戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
「俺がこれから話すのは、お前がS.O.N.G.に残ってくれた場合に提供できる三つの相互利益についての話だ」
ようやくキャロルとの本格的なOHANASHIを開始したナナシが、指を三本立てながらそう切り出していった。
「三つの相互利益…?」
「Exactly!!まあ、どちらかというと依頼と報酬って話になるかもしれないが…お前がこの話に乗ってくれるなら、俺はお前に相応のリターンを用意するってことだ」
キャロルの疑問に、ナナシがそう答える。周囲の人間もナナシに注目する中で、ナナシは臆することなく話を進めていった。
「お互いの利益が少ない方から順に話していくから、まあ始めは気楽に聞いてくれ…最初にこっちから提供するお前への利益は、国連関係の面倒事を何とかしてやるって話だ」
『!!?』
最も利益が少ない話で、各国からの圧力の排除と口にするナナシに、キャロル以外の全員が驚愕した。だが、当のキャロルは反応が薄く、確かにあまり興味を持っている風ではなかった。
「まあ、お前は国が喧嘩売ってこようがどうしようが適当にあしらうなり逃げるなりすれば良いだけだろうけど、これから世界を識っていく上で邪魔なのは確かだろ?俺のお願いを聞いてくれれば、その辺はどうにか出来ると思うぞ?」
「…オレの持つ知識の中で、有益な知識を提供しろ、と言うことか?」
キャロルが嫌悪感を隠さない顔で、ナナシに吐き捨てる様にそう言った。知識を一つ二つ提供するくらいはキャロルにとって造作もない。だが、やはりキャロルにとって世界に貢献するといった行為はまだまだ抵抗があるのも事実だ。
「いや、名前だけ貸してくれ」
しかし、そんなキャロルにナナシは軽い口調でそう言ってきたため、キャロルは怪訝な顔で疑問を口にした。
「名前だけ…?」
「Exactly!!お前もエルフナイン経由で覗き見、盗み聞きしていたから、コレについてはある程度知っているだろう?」
そう言って、ナナシが取り出したのは“血晶”だった。自分を散々苦しめたその赤い輝きに眉を顰めながら、キャロルはコクリと頷いた。
「コレは便利なんだけど、便利過ぎて国連にバレると俺は面倒な事になるんだよな~…そこで、こんな話はどうだろう?」
ナナシは一度立ち上がって、まるで周囲の全員に見せつけるように“血晶”を掲げながら、口を開いた。
「今このお話をお聞きの皆様!このような経験はございませんか?朝の通勤・通学中、休日に遊んでいる最中、街を歩いていたらノイズとバッタリ出くわしてしまった!怖いですよね~?恐ろしいですよね~?そんな皆様にこちらの商品をご紹介!最先端の錬金術で“紛い物”からご都合主義成分を抽出!素敵なアクセサリーへと加工しちゃいました!その名も『ノイズ・キャンセラー』!!これさえあれば、イヤ~なノイズのせいであなたの体が炭化したり分解される心配はありません!!今から三十分以内にご注文頂けたお客様にはなんと、もう一個同じ物をお付けして料金はそのまま!!……みたいな感じかな?」
…まるで、怪しい通販番組のようなノリで話し終えたナナシは、呆然とする周囲を置き去りにキャロルに向き直った。
「…つまり、本来貴様一人で量産出来るソレを、オレの錬金術の産物として話を通す、ということか?」
「Exactly!!」
ナナシは笑顔でキャロルの言葉を肯定した。
「強大な力を持つお前に、各国は無茶な要求が出来ない。俺が材料を提供することでお前が“血晶”を作り出したことにすれば、お前は何一つ世界に貢献することなく面倒事が減って、俺達は“血晶”をリスクを減らして使えるようになる。距離制限の問題はあるけど、これだけ期待値がデカい代物なら数年くらいは様子見してもらえるだろうし、その間に距離制限をどうにかするか何か代案を考えれば良いだろ!」
