戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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ギ、ギリギリ投稿間に合いました…これでストックが完全にゼロです。
ちょっと文章を纏めきれず過去最長の文章になってしまったのと、誤字確認が不完全かもしれないので読みにくかったら申し訳ない。



第114話

ナナシとガリィの外出当日

 

ナナシとガリィはレンタカーを使って街中を移動していた。

その様子をキャロル達は…高層ビルの屋上から双眼鏡を使って監視していた。

 

キャロルが立てた作戦は次のようなものだ。

 

まず、総勢九人のメンバーを三つの班に分ける。

一つは現在全員で行っているように、上空からナナシ達の位置を捕捉する監視班。こちらはマリア、切歌、調の三名が担当する予定だ。

残りの二班は、監視班からの情報を元にキャロルが事前に用意したテレポートポイントを使ってナナシ達の傍に接近、その動向を観察する追跡班A、Bである。

追跡班Aは響、翼、クリス、キャロルの四名。物陰に隠れつつ双眼鏡で遠目にナナシ達を監視する班。

追跡班Bは奏と未来。更にナナシ達に接近しつつ、目視ギリギリの範囲で通行人に紛れるなどしながらより詳細な情報を獲得するのが目的の班だ。

 

この内訳は、一応キャロルが外出すると言うことで装者三名をキャロルの傍に配置。そして奏と未来の組み合わせなら、外部協力者として交流のある二人は最悪遠目にバレてもそこまで不自然に思われないためだ。

 

…あと、キャロルは口には出さなかったが、他のメンバーでは癖が強いため人混みに紛れ込むなど無理そうだという思惑もあった。

 

全員がナナシ達を監視していると、遂に車がコインパーキングに停車して中からナナシとガリィが下りてきた。

 

「良し、あの地点なら…コレだな」

 

そう言ってキャロルがテレポートジェムを取り出すと、マリア達以外の面々がキャロルの周囲に集まった。

 

「貴様らは基本的に車を監視するようにしていろ。もし奴らが車を置いて他の交通手段を使うようならまた指示を出す」

 

「了解デス!」

 

「うん」

 

「任せて」

 

「オレ達は事前の打ち合わせ通りに行動するぞ。万が一、アンノウンとガリィが別行動を取るようならA班が離れていく方を追ってB班が距離を取りつつ残った方を監視、両方が同時にその場を離れる場合はオレ達がガリィを追う」

 

「了解!フフッ、何だかスパイになった気分!」

 

「前回は完全に不審者だったからな…」

 

「「前回?」」

 

「ンンッ!!ほら、早く行かないと見失うわよ!!」

 

マリアが奏の失言を咳払いで誤魔化しつつ早く出発するよう促すと、キャロルがテレポートジェムを足元に叩きつけて全員が姿を消した。

 

 

 

 

 

転移後、キャロル達はナナシ達を見つけ出し各々手筈通りに動き出す。少しして、ナナシ達が何かの店に入っていった。

 

「目的地に着いたか…」

 

「えーっと…あれ、何のお店だろう?」

 

「多分…靴屋か?」

 

遠目で響達がナナシ達の入った店を確認すると、看板に靴のような絵が描いてあるのが見えたが、響達の位置からでは店内の様子が見えない。

 

「天羽奏、小日向未来、店内の様子は分かるか?」

 

キャロルは万が一ナナシが“念話”を繋げて来た時に混線することを避けるため、“血晶”ではなく通信機を使って奏達に連絡を取った。

 

『はい、見えました。お店の中で、ナナシさんが大量の靴をカートに入れて、ガリィちゃんは…踊ってる?』

 

『多分、試着した靴を試してるんだと思う。つま先で立ってクルクル回ってるぞ』

 

「…靴を買いに来た?わざわざガリィを連れて?」

 

「悪戯に協力してくれるお礼かな?」

 

『『えっ!!?』』

 

「どうかしたのか!?」

 

『ああ、いや…』

 

『ナナシさんが、カートに入れていた試着もしていない靴を全部購入したみたいだったので…あ!出てきます!』

 

未来がそう言ってから少しして、両手に大量の紙袋を持ったナナシとガリィが店から出て、そのまま車を停めたコインパーキングの方に歩き始めた。

 

「…大量の靴を使って、一体どんな悪戯を仕掛けるつもりだ?」

 

「う、う~ん…何だろう?」

 

「まだ結論を出すには情報が足りない…監視班に連絡して、次の目的地に向かうぞ!」

 

ナナシ達の目的がまだまだ不明なため調査は継続、キャロルは奏達と合流してマリア達の情報を元に次の転移先へと移動した。

 

 

 

 

 

そして、ナナシ達が再びキャロル達に監視されながら向かった先は…

 

「帽子屋…?」

 

そこは、様々な種類の帽子が売られている店だった。今回はキャロル達も店内の様子が確認出来たためナナシ達の動向を窺っていると、ナナシが野球のキャップやカウボーイが被っていそうなハットなど、種類を問わず大量の帽子を手にした籠に入れていた。ガリィは令嬢が被っていそうな鍔の広い帽子を試着してナナシに見せていた。それをナナシが笑いながら恐らく褒めており、二人は楽しそうに買い物をしているようにしか見えなかった。

 

「兄弟子とガリィちゃん、普通にお買い物を楽しんでるだけなんじゃ…」

 

「それなら何故わざわざオレに隠れて行動する必要があった?」

 

