戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第98話

キャロルを追跡するため小型潜水艦に乗り込んだクリス、調、切歌の三人は、深淵の竜宮のドッグに到着した。

 

「ここが深淵の竜宮?」

 

「だだっ広いデス!」

 

「ピクニックじゃねえんだ、行くぞ!」

 

「はいデス!」

 

潜水艦から降りた三人は、クリスを先頭に施設を進んでいく。そんな三人をサポートするため、S.O.N.G.本部では大人達が忙しなく情報を纏めていた。

 

「施設構造データ、取得しました」

 

「侵入者の捜索急げ!」

 

「キャロルの目的は、世界の破壊。ここに収められた聖遺物、もしくはそれに類する危険物を手に入れようとしているに違いありません」

 

エルフナインの言葉に、弦十郎が頷く。キャロルの目的を特定し、対策を立てるべく大人達は膨大な量の情報を精査していった。

 

 

 

 

 

風鳴八紘邸の一つの部屋で、敷かれた布団の上で眠っていた翼がゆっくりと目を開き、自身の現状を確認していた。

 

「はぁ…そうか…私は、ファラと戦って…」

 

「おはよう、翼。気分はどうだ?」

 

目覚めた翼の顔を、奏が覗き込んでそう声を掛けた。どうやら翼が目を覚ますまで、奏はずっと翼の傍に居たらしい。

 

「奏…うん、大丈夫…」

 

「全然そうは見えないんだよなぁ…」

 

暗い顔で覇気のない返事をする翼に、奏が苦笑しながらそう言うと、翼が俯いたままポツリと呟いた。

 

「身に余る夢を捨てて尚…」

 

「コラコラ、勝手に捨てられたら困るぞ?」

 

「っ!?」

 

落ち込む翼を後ろから抱きしめながら、奏が翼に優しく語り掛けた。

 

「前に言っただろ?止まっても良い、後ろを振り返っても良い、だけど飛ぶ時は前に全力で!ってさ。今はちょっと風が強いから止まって休んでるだけだろ?それとも、翼はもうあたしと一緒に飛ぶのは嫌になったか?」

 

「っ!!?ち、違う!!私だって、これからもずっと奏と一緒に!!」

 

慌てて奏の言葉を否定する翼を安心させるように、奏は優しく翼の頭を撫でた。

 

「なら、夢を捨てるなんてバカな事言わないでくれ。もしナナシの奴が聞いてたら、あいつショックで倒れるぞ?」

 

「…ふ、ふふっ…確かに、私や奏がもう歌わないと言ったら、あの男は卒倒しかねないな?」

 

茶化すような奏の言葉に、その光景を簡単に想像できてしまった翼は思わず笑ってしまった。二人がそんな会話をしていると…

 

『ナナシ、傷は本当にもう大丈夫なの?』

 

『大丈夫だって言っているだろ?ほら(バサッ)』

 

『ちょっ!!?わざわざ服を捲って見せなくていい!!』

 

『断面合わせてくっつけた下半身でしっかり歩いてみせてるのに何時までも気にし続けるからだろ?あっ!!修復しかけてるところでくっつけたからちょっとは身長伸びたかな!?もしそうなら切断と結合の加減次第で体格を変更できるかも!!』

 

『笑顔で恐ろしいアイディアを閃くんじゃない!!』

 

翼達の部屋にナナシとマリアが近づいてきて、そんな会話が聞こえてきた。二人が部屋の前に立ち止まり、障子越しに二人の影が見えた。

 

『大丈夫?翼』

 

「すまない。不覚をとった…」

 

『動けるなら来てほしい。翼のパパさんが呼んでいるわ』

 

「…分かった」

 

『目をしっかり覚ましてから出て来いよ?頼むから服はちゃんと着てくれ』

 

「分かっているわ!!」

 

顔を赤くして怒鳴るようにナナシにツッコミを入れながら、翼は起き上がって支度を終わらせ、全員で八紘の待つ書斎へと向かって行った。

 

翼達が書斎に入ると、机の上にファイルに纏められた大量の資料が置かれていた。

 

「これは…?」

 

