戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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今回、ほとんどオリジナルエピソードです。


第130話

すっかり日が暮れて、空に星が瞬き始めた頃、仮説本部内で弦十郎達はバルベルデで入手した資料の解析状況を確認していた。するとそこに…

 

「悪い子は居ねがぁあああああ!!!」

 

「うおっ!?」

 

「ひぃっ!?」

 

…突然なまはげが大声を出しながら乱入してきたため、奏が驚きの声を上げて、エルフナインがビクリと身を震わせた。大人達やキャロル、オートスコアラー達は苦笑したり呆れた顔をしている。

 

「もうソレは良いだろう?ここに悪い子は君しかいないし、君がその恰好を辞めれば泣く子も居なくなる」

 

「あはははは!手厳しいなお師匠様!まあそろそろ飽きたし良いかな?それで、進捗はどうだ?」

 

ナナシがなまはげの仮面を“収納”しながらエルフナインに問いかけた。

 

「は、はい、解析は難航していますね」

 

「ぬう…」

 

エルフナインの報告に弦十郎が苦い表情をしていると、友里の前のモニターから着信音が流れた。

 

「司令…『鎌倉』からの入電です」

 

その報告を聞いた瞬間、弦十郎と慎次が険しい表情になった。

 

「直接来たか…繋いでくれ」

 

「はい…出します」

 

モニターに、御簾で姿を隠した人物が映し出された。この人物こそ、日本を陰で牛耳る風鳴機関総帥…風鳴弦十郎、風鳴八紘の父親にして、風鳴翼の戸籍上の祖父…風鳴訃堂。

 

『無様な。閉鎖区域への侵入を許すばかりか、仕留め損なうとは』

 

開口一番、訃堂が弦十郎達を詰る言葉を口にする。その厳格で威圧感を感じさせる声音に、室内の人間は空気が重苦しい物に変貌したように感じた。

 

「いずれもこちらの詰めの甘さ、申し開きは出来ません」

 

『機関本部の使用は、国連へ貸しを作るための特措だ。だが、そのために国土安全保障の要を危険にさらすなどまかりならん!』

 

「無論です!」

 

訃堂の言葉に恐縮しきりな弦十郎。そこに親と子の情は見られず、権力による上下関係がはっきり表れていた。

 

『これ以上夷狄に、八島を…』

 

「聞こえますか…?」激情奏でるムジーク 天に

 

『『と・き・は・な・て!』』

 

「「「「「!!?!?」」」」」

 

訃堂が支配する凍てつくような空気を破壊するように、突然室内に大音量の音楽が流れた。全員が驚いて音の発生源に顔を向けると、そこでは足を組んで椅子に座り尊大な態度で“投影”で音楽を流すナナシがいた。

 

「なっ…ナナシ君!!一体何をしているんだ!!?」

 

「ん?ああ、悪い弦十郎。煩かったか?」

 

動揺する弦十郎に、ナナシは悪びれた様子もなく軽い口調で返した。

 

「いや~、耄碌ジジイの癇癪があまりに耳障りだったから、癒されたくてつい大音量で音楽流しちゃった」

 

「「「「「!!?!?」」」」」

 

…そしてあろうことか通信が繋がったままにも関わらず、堂々と訃堂に対する暴言を口にした。

 

「お前も人が良いな?施設の回線まで使ってジジイの与太話に付き合ってやるなんて…百越えのジジイなんて煩わしいと思ったらさっさと介護施設に入れてやるのがお互いのためだぞ?お前は忙しいんだからいちいち相手にしてられないだろ?」

 

「なっ…なっ…」

 

あまりの発言に、弦十郎は言葉が紡げず固まってしまった。そして、遂に黙っていた訃堂が静かに口を開いた。

 

『…身の程を弁えよ。木っ端風情が口を挟むでない』

 

「吹けば飛ぶような極小国家の権力者如きが、世界を股にかける俺達S.O.N.G.に口出ししてんじゃねえよ」

 

訃堂の威圧を感じる言葉に、ナナシは真っ向から反発する。流石に静観していられなくなった弦十郎が、慌ててナナシを止めに入った。

 

「ナナシ君!いい加減にしないか!!一体誰のお陰で我々がこの国で活動出来ると…」

 

