戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
翼、奏、マリアの三人が八紘邸の翼の部屋を片付けていると、部屋にあったマイクを見た翼がポツリと呟いた。
「…幼い頃にはこの部屋で、お父様に流行歌を聴かせた想い出があるのに…」
寂しげな翼の様子に、奏とマリアが翼と部屋の惨状に視線を向けて…ふと、何かに違和感を覚える。
「それにしても、この部屋は…昔からなの?」
「私が片づけられない女って事!?」
「いや、それは質問するまでもなく充分に分かってるって」
「奏!!?」
「そうじゃない。パパさんの事だ」
マリアのその問いに、翼は少し黙り込んだ後、目を瞑って静かに話し始めた。
「私のお爺様…現当主の風鳴訃堂は、老齢の域に差し掛かると、跡継ぎを考えるようになった。候補者は、嫡男である父、八紘と、その弟の弦十郎叔父様」
「風鳴司令か…」
「だが、お爺様に任命されたのは、お父様や叔父様を差し置いて、生まれたばかりの私だった」
「翼を?」
その不可解さにマリアが疑問の声を口に出し、奏が僅かに眉をひそめながら黙って翼の話を聞く。
「理由は聞いていない。だが今日まで生きていると、うかがい知ることもある…ナナシ、ひょっとしたらお前は、既に知っているのではないか?」
「えっ…?」
「お前と弦十郎、そして八紘氏の関係を厳密に言うと、年の離れた兄妹って話か?」
「ッ!!?」
翼が突然ナナシの名を出したことにマリアが戸惑っていると、いつの間にかナナシが翼の部屋の襖を開けて話を立ち聞きしており、翼の問いに対してそう答えを返した。
「…やはり、知っていたのだな…何時からだ?」
「俺が人間の家族に興味を持ち始めて割とすぐだから…二年くらい前かな?」
「ナナシ、あなたいつの間に…それに、今の言葉はどういう…?」
困惑するマリアの問いに、ナナシではなく翼が静かに答えた。
「…どうやら私には、お父様の血が流れていないらしい」
「何!!?」
「風鳴の血を濃く絶やさぬよう、お爺様がお母様の腹より産ませたのが、私だ」
「風鳴訃堂は…人の道を外れたか…!」
マリアがそう憤慨していると、ナナシが黙っている奏に声を掛けた。
「その様子だと、奏は翼からちゃんと聞いてたんだな?流石は翼の相棒!」
「…以前、あたしも翼の家族が気になって聞いたことがあっただけだ。あんただってコソコソ嗅ぎ回らずに翼に質問していれば、翼は答えてくれたはずだぞ?」
「翼が家族に関わることに触れて欲しくないのは察していたからな。正直、俺には血の繋がりがどうとか分からないし、当時はそんなどうでも良いことで翼の感情を暗くしたくなかったから、自分で調べた」
国で相当な権力を持つ風鳴家の内情を、気になったから調べたと簡単に言ってのけるナナシに、翼は力無い笑みを浮かべた後、自身の心境について話し始めた。
「以来私は、お父様に少しでも受け入れられたくて、この身を人ではなく、道具として、剣として研鑽してきたのだ。なのに、この体たらくでは…ますますもって鬼子と疎まれてしまうな」
そう言って、翼は自嘲気味な笑みを浮かべて、顔を俯かせてしまう。奏とマリアがそんな翼を心配そうに見ていると…
「はぁ~~~…」
…ナナシが盛大な溜息を吐いた。
「一体どうしたんだよ、ナナシ?」
「あぁ、奏…俺はこの部屋を見ていると、つくづく大きな失敗をしたな~って思ってさ」
「失敗…?」
「このポンコツなSAKIMORIには、料理よりもまず掃除を教えるべきだったと…」
「なっ!!?」
「ちょっと、ナナシ!?それは今言うことなの!!?」
この状況で翼をからかうような発言をするナナシに、マリアが流石に非難の声を上げる。
「そりゃあ言いたくもなるって。この汚部屋製造機をそのまま海外に放り出してしまったことに今更ながら後悔の念に堪えないと思っているところだ。どうせロンドンでもこんな悲惨な光景を作り出していたんだろう?」
「うっ…だ、だが、私だって努力しているのだ!昔に比べれば多少は…」
「SAKIMORI如きの努力で、世の清掃員方の苦労が分かるかー!脱いで何日も放置されて菌や埃に塗れた服を「洗っといて」の一言で押し付けられるお母さん方の気持ちが分かるかー!唾液や汗が付着して、そのまま放置すれば錆びや匂いが発生するマイクやスタンドをお前達が気持ちよく歌えるように毎回分解して隅々まで磨き上げるスタッフの気遣いが分かるかー!因みに俺には分からん!俺の“収納”に物を出し入れするだけで、菌や汚れをその場に残して分離出来るからな!!」
「自慢気に言うことか!!?」
翼の部屋を指さしながら茶化すナナシに、翼が顔を赤くしながら怒鳴りつける。普段通りの光景に、奏とマリアは呆れたように苦笑して…
((…ん?))
