら、そして、防人の中心人物として他の防人の道を切り開く存在になることを確信しながら。
「もっと、スピードを上げるぞ!ついてこい勇利」
「ああ、了解だ。」
☆☆☆
防人本部、大会議室。
大きさに関しては学校などにある体育館と同等かそれよりも広いくらいの大きさであり、内部は大学の講義室のようになっている。
そこに、ぎっちりと入っている防人たち。
一応、護懐の一人と言うことで、勇利たちには前方指定の席が用意されていた。
現在時刻は昼の十六時二十九分。
しかし、直ぐに、時計の針は三十分を指し示した。
それと同時に、演台の前にスーツを着た恰幅のいい男が立つ。
男は辺りを見渡し、招集した防人の大多数が来ていることを確認するとマイクのスイッチを入れる。
「急ぎの呼び出しによくぞ応じていくれた国を守る防人の諸君。
今日君たちを呼び出したのは他でもない、豊富な海産物の産地でもあり、観光名所としても有名であった心海市の奪還の目処が立ったためだ。
勿論、目処が立ったとはいえ急な招集をかけてしまったことには私を含めた防人本部の者たちも胸を痛めている。
中には非番の者もいただろう。本当にすまなかった。
しかし、心海市に住んでいる者たちは故郷を奪われた日から今この瞬間も片時も忘れることのできない痛みを抱えながら日々を過ごしている。
ならば、国の守護者たる防人は今こそ立ち上がらなければならない‼
皆の者 拳を掲げろ!胸に愛国の火を灯せ!君たちこそ国を照らす日輪だ!」
それだけ言うと恰幅のいい男は壇上を折りていく。
そして、入れ替わるようにスーツを着て、眼鏡を付けた細身の男が壇上に登る。
「では、皆さんの士気が上がっているだろうこのタイミングで作戦会議に移ります。
心海市の面積は682㎢、占拠している魔物は天使型、徒大将級数は魔力感知で五体確認、徒組頭級は魔力感知で八体、足軽大将級は魔力感知で四十五体、足軽組頭級は魔力感知で八十体、足軽級は魔力感知で五百体、雑兵級二万体。
まず、【無二】を筆頭に裏魔班、香取班、千馬班、国来班、古島班には心海市全域にわたる結界の要になってもらいます。あなた達の他に二百名程、手の空いている防御魔法士に声をかけているのでご安心を。
当然、出来ますね?」
その言葉に勇利は強く頷く。
自分一人ではどうやっても三分の一を覆うのが限界ではあるが、この面子なら出来ないことはないと感じていたからだ。
また、細身の男は出来ないことは言わないという信頼も誠に遺憾ながらも多分に含まれていた。
その後の会議にて、内部に潜入する班を決めていく。
一つの隊の合計はおおよそ十五人まで、街の多方面から攻める作戦となる。
と言うよりも、一昔前ならいざ知れず、殆どの街が奪還された現在は攻めるよりも守ることに重きを置いており、行動を起こすまでに時間のかかる組織だった動きよりも少数で素早く動き鎮圧出来る小数編成での部隊が主流となっているため、即席で大隊を作るよりも小隊程度の人数に抑えた方が前線で戦う防人たちが動きやすいのだ。
こうして様々なことが決まっていき、作戦会議は終了する。
作戦開始は今から十六時間後。
☆☆☆
防人本部にて信濃と別れた勇利は一度家に帰り、自分の息子の才に会いに行っていた。
「よっ、只今、いい子にしてたか?」
「父さん、遅いよ!俺もう寝ようとしてたんだよ!」
「わりわり、仕事が長引いてな。」
「…そうなの?今日も魔物倒したの?」
「ええと、これから魔物を倒すお手伝いに行くんだ。だから、先に寝ててくれ。」
「えっ!今帰ってきたところでしょ!」
「そうなんだけどな。どうしても外せないんだ。悪いな」
そう言っても子供である才は不満そうな表情を隠そうとはしない。
勇利はそれを見て仕方なさそうに優しく笑う。
そして、頭をその大きな右手でごしごしと撫でる。
少しでも自分の愛情を伝えるために。
