戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第109話

『オレの代わりに、パパの命題に答えるだと?…ふざけるな!!』

 

エルフナインの宣言を聞いたキャロルは、怒りを露わにエルフナインを怒鳴りつけた。

 

『記憶を複写転送されただけの、廃棄躯体風情が自惚れるな!身の程を弁えろ!!出来損ないの娘である貴様が導いた答えなど、聞く価値もないガラクタ以下だ!!!』

 

キャロルは感情のままにエルフナインを罵倒する。その顔と言葉に表れているのは確かな怒り。だが、その必死さは何処か怖がっているようにも思えた。

 

そんなキャロルの罵倒を真正面から受けていたエルフナインは…

 

「フフッ…」

 

『「「「「ッ!!?!?」」」」』

 

まるで、鼻で笑うような…明らかな『嘲笑』で応えたため、キャロルどころかエルフナインを知る周囲の全員が驚愕していた。

 

「駄目じゃないですか、キャロル?知識を尊ぶ錬金術師であるあなたが、感情のままに言葉を口にしては…」

 

『な…な…何だと!?』

 

目の前で笑うエルフナインに気圧されまいと、キャロルは何とか言葉を返す。そんなキャロルに、エルフナインは諭すように言葉を紡いだ。

 

「記憶を複写転送されただけの廃棄躯体…パパの記憶を持つだけの、出来損ないの娘…ええ、あなたの言う通りです。ボクは確かに、あなたと比べれば出来損ないの娘です…ですが、それでも『命題を答える資格を持つパパの娘』であることを、キャロルは否定出来ないはずです」

 

『何だと…?』

 

静かに語られるエルフナインの言葉に、寒気に似た何かを感じながら、キャロルは疑問を口にする。

 

「何故なら、パパの記憶を複写転送されたボクに、パパの命題に答える資格が無いのなら…同じように記憶の複写転送によって命を繋いできたキャロルにも、その資格は無いはずです」

 

『なっ!!?そんな馬鹿な理屈が成り立つはずが!!?』

 

「本当にそう言い切れますか?」

 

『ッ!!?』

 

「実際にパパと過ごして、言葉を交わして、積み上げてきた経験は確かに家族の絆として根拠になるかもしれません。ですが、その経験も想い出の複写転送で生き永らえてきたキャロルにとって本当に『自分だけの経験』と胸を張って言えますか?現に、同じ記憶を持つ別の個体が目の前に存在しているのに」

 

『ッ!!?』

 

「人格面でも、過去のキャロルは自分の事を『オレ』ではなく『私』と言っていることから分かるように、長き時を生きたことでキャロルの人格もパパと生きてきた時から変貌しています。ボクの性格を根拠には出来ないはずです」

 

『ぐっ!?』

 

「知識を得ることで、パパの命題に答える資格が得られる…ですが、どんな知識がパパの命題を答える上で必要になるか分からない以上、現時点での知識量の差を根拠には出来ないはずです。キャロルもパパが求める知識が分からないからこそ、万象黙示録によって『全て』を識ろうとしたのですから」

 

『……』

 

流れる様に紡がれるエルフナインの言葉に、遂にキャロルが黙ってしまった。そんなキャロルに、エルフナインが笑みを浮かべて、トドメの一言を放つ。

 

「ハッキリ言ってしまえば良いじゃないですか、キャロル?…自分より先に、出来損ないの娘がパパの命題に答えてしまうのが怖いと」

 

『!!?!?』

 

挑発するように紡がれるエルフナインの言葉に、キャロルは自身をここまで追い詰めた“紛い物”の存在を思い出して、言葉を失ってしまった。

 

そして、言葉の力によってキャロルの優位に立ってみせたエルフナインの心境は…

 

(こ、これで良いんでしょうか!?ちゃんと出来ていますか!!?全然分からないですナナシさん!!?)