「ご都合主義とあの腹黒人形がただ遊びに出かけるって言ってもてめえは絶対信じなかったからじゃねえか?」

 

「むっ…」

 

「いや、油断するな雪音。これまでのことを思い出せ、我々がどれだけ意表を突かれた悪戯をされてきたと思っている?きっとあれほどの物資を使った壮大な計画があるに違いない!」

 

「お、おう、確かに…気を引き締めねえとな」

 

気を緩めないよう窘める翼の発言に、クリスが気合を入れ直す。翼も再び楽しそうに買い物を続けるナナシとガリィに視線を戻して…何故か、少し苛立ったような顔で監視を続けていた。

 

 

 

 

 

その後も、ナナシとガリィはふらりと店に入っては色々な物を大量に購入して移動を繰り返し、今は休憩のためかいくつかの出店が並ぶ屋外の休憩スペースで軽食を飲み食いしながら何か楽しそうに話していた。

 

「足を止めたか…丁度良い。天羽奏、小日向未来、お前らは一度補給物資を買ってこれを使い、監視班と合流して交代で休息を取れ。ああも見晴らしが良いと接近すれば気づかれるリスクが高い。奴らが乗り物で移動を開始したらオレ達も一度監視班の所を経由して再びお前らを拾っていく」

 

そう言ってキャロルは、テレポートジェムを一つ取り出して未来達へと渡した。

 

「う、うん、分かった」

 

「これって、あたしらでも使えるのか?」

 

「事前に転移先さえ登録しておけば誰でも使える。物資を買ったら物陰に隠れてそのジェムを地面に落とせばいい」

 

「サラッと言ってるけど割ととんでもない代物だよな?こんな凄い物を使ってやってることがストーキングって…」

 

「ま、まあまあ、奏さん!そんなこと言わずに、早くマリアさん達にお菓子と飲み物でも持って行ってあげましょう!」

 

不用意な発言をする奏を未来が手を引いて連れて行く。奏の言葉に少し精神的ダメージを負いつつ、キャロルは残った響達に視線を向けた。

 

「ゴホン…オレ達も交代で奴らを監視しつつ休憩を取るぞ。次に何時休めるか分からないから、きちんと備えておけ」

 

そして各々が入れ替わりながら休息を取り、丁度四人が休息を終えたタイミングでナナシとガリィも席を立った。

 

「動き出したか…フム…」

 

キャロルが動き出したナナシ達と、ナナシ達のすぐ傍の席に座っていた大学生くらいの女性二人を交互に見て…クリスの方に顔を向けた。

 

「雪音クリス、オレ達は奴らを追う。貴様はあそこの女二人に奴らが何を話していたか聞き出してこい」

 

「はあ!!?何であたしなんだよ!!?」

 

突然のキャロルの言葉にクリスが驚きの声を上げる。内容自体は分からなくはない。ナナシ達の会話から情報を得たいというのは分かる。だが、何故相談もなく自分を名指しされたのか…

 

そんなクリスに、キャロルは困ったような顔で諭すように声を掛けた。

 

「少し広い視野で物事を考えてみろ。自分の事を客観的に見るのは難しいかもしれないからオレが言わせてもらうが、オレから見た貴様と言う人間は『感情の制御が不得手で他者とのコミュニケーションにやや難がある女』だ」

 

「喧嘩売ってんのかてめえ!?話すのが苦手って分かってんならなおさら何であたしなんだよ!!?」

 

「…では、貴様は今の情報を踏まえて、この中から誰を選ぶ?」

 

「誰って、そりゃあ………」

 

・見た目に合わない知性を感じさせるやたら高圧的な態度の幼女

・万が一にも正体がバレると大騒ぎになる自分以上に常識が怪しいSAKIMORI

・論ずるに値しないバカ

 

「…………あたしが行くしかねえか」

 

「ああ、頼んだ」

 

「ちょっと待って!!?今の間は何!!?」

 

「どういう意味だ雪音!!?」

 

「騒ぐな!気づかれる!!オレ達は奴らを追跡するぞ!」

 

抗議の声を上げる翼と響を引き連れてキャロルがナナシ達を追う。クリスはその場で深呼吸を何度か行った後、不審に思われないように“認識阻害”を解除して、意を決して女性二人へと声を掛けた。

 

「な、なあ、あんたら、ちょっと聞いてもいいか?」

 

「えっ?どうかしたの?」

 

「わあ!?スッゴイ美少女!!?」

 

「ッ!!?」

 

一人は前方から険しい顔で近づいてきたクリスが声を掛けてきたため、戸惑いながらも話を聞こうとしていたが、もう一人は背後を振り返ってクリスの顔を見るなりその容姿を褒めてきたため、不意打ちを食らったクリスは一瞬で顔を真っ赤に染めてしまった。

 

「コラ、初対面の子に失礼でしょ?」

 

「だってー…外人さん?ハーフ?サラサラの銀髪に綺麗な肌のちっちゃ可愛いお人形みたいな美少女なんだもん!」

 

「さっきまですぐ傍に座ってた子にもお人形みたいって言ってたわよね?」

 

「あの子も可愛かったな~。漫画みたいな可愛い子を日に二度も見られるなんて、今日の私は運が良いかも!あ、ごめんね?何か話があるんだっけ?」

 

テンション高く話す女性に響のことを彷彿としながら、クリスは何とか気持ちを落ち着かせて目の前の二人に質問をしていった。

 