「弦十郎、黙ってろ(・・・・)

 

「っ!!?」

 

あろうことか、ナナシは…自らの師であり、組織の長である弦十郎に対してまで反発した。決して強い口調では無かったが、その言葉から感じる…訃堂と比較しても遜色ないと思える威圧感に、弦十郎の方が押し黙ってしまった。

 

「誰のお陰でこの国で活動出来る?てめえも、そこのジジイもいつまで特機部二(とっきぶつ)の頃の関係を引き摺ってんだ?俺達は国連直轄、この国は国連の一加盟国、俺達はこの国を活動拠点に使ってやってるんだよ。文句があるって言うなら出て行ってやればいい。どの国でも諸手を挙げて歓迎してくれるぜ?」

 

『愚かな…貴様らの扱う技術は元々我が国が培ったもの。何を我が物顔で持ち出すつもりでいる!』

 

「あ?この国が異端技術の最先端だったのは完全に了子(フィーネ)のお零れだろうが。そして今現在、特機部二(とっきぶつ)だった時には無かったシンフォギア三機とそれを扱う装者、そしてその母親の機械的に聖遺物の力を引き出すことを可能とする聖遺物の権威、肉体の一部を聖遺物と同化させることに成功した菓子狂いの我が英雄、更に一人で世界を相手に喧嘩を売って対等に渡り合った世界屈指の錬金術師…この国が関与しない異端技術のスペシャリストが集っているのに、何を厚かましく自国の力として扱ってんだ?」

 

『我が国が貸与した聖遺物を主力に成し得た功績だと言うことを忘れたか!!』

 

「ならお前の国が原因で発生した被害で相殺だ。月破壊による世界規模災害誘発未遂、月の一部崩壊及び地球への墜落による世界規模の混乱、世界分解の歌を完成させる呪われた旋律を提供したことによる世界災害による損害…正直足が出ている気がするけど大負けに負けてトントンにしてやる。それじゃあ本来この国と一切関わりの無い俺への手間賃を要求しようか?」

 

『貴様…!得体知れぬ化生として処分されぬだけでなく、我が一族の名による加護を受けておきながらよくも抜け抜けと…』

 

「ああ、奴隷として酷使する気満々で括り付けたこの『風鳴』の首輪か?そうだな、利益に集ってくる蠅共を遠ざける防虫剤としては確かに便利だったな。古臭い上にジジイの加齢臭がするから気に食わないなら回収して構わないぞ?適当な汚名でも着せて一族から追放とでも言えばいい。最も、もう既に俺は各所にこの名で知れ渡っているからどう足掻いても俺の汚名は風鳴の汚名になるけどな!あははははは!」

 

次第に訃堂の言葉に籠められる怒気と威圧感が増していくが、ナナシは一歩たりとも引くことは無い。最早外野が口を挟む隙は無く、周囲の人間は事の成り行きを見守ることしか出来なかった。

 

「ああ!良い方法を思いついた!!既に何度もこの国を起点に世界が滅びかけいてるんだから、この国を国連の管理下に置いてしまおうぜ!こっちはいちいちジジイの顔色気にしなくて済むし、この国は色んな国家が守ってくれる、Win-Winってやつだ!まあ、国の名前は変わるだろうがな!あははははは!」

 

ナナシが笑いながらそう言った瞬間…

 

 

 

『死に急ぐか、小童』

 

 

 

空気が突然物質として質量を得たかのようなプレッシャーが室内の人間を襲う。先程までの威圧とは異なる明確な『殺意』が、モニターからナナシへと向けられていた。

 

人の感情を感知出来るナナシには、誰よりも訃堂の感情の強さが分かった。これ以上楯突くなら、本気でお前を殺す…そんな訃堂の感情を、ナナシは正確に理解して…

 

 

 

「殺れるもんなら殺ってみろ、老害」

 

 

 

…それでも“紛い物”は、容易にその想いを嘲笑ってみせた。

 

濃厚な殺意を受けながら、一切動じることなくナナシがモニターへとゆっくり近づいていく。

 

「てめえがガタガタ言わなくても、俺達はこの国を守ってやるよ。あくまでも俺達が守りたいモノのオマケ、ついで、通過点としてな?だからいちいち上から目線で口出ししてこっちのモチベーションを下げんな、鬱陶しい」

 

モニター前まで近づいたナナシは、機器のボタンに手を掛けながらモニターに映る訃堂の影を見つめてニヤリと笑う。

 

「お前が心からこの国の事を想うのだとしたら…さっさとくたばれ、クソジジイ」

 

ブチッ!

