戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
第113話
魔法少女事変から少し経った頃
キャロル・マールス・ディーンハイムは、机に突っ伏していた。
場所は彼女の研究用に与えられたS.O.N.G.の研究室。そこには装者六名と奏、未来が集まっており、もはや『お決まり』とも言える光景に全員が苦笑していた。
「…んなのだ…」
自分が呼び集めた者達が入室しても微動だにしなかったキャロルから、何かぼそぼそと呟くような声が聞こえたため、全員が耳を傾けると…
「…一体…何なのだ…あの…アンノウンは……」
…顔を上げる気力も無いといった風な、絞り出すようなキャロルの声が聞こえてきた。
『おい、ちょっと待て貴様!』
『キャロル?何かあったか?』
『よくもオレを謀ろうと画策してくれたな!?』
『えっと…?一体どの話だ?』
『『何の話』ではなく『どの話』と言う所が貴様の腐った性根を表しているが…貴様がオレとエルフナインに用意しようとしているあの服のことだ!!』
『ああ、着物のことか?謀ろうとって…言ったじゃないか?着物は門出やめでたい行事で着られることが多いこの国の伝統的な衣装で、特に年末近くになると着る機会が多いから今から準備しておこう!二人の門出を祝って俺から贈らせてもらうって。俺、嘘はついてないぞ?』
『ああ、貴様は確かに嘘はついていない。そして、着物が届く十一月頃に試着のついでに写真を撮ると…だが、オレは知っているぞ!この国の十一月には、『七五三』と言う子供の成長を祈願する風習があるそうだな!?』
『あ、バレた?Exactly!!まあ見た目も中身もガキだし問題ないだろ?三歳でも五歳でも七歳でもないけど、ワンチャン七五三歳な可能性はあるから大丈夫だって!』
『ふざけるな!そのような行事、オレは参加しないぞ!!』
『え~?あんなにエルフナインが着物を着る行事を楽しみにしているのにか?』
『ぐっ!?あ、あいつだけ参加すれば良いだろう!?』
『分かってないな?あいつは『お前と一緒に』参加するのを今から楽しみにしているんだぞ?嫌だと言うなら無理強いはしないが、その場合はお前が自分でエルフナインに伝えに行けよ?』
『き、貴様…!!』
『アンノウン!貴様よくも!!』
『何だ?クソガキ?』
『よくもオレにこんなカバンを使わせたな!!』
『使わせたって…俺が大荷物を抱えて駆け回るエルフナインに薦めるためにプレゼンしていたのを横で聞いていたお前が自分も欲しいって言ったんだろう?五年以上の長期にわたる使用を前提とした極めて丈夫な造りと大容量を収納するための機構の数々。その利便性からこの国の学生の大多数が使用したことがあり、水害の多いこの国ではその浮力から救命胴衣の役割も備え、なおかつ多彩なカラーリングでデザイン性にも優れたこの国が誇る超合理的カバン…その名も『ランドセル』!!』
『児童学生用のカバンではないか!?』
『だからこそ体格的にもピッタリだろ?見た目もこれ以上ないくらいハマっていたから、お前がエルフナインと並んでランドセルを背負って歩く姿はブッファ!!?』
『何を笑っているのだ貴様ぁああああ!!!!』
「何と言うか…もう定番になりつつあるな?」
「慣れない者には厳しい洗礼だな…」
「慣れても厳しいし、慣れたくもないのだけれどね…」
「フ…フフ、フ…」
特に被害に遭うことが多いクリス、翼、マリアの言葉を聞いたキャロルが、何故か力なく笑って僅かに顔を上げる。
「貴様らの、想定は…甘いと、言わざるを得ない…状況は更に…深刻な事態に進みつつある…」