「その…さっきあんたらが言ってた、あんたらの傍に座ってた男女が何を話してたか聞かせて欲しくて…」

 

「え?可愛い女の子以外に誰かいた?」

 

「いたわよ…その子と話をしていたでしょ?まあ、確かに影が薄いと言うか、存在感が無いと言うか…多分、あの女の子と会話してなかったら私も気づかなかったかもしれないけど…」

 

「ふーん?それで、何話してたの?」

 

「他人の話をそんなしっかり聞き取ろうとなんかしてなかったから分からないわよ。ただ、場所とか物とか…『次はドコドコに行く』とか、『アレコレを買う』とか、これからの予定みたいなことだったと思うわよ?」

 

「そっか…わりぃ、助かった」

 

クリスが女性二人に礼を言って立ち去ろうとすると、クリスを褒めた女性が声を掛けてきた。

 

「ねえ?何でその人達の事を調べてるの?ひょっとして、彼氏さんがあの可愛い子と浮気でもしてるの?」

 

「なっ!!?ななな、何言ってんだ!!?あいつはあたしとそんな関係じゃねえ!!!」

 

女性のまさかの発言に、クリスは顔を赤くしながら慌てて否定の言葉を口にする。だがその様子に、女性二人は何かを察して興味深そうな視線をクリスに向けた。

 

(え!?これって、そういうこと!?そういうことだよね!!?)

 

(た、多分そうだと思う)

 

(うわ~!!こんな漫画みたいな展開にリアルで遭遇出来るなんて、やっぱり今日は運が良い!!)

 

「…?あんたら、急に黙り込んでどうした?」

 

自分が怒鳴った後、何やらコソコソ話す二人にクリスが怒らせてしまったかと不安になって声を掛ける。

 

「あ!何でもない何でもない大丈夫!!それで!その男の人ってどんな人なのかな!?他にもその人の周りに可愛い女の子が沢山居るの!!?」

 

「えっ…?ま、まあ、確かにいっぱい居やがるけど…」

 

「え~チャラ男なの?こんな可愛い子ほったらかして他の女の子と遊ぶなんて…」

 

「顔の印象が残ってないから美形って訳じゃなさそうだけど、口が上手いってことかな?確かにあまり良い印象ではないかも…」

 

「え!?あっ、違う!!あいつはそんな奴じゃねえ!!」

 

女性二人の発言に、クリスは慌てて誤解を解こうとした。

 

「あいつは確かにどうしようもねえ奴だけど、そんな下卑た目的で女に言い寄るような奴じゃねえ!そんな奴なら、こっちの弱みに付け込む隙なんて幾らでもあった!あたしも、癪だがあいつに借りも負い目もかなりある!でも、あいつはそんなもの欠片も気にしてねえし、何時だって誰かのためにコソコソ動いて、それを自分のためだって嘯いて平気で無茶するような奴で、ほったらかしにすると心配だからこうやって…って何言ってんだあたしは!!?」

 

…クリスとしては、勘違いで貶められそうなナナシを庇おうと必死に言葉を選んだだけであったが、自分の発言に慌てふためくクリスの様子に、女性二人の疑念は確信に変わってしまった。

 

「ああ~!!誰にでも優しくしちゃうんだ!!それは心配になるよね!?」

 

「そんな人が自分の知らない所で他の女の子とお茶してたら、それは気になるわね!?」

 

「お、おう…?」

 

「でもねでもね!!それならコソコソ追いかけるんじゃなくて、もう思い切って言っちゃった方が良いと思うよ!?大丈夫だって!あなたスッゴイ可愛いんだから!!」

 

「か、かわ!!?い、いや、言うって何を!!?」

 

「決まってるでしょ?『好きです!付き合ってください』って」

 

「ばっ!!?なっ!!!?はぁあああああああああ!!?!?」

 

女性達の言葉に、クリスは顔を真っ赤にして叫び周囲の注目を集める。だがクリスと女性達は最早周りのことなど見えておらず、女性達は興奮冷めない様子でクリスに話しかけ続ける。

 

「ライバルが沢山居るなら、早く想いを伝えて意識してもらわないと、手遅れになって後悔しちゃうかもしれないよ?頑張って!!」

 

「あなたが勇気を出して顔を真っ赤にしながら『好き』って言えば男なんてイチコロだって!!うわ~女だけど私も嫉妬しちゃう!!!」

 

「ち、ちが、違う!!!あたしは!!あんな奴の事!!!」

 

「ちょっとちょっとクリスちゃん!?何の騒ぎ!!?」

 

女性達の勘違いを訂正しようとするクリスの元に、響が慌てて駆け込んで来た。

 

「兄弟子達、また車で移動し始めたからわたし達も行くよ!ほら早く!!」

 

「ま、待てバカ!あたしは、こいつらの勘違いを!!」

 

「頑張って~!!」

 

「応援してるから~!!」

 

離れていくクリスを激励する女性達に、「違うからなあぁぁぁぁぁぁ!!!!」と叫び声を残しながら、クリスは響に引っ張られてその場を後にした。

 

 

 

 

 

クリスを回収して監視班と合流後、自分達の評価に不満げな響と翼、何故か情緒不安定なクリスにキャロルが「ちょっと頭を冷やせ!」と言って一時的に監視班に交代させ、今度はマリア達を引き連れて再びナナシ達を追跡し始めた。しかし、ナナシ達は駐車場に車を停めた後、何故かなかなか車から降りてこない。