 

その言葉を最後に、ナナシは通信を切断した。威圧感が消えて、静寂が室内を満たす。数秒程経過した後、弦十郎がゆっくりとナナシに近づいて…その胸倉を掴み上げた。

 

「一体何を考えているんだ!?ナナシ君!!!」

 

「……」

 

怒気を露わにしてナナシを怒鳴る弦十郎を、ナナシは無表情で見つめ返した。

 

「確かに親父の…この国の方針に思う所はあるのかもしれない!それでも、俺達が活動する上でこの国の援助が必須であることくらい、君なら分かるだろう!?例え抗議するにしても、あそこまで波風を立てる必要は無かったはずだ!それなのに何故、あのような…っ!!?」

 

ゾクリッ!

 

弦十郎は言葉の途中で、悪寒を感じて口を噤んでしまった。再び訃堂が通信を繋げたのか…一瞬そう考えてしまう程の威圧感が弦十郎の身を襲ったからだ。咄嗟に弦十郎がナナシから手を離して、数歩後ろに下がろうとして…

 

ガシッ!

 

…そんな弦十郎の胸倉を、今度はナナシが掴んで引き止めた。

 

「弦十郎」

 

「っ!!?」

 

静かで、冷え冷えとした声がナナシの口から放たれて、思わず弦十郎がビクリと身を震わせる。ようやく弦十郎は、自身を襲う威圧感がナナシから発せられていることに気が付いた。

 

「お前に言われるまでもなく、分かってんだよ…さっき俺がやったことが間違ってるなんてことは…」

 

弦十郎の胸倉を掴みながら、ナナシは顔を俯かせて淡々と言葉を紡ぐ。弦十郎はナナシの腕を振り払うことも出来ず、表情の見えないナナシのことを見下ろしながらその言葉を聞いた。

 

「どれだけ気に食わなくても、相手はこの国を動かすことが出来る風鳴家の総帥。大半がこの国を故郷とするS.O.N.G.の人間にとって、敵対するのが愚かなんてことは分かりきってる。S.O.N.G.がこの国から出て他の国を拠点にするってことは、仲間から故郷を、家族を、日常を奪うことと同義で、俺達を受け入れる他国も欲しいのはあくまで俺達の知識や力であって、近づいて来る人間は誰が信用出来るかなんて分からない。俺がやったのは俺だけでなく、組織全員を危険に晒す可能性がある愚行だなんて事は、言われなくたって分かってんだよ」

 

ギリギリと、ナナシが弦十郎の胸倉を掴む手の力を強める。籠めすぎた力はナナシ自身の骨を砕き、皮膚を裂いて弦十郎の服に血を滲ませるが、それでもナナシは力を緩めることは無い。

 

「俺の行動が間違っていて、俺を止めようとしたお前が正しいなんてのは分かってる。だけどな、弦十郎……だけど…なあ!弦十郎!!」

 

「っ!?」

 

ナナシが顔を上げて、弦十郎を睨みつける。弦十郎はその瞳に、射抜かれそうな程強い怒りと…それに紛れて、僅かに悲しみのようなものを感じた。

 

 

 

「お前の主張するその『正しさ』は、本当にお前自身の正義から導いた答えなのか!!?お前が、あの老害に…お前の父親に逆らわないために後付けした言い訳じゃないって、お前は俺に胸を張って断言出来るか!!?」

 

「!!?!?」

 

 

 

ナナシの言葉に、弦十郎が目を見開く。驚き狼狽え、何も言えない弦十郎にナナシは怒気を強めながら更に言葉を紡いだ。

 

「何を考えてるのかってのは、こっちのセリフだボケ!!何でお前は、お前の父親に逆らわない言い訳のために自分の正義を歪めている!!?それはお前にとって、何より譲れない想いじゃなかったのか!!?悩んで、葛藤して、それでも赤子同然の俺を戦場に連れ出そうとするぐらい、お前が貫きたかった信念じゃなかったのか!!?お前はいつから老いぼれと悪餓鬼に睨まれたくらいで縮こまる腑抜けに成り下がった!!?」