…ナナシが指さす部屋の惨状を眺めた二人が、何かに気が付いた。
一方、S.O.N.G.本部では、オペレーター達が端末を操作して次々とモニターに情報を表示させていた。
「竜宮の管理システムと、リンク完了しました!」
「キャロルの狙いを絞り込めば、対策を打つことができるかも…っ!?止めてください!」
凄まじい速度で切り替わる画面を見つめていたエルフナインがそう叫ぶと、画面の動きがピタリと止まってそこにある名前が表示された。
「ヤントラ・サルヴァスパ…!」
「何だ、そいつは?」
「あらゆる機械の起動と制御を可能にする情報収集体。キャロルがトリガーパーツを手に入れれば、ワールド・デストラクター『チフォージュ・シャトー』は完成してしまいます!」
エルフナインの言葉に、弦十郎達はキャロルの目的はこのヤントラ・サルヴァスパを入手するためだと悟り、迅速に行動を開始する。
「ヤントラ・サルヴァスパの管理区域、割り出しました」
「クリス君達を急行させるんだ!!」
弦十郎の指示によって、オペレーター達はすぐさま通信を繋いでクリス達をヤントラ・サルヴァスパの管理区域へと誘導していった。
ドォォォォン!!
部屋で話をしていた翼達は、屋敷を揺るがす振動と共に聞こえてきた破壊音に反応して即座に外へと駆け出した。全員が外に出ると屋敷の屋根の一部が破壊されており、屋根の上にはソードブレイカーを片手に佇むファラがいた。
「要石を破壊した今、貴様に何の目的がある!?」
「ウフフ、私は歌を聴きたいだけ…」
「ファンならちゃんとチケット買え!ライブでマナー守って聴くならこっちも煩く言わねえよ!!」
「それだとせっかくの歌を独占出来ないじゃありませんか?こうやって刃を向けるだけで剣ちゃんが私のために歌を奏でてくれるなら、多少の障害は仕方ありませんわ」
「あー…ならしょうがないな、うん…」
「「「納得するな!!?」」」
ナナシにツッコミを入れながら、これ以上の問答は無意味と悟ってマリアが聖詠を奏で始める。
「Seilien coffin airget-lamh tron」
白銀のギアを身に纏いファラへと駆けるマリア。翼もギアを纏ってマリアに続き、二人は連携してファラに攻撃を仕掛ける。ファラは二人の攻撃を軽やかに躱して竜巻による反撃を繰り出してきた。竜巻を回避するため翼とマリアは左右に分かれて移動し、いち早く地面に着地したマリアは単身でファラに攻撃を仕掛ける。
“EMPRESS†REBELLION”
マリアが籠手から生成した短剣を振るうと、刀身が蛇腹剣のように展開してファラへと迫る。だが、ファラがソードブレイカーを振るって斬撃を放つと、マリアの短剣は何の抵抗も出来ずに砕け散り、斬撃はそのままマリアを吹き飛ばした。
「うあああああ!!」
「マリア!?くっ、この身は剣!切り開くまで!!」
マリアが押されているのを見た翼が、自身を鼓舞しながらファラへと切り掛かる。だが…
「その身が剣であるなら、哲学が凌辱しましょう」
ファラがそう宣言して、ソードブレイカーを振るって斬撃を放つ。それを受けた翼の剣が砕け散り、それだけに留まらず斬撃に籠められた哲学の呪いは、翼の全身のギアまでも蝕むように罅割れさせていった。
「砕かれていく…剣と鍛えたこの身も…誇りも…あああああ!!」
ファラの攻撃の勢いに耐えられず、翼は吹き飛ばされて地面を転がっていった。