 

…割と一杯一杯だった。

 

 

 

実はこのエルフナインの話し方は、キャロルが眠っている間にナナシと示し合わせたことだったりする。

 

「あのクソガキ、多分お前が廃棄躯体だとか、想い出複製しただけの偽物だとか言って話聞かない可能性があるから対策しておこう!」

 

そんな風に、ナナシは持ち前の“妄想”によってキャロルの思惑を先読みして、キャロルが言ってきそうなセリフを声真似でエルフナインに語り掛け、エルフナインはそれに対する解答を事前に用意していたのだ。そこにナナシは全然隠すつもりのない隠し味として、ナナシ流の会話術をエルフナインに指導していた。

 

…なお、キャロル本人よりも苛烈な言い回しでエルフナインを半泣きにしたナナシは、諸々終えた後にそれはもう見事なDOGEZAをエルフナインに披露していた。

 

 

 

本来であれば、ナナシが“念話”で補助しつつ会話を進める想定であったが、現在ナナシは不在のため、エルフナインは良く見ると引き攣っているのが分かる笑みを浮かべて何とか一人で話の主導権をキャロルから奪っていた。キャロルが何も言えなくなったのを確認して、いよいよエルフナインは本題へと入る。

 

「ボクは、S.O.N.G.の皆さんと過ごして思いました。『識る』ということは、『歩み寄る』ことだと…故に、パパが最後に言った『世界を識れ』というのは、『世界に歩み寄れ』という意味だと考えました」

 

『歩み寄る、だと!?馬鹿な!!?自分を殺した世界に、何故歩み寄るなどと!!』

 

怒りを露わに叫ぶキャロルに、エルフナインはそう考えた根拠を語り始める。

 

「ボクがこの考えに至った理由は他でもない、キャロル自身の言葉にありました」

 

『なっ!?オレの言葉に、だと!!?』

 

「…『パパのことを知っているのは私だけだ』」

 

『ッ!?』

 

 

 

『ふざけるな!!ふざけるな!!!パパのことを知っているのは私だけだ!!パパのことを何一つ知らない貴様が、パパの在り方を好き勝手に歪めるなぁああああああ!!!』

 

 

 

それは、夢の中での語り合いでキャロルがナナシに言い放った言葉。だが、それがエルフナインの主張の理由になる意味が、キャロルには分からなかった。

 

「この世界において、パパのことを最も知っているのはキャロルだけ…でも、これは逆のことが言えるんです。キャロルが世界の誰よりもパパのことを知っているように…世界の誰よりも、パパはキャロルのことを知っていたはずです!」

 

『そ、それが、何だと言うのだ!?』

 

 

 

「パパには、きっと分かっていたんです。自分が息絶え、残されたキャロルが…復讐の道に進んでしまうことを…」

 

『!!?!?』

 

 

 

エルフナインの言葉に、キャロルが驚愕する。言葉を失ったキャロルに、エルフナインは更に語り掛けた。

 

「そんなキャロルの在り方を変えたくて…パパは最期に、『命題』という形でキャロルに想いをぶつけることで、キャロルを復讐の道から外れるように導こうとした」

 

『出鱈目だ!そんなの、お前の都合の良い“妄想”でしかない!!それが事実なら、何故オレはここまで復讐の道に歩みを進めた!?オレはパパの命題があったから、それを切っ掛けに『万象黙示録』の答えを導き出した!!貴様の主張するパパの思惑とは、まるで矛盾している!!!』

 

捲し立てる様にそう主張するキャロルに、エルフナインは…その瞳から涙を流しながら、悲し気に言葉を紡いだ。

 

「そうなったのは…そうなってしまったのは…パパとキャロルが家族で…その在り方が、どうしようもなく近かったからなんです…」

 

『な…に…?』

 

エルフナインの悲痛な声に、キャロルが困惑する。家族だから、在り方が近かったから、キャロルが復讐の道を歩んでしまったとは、一体…?

