戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第112話

喧騒に包まれる空間で、キャロルは一人、ポツンと椅子に座っていた。

 

「キャロル?どうしてこんなところに一人でいるんですか?」

 

「煩い、貴様は向こうに行っていろ」

 

「そんな…だって、せっかくの…」

 

そう言って、エルフナインが視線を向けた先には…『熱烈歓迎!エルフナインちゃん♪キャロルちゃん☆』と書かれた看板が掲げられたホールと、そこで飲み食いする大勢のS.O.N.G.職員達、そして…

 

『…~♪…~♪』

 

…壇上に上がり、死んだ目で歌うナナシの姿があった。

 

現在、S.O.N.G.では元々緊急時に備えて製造していた予備の潜水艦への移行作業が終わり、魔法少女事変と名付けられた今回の騒動の終結と、エルフナインとキャロルが仲間に加わったことの祝賀会を新たな本部で開催していた。

 

…そして、その催し物の一つとして、今回秘密裏に動いてエルフナインを泣かせた罰として、壇上でナナシは一人延々と歌を歌わされていた。

 

「不思議だ…こぶしを効かせた素晴らしい演歌のはずなのに、何故こうも響いて来ないのか…」

 

「先輩、デスメタルとか歌わせてみるのはどうです?死ぬほど声出せば少しはマシなんじゃねえですか?」

 

「…ねえ?ラブソングなんてどうかしら?この男かどれだけ空虚な『愛している』って言葉を口にするか興味があるのだけれど」

 

「「そ、それだ…!!」」

 

そんなナナシのすぐ傍には、翼、クリス、マリアの三人がタバスコの瓶を片手にナナシが歌う曲のリクエストを出し続けていた。ナナシが逃げ出そうとしたら、三人がタバスコを呷ることになっているため、ナナシは抵抗出来ないまま壇上で歌うしかなく、ナナシの空虚な歌をBGMに翼達以外の人間は雑談しながら食事をしていた。

 

「あんな空虚な歌と野次と大勢の雑談の不協和音が満ちた空間に居られるか」

 

「だ、だったら、ここで良いのでせめてお料理を頂きましょう!せっかくボク達を歓迎してくださるんですから!」

 

「フン…」

 

会場の隅で時間を潰そうとするキャロルに、エルフナインが声を掛け続ける。すると…

 

 

 

「そうですよ~、マスター?しっかり食べないと、いつまでもチンチクリンなお体のままですよ?」

 

 

 

キャロル達の前に…破壊されたはずのオートスコアラー、ガリィがトレーに料理を乗せて近づいてきた。

 

「エルフナイン様もしっかりお食べにならないと、何百年も子供体型のマスターみたいになってしまいますよ?アハハハハハハハ!」

 

ケラケラと悪い顔で笑うガリィ。よく見ると、会場には同じように給仕の仕事をするファラとレイア、そしてトレーの料理を摘み食い(・・・・)するミカの姿もあった。

 

「が、ガリィ…その、ボクに様付けをする必要はありませんよ?」

 

「いやぁですよ~、エルフナイン様?マスターが『家族』と認めた方を、私達が呼び捨てにする訳にはいきませんわ。ねぇ、マスター?」

 

「フン…」

 

ガリィの言葉に、キャロルがプイとそっぽを向く。無愛想な顔をしているが、その頬は僅かに赤みがかっていた。そして、エルフナインを『家族』と言うガリィの言葉を訂正することも無い。

 

「そうそう、家族と言えば!マスター、結局あの申し出への答えはどうしたんですか?」

 

「ッ!!?……何のことだ?」

 

ガリィの質問に、キャロルは一瞬硬直した後、何故か顔の赤みを少し増しつつ何かを誤魔化すようにそう言った。そんなキャロルに、ガリィは邪悪な笑顔で楽しそうに問いかける。

 

「誤魔化さないでくださいよ~。どうするんですか?『サブマスター』からの…プ・ロ・ポ・ー・ズ!」

 