翼達がファラと交戦を開始した同時刻、S.O.N.G.本部は深淵の竜宮内に設置された監視カメラの映像に、キャロルとレイアの姿が映っているのを発見した。キャロルの手には、既に何かが握られていた。
「あれは……」
「ヤントラ・サルヴァスパです!」
「クリスちゃん達が現着!」
キャロルが目的の聖遺物を入手し、脱出を試みる直前にギアを纏ったクリス達が間一髪現場に辿り着いた。
体を蝕む痛みに耐えながら、翼が地面に手を突き立ち上がろうと気力を尽くす。
「うっ…くっ…」
「無理するな、翼!時間を稼ぐからしっかり態勢を立て直せ!!」
すると、これまで戦闘に参加していなかったナナシが突然、ファラに対して殴りかかった。囲いの上に立っていたファラがヒラリとナナシの攻撃を躱して、ナナシの拳が囲いの一部を破壊する。
「お忘れかしら?このソードブレイカーは、あなたの守りすら突破することを!」
攻撃を繰り出して無防備なナナシに対して、ファラがソードブレイカーを振り降ろし…
「これならどうだ!!」
「ッ!!?」
ファラが振り下ろしたソードブレイカーの前に、ナナシはその背に隠すようにしていた…“身体変化”で剣へと変貌させた左腕を突き出す。
(これで俺の腕が砕け散れば、“障壁”はこの大剣の攻撃を防げるようになるはず!そうすれば、こいつを三人で袋叩きに出来る!!)
ファラもナナシと同じ考えに至り焦りを露わにするが、既に振り下ろしたソードブレイカーを止めることも出来ず、ファラのソードブレイカーとナナシの左腕の剣が接触して…
ガキィィィン!!
…ナナシの左腕の剣は、砕け散ることなくソードブレイカーの一撃を受け止めた。
「「…え?」」
その結果に、ナナシとファラは戦闘中であるにも関わらず、少しの間動きを止めてしまった。
結論を言ってしまえば、この結果はナナシの認識の問題だった。
哲学の呪いによって『剣』という概念を破壊するソードブレイカーは、その性質故に『剣』と定義されている物ならば何でも砕くことが出来る。そして、その『剣』を定義するのは、それを扱う人間の認識に他ならない。
マリアが扱う短剣が砕けたのは、マリア自身が無意識に短剣を『剣』と認識しているためであり、翼は体までもが呪いに蝕まれるのは、翼が自身の事を『防人の剣』と認識してしまっているため、その影響が肉体にまで及んでしまっているのだ。
一方でナナシが扱う武器は、元々ナナシがノイズを滅ぼすために作り出した物で、その認識は『自分の肉体の一部』である。“身体変化”を獲得するまでの検証で『自分の肉体にノイズを滅ぼす力が宿っている』とナナシが強く認識し、その肉体の延長として武器を作り出したことが裏目に出ることになったのだ。
「あーもう!!てめえとはとことん相性が悪いなキス魔人形!!」
「あらあら、随分と嫌われてしまいましたね?」
ナナシが苛立ちを籠めて左腕の剣を振るい、ファラがソードブレイカーでそれをいなす。二人が戦っている間に翼は何とか身を起こそうとするが、痛みで力が入らず立ち上がることが出来ない。
「夢に破れ…それでも縋った誇りで戦ってみたものの…くっ…どこまで無力なのだ…私は…」
「翼!」
「翼さん!」
「しっかりしろ、翼!諦めるな!!」
マリアが、緒川が、そして奏が、無力を嘆く翼へと呼びかけるが、翼は涙を流して俯いたまま動かない。すると…
「翼!!」
「っ!?…お父様…?」
…八紘が未だファラとの交戦中という危険な状況にも関わらず、屋敷から出て翼の姿を真っ直ぐに見て、その名を呼んだ。
「歌え、翼!!」
「…ですが私では、風鳴の道具にも、剣にも…」