「オレは名だけ貸して知識は一切提供せずに面倒事を回避出来る。貴様はオレの威を借りて各国からの追究を躱しながら力を行使出来る、と言う訳か…」
「Exactly!!そして、この話は二つ目の相互利益にも関わってくる!」
「何…?」
キャロルが疑問を持つ中で、ナナシが二つ目の相互利益について話し始めた。
「二つ目にお前に提供するのは、お前の知識欲を満たせる研究対象!その研究の知識が世界に対する利益になるかは捉え方次第だな!」
「…ッ!?それは、まさか…!!」
何かを察したキャロルが驚愕の声を上げる中で、ナナシは右手をそっと自身の胸の上に置いた。
「お前に俺が求めるのは、この俺、“紛い物”の研究解明だ!」
『!!?』
自身を研究対象として提供するというナナシの言葉に、またもや周囲が驚愕した。
「お前も気になっていたんだろう?俺は錬金術の生みの親である、先史文明期の巫女でさえ未だ手掛かりすら見つからない飛びっきりの未知の塊だぜ?錬金術師として、研究のし甲斐があるとは思わないか?」
「…詳細不明の聖遺物の融合体に興味を持ったオレが、その体を研究することを対価に貴様らと行動を共にすることを決めて、その研究の過程で“血晶”を作り出すことに成功した…そういう筋書きか?」
「Exactly!!話が早くて助かる!」
確かにこの話なら、ある程度話の筋が通る上に、自分の身を捧げて強大な力を保持する錬金術師の興味を引いたと言うことでS.O.N.G.のメンツも保たれる。そして、他国が“血晶”の力を利用するために動こうとしても、キャロルとナナシの二人が揃わなければ意味が無いことになるため、難易度が格段に跳ね上がることになる。
「俺が自身について、より理解してその力が強化されたとしても、世界の利益になるとは言えないだろ?確かにS.O.N.G.の一員として働く以上、全くの無関係とは言わないが…こうやって世界を欺こうとしている分、寧ろお前の復讐心の方が満たされないか?」
「…フン、確かに愚か者共が踊らされる姿は滑稽だろうな?」
ナナシの言葉を鼻で笑うキャロル。その顔は、世界のために知識を提供しろと言われた時より、幾分か楽しそうに見えた。
「さて、いよいよ最後の、互いに最も利益になる事柄についての話だ。心して聞いてくれ」
そしてナナシが、最も重要な話を始めることを宣言して、真剣な表情に切り替わる。その緊張感に、周囲の人間はゴクリと唾を飲み込んだ。
「俺がお前に求めることは…天羽奏の肉体と、ナスターシャ教授の病気の治療、それを成し遂げるために協力して欲しい」
『!!?!?』
ナナシの要求に、周囲の人間は息を飲んだ。特に、名を出された二人は瞳を大きく見開いて驚愕を露わにしている。
「…これだけ自己利益のために画策しておきながら、結局は貴様も他者のために力を尽くすか」
「違う」
どこか蔑むように笑いながら言ったキャロルの言葉を、ナナシは間髪入れずに否定した。
「あいつらの都合なんか知ったことか。これは、俺自身が幸せになるための…俺の自分勝手な我儘だ」
「……それで、貴様はその我儘の代償として、オレに何を支払うつもりだ?」
揺るぎない瞳でキャロルを見つめるナナシを、キャロルはそれ以上貶す様な事はなく、ナナシが自分に提供する最も大きな利益について問いかけた。
「俺がお前に提供するのは…世界を識るために必要な知識だ」
「ッ!!?世界を識るために、必要な知識、だと…?」
