戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
今回は諸々のフラグ回収です。
GX編では特に『フラグを立てる』ということを意識して執筆してみました。
色々あからさまだったかなとか、もうちょっと情報出した方が良かったかなとか悩みながら試行錯誤してみました。
なお、上手く区切れなかったため文字数と情報量が多くなっております。
読みにくかったら申し訳ありません。
ナナシがS.O.N.G.…その前身である特異災害対策機動部二課に訪れてから、その活動は多岐にわたる。
装者達と共にノイズと戦うのはもちろんのこと、ツヴァイウィングのマネージャーとして翼と奏の身の回りの世話に、風鳴家全体の家事全般及びその他雑務、二課職員として諜報活動、現場整理、聖遺物に関わる研究の補佐、情報管理、事務手続き、設備の補修・点検、厨房で調理の手伝い、果ては職員全体の健康管理やカウンセリングまで…奏を治療する研究と、新能力の開発の合間に、ナナシは自分に出来ることをとことん追求していった。
そんなナナシが、二課に訪れた初期から特に力を入れて取り組んだことの一つが…金策である。
人間社会において、金銭という物の価値をナナシは早い段階で理解していた。
個人、組織問わず活動する上で、資金があれば物事を迅速に進めることができ、何よりも様々な物品と引き換えることが出来るのに、それ自体はただの紙切れや数字の羅列でしかなく、全て失ったところで痛くも痒くもないという点を、ナナシは非常に気に入っていた。
だが、自由に使える資金を個人の労働による対価で賄うのは、休息が必要ないナナシであっても非効率極まりないため、より効率的で時間の掛からない方法をナナシは探し求めた。
ナナシの力を使えば、武器や薬物、貴金属の密輸などで一気に大量の資金を得ることは容易いが、仮にそれを実行した場合、高確率で面倒事もセットで付きまとう上に多くの人間を巻き込む事件の火種になりかねない為、そういった犯罪に関わるようなことには手を出さなかった。
その結果ナナシが行き着いた先は…賭博と投資である。
まず賭博だが、日本の場合は公営競技とパチンコ、後は宝くじ等があるが…ナナシが目を付けたのは公営競技である。
公営競技…競馬、競輪、競艇、オートレースの四つは、とても簡単に言ってしまえば、『人が何かに乗って競い合う競技』である。
そして、ナナシは犯罪行為を控えているだけで、能力の使用を控えている訳ではない。これらが意味することは…
・“解析”でレース直前の選手、馬、乗り物の状態を完全に把握
・感情の感知で選手や馬の精神状況や疲労を察知
・“投影”によって選手、馬、乗り物のデータを正確に記録、蓄積
…はっきり言って、頭の中に超高精度なシミュレーターを内蔵しているようなものである。しばらく情報収集として試験的に投票券を購入しながらレースを見学して、ある程度正確な予測が出来るようになると、最悪外れても特に問題ないといった風にポンと高額をブチ込むといった方法で賭けを行い…二課から支給された給与を何十倍にも増大させた。
そうやって増やした資金を元手に、二課が保有するダミーカンパニーにある金融機関の名義を利用して、ナナシは資金運用を開始した。
扱う品物、企業の信用、基礎的なことを押さえつつ試行錯誤する上で、ナナシが特に注目したのが『人』だった。
二課で活動するナナシは、組織全体が一つの目的を掲げて一丸となって活動できる強みを知っていた。それ故に、投資する企業の人間とは可能であれば対話して、それが叶わない場合は遠目に観察して、出資する前にそこで働く人間の顔を見た。組織のトップと、その直下と、更にその下で働く人間の縦と横の繋がりの様子をその目で確認して、ナナシが出資しても問題ないと判断した場合だけ出資した。逆に、ナナシが信用できないと判断した場合には、どれだけ期待値が高い企業であっても出資は控えた…実際、そうやってナナシが出資を控えたところでは、後に会社の不祥事で株価が暴落するケース等が確認された。