S.O.N.G.に所属してからナナシの悪戯に悩まされていたキャロルであったが、実は意外な所から味方となる者がいた。
「マスターをからかうのはこの私だ!!勝手な真似してんじゃないわよ!!!」
…ガリィが、キャロルをからかうナナシに対して堂々とそう宣言したのだ。キャロルとしては非常に複雑な思惑ではあったが、ガリィがナナシの防波堤になってくれるならありがたいとホッとしていた。
しかし、そんなガリィを前にして…ナナシは満面の笑みを浮かべてガリィを部屋の隅へと誘導し始めた。
「アァン?何のつもりだ?」
「まあまあまあまあ…」
「何を言われても、私は譲るつもりなんて…」
「まあまあまあまあちょいちょいちょいちょい…」
部屋の隅へ移動したナナシとガリィは、何やらコソコソと会話をしたかと思うと…
突然、ガシッ!と固い握手を交わした。
…そこから、キャロルの悪夢が始まった。
『ガリィ!!これは何のつもりだ!!?』
『あ!マスター、申し訳ありません!サブマスターから残存した機能の確認をするよう言われていたので、ちょっと水を出そうとしたら失敗してしまいまして、マスターの下着が納まったタンスを水浸しにしてしまいました…ですがご安心ください!サブマスターから代わりを用意するよう一任されましたので、マスターに似合う物をバッチリご用意させていただきました!猫ちゃんやクマちゃんのマークがとってもプリティでしょう?』
『何をしてくれているのだ貴様はあああ!!!!』
『…説明してもらおうか?』
『あら?言ったではないですか?サブマスターからの差し入れだと?』
『…つまり、この惨状もあの男の差し金か?』
『いえいえ、それは私からの気遣いです!サブマスターから『多忙なクソガキにしっかり休息を取らせるためにお前なりに色々考えてみてくれ!』と以前から命令を受けていたため、私なりに迅速にマスターが糖分を補給出来るように工夫してみました!!如何でしたか?』
『箱を開けた瞬間、顔にケーキを叩きつけるような仕組みを気遣いなどとほざくなああああ!!!(ベッチャリ…)』
『貴様ら…ホント…いい加減にしろ…』
『突然どうした?』
『何か御座いましたか?マスター?』
『恍けるな!昨晩、オレが丁度トイレに行ったタイミングで『寂しいよ…遊ぼう…遊ぼう…』と“念話”で伝えてきただろう!?“血晶”を外した途端に聞こえなくなったのだから貴様らどちらかの仕業であろう!?』
『昨晩って…俺はずっと夜勤連中の手伝いをしていたからお前が何処に居たかなんて知らないぞ?』
『では貴様かガリィ!!?』
『え~、お忘れですか?昨晩は私、サブマスター・了子の所で研究を手伝うようにマスターから仰せつかっていたではありませんか?流石に命令違反してまで悪戯はしませんよ』
『なっ!!?そんな馬鹿な!?では一体どうやってあんなタイミングで!!?』
『…そういえば、サブマスターは蟲毒の儀式によって生まれたと仮定されていましたっけ?』
『ああ、恐らく大勢の人間を糧に生み出されたんじゃないかと…』
『『……』』
『な、何を黙り込んでいるのだ貴様ら!!?いつもの悪戯なのだろう!!?今なら正直に言えば許してやらんこともない!!!』
『…ああ、悪かった。ちょっと質の悪い悪戯だったな?(スッ…)』
『ご安心ください、マスター…今後は連絡してくだされば仕事を抜け出して駆けつけますので。もちろん、知らない場所で悪戯が出来ないようにですよ?(スッ…)』
『何故目を背ける!!?冗談なんだろう!!?そうだろう!!?!?』
ガチャ
『あ!ガリィ!サブマスター!!約束通りマスターがトイレに入ったタイミングで“念話”で連絡したんだゾ!!ご褒美のご飯とチューが欲しいゾ!!』
ダッ!!!