「アルカノイズの攻撃によって生じる赤い粒子を、アーネンエルベに調査依頼していました。これはその報告書になります」

 

「アーネンエルベ…シンフォギアの開発にかかわりの深い、独国政府の研究機関…」

 

「報告によると、赤い物質は『プリマ・マテリア』。万能の溶媒、アルカ・ヘストによって分解・還元された、物質の根源要素らしい」

 

「物質の根源?分解による?」

 

「錬金術は、物質の分解・解析・再構築を基礎工程とする異端技術の理論体系…」

 

「確か、了子さんもそんなことを言っていたよな?」

 

ナナシの呟きに、奏が了子の言葉を思い出した。

 

「キャロルは世界を分解した後、何を構築しようとしているのかしら?」

 

マリアの疑問に、誰も答えを返すことが出来ずに会話が途切れてしまった。

 

(…恐らく、何も構築しないだろうな)

 

…ただ一人、ナナシだけはキャロルの思惑を察していた。

 

(あいつにとって重要なのは、自分の願望を満たすための『分解』、そして父親の命題に答えを出すための『解析』…それで終わりなんだ。あいつが目的を果たした先には、『空っぽ』の未来しか残らない)

 

ナナシがそんなことを考えていると…

 

「翼」

 

不意に、八紘が翼の名を呼んだ。

 

「はい」

 

突然名を呼ばれた翼は、少し驚きながらも顔を上げて八紘に返事をする。八紘は翼に顔を向けることなく、資料に視線を向けたまま…

 

「…傷の具合は?」

 

…翼の身を案じるような言葉をかけた。

 

「ぁ…はい、痛みは殺せます」

 

八紘の言葉に一瞬だけ間をおいて、翼は気丈にそう答えを返した。

 

「ならばここを発ち、然るべき施設にて、これらの情報の解析を進めるといい。お前が守るべき要石は、もう無いのだ」

 

「…分かりました」

 

…だが、八紘から返ってきた言葉で、先程の問いは娘を案じたのではなくあくまで組織の状況確認の一環だったことを知り、先程より力ない言葉で翼は返事を返した。

 

「それを合理的というのかもしれないけど、傷ついた自分の娘にかける言葉にしては、冷たすぎるんじゃないかしら?」

 

そんな八紘の態度に、遂にマリアが我慢できなくなって口を出してしまった。

 

「いいんだ、マリア」

 

「翼」

 

だが他でもない、翼自身が八紘の態度を容認してマリアを宥めたことで、マリアもそれ以上何も言えなくなってしまった。

 

「…いいんだ」

 

そう口にする翼の表情には、寂しさと、何処か諦めに近い感情が表れているようだった。

 

「それじゃあ、三人に必要な情報共有は終わったから、翼達は帰り支度を進めつつ時間を潰していてくれ。俺と慎次はこれから八紘殿と別件で仕事の話があるから」

 

全員が沈黙したタイミングで、今まで黙っていたナナシがいつもと変わらぬ様子でそう言いだした。先程のやり取りに対して何一つ思うところが無いように見えるナナシの様子にマリアが違和感を覚えるが、八紘と言う国の重鎮を交えた話し合いは秘匿性が高いだろうと考えて、促されるままに翼、奏、マリアの三人は出口へと進んでいった。

 

(ナナシ…よろしくお願いします)

 

部屋を出る間際、奏は心の中で何かを期待するようにそう祈っていた。

 

 

 

 

 

「あれは何だ!?安全保障のスペシャリストかもしれないが、家族の繋がりを蔑ろにして!!」

 

書斎を後にしたマリアは、廊下を歩きながら当たり散らすように八紘に対する不満を声に出していた。

 

「落ち着けって、気持ちは分かるけどな」

 

「済まない。だがあれが、私達の在り方なのだ」

 

そんなマリアを宥めながら、翼と奏も廊下を進む。そしてある部屋の前に差し掛かったところで、翼が二人を引き止めた。

 

「ここは、子供時分の私の部屋だ。話の続きは中でしよう」

 

そう言って翼が襖を開けた瞬間、室内の様子を目撃したマリアが臨戦態勢に入った。

 