 

 

 

 

切っ掛けは、フロンティア事変の際にマリアがウェル博士に咄嗟に言ったという嘘であった。

 

『悪夢』の正体は、フィーネが聖遺物を核として造り出した自立稼働する人形である。

 

オートスコアラーという自立稼働する人形が敵として現れたことで、ナナシはマリアがそんな嘘を言っていたことを思い出し、ガリィがマリアによって破壊された際に少し調べてみることにした。

 

“血流操作”を使って、爆散したガリィの破片や粉塵を周囲の砂ごと絡めとるように集めた後に“収納”して、外装や機械部品等にざっくり分けながら取り出した後に残ったモノに“解析”を使用したところ…過去に聖遺物を“解析”した時と似たような感覚があったため、本当に聖遺物を核にしていたのだと判明した。

 

聖遺物は例え欠片であったとしても有用であることはナナシも重々承知しているため、嬉々として回収作業をしていると…ふと、ある事を思いついた。

 

(…こいつ、人形のまま再利用出来たら便利じゃね?)

 

元々ナナシが“分裂”を覚えたかったのは、労働力を増やしたかったからである。ならば、人形であるが故に疲労せずにほとんど人と違わない思考演算が出来るオートスコアラーをそのまま再利用出来れば有用ではないかと思ったのだ。

 

そう考えたナナシは可能な限り四散したパーツを集めて了子とナスターシャ教授に話を持ち掛け、何とか修理出来ないか検討していた。キャロルが何時目覚めるか分からない為、二人には「内緒にして驚かせたいし、敵だった相手を再利用なんて心理的に混乱させる可能性もあるから事態が落ち着くまでは弦十郎以外には秘密にしよう!」と言ってあまり不自然では無い形でエルフナインに情報が伝わらないようにしていた。

 

それ故に、一番詳しそうなエルフナインに話を聞かないまま了子とナスターシャ教授が独自の技術を組み込むことでガリィの修理を進めていった。了子が分かる範囲でガリィの構造を分析し、ナスターシャ教授が欠片となった聖遺物の力を機械的に増幅させ、少しずつ復元の方法を模索していった。

 

本来であれば、完全にバラバラになったオートスコアラーを修復するには時間と手間がかかるはずだったが…ここでも、ナナシのご都合主義パワーが働いていた。

 

ナナシは欠片や粉になった聖遺物が散ってしまわないように自分の血液で一纏めに包み、バラバラになったパーツをある程度形が分かるように血液を接着剤代わりにしてくっ付けていたのだが…ナナシの血液は触媒として非常に優れていたようで、それが功を奏して進捗が劇的にスムーズになったのだ。

 

懸念事項は、ナナシの血液を使って修理しているのでナナシから一定の距離を離すとバラバラになってしまうことであったが…その問題は、ナナシが半年の間に唯一新規で獲得した能力で解決していた。

 

ナナシの新能力、その名は…“固定化”である。

 

“固定化”…その力は“付与”することで制限範囲内から出てもナナシの肉体が塵にならなくなる、というものだった。

 

これだけ聞くと、ナナシの念願であった距離制限からの解放であるように思えるが…まあ、相変わらずの不完全なナナシの能力で、致命的な欠点があった。

 

“固定化”を“付与”したナナシの肉体は…ナナシが制限範囲内にいない場合、“付与”してある別の能力が使えなかった。

 

「意味ねええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!」

 

…その事実を知った時のナナシの叫びは、ナナシ自身でさえ感情が籠っていたと思えるほどの魂のシャウトであった。まあ、範囲内にナナシが戻りさえすれば能力が使えるようになり、いちいちナナシが遠出する場合に“血晶”を回収する必要が無い、という利点があるにはあるため、全くの無駄という訳では無いのが救いであった。

 