そんな風に独自の判断基準を元に資金運用を続けた結果…一年が経つ頃には、ナナシは資金を増やせる確固たる基盤を完成させていた。
そうやって増やした莫大な資金を、ナナシは嬉々として…二課の活動資金に放り込もうと画策していた。わざわざ二課のダミーカンパニーの名義を利用して資金運用をしていたのはそのためである。
だが、まあ…ナナシの周りにいる、良識のあるOTONA達がそんなことをすんなり受け入れるはずもなく…
「子供が稼いだ金を横から掠め取るような真似が出来るかぁぁぁ!!!」
「ナナシさんのお金なんですから、ナナシさんのために使ってください!!」
「だ・か・ら!!俺の好きに使おうとしてんじゃねえか!!?今まで俺が貰ったものの利息分程度なんだからガタガタ言わずに黙って受け取れぇぇぇ!!!」
…そんな感じの言い争いから、ナナシ VS 弦十郎&緒川による本気の喧嘩が勃発。普段弦十郎との訓練で使っている人里離れた山奥で、周囲に天災のような被害を出しながら丸一日戦い続けた三人であったが、最終的に弦十郎のジャーマンスープレックスがナナシに炸裂したところで緒川に影縫いを施され、ナナシは頭が半分地面にめり込んだ何処にも踏ん張りが効かない状態で動きを止められてしまい、当時の戦闘に使える能力を開発してないナナシではどうしようもなくなり決着となった。
だが、そんなギャグ漫画のような状態でもナナシは諦めずとことんゴネた。唯一自由な口でそれはもう駄々を捏ねた結果、根負けした弦十郎と緒川が妥協案としてナナシが稼いだ資金の三割を緊急時に備えた組織の資金として貯蓄することを約束してその件を終結させた。
だが、その交渉で狙い通り金額設定を『一定額』ではなく『割合』で約束させたナナシは、分母を増やして二課に流れる資金を増やすべく更に投資の幅を増やし、個人の資産は武装や食料などの物資に変えて“収納”に貯蓄したり、二課の設備や風鳴家の物品を勝手にグレードの高い物に変更するなどして結局二課や歌姫達のために使っていた。それが他ならない、ナナシ自身の望んだ用途であるが故に。
そうやって増やしていた資金を使い、ナナシはある大きな実験をしようとしていた。
それは、翼達が海外へ飛び立って行き、ナナシが“血晶”の距離制限を解決しようと検証をしていた時期だった。ナナシは“血晶”の距離制限について、あることに気が付いた。
“血晶”…ナナシの肉体は、ナナシ本人から二千キロメートル離れると塵と化す。だが、それは範囲内から出た端から徐々に塵となるのではなく、一気に全体が塵となって消失するのだ。
それに気が付いたナナシは、大きさを変更した“血晶”や“身体変化”で作り出した武器で検証を繰り返したところ…ナナシの肉体は、繋がっている一部でも距離制限内にあれば塵にならない。極端な話、全長一キロの“血晶”を作れば、距離制限は一キロ伸ばせる、と言うことが分かった。
それを知ったナナシが、了子とナスターシャ教授が研究しているフォトスフィアの、まるで地球に血管のように張り巡らされるラインを見て…あるとんでもない発想に至った。
このフォトスフィアのように、世界中に一続きのラインを通して常に距離制限内に血液を納められるようにすれば…『自分の血液で世界を繋げば良いのではないか?』と…
…はっきり言って、論ずるに値しない荒唐無稽な発想である。必要な血液の量も、世界中にラインを設立する手間も時間も問題も呆れるほどに膨大な、この上なく愚かな“妄想”でしかない。
「そうだよなぁ…世界一愚かな“妄想”で、実現できる可能性なんて小数点にゼロがいくつ並ぶか分からない位に少ないよなぁ…頑張らないと!!」
…自分の愚かな“妄想”を聞き、驚き呆れる了子達を前に、ナナシは笑顔でそう宣言した。
例えどれだけ愚かと蔑まれようと、どれだけ高い壁に行く手を阻まれようと、その先に望む未来があるのなら…ナナシは全てを笑い飛ばす。
その手始めが、今回の実験。大質量の血液を広範囲に展開するためのラインの設立。どうせ試すなら有意義なものにしようと、ナナシが白羽の矢を立てたのは、フォトスフィアでも一際目立つレイラインの中心で、日本の首都でもある東京の都市部。
