戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
カポーン…
広い庭に、鹿威しの音が響き渡る。遠くでセミの声が響くまだまだ夏の盛り…であるにも関わらず、ある屋敷の部屋の中は恐ろしい程の寒々しい空気で満たされていた。
そこは先日、オートスコアラーの一体であるファラに襲撃を受けた風鳴八紘邸。その客間に、複数の人間が集まっていた。
一人はその屋敷の主である風鳴八紘。八紘は座布団の上に正座して腕を組み、その瞳を閉じて険しい表情をその顔に浮かべていた。
そんな八紘と長机を挟んで対面しているのは、八紘の娘である風鳴翼。こちらも座布団の上に正座して手を膝に置き、目の前にあるお茶と茶菓子に一切手を伸ばすことなく微動だにしないで父親を緊張の眼差しで見つめていた。
そして、そんな緊張感MAXの翼の隣では…
「ふむ…ほうほう…おお!?まさかそんな展開が!!?」
…座布団の上に胡坐をかき、部屋の空気など一切気にも留めない様子で漫画を読むナナシの姿があった。
何故このような惨状になっているかというと、遡ること数日前…
「翼、ちょっと良いか?」
「ナナシ?どうかしたのか?」
「ちょっとこの日に付き合ってもらいたいことがあるんだけど、大丈夫か?」
「ふむ…別に何の予定も入っていないから大丈夫だ」
「なら良かった。向こうにもそう伝えておく(ピピピ…)」
「何か仕事の話か?先程の返答だと誰かと会いに行くようだが…」
「お前の親父さんがお前と話をしたいって(ピロン♪)はい、了承のメール送信っと」
「……え?」
「(ピロン♪)あ、返信来た。準備して待っているってさ。じゃあ当日の朝、車で送るから諸々準備しておいてくれ」
「………………………………え?」
そして現在、真夏だと言うのに南極にも匹敵しそうな冷やかな空間が展開されていた。とても
八紘、翼、ナナシの三人が座る長机の端の反対側…そこに奏とマリア、そして弦十郎と緒川が湯呑に口を付けたまま固まっていた。
翼は混乱から復活した直後、なりふり構わず奏に泣きついた。長年すれ違ってきた父親と話すのが嫌な訳ではない。しかし、碌に心の準備が出来ていない状態でいざ対面しても間が持たないことは容易に想像出来る。ナナシが同伴するとはいえ、こと想いのやり取りにおいては厳しい傾向のあるナナシは翼を千尋の谷に落とすが如く傍観に徹する可能性が高い。故にどうか傍に居てくれと必死に縋りついてきた翼を突き放すことは出来ず、奏は苦笑しながら同行することを約束した。
とはいえ、自分一人では出来ることなど高が知れている。そこで奏は犠牲者…もとい協力者を集うことにした。
まず前回の作戦で面識があるマリアに、以前ナナシの尾行に協力したことを引き合いに協力を取り付けた。
そして普段面倒事をこちらに放ってくる弦十郎に「あんたの身内と弟子のことだろ?」っと言って退路を断ち時間を作らせることに成功。
そのやり取りを見て気配を消してその場を去ろうとする緒川を弦十郎が捕縛、「世話係の一人として一緒に行くとしよう!」と肩に手を食い込ませながらOHANASHIしたことで緒川も参加することになった。
そうして急遽参加者が増えることを奏から聞いたナナシが八紘に連絡したところ特に問題なく許可が出され、こうして一同が同じ部屋に集まり会談の場が設けられた訳だが…到着直後の挨拶を最後に、会話が途切れた氷点下のような空気の中で沈黙がもう十五分も続いている。ナナシは翼と八紘が黙り込んで早々に漫画を読み始め、他の面々は話しかける隙を見つけられず「自分達はお茶を飲んでいます」というポーズから復帰出来なくなっていた。
時折ナナシが漏らす漫画の感想とページを捲る音以外に一切生活音の発生しない静寂が部屋の中を満たしていた。
だが…
(ナナシ!ナナシ!!後生だ!!助けてくれ!!!歌なら後で何曲でも何時間でも披露する故!!!何卒!!!何卒よろしくお願いしますぅぅぅぅ!!!!)