 

黙り込む弦十郎に、ナナシが暴言を吐く。一方的に、徹底的に、先程訃堂に投げかけた暴言よりもずっと強い想いを籠めながら、ナナシは弦十郎の在り方を貶めた。

 

「俺が言ったことは確かに暴論だ!それこそ俺一人だけS.O.N.G.とこの国から叩き出されても文句は言えねえよ!!だけどな!俺の言ったことは何もかもデタラメだったか!?俺の主張は考える余地も無い荒唐無稽な”妄想”だったか!!?あのジジイとお前の間には、そこまで隔絶した力量差が存在しているのか!!?」

 

「…鎌倉と、俺達は敵対している訳じゃない。共に協力して国を守る組織だ。だからこそ、一時の力関係を理由に互いの関係に亀裂を生むのは…っ!!?」

 

ようやくナナシに対して口を開いた弦十郎だったが、更に増したナナシの怒気ですぐに言葉を途切れさせてしまった。そんな弦十郎の顔を引き寄せて、ナナシは弦十郎と額を突き合わせながら、弦十郎の目を睨みつけて静かに告げる。

 

「誤魔化すな。同じ理想を掲げていても、互いの在り方が相容れないなら…アレは紛う事無き、俺達の『敵』だ」

 

「っ!!?」

 

ナナシの言葉に、弦十郎は反論しようとする。だが口が動かない。至近距離で弦十郎を覗き込むナナシの瞳が、そこに宿る意思が反論を許さない。

 

「反論したいのに出来ないか?それはそうだろうな。俺に意見するには、お前には圧倒的に足りない」

 

「足り、ない…?」

 

絞り出すように出した弦十郎の疑問に、ナナシは淡々と答えた。

 

 

 

「お前のやり方を俺に押し付けるつもりなら…俺から(全て)を奪うくらいの『覚悟』で挑め。それが最低条件だ」

 

 

 

そう言って、ナナシは弦十郎から手を離した。流れ落ちた血が床に落ちるのも気にせずに、呆然と佇む弦十郎に背を向けて歩みを進めながら…ナナシは更に口を開いた。

 

「そしてお前が、自分の父親の在り方を変えるつもりでいるのなら、それと同じだけの『覚悟』が必要だと理解しろ」

 

「っ!!?」

 

「それが出来ないなら、お前はあのジジイに食い物にされて終わりだ。そんなお前と心中してやるほど、俺はお人好しじゃない…必要ならジジイに従うお前ごと、この国を沈めてやる」

 

決別とも取れる言葉を口にして、ナナシが部屋の出口へと辿り着く。扉を開いて出ていく寸前、ナナシは背を向けたまま顔を俯かせて口を開いた。

 

「俺がお前に弟子入りしたのは成り行きだよ。お前と響に流されてそういう関係に納まっただけだ。自らお前に師事した訳じゃない」

 

「……」

 

「…だけどな…そんな関係に納まる前から、俺はお前の背を追いかけていたんだぞ?」

 

「っ!!?」

 

「組織のトップの癖に、自分から無理無茶無謀を貫いて、下の奴らを困らせて…それでも、権力者として負担を押し付けるんじゃなくて、仲間として全員と想いを共有するお前の在り方に、俺は憧れた」

 

「……」

 

「俺や響、他にもお前のバカみたいにデカい背中を追いかけている奴らがいるのに、ジジイ相手に縮こまっている姿なんて見せるんじゃねえよ!弟子の前でくらい、虚勢でも格好良い姿を貫いてみせろよ!バカ師匠!!」

 

吐き捨てるようにそう言って、ナナシは部屋を出て行った。弦十郎はよろよろと近くにあった椅子に腰かけて、頭に手をついて項垂れるように大きく溜息を吐いた。

 

「……不甲斐ない、なぁ…」

 

「ダ、ダンナ…ナナシは…ナナシはさ、きっと何か理由があってあんな真似をしたんだ。だから…」

 

通信が切れ、ナナシがいなくなったことでようやく動けるようになった奏が、恐る恐る弦十郎に声を掛ける。このままではきっとナナシに厳罰が下されると考えたからだ。

 