実際、実現出来れば利点もある。“血流操作”はナナシと接触状態ならある程度自在に血液を操れるため、上手くいけば遠方のトラブルをナナシは現場から離れた地点で対処出来るようになるかもしれない。そうでなくても、かなり目立つことになるが“障壁”を“付与”した血液を周囲に撒くことが出来れば、装者達やナナシ本人がたどり着くまでに人命を守ることが可能となる…代償として、血塗れになることは避けられないが。
その利点を前面に出し、今までの出来事や事件の規模を引き合いにナナシは国の役人に交渉、根回しすることで強引に認可をもぎ取り、東京の至る所に水道工事に偽装した血液を通すためのラインを設立した。
…これに関しては、話を聞いてもらったからと許可を取り付けたナナシが異常なだけで、話を聞かなかった役人の方が正常な判断である。だが、道理も、事の良し悪しも、膨大な資金も、動かす人員も、面倒な手間も何もかも…何もしない、出来ない事に比べれば、ナナシにとって些細なことであった。
“紛い物”が大勢を巻き込んで取り組んだ、世界一愚かな“妄想”の下準備…その行動が手繰り寄せた結果が、今目の前に展開された。
チフォージュ・シャトーを中心に、その周囲の地面から大量の血液が噴き出して、シャトーをドーム状に包み込む。
だが、シャトーから放出される分解の光がナナシの血液に触れて、いとも容易くナナシの血液を分解してみせる。
しかし、地面から追加で噴き出した血液が、再びシャトーを包み世界から隔離する。
噴き出し、包み、分解され、噴き出し、包み、分解され…世界を分解する滅びの歌を、不滅の“紛い物”はその身一つで受け止めてみせた。
「な……な……」
そんな悪夢のような光景を前に、キャロルは言葉を失って身を震わせる。妨害も、予想外もあったものの、概ね計画通りに描き進めていたはずのキャロルの楽譜が…一面に広がる赤い血液によって塗り潰されたからだ。
(あっははははは!大・成・功!!お前らとっても良い顔だ!!特にクソガキ、お前最高!!フレーメン反応起こした猫みたいだ!!これだから悪戯はやめられないんだよ!!あっはははははは!!)
キャロルも装者達も驚き固まる姿を見て、貯水タンク…そう偽装して作られた供給口に血液を入れながら可笑しさに身悶えるナナシが笑い声を伝えてくる。その声に、いち早く正気を取り戻したキャロルが、過去最大の憎悪を籠めてナナシを睨む。
「き、さま…貴様ぁあああああぁぁああああ!!!!!」
叫ぶキャロルが、絶唱によって高めたフォニックゲインをありったけ籠めてナナシに錬金術を放つ。極太の光線は真っ直ぐにナナシへと突き進み、その体とナナシが立つ建物を飲み込んで…ナナシと建物の上半分が、一瞬で蒸発して消し飛んだ。
「あ、兄弟子ぃいいいいい!!?」
「ナナシ!!?」
「ご都合主義!!?」
「悪夢!!?」
「先生!!?」
「ナナシさん!!?」
装者達がそれぞれナナシが消し飛んだことに驚き、ナナシに呼び掛けている間に、全力で攻撃を放ったキャロルが息を整えながら笑みを零した。
「はあっ…はあっ…くくっ…あっははは!どうだ!?これが報いだ!!このオレを虚仮にしたことを、地獄で後悔するがいい!!あっはははははは!!………ッ!!?」
ようやく目障りな存在を排除することが出来たと高笑いを上げるキャロルだったが…直後、違和感に気付いた。
ナナシが全身を消し飛ばされたはずなのに…チフォージュ・シャトーを包む血液の動きが止まることは無く、世界の分解が再開されない。
「なっ!!?これは、一体…?」
戸惑うキャロルと装者達が、周囲を見回していると…
『突然ですが、ここで“紛い物”クイズー!!』
…装者達の通信機から一斉に、ナナシの声が聞こえてきた。
『正解者には俺から豪華景品をプレゼント!この通信を聞いているS.O.N.G.の奴らにも解答権はあるから奮って参加しろよ!!』
「え?え?クイズ?」
「ナナシ、お前一体どこに…?」
困惑する全員を置き去りに、通信機からナナシのクイズが聞こえてきた。
『問題!この世界を懸けた歌合戦の会場…チフォージュ・シャトーが現れた都市部に俺がたどり着いたのは一体どのタイミングでしょうか!?』
