戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第132話

アダムの黄金錬成によって消滅した大地のすぐ近く…本当にギリギリ爆発の範囲から外れた場所で、気絶していた翼、クリス、響の三名が目を覚まして立ち上がった。

 

「何が…一体どうなって…?」

 

「風鳴機関本部が、跡形もなく…」

 

「兄弟子は!?マリアさん達は!!?」

 

響は朦朧とする意識の中でマリア達に助けられたことを思い出し、周囲を捜索する。すると、近くの地面から切歌が瓦礫を持ち上げて姿を現した。

 

「切歌ちゃん!」

 

響達が切歌の傍に駆け寄ると、そこには気絶したマリアと、そんなマリアを抱える調がいた。

 

「しっかりするデスよ、マリア!」

 

「マリア!!」

 

二人がマリアに呼び掛けると、マリアが瞳をゆっくり開いて意識を取り戻した。その直後、装者達を捜索するヘリからライトの光が照射され、マリアは眩しさに目を細めてしまった。

 

「生き…てる…?」

 

各々が仲間の無事を確認して…その中に、一人だけ姿が見えない事に思い当たった。

 

「あれ…?兄弟子、は…?」

 

「私達の離脱を補佐するために、最後尾で…まさか!!?」

 

ハッとしたマリアが背後を振り返ると、そこには何もかもが消し飛び、表面が赤熱化した深い穴だけが広がっていた。

 

「嘘…そんなこと…」

 

「ったりめえだ!!あの野郎がくたばるはずねえ!!!」

 

「何処だ!?何処に居るナナシ!!?…そうだ!“血晶”を使って呼び掛ければ!!」

 

動揺しながら周囲に叫んでいた翼が、“血晶”の存在を思い出してすぐさまナナシに“念話”で呼び掛けようとした、その時…

 

ドゴオオオオオン!!!

 

『!!?』

 

装者達のすぐ傍に、空から何かが落下してきた。全員が落下物に警戒して注目していると、徐々に土煙が晴れていき…

 

「ご…ふ…」

 

…右腕と胸から下の全てを失ったナナシが、口から血を吐きながら倒れていた。

 

「ナナシ!!」

 

(ちょっと待て。すぐ治すから)

 

翼が慌ててナナシの傍まで駆け寄ろうとしたが、ナナシから“念話”が届いたため寸前で思い留まった。ナナシの体は“ダメージの無効化”によって輪郭がブレたかと思うと、一瞬で全快状態に戻った。

 

「あ~死ぬかと思った…ごふっ!!?」

 

「うわあああん!良かったデース!!」

 

「グスン…せ、先生が、死んじゃったかと…」

 

「本当に、本当に無事で良かったです兄弟子―!!うわーん!!!」

 

「ちょっ!?落ち着けお前ら!!?」

 

ナナシの無事を確認して、切歌、調、響の三人が泣きながらナナシに飛びついた。慌ててナナシが引き剥がそうとするが、体が半分以上消し飛んだ状態から“ダメージの無効化”で回復したため、体が痺れて上手く動けずされるがままになっていた。そんなナナシ達を翼とクリスが一歩引いたところで苦笑して眺めていたら、その様子を見ていたマリアが二人の背後からポツリと呟いた。

 

「…羨ましかったら素直に混ざったらどう?」

 

「「羨ましくない!!!」」

 

「あらそう…それでナナシ?あなたはどうして空から降ってきたの?」

 

「ああ、それは…」

 

三人の頭を撫でて宥めながら(引き剥がすのは諦めた)ナナシはとりあえず“障壁”を使ってアダムの錬金術を防ぐことに失敗したところまでを掻い摘んで説明した。

 

「あなたの“障壁”が破られるなんて…」

 

「それで、何がどうなったらそこからお前が空から降ってくることになるんだ?」

 

「簡単だ。防ぐことも反転して逃げることも出来そうに無かったから、“浮遊”を使って全力で上にジャンプしたんだよ」

 

“浮遊”は外部からの影響を受けるため、ナナシは全力で上昇することで体の半分を巻き込まれながらも爆風に乗って遥か上空に退避することに成功したのだ。

 

「危うく宇宙までぶっ飛ばされそうになったから、途中で“浮遊”を解除して“障壁”で上手い具合に空中にスロープを作ったりしながらここまで落下してきた」

 

