戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第126話

アルカノイズの襲撃を乗り切り、本部へと帰還した翼、マリア、ナナシの三人が指令室で弦十郎と話していると、指令室の扉が開いて響達が駆け込んで来た。

 

「先輩!」

 

「兄弟子!」

 

「マリア!」

 

「デス、デス、デース!」

 

各々が翼達に呼び掛け、怪我の無い姿に安堵の表情を浮かべる。切歌など、部屋に駆け込んだ勢いそのままにマリアへと抱き着いていた。そんな仲間達の様子にマリアはフッと優しい笑みを零した。

 

「大騒ぎしなくても大丈夫。バルベルデ政府が保有していた資料は、この通りピンシャンしてるわよ」

 

「バーカ、そんなことはどうでも良いよ!」

 

「敵に襲われたんですよね?本当に無事で良かった!」

 

奏と響がマリアの見当違いな言葉を否定する。響達にとって機密情報など、仲間の安否に比べれば些末事だ。

 

「帰国早々、心配かけてすまない。気遣ってくれてありがとう」

 

「先生もご無事で何よりです」

 

「フム…」

 

「先生…?」

 

調がナナシにも声を掛けるが、ナナシはそれに答えず装者達の様子を見て少し思案したかと思うと…何故かクリスに近づき、その手を掴む。

 

「はっ!?ご、ご都合主義!!?一体何のつもりだ!!?」

 

突然のナナシの行動にクリスが困惑するが、ナナシはお構いなしにクリスの手を引っ張って移動させると、突如クリスの背後に回り込んで…

 

「そい!!」

 

ぎゅむっ!!

 

…翼にクリスを押し付けた。

 

「むっ!!?」

 

「なっ!!?何のつもりだご都合主義!!?」

 

「羨ましそうにしていたから」

 

「なっ!?ななな、何言ってんだお前は!!?あ、あたしは別に…せ、先輩が寂しそうにしてたなら、押し付けるのは相方の方だろ!!?」

 

「なっ!?雪音何を!!?私は別に、寂しそうなどとは!!?」

 

「いやいや、アイドル大統領と切歌のやり取りが羨ましそうな奴(翼→マリア)と羨ましそうな奴(クリス→切歌)、良い感じに需要と供給が満たせそうな組み合わせを見つけたから、ついな?」

 

「「なっ!!?」」

 

顔を赤くして狼狽える二人を見てニヤニヤとナナシが笑っていると、そんなナナシに響が近づいてきた。

 

「それじゃあ、兄弟子はわたしが!無事で良かったです兄弟子~!!」

 

無邪気な笑顔で響がナナシに抱き着こうとして…

 

ガシッ!ミシミシッ!!

 

…その顔をナナシが片手で掴み、アイアンクローを仕掛けた。

 

「あだだだだだっ!!?何をするんですか兄弟子―!!?」

 

「少しは日本人女性としての嗜みを身に付けような?妹弟子!年頃の女が気軽に野郎に抱き着くな!!」

 

「お前は細かいこと気にし過ぎなんだよ」

 

ギュッ!

 

「っ!?」

 

奏が背後から近づいて、ナナシを抱きしめる。驚いたナナシが手を離してしまい、響はアイアンクローから解放された。

 

「仲間が無事だった喜びを言葉だけじゃなくて行動で示しているだけだろ?いちいち難癖付けんな。それともちょっとはそういうことを意識してんのか?」

 

「……」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべながら、奏がナナシを抱きしめる力を少し強める。無言のナナシに奏は珍しくナナシが戸惑っていると考えて、更に力を入れようとして…

 

「奏、またデカくなったんじゃないか?翼のプリンを盗み食いした甲斐があったな!」

 

「っ!!?」

 

…変わらぬ様子で紡がれたナナシの言葉に、奏は思わず顔を赤くしてナナシから距離を取ってしまった。

 

「なっ…なっ…!」

 

「おお!お前もおぼこい反応を出来るじゃないか!普段平気そうにしていても、奏だって意識すれば異性に対する抵抗や恥ずかしさはやっぱりあるだろ?体の隅々まで知り尽くされている“紛い物”の俺にでさえ、な?やっぱり考え直さないか?俺が女になれば、そんなこといちいち気にしなくて良いだろ?」

 

動揺する奏に、ナナシが笑顔で畳みかける。ナナシは敢えてセクハラに近い発言をすることで、性別変更禁止の決定を覆す切っ掛けを作ったのだ。そんなナナシの意図を察して、奏は顔を赤くしながらもナナシに反論しようとして…

 

ガシッ!

