戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第127話

弦十郎が伝えた地点に響達が到着すると、そこでは無数のアルカノイズが陣から姿を現し暴れ回っていた。

 

Balwisyall Nescell gungnir tron

 

響達は即座にギアを纏い、ひょっとこの面を被ったナナシも“収納”から血液を出して操りながらアルカノイズの殲滅を開始する。アルカノイズの数は多いが、今更通常のアルカノイズに追い詰められるような四人ではない。装者達は力強い歌声を響かせ、ナナシはその歌に聴き惚れながら着実にアルカノイズの数を減らしていく。

 

その様子を、建物の上からプレラーティとカリオストロが観察していた。

 

「…相変わらず、ふざけた装いなワケダ」

 

「ムカつく表情ね…一体何なのアレ?」

 

日本の祭事や神楽の道化役など知らない二人には、ナナシが遠目に観察する自分達のことを馬鹿にしているように感じて苛立ちを募らせる。まあ、ナナシは自分を見る相手の反応を楽しんでいるのである意味間違ってはいない。

 

そうしている内に、カリオストロ達の傍に錬金術の陣が出現して、そこからサンジェルマンが姿を現した。

 

「ようやく到着と言うワケダ」

 

「首尾は?」

 

「まだ誘い出したところよ」

 

サンジェルマンも建物の上から地上を見下ろすと、戦う三人の装者達と…ふざけた仮面の男を見つけた。

 

 

 

『人殺し!!』

 

 

 

サンジェルマンの脳裏に、ナナシの言葉が過る。だが、サンジェルマンは表情一つ変えることなく懐から筒のような物を取り出した。筒には表面にダイヤルのような物があり、サンジェルマンが筒に対して錬金術を施すとダイヤルがカシャカシャと動き出す。少しして、筒がカシャリと開いて中からアルカノイズを呼び出す水晶が現れた。

 

「試作に終わった、機能特化型の使い時…その力、見せてもらいましょう」

 

サンジェルマンが水晶を摘まみ上げ、装者達に向かって水晶を放り投げる。水晶は地面に接触して砕け散り、赤い光と共に大型アルカノイズが姿を現し始める。

 

「あれはアルカノイズか?」

 

「新手のお出ましみたいだな!」

 

大型アルカノイズの出現と同時に、装者達とナナシの上空にプラネタリウムのように星空が映し出され、周囲がまばゆい光で包まれたかと思うと…周囲の光景が、まるで異なる惑星にでも飛ばされてしまったかのように一変した。

 

S.O.N.G.本部のカメラも、装者達とナナシの姿を見失ってしまった。

 

「さっきまで街中だったのに…」

 

(弦十郎!聞こえるか!?)

 

響が狼狽えている間に、ナナシは弦十郎と“念話”が繋がるか試していた。

 

(聞こえているぞ!“血晶”は機能している!)

 

(と言うことは、俺達が別の惑星に強制転移された訳では無さそうだな。変わったのは風景だけか?)

 

(こちらのカメラ映像にはただの街の映像しか映っていません!恐らく、ナナシさん達の周囲の空間が閉ざされてしまったんだと思われます!)

 

状況を把握している間に、大量のアルカノイズが四人に接近してきた。翼が真っ先に近づいてきたアルカノイズの胴体を剣で切り裂く。だが、アルカノイズの体は赤い塵に変わることなく、一瞬で切断面がくっついて元に戻ってしまった。

 

「馬鹿な!?」

 

続いて響とクリスも打撃と銃撃を加えるが、アルカノイズには全く通用した様子が無い。

 

「攻撃が!?」

 

「全部通らねぇのか!!?」

 

響達の攻撃が一切通用しない中で…

 

「え!?普段と何か違うか!!?」

 

…ナナシの拳と血液の攻撃は、普段通りアルカノイズを赤い塵に変えていた。

 

 

 

 

 

装者達の攻撃が通用せず、ナナシだけがアルカノイズを滅ぼせる現象に、S.O.N.G.本部ではある仮説が浮かび上がった。

 

「まさか、Anti_LiNKER!?でも一体誰が…?」

 

「いえ、各装者の適合係数に低減は見られません!」

 

だがその仮説は、装者達のバイタルを表すモニターの情報によって即座に否定される。

 

「つまり、こちらの攻撃力を下げる事無く、守りを固めているのだな?」

 

 

 

 

 

少しの間、装者達が牽制しつつナナシがアルカノイズを殲滅していると、弦十郎から四人に通信が届いた。

 