 

「何で降りてこないんだろう?」

 

桃色の潜入美人捜査官眼鏡をかけた調が疑問を口にする。

 

「まだ休憩中デスかね?」

 

緑色の潜入美人捜査官眼鏡をかけた切歌がそう答えた。

 

「いや、どちらも疲れとは無縁なのだからそれは無いでしょう?」

 

黒色のサングラスをかけたマリアがそう指摘する。物陰から縦に並んで双眼鏡を覗き込むそんな三人を見て、キャロルが頭を押さえていると、ようやくナナシ達が車から降りてきた。

 

「やっと出てきたわね…え?」

 

「あれ?」

 

「およよ?」

 

「何…?」

 

車から降りてきたナナシ達を見て混乱するキャロル達。すると、別の場所でナナシ達を監視している奏から通信が届いた。

 

『おーい、ちょっといいか?』

 

「…大方察しはつくが、何だ?」

 

『あー…じゃあやっぱり、今車から降りてきた礼服(・・)を着た二人がナナシ達で間違いないよな?』

 

そう、車から降りてきたナナシとガリィは、先程まで着ていた普段着ではなく礼服をキッチリ着込んでおり、その所作も何処か上品な雰囲気を漂わせていた。困惑しながらもキャロル達がナナシ達を追跡して辿り着いた先が…

 

「宝石店…?」

 

何の躊躇もなく宝石店に入っていくナナシ達に、キャロル達は更に困惑した。

 

「え?まさか…」

 

「これまでの傾向で言えば…」

 

「で、でも、宝石デスよ!?」

 

マリア達が狼狽えていると、しばらくしてアタッシュケースを持ったナナシとガリィが外に出てきた。その背を、数名の店員が頭を下げて見送っている。ガリィの耳には、先程まで無かったはずの青い宝石が輝くイヤリングがあった。

 

「…見えたか?」

 

『…あいつらが店に入った後、店員にケースを何カ所か指さして、その後部屋に案内されていってな…』

 

『その…いくつかのスペースに、ポッカリと空間が出来ています…』

 

つまり、ここでもナナシ達はまとめ買いをしていったということだろう。それも、宝石というこれまでと比較にならない高価な品物を…

 

「ほ、宝石を使った悪戯って何デスか!?怖いデスよ!!?」

 

「も、もしかして、わざと壊させて弁償させようと…」

 

「う、うろ、狼狽えるな!!?」

 

「貴様ら落ち着け!見失うぞ!!」

 

一時期生活に苦労していた三人には衝撃的だったらしく、狼狽えまくる三人を何とか落ち着かせてキャロルは追跡を続行した。

 

 

 

 

 

だがその後もナナシ達の行動は特に変わりなく、店に入っては大量買いを繰り返し、楽しそうに買い物を続けるばかりだ。そうしている内に昼食時になり、ナナシ達はレストランに入っていったので、キャロル達も昼食を食べながら情報を整理することにした。

 

「靴、帽子、眼鏡、カバン、宝石、アクセサリー、ウィッグ、バンダナ、木刀や模造刀なんかの小道具…」

 

「ゴチャゴチャし過ぎデス…」

 

「演劇でも始めるのかな?」

 

「ど、どうだろう…?」

 

コンビニのお弁当を食べながらナナシ達の目的を予想する調、切歌、響、未来。だが、購入した物が雑多過ぎて全然ピンと来ない。

 

「共通してるのは…身に付けるものか?」

 

「確かにそうだな?」

 

「でもそれだと、衣服が無いのが気になるわね?」

 

「お楽しみは最後ってことじゃねえか?」

 

あんぱんを齧りパックの牛乳に直で口を付けて飲むクリスに、緒川経由で今日はS.O.N.G.で訓練予定だと連絡したらナナシが出かける前に用意していた特製弁当を食べるアイドル三人も頭を悩ませていた。

 

「クソ、一体何をするつもりだ?変装して接近し襲い掛かってくるつもりか?物品で買収して大人数で何かを仕掛けるつもりか?」

 

双眼鏡で食事を楽しむナナシ達を監視しながらエナジーバーを齧るキャロルが、苛立たし気に顔を歪める。

 

「うーん、わたしには楽しくお買い物デートしてるようにしか見えないな~」

 

「そんな訳あるか!オレに隠れて秘密裏に動くなど、きっと何か壮大な計画を…」

 

「…う~ん、でも、響の意見も否定しきれなんじゃないかな?」

 

響の意見を否定するキャロルに、未来がそう語り掛けた。

 

「もし本当にキャロルちゃんに隠れてコッソリ準備するなら、ガリィちゃんを連れて来ずにキャロルちゃんをからかってもらっていた方がナナシさんは確実に隠れて準備出来たんじゃないかな?」

 

「!!?」

 

「確かにそうですね?買い物の量は多いけど、急いで数を揃えたいなら手分けすればいいのに、一緒に回ってるってことはそれ自体が目的なのでは…?」

 

「デスデス!とっても楽しそうデス!」

 

「「「「「!!?」」」」」

 

「あ!でも、買っている物の用途が分からないので、一緒に悪戯を考えながら買い物してるってこともあるので、ただデートを楽しんでいるだけって訳でも…」

 

表情を曇らせるキャロル達の様子に未来が慌ててフォローするが、そんな言葉は聞こえていないようにキャロル達は楽しそうに食事するナナシ達を呆然と見ていた。

 