そんな訳でガリィや、追加で回収していたオートスコアラー達の修復をキャロルが正式に仲間になってからは本格的に進めることになった。それも、色々と改造を施しながら…

 

管理と安全性の観点から、キャロル以外にも命令を下せるよう技術者として了子、ナスターシャ教授、そして現場で指示を出す必要が出た時のためにナナシにサブマスター権限を確立。

 

想い出以外からエネルギーを獲得出来るよう、シンフォギアにも使われている物質のエネルギー化とナナシが飲食をした際の物質消失現象を参考に、物質をエネルギーとして取り込める機能を搭載。

 

どうせならもっと人に寄せた方が面白そう!とナナシが悪乗りしてキャロルを説得。想い出の変換技術を応用して味覚や嗅覚などの一部感覚を感じ取れる機能を追加。

 

後はミカの手を本来の形と人に近い形に着脱可能にしたりと、思いつく機能を追加しながら、ナナシが深淵の竜宮跡地やその近海からレイアとレイアの妹の残骸を回収している合間に…先行して修復していたガリィが試作機として出来上がった。

 

だが…

 

 

 

「ハッキリ言って、失敗作じゃないですかね~?」

 

再起動して諸々の説明を受けたガリィの第一声がそれだった。

 

ガリィの前には開発に関わった了子達の他に、暴走した時に備えて装者全員と弦十郎、緒川、そしてそれだけ戦力が集まるなら安心だろうと興味本位でついてきた奏と、奏に声を掛けてもらった未来もいた。

 

「核である聖遺物が砕けて、諸々のスペックが下がったのでエネルギーの消費も下がってますが…それでも食事だけでエネルギーを補うなら一日中食べ続けなければ無理ですよ?効率悪すぎません?」

 

「そうだな~…現状だと一日だけでフードファイターと響もビックリな食事量が必要になる」

 

「サラッとフードファイターと同列に扱われた!!?」

 

「昨日の訓練終わりに食堂で大盛のカレーとオムライスとチャーハンのご飯&ご飯&ご飯をペロッと平らげた奴が何驚いてんだ?」

 

「うぐっ!?」

 

「昨日って…響、帰ってきてから私が作った親子丼も食べてたよね?何度もお代わりしてたし…」

 

「あ、あはははは…」

 

苦笑する響を全員が呆れた目で見た後、改めてガリィの問題点についての話が再開された。

 

「了子君、これ以上の改良は無理なのか?」

 

「厳しいわね。聖遺物を利用しているからこそシンフォギアの技術を応用して人型で収まっているけど、他のエネルギーを利用するなら動力炉だけで体積が数倍になっちゃう」

 

「今は聖遺物に残存していた想い出のエネルギーで稼働していますが、このままではいずれ…」

 

「しかし、今のままでは稼働している間ずっと食べ続けることに…」

 

「食料は俺の“収納”にアホほど有るから別に問題ないが、それだと浪費するだけで稼働する意味が無いんだよなぁ…」

 

大人達とナナシが頭を悩ませていると、黙り込んでいたキャロルが口を開いた。

 

「…当面は、食事でエネルギーを賄いながら不足分はオレの想い出を使用すれば良いだろう」

 

「キャロル!?でも、それは…」

 

「破棄してしまえば良いじゃないですか?」

 

自分の想い出を消費する案を出したキャロルに、ガリィは平然と自身の破棄を提案した。

 

「壊れた欠陥品を無理して運用する意味なんて無いじゃありませんか?我々は既に役目を終えているのですから、サッサとお払い箱にしてしまえば良いんですよ」

 

淡々と言葉を口にするガリィ。それは人形として合理的な判断を言っているのか、それとも…

 

「なあ、消費する想い出ってどんなものでも良いのか?」

 

ガリィの提案で雰囲気が暗くなった室内に、そんなナナシの声が響いた。

 

「碌に喜怒哀楽が籠っていないような想い出でも、エネルギーとして利用することは出来るのか?」

 