「敵襲!?また人形が!?」

 

「あ、いや、その…私の不徳だ…」

 

「…今も昔も、翼のコレは変わってないんだなぁ」

 

翼が恥ずかしそうに頬を染めながらマリアの勘違いを訂正し、奏が苦笑しながらしみじみと言葉を口にする。室内は今の翼の部屋と変わらず、まるで荒らされたのではないかと思うような散らかり方をしていた。

 

「だからって、十年間そのままにしておくなんて…」

 

「ボヤくなボヤくな。とりあえず片付けちまおう。こんな部屋じゃ落ち着いて話も出来ないし、ナナシが戻ってきたら嬉々としてからかわれるよ?」

 

「そ、そうだな!二人共、済まないが手伝ってくれ!!」

 

過去に病室で響の前で盛大にからかわれたことを思い出して、翼は奏達と一緒に慌てて部屋の片づけを開始した。

 

 

 

 

 

「以上が、私が発案した本計画の概要になります」

 

書斎では、ナナシが八紘に対してそう話を締めくくっていた。ナナシが手渡した資料を見ながら、八紘は眉間に皺を寄せて難しい顔をしていた。

 

「…前回の件(・・・・)といい、また大それたことを言い出すものだな?」

 

「その節はお世話になりました。ただ、今回は事の大きさ故に根回しを終わらせる前に原案を確認して頂けた方が良いと判断しまして、ご挨拶のついでにこうして直接説明させて頂けるお時間を用意してもらった次第です」

 

「…前回の件も、充分に事前報告をするに値する計画だったと思うが?」

 

ジロリとナナシと緒川を睨む八紘に、緒川は苦笑を浮かべるが、ナナシは特に気圧された様子もなく笑みを崩すことはなかった。そんな二人の様子に、八紘は溜息を吐いて話を進める。

 

「概要については理解した。流石にこの場で可否を決めることなど出来ないから、後日資料を確認した上で改めて会談の場を設けさせてもらう。いずれにしろ、今の問題が収束しない内は私も君達も碌に身動きが取れないのだからな」

 

「承知いたしました。可及的速やかに事態を収束するため尽力いたします」

 

そう言って、ナナシと緒川は仕事の話のみ(・・)を終えて、八紘に一礼して書斎から出ていこうとして…

 

「待ちなさい」

 

…八紘に呼び止められた。二人は振り返りながら、八紘の言葉を待つ。

 

「…君に聞きたいことがある。少し時間を貰えないだろうか?」

 

「私にですか?ええ、構いませんよ。慎次、弦十郎への報告、よろしくお願いします」

 

「…分かりました」

 

一瞬だけナナシと八紘に視線を向ける緒川だったが、特に何かを言うことなく部屋を後にした。それを確認したナナシは、改めて八紘と向き合う。

 

「お待たせしました。それで、お話と言うのは一体何でしょう?」

 

「……」

 

ナナシの問い掛けに、少しの間沈黙を保った後、八紘はナナシを観察するように見つめながら口を開いた。

 

「質問の前に、前提となる話をするが…私は、弦や慎次から君についての情報を定期的に報告してもらっている」

 

「存じております」

 

ナナシという埒外の存在を組織の一員として扱うに当たり、弦十郎達は八紘に対してはナナシに関する情報を全て報告していた。それだけ八紘という人物を弦十郎達は信頼しているし、ここで情報の齟齬があると、いざという時に致命的な問題に発展しかねないからだ。

 

「…そして、不快に感じるかもしれないが、私は弦達の報告以外にも独自に君について調査させてもらっている」

 

言外に、ナナシの事を弦十郎達の報告だけでは信用していないと八紘は口にした。

 

「不快だなんてとんでもない。当然の措置だと思います。出自不明の人外が、国の中枢に紛れ込んでいるんですから。寧ろ隔離して完全監視体制で管理されていないだけ相当な温情だと思いますよ?」

 

しかし、ナナシはそんな八紘の言葉に特に思うところはなく、逆に自身の現状は相当に恵まれたものであると自覚していた。

 