「悪いな、今度時間を作るからどこか遊びに行こう。」
勇利は振り返ることなく、玄関の扉を開けた。
☆☆☆
護懐である勇利のためだけに用意された装甲車の中で勇利と信濃は仮眠を取る。
装甲車はキャンピングカーに匹敵する広さを保有しており、二つの簡易ベットが用意されていた。
とはいえ、同じ車両内にいるため、信濃の寝息が聞こえてくる。
勇利は信濃がしっかりと眠れていることに頬を緩めるが、それと同時に家に置いてきた才に思いを馳せる。
一応、義母と義父に連絡を付け、才の様子を見に行ってくれるように頼んではいるが、流石に高齢である義理の両親にばかり迷惑をかけてはいられない。
これを機にこの仕事から足を洗うべきなのかもしれない、という気持ちが勇利の中に湧いて来る。
というのも、いざと言う時には逃げることしかできず、死ぬリスクも高い仕事を続けた結果、才を一人にしてしまうのではないかと不安なのだ。
しかし、それと同時に信濃を一人には出来ないと考える自分も勇利の中には存在していた。信濃に伝えることは出来ていないが、勇利の中では既に信濃はもう一人の娘と呼んでも差し支え無い程、大きな存在になっているのだ。
今更、この子を一人にはさせられないと考えてもいた。
「……これから、どうするのかも考えて行かないとだよな…………。」
勇利はゆっくりと目を瞑る。
明日は作戦当日なのだ、少しでも英気を養わなければ。
この時の勇利は気づくことは無かった。
眠っていた信濃が目を覚まし、勇利の独り言を聞いていたことを。
☆☆☆
昨日作戦本部に集められた防人たちが作戦通り所定の位置について行く。
テントは張られ、勇利も何時でも結界を張れるようにしている。
後は号令を待つだけだ。
そして、その号令も
『【無二】結界を張れ‼』
今、まさに来た。
「≪ポイントバリア≫」
勇利はその言葉と共に魔剣を地面に刺す。
すると、魔剣から光の柱が斜めに伸びていく。
他の地点でも同様の光が空から伸びてきて、上空で光の柱同士がぶつかり、光は線から面へと変わっていく。
これが多人数における防御魔法≪ポイントバリア≫の効果である。
必ず複数人が必要になる代わりにこういった広域にわたる防御が可能になる魔法であり、まだ魔物が世界中を自由に闊歩出来ていた時代は街を≪ポイントバリア≫で守っていたのだ。
勇利たちが防御魔法を展開すると同時に、結界内部へと防人たちが入っていく。
≪ポイントバリア≫の基本性能は≪ジェネリックシールド≫とほぼ同じため、このように味方は外部と内部を自由に行きすることが出来る。
結界の中に入っていく防人たちを眺めながら勇利は戦いの生末を祈る。
もう彼には戦う力はないため、こうして祈る事しか出来ない。
とはいえ、勇利以外の防人たちも護懐には劣るものの精鋭ぞろいだ。
心海市内にいた徒大将級を一つの部隊が危なげなく討伐してみせる。
また、別の場所では徒組頭級の魔物二体を相手に別の部隊が危なげなく討伐する。
長年占拠されていたため強力な魔物もかなりの数目撃されているが、彼らは襲い来る魔物たちを危なげなく討伐していた。
また、消耗した場合は一度結界の外で回復魔法士が詰めている後方基地に戻り、休息を取る。その間は待機していた他の部隊が入れ替わるように中に入り、魔物を倒す。
そのサイクルによってこちらの疲弊を最小限にし、向こうの消耗を強いていたのだ。
結界も同様で、勇利を含めた防御魔法士もローテーションで休みを取り、消耗を最小限にする。
長期戦により、確実にそして最小限の損耗で勝利しようとしていた。
この数十年で魔物と人間の地力は逆転していた。
決して難しいことでは無かった。
食料も人口も、教育を行う下地も資材も加工する施設も全てを整えていたのだ。
二度と生活圏を奪われぬように一時も怠ることなく力をつけるための努力を続けてきた。