「奏ちゃん、今は放っておきなさい」

 

そんな奏の肩に、了子が手を添えて引き留めた。

 

「だ、だけど、了子さん!このままじゃナナシが…」

 

「大丈夫ですよ、奏さん。司令も、僕達もちゃんと分かっています」

 

今度は緒川が苦笑しながら奏に落ち着くよう促した。

 

「分かってるって…」

 

「奏ちゃんが心配しているようなことには絶対にならないから安心して。そもそも日本政府がナナシちゃんを罰するなんて、現状では絶対に不可能だから」

 

「えっ?」

 

「奏さんはナナシさんが怒って暴走したと思われているようですが…先程のやり取りは、恐らく奏さんが思っているよりずっと情報量が多いんです」

 

困惑する奏に、緒川と了子は先程の会話の意味について説明していった。

 

「最初の方で弦十郎ちゃんがナナシちゃんを止めようとして、それをナナシちゃんが拒絶した…この時点で、ナナシちゃんの意見はS.O.N.G.の総意ではなく、ナナシちゃん個人の主張ってことになったわ。組織のトップに逆らっているからね?」

 

「じゃ、じゃあやっぱりマズいじゃないか!?このままだとナナシだけが日本から放り出されて…」

 

「それが不可能なので、ナナシさんは自分一人の意見として話をしたんです」

 

「っ!?だから、何で大丈夫だって分かるんだよ!!?」

 

「そんなことしたら、この国がとんでもない被害を受けるからよ。S.O.N.G.も良くて規模を縮小、最悪の場合組織が解体されちゃうわ」

 

「えっ!!?」

 

何故そんなことになるのか理解出来ない奏に、了子達は分かりやすく説明した。

 

もし今回の件でナナシが日本政府から抗議を受けて、何らかの罰則が下されたとしよう。その内容が減俸や反省文程度なら何ら問題ない。その程度ならナナシは簡単に受け入れて終わらせる。

 

だが万が一ナナシがS.O.N.G.を追放されたり、日本からの退去を命令されたとしたら、発生するのはナナシによる大規模な人材の引き抜きだ。

 

先程ナナシが口にしたS.O.N.G.所属、或いは収監扱いになっている異端技術のスペシャリストを例に挙げてみよう。

 

まず、キャロルがS.O.N.G.に留まっている理由は、未知の存在であるナナシを研究するためである。ナナシがS.O.N.G.を離れるなら、キャロルがS.O.N.G.に留まる理由は消失する。そうなればキャロルはナナシと行動を共にする可能性が高い。そうでなくてもS.O.N.G.からキャロルが離脱してしまえば、日本は各国から様々な非難を受けることになる。

 

そしてキャロルが去る場合、エルフナインも一緒にいなくなるだろう。寧ろエルフナインがS.O.N.G.に残った場合、キャロルと感覚を共有出来るエルフナインはスパイと同じだ。機密性の高い聖遺物の研究に関わらせる訳にはいかない。

 

更に、ナスターシャ教授に関しては議論の余地すら無い。ナスターシャ教授の生殺与奪はナナシが握っているのだ。ナナシがS.O.N.G.を去るなら、ナスターシャ教授はナナシについて行かざるを得ない。

 

そして自分達の母親が連れ去られる以上、マリア、切歌、調の装者三名も高確率でナナシが連れ去ることになるだろう。LiNKERが必要なことを考えても、装者の数が一気に半数になるのだ。S.O.N.G.にとって大打撃以外の何物でもない。

 

もしナナシが全ての交渉を成功させていたら、この時点でS.O.N.G.を凌駕しかねない一大勢力である。そしてそうなれば、ナナシは一言囁くだけである人物の勧誘が可能となる。

 

『あなた様のためにS.O.N.G.を超える新組織を設立しました!我が英雄よ、創設者として歴史に名を刻むつもりはありませんか?』

 

『僕の英雄的カリスマが“紛い物”の信者を突き動かしたぁ!!?今こそ英雄として再誕を果たす時ぃいいいいい!!!』

 