『一番!クソガキが素晴らしい歌声を披露し始めた時!』
『二番!翼達が響の前に駆けつけるのとほぼ同着!』
『三番!クソガキがご自慢の錬金術ブチ破られて顔面に響の超絶変則的握手を受けた時!』
『さあ!分っかるっかな!?』
「え、えっと…一番!」
「二番デス!!」
「じゃあわたしは三番!!!」
調、切歌、響の色々素直な三人が順番に答えを口にする。他の人間は全員が未だに困惑して黙り込んでいると、通信機から再びナナシの声が響いてきた。
『おいおいどうした?クソガキ?ご自慢の賢い脳みそで答えを導いてみせろよ?今ならなんと解答するだけで『俺の姿を現してやる』し、正解すれば“血流操作”も止めてやるぞ!出血大サービスだ!血液だけにな!!あはははははは!!』
「ッ!!?貴様、どれだけオレを愚弄すれば気が済む!!?超絶変則的握手の意味は分からんが、それだけ細かに状況を語れるなら時系列的に答えは『三』以外にあり得んだろう!!?」
ナナシのつまらないギャグが混じった挑発の言葉に、キャロルが反射的に答えを返したのを聞いて、ナナシが正解発表する。
『それじゃあ、正解を発表しま~す!答えは…『四番』!ラスボス感満載でクソガキが響と、響のクソ親父の前に登場した時でした!!』
「なっ!!?」
「私達よりも、ずっと前に!!?」
「「「ズルい(デス)!!?」」」
ナナシの答えにキャロルと翼達が驚き、響達が非難の声を上げる。
『俺は一言も選択肢から選べなんて言ってませ~ん!勝手に勘違いしたのが悪い!!俺は走った方が車より速いし、“障壁”で最短距離を突っ切れるんだから十分前後遅れても余裕で追い抜けるっつーの!!事故死なら合法かな?って、響のクソ親父がアルカノイズに囲まれた時は正直迷ったけど…まあ、響の素晴らしい歌に免じてギリギリ及第点ってことで、“障壁”を展開出来ないようにするのだけはやめてやったよ。ありがたく思え』
「「っ!!?」」
ナナシの言葉に響と、本部にいる洸が驚く。洸は助けに入れたのに見過ごそうとしたナナシに一瞬憤慨するが、原因は自分にあることを思い出してその想いを飲み込んだ。
(…今回だけは目を瞑って、俺の一方的な約束も破棄してやる。もし、次に再び俺の可愛い妹弟子を裏切ったなら…生き残ったことを必ず後悔させてやるから覚悟しろよ?)
(っ!!?!?)
…そんな洸に、“血晶”を介してナナシの警告が伝わったため、洸は思わず息を飲んだ。
『まあ、そんな訳で正解者はゼロ!結果も、ドヤ顔で理由を説明したクソガキのオツムも残念でした!!あははははは!!』
再びキャロルを煽って笑い声を上げるナナシ。だが…
『…おい、ナナシ。正解を口に出してた奴がいたぞ?』
『えっ!!?嘘だろ正解者いたの!!?』
…奏の通信を聞き、ナナシが驚愕の声を上げた。それに続き、今度は了子の声が響く。
『エルフナインちゃんがボソッと『ひょっとして、もっと前に…』って口にしてたわよ?充分正解なんじゃない?』
『い、いえ!?そんな、正確に答えた訳じゃ!!?』
『いやマジで充分だろ!!?エルフナインさんマジパネェ!!?やっべぇ!?正解させる気なかったから景品用意してねえ!!?……よし!エルフナインには『俺が何でも一つ願いを叶えてやる権利』をやろう!あくまで俺に出来ることな?俺は“紛い物”だから加減してくれ。世界征服も、永遠の命も、これから地球に来るサ〇ヤ人を倒してくれも無理だからな?最後のヤツは弦十郎に頼んでくれ!』
『俺にも出来るか!?ナナシ君は俺を一体何だと思っているんだ!!?』
『埒外の“紛い物”の力と超先史文明期の巫女の頭脳でも解き明かせない理不尽の権化』
「「「「「「『『『『あ~…』』』』」」」」」」
『全員納得しないでくれ!!?』
「貴様ら…!揃いも揃ってオレを馬鹿にしているのか!!?いい加減に…ッ!!?」
そこまで口にしたキャロルが、あることに気が付き口を閉ざす。
(オレがここに来た時には既に到着していた…?ならば何故、今まで傍観に徹していた?歌女共がオレの歌で追い詰められた時も、世界の分解が開始される時でさえ、介入することが無かったこの男が…オレの前に姿を現すまでの間に、何を…?)
