戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第110話

キャロルがS.O.N.G.に投降してから、三日後。

 

S.O.N.G.本部にある取調室の周囲に、大勢の人間が集まっていた。

部屋の外からガラス越しに室内を覗き込むのは、響達装者六名と奏、未来。そして了子、ナスターシャ教授、緒川、藤尭、友里の大人達であった。

 

あの騒動の後、マリア達は三人共無事保護されて事無きを得ていた。被害といえば、顔面血塗れのナナシが鬼の形相で駆け込んで来たために三人が心底恐怖したことと、ナスターシャ教授を中心に大人達や響達に三人が涙ながらに怒られたり褒められたり心配されたりと色々言われたくらいである。

 

全員が見守る取調室の中には、今回の事件の首謀者であるキャロル、その向かい側にエルフナインとナナシが座っていた。そしてその背後には、弦十郎が腕を組んで立っている。

 

これから、キャロルの今後を決める重要な話し合いが行われようとしていた。

 

「…一応ツッコムけど、何故俺がこの位置?話に混ざる気はあるけど、弦十郎が主体でなくて良いの?」

 

「今回の件は、俺達に内緒で君達が色々画策していたのだろう?なら、最後まで責任を持ってやり遂げろ!尻拭いはこっちで受け持ってやる」

 

弦十郎が笑顔でグッと親指を上に立てながら…内心でナナシの行動に対する色々な想いを籠めて…そう宣言する声に、ナナシは苦笑しながら改めてキャロルに向き合った。

 

「それじゃあクソガキ、本格的なOHANASHIを始める前に、国連であった緊急会議の内容について順を追って説明するぞ。会議で最初に出たお前への処遇は、大多数の声が死刑判決だった」

 

『!!?』

 

サラッと口にされたナナシの言葉に、それを知っていた大人達以外は全員驚愕した。当のキャロル自身は予想の範疇だったようで、特に驚いた様子はない。

 

「まあ、やらかした規模を考えれば妥当な判断だし、俺もそこまで大きく反論はしなかったんだが…」

 

『!!?!?』

 

続くナナシの言葉に、またも驚く響達。エルフナインが縋るような目でナナシを見つめていたため、ナナシがエルフナインの頭に手を置きながら話を続けた。

 

「反論はしなかったけど、正気は疑ったな。お前達の戦闘シーンを一部抜粋して流して、『最終的に武力面で制圧出来なかった相手に死刑執行って本気ですか?別に殺れと言われれば試みますけど、体全てを灰にした状態から生還するような相手なのに、失敗してまた暴れ出した場合は当然責任を持って各国で対応して頂けるんですよね?』って言ったら静かになった」

 

そう続けられたナナシの言葉を聞いて、ようやく響達とエルフナインは安堵の表情を浮かべた。

 

「本当はお前が半泣きで俺の人形を蹴散らしたり、マリア人形にほっぺたブッチューされるシーンも入れたかったんだけど、弦十郎達に止められて泣く泣くカットしたんだよなぁ~」

 

ガンガンガンッ!!

 

外から顔を赤くしたマリアがガラスを叩いて話を進めるように促す。キャロルも不機嫌そうな顔をしていたため、ナナシはクスクス笑いながら話を先に進めた。

 

「それで次に出た話が、錬金術なんていう未知の異端技術を自国に取り組みたいって思惑丸出しのいくつかの国がお前の身柄を要求してきたから、俺は素晴らしいと言ってお前の身柄の引き渡しに賛成したんだ」

 

『!!?』

 

またもや驚く響達とエルフナイン。大人達はそんな反応をする響達とそれを見てニヤニヤするナナシに苦笑していた。

 

「俺が『それは素晴らしい!新参者の私では一ヵ月近く交渉を続けて何とか停戦に持ち込めましたが、経験豊富な皆様方ならきっと納得の上で知識を提供して頂けるでしょう!!さあ、我こそはという各国の交渉役の方はいませんか!?』って言ったら、何故かまた静かになったんだ」

 

…前回のマリア達の件で、ナナシは国連に所属する各国の交渉役の間で有名になっており、一部では既に役員を降りた人間もいる。そんなナナシと一ヵ月もの間交渉で折れない人物というだけで、各国の役員はキャロルとの交渉を諦めた。

 

「面白かったぞ!それでも交渉しろって自国の役員に圧力をかけた国があったんだけど、『解除不可能なことが分かっている大陸規模の爆発物処理なんて死刑宣告と同じだ!!』って言って役員が真っ向から自国に反論したのを聞いて、悩んでいた国も一斉に手を引いていたな!」