『四人共、聞こえるか!?』

 

「おっさん!どうなってやがる!?」

 

『そこはアルカノイズが作り出した、亜空間の檻の中と見て間違いない!』

 

「亜空間の檻、ですか?」

 

弦十郎に続いて、了子達からアルカノイズが討伐出来ないカラクリが説明される。

 

『そこではアルカノイズの位相差障壁がフラクタルに変化しているわ!』

 

『それによってインパクトによる調律が阻害されているようです!』

 

『ギアの出力が下がったように錯覚するのはそのせいだ!』

 

『ナナシさんだけ変化がないのは…えっと…ご都合主義パワーです!!』

 

「考察諦められた!!?」

 

『はうっ!?ずびばぜん!』

 

『何もかも埒外な貴様が悪い!!』

 

「ならさっさと俺の力を解明してみせろよクソガキ!お前も了子も頻繁に俺を部屋に呼び出した挙句に好き勝手俺の体を弄んで自分達だけ満足しやがって!!」

 

『『言い方ぁ!!!!』』

 

悪意満載のナナシの言葉に了子とキャロルが声を荒げる。相変わらず緊張感の抜けるやり取りだが、そのお陰で落ち着いた響達はアルカノイズの対処方法を思いついた。

 

「だったら、ドカンとパワーを底上げてぶち抜けば!」

 

「呪いの剣、抜きどころだ!」

 

「「「イグナイトモジュール、抜剣!」」」

 

宣言と共に響達が魔剣の呪いを開放する。呪いを力へと変換した漆黒のギアを纏った三人の攻撃は、アルカノイズの位相差障壁を容易く打ち砕いて次々とアルカノイズを赤い塵へと変えていった。

 

「なら俺もテンションブチ上げていこうかぁ!!」

 

歌姫達の力強い旋律を聴いたナナシも力を尽くすべく短剣を心臓に突き刺して“化詐誣詑”状態になる。

 

とはいえ、通常個体のアルカノイズにナナシが全力を行使する必要はない。そのためナナシが取った行動は、『より化け物らしい』戦い方だった。

 

接近してきたアルカノイズを両手で握り潰し、目前のアルカノイズを牙で喰い千切る。背後から接近してきたアルカノイズを『背中から新たに生やした腕』で貫き、鋭い爪を横薙ぎに振るってアルカノイズ達を輪切りに切り裂く。周囲にアルカノイズがいなくなると、ナナシは四足獣を思わせる動きで一気にアルカノイズの密集地帯へと駆け出した。

 

体を血液で覆ったナナシは全身が凶器と同じである。短剣を突き刺した心臓から溢れる血液を使って新たに腕や武装を成型しながら、徐々に体を肥大化させていくその姿は、まるで創作物に出てくる時間経過で進化し続ける異形の怪物のようであった。

 

(うわ~…話は聞いてたけど、兄弟子がホントにとんでもないことに…)

 

(マジで大丈夫だろうな!?突然あたしらに襲い掛かったりしないよな!!?)

 

(モンダイナイ。オレ、オマエラノ、ミカタ)

 

(何でカタコトなんだおい!?)

 

(ダイジョウブ。オレ、オマエラ、マルカジリ…ジャナクテ、マモルカラ!)

 

((『丸齧り』って言った!!?))

 

(ナナシ、仲間をからかうのはその辺にしておけ。イグナイトを使用した以上、一刻も早く決着をつけるぞ!)

 

(SAKIMORIハ、アブラミガスクナクテカタソウ…アイドルダイトウリョウハ、アブラガノッテテヤワラカソウ…)

 

((どういう意味だ!!?))

 

(サブマスター!マスターはどうですか!?美味しそうですか!?食べちゃいたいですか!!?)

 

(貴様も何を聞いているのだガリィ!!?)

 

(え?クソガキ?子供特有のモチモチ肌で柔らかそうだとは思うが、あばら骨が刺さりそうだよな?もっと肉を喰え肉を。今度エルフナインと一緒に焼肉連れて行ってやるから)

 

(唐突に口調が戻ったかと思えば何を言っている!!?貴様はオレの保護者か何かか!!?)