ナナシが空白の時間に何かをしていたことに思い当たり、キャロルがその口を開いて…
(「アンノウン!貴様、これ以上何を企てている!?」…という)
「アンノウン!貴様、これ以上何を企てている!?…はっ!?」
…“念話”でセリフを完全に先読みされたことを伝えられ、驚いた。
『よっしゃ、成功!一回はやってみたい漫画のキャラの行動が綺麗に決まった!!』
「ッ!!ッ!!!ッ!!!!」
何処までもふざけたナナシの態度にキャロルは歯を食いしばって、もう言葉を発することもなく周囲を見回してナナシを探し出そうとする。
『悪い悪い、さっきの約束を守るついでに、その質問の答えも教えてやろう!』
通信機からナナシの声が響いた、その瞬間…キャロルの視界に、
笑うナナシ、手を振るナナシ、あっかんべーをするナナシ、漫画を読むナナシ、サイリウムを振るナナシ…周囲の様々な場所に、様々なナナシが姿を現した。
「何…だと…!!?」
『約束通り、『俺の姿を現して』やったぜ!あははははは!』
“水鏡”
キャロルと装者達の周囲に、“認識阻害”を解除された無数のナナシ人形が姿を現したことで、キャロルも装者達も絶句していた。
『これが現状俺に出来る“分裂”の代替案!さあ、どれが本物の俺か分かるかな!?』
「このような虚仮威しが…ッ!!?」
キャロルが錬金術で周囲のナナシ人形を吹き飛ばそうと試みると、背後から一体のナナシが飛び掛かってきた。咄嗟にキャロルは冷気を放って、ナナシを…ナナシ人形を氷像へと変える。
(…そういうことか…読めたぞ、貴様の狙い!)
キャロルが改めて周囲を確認すると、姿を現したナナシ人形に混じって、姿のはっきりしない人影が見える。
(恐らく、敢えて能力を解除していない人形による奇襲…それに紛れて、本体がオレを攻撃する、といったところか?後は、オレが気を取られている間に歌女共か本体でシャトーを破壊する心算なのだろうが…愚かな!シャトーの強度はそう易々と突破できるものではない!人形と歌女共、そして貴様の本体が奇襲してきたところで、絶唱を奏でるオレは容易に対処出来る!)
ナナシの意図を読み切り、キャロルは余裕の笑みを浮かべる。
「浅はかな!このオレに頭脳戦を仕掛けるなど、身の程を知るがいい!アンノウン!!」
ニヤリと笑うキャロル。だが、その笑みはすぐに崩れることになった。
『因みに、ナナシ人形が狙っているのはお前の唇だからな?』
「ッ!!?」
「「「「「「えっ!!?!?」」」」」」
ナナシの言葉にキャロルが絶句し、装者達が驚愕の声を漏らす。
『悪ガキの悪戯と言えばスカートめくりが定番だけど、どいつもこいつもモロ出しみたいな恰好してるからな?なら、お前の人形がやってきたことを倍返しにしてやろうと思ってな!せいぜいお前も突然唇を狙われる恐怖を味わえ!気を付けろよ?その人形は俺の血液で出来てるんだからな?病魔の血液なんて、
「貴様!いい加減に…ッ!!?」
あくまでもふざけた態度を崩さないナナシにキャロルが怒鳴って…その直後、あることに気が付き硬直する。
『ああ、気づいたか?錬金術って便利だよな?俺が血液飛ばしても、凍らせたり吹き飛ばしたり分解したり…それだけ色々出来るなら、当然『体内に入った病魔の血液』もどうにか出来るよな?』
「ッ!!?!?」
ナナシの言葉に、キャロルがゾクリと身を震わせる。自在に動く血液が体内に入る…その生理的嫌悪に、思わず口を押えて顔を顰める。
『技名を付けるなら“血液感染”ってところか?お前のお陰で新しい力の使い方を思いついた!素晴らしいヒントをありがとう!』
「チッ!だが、勝ち誇るにはまだ早い!多少警戒度が上がったところで、オレを追い詰められるなどと思い上がるな!!」
気丈に叫ぶキャロル。それを聞いたナナシは…呆れたように溜息を吐いた。
『はぁ…全く、ここに至って尚、可能性の片鱗さえ思い当たらないのか…世界屈指の錬金術師と聞いて、密かに期待していたのに…お前には心底失望したぞ、キャロル・マールス・ディーンハイム!』
「なっ!?貴様、突然何を言っている!!?」
突然ナナシが態度を一転させて、侮蔑を籠めた言葉を投げかけてきたことに、キャロルは困惑しながら怒鳴り返した。