 

 

 

 

結局、それからもナナシ達の行動に変化はなく、楽しそうに店での大量買いを繰り返し、しばらくしてレンタカーを借りた店に戻って車の返却手続きを始めてしまった。

 

その様子を、昼食以降難しい顔でナナシ達を観察していた奏、翼、クリス、マリアの四人が不機嫌そうに眺めていた。

 

「…結局、買い物だけで終わったな」

 

「ああ…」

 

「だな…」

 

「そうね…」

 

その様子を響達が困惑しながら見ているが、四人にそれを気遣う余裕はなく、それぞれは頭の中で色々と考えを巡らせていた。

 

(ったく、相変わらず他人のためならポンポン金を使って…でも幾ら何でも宝石って…そんなもんあたしらにさえ…いや、何度かライブ成功の祝いにどうだ?似合いそうじゃないか?って声掛けてきたな…いっつもあたしには似合わないから要らないって突っぱねてたけど…素直に貰った方が良かったかな…?)

 

(何なのだ一体!?知り合ったばかりの相手とああも楽しそうに…以前私達が誘った時には何かと理由を付けて仕事をしようとしていたくせに…それに、私が傍に居る時はすぐからかおうとするのに…頭の固い私を気遣っていることは知っているが、私だって偶には普通に…)

 

(ああもう!何でこう落ち着かねえんだ!?あの女共が変な勘違いするから何か変なこと言っちまったし!!あたしはあのご都合主義の事なんて!!…いや、別に嫌ってる訳じゃねえけど、あいつはあくまで仲間であって…この落ちつかねえのはきっとあれだ!!橋だか崖っぷちだかの効果ってやつ!!つまり勘違いだ!!!)

 

(あの男があの人形とそういう意味で良い仲なのは悪くない、寧ろ私にとって良い事のはず…奏達には気の毒だけど、あの男はその辺の良識はきちんとしてるからこれで切歌や調の事を心配しなくて済むはず…なのに何故、こうも心がかき乱されるの…?)

 

それぞれが双眼鏡でナナシ達を観察しながら苛立ちを露わにする様子を困ったように見ながら、響が黙ったままのキャロルに声を掛ける。

 

「あ、あはは…結局、兄弟子達の目的分からなかったね?」

 

「……」

 

「車も返すみたいだし、今日はもう解散かな?」

 

「……」

 

「…?キャロルちゃん?」

 

響が声を掛けても俯いて無反応のキャロル。気になった響がキャロルの顔を覗き込むと、キャロルの口がもごもご動いていたのでそっと耳を近づけると…

 

「…違うもん違うもんそんな訳無いもんガリィがガリィが私に内緒であんな男と仲良く一緒にお買い物するために私に隠し事なんてしないもんガリィもミカもレイアもファラも私が作った私の物だしエルフナインも私の家族だし私の方がずっと一緒にいる時間が長い…」

 

…キャロルが壊れていた。

 

「ちょっとキャロルちゃん!!?落ち着いて!!大丈夫!大丈夫だから!!」

 

響が必死にキャロルに声を掛けて肩を揺するが、キャロルは首をがくがく動かしてうわ言を繰り返すばかりだった。

 

「きょ、今日はもう解散しよう!兄弟子達も後は帰るだけだろうし、今日はもう休んで明日考えを纏めた方が良いと思うな!!」

 

「そ、そうだね…あれ?」

 

響に同意する未来がチラリとナナシ達の方に視線を向けると、その口から疑問の声を出した。

 

「あっちって…S.O.N.G.とは逆方向…?」

 

『!!?』

 

本日はこれで終わりなら、ナナシはガリィをS.O.N.G.本部に送り届けるはずだが、ナナシ達は本部とは全く異なる方向に進んでいた。

 

全員がナナシ達に注目していると、二人はある建物へと入っていった。全員がその建物にある看板を確認すると、そこに書かれていたのは…

 

『HOTEL』

 

パリンッ!!

 

その文字を確認した瞬間、キャロルは足元にテレポートジェムを叩きつけていた。

 

「えっ!!?」

 

「キャロルちゃん!!?」

 

困惑する響達を他所に、テレポートジェムによって全員がナナシ達の入ったホテルのすぐ傍の路地裏に転移した。

 

転移直後、キャロルと奏達四人が即座に駆け出し、響達が慌ててその後を追う。キャロル達がホテルの扉を開くと、丁度ナナシとガリィが乗ったエレベーターの扉が閉まるところだった。五人は即座に階段へと駆け込み上へと昇っていく。二階に辿り着くとクリスだけがその階のエレベーター前に駆けて行き、他はそのまま上を目指す。

 

(二階じゃねえ!上だ!!)

 

(三階も違う!!)

 

(四階も通り過ぎた!!)

 

(五階も違う!!最上階!!!)

 

“念話”で迅速な意思疎通を行い、キャロルが最上階に辿り着く。キャロルが周囲を見回すと、丁度部屋の扉が閉まる光景を目の端に捉え、その際少しだけガリィの青い服がヒラリと揺れて見えた。キャロルはすぐさま部屋の前に駆け寄りドアノブに手を掛ける。そして扉の奥にある光景を考え一瞬硬直するが、それでも覚悟を決めて扉を勢い良く開き、叫ぶ。

 

 

 

「だめぇええええええええええええええええええ!!!!!!」

 

 

 

パシャパシャパシャ!!