「そうか…であれば、単刀直入に聞かせてもらいたいことが二つある。一つは、君が度々我々の監視から外れて所在が分からなくなった際、何をしているのかと言うことと…君の人となりについてだ」

 

「私の行動についてはともかく、人となりについて、ですか?」

 

自分が怪しい行動をしていることは自覚があるし、何なら実際に裏切りと断定できる行動を取っているのでそこに疑問は無い。ただ、人となりについてとはいまいちピンと来なかった。

 

「君と関わった人間に、君と言う人物についての印象を聞いてみた。特に、前回の件で君はS.O.N.G.以外の国の役員に根回しをするために関係各所に話をしに行ったため、普段君と関わりが無い人間から君についての話を聞くことが出来た」

 

「はあ…それで、私に直接確認すべきことが出てきたと?」

 

特に心当たりが無いといった風なナナシの様子に、八紘が目をスッと細めて話を進めた。

 

「…君に対する印象は、真っ二つに分かれる。一つが、非常に熱心で、ガッツがあり、否定的な事を言われても落ち着いて粘り強く、かつこちらの立場や思想に配慮した気遣いが出来ると言う非常に好印象な意見だった」

 

「えっと、何やら過大な評価をしていただいたようで、恐縮です」

 

ナナシは自分への高評価に、何処か落ち着かない様子で頬を掻いて苦笑していた。

 

「大半の君と接した人物は、これと似たような意見を口にしている。だが…問題となるのは、君に否定的な意見を出す、数名の人物達の意見だ」

 

「……」

 

そこまで聞いたナナシは、ようやく八紘が言いたいことが分かったという様子だった。そんなナナシの様子を見ながら、八紘は険しい顔で質問の核心部分について言及する。

 

「君に否定的な極少数…精神疾患で倒れた(・・・・・・・・)彼らは口を揃えて言っていた。『あの化け物に、関わってはいけない』と…何か、申し開きはあるかね?」

 

「特にありませんね」

 

八紘の問い掛けに、特に悩む素振りを見せないままに、ナナシは笑顔で即答した。

 

「私としては別にその件で関わった方々の接し方に差を付けた覚えはありません。私は皆様に対して、必要な事をしただけです」

 

「必要な事…?」

 

「私の考えを知ってもらうために、必要な事です」

 

ナナシは笑顔のままで、八紘に対して自身の考えを口にしていった。

 

「私の話を聞いて、資料を見て、協力が得られない場合には、どう言葉にすれば納得してもらえるか、どんな資料なら理解が得られるか、一人一人に合わせて工夫して、私の考えを伝えただけです。そして…」

 

そこで一度言葉を区切ったナナシは、顔の笑みを深めて八紘に対して更に言葉を続ける。

 

「毎晩お店で酒を飲み、二日酔いの頭で部下に一声二声指示を出してふんぞり返っているだけの日々を『忙しい』と言って、私の話を聞かず、資料を見ることもなく、『前例がない』、『荒唐無稽だ』、『若造が出しゃばるな』と言う言葉で『面倒だ』という感情を伝えてくる方々には…『私と関わる方が何千倍も面倒だ』という事実を伝えただけです。それこそ『夢に見るくらいに』、ですかね?」

 

ナナシは悪びれることなく、誤魔化すことなく、八紘に笑顔でそう言い切ってみせた。

 

「私が単独で行動している件についても同じですね。私は必要な事をしているだけです。ツヴァイウィングが、マリア・カデンツァヴナ・イヴが、S.O.N.G.の歌姫達が最高の歌を奏で続けるために、必要だと思うことをしているだけです」

 

「…そうか」

 

八紘はナナシの単独行動について深く追究することなく、そう言って黙り込んだ。それで話は終わりだと判断したナナシが、一礼して部屋を出ようとして…

 

「…翼の身の回りの世話も、君にとっては必要な事、なのか?」

 

…八紘が、何処か意を決したようにそう問いかけてきた。ナナシはその言葉に、八紘の並々ならぬ想いを感じ取り、振り返って真剣な表情の八紘の目を真っすぐに見つめて…

 

 

「それがどうかしましたか?翼の事は、あなたには何一つ関係が無い事柄でしょう?」

 