『仕方ない、お前用に特別なクイズをもう一問出題してやる。景品が無い代わりに出題前にアホ程ヒント出してやるから、せいぜい答えを導き出してみせろ』
「貴様…ッ!!?」
襲い掛かってくるナナシ人形を対処しながら、キャロルは冷静に周囲の情報を把握することに努める。そんなキャロルの耳に、ナナシの言葉が聞こえてきた。
『装置っていう物は、巨大であればある程、複雑であればある程に、起動も停止もキチンとした手順を踏む必要が出てくる。一度起動してしまえば、そう簡単に停止することは出来ない』
「…?一体、何を…?」
唐突な話題に、キャロルが困惑するのも無視して、ナナシの言葉が続けられる。
『位相空間に干渉する技術を己がものにした錬金術師…そんな相手をどうやって追い詰めれば良いか?簡単だ、逃げられない状況を作れば良い』
「だから!貴様は突然何を…言って……」
訳の分からないナナシの言葉に、キャロルがまたも怒鳴り…途中で言葉が尻すぼみになっていく。
『フォトスフィアのデータをお前達が盗み出したのは、あの
「ッ!!?」
ゾクリと、キャロルの体に悪寒が走る。拒絶反応による不調ではない、もっと別の、寒気に似た感覚がキャロルを襲う。
(オレは、行動を起こす前にも、記憶のインストールから目覚めた後にも、この場所を確認していた…この仕掛けは、オレが眠っている間に?…不可能だ、時間が足りない。そのような大掛かりな事を、オレに悟られることなく…いや、そもそも、こいつらは何時、オレがこの都市部で行動を起こすと察した…?)
思考を続けるキャロルに、更にナナシの言葉が届く。
『運が良いと言えば、エルフナインに仕組まれた毒に気付けたこともそうだよな?ああでも、それに気づいた俺がそれを利用してお前を説得するために情報を隠蔽したのは、お前にとっても運が良かったか?そう考えると、お互いご都合主義展開に助けられたな?』
「あ…ああ…ぁ…」
キャロルが、その口から震える声を漏らす。形容しがたき恐怖が、徐々にキャロルの心を蝕んでいく。
『さて、そろそろ出題に入ろうか?エルフナインがS.O.N.G.に来た時、当然お前は覗いていたよな?お前にとってエルフナインの潜入の可否は、計画を大きく左右する重大な場面だったはずだからな?』
「……ま、て…」
『そんなお前にサービス問題だ。よーく思い出して答えてみせろ』
「……や、めろ…」
キャロルが、首を振って呆然と拒絶の言葉を呟く。だが、無慈悲にもナナシの言葉は止められることなく、キャロルにとって致命的となる問題が出題される。
『なあ、クソガキ?』
「あり得ない…そんなこと…」
『エルフナインがS.O.N.G.に初めて来た時…』
「ああ…あああ…ああぁああ……」
『
「あああぁぁああああぁああああぁぁぁああああああぁあああああ!!?!?!!?」
『まあ、怪しいは怪しいけど、嘘は言ってないみたいだし、信じても良いんじゃないか?』
キャロルの脳裏に、その時の言葉が過るのと同時に、これまでの記憶が一気に駆け巡り、キャロルの中で全てが繋がっていく。
「あああああああり得ない!!!?そんなこと!!?あるはずがない!!?!?そんな!!?そんなこと!!?!?」
これまで優位に立っていたが故の余裕が吹き飛んで、キャロルが目の前の現実を拒絶するように頭を抱えて動揺を露わにする。
「そんな…オレが
そう、この状況はキャロルがS.O.N.G.に接触する前から準備がされていないと陥らない状況だ。周囲の仕組みも、事前準備された血液の量も、全てはキャロルがこの時、この場所で行動を起こすと分かっていたが故の、巧妙な罠。
何よりキャロルにとって恐ろしいのは、『つい先程まで何の違和感も無かった』ことだ。エルフナインやオートスコアラー達、そして自分で目撃したS.O.N.G.の人間の反応はあまりに自然で、自分を欺こうとした様子は全く感じ取ることが出来なかった。
それが意味することは、つまり…自分を含めた、敵味方全員の思想が完全にあの“紛い物”に誘導され続けていた、と言うことだ。
冷静ではいられなくなったキャロルは、叫びながら次々と錬金術を放ってナナシ人形を消滅させていく。一刻も早く悪夢を終わらせるべく、キャロルは全力で“紛い物”の排除に取り組んだ。
(不正解!残念賞として、身の毛のよだつ恐怖をプレゼント!…なんてね?)