 

キャロルが開いた扉の先では…ガリィとエルフナインがニッコリ笑いながらピースしている姿を、ナナシがカメラで撮影していた。

 

「サブマスター、カメラの調子はいかがですか?」

 

「バッチリだ!丁度ゲストも到着したみたいだし、何時でも始められる!」

 

「あ、キャロル!本当に来てくれました!!」

 

「え?…え?…」

 

予想外の光景、何故かこの場に居るエルフナイン、まるで自分がここに来ることが予定通りのような会話に、キャロルは思考停止してしまった。そうしている内に、遅れて奏達と響達も合流してきた。

 

「これは…どういう状況?」

 

「え!?皆さん、ナナシさんが今日の撮影会に誘ったんじゃないんですか!!?」

 

「撮影、会…?」

 

未だ呆然とするキャロル達に、ナナシ達が邪悪な笑顔でネタ晴らしを開始した。

 

「いや~、実はですね?私達の能力把握として、どれだけ細かい作業が可能か調べるために色々やらされてましてね?その一環で裁縫…服作りを行った結果、結構な数の衣装が完成しまして…」

 

「そこで俺は、エルフナインからクイズの命令権で、『今回の騒動でご迷惑をかけたお詫びをしたい』ってお願いされていたから、首謀者のお前と一緒に撮影会をして写真集をS.O.N.G.にばら撒くことで、俺の悪戯の被害者として禊を受けていることを周知させよう!って提案したんだ」

 

「なっ!!?エルフナインの願いは、巨大流しそうめん機作成ではなかったのか!!?」

 

「アレはエルフナインが興味を持った物を俺が個人的に手伝っただけだぞ?」

 

色々と明かされる事実にキャロルが頭を抱えていると、ふと嫌な予感がして部屋の中を見回し、エルフナインにあることを問いかける。

 

「ちょっと待て…エルフナイン、貴様がここにいるなら、貴様が今日一緒に活動予定だったファラ達は一体何処に…?」

 

「えっ?ボクが今日ファラ達を動かす許可をもらったのは、ナナシさんが『キャロル達に付き添わせるため』って…」

 

エルフナインがそう言い終わるのと同時に…キャロル達の後ろから、何者かが部屋に近づいてきた。

 

「サブマスター、長時間にわたる荷物の運搬に耐えられるかの検証、地味に完了しました」

 

それは、テレビロケに使うようなガンマイクを担ぐレイアと…

 

「複雑な機器を操作する検証も完了しましたわ!」

 

同じくロケで使いそうな大きいカメラを扱うファラと…

 

「マスター達の追いかけっこ、終わったゾ!!」

 

最後に、レフ板を持ったミカが全く隠す気のない任務完了報告をしながら入室してきた。とても目立ちそうな三人だが、それぞれの腕には“血晶”が嵌められており、“認識阻害”がバッチリ仕事をしていたらしい。

 

「ご苦労様!こっちもガリィと撮影に使う小物の買い出しは完了したから、さっそく撮影を開始しよう!お前達が集めた記録は後でジックリ確認させてくれ!」

 

「さ、撮影用の小物って…そんなことのためにわざわざ本物の宝石も大量買いしたのか!!?」

 

「ああ、あれは錬金術の触媒用。鉱石を使った錬金術もあるんだろう?原石を使う場合と宝石として加工した場合に差異が出るのか、もし加工で効力が変化するなら俺とオートスコアラーで加工を覚えられないか試すための研究材料だな。使い潰す前提だから、もちろん今回の撮影でも気軽に使ってくれて構わないぞ?」

 

「私もどうせ消費するならって一個色が気に入ったコレを付けさせてもらいました!」

 

「え!?プレゼントじゃなかったデスか!!?」

 

「流石に何の理由もなく宝石をプレゼントなんてしないって。欲しかったら給料から天引きかクソガキに悪戯する権利を追加で数回分だな」

 

「嫌ですよ~、マスターをからかうのは私の仕事です!!事前に取り決めた回数以上にマスターをからかうのは許しません!!お給料はマスターとマスターをからかう私のために使うんです!」

 

「ま、そういう訳だ。俺が何の理由もなく宝石をプレゼントするのはお前ら歌姫達と恩人の未来さんくらいだ。後はまあクソガキとエルフナインちゃん様もお願いされれば歌一曲でプレゼントしなくもない」

 

ナナシのその言葉に、一部の人間は心の中で安堵した。

 

「さて、恐らく色々疑問が解決したところで、早速撮影会を始めよう!どれだけ騒いでもこのホテルは今日貸切ったから大丈夫だぞ!因みに拒否した場合は写真集の余白にファラ達が撮影した記録がゴシップ風に記載されるかもな!屋上や物陰から双眼鏡を覗き込む不審者情報とか!陽だまりと片翼の熱愛発覚街歩きデートとか!!」

 

ナナシの言葉に全員が引き攣った笑みを浮かべる。最早断れる状況ではないことを全員が察した。

 

「色々と素晴らしい記録が撮れましたわよ?私のイチオシはこちらです」

 

『…違うもん違うもんそんな訳無いもんガリィがガリィが私に内緒であんな男と仲良く一緒にお買い物するために私に隠し事なんてしないもんガリィもミカもレイアもファラも私が作った私の物だしエルフナインも私の家族だし私の方がずっと一緒にいる時間が長い…』

 