「出来なくはないですけど、幾ら以前より必要なエネルギーが減っているからってそんな想い出だけで賄おうとするならここの施設にいる人間全員を集めても足りませんよ?」

 

「実はとても都合が良いことに…ただ座ってボケッとしているだけのクソみたいな記憶を数千年分貯め込んだ碌でもない奴がここに居てな?」

 

『!!?』

 

その発言に、室内の全員が驚いた。

 

「とりあえず試してみないか?駄目で元々ってことで?」

 

「そうですねぇ…それなら失礼して…」

 

そう言ってガリィが自分の顔をナナシの顔に近づけ、その唇をナナシの唇に重ねようとして…

 

「おい…」

 

「貴様…」

 

「何をやっている!?」

 

ガシッ!!

 

…ガリィの両肩と頭を、奏、翼、マリアの三人が掴んで引き止めた。

 

「何って…サブマスターの想い出を頂こうとしてるだけだけど?」

 

「あたし達には、あんたがナナシにキスしようとしてるようにしか見えなかったが?」

 

「だから、サブマスターの想い出を私に口移しで頂こうとしているんだって」

 

「ナンデストー!!?」

 

「何なのだその破廉恥な方法は!?却下だ!却下!!」

 

「え~?別にサブマスターが誰とチュッチュしようがあんたらには関係ないでしょ~?それとも、何か不都合があるの?」

 

「そ!?それ、は…」

 

「何で、そんな方法なの…?」

 

「マスターの趣味に決まっているじゃない!」

 

「いい加減なことを言うな!?ただ単に効率の問題だ!!!」

 

「あ~…うん、分かってる。自分の願望を過程に組み込んで行動していたお前のことを、俺はちゃんと分かっているぞ、クソガキ!」

 

「その言い回しは何一つ分かっていないだろう貴様!!?」

 

赤面したり狼狽えたり憤慨したり苦笑したりと、場が混沌としてきたため、これでは埒が明かないとナナシが打開策を試みる。

 

「要するに、粘膜接触ってことだろ?なら…」

 

そう言って、ナナシが親指の表面を“身体変化”で尖らせた爪でピッと切り裂くと…ガリィの口に突っ込んだ。

 

「ふぐっ!?」

 

「これでどうだ?」

 

突然のナナシの行動にガリィが驚くが、意図を察したガリィがナナシの親指をチュウチュウと吸い付き…少しして、ガリィが口を開いてナナシの指を離す。

 

「ちょっとサブマスター!今の私は味と匂いが分かるんですよ!?いきなり口に血を突っ込まないでくださいよ!」

 

「“血流操作”で固めてたから大丈夫だっただろ?問題無ければ次からは板状に伸ばしてそれを噛んでもらうようにするから。それで?取れたのか?」

 

「取れましたけど~…一体何なんです?この想い出は?」

 

「あー、やっぱりゴミ過ぎて碌に使えない?」

 

「確かに内容はクソみたいですけど…それより…」

 

「ん…?」

 

「たった一日分しか取らなかったのに、とんでもない量のエネルギーが採取出来たんですけど?全盛期のミカちゃんでもしばらく稼働出来そうですよこれ?」

 

『!!?』

 

「おぉう…ご都合展開…」

 

その結果に全員が驚き、ナナシが余りの都合の良さに言葉を零す。

 

「俺が歌を聴いている時の想い出吸い出したら、エネルギーが溢れ出してこの潜水艦諸共に吹き飛びそうだな…ワンチャン兵器運用出来そう?」

 

「せっかく運用の目途が立ったのに使い潰す算段を立てるのはやめてくださいよ!?」

 

「冗談だ、冗談。さて、これで問題は無いよな?」

 

「……いや、やはりオレの想い出を使う」

 

無尽蔵とも思えるエネルギーを確保する手段を見つけたと言うのに、キャロルがそんなことを言い始めた。

 