錯乱しながらナナシ人形を攻撃するキャロルの様子を、ナナシは…最初にナナシが貯水タンクに立っていた建物、その残った地上付近の部屋の中から眺めていた。
この建物は、ナナシが事前に購入して改造していたものの一つ。最初の消し飛んだナナシはここから血液の有線接続で操作していた人形の一体だ。壁の一面はマジックミラーとなっており、外からは中の様子を見ることが出来ない。部屋の至る所にはモニターが設置され、町中の監視カメラの映像が表示されていた。ナナシは部屋の中央の椅子に座り、両手を床から生えた筒のようなものに突っ込み、“収納”から血液を供給しながら周辺状況の把握に努めていた。
(頭脳戦で勝てると思うな?身の程を知れ?バーカ、知識を持つのと、それを上手く扱えるのは全く別問題だっつーの。何百年知識を蓄えようが、引き籠って理想的な環境で理論値ばかり追い求めているから想定外に混乱することになるんだよ、クソガキ。経験を積むって意味では、お前はエルフナインよりも遥か格下だ。だから
…ナナシがこの一連のやり取りを思いついたのは、本部に向かう途中でエルフナインから“念話”が届き、諸々露見したことを聞き、東京上空にチフォージュ・シャトーが出現したのを目撃してからだ。
違和感が無かった?当然だ。存在しないものを感じられる訳がない。ナナシがキャロルの存在を知ったのは、エルフナインの話を聞いたからだ。
仕掛けを施した動きが見られなかった?当たり前だ。この仕掛けを準備し始めたのは、キャロルが接触してきた約一ヵ月の間ではなく、半年近く前なのだから。場所が被ったのは、同じフォトスフィアを参考にしたための、ただの不幸な偶然である。
キャロルが自身の願望を、父親の命題を導く過程に組み込んでいる…そのことにナナシが気付いたのは、ナナシが日常的に過程と目的を入れ替えているからだ。
翼が防人であることを嫌に思わせるために悪戯をした。だが、何時からか悪戯そのものが楽しくて夢中になった。
情報がすぐに欲しくて勝手にデータベースにアクセスした。だが、それでセキュリティが強化されることに気が付き定期的にハッキングするようになった。
故に今回も、世界を繋ぐために始めた愚かな実験を…世界を壊す歌を隔離するための、巧妙な策に入れ替えた。
それを可能とするのは、巧みなナナシの話術…ナナシが翼を『柔らかく』するために始め、今やナナシの在り方の一部と言ってもいい悪戯は、ナナシのある力を飛躍的に向上させていた。
それは、『人の意識を逸らす力』である。盲目的に一つのことに目を向ける人間の、思考を乱して、隙を突いて、再度意識を戻す前に、道筋に数多の罠を仕掛ける。
最初のクイズも、キャロルに自然と『過去を振り返る』という行動を取らせるための導入。そこから悪夢のような答えに導くヒントを語り続けたのだ。
これによって、キャロルはナナシの存在を無視出来なくなった。キャロルにとってナナシの存在は、『詳細は不明だが装者と同程度の障害』ではなく、『悪魔的智謀によって人心を掌握する埒外の化け物』に切り替わった。そんな存在が未だ姿を隠して…いや、姿を大量に現して、暗躍しているのだ。冷静でいられる訳がない。
(俺は何も出来ないって、さっき言ったはずなのに…俺を警戒するなんて、時間の無駄だぞ?)