『きっさまらぁああああああああああ!!!!!』
『やってないなんて言ってないでしょおおおお!!!』
『ちゃんと正直に言っただろうがああああああ!!!』
『あー!!?待って欲しいんだゾ!!?ご褒美欲しいんだゾォオオオ!!!』
「ガリィは…オートスコアラー達は、人に近い人格があるとはいえ、創造主であるオレに直接的な危害を加えるような真似はこれまで出来なかった…だが、命令権が分割され、あの男からの『命令』という過程を得たことが免罪符となり、かなり自由に行動するようになった…」
「悪戯すんなって命令すりゃあ良いんじゃねえか?」
「その定義は?現時点で『オレのためになることを考えろ』などと曖昧な命令が下されている。あまり具体的に行動を縛っては活動に支障が出る。悪戯ではなく試行錯誤だと言われれば縛ることなど出来ないし、そのような言葉遊びはあの男の独壇場であろう?」
クリスの指摘に頭を押さえながらキャロルはそう答えた。
「そうなると、オートスコアラー達の個々の判断が重要になってくる。ガリィのことは言うまでもない。そして他のオートスコアラー達も、奴の口車に乗りつつある…」
『ん~!!美味いんだゾ!もっと食べたいんだゾ!!』
『好きなだけ食え。こう思いっきり食ってもらえると気持ちいいものだな』
『ん?他の奴らはあんまり食べないんだゾ?』
『う~ん、ツヴァイウィングの二人とアイドル大統領は理由があって食べたいけど食べられない物が多いんだ。他の奴らも一部を除いて女だと自由気ままにって訳にはいかないんだよ』
『こんなに美味しいのに可哀想だゾ!』
『だろ?ならお前が食堂で食べる時は、その美味しさをせめて言葉で伝えてやってくれ!特にアイドル達には徹底的に!!』
『分かったゾ!美味しい物をいっぱい教えてあげるんだゾ!!』
『私に地味は似合わない…サブマスター、私にもっと派手に活躍出来る機能の搭載を!!』
『と言っても、お前達の体は既に改造を施せる余地が少ないからな。そうなると外付けの何かってことになるが…う~ん…あ!そうだ!!こんなのどうだ?』
『こ、これは…!』
『この国が誇るロボットアニメ…その中でも、主人公がロボットの中に乗って操縦するジャンルだ。今修理中のお前の妹に、お前が乗り込める要素を追加出来れば…』
『何と!!?』
『ただ乗るだけだとお前の姿が隠れるだけだから、お前が乗り込むことで何らかの意味を持たせることでお前と妹が派手に活躍出来るってのがコンセプトだな。どうだ?』
『素晴らしい…!!是非その機能の検討を!!』
『まあまあ、そう焦るな。こういうのは焦って取り組んでも企画倒れになるだけだ。お前の妹自身にも意見を聞きつつジックリ考えていこう!どうすればお前ら姉妹が輝けるのかを!!』
『ええ!ジックリ考えましょう!!どうすれば我々姉妹が派手に活躍出来るのかを!!!』
『『フフフフフ…!!』』
「ミカは既に誘導されて悪戯を仕掛けているようだし、レイアは何やら一緒に怪しげな計画を企てている」
「あんにゃろう…!」
「あれはそういうことだったか…!」
「あのミカって子が善意で動いているのが尚のこと質が悪い…!」
「ロボット…!アタシも乗りたいデス!!」
「だよねだよね!!わたしも乗ってみたい!!」
「一部例外共が心躍っていやがる…」
「考え方が男の子みたいだよね?あの二人」
「そ、そうですね…(私もちょっと乗ってみたい…)」
「貴様ら、話を聞け!!」
思い思いに話し始める響達にキャロルが一喝して黙らせ、話を再開する。
「オートスコアラー達だけではない。エルフナインの奴も以前よりあの男との絆を深めて、せっかく獲得したあの男への命令権も巨大流しそうめん機の作成などという訳の分からないことに使ってしまった!!」