「こいつらはオレの所有物だ。貴様らとは互いの利益のために協力すると言ったが、そこまで馴れ合うつもりは無い。貴様らの仕事を手伝わせることはあるが、基本的にはオレの補佐をさせるのだ。なら、想い出はオレの物を使うのが道理だろう?」

 

淡々と道理を説くキャロル。だが…

 

「マスターったら素直じゃありませんねぇ?例えどんな想い出でも浪費させるのは気が引けるって考えてるくせに。誰一人として騙せていませんよ?」

 

「なっ!!?ガリィ貴様!!?」

 

ガリィの言葉にキャロルが狼狽える。だが、確かに誰もがキャロルの言葉に苦笑しており、言葉通りに受け止めている者はいなかった。

 

「いやいや、きっとクソガキは公の場でお前らとキスする姿を見せびらかしたいからそれっぽい理屈を並べてるだけだって!」

 

「あ!なるほどぉ!!マスターは人前で私達とイチャイチャしたかったんですねぇ!!」

 

「勝手な事をほざくな貴様ら!!!」

 

そしてキャロルをからかうナナシとそれに便乗するガリィ。顔を赤くして怒るキャロルを楽しそうに眺めるナナシだったが…不意に笑みを消してキャロルを真っ直ぐ見つめる。

 

「幸福な記憶も、不幸な記憶も、全てが今のお前を形作る大切な積み重ねだ。本来それを取捨選択しながら消し去るなんてあってはならないんだよ。俺はお前にもう自分を殺すような真似をして欲しく無い」

 

「…自分なら構わないと?」

 

「あはははは!俺は不死身だからな!それに使うのは石ころほどの価値も無い空っぽの記憶だぞ?せっかく油田を見つけたのに一本一本大切に育てた木々を切り倒して使う意味なんて無いだろ?元々資源みたいな使い方をしている体なんだから今更今更!」

 

ナナシは笑いながら…しかしその瞳に決して譲るつもりは無いという確固たる意志を宿してキャロルを諭す。それでもキャロルは納得がいかないようで難しい顔で黙り込んでしまった。すると、ナナシが唐突に何かを思いついたように手をポンと打った。

 

「あ!そうだ!なら錬金術師らしく、『等価交換』といこうじゃないか!」

 

「等価交換…?」

 

「少なくともお前の表面上の主張は、一方的にこっちが燃料提供するのが理屈に合わないって言ってんだろ?なら、お前に対価を求めようって話だ!」

 

「…何が欲しい?」

 

話に乗るかはともかく、ナナシが何を要求するか興味があったキャロルがナナシにそう問いかけると…

 

 

 

「俺の『空っぽな過去』を全部やる!その代わり、『お前と共に在る未来』が欲しい!俺の石ころみたいな過去を、お前をからかったり、お前の歌を聴いたり出来る未来に変えられるなら、まさに錬金術だ!!どうか、これからもよろしくお願いします!!」

 

 

 

 

 

「いや~、情熱的な『プロポーズ』でしたねぇ~!『俺の全てをやるからお前が欲しい!』だなんて!アハハハハハ!」

 

「勝手に過大解釈するなガリィ…歌女共の反応に狼狽えるあいつの様子を見たなら分かるだろう?全く、あれだけ巧みに言葉を扱っていながら、何故ああも自分の発言の意味を理解していないのか…」

 

ナナシの発言の後、周囲が騒ぎ立てるわキャロルが顔を赤くしてフリーズするわ一部の人間が猛烈に不機嫌になるわで結局話が纏まらず有耶無耶になり、とりあえずガリィにナナシが与えた想い出のエネルギーで他のオートスコアラー達も稼働しながら食料で消費を抑えている現状だ。レイアの妹は現在修復中で、完成したらS.O.N.G.本部の警護をしてもらう予定である。

 

「こんな会場の隅っこで何騒いでんだ?何か顔が赤いけど体調でも崩したか?」

 