…新組織の代表にするとでも言えば、ウェル博士は二つ返事でその話に乗るだろう。ナナシとしても自分が代表を務めるより、ウェル博士の機嫌を取りながらその陰に隠れて活動する方が色々とやりやすい。そして自分の組織のためならば、ウェル博士は喜んで新型LiNKERを用意するだろうから、マリア達も万全の状態でシンフォギアを使えるようになる。

 

そして、最後に…

 

「当然、私もナナシちゃんに付いて行くわね。ここに残る理由が無いもの」

 

了子…先史文明期の巫女フィーネも、悪びれることなくS.O.N.G.からの離脱を表明した。

 

「了子さん…」

 

「私がここに残っているのも、ナナシちゃんとの取引の結果だもの。ナナシちゃんが何もかも捨て去って出ていくなら話は違ったけど、諸々持っていくつもりなら取引相手として問題ないわ。ああ、安心して?組織が変わったとしても、奏ちゃんとの約束は忘れないから」

 

「……」

 

「ああでも、多分ナナシちゃんは日本所有の聖遺物だけ残して奏ちゃん達にも一緒に来るよう声を掛けるだろうから、私達の関係は変わらず同じ組織の一員のままね?奏ちゃんや翼ちゃん、響ちゃんやクリスがナナシちゃんの口説きに耐えられる訳ないし?」

 

「何を紛らわしい言い方してんだおい!?」

 

「慎次ちゃんはどうかしら?」

 

「僕は忍です。主君を裏切ることなんて出来ません」

 

「あらそう。ならS.O.N.G.に残るのは弦十郎君に慎次ちゃん、それと装者を失った聖遺物三機にナナシちゃんの誘いに乗らなかった職員達ね」

 

了子は普段と変わらぬ様子で…項垂れる弦十郎に配慮することなく言葉を口にする。そんな了子を、奏は険しい表情で睨みつけた。

 

「結構な人数がナナシちゃんのお誘いに乗るんじゃないかしら?子供に説教の一つも出来ないような情けない男の下で働く気にはなれないでしょう?」

 

「おい!!流石にダンナに対して厳しすぎるだろ!!!」

 

最早隠すつもりもなく弦十郎の事を貶める了子に、奏は掴みかかって怒鳴りつけた。

 

「ダンナはいつだってあたし達のことを体張って守ってきた!!国に対して穏便に物事を済ませようと頭を下げることがそんなに悪い事なのか!?ナナシの言ってることも分かるけど、だからって…あいつもそれだけ色々考えがあるなら、ダンナと腹割って話をすれば良かっただろ!?何でわざわざダンナをあんなに責めるような真似…」

 

「奏さん!奏さん!!」

 

了子に掴みかかる奏を、何故か弦十郎の味方であるはずの緒川が落ち着かせようとした。

 

「冷静に考えてみてください。何故ナナシさんはこんなことをしたと思いますか?」

 

「だから!幾ら国がナナシに強く言えないからって、ダンナの態度を責めるような真似は…」

 

「何故!わざわざナナシさんが国と司令にこんなことをしたと思いますか?」

 

興奮する奏の言葉を遮って、緒川は再度奏に同じ質問を繰り返した。

 

「何故って…だから……あれ?」

 

緒川に言葉を遮られて少しだけ冷静になった奏が、再び思考を巡らせて…あることに気が付いた。

 

そう、おかしいのだ。ナナシが日本政府のやり方を気に入らず、訃堂の言いなりになる弦十郎を見限ったのなら…この騒動はそもそも発生しない。ナナシは普段通り、裏で隠れながらS.O.N.G.から独立する準備を進めるだけで済むのだ。わざわざ訃堂の不況を買って、敵意と警戒心を高める必要はない。

 

ならば、ナナシは一体何のために…誰の、ために…

 

「あっ…」

 

 

 

『弟子の前でくらい、虚勢でも格好良い姿を貫いてみせろよ!バカ師匠!!』

 

 

 

ナナシが最後に放った言葉を思い出して、奏はナナシが何故こんな騒ぎを起こしたのかを理解した。

 

「組織のトップとその補佐、師と教え子…ナナシちゃんは、公の場ではいつも弦十郎君に従う姿勢を見せていた。コッソリ何かを企んだり、意見することはあったけど…弦十郎君は、ナナシちゃんに『命令』出来る立場なのよ?それが許される関係を、弦十郎君はナナシちゃんとの間に築いてきた。そんな弦十郎ちゃんに対して、何で日本政府は強く意見を言えると思う?」