 

“念話”で仲間をからかいつつ化け物のようにアルカノイズを狩るナナシに戸惑いながらも、響達もイグナイトを駆使してアルカノイズを倒していく。だが…

 

「こいつらに限りはあんのか!!?」

 

どれだけ倒してもアルカノイズの数が減る様子が無い。このままイグナイトの制限時間が過ぎて響達のギアが解除されれば、ナナシ一人ではアルカノイズの処理速度が追い付かずに押し潰されてしまう。

 

 

 

 

 

「抜剣した以上、カウントオーバーはギアの停止!立ち止まるな!!」

 

モニターに映像が映らず、戦闘音が一向に収まらない状況で、マリアは響達に声援を送っていた。

 

「響さん達が危ないなら…」

 

「アタシ達も現場に向かうデス!」

 

「待ちなさい!あなた達が向かったところで、あの亜空間に入り込む手立てがないなら意味が無いわ。最悪の場合、響ちゃん達を救出に向かったあなた達をパヴァリアの錬金術師達が待ち構えている可能性がある!」

 

「でも…何も出来ないもどかしさ…」

 

「黙って見るばかりなんて嫌デスよ!」

 

了子の言葉に、思わず調達が反論する。プロトタイプとはいえLiNKERがあるのに、見守ることしか出来ない現状に冷静ではいられなかったからだ。

 

「私達がLiNKERを完成させることが出来れば…」

 

そんな調達の様子に、ナスターシャ教授がポツリと呟く。せめてLiNKERが完成していれば、三人が出撃する選択肢も選べた可能性があったからだ。ナスターシャ教授の呟きを近くで聞いていたエルフナインも顔を俯かせそうになるが、直前で持ち直して思考を巡らせる。

 

(何か、ボクにも何か出来るはず!位相差障壁を亜空間の檻に…そして強固な鎧と使いこなす新型アルカノイズ…出現した時に観測したフィールドの形状は半球…ッ!!?)

 

亜空間が発生した際の状況を思い出したエルフナインが何かに気が付き、即座に通信機で響達にあることを問いかけた。

 

「皆さん!そこから空間の中心地点を探れますか!?」

 

 

 

 

 

アルカノイズを警戒しながら、四人はエルフナインの声に耳を傾ける。

 

『こちらで観測した空間の形状は半球!であれば、制御機関は中心にある可能性が高いと思われます!』

 

ズガガガガガガッ!!

 

エルフナインの思惑を聞いた瞬間、クリスがガトリングで広範囲に発砲し始めた。

 

「クリスちゃん!?闇雲に撃っても…」

 

「歌い続けろ!ばら撒いたのは、マイクユニットと連動するスピーカーだ!空間内に反響する歌声をギアで拾うんだ!」

 

クリスが撃った岩肌をよく見ると、確かに弾丸とは異なる機器が埋め込まれていた。

 

「そうか!ソナーの要領で私達の位置と、空間内の形状を把握出来れば!」

 

(歌を集中して聴くなんて素晴らしい作戦だ!!よっしゃ任せろ!!!)

 

ナナシがテンションを上げて体中に生やした腕全てにサイリウムを持って振り回す。その様子に若干顔を引き攣らせながら、三人はアルカノイズを打倒しつつ力強い歌声を奏でた。

 

100万回倒れてもへいきへっちゃら

 

起き上がる理由(わけ)がある 大地を蹴り込み 100万と1の天に歌を翳して

 

前を向いた先 にだけの 「答え」を教える!

 

美しい歌声が、歌姫達の口とスピーカーから広がって周囲に響き渡る。亜空間の隅々まで反響した旋律にナナシが心を奪われて…

 

(…ッ!!雑音(ノイズ)はそこかぁ!!!)

 

真っ先に違和感を突き止め、体表の血液を噴射する。血液は何もない平地目掛けて突き進んだかと思うと…

 

べシャアッ!!

 

…虚空にぶつかり、そこに隠れた大型アルカノイズの姿を浮き彫りにした。

 

「あれが、この空間を作り出しているアルカノイズ!」

 

『それです!それを破壊してください!』

 

「立花!乗れ!」

 

「はい!」

 

翼が構えた剣の峰に響が飛び乗ると、剣が形を変えて巨大化していく。そしてクリスが二つの巨大ミサイルを剣の両サイドに接続した。

 

TRINITY RESONANCE

 

イグナイトモジュールを纏った三人の合体技。巨大な剣は大型アルカノイズへと切っ先を向けられる。

 

「勝機一瞬!この一撃に全てを賭けろ!!」

 

翼の宣言と同時に両サイドのミサイルが点火。巨大な剣が大型アルカノイズ目掛けて飛翔する。その途中、響が剣に生成されていたカタパルトによって射出され、凄まじい勢いで繰り出された響の飛び蹴りがアルカノイズの胴体を貫通する。そして響が穿った胴体の穴に、剣の切っ先が深々と突き刺さった。