故にこの結末は必然だった。
「なんだ、私の出る幕は無かったな」
「当り前だ、馬鹿。子供が戦場に出ようとするな」
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは!馬鹿と言った方が馬鹿なんだぞ!」
信濃は予想以上に順調に進む心海市奪還作戦に緊張がほぐれ、勇利に噛みつく元気すら出てきていた。
勇利は未だに完全に安心はしていなかったが、それでも自分の出る幕はないと多少の安堵を抱いていた。
☆☆☆
内部にて魔物を討伐する任に就き、一小隊の体調を任された
「右から足軽大将級二、足軽組頭級三。そっちは?」
「左は……ゲッ‼徒大将級一体、徒組頭級一体!」
「あ~、上から雑兵級二十、こっちを狙ってま~す。たいちょ」
「了解。炎堂班は足軽級を一掃しろ‼水島班は右から来る足軽大将級と足軽組頭!その間、徒大将級と徒組頭は俺のパーティーで引き受ける。後その取ってつけたような隊長呼び辞めろ!」
十五名による小隊、実際の所は三パーティーで一部隊を作っているため、指示を最低限にし、出来るだけ各パーティーの連携を活かせるように心がけていた。
とはいえ、徒大将級や徒組頭を相手にする場合はその限りではなく、一小隊で確実に撃破する。
風刃はこの隊で最も実力が高いパーティーを率いているため、他のパーティーが雑魚を倒すまでの時間をパーティーの仲間たちとと共に稼いているのだ。
そのため、基本的に徒大将級と徒組頭相手には防御を優先し、行動する。
「「≪ハードソリッド≫」」
「≪ジェネリックシールド≫」
「≪オートヒール≫」
「≪サンダースネーク≫」
前衛の魔剣士である風刃達は≪ハードソリッド≫で防御力を上げ、防御魔法士は≪ジェネリックシールド≫で自分達パーティーを覆う様にドーム状に結界を張る。
回復魔法士はドーム内に入って来た魔剣士たちに通常の回復魔法と自動回復の魔法をかけ継戦能力を引き上げ、攻撃魔法士が拘束魔法の≪サンダースネーク≫で相手の動きを阻害し、機動力を奪う。
これにより、風刃達は危なくなったら、安全圏である≪ジェネリックシールド≫の内部に隠れ、回復魔法士により傷が癒えしだい攻撃を再開するという流れが出来上がる。
しかも、攻撃魔法士も≪プロミネンスレイ≫や≪ドラゴンボルト≫などの攻撃を繰り出し、明確にダメージを与えることで相手の気を引いていく。
その上で回復魔法士は回復を終えた風刃達に≪フィジカルオーガ≫の完全上位魔法として有名な≪リトルタイタン≫の魔法支援や反射神経と速度を引き上げる≪クイックミゼット≫を使うことでより戦況を優位に運んでいく。
徒大将級の魔物は≪ショットレイ≫を使い、文字通り、雨のように光線を打ち込んでくるが、それを防御魔法士と回復魔法士が遠隔から≪マジックシールドを使い威力を軽減する。
それにより、多少ダメージは受けつつも、≪ハードソリッド≫による防御力集中超極上昇、≪リトルタイタン≫による全能力超高上昇、≪クイックミゼット≫による反射神経と速度の集中極度上昇、≪オートヒール≫による自然治癒力上昇により、風刃は継戦可能なレベルの手傷を負いながらも≪ジェネリックシールド≫の中に戻り、回復魔法士の手により傷を癒すことが出来ていた。
また、それを見ていた徒組頭級は近くにある建物を砕き、瓦礫になった建物を魔法で持ち上げる。
魔法は≪マジックシールド≫で防げるが、魔力で構築されていない者は防げないという≪マジックシールド≫の逆転を突いた戦法だ。
それを見ていた、徒大将級も同様に両手に瓦礫を握る。
徒大将級は未だリキャストタイムが過ぎていないので魔法が使えないのだろう。
風刃達はこちらの対策をしてきた相手に怯むことなく、魔物の前に立つ。
「
そして、回復魔法士と攻撃魔法士、防御魔法士の名前を呼ぶ。
三人はコクリと頷き、魔法を発動する。