「ああ、響が猫ちゃん用ウォータースライダーと間違えたアレだね?」
「兄弟子とエルフナインちゃんの超大作だったね?分岐するコースの直前を兄弟子の“障壁”で道を作ってたから時々色が付いて見えなくなったり流れが複雑になったりで何処からそうめんが流れてくるか分からなくなっちゃった」
「……オレの周囲の者達が次々とあの男に誑かされる。このままでは…」
頭を抱えて蹲るキャロル…何故か、マリアがキャロルを仲間のような目で見つめていた。
「しかし、オレにはまだファラがいる!今回貴様らを呼んだのは、唯一あの男と敵対関係であるファラがオレに寄越した情報があったからだ!!」
「え?ファラさん、兄弟子と仲が悪いの?」
「ああ、オートスコアラーの中で一番大人しい性格をしているあいつが、先日あの男と声を荒げて言い争っているのを目の当たりにした時は目を疑った。オレにあの男にとって不利益な情報を渡してくるくらいには、反りが合わないらしい」
「あのご都合主義と言い争うなんて、よっぽど腹を据えかねてんだな…ん?先輩、顔が赤いけど大丈夫か?」
「な、何でもない!!それより、ファラが語ったナナシの不利益な情報とは何なのだ!?」
クリスの言葉に、奏とマリアから意味ありげな視線を向けられている翼が慌ててキャロルに話を進めるよう促す。キャロルはそれに従い、真面目な顔でファラから聞いた情報を語り始めた。
「ファラが伝えてくれたのは…あのアンノウンとガリィが秘密裏に進めているらしい計画についてだ」
「マスター、少しよろしいですか?」
それは、数日前にガリィがキャロルに話しかけてきた時のことであるらしい。
「何だ、ガリィ?」
「実はS.O.N.G.の方で手伝って欲しい仕事があるらしくて、私にこの日、終日出向いてもらえないかと申請されました。問題ないでしょうか?」
「何…?手伝いの内容は?」
「伺っていません。あまり重要ではないみたいで、少しでも不都合があるなら気にしなくていいと言った感じに話をされましたので、単純に人手が欲しかったのではないでしょうか?」
「ふむ…まあ良いだろう。許可する」
「りょーかーい!ガリィ、頑張りま~す☆」
茶化すようにそう言って、ガリィは指定の日にキャロルの傍から離れることになった。仕事の内容に疑問が無いわけでは無かったが、度重なる悪戯に疲弊していたキャロルはガリィが傍から離れるなら心休まるかもしれないという打算もあったため、後で確認すれば良いと特に考えずガリィに許可を出した。
しかし、キャロルから許可をもらったガリィが、その後ナナシと次のような会話をしていたのをファラは聞いてしまったらしい。
「無事許可は取れたか?」
「バッチリです!これで私は丸一日自由に行動出来ますよ~♪」
「おいおい、勘違いしたら駄目だぞ?お前はその日、俺の手伝いをしてもらうんだ。建前は大事だぞ?」
「あ、いっけな~い♪私はあくまでその日、サブマスターの補佐をするんですよね♪」
「そうそう、俺の補佐をするために同行してもらうんだ」
「「フフフフフ…!!」」
「どうやらあいつらは、何らかの悪巧みのために街へと外出するらしい。そこで、オレが貴様らをわざわざ呼び出した要件と言うのが…」
「「「だが断る!!」」」
いよいよ本題を切り出そうとしたキャロルであったが、その前に翼、クリス、マリアの三人が力強く拒絶の言葉を口にしてしまった。そのことにキャロルは不快感を覚えることはなく、何処か納得したような様子だった。
「やはり貴様らも、あの男に一矢報いようとしたことがあったか…だが、勘違いしてもらっては困る。オレは別に貴様らに協力を『懇願』しているのではない。協力させてやろうと『提案』してやっているだけだ」
「はあ?何でてめえが上から目線でこっちに指示出そうとしてんだ?頭下げんのはてめえの方だろ?」
