戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第107話

「来るな!!来るなぁあああ!!」

 

キャロルが叫びながら、口を突き出した間抜け面で突撃してくるナナシ人形を錬金術の光線で吹き飛ばす。そのまま視界に入るナナシ人形を光線で薙ぎ払っていると…

 

「やあ!!」

 

「はあ!!」

 

「ッ!?邪魔だ!!」

 

「うわああ!!」

 

「くっ!!」

 

背後から響と翼が奇襲を仕掛ける。だが、キャロルは二人の攻撃を弦で簡単に防いで弾き飛ばしてしまった。すると今度は…

 

「これならどうだぁぁぁ!!」

 

「だから、無駄だと!!…ッ!!?」

 

再び背後から、クリスがミサイルを発射してキャロルを奇襲する。それをキャロルが防壁を展開して防ごうとして…そのミサイルの上に、ナナシ人形が乗っていることに気付いた。

 

「わああああぁぁあああ!!?」

 

高速で接近してくるナナシの姿に、キャロルが叫びながら近づく前に弦でミサイルとナナシ人形を両断する。ミサイルとナナシ人形の胴体が両断され、ミサイルが爆発してナナシ人形が爆風で吹き飛ぶ。だが…

 

ズルズルズルズルッ!!

 

…キャロルの近くまで吹き飛んだナナシ人形の上半身が、まるで妖怪のように手で這いずりながら迫ってきた。

 

「ああああぁぁあああぁああああ!!?」

 

キャロルがすぐさま冷気で凍結させて、風で凍った人形を吹き飛ばす。

 

キャロルの猛攻によってその数を減らしつつあるナナシ人形だが、人形の数が減るということは、ナナシの脳にかかる負荷も減っていくことでもあり、人形の動きに多様性が出てきた。手を振るなど単調な動きを繰り返していたはずの人形が、装者達と連携するような動きを見せ始め、中にはキャロルを煽るために遠目にオタ芸を踊り始める個体まで出始めた。

 

ドクンッ!!

 

「ぐあああ!?」

 

そして、キャロルを苦しめるのはナナシと装者達だけではない。キャロルが感情を動かすほどに、まるで呼応するように拒絶反応が起こる頻度が増していく。

 

「はああああ!!」

 

「やああああ!!」

 

「喰らいやがれ!!」

 

「ぐあっ!?」

 

そうなると、これまで完全に防がれていた響達の攻撃も被弾することが増えてきた。

 

奇襲を仕掛ける装者達、身に降りかかる拒絶反応、キレッキレになっていくナナシのオタ芸…状況は未だキャロルが優勢のはずなのに、キャロルは精神的に追い詰められていた。

 

(何故……オレは……こんな……)

 

拒絶反応による頭痛で朦朧とするキャロルの頭に、声が響き続ける。

 

『黙れよ。父親の遺言を自分の願望のために都合良く歪めているクソガキが、賢人ぶってんじゃねえ』

 

『お前は自分の願望を、父親の命題に答えるための『過程』に組み込んだ。お前は父親の命題を都合の良いように解釈して、父親の命題を解き明かすためと言い訳して自分の願望を叶えようとしている』

 

『てめえの行動の責任まで、全部他人に押し付けてんじゃねえよ、クソガキが!!てめえの父親の在り方を決めているのは、他でもないお前自身なんだよ!!自分の思考も、生きる意味も、やったことの責任も全部死んだ人間に押し付けて逃げてばかりのお前が、偉そうなこと抜かしてんじゃねえ!!!』

 

それは、キャロルを責め立てるナナシの言葉。目の前の現実から目を逸らそうとするキャロルに、それさえも許さず追い打ちをかける言葉。

 

(オレは……私は……パパの命題に答えようと……パパの望みを……叶えたいだけなのに……)

 

混濁する意識の中で、キャロルは苦しみながらも必死に抗う。すると…

 

『キャロル…生きて、もっと世界を識るんだ』

 

…不意に、父親の声が頭の中に響いた。

 

(分からないよ……私は、どうすれば良いの?……教えてよ……パパ……)

 

 

 

 

 

チフォージュ・シャトーに侵入したマリア、切歌、調の三人は…地面に横たわっていた。シャトー内部に侵入した直後に、三人はある人物から襲撃を受けたのだ。その人物とは…

 