風奈と呼ばれた回復魔法士の女性は衝撃を減らす≪インビジブルクッション≫を鳴と呼ばれた青年は≪フリーダムタイフーン≫と呼ばれる攻撃魔法を、そして防御魔法士の青年は回復魔法士の女性の魔法に近い効果を持ちながらもより攻撃的な≪クッションカウンター≫を使用する。
≪クッションカウンター≫は衝撃を減らすのではなく、弾性により跳ね返す魔法だ。
初めに≪インビジブルクッション≫で飛んでくる瓦礫の威力を減らし、それを≪フリーダムタイフーン≫の風で更に威力を減らす。
そして、≪クッションカウンター≫で跳ね返す。
ことは無かった。
そも、その必要が無かった。
何故なら初めから相手の攻撃を受けきる気は無かったのだ。
攻撃魔法士の鳴の放った魔法である≪フリーダムタイフーン≫の目的は敵の瓦礫の威力を減らすだけではなく、風刃ともう一人の魔剣士である雷丸を空へと打ち上げる目的があった。
面での防御では限界が来るため、敢えて立体的な起動を取れるような状況を作る。
宙に浮いた二人は≪クッションカウンター≫と瓦礫を足場にし、器用に敵の攻撃を避けていた。
そして、二人は二体の魔物の頭上を取った。
「行くぞ、
「おうよ」
「「≪ヘビーメテオ≫」」
これは防御力と重量を引き上げる魔法であり、その特性上あまり人気は無いが、こういった頭上からの奇襲においてはこれ以上に適した魔法はない。
文字通り隕石の如く飛んで来た二人を咄嗟に二体の魔物は受け止めた。
ズシンという音が辺りに響くが、何とか二体の魔物はその攻撃を耐えた。
しかも、徒大将級の魔物はリキャストタイムが終わり、衝撃波を放つ魔法により二人を吹き飛ばす。
しかし、忘れてはいけない。そもそも、彼らが只の時間稼ぎと言うことに。
「お待たせしました。≪ライトニングワイバーン≫」
「私がMVP‼≪フリーズフロスト≫」
「≪ムーブアーマー≫、無いよりましでしょ?」
「≪マッスルメタル≫!お前たちの筋肉の可能性を見せてみろ」
「≪ワイズマジック≫!これで魔法の威力が上がります。」
「≪マナヒール≫、ま、魔力も回復しておいた方が良いでしょ?」
「俺達も前衛を張る。」
「了解」
「りょ」
「わかった」
続々と小隊の仲間たちがこの場所に集まってくる。
向こうの魔物を倒し終えたということだ。
これにより、戦況は逆転した。
六人の魔剣士によるかく乱と三人の攻撃魔法士による援護射撃、三人の攻撃魔法士による、弾幕のような魔法の連射、回復魔法士たちによる付与魔法と回復魔法、防御魔法士は一人が安全地帯を作り、二人が魔剣士たちを狙った敵の攻撃を遠隔で防ぐ。
完全に流れがこちらに来た瞬間だった。
負ける要素が微塵もない。
そして、その予想は外れることなく。
敵はそれ程時間を立たずに倒された。
「いやぁ、にしても徒大将級と徒組頭級も結構倒したし、奴さんも戦力切れじゃないか?」
魔剣士の内一人が、頭に手を組みながら、気楽気に言葉を紡ぐ。
実際に風刃達は既に徒大将級を三体、徒組頭級を三体倒しており、他の部隊が倒した徒大将級が二体、徒組頭級が五体とのことなので、この魔剣士の言うことは風刃としても概ね同意であった。
もしかしたら、魔力を隠し、潜伏している個体がいるかもしれないが、正直言ってその可能性は限りなく少ないだろう
何故なら、徒組頭や徒大将級の敵というのは早々出てくるものではなく、ダンジョンに一体から二体が平均であり、多くて四体といった所だ。
魔物たちがここに戦力を集中させていたとしてもそろそろ徒組頭や徒大将級の戦力はいないと考えても良いだろう。
仮に居ても一体程度と見るのが妥当だ。
ただ、一つ気になることがあるとすれば徒組頭や徒大将級の戦力をこれだけ投入しているのに対し、足軽大将や足軽級、雑兵級などの上澄み以外の魔物の投入数が非常に少ないに感じたことだ。
他の部隊が倒してくれているのだろうか?