ガリィがキャロルをからかっていると、その騒ぎを聞いて奏が近づいてきた。すると、先程まで楽しそうに笑っていたガリィが何故か顔を顰めて奏に突っかかっていった。

 

「アァン?何マスターの顔を曇らせた奴が気安く話しかけてきてんだ!!」

 

「いや、まあ…それは悪かったよ」

 

ガリィの言葉に、奏はバツが悪そうに頬を掻いていた。

 

 

 

 

 

ナナシがキャロルに依頼した、奏とナスターシャ教授の治療…実は、奏に関しては既に一つの解を出していた。

 

それは、キャロルも行った想い出のインストールによる肉体の切り替えである。

 

肉体の情報から予備躯体を作成して意識を移し替えるこの方法は、長く死病を患い既に高齢であるナスターシャ教授では脆弱な予備躯体しか作れずリスクが高いため使えなかったが、奏はLiNKERの毒に侵されていない細胞を使えば可能であった。

 

だが…この方法を奏は拒否していた。

 

正確には、悩んだ末に奏はキャロルに了承の返事を返そうとしたのだが…

 

「奏」

 

ナナシがたった一言、奏の名を呼ぶことでその言葉を制した。周囲はナナシの意図が理解出来ず困惑していたが、奏は呆れたような、何処か嬉しそうな苦笑を浮かべながら…

 

「悪い、他の方法を考えてくれないか?」

 

…そう言ってキャロルの提案を拒否した。何故目の前に、明確な答えがあるのにそれを拒絶するのかキャロルが問いかけると…

 

 

 

「…この体はさ、あたしが両親から貰った大切なモノなんだ。馬鹿やってボロボロにした親不孝者だけど、あたしはこれからもこの体で精一杯生き抜いていきたい」

 

 

 

 

 

「まるで元の体を捨てて生きてきたマスターへの当て擦りみたいな事を言っておいて、よくもいけしゃあしゃあと…!」

 

「よせ、ガリィ」

 

怒りを露わにするガリィを、キャロルが静かに諫めた。

 

「愚かな拘りで目の前の解から目を逸らしたのならば、オレはこいつを見限るだけだったが…家族から譲り受けたモノを大切にしたいと言う考えを、オレは愚かだとは思わん」

 

「……まあ、マスターがそう仰るなら…」

 

「…ありがとな」

 

「フン…」

 

奏の感謝の言葉に、キャロルはそっぽを向いてしまう。奏とエルフナインがそんなキャロルの様子を優しい笑みを浮かべて見つめていると…

 

(おーい!!いい加減勘弁してくれ!!せめてクソガキ、お前も一緒に壇上で歌え!!)

 

…キャロル達の頭に、壇上で歌うナナシから“念話”が届いた。

 

(元々お前が元凶だろ!?俺だけ晒し者にしておいて隅っこに隠れてんじゃねえよ!!お前も来い!!来てください!!!よろしくお願いします!!!!)

 

どうやら会場全体に“念話”を繋いでいるらしく、全員の視線がキャロルに集まる。キャロルはその視線に不愉快そうな表情をして、ナナシの懇願を拒絶しようとして…

 

「キャロル」

 

…そんなキャロルの手を、エルフナインがそっと掴んだ。

 

「行きましょう?ボクと、ナナシさんと、皆さんと…一緒に、世界を識りましょう!」

 

「ッ!?」

 

エルフナインの言葉に、驚きを露わにするキャロル。少しの間、エルフナインの顔と繋いだその手に視線を行き来させたキャロルは…何処か困ったよな、仕方が無いと言った風な笑みを浮かべて、大勢の人間に見守られながら手を引くエルフナインに続いて壇上に…自分を受け入れてくれた世界へと、歩み寄った。

 

 

 

 

 

「全く、こんなところに英雄である僕をほかしたまま祝賀会など、良い御身分ですねぇ?」

 