「…ナナシ」

 

「思い出せ、お前の手は血に汚れている。そんな手で世界を救えるなんて、どうして夢想することが出来る?」

 

「それでも、私は…」

 

普段の笑みとは違い、無表情の冷たい眼差しでマリアを見つめるナナシに、マリアは身を起こして気丈に言葉を返す。

 

「お前が世界を救いたいのは、自分が救われたいからだろ?」

 

「っ!?」

 

「解放されたいんだろう?受け継いでしまった白銀の重さから…」

 

マリアのその身を、左腕に填めたアガートラームを見つめながら、ナナシはマリアの心を惑わせるように言葉を紡ぐ。

 

「マリア!あれはナナシさんじゃないデス!!」

 

「先生は今、世界の分解を食い止めるために外で戦っている!それに先生は、マリアにそんな酷いこと…酷い、こと……」

 

「あれ!?とっても言いそうデス!!?」

 

「…逆に、語った真実に悪意のオブラートが少なすぎて、本物よりずっとまともだと思えるわ」

 

そう苦笑しながら、マリアは立ち上がってナナシを…ナナシの偽物を見据える。動じないマリア達を追い詰めるためか、今度は頭上から瓦礫が落ちてきた。

 

「切ちゃん、マリア、引こう!」

 

「…偽物なら一発くらい殴っても良いんじゃないかしら?」

 

「そんな暇はないデス!とってもとっても罠っぽいデスけど、今は逃げるデスよ!!」

 

偽物のナナシに殴りかかろうとするマリアの手を調と切歌が引いて、瓦礫を避けながら三人がシャトー内部を進んでいく。すると、その先に…

 

「罠なら、そろそろ仕掛けてきても良い頃合いだと思ったデスが…」

 

「罠以下の罠…」

 

「もしかして、アタシ達を誘導していたのは…」

 

「ドクター、ウェル…!」

 

三人の前には、壁に寄りかかって座り込む、ボロボロのドクターウェルがいた。

 

「ご覧の有様でね…あっちこっち打ちつけて、色んな骨に罅が入ったみたいだ…痛みで踏ん張りが効かず、シャトーの機能を完全掌握する事もままならないから難儀したよ」

 

現状を伝えたウェル博士は三人に顔を向けると、邪悪な笑みを浮かべて言った。

 

「さて、戦場で僕と取引だよ!!」

 

 

 

 

 

激闘を繰り広げる響達とキャロルだったが、キャロルを撹乱するナナシ人形の数が減っていき、既に数体のオタ芸を踊る個体が点在するのみとなった。一糸乱れぬ動きでキレッキレのオタ芸を披露するそれらは視覚的な苛立ちをキャロルに与えこそすれ、身に迫る脅威が減ったことでキャロルは幾分か落ち着きを取り戻していた。

 

「何で、錬金術師が歌っていやがる!?」

 

「ハァ…ハァ…七つの惑星と七つの音階、錬金術の深奥たる宇宙の調和は、音楽の調和。ハーモニーより通ずる絶対心理…」

 

乱れた息を整えながら、キャロルがクリスの問いに対する答えを口にする。

 

「どういうことだ!?」

 

「その成り立ちが同じである以上、おかしなことでは無いと言っている」

 

『成り立ちが同じ?…まさか!?』

 

通信機からナナシの驚愕する声が響く。キャロルは、響達に先程の発言の意味を語り出した。

 

「先史文明期、バラルの呪詛が引き起こした相互理解の不全を克服するため、人類は新たな手段を探し求めたという。万象を識ることで通じ、世界と調和するのが錬金術ならば、言葉を超えて、世界と繋がろうと試みたのが…」

 

「歌…」

 

「錬金術も歌も、失われた統一言語を取り戻すために創造されたのだ!!」

 

キャロルの言葉に、響達が驚愕する。それが意味することは、つまり…

 

(前に、錬金術は了子が統一言語に代わる新たな相互理解の方法を模索して生み出したって言っていたよな?それって…歌を生み出したのも了子ってことじゃん!!?女神じゃないか!!?ヤバい、崇め称えないと!)