(ちょっとは手心加えてやれ!!よくこんな空気の中平気な顔で漫画読めるなおい!?)
(夏の猛暑も裸足で逃げ出す程に空気が冷え切っているのだけれど!!?あなたが熱いお茶を用意した時は少し疑問に思ったけど今は手と口に伝わる温もりに感謝しているのだけれど!!?)
(ナナシ君…八紘兄貴にも色々思惑や葛藤があったんだ。身内として、師として情けない限りだが…どうかこの空気を打ち砕いてくれ!!)
(このままだと翼さん達がアイドルに復帰してからの活動にも影響が出そうなので、マネージャーとしてもどうにか穏便に終わらせてくれませんか…)
…“念話”によって、その場の人間の脳内はかなり賑やかな事になっていた。
(はぁ…助けてって、父親と対面した娘が懇願するセリフとしてどうなんだ?流石に八紘が可哀想だろ?)
ずっと脳内に響き続ける声が流石に煩わしくなったのか、ナナシは器用に漫画を楽しむ様は変化させることなく億劫そうな“念話”を翼に返した。
(分かっている!!だが、ここで何の問題もなく軽快に会話を交わせるようなら貴様も私の頭の固さに苦労していないだろう!!?)
(堂々と自分がメンドクサイことを開き直るな!!?)
(翼もだが、八紘兄貴も大概頭が固い…ナナシ君、せめて切っ掛けを作ってやってはくれないか?)
(お前の兄貴と姪っ子のことなのに他力本願かよ、お師匠様?)
(この二人の凝り固まった積年の蟠りに罅を入れることに比べれば、この拳で鋼鉄の塊を粉砕する方が容易い…)
(それはそれで人類としてどうなんだよ、ダンナ…)
そんなやり取りの後、ナナシは溜息を吐いてパタンと漫画を閉じると、手をパンパン叩きながら全員の注目を集めた。
「ハイハイ、それじゃあこのままだと永遠に固まってそうな親子のために、俺が話題を提供しながら話を進行していくことにしま~す。ハイ、拍手~」
『……』
「あれ?お呼びでない?なら出来ること無さそうだし一足先に帰らせてもらおうか…」
パチパチパチパチ!!!
立ち上がろうとするナナシを、今までお茶を口に付けたまま固まっていた奏達が一斉に湯呑を置いて全力で拍手する。翼も机に隠れてコッソリ手を叩いていた。
拍手が止むのを待って、ナナシが微動だにしない八紘に声を掛け始める。
「それじゃあ八紘に、分かりやすく娘の成長を実感してもらおうか?」
そう言ってナナシが“収納”から何かを取り出す仕草をして…
「今から翼の手料理を出すから、それを八紘に実食してもら…」
ガシッ!!!
「何を初手から奥義で決めようとしている!!?」
「流石に命懸けさせるのはまだ早いだろ!!?」
「蟠りどころかこれから先の未来までもが砕け散るぞナナシ君!!?」
「以前の訪問で思う所はあるかもしれませんが、どうかもっと長い目で見てあげてくださいナナシさん!!」
「……皆…反論の余地も無いが…私とて傷つかない訳ではないのだぞ…」
…全員が、かつて翼が生み出してしまった例の『カレー』の降臨を阻止すべくナナシを取り押さえる。しかし、すぐ隣の翼がナナシの腕を咄嗟に掴んだこともあり、唯一ナナシに力で対抗出来る弦十郎が手を押さえることが出来ない間にナナシが無理矢理“収納”から物を取り出し…
コトリ…
…少々形が歪な卵焼きが乗った皿が机に置かれた。
『…え?』
「…あのなぁ、俺だって冗談で済む事と済まない事の判別くらい出来るって。『アレ』を振舞うなんて悪戯どころかただの死刑執行だろ?」
「そう思うのならサッサと処分しろ!!」
「処分方法に困ってんだよ!!知らない場所に放置してたら勝手に動き出したり中から何かが生まれてくる“妄想”が頭から離れないから迂闊に“収納”の外にも出せないし、一番確実な処分方法は俺が一息に飲み込んで消滅させることだから覚悟決めるのにもう数年待ってくれ!!」