S.O.N.G.の医務室、そのベッドの上で横たわりながら…至る所に包帯を巻かれたウェル博士が不満の声を上げていた。

 

「そう愚痴るなって。その怪我じゃどう足掻いても祝賀会に参加なんて出来ないだろ?俺がわざわざ天国と地獄のような催しを終えて様子を見に来てやったんだから我慢してくれ」

 

「貴様の見舞いなど、何の足しにもなるものか!」

 

「飴くらいなら出せるぞ?」

 

「フン!…さっさと寄越せ」

 

不貞腐れたようにそっぽを向きながら飴を要求するウェル博士に苦笑しながら、ナナシは飴満載の籠をウェル博士のベッド近くの台に置いた。

 

ウェル博士は、シャトー爆発時にマリア達を庇って瓦礫の下敷きになっていたところをナナシが救助していた。本人曰く、自分の英雄的行為を世に知らしめるためと言ってマリアに自分の研究データが入ったチップを託したところでナナシがたどり着き、瓦礫を“収納”して麻酔やその他諸々の医療器具で応急処置を施されて生き恥を晒すことになったため、生き永らえたというのにとても不満そうな様子だった。

 

「貴様のお陰で英雄として死に損なった挙句に、交渉の要であるLiNKERのデータまで渡してしまった!オマケにまた海の中に逆戻り…」

 

「まあまあ、お前が俺に話を合わせてくれたから、お前も潜入スパイの一人として貢献していたってことで上手く話を纏められたんだから良いじゃないか?お前から目を離すと碌なことにならないから今後はこのS.O.N.G.で収監されることになるけど、それでも海底よりはずっと地上に近づいただろ?生き物は元々海から生まれたんだ。今は英雄として再誕しようとしているとでも思ってじっくり地上を目指していけば…」

 

「僕が地上に出るのに何億年かけるつもりだ!!?」

 

ウェル博士の様子を一頻り笑顔で眺めた後、ナナシは部屋を出るべく立ち上がった。

 

「それじゃあ、またちょくちょく顔を見に来るから、せいぜい養生しておけよ、英雄様?」

 

「フン!…言っておくが、僕は英雄となることを諦めたつもりは無いからな!データチップの解析が進まず貴様らが泣きを入れてきた時は精々足元を見てやるから覚悟しておけ!!」

 

「あっはははは!その時は俺が交渉するだろうからよろしくお願いします!!」

 

ウェル博士の挑発を笑い飛ばしながら、ナナシがウェル博士に背を向けて…不意に、その動きを止めてその口を開いた。

 

「ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス」

 

「あぁん?突然何だ?英雄たる僕のフルネームを妄りに口にするんじゃ…」

 

「お前の全てに感謝を。お前は俺の英雄だ」

 

「ッ!!?」

 

ウェル博士が驚きながらナナシの方に顔を向ける。ナナシは振り返って真剣な顔でウェル博士を見つめながら、自身の想いを言葉に紡いだ。

 

「お前の行いを知る者は、きっと大半がお前のことを蔑むだろう。我欲で世界を破滅に導こうとして尚、抗うお前を人々は嘲笑うだろう」

 

「……」

 

「だけど、お前の存在が無ければ、不完全なLiNKERではマリア達はあのライブの時まで生き残れなかったかもしれない。響はガングニールに蝕まれて命を落としていたかもしれない。フロンティアが起動されず、世界は滅びたかもしれない。そして今回、チフォージュ・シャトーは止められず、世界の全ては分解されていたかもしれない」

 

「……」

 

「もちろん、全ては可能性の話だ。案外、お前がいなくてもどうにかなったかもしれないけどな!……でも、今この時、この瞬間の、俺達が笑って過ごせている今の世界は、お前の存在が無ければあり得なかったのは間違いない」

 

呆然と、ナナシの言葉を聞くウェル博士の前に、ナナシは片膝をついて跪く。まるで、英雄を称える信者のように…

 