 

ケラケラと笑うナナシに、キャロルはこれからこの男と話さなければならないなら他国に引き渡された方がマシだったのでは?と思ってしまった。

 

「そんな訳で、国連から正式にお前を監視しつつ交渉して使える錬金術の知識を手に入れろって命令がS.O.N.G.に下された訳だ。当然、一度お前の身柄を放棄させた上でそんな依頼をされた訳だから、依頼料は色々上乗せさせてもらったけどな!フッフッフ…」

 

そう言って黒い笑みを浮かべるナナシは、改めてキャロルの方を真っ直ぐ見ながら言葉を紡いだ。

 

「まあ、要するにお前は執行猶予付きでS.O.N.G.に収監されたテロリストってところだ。問題を起こさないならある程度自由に活動出来るように話を纏めてきたから、常時監視付きって訳でもない。まあ、お前が有用な知識を提供するならって前提だけどな?」

 

「……」

 

ナナシの言葉を、キャロルは終始無言で聞いていた。ジッとナナシを睨むキャロルに、今度はエルフナインが声を掛け始めた。

 

「キャ、キャロル!ボク、正式に皆さんの…S.O.N.G.の一員として研究者になることが決まったんです!だから、その…今度こそ、キャロルもボクと…皆さんと一緒に!世界を見ていきませんか!?」

 

エルフナインが必死になってキャロルにそう呼び掛ける。だが、当のキャロルは相変わらず仏頂面で無言を貫いていた。エルフナインがそんなキャロルの態度にオロオロしていると…

 

「いや~、エルフナイン…それはちょっと難しいぞ?」

 

「えっ!!?」

 

ナナシがエルフナインの提案に対して否定的な意見を口にしてきたため、エルフナインが驚愕してナナシの顔を見る。そしてキャロルも、表情を更に険しくしてナナシの事を睨んでいた。

 

「そ、そんな…どうしてですか!?ナナシさん!!?」

 

「だってこのクソガキ、その内適当に暴れ回りながら俺達の前から姿を消すつもりだし」

 

『!!?!?』

 

ナナシの発言に、今度こそナナシ以外のその場にいる全員が驚愕した。ただ一人、キャロルだけが予期しない言葉に対してではなく…図星を突かれたことに対して驚いていた。

 

「な、何で、ナナシさんはそんなことが分かるんですか!!?」

 

「分かると言うか、ただの“妄想”なんだけど…しかも、今回は少し説明が難しいな…」

 

ナナシは少し悩みながら、キャロルがS.O.N.G.を去ると考えた根拠について語り出した。

 

「まず、このクソガキが大人しくしているのは、お前が導き出した父親の命題の答えに完全論破されたからで間違いない。その上で、これから父親が残した最期の想いに応える生き方をすると決めて、その第一歩として響と手を繋いだんだ」

 

「……」

 

相変わらずキャロルは無言…しかし、決してナナシの言葉を否定しなかった。

 

「ただ、このまま俺達と一緒に世界のために活動するってのは、このクソガキにとっては業腹なんだ。例えそれが父親の想いだったとしても、綺麗さっぱり世界への恨み辛みを払拭した訳ではない。そんなちっぽけな想いだったなら、こいつは父親の命題を歪めるような真似はしなかったはずだ」

 

「……」

 

「だから、俺達と一緒に世界を識ることはもう一人の自分であるお前に任せて、自分は自分なりに今度はきちんと父親の想いに寄り添う方法を考えて世界を識ることに決めた」

 

「ッ!!?」

 

「……」

 

ナナシの言葉に、エルフナインは驚き、キャロルが忌々し気にナナシを睨む。まるで、余計な事を言うなと言わんばかりの瞳でキャロルはナナシを睨みつけるが、ナナシは気にした様子もなく言葉を続けた。

 

「適当に暴れ回りながらってのは、コッソリ逃げ出すとむざむざこのクソガキを取り逃がした俺達が世界各国から責任を追及されることになるから、エルフナインの居場所が無くなることとか、俺達に色々引っ搔き回された苛立ちを持ちつつも父親の命題の答えを見つけ出せたことに対する感謝寄りの感情とか、曲がりなりにも世界に歩み寄る第一歩を踏み出した相手への義理とか…ぶっちゃけ、クソガキ自身にも良く分かっていないクッソ不器用な気遣い?みたいな行動だと思う」

 

「貴、様…!黙っていれば都合の良いことをペラペラと!!」

 