風刃がそう考えていると、突如として地面が揺れる。
「全員警戒‼」
風刃の言葉に他の隊員たちは円を作りどこから敵が来てもいいように備える。
しかし、上空を含め、辺りを見渡しても敵影は見つけられない。
すると、水島班の防御魔法士が地面を指さす。
「下から来ます!」
その言葉と共に全員がその場を対比し、散らばる。
地下から出て来たのは徒大将級の魔物であった。
「ちっ!まだいやがったか!懲りない奴め!」
全員、すぐさま臨戦態勢を取る。
そして、相手の出方を伺う。
しかし、敵は中々動かない。
風刃の目にはそう見えた。
じっと、その場で風刃達を睨みつける。
何か策があるのか?風刃は訝しんだ。
訝しんだが、時すでに遅かった。
それに気付いたのは味方からの通信が着た後だった。
『敵が次々と自害している‼そちら何かわかるか⁉』
その言葉と共に目の前の徒大将級の魔物に瘴気が集まる。
集まっていき
「…か、観測魔力………侍大将級です。」
他の徒大将級、徒組頭級が居なくなったことで先ほどまで生きていた魔物の瘴気が全て一体の徒大将級の下に集まったのだ。
戦力の温存もこの為だったのだろう。
侍大将級の魔物は今まで好き放題されていたことの腹いせのようにその圧倒的な魔力を用いた≪プロミネンスレイ≫でもって結界を壊し、外に出る。
「全員気を引き締めろ、増援がくるまで時間を稼ぐぞ。」
☆☆☆
侍大将級が現れたという報告により、仮眠を取っていた勇利たちなどを含む休憩中の防人も叩き起こされ、心海市近くに作られた、領土奪還用戦略仮設基地ノアへと集められていた。
因みにノアとは変形機能と連結機能が搭載されたマルチ自動車であり、時に小型船や小型のジェット機、時に連結機能を使い、大型の船や空中要塞、今回のように地上の軍事拠点に姿を変える、箱舟という訳ではないもののその在り方はかのノアの箱舟と同じく人類の生存のために作り上げられた乗り物となっている。
「何かあったのか?」
勇利は首を傾げながら、この場に集められた全員の疑問を代表し、口にする。
「ああ、侍大将級が現れた、現在【虚心】が向かっている。君たちにはそれまでの時間稼ぎを頼みたい。」
眼鏡をかけた細身の男は防人たちを見渡しながらそう告げる。
それを聞いた防人たちは初めの内は動揺からざわついたが暫くすればお互い顔を見合わせながらも自分たちがやるしかないと覚悟を決めていく。
ここに集っているのが国の選んだ優秀な防人でなかったらこうはいかなかっただろう。
「すいません。俺達はどうすれば……………………。」
そんな中、防御魔法士たちは恐る恐る手を上げる。
それも仕方がないだろう。
彼らは街を覆う結界を張るために集められたが、現状それも意味をなさなくなってしまった。
「君たちは【無二】の指示に従って前線で戦う防人たちの援護をしてくれ」
勇利は面倒くさそうに頭を掻きながらこうなってしまったら仕方がないと腹を括る。
「んじゃ、よろしくな」
「勇利、私は?私はどうする?」
今まで勇利の背中で眠っていたと思われていた信濃が突如手を挙げる。
それに対し、勇利は信濃を優しく地面に下ろし、頭を撫でる。
そして、にっこりとほほ笑む。
「お前は待機な?」
「何でだー‼」
「子供は寝る時間だからだ。鋭理、頼んだ。」
「分かった。責任を持って預かろう。」
勇利は鋭理と呼ばれた眼鏡をかけた細身の男に信濃を預けると防御魔法士たちを引き連れ外に出る。
信濃は勇利を恨めし気に睨みつけていた。
そして、それを鋭理と呼ばれた男は冷たい目で見つめていた。
☆☆☆
目の前には大きさにして三十メートル、腕が六本、八対の翼を背から生やし、頭上と背中にそれぞれ大きさの違う光輪を持つ侍大将級の天使型の魔物がいた。
瘴気を纏ったその姿は傍目には堕天使のようにも映り、その人知を超えた姿に一般人では畏怖すら抱いたかもしれないが、勇利からすれば、そんなことよりも戦況の悪さにこそ目がいった。
そう侍大将級との戦いは端的に言ってしまえば非常に旗色が悪かった。