訳が分からぬナナシの言葉にキャロルが困惑する。ナナシは真面目な雰囲気を少し崩しながら、キャロルの疑問に答えるため話を始めた。
「何かを理解するためにはさ、前提となる知識が重要になるだろ?算数を学ぶ上で、掛け算や割り算を学ぶためには、まず足し算や引き算、またその前に、0から9までの数字の種類を覚えないと話にならない訳だ」
「…つまり、貴様はオレが世界を識るための、前提となる知識を持っていないと言いたいのか?」
「Exactly!!」
「オレを愚弄するか貴様!!」
キャロルがナナシの答えに激昂する。だが…
「いや、お前の方こそ何で自信満々なんだよ!?それが分からなかったからこそ何百年も迷走したんじゃないのか!!?」
「うぐっ!!?」
…続くナナシの言葉で、キャロルはあっという間に言葉を詰まらせた。
「じゃあ、少しテストしてみよう。クソガキ、お前はこれが何か知っているか?」
そう言って、ナナシがポケットから取り出したのは…携帯電話だった。
「当たり前だろう!?携帯型の遠距離通信機!電波を通じて遠く離れた相手と会話するための機械だ!!」
「うんうん、それで?」
「はあ!?それ以外の何がある!!?」
そのキャロルの答えに、これまでナナシの言葉を怪訝そうにしていた周囲の人間も何かに気付き始めた。困惑するキャロルの前で、ナナシは携帯を顔の前に近づけて…
「ヘイ!S〇ri、歌を歌って!」
『~♪~♪~♪』
「なっ!!?」
「えっ!!?」
ナナシの指示に従って音楽を流す携帯に、キャロルとエルフナインが驚きの声を上げた。
「今時、携帯電話を電話機能だけ求めて持っている奴なんてそういないぞ?音楽も聴けるし動画も見れる、ゲームも出来れば買い物の支払いまで、これ一つで色んな事が出来る優れ物だ!余りの便利機能の多さに、肝心の電話機能をオミットして料金を安くした物まで出てくる始末だ」
驚く二人を見て、ナナシは笑いながらキャロルに語り掛ける。
「なあ、クソガキ?ずっと引き籠ってチマチマとシャトーやオートスコアラーなんて作り続けたお前は…『常識』を知っているって、自信を持って言えるか?」
「なっ!?そ、そんな、当たり前のこと!!?」
「例えばお前の前にあるそのフラッペ、世界中に店舗を構える有名なチェーン店で買った物だけど、全く同じ物を注文するなら『ベンティアドショット・ヘーゼルナッツ・バニラ・アーモンド・キャラメル・エキストラホイップ・キャラメルソース・モカソース・ランバチップ・チョコレートクリーム・フラッペ』って言う必要があるからな?」
「冗談だろう!!?」
「いや、本当」
そう言ってナナシは、フラッペを注文した時の光景を“投影”で映し出す。そこでは確かにナナシの注文に対して特に疑問を持たずに品物を用意する店員と、ナナシと似たような注文を告げる周囲の客達の姿があった。
…なお、周囲の客はナナシが「奢るからこんな風に注文して!」と言って連れてきたS.O.N.G.の大人が何名か紛れていたりする。
「どうなんだ?クソガキ?飲み物一つまともに注文出来ないお前は、本当に現代の常識があるって自信を持って言えるのか?」
「ッ!!?!?」
ナナシが非常に偏った知識でキャロルを翻弄する。キャロルも少し不安を感じてきたのか、ナナシに言い返せなくなっていた。
「ここの大人達ほど実年齢と精神年齢が乖離したガキを育てるノウハウを持った奴らはいないぞ?ここで過ごせばきっとお前も、俺のようにヒンコーホウセイになれる事間違いなし!!」
「どの口がほざくか貴様!!?」
「『品行方正』がだいぶ棒読みだったぞ、ナナシ君…」
「そう、俺が今の俺に育ったのも、全てはここのOTONA達のお陰!!」
(風評被害が過ぎるわよナナシちゃん!!?本気で説得するつもりがあるの!!?)