「相変わらず無茶苦茶な…だが、無事で本当に良かった」

 

ナナシの無事に翼は安堵の笑みを浮かべていた。しかし、ナナシはそんな翼の言葉に対して非常に曖昧な笑みで応えた。

 

「無事…とは言い難いかもな」

 

目の前に広がる惨状と装者達が身に着けた“血晶”を見つめながら、ナナシはポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

夜が明けて朝日が昇り始めた頃、響、翼、クリス、ナナシの四人は弦十郎達の待つ装甲車へと戻ってきていた。マリア達三人はLiNKERの限界間近でイグナイトモジュールまで使用したことから、精密検査を行うために本部まで緊急搬送されていた。

 

「敗北だ。徹底的にして完膚なきまでに」

 

集まって早々、弦十郎は難しい顔でそう断言した。それに反論する者などいない。風鳴機関と共にバルベルデドキュメントも消滅、装者三名がまともに戦うことすら出来ずに戦闘不能に追い込まれ、ナナシも“障壁”を突破されて危うく跡形もなく消し飛ぶところだったからだ。

 

「ついに現れた、パヴァリア光明結社統制局長、アダム・ヴァイスハウプト。そして…」

 

「錬金術師共のファウストローブ…」

 

「打ち合った瞬間に、イグナイトの力を無理矢理引き剥がされたような、あの衝撃は…」

 

「ラピス・フィロソフィカス。賢者の石の力だと思われます」

 

翼の疑問に対して、エルフナインがそのように答えた。

 

「賢者の石…確かに言っていた…」

 

「それって漫画とかだと石ころや鉛を黄金に変えたり、永遠の命を与えるとかいうヤツだよな?」

 

「大まかな認識はそれで間違いありません。完全を追い求める錬金思想の到達点にして、その結晶体。病を始めとする不浄を正し、焼き尽くす作用をもって浄化する特性に、イグナイトモジュールのコアとなるダインスレイフの魔力は、為す術もありませんでした」

 

「とどのつまりは、イグナイトの天敵…!この身を引き裂かんばかりの衝撃は、強制解除によるもの!」

 

「決戦仕様であるはずが、こっちの泣き所になっちまうのか!?」

 

「う~ん…」

 

イグナイトモジュールを封じられた翼達が嘆く中、ナナシは頭を傾げて何かを考え込んでいるようだった。

 

「なあ、イグナイトが解除されたのは本当にそのラピスってヤツの浄化の力なのか?」

 

「は、はい、状況的に間違いないかと…」

 

「連中はオレのチフォージュ・シャトー建設に協力した。その情報を利用すれば、確かにラピスを錬成することに成功しても不思議はない」

 

エルフナインの言葉にキャロルがそう補足するが、ナナシは何処かすっきりしない様子だった。

 

「何をそんなに疑問視しているのだ?」

 

「だって、それが本当に不浄を祓う力だったなら…何故俺は無事だったんだ?」

 

「え?それは、ナナシさんが本当はダインスレイフを使っていないからで…」

 

「いやいや、神獣鏡の浄化は俺に有効だったじゃないか?それは俺の体に何らかの呪いや不浄があるってことだろ?何でラピスの浄化は平気だったんだ?」

 

「そ、それは…」

 

「別にその仮説も根拠がある訳ではないだろう?事実、そういった逸話が存在しないガングニールの方が貴様に及ぼす影響は大きい。であれば、神獣鏡も浄化の力ではなく神獣鏡そのものが貴様に作用する力を有していたと考えた方が自然ではないか?」

 

「それはそうなんだけど…う~ん…」

 

「…何故自分の成り立ちが(よこしま)ではない可能性に対してそこまで懐疑的になる?」

 

「いやだって、俺ってどう見ても邪悪だろ?」

 

“収納”から出した血液を蠢かせながら“身体変化”で両手をミカのような鉤爪に変化させて邪悪な笑みを浮かべるナナシの姿に、全員が思わず言葉を詰まらせてしまった。決してナナシのことを悪い存在だと思っている訳では無いが、普段の行いや装いもあって少々…若干…それなりに納得してしまう所もあった。

 

「はぁ…一応仮説を挙げてやるが、貴様は浄化の光を浴びた際全身に血液を纏っていただろう?それによって本体まで浄化が作用しなかった可能性はないか?」

 

自ら邪悪な振る舞いをするナナシに呆れながら、キャロルがナナシにラピスの浄化が効かなかった理由の考察を述べた。

 