それは護懐の一人であり【無二】の称号を持つ勇利が加わっても変わらなかった。
「クッソ!すまん第一から第二の防御魔法士たちは味方の回復に専念してくれ!」
(
勇利は現在の戦況を冷静に分析する。
一応自分の≪ジェネリックシールド≫で安全地帯を作っており、更に防御魔法士たちと共に味方の支援や致命的なダメージを遠隔からの防御魔法で軽減している。
更に、前線で戦っている防人たちの仲間の回復魔法士や防御魔法士たちも勇利たちが防御魔法で安全地帯を作り、回復魔法や支援魔法などを積極的にかけているので、かなり動きやすそうにしている。
だが、それ込みでこちらが押されているのだ。
回復魔法も一撃で倒されてしまえば意味が無い。
支援魔法も敵の潜在能力の前では雀の涙に等しい。
防御に関しても威力の軽減が精々だ。
それも結局、無いよりもまし程度のものとなっていた。
勇利に関しても安全地帯を作りながらの遠隔での防御魔法では完全に防ぎきることは出来ない。
防人たちからは断末魔すら聞こえない。
何故ならたったの一撃、刹那の間に命を刈り取られるのだから。
「無、【無二】殿、前線で戦う防人たちは既に半数程となっています。て、撤退した方がよろしいのでは?」
防御魔法士の一人がそのような言葉を零す。
しかし、勇利には頷くことは出来なかった。
何故なら、このまま、撤退した場合、奴は野放しとなり、他の街に襲撃をかけるからだ。
そうすれば、何も知らない一般人が今以上の数が死ぬ。
それに、前線で戦う防人たち、そして、その仲間たちはまだ折れていない。
「いや、悪いがここで足止めする。ただ、帰る場所がある者は帰ってくれ。
ここからは俺が引き受ける。」
勇利がそう叫ぶと暫く防御魔法士たちは続々と撤退を始める。
前線で戦う防人たちの中にも旗色の悪さに撤退を選ぶ者が現れる。
それを横目に勇利は前に出る。
勿論、死ぬ気は毛頭ない。
(防御魔法と補助魔法だけで時間を稼ぐ!)
勇利はそう思い≪ジェネリックシールド≫を時前に出て、≪ジェネリックシールド≫を球体上に展開し、そのまま体当たりをする。
それにより、魔物は態勢を崩す。
だが、魔物はそれを気にした様子はない。
直ぐに、魔法の光線を放つ。
ただし、狙いは勇利ではなく。
撤退を選んだ防人たちであった。
「なに⁉」
勇利はそれに動揺する。
一体何人の防人が生き残れたのかと。
ただ、敵はそんな勇利の心境になど配慮はしてくれない。動揺して動きを止めた勇利を≪ジェネリックシールド≫ごと掴みソフトボールのように投げ飛ばす。
それにより、軽く、一キロは飛ばされる。
しかし、勇利も動揺を振り払い、≪ジェネリックシールド≫を空中で固定することでその場にとどまる。
「クッソ、やられた。」
そして≪ジェネリックシールド≫を足場に再度、敵の下に向かう。
今の所は誰もやられていない。
敵の下についた勇利は味方が未だ生存していることに安堵する。
だが、それは敵の悪辣な策略の上でのものだった。
勇利が味方を目視できる距離に入ったと分かるや否や敵は≪ヘブンピラー≫と呼ばれる魔法を発動した。
この魔法の効果は純粋に天までのぼる高熱の光の柱を生み出す魔法だ。
その魔法は魔物自信を中心に半径300㎞、つまりこの街全土を対象にしていた。
完全に結界に閉じ込められていたことの腹いせだろう。
せめて、目の前の味方だけでも守りたい。
焦った頭で勇利はそう考えたが、遠隔防御が届かない。
いや、敢えて届かない距離を見定めて発動したのだろう。
勇利自身の力不足により目の前で仲間の命を取りこぼすのを見せつけるために。
「や、やめ………」
その言葉を紡ごうとした所で、光はふっと止んだ。
そして、次の瞬間には天使の体に深々と袈裟斬りに傷がつく。
「待たせたな。真打の登場だ。」
女性でもなかなか見ない高音の持ち主は余裕たっぷりにそう告げる。
その声は勇利には非常に聞き覚えのあるものだった。
「信濃⁉なんでここに‼」