 

「キャロルが…自分の願望を、パパの命題に答える『過程』に組み込んでしまったことで…パパが…きっとパパが、何よりも大切に…『命題の答えよりも大切にしていた過程』を、キャロルが変えてしまったから…」

 

『は…?』

 

意味が、分からない…そんな思考が、キャロルの脳裏を支配する。命題の『答え』より、『過程』が重要などと主張するエルフナインの言葉が、ただただキャロルには理解出来なかった。

 

「パパは、キャロルが命題に悩み、その意味を理解するために、パパのことを深く理解しようと、パパの歩んだ軌跡を辿ることを望んだ。すぐには無理でも、いつかきっとそうしてくれると信じていた…そうすれば、キャロルはきっと、『自分が用意した命題の答え』を、見つけてくれると…」

 

『用意、した…?パパは、パパの代わりに答えを導いて欲しくて、オレに命題を託したのでは無かったと言うのか!?一体、パパがどんな答えを用意したと貴様は言うつもりだ!!?』

 

頭が痛い…

理解出来ない…

分からない…

 

もう、考えることに耐えきれず、キャロルがエルフナインに問題の核心部分を問いかけた。エルフナインは涙を拭うこともせずに、キャロルの顔を真っ直ぐに見て、自分がS.O.N.G.で積み重ねた経験と想いで導き出した命題の答えを、口にする。

 

「命題の答えは……『赦し』」

 

『ッ!!?!?』

 

「世界の仕打ちを赦せと…パパはボク達に伝えていたんだ…そして…そして…!」

 

命題の答えと共に、エルフナインは自分の想いと、自らが歩み寄った父親の想い、その全てを籠めるように…もう一人の自分(キャロル)に、叫ぶ。

 

 

 

「自分がいなくなった世界で、そんな答えを出すことが出来るくらい!……命題の答えを出すためのその『過程』で!!パパは!!!キャロルに!!!!……『幸せ』になって欲しかったんだあああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

『パパはね、世界の全てを識りたいんだ。人が人と分かり合うためには、とても大切なことなんだよ』

 

『人助けの力で、戦うのは嫌だよ…』

 

『ボクはパパが…優しかったパパが、そんなことを望んでいたなんて思えなくて、パパが望んでいないことをキャロルにさせないため、そしてパパの命題の本当の答えを識るために、キャロルのもとを離れました』

 

『てめえの行動の責任まで、全部他人に押し付けてんじゃねえよ、クソガキが!!てめえの父親の在り方を決めているのは、他でもないお前自身なんだよ!!自分の思考も、生きる意味も、やったことの責任も全部死んだ人間に押し付けて逃げてばかりのお前が、偉そうなこと抜かしてんじゃねえ!!!』

 

『あのクソガキに…キャロルに、世界を見せてやろう?』

 

『ボクは…キャロルに世界を識ってほしい!!笑ってほしい!!生きてほしいです!!!…だから…どうか、力を貸してください!!ボクがパパの命題に、答えを出してみせます!!』

 

『…君達のお父さんは、何か大事なことを伝えたかったんじゃないか?』

 

 

 

 

 

『キャロル…生きて、もっと世界を識るんだ』

 

 

 

 

 

もう一人の自分(エルフナイン)が導き出した、その答えは…

キャロルが記憶した、様々な想い出と共に、その脳裏を駆け巡り…

自分の想いと、父親の想いと、エルフナイン(もう一人の自分)の想い…様々な想いが、キャロルの中でその答えと合わさり、混ざって、そして…そして……

 

 

 

ストン、と…キャロルの胸の内に、収まった。

 

 

 

(ああ…そうか…)

 

キャロルの脳裏に浮かぶのは、眠っている間に送られてきた想い出…自分を止めるために、もう一人の自分(エルフナイン)が行っていた、父親の命題に答えるため、世界を識るための必死の模索…

 

(模索どころでは、無かったのだ…)

 

誰かと一緒に話し合う光景…

誰かと一緒に学び合う光景…

誰かと一緒に笑い合う光景…

 

世界を識るために、エルフナインが試みていたそれら全てが他でもない、錬金術師イザークが…自分の父親が何よりも望んだ、答えに至るまでの『過程』だったのだ。

 

だからこそ、自分の中にある想い出は…父親の想いは…拒絶反応という形で、キャロルに訴えかけていたのだ。キャロルの在り方を、変えるために…

 

どうしようもないくらいに、深く、深く…納得してしまったキャロルは、地面へと降り立ってそのまま座り込む。様々な想いが濁流のように頭の中を駆け巡るが、体は完全に脱力してしまいピクリとも動かない。

 

今キャロルが感じているのは、最愛の父親の想いを理解出来たことによる喜びと…理解してしまったことによる後悔。どうしようもなく、自分が父親の意を読み違えてしまったという、自責の念だった。

 

(オレは…私は…どうすれば良いのだろう…?)