ナナシはキャロルを見ながら、クスリと笑う…その顔中から、大量の血を流しながら。
(たかだか小国の都市一つでこの有様か…世界には程遠いな…)
“血流操作”で血液を操るのは、あくまでナナシのマニュアル操作。大質量の血液でシャトーを覆いながら、人型に固定した血液をリモートで複数操作…それらの作業に、ナナシの脳は悲鳴を上げていた。余裕ぶってはいるが、ナナシは現在“高速再生”を駆使して脳が焼き切れないようにするだけで精一杯である。キャロルを襲う人形も、奇を衒うことなく突っ込ませるのが限界だ。仮にキャロルの体内に血液を侵入させたとしても、細かな操作が出来ずキャロルを殺してしまうことになるため、ナナシはキャロルが対応出来る時にしか人形を動かしてなかった。
ならば何故、わざわざキャロルの自分への警戒心を最大限に高めさせたかと言うと…
(そんな訳だから、世界の命運は任せたぞ!調!切歌!アイドル大統領!)
…自分以外を活かすためである。
シャトーの真下にある建物の壁面を、調が展開したギアに乗って三人は登っていた。今地上に残っているのは、キャロルが動揺している間に入れ替わった三人の“水鏡”である。
ナナシはキャロルに語り掛けながら、“念話”で全体に現状を説明、シャトーを停止するために、三人をシャトーに送り出していた。
(ナナシ…あなたには、『悪夢』の二つ名でさえ不足していると、今ハッキリ分かったわ)
(じゃあ代わりの渾名を考えてみてくれ!俺もお前の新しい渾名を考えてやるから!そうだな…『豆腐』とかどう?)
(誰が豆腐メンタルよ!!?というか、私の“血晶”の“念話”は解除したんじゃなかったの!!?)
(『一旦解除した』って言っただろ?回収した時に解除して、投げ渡す時には“付与”し直してたよ)
(…あーもう!!この男は!!!)
(お、落ち着くデス!マリア!!)
(先生が世界の分解を止めてくれている間に、私達でシャトーを止めるよ!)
そんな会話の間に三人はシャトーに辿り着き、キャロルに一切気づかれることなく内部への侵入を果たした。
(後は俺がクソガキを茶化して隙を作るから、響達はそのタイミングで攻撃してくれ!)
(わ、分かりました!…けど…)
(うむ…これは…その…)
(もうイジメだろ?これ…)
(えー?ちょっとこれから泣き叫ぶクソガキを大人数で囲んで袋叩きにするだけだろ?)
(((言い方!!?)))
自分の唇を狙って襲い掛かるナナシ人形を怯えた表情で悲鳴を上げながら撃退するキャロルの姿に、敵ながら響達も同情せざるを得なかった。だが、このまま世界を分解される訳にもいかないため、三人もナナシの指示通りに攻撃を開始するため移動し始める。
(さて…後はひたすら時間稼ぎに徹するだけ。俺の血液の貯蓄にも限りがあるからあまり長くは持たないが…まあ、あいつらならきっとやってくれる!)
沸騰寸前の頭で、夥しい量の血を流しながらも、ナナシは笑みを浮かべてみせる。自分の大切な歌姫達と…小さな共犯者を信じて。
(世界の分解はあいつらが止めてくれる!だから…あのクソガキの事は、よろしくお願いします!エルフナイン!!)
何だこの碌でもない主人公…
一応言い訳させてもらうと、執筆当初はナナシが時間を稼いでる間にマリア達がシャトーに侵入、響達がナナシを守るって感じだったんですよ。
それが、執筆を続ける内に主人公の邪悪さに当てられてプロットが突然変異しまして…
なお、そんな作者の執筆の仕方と、この物語の傾向的に、後半の敵キャラほど可哀想なことになっていきますw
あと、作者は賭けも投資も経験したこと無いのでかなり適当な事を言っています。色々変なところがあってもご都合主義が働いたんだなくらいに思って頂けるとありがたいですw