「ならなくていい!!」
「っ!?お父様…?」
これまで自分の事をそう呼び続けていた八紘が、翼の言葉を否定しながら更に言葉を紡ぐ。
「夢を見続けることを恐れるな!」
「私の…夢…」
「そうだ!翼の部屋、十年間そのまんまなんかじゃない!散らかっていても、塵一つなかった!お前との想い出を無くさないよう、そのままに保たれていたのがあの部屋だ!」
「娘の事が大切な父親じゃなければ、あんな真似は出来ないんだよ!いい加減に気づいてやれよ馬鹿娘!!」
そう、奏とマリアが気付いたのはそのことだ。
十年間ただ放置されていたならば、至る所に塵が積りマイク等の金属には錆が浮いていただろう。だがあの部屋には塵一つなく、金属製品は新品のように輝いていた。
翼は、ようやく八紘の想いに気が付き涙を流す。
「まさかお父様は…私が夢を僅かでも追いかけられるよう…風鳴の家より遠ざけてきた…?」
八紘は目を瞑り、翼の問いには答えずに…ただ、決して否定することは無かった。
「それが、お父様の望みならば…私はもう一度、夢を見てもいいのですか!?」
八紘は無言なままに…ただ首を縦に頷いた。ここまで来て、まともに言葉を返すことが出来ない、不器用なこの男は…それでも精一杯、自分の娘に想いを伝えた。
その想いを確かに受け取り、翼は再び立ち上がる。
「ならば聴いてください!」
そう言って翼は、ファラのソードブレイカーと左腕の剣で鍔迫り合いのように押し合うナナシに叫ぶ。
「ナナシ!代われ!!」
「はあ!?お前は俺以上にこいつとは相性悪いだろ!?参戦したいなら交代じゃなくて横から不意打ちするなり俺ごと切り捨てるなり…」
「最高の歌を聴かせてやる!!」
「応援なら任せろ!!ほらお前らも好きなのを手に取れ!!ドンドンパフパフワーワー!!」
ナナシは翼の言葉を聞いた瞬間、残像すら見えそうな勢いで奏達の元へと下がり、瞬時に左腕をへし折って“ダメージの無効化”で修復、台の上に応援グッズを“収納”から取り出したかと思うと、鉢巻や法被まで着込んでサイリウムを手に全力で翼を応援し始めた。余りの切り替えの早さに、奏達はおろか先程まで鍔迫り合いをしていたファラまでもが勢い余ってソードブレイカーの切っ先を地面に突き立てながらポカンとしていた。
翼はそんなナナシの言動にクスリと笑いながら、ギアコンバーターへと手を伸ばす。
「イグナイトモジュール、抜剣!!」
イグナイトモジュールを起動して漆黒の鎧を身に纏った翼は、歌を奏でながらファラへと接近する。
「静かに瞳閉じ
ファラの頭上に跳躍した翼は、鎧と同じく漆黒となった剣をファラへと振り下ろす。
「味見させていただきます」
ファラは地面に突き立てていたソードブレイカーを構え直しながら翼の攻撃を回避する。翼はファラを追撃しながら、剣の中心に展開したエネルギーを斬撃として放つ。
“蒼ノ一閃”
翼の斬撃をファラはソードブレイカーで受け止め、弾き飛ばす。だが翼は臆することなく再度攻撃を繰り出した。
深淵の竜宮でも、クリス達がキャロル達と交戦していた。クリスがミサイルをキャロルに放ち、キャロルが錬金術の防壁で防ぐ。切歌がレイアに鎌で切り掛かり、レイアがコインを投擲して応戦する。調はキャロル達が召喚したアルカノイズを車輪のように展開したギアで切り刻み数を減らしていた。
そして、隙を見て調が無数の丸鋸を射出してキャロルにも攻撃を仕掛ける。その全てがキャロルの展開する防壁に弾かれて…
ドクンッ!!