「わー!!?待て待て早まるな!!!そんな覚悟は決めなくていいから永遠に封印していろ!!!」
騒ぐナナシと翼達だが、八紘は気にした様子もなく目の前の卵焼きに注目していた。
「これを…翼が…」
「因みにSAKIMORI?この屋敷を出る前に料理をした経験は?」
「…一度、お父様にコロッケを作ろうとして危うく火事になりかけ、それ以降調理場は出入り禁止となった」
「ちょっ!?初手で揚げ物って!!?しかもコロッケ!!?あれ調理過程で別の料理に二、三個派生出来そうなくらい手間がかかるんだぞ!?蛮勇にも程があるだろ!!?」
「ジャ、ジャガイモを潰して油に入れるだけなら簡単だと思ったのだ!!」
「レシピすら確認してなかったのか…」
翼達がそんなやり取りをする中で、八紘は皿と一緒に出されていた箸を使って卵焼きを一切れ掴み、口に運ぶ。
「…温かいな」
「俺の“収納”は時間停止機能があるからな。出来立てと変わらないぞ」
「その…お味は、どうでしょうか…?」
「そうだな…塩気と甘みが混ざり合った不思議な味だ」
『!!?』
「え?ちょっと失礼(“解析”使用)…あ!?悪い素で間違えた!!?それSAKIMORIが何を思ったか塩と砂糖をオリジナルブレンドした物を使って作ったヤツだ!失敗作の味見を続けていたせいで判定が甘くなって成功品として保管してたみたいだ!!」
「何故その二つをブレンドしたの…?」
「その…調理開始前にナナシが電話でその場を離れて…調味料入れの中身が半分くらいだったため、袋から補充しておこうと…」
「それで物の見事に間違えた、と…」
「うぅ~…」
翼が恥ずかしさと情けなさで俯いていると、八紘が再び箸を伸ばして卵焼きを口にする。
「お、お父様!?無理をする必要は…」
「…混ぜ方に偏りがあるのか、時折塩と砂糖の塊が出てくる。卵は火が入り過ぎて少々固いな。巻き方も均一でないため触感も不揃いだ」
八紘の酷評に翼の顔が赤く染まる。だが、そんな翼の顔を見て…八紘はフッと微笑んだ。
「それら全てを含めて…『温かい』と言ったんだ」
「お父様…」
優しい笑みを浮かべる父親に、翼が目を丸くさせた後…釣られるように、翼もフッと笑みを浮かべた。ようやく部屋の空気が軟化したことに全員が安堵していると、またもやナナシが“収納”から何かを取り出した。
「それでは続きまして、SAKIMORIの成長を実感してもらうため、こちらのアルバムを拝見してもらいましょう!!」
「アルバムなど作っていたのか!!?」
「俺の“投影”を駆使すればこの程度余裕だ!」
「相変わらず能力の無駄遣いが凄いな…」
呆れる周囲を他所に、ナナシが自作アルバムをゆっくり開いて…
「これが俺が初めて見たSAKIMORIの部屋の惨状だろ?そしてそれを俺が片付けた後の部屋の光景と、その三日後に再び展開された汚部屋の惨状で、それを片付けている慎次の様子がコレ。最近のだとイギリスの向かう直前と、ほんの数日前に掃除した時の写真が…」
スパーン!!
…嬉々として、翼が散らかした部屋の写真について説明するナナシの頭を、奏とマリアが思い切り叩いた。翼は両手で顔を覆い隠して蹲ってしまっている。
「お・ま・え・は!ちょっとはデリカシーってものを持てないのか!!?」
「大きくなった娘の部屋の記録を知り合ったばかりの男の口から聞く父親の気持ちが分からないの!!?」
「全く分からないな!!興味があるから是非教えてくれ!!ねえどんな気持ち!?八紘は今どんな気持ちなのかな!!?詳しく聞かせてよ!!」
「いい加減にしろ!このバカ弟子が!!」
ゴン!!!