苛立つクリスに、キャロルは呆れたように溜息を吐いた。
「ハァ…大局的に状況を見れないのか?深刻な事態というのは、別にオレの立場に限った話では無いのだぞ?」
「何…?」
「いいか?今は新参者であるオレをあの男はまるで新しい玩具で遊ぶような感覚で集中してからかう対象としている。そしてガリィも、今までにない自由な行動を取れるが故にそれに便乗している。だがな、もしオレをからかうことに飽きの感情が少しでも現れれば…口直しとしてあいつらの目が何処に向かうか、わざわざオレが言わなくても分かるだろう?」
「「「!!?」」」
キャロルの言葉に、翼達はキャロルが言わんとしていることを理解した。このままでは再び自分達が悪戯の対象になるだけでなく、そこにガリィが付いて来るのだ。それは三人が協力して一日カラオケで歌を聴かせることを対価に「“水鏡”は人っぽく動かすだけで結構神経使うから、あれで二人になってからかうよりは二回からかった方が楽しい」とナナシの言質を聞き出して密かに安堵していた『ナナシ分裂化計画』の再来に他ならない。
「しかも、だ…あの男は、一応性別的な配慮をしているようだった。日常的に下着を晒しているらしい極一部を除き、そういった方面での貴様らの隙はからかうのではなく窘める言動をしていたはずだ」
「誤解を生みそうな言い方をするな!!?」
翼が顔を真っ赤にしながら憤慨するのをスルーして、キャロルが言葉を続ける。
「だが、ガリィは雌型の人形であるが故にその縛りが無い。そしてガリィから提案という形であの男がそちら方面での悪戯に協力を続けていれば、あの男自身の縛りすら緩む可能性も否定出来ない」
「「「!!?」」」
そう、近いけど少し性質が違う故に余計質が悪い。最悪の場合、相乗効果で更に個々の性質が悪化する可能性があるのだ。
「だが、この状況はチャンスでもある!考えてみろ?この情報はファラがあの男と不仲であった故に手に入った物で、ガリィは最初あの男と対立していたのだ。今あの二人が協力しているのは、互いに利益があるからに過ぎない」
「えっと…?どういうことデス?」
「な、何だろう…?」
「…!そうか!!同士討ちを狙うのね!?」
切歌と調は良く分からず困惑していたが、マリアはキャロルが言いたいことに思い当たった。
「そう!今回のように計画を事前に暴き、それをあの二人に双方が原因と思わせることが出来れば、再びあいつらを対立させることが出来る!!そうなれば、互いに牽制し合うことで我々への被害は必然的に減少することになるはずだ!!!」
「「「おお…!」」」
キャロルの言葉で、翼達の瞳に光が宿る。これまで手も足も出なかったナナシの悪戯に、楔を打ち込めることが出来るならば、それはまさに天から伸ばされた蜘蛛の糸に他ならない。
「オレ達は別に奴らの計画を阻止する必要はない!その全容を理解して、奴らが悪戯を仕掛けてきた際に鼻で笑ってやれば良いのだ!!そのために、事前準備をする奴らの動向を監視する必要がある!!」
キャロルの言葉を真剣に聞き始める翼達。もはや拒絶の意思など無い。決戦に挑むような面持ちでキャロルの言葉に聞き入る翼達を、奏達が苦笑しながら見つめていた。
「奴らは当日、車で市内を移動する予定らしい。他のオートスコアラー達は三機ともエルフナインと共に行動する予定であるためファラの協力は得られないが、レイアとミカが悪用される心配もない。こちらの基本方針は、“認識阻害”を用いた奴らの尾行及び監視だ」
「“認識阻害”を!?で、でも、あれは元々ナナシの力よ!?私達も過去、それで失敗したことがあるのに…」
「え?マリア、先生を尾行したことがあったの?」
「初めて聞いたデス」
「あ!?いや、それは!!?」