「ぐっ!?」
しかしその時、キャロルが拒絶反応による不調で錬金術を解除してしまい、調の放つ丸鋸がキャロルの持つヤントラ・サルヴァスパを掠めて空中へと弾き飛ばされ、追加の丸鋸がヤントラ・サルヴァスパを真っ二つに切り裂いた。
「ヤントラ・サルヴァスパが!!?」
動揺しながらも、キャロルが調の攻撃を防ぐために再度防壁を展開するが、不調のためか先程よりも明らかに防御範囲が狭かった。
「その隙は見逃さねぇ!!」
“MEGA DETH QUARTET”
好機と見たクリスが、小型と大型のミサイルを一斉にキャロルに向けて射出する。
「地味に窮地!」
主を守るため、レイアがコインを連続で弾いて無数のミサイルを正確に打ち抜き、爆破していく。だが、爆炎に紛れて打ち漏らした大型ミサイルがキャロルへと迫る。
「マスター!!」
レイアの呼び掛けに、不調によって防壁すら展開出来ずによろめくキャロルが自身に迫るミサイルに目を見開き、そして…
「はぁあああ!!」
“千ノ落涙”
掛け声と共に、翼が空中にエネルギーの剣を無数に展開してファラを攻撃する。だが…
「いくら出力を増したところで」
ファラがソードブレイカーを一振りするだけで、降り注ぐ剣の全てが砕かれ、霧散してしまう。
「その存在が剣である以上、私には毛ほどの傷すら負わせることは叶わない」
そう言って、ファラが追加でもう一振りのソードブレイカーを取り出し構える。翼の攻撃は無効化され、相手の手数が増えた。状況は悪くなる一方だ…だが、翼の顔に焦りはない。
ファラが竜巻を二つ発生させ、それを目眩しに速攻を仕掛ける。高速で接近してくるファラに対して、翼は…
『夢を見続けることを恐れるな!』
「…剣にあらず!!」
…剣殺しの呪いに、真っ向から立ち向かう。
翼は脚部に剣を展開、手を地面に付け、体を回転させて迫り来るソードブレイカーに脚部の剣を叩き込んだ。二つの刃が交差し、そして…翼の剣が、ソードブレイカーの一振りを砕いた。
「あり得ない…哲学の牙が何故!?」
これまで余裕を保っていたファラが、目の前の事象に狼狽える。
「貴様はこれを剣と呼ぶのか!?否!!これは、夢に向かって羽撃く『翼』!!」
そんなファラに対して、翼は両足の剣に炎を纏わせ、まるで羽ばたくように炎を揺らめかせながら、その身を空へと舞いあげる。
「貴様の哲学に、翼は折れぬと心得よ!!」
以前、“紛い物”は語っていた。
『お互いの想いでその在り方を、枠組みを千差万別に変えながら同じ時間を共有する…それが、人間の『家族』という在り方だと俺は学んだ』
互いの想いで在り方を変えるのが、家族…であれば、この結果は必然である。
娘が夢を追いかけることを願った八紘の想いによって、翼はその在り方を変えたのだ。『防人の剣』から『夢に向かって羽撃く翼』へと。その在り方を、剣殺しの呪いが打ち砕くことなど叶わない。
「ただ生きとし生けるものならば 過去だって飛び立てる!」
力強い歌声を奏でながら、翼はギアの形状を変える。両足の剣を重ね合わせ、両手の剣に炎を纏わせながら、その身を回転させてファラへと迫る。
「剣は剣としか呼べぬのか? 違う!友は翼と呼ぶ!」
迫る翼の攻撃を、ファラは剣殺しの大剣で受け止めようと構えて…
「…我が名は 「夢を羽撃く者」也!」
…翼の一撃は、剣殺しの大剣諸共、ファラの胴体を両断した。
“羅刹 零ノ型”
「…アハハハハハハ!アハハハハハハ!!」
その身を分かたれ、敗北を喫したファラ…だが、何故かその顔は笑みを浮かべており、その口から狂気を感じさせる笑い声を響かせるのだった。
「何がどうなってやがる!?」
キャロルに着弾したはずのミサイルは、爆発することなくその場に留まっていた。奇妙な状況にクリス達が困惑していると、土煙の中から声が聞こえてきた。
「フハハハハハ!久方振りの聖遺物…この味は甘く蕩けてクセになるうぅぅぅ!!」
その言葉と共に、クリスのミサイルが形を失いまるで喰われるように声の人物の左腕に吸収された。
「嘘!?」
「なっ!?」
「嘘デスよ…」
クリス達はその声と、ミサイルが無くなったことで土煙が晴れて現れた姿に驚愕の声を出す。
「嘘なものか。僕こそが真実の人…ドクター、ウェルゥゥゥゥゥ!!!」
呆然と座り込むキャロルの前でウェル博士がポーズを取ってクリス達を指さし、その存在を主張するように自身の名を叫んだ。