 

「風鳴、訃堂…」

 

風鳴機関の総帥、日本政府を陰から牛耳る…風鳴弦十郎の父親。

 

「ナナシちゃんは、国でさえ簡単に命令出来ない程の力を付けた。それこそあの男でも易々と扱えないくらいに…だけど、弦十郎君があの男の言いなりになるなら、今の関係のままだと弦十郎君を通じてナナシちゃんもあの男に従うことになる…聞きたくなかったんでしょうね?あの男に従うために、自分の在り方を歪めて師匠が下す命令なんて」

 

だからナナシは、弦十郎の目の前で風鳴訃堂に反発した。徹底的に否を叩きつけた。俺はお前に従うつもりは無いと、声高に主張した。

 

それが不可能ではないことを、自分の師に証明したのだ。

 

ナナシの想いは、全て大人達に…弦十郎に伝わっていた。だからこそ、弦十郎は最後まで口を開くことが出来なかった自分を不甲斐ないと項垂れたのだ。

 

「本当に、師弟揃って不器用ね?…ナナシちゃん、自分の事を『間違っている』って認めていたわ。自分の行いが間違っていることを分かった上で貫いた…期待したんじゃないかしら?自分の事を『正しく』叱ってくれる、格好良いお師匠様の姿を」

 

「……」

 

未だ無言で項垂れる弦十郎の前に、了子が移動して冷やかな視線で見下ろしながら口を開いた。

 

「自分の弟子にここまでさせておいて、項垂れることしか出来ないなら最初から師匠面なんてしなければ良かったじゃない?もう面倒を見てあげられないなら、破門でも免許皆伝でも言い渡してあげなさい。あの子の憧れだった姿は想い出に変えてあげて、これ以上期待も失望もさせないであげるのが師としての最後の責任じゃないの?」

 

「…いいや、終われない」

 

項垂れていた弦十郎は顔を上げて椅子から立ち上がり、了子の顔を真っ直ぐに見つめる。

 

「半端な気持ちで師を名乗った訳じゃない…まだ、あの子達に教えたいこと、伝えたい想いは山程ある…こんな俺に憧れを持ってくれた弟子達に、情けない姿を見せたままで終わることなんて出来る訳がない!!」

 

了子が見つめるその瞳に、『覚悟』の光を宿らせて弦十郎が叫ぶ。そんな弦十郎に、了子と緒川、奏は安堵したように笑いかけた。

 

「それじゃあ、ちゃんと格好良い姿を見せてあげないとね?縮こまっている弦十郎君なんて、私も見ていられないわ」

 

「ああ!任せてくれ!!子供に恥じない大人の姿を必ず示してみせる!!!」

 

「あの~、盛り上がってるところ悪いんですけど~」

 

そんな弦十郎達に対して、ガリィが何処か不機嫌そうな様子で声を掛けてきた。

 

「親子喧嘩も師弟喧嘩も好きなようにすれば良いと思いますが…せめて人類レベルに抑えてくれませんかねぇ!?エルフナイン様が目を回しちゃってるじゃないですか!!?」

 

「きゅ~…」

 

繰り返し放出される圧迫感に気を失ったエルフナインが、オートスコアラー達に介抱されていた。友里も青い顔で俯き、キャロルでさえ額を押さえて眩暈を振り払うように頭を振っていた。

 

「オレとしては、フィーネとそこの優男はともかく、何故天羽奏が平然としているのかが気になるところだ」

 

「えっと、ここまで凄いのは初めてだったけど、普段のダンナとナナシの模擬戦とか、ちょっと白熱した映画の議論なんかの時に似たような何かが放出されてるから、慣れかな?」

 

「この国の人間は埒外な存在ばかりか!!?」

 

ようやく落ち着いて周囲の状況を確認した弦十郎達は、急いで不調の出た仲間の介抱をして回るのだった。

 




作者の語彙力が低くて訃堂さんが少し小物っぽくなってしまった気がしますw
シリアスっぽい話でしたが、ギャグ要素として主人公は仮面を外しただけなので服は藁で作った昔の農民みたいな恰好で訃堂さんに喧嘩を売っていますw
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