 

…その肩を、ニッコリ笑顔の翼に捕まれた。

 

「え…?つ、翼…?」

 

「ハハハハ…以前私の分のプリンが無くなっていたのは、やはり奏であったか」

 

「あっ!?いや、その!!?」

 

「いやいや、別に構わない。私はあまり食べ物に執着は無い方だ。私のプリンが奏の体の糧になったなら喜ばしい!」

 

笑顔でそう言う翼だが、目が全然笑っていない。ナナシでさえ予想外の翼の反応に困惑していた。

 

「さあ、奏。私とも再会の抱擁を交わそう!私にも奏の成長を感じさせてくれ!!」

 

ビキビキッ!!

 

「ちょっ!?手に力籠めすぎだ!!?それじゃハグじゃなくてベアハッグだろ!!?」

 

翼から逃げ回る奏を見て、話が有耶無耶のまま中断されたナナシは苦笑してしまったが、これはこれで面白いとその様子を眺めていたら…

 

「ジー……」

 

…調がナナシの事をジッと見つめていた。

 

「な、何だ?調?言っておくがハグはやめておけよ?やるならアイドル大統領の方にしとけ」

 

「そ、そうよ、調!その男じゃなくてこっちに来なさい!ほら!!」

 

マリアが両手を広げて調に呼び掛けるが、調はナナシとマリア、そして奏と翼の方に視線を何度か彷徨わせた後、真剣な表情でナナシに声をかけた。

 

「先生…」

 

「な、何だ?」

 

「私も先生が作ったプリンが食べたいです」

 

調が奏を…奏のある一部を凝視しながら、とても期待したようにナナシにそうお願いをした。

 

「あー!ズルいデス!アタシもナナシさんのプリン食べたいデス!!」

 

「わたしも食べたーい!兄弟子、わたしにも作ってください!!」

 

「ならば私にも用意しろ!!以前食べ損ねた分も含めて二つだ!!!」

 

「ジー……」

 

「わ、分かった!後で作ってやるから落ち着け!!」

 

食欲からお願いする切歌と響、そして奏を追いかけることを中断して詰め寄る翼と期待した視線を向ける調に、ナナシが慌てて後ほどプリンを作ることを約束した。

 

「…そろそろ話を始めても良いか?」

 

「あ!?ご、ごめん弦十郎!そうだな!そろそろ真面目なOHANASHIを始めよう!!」

 

自分から話を逸らしたナナシだが、逸れた方向が想定外であったため渡りに船とばかりに弦十郎の話に乗っかった。

 

「全く…安心してばかりじゃいられないのが現状だ。これを見てほしい」

 

弦十郎が指さす先のモニターに表示されたのは、バルベルデで確認された水晶の中で眠るティキの画像だった。

 

「これは…?」

 

「私達がバルベルデ政府の秘密施設に潜入した際に記録した、人形の映像よ」

 

「もしか、オートスコアラー!?」

 

今にも動き出しそうなその造形から、響達は人形の正体が今は自分達と共に活動するガリィ達と同じオートスコアラーであることに思い当たった。

 

「ひょっとしてこれもクソガキの作品か?ガリィ達の姉?」

 

「お姉ちゃんなんだゾ?」

 

「違う、オレが作り出したオートスコアラーはお前達だけだ」

 

コテンと首を傾げるミカに、キャロルが否定の言葉を返した。

 

「この人形…見覚えがあるわ。私がパヴァリア光明結社と聖遺物の奪い合いをしていた頃、連中が後生大事にしていたから手に入れようとして、連中のボスに攻撃したら自分から盾になって海に沈んじゃったのよね…あの時は私海賊をしていて、嵐の船の上で戦っていたから回収出来なかったのよね」

 

「え!?了子、昔海賊だったの!?ならず者達と海で覇権を争っていた!!?ひょっとしてこの人形が、手にした者は海賊の王になれるという幻の大秘宝、ワン…」

 

「とんでもない所に喧嘩を売るのはやめなさい!ナナシちゃん!!」

 

了子がツッコミを入れてナナシを黙らせている隙に、弦十郎が話を進める。

 

「前大戦時、ドイツは化石燃料に代替するエネルギーとして、多くの聖遺物を収集したという。そのいくつかは、研究目的で当時の同盟国である日本にも持ち込まれたのだが…」

 

「わたしの纏うガングニール…」

 

「それに、ネフシュタンの鎧や、雪音のイチイバルもそうであったと…」

 