 

(この状況で茶化すんじゃないわよナナシちゃん!!)

 

本気(マジ)に決まっているではないですか了子様!!そうですね、とりあえずリディアン女学院を聖・リディアン女学院に改名して、敷地内に大きな教会を建て、そこに巨大な了子様…いや、この場合はフィーネ様の像を設置しましょう!全校生徒には毎朝フィーネ様を称える讃美歌を奏でさせ、年に一度フィーネ様より授かった歌を今日まで受け継ぎ昇華させてきた報告を行うための祭事を行うことに…)

 

(や・め・な・さ・い!後半の歌関係についてはナナシちゃんが聴きたいだけでしょう!!?)

 

ナナシの九割九分本気の茶化しとツッコミを入れる了子のやり取りを“念話”で聞いた響達は力が抜けて倒れそうになる。だが、キャロルが歌を奏でることで力を増したことには得心が行った。起源と目的を同じとするなら、確かにキャロルの言う通りおかしなことでは無い。

 

「世界の分解は止まらない。些事で止めさせてなるものか!」

 

「止めてみせる!エルフナインちゃんの想いで!」

 

「よせ!」

 

「イグナイトモジュールの使用は、キャロルに利される恐れがある!」

 

イグナイトを使用しようとする響を、クリスと翼が慌てて止める。だが…

 

『止めるな!歌えお前達!!』

 

…響を止める翼達の言葉を遮り、ナナシが逆にイグナイトを使うよう呼び掛けた。

 

『あのクソガキの歌と想いを止められるのは、お前達の歌とエルフナインの想いだけだ!なら、些事なんて気にせず全力で歌え!お前達はいつもそうやって、望む未来を掴み取って来たんだ!クソガキのちっぽけな策なんて、お前らの歌と想いの力で吹き飛ばしてやれ!!』

 

「…随分と分の悪い賭けじゃねえか」

 

「だが、嫌ではない。この状況では猶の事!」

 

「この力は、エルフナインちゃんがくれた力だ!だから疑うものか!!」

 

「「「イグナイトモジュール、ダブル抜剣!」」」

 

三人は同時に胸のギアペンダントへと手を掛けて、イグナイトモジュールを起動するボタンを二度連続で押し込み、魔剣の呪いを力へと変えた三人のシンフォギアが漆黒に染まる。既に幾度か使用に成功しているイグナイトモジュール。しかし、その身に宿す力はこれまでよりもずっと強大なものであった。

 

イグナイトモジュールに施された三段階のセーフティ…ニグレド、アルベド、ルベドの内、初期のニグレドを飛ばした第二段階のアルベドによる高出力によって三人はキャロルに立ち向かう。制限の解放は稼働限界のカウントダウンを加速させるリスクを伴うが、歌で強化されたキャロルに立ち向かうべく三人は賭けに出た。

 

掴んだこの力の意味の 重さ、使命、運命(さだめ)に負けない!

 

力強い旋律と共に繰り出される装者達の猛攻…だが、キャロルはその全てを軽く受け止め、跳ね返してみせる。

 

「フン、力押し…実にらしいし可愛らしい…が!!」

 

「うわああ!!」

 

キャロルが手を振るうと、接近してキャロルの防壁を攻撃していた響が吹き飛ばされる。空中で翼が響をキャッチして何とか事無きを得た。だが…

 

「イグナイトの二段階励起だぞ!?」

 

三人とキャロルの埋まらぬ戦力差にクリスが思わず驚愕の声を上げた。

 

「フン、次はこちらで歌うぞ!…嗚呼、終焉への追走曲(カノン)が薫る 殺戮の福音に血反吐と散れ!