「!!?!?」

 

ファラが再生した映像にキャロルが硬直する。こんなうわ言を聞かれてはナナシと、特にガリィからどんな仕打ちを受けることになるか…

 

恐る恐るキャロルがガリィの方に視線を向けると…キャロルの予想に反して、ガリィは悪い笑顔ではなく、何故かポカンとしたような表情で呆然としていた。

 

そんなガリィの様子にナナシを含めた全員が困惑していると、呆然としたガリィがそのままナナシへと声を掛けてきた。

 

「…ねえ、サブマスター?今私の胸に渦巻くこの感情は、一体どんな想いかお分かりでしょうか?」

 

「え?えっと…ちょっと待ってくれ、今“妄想”する。知っている感情のはずだ…何か馴染みがある…愛おしい?…愛らしい?…う~ん、もっとこう、マグマの如く熱量と粘っこさを内包したようなこの感情は…あ!分かった!!『尊い』だ!!全てを超越するほど素晴らしく、触れることも近づくことも恐れ多い程愛おしい、しかしその太陽の如き輝きに魅せられて身を焦がしても追いかけることを諦められない、ツヴァイウィングとアイドル大統領のファン達がよくライブで発している感情だ!!」

 

「尊い…尊い…」

 

ナナシの答えを聞いたガリィが、しばらくうわ言のようにそう呟いて…

 

「尊い…尊い…マスターが…あぁ…マスターが…尊いぃいいいいいいいい!!!!!」

 

…両手で頬を押さえ、目にハートを浮かべながら恍惚の笑みを浮かべたかと思うと、キャロルに飛びついて抱きしめた。

 

「なっ!!?ガ、ガリィ!!?」

 

「ごめんなさいごめんなさい不安にさせちゃいましたねぇ!?大丈夫ですよぉ!!私はマスターの物ですからねえ!!こんな石っころなんてポイですポイ!!」

 

ポイッ

 

「おっと」

 

パシッ!

 

ガリィが放り投げた青い宝石のイヤリングを、ナナシがキャッチして“収納”する。そんなことを気にも留めないで、ガリィはキャロルに頬擦りしながら抱きかかえる。

 

「さあ、マスター!!お着替えしましょう!!マスターの尊い姿を有象無象に知らしめてやりましょう!!!」

 

何かのスイッチが入ってしまったガリィは、有無を言わさずキャロルを自分達が作った衣装満載の部屋へと運んでいくのだった。

 

 

 

 

 

それから約二時間、ひたすらに着せ替え人形にされたキャロルは疲労困憊といった様子で椅子にもたれかかっていた。今は他の面々がオートスコアラー達に着替えさせられながら、ナナシがカメラでドンドン写真を撮影していっている。

 

バニーガールとビキニアーマーのような衣装を手にクリスとマリアを追いかけるガリィをキャロルが眺めていると、その傍に飲み物を持ったファラが近づいてきた。

 

「お疲れ様です、マスター」

 

「…貴様も共犯であったか、ファラ」

 

「あら?何のことです?私はただ『私の目の前で繰り広げられた』サブマスターとガリィの会話をマスターにお伝えしただけですわ?」

 

「…貴様があのアンノウンと言い争っていたのも演技か?」

 

「言い争っていた?……ああ!いえいえ、あれは言い争っていたのではなく、ちょっと議論に熱が入ってしまっただけですわ。私が剣ちゃん推しでサブマスターが箱推しなので、少々声を荒げてしまいました」

 

「推し?箱?」

 

「ウフフフ、ご興味があればマスターもご一緒に議論いたしますか?」

 

「……いや、いい…」

 

ファラまでも自分の知らない話題でナナシと仲良くしている事実にキャロルは遠い目でミカがエルフナイン、調、切歌と共に着ぐるみパジャマのような衣装で写真を撮るのを眺めて…

 

「エルフナイン様のサブマスターへのお願い、正確な内容は『償いをさせて欲しい』というものでした」

 

不意に伝えられたファラの言葉に、キャロルは顔を上げてファラを見た。

 

「償い…?」

 

「私達の行動に、他者を傷つけた罪に、奪った命に、何らかの償いをさせて欲しい…それで赦されるとは思わないが、何か自分に出来ることをしたい…エルフナイン様はサブマスターにそう懇願していました」

 

「……」

 

「そんなエルフナイン様の願いを、サブマスターは笑顔で了承しました。一生を懸けて償ってもらう、と…」

 

「!!?」

 

 

 

 

 

「一生、ですか…?」

 

「Exactly!!どうした?怖気づいたか?」

 

「…いいえ、構いません。ボクに出来ることがあるなら、一生を懸けて償います。それで、ボクは何を…?」

 

不安そうなエルフナインに、ナナシはニコニコ笑いながらエルフナインに視線を合わせるようにしゃがんで、その頭に手を乗せる。

 

「俺はさ、死後の世界ってあると“妄想”してるんだ。理由はその方が都合が良いから。死んだら何もかも無くなって『空っぽ』になるとか考えたくないし」

 

「は、はあ…」

 

「でも俺はお前達と違ってそこに行けるかも分からないし、行けても同じ場所に辿り着く自信はない。何か問答無用で阿鼻地獄に叩き込まれそうな気がするな。神獣鏡で既に不浄判定出されてるし…」

 

「そ、そんなことないです!!ナナシさんならきっと天国に…」

 