「ゴフッ!!?」
弦十郎の拳骨がナナシの脳天に直撃し、ナナシが頭を押さえて蹲る。八紘は広げられたままのアルバムに写る部屋を見て…溜息を吐いた。
「はぁ…慎次、変わらなかったか…」
「……ええ…本人も気にしていない訳ではないのですが…」
「…料理が少し出来るようになったと知って、僅かに期待していたのだがな…やはり、専属の侍女を付けるべきか?」
「う~ん、それはやめといた方が良いかもしれないぞ?男の目があってこれだから、それが無くなると悪化する可能性が…」
「翼さんの立場を考えると人選も大変ですし、僕達がフォロー出来る間にどうにか最低限片付けることを覚えてもらう方が良いかと…」
「そうか…二人共、苦労をかけるな…」
「風鳴翼のマネージャーとして当然の事です」
「あいつの歌が聴けることの対価としては安過ぎるくらいだ。今更お役御免は寧ろ困るって」
何やら保護者の集まりのような会話をする三人に、奏達が何とも言えない表情をしていると…
(ナナシ…頼むから協力してくれ…)
…俯いたままの翼から、そんな“念話”がナナシ達に届いた。
(協力?話題の提供ならさっきから…)
(それはただ私を貶めているだけであろう!!?…そうではなく…私はお父様に、安心して欲しくて…)
(安心?)
翼の言葉に疑問を覚えるナナシ。そんなナナシに、翼は何とか自分の考えを伝えようとした。
(今の私は…お父様が守ってくれていた私は、ちゃんと夢を追いかけていると…奏や叔父様、緒川さんやマリア達、そして当然お前にも…周りの人間に支えられながらも、ちゃんと前に進んでいると、伝えたくて…少しでも、未熟であった私が防人として、アイドルとして成長出来たことを伝えて、見直して欲しくて…だから、どうか…この想いを伝えるために、協力を…)
(……見直して欲しい、ね…)
神妙な顔で翼の想いを聞いたナナシは、八紘の方を振り返り…
(それで?お前の娘はこう言っているけど、そこのところどうなんだ?
(((((へ…?)))))
…ナナシの言葉に、全員が思わず間の抜けた思念を返してしまった。翼が錆び付いた人形のようなぎこちない動きで八紘に目を向けると…八紘の袖に隠れた左手には、自分達も付けている“血晶”の赤い輝きが…
「お、お父様…まさか、ずっと…?」
(…思念が伝わるとは、奇妙な感覚だな?)
翼の言葉に八紘が“念話”で返したことで、今までのやり取りが全て八紘に筒抜けであったことが全員に理解出来た。
「…鋼鉄よりも頭が固くて悪かったな?」
「八紘兄貴!!?いや!?それは!!?」
「…身内の恥に巻き込んでしまい、本当に申し訳ない」
「え!?いや、その…」
「そんな、ことは…」
狼狽える奏達や呆然とする翼を置いて、八紘は廊下へと出てしまった。全員に背を向けたまま、八紘は背後の翼に声を掛ける。
「翼」
「は、はい!!」
「…お前を見直すことなど、私には不可能だ」
『!!?』
パタンッ…
それだけ言い残して、八紘は襖を閉めて行ってしまった。全員が翼の方を見ると、翼は俯き自嘲気味な笑みを浮かべていた。
「フ、フフフ…私は、少し浮かれていたのかもな…お父様の想いを知った今ならば、私の成長した姿をしっかり見てもらえるなどと…どれだけ背伸びをしても、中身はポンコツなSAKIMORIのままだと言うのに…」
「お、おい!ナナシ!!何とかしろよ!!」
「このままヘソを曲げ続けると、ここでポッキリ折れるわよこの剣!!」
「え~?しょうがないなぁ…」
奏とマリアに促され、渋々ナナシが翼に近づく。
「翼…お前は本当に自分のことも八紘のことも分かっていないな?八紘がお前を見直すなんて出来る訳ないだろ?」
「「「!!?」」」
「「何故そこで追い打ち!!?」」
何故か翼に追撃のような言葉を掛けるナナシに奏達がツッコミを入れるが、ナナシはそんな奏達に理不尽だとでも言うように顔を顰める。
「だって当然のことだろ?八紘は…」
バンッ!!