「い、以前、私と雪音が試みたことをマリアに話していたのだ!!我々はよくあの男の被害に遭う故、マリアは『私達』と言ってくれたのであろう!!」
マリアの失言を、翼が慌ててフォローする。翼達がナナシを尾行した時にはまだ“血晶”は存在しなかったが、素直な切歌達はそれで納得したようだった。しかし、マリアの指摘を聞いたキャロルは、マリア達に呆れたような視線を向ける。
「何を言っているのだ貴様らは?“血晶”を用いた“認識阻害”の行使はあの“紛い物”自身にも効力を発揮する。気づかれればあの男の任意で解除されてしまうが、そもそもの隠蔽効果で気づかれ難くなるのだから、間違いなく有用なはずだ」
『!!?』
キャロルの指摘に全員が驚愕していると、キャロルが引き続きナナシの能力について説明し始めた。
「だが、奴は素の索敵能力も相当高い。過去の作戦記録にあったデュランダル移送作戦においても、攻撃を事前に察知して仲間を守っていた。何かに集中している時は気づかない場合もあるようだが、少なくとも目視出来て会話が聞こえるような距離まで近づいては気づかれて当然だぞ?」
「「「!!?」」」
キャロルの指摘が、翼達にグサリと突き刺さった。要するに、これまでの行動は最初からナナシにバレバレであったらしい。
「…何故新参者であるオレの方が貴様らよりあの“紛い物”の能力に詳しいのだ?貴様ら、あの男に興味が無いのか?」
『!!?!?』
…キャロルが何気なく放ったその言葉は、翼達だけでなくその場の全員に衝撃を与えた。
「い、いや!?そんなことはない!!」
「そ、そそそ、そうだよ!?」
「な、ナナシさんは、よくコッソリ何か大切なことをしているから!!」
「せ、先生の邪魔は、良くないと思って…!!」
「そ、そうデス!!」
…実際は、ナナシが全員に対して『あまり深入りすると酷い目に遭う』と思うように悪戯を仕掛けることで、無意識に詮索しないように仕向けていただけだ。平気で四肢を欠損させたり、貯蓄するため血をドバドバ流す光景を目の当たりにするのは良くないというナナシなりの配慮もあるのだが…そんなことは分からない奏達は、キャロルの指摘で自分達は無意識にナナシを避けているんじゃないかと疑念を持ってしまった。
「まあ、貴様らの思惑はどうであろうと構わないが…今回の計画は頭数が多い方が助かる。貴様らも今後対象となる可能性が高まるのだ。協力する気はあるか?」
『……』
先程の懸念もあり、ナナシの事をより知りたいという想いも加わったことで、全員がコクリと頷き、装者六名と奏、未来、キャロルによる、ナナシとガリィの尾行作戦が決定された。
ナナシ「俺はお前のサブマスターで、お前に対する命令権を持っている」
ガリィ「はぁ?そんなもの、マスターだって持っているんだからある程度私自身の裁量でどうとでも…」
ナナシ「俺がお前にあのクソガキを休ませるように言えば、お前はあのクソガキに添い寝して頭を撫でながら寝かしつけてでも休ませなければならない。『命令』だから」
ガリィ「!!?」
ナナシ「俺がお前にあのクソガキに栄養補給をさせろと言えば、お前はあのクソガキの顔にパイを叩きつけてでも何か食べさせなければならない。『命令』だから」
ガリィ「……」
ナナシ「俺はまだあのクソガキと付き合いが浅い。何があのクソガキにとって有用か分からないから、お前からそれを聞き出してお前に実行するように言えば、お前は…」
ガリィ「『命令』だからマスターが喜びそうな可愛いお洋服を着せようとしても仕方がありませんよねぇ♪」
ナナシ「そう、『命令』だから仕方がないんだ!」
ガリィ「『命令』だから仕方がないですねぇ♪」
ナナシ・ガリィ「「あははははは♪」」
…こんなやり取りがあったとかなかったとかw
主人公尾行ネタばかりで申し訳ない。多分AXZ編では別のネタになります。