「ああ悪い、そんな真面目に考えなくていい。ただ、もしお前が終わりを迎えたその後で、ウチの馬鹿共に会えたなら伝えて欲しいんだ。あいつらが守った世界が確かに続いたことを」

 

「!!?」

 

驚くエルフナインに、ナナシは優しい笑みを浮かべる。

 

「そのためには、そんなシケた面でいられると困る。あいつらが守った世界は、笑顔溢れる素晴らしい世界だったんだって伝えたいからな。それにそんな辛気臭い顔で傍にいられてもこっちの気が滅入るだけだ」

 

エルフナインの頭を撫でながら、ナナシは顔の笑みを邪悪なものに変えて…しかし、瞳に宿す光は優しいままで、エルフナインに語り掛けた。

 

「覚悟しろよ、エルフナイン?今回の願いは取り消し不可だ。お前には償いとして今生でも、その先でも笑顔で過ごしてもらう。そのためにあのクソガキ共々、沢山笑って過ごせるように協力してもらうからな?」

 

 

 

 

 

「エルフナイン様が笑顔で過ごす第一歩として、何か面白そうなことを企画してみろと言われて考えたのがあの巨大流しそうめんです。サブマスターが絶賛していました。規模も内容も良い感じにふざけていて、思い出すだけで笑顔になれる想い出になると」

 

「……」

 

騎士風の衣装を着た響とお姫様風の衣装を着た未来、そして恐らく魔王役のレイアが全身に宝石を身に着けたキラッキラな衣装でポーズを取る姿を撮影するナナシを、キャロルが無言で見つめる。

 

「…あの男は、何を考えているのだ?」

 

「何…とは?」

 

「…仲間を殺したオレを受け入れ、実行犯のレイアをわざわざ深海から回収してまで修復を果たして…それだけ仲間を想いながら、何故あいつはオレ達に歩み寄ろうとする?」

 

「…分かりかねます。本来『物』であるはずの我々に自身の財から給与を支給して、頻繁に要望を聞いてくるサブマスターが、何を考えているかなど…」

 

「……」

 

「…考察の材料になるかは分かりませんが…サブマスター・了子の話だと、サブマスターは我々をS.O.N.G.に迎え入れる上で全員と話したそうです」

 

「全員…?」

 

「S.O.N.G.の仲間全員と…幸いと言ってはいけませんが、殉職した方は身寄りが無かったそうで、話をするのはS.O.N.G.の仲間達だけで良かったそうです。内容の詳細は知りませんが、サブマスターはその全員と話をしたそうです…想いを無理矢理胸の内に仕舞い込もうとする仲間達にも、包み隠さず聞き出すように…」

 

「……」

 

「サブマスターの胸の内は分かりません。サブマスター自身分かっているのかどうかも…しかし、サブマスターのことを解き明かすことが、マスターの新たな命題ではありませんか?気になると言うのなら、解き明かしてみせればよろしいかと。我々も協力いたします」

 

「…フン、オレに意見するとは…貴様も随分とあの男に毒されたな、ファラ?」

 

奏と翼がお揃いの衣装を着せられ、そのサイズが極一部(・・・)だけ二着とも奏のサイズと間違えてたと聞かされ絶望した翼を見たナナシとガリィが大爆笑してしまい、模造刀を手にした翼に追いかけ回されるのを見ながら、キャロルは苦笑しながらファラに皮肉を言う。

 

「ウフフフ、それはきっと我々オートスコアラー全員が起動した際、サブマスターから最初に下された命令が原因ですわ」

 

「最初の命令…?」

 

 

 

「これからも、キャロルの事をよろしくお願いします、と…」

 

 

 

ファラの言葉に、キャロルは目を丸くして驚く。そんなキャロルを見たファラはクスクス笑いながら言葉を続けた。

 

「フフフ、ですので我々オートスコアラーは、サブマスターの『命令』に従いマスターのために自ら考え行動していきます。マスターの新たな命題に答えを見出せるように…この命令を、マスターは破棄なさいますか?」

 

「…フン、それは貴様らで判断しろ」

 

キャロルはフッと笑って、その顔に力強い笑みを浮かべる。

 

「オレ一人でも、あのアンノウンの事など容易く解明してみせる。だが、役に立つと言うなら引き続き使ってやる。精々また使い潰されぬよう足掻け」

 

「イエス、マスター。あなた様の御心のままに」

 

お辞儀をするファラから飲み物を受け取り一気に飲み干したキャロルは、混沌とする撮影現場に歩みを進めていった。せめてもの意趣返しに、先程から撮影ばかりで碌に写真に写っていないナナシを、全員で滑稽な姿にさせてしまおうと画策しながら…自らの意思で、ナナシ達の傍へと歩み寄っていった。

 

 

 

 

 

なお、今回撮影した写真を纏めた写真集はその後ナナシによってS.O.N.G.全員の手に渡り好評を博すことになり、その結果を出しにアンケートを募り定期的にキャロルを着飾った写真集を発刊することが可決された。

 

オートスコアラー達が作った衣服をあの手この手で着せられたキャロルの姿が掲載された写真集『月刊アルケミスト』がS.O.N.G.に浸透していくことになり、着せ替えマスコットとしての立場を確立していくことを…今のキャロルは知る由もなかった。

 




後日談はあと二話ほど投稿予定ですが、次回が予定通り投稿出来るかは分かりません。
間に合いそうになかったら前日までに活動報告で連絡します。
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