「戦後に亡命したドイツ高官の手により、南米にも多くの聖遺物が渡ったとされています」

 

「おそらくは、この人形もそうした経緯でバルベルデにたどり着いたものだと推察されます」

 

エルフナインが話し終わると、緒川がマリアからケースを受け取り、全員に見えるように胸の前に掲げる。

 

「全てを明らかにするには、このバルベルデ政府が保有していた機密資料を解析するしかありません」

 

「翼とマリア君が襲われたことから、パヴァリア光明結社の錬金術師は日本に潜入していることは明らかだ。くれぐれも、注意を怠らないでほしい」

 

弦十郎の言葉に各々が神妙な顔で頷く中、クリスだけが俯いて落ち着かない様子で髪の毛を指でいじっていた。そんなクリスの様子を、響は心配そうに見つめた後、その視線をナナシの方に移した。ナナシは後ろにいるクリスや響に気付いた様子はなく、響から僅かに見える横顔には変わらぬ笑みを浮かべているようだった。

 

 

 

 

 

本部での情報共有が終わった後、響はとあるファミレスの中にいた。響の向かい側にはスプーンでかき氷をつつく未来、そして…

 

『うん…うん…あははははは!それは良かった!』

 

…誰かと電話で話すナナシがいた。

 

『そっちも元気そうで安心したよ!また何か困りごとがあったらいつでも連絡してくれ!よろしくお願いします!』

 

ピッ!

 

ナナシが電話を切って、不安そうな表情の響に視線を向けた。

 

「悪いな、電話が終わるのを待ってもらって」

 

「いえ、全然構いません。ただ…話を始める前に、一つ聞いて良いですか?兄弟子…」

 

「ん?何だ?」

 

「…今のって、何語ですか?」

 

「フランス語だな。結構前に救助活動で行ったことがあっただろ?」

 

「た、確かに数日だけ滞在した気が…」

 

「その時友達になった奴からの電話だよ」

 

「た、たった数日で…流石ですね?」

 

「フランス語も凄く流暢でした!言ってること全然分かりませんでしたが!」

 

「海外で活動することがあるんだから響も多少外国語を覚えていた方が良いぞ?最低限『こんにちは』、『ありがとう』、『ごめんなさい』、『助けて』、『はい』、『いいえ』くらい言えればどうにかなる。響の場合は『お腹が空いて死にそうです』も言えれば完璧だな!」

 

「わたしのイメージ!!?」

 

「寧ろ最後のだけ覚えていれば充分じゃないかな?」

 

「うわーん!未来までー!!」

 

「あはははは!まあ、冗談っぽいことはこれくらいにして、話って言うのは一体何のことなんだ?」

 

「『冗談っぽい』ってことは本気じゃないですか!!?」

 

響をからかってナナシと未来がクスクス笑った後、ナナシが本題に入るよう促した。

 

「一体どうしたんだ?未来が俺を見て驚いていたから急遽俺を誘ったみたいだったけど?ひょっとしてバルベルデで切歌とイチャイチャしていたのがバレたから修羅場の仲裁を頼みたいのか?」

 

「違いますよ!?というか切歌ちゃんとイチャイチャって何のことですか!!?」

 

「違うのか?シャワー室からお前達が出てきた後、切歌が赤い顔でお前を見ていたし、調がお前と切歌の事をジーッと見ていたからてっきり…」

 

「へえ…それについては後でジックリ聞かせてもらうとして…」

 

「ヒィッ!?」

 

「響はクリスについて相談したいことがあるみたいなんです」

 

「クリスについて?」

 

「はい…兄弟子は、バルベルデでわたし達が別行動していた時のことを知っていますよね?」

 

「プラント施設の指揮官を現地の少年と協力して追跡、その後アルカノイズを使って村人を人質に取る指揮官から無事村人を全員無傷で救出したって聞いたな。その際、協力者の少年がアルカノイズに襲われたらしいが…お前が事前に“血晶”を預けていたお陰で、無事保護出来たそうじゃないか?」

 

そう、響は指揮官を追う途中で、ステファンに自分の“血晶”を手渡していた。響達に協力して村人を助け出そうとしたステファンは指揮官に目を付けられてアルカノイズに襲撃を受けたのだが、“血晶”に守られ事無きを得ていた。

 

「改めて言うがお手柄だったぞ、響!お前の英断で少年の命が救われた。非戦闘員がアルカノイズに襲われて無傷って記録も作れたから益々“血晶”の価値も高まる。今まで秘匿していたけど、今後は実動部隊も現場の判断で“血晶”を避難者に手渡すことになるかもしれないからしっかり想定訓練しておかないと…良い切っ掛けを作ってくれた!」