ここまでナナシが語ってようやく、キャロルが口を開いて怒鳴り声を上げた。

結論を言ってしまえば、ナナシが語った言葉はキャロルにとって…どうしようもなくドンピシャなのである。それこそ、キャロル自身も良く分かっていない想いをよくここまで言語化出来るものだと感心してしまうレベルで。

 

だが、自分自身の想いをここまで赤裸々に語られ続ける状況に、流石にキャロルも無言を貫くことが出来ずにナナシに文句を言うため口を開いて…

 

「そ・こ・で!そんな色々お悩みのクソガキに、とても耳寄りな話があるんだが!」

 

…キャロルが口を開くことを待ってましたと言わんばかりに、ナナシが満面の笑みを浮かべてそう言い、キャロルの言葉を遮った。

 

そんなナナシに、思わずキャロルは顔を顰める。例えそれがキャロルにとって本当に有益な話であったとしても、キャロルには目の前の男が笑顔で契約書にサインを求める悪魔にしか見えない。そんな男の話など聞きたくないと、キャロルは再び口を閉ざして顔を背けようとして…

 

「聞くだけでいい」

 

…だが、キャロルが完全に顔を背ける前に、ナナシが笑みを引っ込めた真剣な表情でそう言ってきたため、キャロルは動きを止めてしまった。

 

「お前は話を聞くだけでいい。俺の話を聞いた後、了承や否定をする必要はない。ただ、話を聞くだけ…それだけで、俺を嫌悪するお前が、それでも極々僅かに感じている俺への義理だとか、借りだと思っている感情を全て払拭して構わない」

 

「ッ!!?」

 

僅かに目を見開くキャロルに対して、ナナシは頭を下げた。

 

「お前がこれから歩む未来で、どんな道を選択したとしても、俺は今後二度とお前の父親に関わることを引き合いに出して交渉するようなことはしない。だから、どうか今回だけ…話を、聞いて欲しい…よろしく、お願いします」

 

「……」

 

頭を下げるナナシを、キャロルはしばらく見つめた後…

 

「…勝手にしろ」

 

どこまでも不機嫌そうな声で…ナナシが話すことを許可した。

 

「そうか!いや~良かった良かった!!それじゃあ少し長くなりそうだから、飲み食いしながら話すとしよう!今度は見せつけるような真似はしないから安心してくれ!」

 

キャロルが答えた直後、ナナシは普段の明るい雰囲気に戻って“収納”からイチゴのショートケーキと、某チェーン店のロゴが入ったトッピング豊富で甘そうなフラッペを出してきたため、子供扱いされている気がしたキャロルはムッとした表情でナナシを見て…ふと、その隣に座るエルフナインの方へと視線を向けた。

 

「あ、あれ?ボクのだけ、少し違う…?」

 

そう、キャロルとナナシの前に置かれているのは、スーパーなどで売っている何処か安っぽい感じのケーキなのに対して、エルフナインのケーキだけ確実に洋菓子店の、それもかなり高級感漂う一品であった。

 

「あははは!当然でしょう?エルフナインさん!世界屈指の錬金術師を言い負かし、“紛い物”の思考を深く解析して絶対的な命令権を勝ち取ったあなた様を俺達と同じ扱いは出来ませんって!」

 

「ふえええ!?そ、それはナナシさんやS.O.N.G.の皆さんが全面的に協力してくれたからで!!?そ、そんな…さん付けなんてやめて、今まで通りに…」

 

「いえいえ、敬わせてください!崇めさせてくださいよ!エルフナインさん!!」

 

「え、えぇ…?そ、そうだ!それなら、この前のクイズのご褒美を使って、ナナシさんにこれまで通り接してもらえるようにお願いして…!」

 

「いやいやいやいや!!?幾ら何でも勿体なさ過ぎるだろ!!?冗談はこれくらいで終わらせておくから、そのお願いはもうちょっと有意義な事に使えよエルフナインちゃんさん!」

 

「ちゃんさん!!?」

 

「いい加減ふざけてないで本題に入れ!!」

 

すぐに脇道へ逸れようとするナナシにキャロルが早く話を進めるように促して…思わず頭を抱えてしまった。あくまで自分は話を聞くだけというスタンスのはずなのに、自分からナナシに話をするように指摘させられてしまっていることに、キャロルは治まったはずの拒絶反応による頭痛がぶり返したように感じた。

 

そんなキャロルと、アワアワと慌てるエルフナインの様子を一頻り楽しんだナナシは、ようやく本格的に話を進めるためにキャロルへと向き合った。

 

「さて、それじゃあ今度こそ、OHANASHIを始めよう!」

 




OHANASHIを始める前に一話使ってしまいましたw
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