ナナシのとんでもない発言に、つい了子が“念話”まで使ってツッコミを入れてしまった。一頻り周囲を茶化して笑ったナナシは、優しい笑みを浮かべてキャロルを見た。
「お前が世界を識る上で必要なことを学ぶなら、ここ以上の場所は無いと思うぞ?『空っぽ』の化け物を、ここまで人間に近い存在に育て上げた奴らだ。一緒に過ごせばきっとお前も、大切な事を学べると思う」
「……」
そう話を締め括ったナナシに、キャロルは口を閉じて沈黙を保っていた。それがナナシの提案を受け入れるか思案しているのか…はたまた、受け入れる価値無しと判断して話を流そうとしているのかは、分からない。
そんなキャロルを、エルフナインが不安そうに見つめていると…
「…最後に、お前が俺達の元を離れると決断した場合に提案…いや、お願いしたいことが一つある」
「ッ!!?」
ナナシが、キャロルがS.O.N.G.を去ることを前提とした話を始めたことで、エルフナインは泣きそうな顔になってしまった。キャロルは、そんなエルフナインを無言で見つめた後…視線で、ナナシに話を続けるよう促した。
「このお願いは、俺達にデメリットがとても大きい。その上でお前にメリットがあるかと言われれば、正直それはお前次第と言ったところなんだが…」
そう言ってナナシは、悩ましそうな表情をした後に、その手をポンと…エルフナインの頭に置いた。
「お前がここを出ていくつもりなら…エルフナインのことも、ちゃんと連れて行ってやってくれ」
『!!?!?』
弦十郎達が、響達が、エルフナインが、そしてキャロルが…ナナシの発言に、心の底から驚愕する。ナナシは驚くキャロルを真っ直ぐに見つめて…フッと優しく微笑んだ。
「お前が、今度こそ迷いなく自分と父親の想いに従って世界を識るために行動するつもりなら、俺はお前の想いを否定しない。だけど…どうかエルフナインを…『家族』を置いていくのだけは、やめてやってくれ…よろしくお願いします」
『……』
周囲が、沈黙に支配される。キャロルは尚も沈黙を保ち…それでも、先程よりは悩まし気な表情をしている。エルフナインも、少し前までS.O.N.G.の一員となったことを嬉しそうにしていたが…それでも、ナナシの提案に異を唱えるようなことはしなかった。
誰も口を開かないまま、重苦しい空気が室内を支配して数分後…
「…一つ、質問に答えろ」
…キャロルが、沈黙を破ってナナシに問いかけてきた。
「おう!何が聞きたい?俺に答えられることなら大体何でも答えてやろう!ああでも、歌姫達の身体的特徴が知りたかったらそれは自分で頑張ってくれ!響は親しくなったら体重を教えてくれるらしいから、頑張ればワンチャンあると思うぞ!あははははは!」
ナナシがそう言って、部屋の重苦しい空気を吹き飛ばすように明るく茶化しながら、自分のフラッペに口を付けて…
「貴様は一体何の『報復』で、オレをここまで追い詰めたと言うのだ?」
「ブッフゥーーー!!?」
…盛大に噴き出した。
「ゲホッ、ゴホッ!!?なっ!?何で!!?おまっ!?それを!!?」
「…何をそこまで取り乱している?これは貴様らがオレに伝えてきた想い出にあった情報だぞ?」
「はあっ!!?」
「えっ!?伝えたら駄目でしたか!!?ナナシさん、事前に伝えないよう示し合わせたこと以外は全部伝えてやれって!?」
狼狽えるナナシに、エルフナインが慌てながらそう言うのを聞いて、キャロルは呆れたように二人を見た。
「情報の流出防止には双方の認識が必要であった、と…本来の想定と異なる能力の使用を碌に検討せずに乱用するからそのようなことになるのだ。こんな詰めが甘い連中に翻弄されるとは…で?質問の答えは?」
「え!!?あ、あはは、それは、その…」
先程まで良いようにキャロルを手玉に取っていたナナシが、冷や汗をダラダラ流しながら目を泳がせる。そんなナナシを見て、キャロルは…
「…まあ、大方の察しはついているがな」
…フンと鼻を鳴らしながら、つまらなそうな顔でナナシにそう呟いた。
「貴様が立花響を守れなかった時の様子と、エルフナインが参加していた貴様の仲間達との話し合い、そして初見であるはずのレイアに対する過剰な反応…」
「……」
キャロルの言葉を、ナナシは黙って聞き続ける。そしてキャロルは、自らが察したナナシの『報復』理由についての結論を口にした。
「貴様は…初めてオレが貴様らに接触した時にレイアが…オレが殺した仲間の命に対する報復として、オレを追い詰めていたのであろう?」
「……」
キャロルの言葉に、今度はナナシの方が沈黙を保つようになった。
「フン…やはり貴様も、他の連中と大差ない程お人好しではないか?仲間が傷つき、息絶えることに恐怖し、怒りを覚えて…それでも尚、その憎しみの対象を受け入れようとするなどと…」
「…そこまで察しているなら、わざわざ質問なんかしてくんじゃねえよ、全く…意趣返しのつもりか?」
ナナシがキャロルの言葉に、まるで肯定するような言葉を口にして…
「…それで、結局何に対しての『報復』なんだ?ナナシ君?」
「何に対してですか?ナナシさん?」
(何に対してなの?ナナシちゃん?)