 

復讐心が消えてしまった訳ではない。キャロルが積み重ねてきたその想いがそう易々と消えはしない。だが、父親が最後に残した想いを跳ね除けてしまえる程の力は、もう残っていなかった。

 

(であるならば…今からでも、パパの想いに応えるべきか…?)

 

だが、ここまで復讐の道を進んできた自分が、今更その道を引き返すことなど…

 

そんな想いから、グルグルと思考を巡らせている内に、キャロルは頭上の太陽を覆い隠す曇り空に、自分が装者達に敗れて死を偽装した時のことを思い出した。

 

(もう…良いのではないか…?)

 

自分には、もう自分の大切な父親が示した道を歩むことは出来ない。しかし、自分の代わりに命題の答えを導いたもう一人の自分(エルフナイン)がいる。父親の意に背いた自分の方が出来損ないであったことを認めて、全てを託してしまえば…

 

もう自分は、本当に父親と同じ場所へ向かっても、良いのではないか…

 

俯き、そんな答えを出そうとするキャロルであったが…ふと、雲の隙間から僅かに届く日の光が遮られたのを感じて、頭を上げると…目の前に、響が立っていた。

 

「「……」」

 

イグナイトの制限時間が過ぎて、ギアを纏わず生身となった響は、険しい顔をしてキャロルのことをジッと見つめていた。キャロルもまた、目の前の響に反応することなくジッと虚ろな目で響のことを見つめる。そうやって両者がしばらく見つめ合った後…不意に、響がそっと…その右手を、キャロルに差し出した。

 

「……」

 

キャロルがジッと差し出された響の手を見つめる。その手は僅かに震えていた。それはギア纏わぬ身でキャロルの前に立っている恐怖から…ではない。

 

もし、その手を繋ぐことが叶わずに、また目の前でキャロルの体が炎に包まれて消えてしまったらという、絶望の未来を迎える可能性に恐怖したからだ。

 

それでも……だとしても!!

 

(当たると痛いこの拳…だけど未来と兄弟子は、誰かを傷付けるだけじゃないって教えてくれた!だから、辛い過去も力に変えて、笑顔の明日を迎えるために…この手を伸ばすことを、躊躇ったりしない!繋ぐこの手が、わたしのアームドギアだ!!)

 

決意と共に、響は一度目を閉じ、そして…キャロルに、優しく笑いかけた。

 

「ぁ……」

 

その、何処か困ったことを誤魔化すような、響の優しい笑みは…似ても似つかぬはずの、自分の大好きな父親のそれと、重なった。

 

雲が晴れて、その隙間から太陽が顔を覗かせる。太陽を背にする響を、涙の滲んでぼやけた瞳で見上げたキャロルは、その姿に無き父親の姿を幻視した。

 

『キャロル、世界を識るんだ』

 

幻影の父親が、キャロルに語り掛ける。それが都合の良い幻聴か、自分の中の父親の想いが語り掛けてきているのか、キャロルには判断が出来ない。

 

『いつか人と人が分かり合うことこそ、僕達に与えられた命題なんだ』

 

「う、ん…」

 

それでも、キャロルはそれが偽りのない父親の想いだと感じ取り、その言葉に答える。

 

『賢いキャロルには分かるよね?そのためにはどうすれば良いのかも…』

 

「パ…パ……」

 

キャロルが、父親の想いに導かれるように…しかし、それでも確かな、キャロル自身の意思によって、ゆっくりとその手を伸ばして…

 

 

 

キャロルの手が、響の手と重なり合い…二人の手は、今度こそしっかりと繋ぎ合わさった。

 

 

 

…キャロル・マールス・ディーンハイム、S.O.N.G.へと投降。

 

幾星霜の時を経て…命題の答えは、愛する娘の胸の内に…

 




これにて、GX編決着です。
この後数話ほど締めのエピソードを入れて、GX編後日談となります。

そして、突然で申し訳ありませんが…GX編後日談の投稿が完了したら、投稿を一度停止させていただこうと考えております。

詳細については活動報告に記載しているので、そちらをご確認ください。
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