 

キャロルが美しい旋律を奏で始めると、ただでさえ強大だったキャロルの力が更に増大していく。

 

「更に出力を!?」

 

「一体どれだけのフォニックゲインなんだよ!?」

 

「でも、待っていたのはこの瞬間!!」

 

そう言って、響がキャロルから受ける圧にも臆することなく胸のギアペンダントへと手を伸ばす。翼とクリスもそれに追従して、三人は同時にイグナイトモジュール起動ボタンを押し込んだ。

 

「抜剣!オールセーフティー!!」

 

「「「解放(リリース)!!!」」」

 

イグナイトの最終段階、ルベドへと移行した三人のギアが爆発的に出力を増して、キャロルの放つフォニックゲインの波動を真っ向から受け止める。

 

「イグナイトの出力で捻じ伏せて!」

 

「吹き荒れるこのフォニックゲインを束ねて、打ち放つ!!」

 

「S2CA、トライバーストー!!!」

 

三人は力の奔流に耐えながら、キャロルの放つフォニックゲインを抑え、束ねようとする。だが、圧倒的なキャロルのフォニックゲインによって徐々に押し込まれていった。

 

「ぐっ!?このままじゃ暴発する!!?」

 

「イグナイトの最大出力は知っている!だからこそそのまま捨て置いたと分からなかったのか!!」

 

キャロルが更に力を籠めながら、必死に耐える三人に宣言する。

 

「オレの歌は、ただの一人で七十億の絶唱を凌駕する、フォニックゲインだぁあああ!!!」

 

遂に三人が限界を迎え、キャロルの放つフォニックゲインの濁流が三人を飲み込もうと襲い掛かり…

 

 

 

(三人共、全力で横に飛べ!!!)

 

 

 

ナナシの“念話”が三人に届くのと同時に…三人の前に、調と切歌の体が躍り出た。

 

「「「!!?」」」

 

三人は驚きながらも、咄嗟の判断で真横に跳躍する。入れ替わるようにフォニックゲインの波動の前に出た調と切歌の前に“障壁”が展開され、その力を押し留める。

 

「あははははは!そいつらを助けるために、満足にギアを使いこなせないガラクタ共を切り捨てたか!!合理的な判断だ!望み通り、そのチビ共から消し飛ばしてやろう!!」

 

ナナシの“障壁”は、ほんの一瞬だけキャロルのフォニックゲインを抑えるが、あっという間に“血晶”の力を使い切って、そして…

 

 

 

キャロルの目の前で、調と切歌の体が突然塵と化して、誰もいなくなった空間をフォニックゲインの波動が通過していった。

 

 

 

「な…に…?」

 

調と切歌…二人と入れ替わっていた“水鏡”、つまり『人型の“血晶”』が塵と化したことによって、予想外の光景にキャロルの意識に一瞬の空白が生まれた。その隙に、キャロルに忍び寄る人影…マリアの“水鏡”がキャロルの背後を取った。

 

キャロルが一拍遅れてマリアの“水鏡”に気付き、背後を振り返る…

 

その間に、マリアの“水鏡”はキャロルの顔に手を伸ばし…

 

マリアの“水鏡”の顔が、キャロルの顔へと近づき、そして…

 

 

 

ブチュッ!!!

 

 

 

マリアの唇が、キャロルの唇…その数センチ横のほっぺたに、思い切り吸い付いた。

 

両陣営、その結果に一瞬だけ膠着、その直後…

 

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?!?!!?!?」

 

 

 

キャロルの大絶叫が周囲に響き渡り、自傷さえ考慮しないありとあらゆる錬金術がマリアの“水鏡”へと放たれて、マリアの“水鏡”は瞬時に塵も残さず消し飛ばされた。

 

(混乱の淵から復帰して調子に乗っているクソガキを止めるにはどうすれば良いか?もう一回混乱の淵に叩き落してやれば安堵との落差でもっと深い場所まで落ちて面白いことになるぞ!一粒で二度美味しいな!!あははははははは!!)

 

半狂乱になるキャロルを眺めていた響達の頭に、ナナシから“念話”でそんな言葉が伝わってきて、三人は何とも言えない気持ちになった。

 

「クソ!?クソ!!?い、一体、何時から!!?あの、あのガラクタ共は!!一体何処に!!?」

 

キスマークがついたほっぺたを、皮膚が削がれてしまうのではないかという勢いでキャロルが拭っていると…突如、チフォージュ・シャトーがこれまでにない挙動をし始めた。

 




何気にダメージが大きいのは知らない間にキャロルの背後から近づいてほっぺにキスする場面をS.O.N.G.に記録されたマリアさんw

ナスターシャ教授は生きているからシャトーに誰を出すか悩みましたが、もう既に沢山増えてるしもう一人ぐらい誤差かなと思って主人公にしましたw
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