((((((((((((何に対してだ?(ですか?)(デスか?)))))))))))))
「「っ!!?」」
…キャロル以外の全員から、問い質された。
「いや、あのさ…今、そこのクソガキが…」
「君が、他人を傷つける理由を仲間の『せい』にするはずが無い」
(ナナシちゃん、別にキャロルちゃんの言葉を肯定してないでしょ?)
((((((((((((エルフナイン(ちゃん)から聞いた、何かを隠す話し方だ(です)(デス)))))))))))))
全員からの指摘に、ナナシは頭を抱えたくなった。
「ナナシさんはきっと、キャロルの指摘が的外れであったなら、仲間を理由に使われた場合明確に否定すると思います。それをしないと言うことは、恐らく今回命を失った方と何らかの関係がある理由なのではないでしょうか?」
「エルフナイン様!どうかその相手の想いを解析する術をご教授願えないでしょうか!!?それこそは俺が求めてやまない至高の叡智!!」
「ふええええ!!?さ、様付けなんてやめてください!!?お、教えるも何も、これはナナシさんやここにいる皆さんから教わったことで!!?」
「そう仰らず何卒よろしくお願いします、エルフナインちゃん様!!」
「ちゃん様!!?」
「これ以上茶化して誤魔化すようなら、オレは貴様の一切の提案を拒否してここから去るぞ!!」
エルフナインの考察を茶化して誤魔化そうとするナナシに、キャロルがそう言って退路を断つ。ナナシはしばらく目を泳がせて、何とか打開策を見つけ出せないか必死に思考を回転させ、そして…片手で頭を押さえながら、項垂れる様に椅子に座り…観念したかのように、絞り出すような声で、ポツリポツリと話し始めた。
「他人の…死んだ父親の想いを理解するために、数百年の時を費やした、世界屈指の錬金術師…最初にそれを聞いた時、お前なら知っているんじゃないかと、期待したんだ」
「知っている?…一体、何を?」
「……………………死者の想いに、寄り添う方法」
ナナシの、その答えに…誰一人として、声を出すことが出来なかった。それ程までに、ナナシのその言葉には、形に出来ないナナシの想いが、籠められているようで…
「…約束、したんだ」
「約、束…?」
「…助けるって…約束したんだ…俺の力で…信じろって…何度も…何度も…一度だって…果たせなかった…」
「……」
紡がれるナナシの言葉は、普段のように順序立てて理解させようとするものではなく…ただ、ままならない想いを、必死に形にしようとするようで…
「あいつらが生きている時…他にも、約束した…自分の事を、責めるなって…だから、俺はあいつらの死を、自分のせいだとは、思わない…そして、あいつらを失った憤りを…誰かにぶつけたりもしない…あの、お人好しな奴らの命を…そんなことの理由に、使いたくない…」
その約束は、仲間達がナナシに残した想い。そして、ナナシ自身が仲間と寄り添った故に生じた、ナナシ自身の想い。それ故に、ナナシは仲間の死で生じた憤りを、自分にも他人にもぶつけたりはしない。
「…だから、あの人形を殴りたかったのは、自分勝手な俺の我儘なんだ」
…しかし、それで自分の感情を全て納得させられた訳では無かった。
「…いなくなったあいつらのことを…俺はまだ、理解出来ていなかった…知りたかったのに…知ろうとしていた、はずなのに…何も、理解出来ないまま…あいつらが、幾らお人好しでも…大切なモノのために、命を懸けていても…生きたかったんじゃないのか?…俺の言葉に、期待は無かったのか?…最期の瞬間、俺を恨んでいたんじゃないのか?」
『……』
「少なくとも…最初の一人は違う…あいつとは…助けるって約束しただけで…約束を、守れなかっただけで…あいつが…あいつらが…最期にあいつらが…俺のことを…恨んでいたなら…」