ナナシが何かを言いかけたところで、突然襖が勢い良く開いて先程出て行った八紘が戻ってきた。驚き固まる翼達の前に、八紘は手に持ったファイルを机の上に広げる。そこには…
『アイドルグループ『ツヴァイウィング』が結成!!』
『ツヴァイウィングのファーストシングル『逆光のフリューゲル』がCD売り上げ枚数十万枚突破!!』
『ツヴァイウィング、全国ツアー開催が決定!!』
『天羽奏入院、ツヴァイウィング長期活動停止…』
『ツヴァイウィング復帰ライブ開催!!』
『風鳴翼、涙の宣言…!!ツヴァイウィング、海外進出!!両翼は世界へと羽ばたく!!』
…新聞や雑誌のほんの小さな記事から一面を飾る物まで、ツヴァイウィングが活動を始めてから今までの記録が記載された切り抜きが数多く保存されていた。
「これ、は…?」
「…私の、未練だ」
驚く翼に、八紘は自身の行いについて語り始める。
「わざわざお前を風鳴の家から遠ざけるために厳しいことを言ったのに、お前が夢に向かって進む姿を目の当たりにすれば決心が鈍ると…いいや、違うな…私は怖かったのだ…もし、万が一にも…お前が私の姿を見て、歌を止めてしまったら…お前が私を見て、恐怖する顔を見ることが、怖かった…」
「……」
「それでも、私は…お前がちゃんと夢を追いかける姿を見たくて…お前が友と、仲間と進む軌跡を、未練がましく追うことしか、出来なかった…」
「お父様…」
八紘は、呆然とする翼に歩み寄り、とてもぎこちない仕草で翼の…娘の頭に手を置き、頭を撫でる。
「私に、お前を見直すことなど不可能だ…何故なら、私はお前に失望したことも、期待を裏切られたことも無い…お前は何処までも、私の自慢の娘なのだから」
「ぁ…」
「大きくなったな、翼…」
「お父、様…」
翼はその瞳から涙を流して、父親の胸に頭を押し付ける。八紘はそんな娘の頭を撫でながら、そっとその背に手を当て、抱きしめた。
「…やれやれ、結局俺達に出来ることは無かったな?」
「ですね…」
弦十郎と緒川が、二人の様子を見て安堵したようにそう口にする。
「全く、人騒がせな親子だな?」
「…父親、か…少し、羨ましいわね」
そして、奏とマリアが翼達親子を少し寂しそうな顔で見つめる。父親を失った奏と、父親を知らぬマリアには、その光景は眩しく見えて…
「ん~?ならちょっとだけ貸してもらおうぜ!お~い、八紘!ここに寂しがっている娘が二人ほどいるからちょっとお父さんやってくれよ!!」
『!!?』
…そんな二人の様子を見たナナシが、あろうことか八紘に二人の父親役を要請した。
「ちょっ!!?ナナシ、お前何言って!!?」
「今あの二人の邪魔をするのはあまりに無粋でしょ!!?」
「え~?お前らもあの親子には振り回されたんだからちょっとくらい迷惑かけても問題ないだろ?八紘も父親初心者なんだから経験値積ませてレベルアップさせないと!ほらほら甘えてみせろよ!『パパ、お小遣いちょうだ~い?』とか、『パパ、私このバックが欲しいな~?』とか言ってみれば良いだろ?」
「「それは父親の意味が違う!!?」」
「…ぷっ、あっははははは!」
真面目な空気も、暗い雰囲気も、何もかもを茶化すナナシと狼狽える奏達の姿を見て、涙を流していた翼は噴き出して笑ってしまった。そこからは、最初の冷え冷えとした空気が嘘のように会話が弾み、八紘は娘とその周囲の人間から多くの話を聞くことが出来た。
「……」
だが、そんな楽しい会話の合間に…八紘は時折、鋭い視線をナナシへと向けるのだった。
時は経ち、日が沈んで星が見え始めた頃、翼達は八紘邸を後にすることにした。
「済まないな。時間があれば全員泊ってくれて構わないのだが…」
「いいえ、お父様も叔父様達もまだまだ魔法少女事変の事で忙しいはずです。時間を作って頂きありがとうございました…次は、私から声をかけます、お父様」
「…そうか、楽しみにしている」