 

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

そして駄目押しとばかりにナナシが剣の柄を殴りつけ、刀身のほぼ全てを体に埋め込まれた大型アルカノイズは耐えることが出来ずに体を爆発四散させた。

 

大型アルカノイズが消滅したことで亜空間の檻も解除され、残っていたアルカノイズも早々に装者達によって処理されていった。

 

 

 

 

 

「どうやら、上手くいったみたいですね?」

 

「ふぅ…」

 

モニターで響達の姿を確認した弦十郎がホッとした様子で息を吐いた。調と切歌が手を繋いで喜びながら飛び跳ね、マリアが安堵の笑みを浮かべるエルフナインの肩に手を置く。

 

「よくやってくれたな、エルフナイン」

 

「マリアさん!…皆さんからもらった諦めない心は、ボクの中にもあります!だからきっと、LiNKERを完成させてみせます!」

 

「待っているわ」

 

エルフナインが意気込み、了子とナスターシャ教授が頷くのを見たマリアがそう言って微笑んだ。

 

 

 

 

 

響達が無事亜空間から脱出した様子を、高層ビルの屋上でサンジェルマン達がつまらなそうな表情で見ていた。

 

「あ~あ、あわよくば、と思ってたけど仕方ないわね?でも、目的は果たせたわ」

 

「ふーん?そんなにのんきでいいの?」

 

三人の背後から、アジトで待機しているはずのティキが歩いて近づいてきた。

 

「ティキ、アジトに残るよう言ったはずよ?」

 

「だってぇ、アダムに会えると思ってぇ。でも怒らないで?良いことが分かっちゃったの!」

 

「何…?」

 

クルクルと踊るように体を動かしながら、ティキは両手を広げて星の瞬く夜空を見上げる。

 

「何と!ここは私達が神様に喧嘩を売るのにぃ、具合が良さそうなところよ!これ以上無いってくらいにね?」

 

ティキが夜空を、そこに広がる天体を観測しながら、無邪気で楽しそうな声音でそう宣言した。

 

 

 

 

 

「…詳しいことはアジトに戻ってから聞きましょう。S.O.N.G.に勘付かれる前に撤退を…ッ!!?」

 

そう言ってサンジェルマンがテレポートジェムを取り出しながら響達の方に視線を向けて…あることに気付いた。

 

「あのイレギュラーは何処に!!?」

 

亜空間から脱出した際には確かにいたはずの、禍々しい装いのナナシがいつの間にか響達の傍からいなくなっていた。

 

「ま、まさかまた!?」

 

「こっちに近づいているワケダ!!?」

 

「…?」

 

プレラーティとカリオストロが青い顔で頭上を警戒する。ティキは三人が警戒する理由がイマイチ分からないまま、辺りをキョロキョロ見回して、ビルの端から地上を見下ろして…

 

ガサガサガサガサッ!!!

 

…体中から生やした腕で虫のように壁面を登ってくる化け物を直視した。

 

「わあああ!!何アレ!?何アレ!!?誰も気にかけてないけど、この国にはあんな生き物が普通にいるの!!?」

 

「ッ!!?」

 

「「ぎゃあああああああ!!?!?」」

 

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

ティキが珍しい物を見つけたという風に眼下の化け物を指さし、ティキの声によってその存在に気が付いたサンジェルマンが絶句、プレラーティとカリオストロが悲鳴を上げる。存在に気付かれたナナシは咆哮を上げて壁面を登る速度を上昇させた。

 

「サンジェルマン!サンジェルマン!!」

 

「撤退!早く撤退よぉおおおお!!!」

 

「え~、逃げるの~?捕まえてアダムのお土産にしない?」

 

「良いから早く集まって!!」

 

ビルの端からナナシを見つめてなかなか離れないティキを無理矢理引き寄せてサンジェルマンがジェムを地面に叩きつける。転移が完了する束の間に赤黒い手とひょっとこの面に隠された顔がビルの端から現れて、無数の腕がサンジェルマン達に殺到する…直前に、サンジェルマン達は姿を消してしまった。

 

今回も残念ながら、ナナシはサンジェルマン達からSAN値を削ることしか出来なかった。

 




壁面を登る主人公は某ジ〇リ映画のカ〇ナシのお面をひょっとこに変えて、タ〇リガミみたいに体中から腕を生やした姿を想像してもらえば分かるかもしれませんw
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