「……恨んで…いてくれたなら…」
例え、残されたその想いが…
どれだけ憎悪と怨嗟に塗れたモノであったとしても…
死して別れても尚、繋がれる想いがあるのなら…
「その答えが、知りたくて…何か方法を、知っているんじゃないかと、勝手に期待して…実際に、お前と話をしてみたら…どうしようもなく、失望した」
「…あの言葉は、そういう意味だったか」
『世界屈指の錬金術師と聞いて、密かに期待していたのに…お前には心底失望したぞ、キャロル・マールス・ディーンハイム!』
戦いの最中に、ナナシが伝えてきた言葉…キャロルの知性に対しての、失望の言葉…しかし、その言葉の意味は、キャロルが想定したものと、全く異なっていた。
「数百年の時を、死者の想いを理解するために費やした、世界屈指の錬金術師…そんな存在に、勝手に期待した挙句に、いざ蓋を開けてみれば…そいつはどうしようもなく、見た目も中身もガキのままで…自分の想いすら、把握出来ないまま、迷走し続けて…それでも、自分の望みを、諦めきれずに、何百年も砂の城を積み上げながら、空の星に手を掛けようとしているような…そんな無様な、在り方が…どうしようもなく…」
「世界一愚かな、どこぞの大馬鹿野郎の在り方と被って、心の底から腹が立った」
…何故、ナナシがエルフナインの話を聞き、戦闘中の僅かな時間言葉を交わしただけのキャロルに対して、夢の中であれだけキャロルの心を揺さぶる“妄想”を展開出来たのか?…その理由は、とても単純な理由だった。
恐らく、大抵の人間が、他人の想いを知るためにやっているであろう、とても簡単な行動…
…もしも、『自分が相手の立場であったならば』…そう考えた、だけであった。
「勝手に期待して、勝手に失望して、勝手に怒りを覚えた…要するに、どうしようもなく理不尽な八つ当たりだよ!だから言いたくなかったんだ!!こんな幼女にマジ切れして、ベソかかせるまで罵倒するなんて、かっこ悪いにも程があるだろ!!?」
全てを語り終えたナナシが、捲し立てるようにそう言って空気を変えようとする。そんなナナシの話を聞き終えたキャロルは…深い、溜息を吐いた。
「ハァ…くだらない。存外、貴様も大した男ではなかったな?」
「キャロル!?そんな言い方!!」
「いや、ホント!それな!!碌でもないにも程がある!マジで陰湿でキモイと思うよ!!」
キャロルの言葉を、エルフナインが非難するが、ナナシ本人はこれ以上無く賛同していた。そんな二人を心底呆れたような目で見ていたキャロルが…フッと、笑みを零した。
「どれだけ埒外の存在で、隔絶した人外かと思えば…碌に人と違わないではないか?こんな底の浅さでは、あっという間に解き明かしてしまいそうだ」
「そうだろう!?中身がペラッペラで空っぽの“紛い物”なんて、すぐに…うん?」
「えっ!?」
キャロルの発した言葉の意味を、遅れて理解した二人は目を丸くする。そんな二人の顔が面白かったのか、キャロルは笑みを深めて更に言葉を続けた。
「知識に群がる有象無象など興味も無いし、世界を識る術は例えオレ一人でも手に入れてみせる。だが、目の前の未知をむざむざ捨て置くなど、臍下の疼きが治まらないのでな!覚悟しろ?オレは奇跡の殺戮者だ!貴様のご都合主義などという安っぽい奇跡など、オレの歌で瞬く間に分解して解き明かしてみせよう!元の形に再構成されるなどと、都合の良い期待はもう抱かぬことだな!!アンノウン!!!」
「…あっはははは!!歌に殺されるって、控えめに言って最高の死に様じゃないか!!?上等!今度は途中で都合よく曲解するんじゃねえぞ!!クソガキ!!!」
互いに邪悪な笑みを浮かべながら、錬金術師と“紛い物”は…その手を固く繋ぎ合わせた。
こうして、互いの求める知識を得るために、世界を欺く碌でもない盟約が結ばれた。