 

…嫌味でもなく、皮肉でもなく、心底不思議だといった声音と表情で、八紘の言葉にそう返した。

 

「…そう、だな…忘れてくれ。もう行っても良い」

 

八紘はナナシの言葉に怒ることなく、目を閉じて淡々と退室を許可した…だが、ナナシは一向に動きを見せることなく、その場に立ち止まっていたため、八紘が再びナナシの顔に視線を向けると…ナナシは、ファラが襲撃してくる前に見せていた、とても奇妙なものを見るような顔で八紘を見て首を傾げていた。

 

「…何か、言いたいことでもあるのかね?」

 

「ああ、すみません。あなたと翼の在り方がとても不思議だったので」

 

「…普段、弟の弦と接している君にとっては、私の翼への態度は奇妙に見えるかもしれんな」

 

ナナシの言葉に、八紘がそう答えると…

 

「ああいえ、あなたの翼への接し方についてではありません。そんなものはどうでも良いです(・・・・・・・・・・・・・・)

 

…あろうことか、ナナシは八紘の態度をどうでも良いと切って捨てた。

 

「…では、何がそんなに気になるのかね?」

 

八紘は感情を表に出さず…ナナシにはしっかりと感じられる『苛立ち』を籠めて…ナナシにそう問いかけた。

 

「あなたと翼の間には、凡そ繋がりと言うものが見えません。一緒に過ごした時間も、互いへの理解も、何もかも…それはまあ、戸籍上しか(・・)家族と言える点が無いので、当たり前かもしれませんが…」

 

ナナシがわざわざ、八紘と翼の関係の薄さを言語化する。その言葉の端々に、八紘はナナシが自分達の関係を暗に知っていることを伝えているのだと理解し、動じることなくナナシの言葉を聞き…

 

 

「それなのに、私が関わってきたどの家族よりも、あなたと翼の在り方がそっくりに感じたので、とても不思議に思っただけです」

 

 

「っ!?」

 

つい先程まで、繋がりの薄さを強調していたナナシからそんな言葉が出てきたため、八紘は驚きを露わにした。

 

「正直、私があなたに関して興味があるのはその一点だけですね。あなたが何時までも翼の事を『風鳴の道具』としてしか見ていないことも、それを言い訳(・・・)に翼から逃げていることも、心底興味はないです」

 

「っ!!?」

 

驚く八紘に畳みかける様に、ナナシが淡々と八紘の想いを知っているといった風に語り続ける。知った上で、どうでも良いと切り捨てていく。ナナシは唐突に笑みを消して、八紘の事を真っ直ぐに見つめて、言葉を紡いだ。

 

 

「あいつはもう、とっくに夢に向かって羽ばたいてんだ。あいつらの名にふさわしく、両翼はその翼を広げて、世界中に届く歌声を奏でている。未練がましい真似をして、あいつらの夢を邪魔してんじゃねえよ」

 

 

「未、練…一体、何を…?」

 

「国の重鎮が襲撃を予想されている場所に居座ってわざわざ家の前で待ち構えていたこと、いちいちあいつの言葉を無視せずに返答すること、組織の把握に託けてあいつの状態を確認すること、そして何より今あいつらが立ち寄っているだろうあの部屋の現状(・・・・・・・)、未練以外の何て言うつもりだ?」

 

「……」

 

八紘がナナシの言葉に何も言えず呆然としている間に、ナナシは表情を普段の笑みに戻して再び口を開いた。

 

「私はあなたの思惑を否定するつもりはありません。寧ろ推奨しています。だからこそ、中途半端な真似はやめて欲しいと切実に願っています」

 

ナナシはニコニコと、八紘に満面の笑みを向けた状態で…

 

 

「そのやり方を続けるなら、今後一切翼に関わるのはやめてください。邪魔なので!」

 

 

…八紘の存在を、全否定した。

 

「それでは、失礼いたします。計画の件、よろしくお願いします!」

 

ナナシはそう言って、今度こそ書斎から出て行った。八紘は呆然とナナシを見送った後、しばらくの間ピクリとも動かないまま、頭の中で何かを思案していた。

 

 

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