 

「え、えへへ、そんな、褒め過ぎですよ!元々この“血晶”は兄弟子が作った物なんですから、兄弟子の方が凄いです!わたしはただ、兄弟子の真似をしただけです…でも…」

 

褒められて嬉しそうにしていた響の顔が、一転して暗くなってしまった。

 

「クリスちゃん、ステファン君が危険な目にあったことを気にしているみたいなんです。実はステファン君のお姉さん…クリスちゃんの知り合いだったみたいで…クリスちゃん、昔ステファン君のお姉さんと何かあったみたいで、折角再会出来たのにギクシャクしたままお話も出来なくて、ずっと落ち込んでるみたいで…何とか元気付けてあげたいんですけど…」

 

「大きなお世話だ!」

 

「うえええ!!?」

 

突然背後から怒鳴り声が聞こえたため驚いた響が振り返ると、今まさに話題に出したクリスが険しい顔で響の事を見ていた。

 

「その言い草はないだろう、雪音。三人はお前を案じているんだ」

 

「当然、あたし達もな」

 

「えー!?翼さんと奏さんも居るー!!?」

 

響の背後の席で翼、奏、クリスの三人は響達の話を盗み聞きしていたらしい。

 

「すっかりストーカーが板について来たな…でも安心しろ。例えお前達がどんなに特殊な趣味を持ったとしても、俺と慎次、S.O.N.G.の全員が全力で秘匿してみせる!!」

 

「妙な言い方をするな!?立花と同じで、私達も雪音のことを心配して話し合おうとしていただけだ!」

 

「あたし達だけじゃなくて、ダンナ達も心配してたぞ?」

 

「特に了子が面白いことになってるぞ?色々上の空で、コーヒーに砂糖入れようとして全外しして盛り砂糖するし、開き切っていない自動ドアにぶつかって顔面強打してたし」

 

「そんなもんは直接見たから分かってる!けど、ほっといてくれ!ステファンの事は、近くにいたあたしが守れなかったことは情けなかったが…そこのバカにはちゃんと感謝してる。でも、ソーニャお姉ちゃんの事については、あたしが自分でケジメをつけなきゃいけないんだ!」

 

そう言ってクリスは、“投影”で了子の醜態を晒しながらニヤニヤ笑うナナシをキッと睨む。

 

「だからご都合主義、今回ばかりはてめえは口出ししてくるんじゃねえ!」

 

「だが断る!!」

 

間髪入れずに拒絶の言葉を口にするナナシにクリスが近づき、その胸倉を掴んで怒鳴りつけた。

 

「ふざけんな!これはあたしの問題だ!!関係ないてめえが首突っ込んでくるんじゃねえ!!」

 

「あっはははは!関係の有無とか超どうでも良い!!」

 

「っ!!?」

 

激しい剣幕で凄むクリスに、ナナシは一切動じることなく笑顔でクリスの主張を切り捨てた。

 

「関係ない奴が口出しするな?首を突っ込むな?フン!知ったことか!俺は俺が口を出したいと思ったら口を出すし、首を突っ込みたいと思ったら首を突っ込む!それが嫌だと思うなら力尽くでどうにかしてみろ。耳を塞いで話を聞かないも良し、身動きが取れないように俺を拘束するも良しだ。ただ耳を塞いだくらいじゃ“念話”で強制的にOHANASHIするし、拘束したくらいじゃ首切り離して生首一つで突っ込んでいくけどな!あはははは!!」

 

「……」

 

どうあっても放っておくつもりは無いと笑うナナシの顔を、クリスがジッと見つめた。

 

「さてさてどうしてやろうかな?ここはやっぱりクリスの滑稽な姿を“投影”で見せつけてそのソーニャお姉ちゃんの気を削ぐか?もしくは了子を焚きつけて『クリスは私のだ!』って感じの流れにしてクリスを巡って争わせるか?あーでもその流れだと皆の愛されキャラであるクリスを巡って他の奴らも参戦して収拾がつかなく…」

 

「なあ、頼むよ。ご都合主義…」

 

どんな風にクリスの問題に関わるか“妄想”していたナナシだが、クリスの言葉を聞くとピタリと口を閉じてジッとクリスの顔を覗き込んだ。そんなナナシにクリスは…頭を下げた。

 