「今度は家族水入らずだよな?翼?」
「う、うむ!」
「大丈夫?また最初みたいなことにならない?」
「ナナシ君だけでも連れて行ったらどうだ?」
「少なくとも会話が途切れることは無いと思いますよ?」
「よし!次までにSAKIMORIの痴態を纏めた超大作のアルバムを作成しておくか!!」
「私一人で大丈夫だ!!もうお前は来るな!!」
翼の言葉に全員が笑いながら、八紘邸の門を出ようとして…
「…少し、良いだろうか?」
…歩みを進めるナナシの背に、八紘が声を掛けた。
「うん?どうした?」
「…少しだけ、君と二人で話がしたい。そう時間を取らせないから、良いだろうか?」
「俺は別に構わないぞ。何なら俺は走って帰るから翼達は慎次の運転で先に帰って良いぞ?」
「…いや、待っている。あまり猶予を与えると、何を言われるか分からん」
「あははは!了解!!じゃあちょっと車で待っていてくれ!」
ナナシの言葉に従い、翼達は車の方へ向かう。それを見送った後、ナナシは八紘へと向き直った。
「それで?話って何だ?」
「…ありがとう。君のお陰で、私は翼に想いを伝えられた」
そう言って八紘は、ナナシに対して深々と頭を下げた。
「お前には借りがあったから別に構わないさ。それに、想いを伝えられたのはお前ら親子が勇気を出したからだろ?俺は別に大したことはしていない」
「…いいや、君が事前に“念話”を繋げることを提案してくれなかったら、私は恐らく行動出来なかった」
謙遜するナナシに対して、八紘は自身の想いを伝えていった。
「あの子が私に安心して欲しいと…自分の事を、知って欲しいと思ってくれていることが分からなかったら、私は踏み出せなかった…君がくれたこの“血晶”は、人を繋いでくれる素晴らしい物だ。決してガラクタなどではない」
「…あいつらに聞いたのか?…お前ら人間に何言っても無駄だろうからもうそれで良いよ。どういたしまして…話はそれだけか?」
呆れたような表情で八紘の感謝を受け取るナナシ。そんなナナシをジッと八紘は見つめた後、とても真剣な表情で…八紘は深々とナナシに頭を下げ、言った。
「どうか、娘の事を…よろしく頼む」
…八紘の言葉に、ナナシは並々ならぬ想いを感じた。一人の父親が、娘を想って紡いだその言葉に応えるために…ナナシもまた精一杯、想いを籠めるように言葉を紡ぐ。
「任せろ。あいつが奏や仲間達と夢を追いかけ、生き抜いて…何時か
…ナナシのその言葉に、八紘は呆然とした表情でナナシを見る。
「あいつは…あいつらは…俺と違って、戦場で命を懸けて戦う凄い奴らだ。そんな未来は望み薄で、夢物語かもしれないけど…まあ、俺に出来る全てで叶えてみせるさ。本当の本当に最悪でも…一人寂しく終わるようなことにだけは、絶対にしない。あいつらの命が続く限り、俺はあいつらを…あいつを、一人にはしない」
「……君、は…」
「うん?不服か?悪いけど、俺は“紛い物”だから確約は出来ないぞ?」
不思議そうな顔で八紘を見るナナシに、八紘は何かを口にしようとして…それを止めて、ナナシとの話を終わらせることにした。
「いや…何でもない。翼を、翼の仲間達を、よろしく頼む」
「ああ…お前も簡単に死んでくれるなよ?最低でも孫の顔見るまでは元気でいてくれ。あのSAKIMORIは奏以上に大切に想える存在が見つかるか分からないからなぁ…時間がかかりそうだ」
そう愚痴のようなことを呟きながら、ナナシも翼達の待つ車に向かって行った。その背を非常に複雑な心境で見送りながら、八紘はそっと溜息を吐いた。
「夢を追う以外にも…前途多難だな?翼…」
今年最後の投稿になります。
年が明けてからGX編後日談最後の一話を投稿して、活動報告でもご連絡した通り一度投稿を止めさせて頂く予定です。
この一年、拙作にお付き合い頂きありがとうございました!
来年もどうかよろしくお願いします!!
それでは皆様、良いお年を~!!