「故に私は、あなたへの感謝の証として『永遠』を約束しましょう」

 

「永、遠…?」

 

「これから先の未来、私はあなたのことを語り継ぎましょう。この世界がかつて滅びに瀕した際に、抗い立ち向かった者達の中に、ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスという、何処までも己の夢を追い求めた最低の…それでも確かに、世界を救った英雄が存在したことを。人の歴史が途絶え、星の生命が尽き果てて…いつか、私の存在が終わるその時まで。私は“紛い物”の信者として…あなたのことを、忘れない」

 

そこまで言ったナナシはスッと立ち上がり、いつもの笑顔をウェル博士に向ける。

 

「そういう訳だから、生きている間に英雄として持て囃されたかったら精々頑張ってくれ!お菓子くらいなら定期的に貢いでやるからさ!それじゃあ、またな!」

 

そう言って今度こそ、ナナシは部屋から出て行った。

 

「…全く、何を馬鹿な事を…“紛い物”の信者など…何の…足しにも……ああ、クソ!埃っぽいなこの部屋は!!空調一つ満足に整えられないのか!!?目が痒くて仕方がない!!…クソ…チクショウ…」

 

一人残されたウェル博士は…世界を救った英雄は、その瞳から流れる雫を隠すようにその手で顔を覆うのだった。

 

 

 

 

 

「やり直したいんだ!!」

 

とある家の前で、洸がそう叫んでいた。

そこは、かつて洸が逃げ出した響の実家。そこで洸は、響に見守られながら響の母に…自分の妻に想いを伝えていた。

 

「皆で、もう一度!だから…」

 

頭を下げて、洸が震える手を差し出す。響の母はどうすれば良いか分からず困惑しながら、一度玄関で様子を窺う響の祖母を見た。響の祖母も困惑気味で、判断しかねているようだった。響の母は洸に視線を戻し、自分の手を洸の手に伸ばそうとして…やはり躊躇して、手を引いてしまった。

 

「あ、あはは…勢いなんかで手を繋げないって…」

 

やはり駄目なのかと、洸が苦笑しながら自分の手も引こうとして…

 

ガシッ!!

 

…響が自分の両親の間に入り込み、両手でそれぞれの手を掴み取った。

 

「響…?」

 

「こうすることが正しいって、信じて握ってる。だから…簡単には放さないよ!」

 

そう言って響は…自分の『家族』に、太陽のような笑みを見せた。その顔を見た二人は、何処か困ったように笑みを浮かべて…その手を握る力を強めた。

 

その様子に、響の祖母も僅かに玄関の戸を開き…響は想いで、家族の在り方を少しだけ変えてみせた。全てが元通りになった訳ではない。それでも、これから少しずつ…共に未来を歩んでいけるように。

 

『少しずつ重さを抜いていって、最後には『あの時は大変だったなぁ』ってお前が思い出して笑えるようになることを目指して欲しい』

 

響は両親の手を引いて実家に向かいながら、かつて自分の兄弟子から言われた言葉を思い出していた。

 

(今はまだ、ぎこちないかもしれないけど…へいき、へっちゃらです!これから、ここから!きっと笑い飛ばせるようにしてみせますよ!!兄弟子!!!)

 

その顔の笑みを深めながら、響は胸の内に誓いを立てる。まるでその想いが伝わったかのように、響の手で揺れる“血晶”が、太陽の光を受けてキラリと輝いた。

 




これにて、GX編完結です!
お気に入り数427、UA数76000越え!
この作品を読んでいただき本当にありがとうございます!

オートスコアラーの核が聖遺物って設定、何処かで見た覚えがあるのに調べても出てこなかったんですよね。もしかしたら他の方の二次小説の設定だったかもしれません。この作品でもそういうことにしといてくださいw

次回からGX後日談が開始されます。
話の内容は頭の中で纏まっていますがまだ文章化が終わっていません…
場合によっては不定期投稿になるかもしれませんがご了承ください。

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