「あたしは昔、ソーニャお姉ちゃんにとても酷いことを言ったんだ。そのことを謝りたい。バルベルデで再会した時はあまりに急で…いや、違う。許してもらえないのが怖くて、ちゃんと話が出来なかった。でも、それでも、いつか勇気を出して、きちんと自分の力で謝りたい。だから…一人で、やらせてくれ…よろしく、お願いします…」

 

クリスはナナシに対して誤魔化しは通用しないと考え、真っ向から懇願することにした。偽りのない自分の想いを、ナナシは決して無碍にはしないと信じて…

 

「…『いつか』、ね…フム…」

 

クリスの想いを聞いたナナシは、少しの間考え込む素振りをしたかと思うと…

 

「分かった」

 

『!!?』

 

…あっさりと、クリスの要求を受け入れた。

 

「ほ、本当だな!?」

 

「ああ」

 

「嘘じゃねえな!?気が変わったからやっぱ無しなんて言ったらタダじゃおかねえぞ!!?」

 

「信用ないな~…それじゃあ証人も沢山いるし、きちんと宣言しようか?」

 

「宣言…?」

 

周囲の困惑が治まらない内に、ナナシは右手を上げてクリスと響達に対して…宣言する。

 

 

 

「この俺、“紛い物”のナナシは、雪音クリスとソーニャ・ヴィレーナの過去に関する諸問題に対して、今後一切関わらない事をS.O.N.G.の歌姫達の歌に誓おう」

 

 

 

ナナシはクリス達の前で、何の迷いもなく堂々とそう宣言してみせた。

 

「…もし、その誓いを破ったらどうする?」

 

「そりゃあ、お前達の歌に誓ったんだ。その時は、俺は二度とお前達の歌を聴かない。響に協力してもらって、ガングニールで俺の両耳を引き千切ってもらう」

 

『!!?!?』

 

ナナシの言葉に、その場の全員が驚愕する。ナナシにとってこの誓いは、命と同等…いや、それ以上のことであると理解したからだ。

 

「誓いを破ったかどうかはお前が決めろ。俺はお前の決定に従う」

 

「ちょ、ちょっと待て!?何もそこまでする必要は!!?」

 

「人の心配している場合か?俺にここまで言わせたんだ…その意味、分かってんだろうな?」

 

「っ!!?」

 

ナナシの宣言の意味…クリスとソーニャの問題に、ナナシは絶対関わらないと言うことだ。

 

「…ハン!上等だ!!この問題は、あたし一人で片を付けてみせる!!」

 

クリスはナナシの誓いを、自身への信頼と捉えた。例えナナシが介入しなくても、自分一人で解決出来ると判断されたと考えて、クリスは不敵に笑ってみせた。

 

「良し!それじゃあこの話はここまでと言うことで…そういえば響、お前まだ夏休みの宿題を提出してないらしいな?」

 

「ぎょっ!!?」

 

クリスの笑みを見たナナシは話を締め括ると、話題をガラリと切り替えたため響の口から思わず変な声が漏れてしまった。

 

「そうだった~!どうしよう未来ぅ!!」

 

「頑張るしかないわね。誕生日までに終わらせないと」

 

「立花の誕生日は近いのか?」

 

「はい、十三日です」

 

「へぇ?あと二週間もないじゃねえか?このままだと、誕生日も宿題に追われ…」

 

Prrrrr…Prrrrr…

 

クリスの言葉の途中で、装者達の通信機から一斉にアラームが鳴り響く。一瞬で気持ちを切り替えた響が通信機を繋いで本部と連絡を取った。

 

「はい!響です!」

 

『アルカノイズが現れた!位置は第十九区域、北西Aポイント!そこから近いはずだ!急行してくれ!』

 

弦十郎からの指示を聞いた響達は現場へと移動を開始する。ナナシは残る奏と未来に手短に声を掛けた。

 

「二人は後から来る大人達と一緒に近隣住民の避難誘導、よろしくお願いします!」

 

「分かった!」

 

「任せてください!」

 

二人の返事を聞いたナナシは、急いで響達の後を追いかけて行った。

 

 

 

 

 

響達と別れて、奏と未来が大人達と合流する道中…未来は前方を走る奏に対して、あることを問いかけた。

 

「奏さん!ナナシさんは、本当にクリスのことに関わらないと思いますか!?」

 

その問いに、奏は振り返らず走り続けながら…とても呆れたような声で答えた。

 

「逆に聞くけど、あいつがこのまま素直に引き下がる“妄想”が出来るか!?」

 

「………無理です!!」

 

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