「イグナイトの力を無効化したラピスの浄化は、コアであるダインスレイフの欠片そのものを消滅させた訳では無い。ギアに纏わせた呪いを解除しただけだ。元々異なる聖遺物の呪いを出力に変換などという不安定な運用をしている故に、身に纏った呪いを強制的に解除されたそいつらは意識を失う程の影響を受けた訳だ。対して貴様は貴様自身の力を振るっているだけだ。表層を浄化されただけで根本まで届かず、貴様自身から供給される力で目に見える変化さえ起らなかった…現状だとこの程度の仮説しか浮かばない。後は貴様の体に宿る力がラピスでは浄化出来ない程強力であるくらいか?」

 

「う~ん、あまりしっくりこないなぁ…でも現状だとそのレベルの“妄想”が限界か。“化詐誣詑”状態で飛び出したのは失敗だったな。せめて生身で浄化を受けていれば…」

 

「え!?助かったから良かったんじゃないんですか!!?」

 

「直接影響を受けないと耐性が得られないじゃないか。“障壁”で浄化を少しでも防げるならイグナイトを使う選択肢も選べるのに」

 

キャロルや了子との検証で、ナナシの耐性獲得は本体から分離した肉体…“身体変化”で生み出した後切り離した武器や体外に流れ出た血液では得られない事が確認されている。そのためにナナシはアダムの錬金術に耐性を得ようとギリギリを攻めていたのだ。

 

「まあ、ラピスの対策が出来たとしても、真っ向から“障壁”をブチ抜いて来る奴が敵のボスだから安心は出来ないがな…クソガキ、お前の絶唱でアレに対抗出来るか?」

 

「…似たような真似が出来るかという意味なら、オレの想い出全てを焼却させれば可能性はある、と言った所だ」

 

「数百年分の記憶全てを焼却して、か…俺の記憶を使えば数年分でいけるよな?周囲への影響を考慮しなければだけど…追加で依頼だクソガキ。了子と協力してアレに対抗する手段を考えてみてくれ。必要経費(俺の想い出)は幾らでも提供するし、依頼料も別途で支払う」

 

「…まあ、良いだろう」

 

「任せなさい!アレは見た目と規模はド派手だけど、やっていることは多分これ以上ないくらいの力技よ。付け入る隙はきっとあるわ」

 

「よろしくお願いします!」

 

とりあえずの対策は、世界最高峰の錬金術師と錬金術の開祖というこれ以上ない程の適任者達に任せることに決定した。そのタイミングで、響が気になっていたことを確認した。

 

「東京に搬送されたマリアさん達は、大丈夫でしょうか?」

 

「精密検査の結果次第だけど、奇跡的に大きなダメージは受けてないそうよ」

 

「きっと、無事です…」

 

「そうだね!大丈夫…絶対…」

 

心配する響を元気付けるエルフナインだったが、その脳裏にはどうにも気になる疑問があった。

 

(LiNKERがほぼ効果を失った状態での運用…ましてやイグナイトによる体への負荷…絶唱級のバックファイヤを受けてもおかしくなかったはず。なのに…)

 

エルフナインに思い当たるのは、度々目撃したマリアのギアの発光現象。あそこに、ギアからの肉体への負荷を抑える何らかの要因があるのではないかとエルフナインは考えていた。

 

「風鳴機関本部は、現時点をもっての破棄が決定した。各自、撤収準備に入ってくれ」

 

弦十郎がそう話を締め括って、この松代での作戦の終了を宣言した。

 

「バルベルデドキュメントが解析出来ていれば、状況打開の手がかりがあったのかな…」

 

藤尭が思わずそう呟いてしまい、近くで聞いていた緒川も顔を俯かせてしまう。そんな緒川の端末に通信が届き、そこに表示されているシグナルを確認して一瞬顔を強張らせてしまった。そんな緒川の様子に、偶々目撃していた翼が気づいて、心当たりに眉を顰めた。

 

「司令…鎌倉への招致がかかりました」

 

「絞られるどころじゃ済まなそうだ…」

 

緒川からの連絡に、弦十郎は自分達のやり取りを見てニヤニヤと挑発するような笑みで見てくる弟子にフッと不敵な笑みで応えてみせた。

 

 

 

 

 

サンジェルマン達が拠点に使っている高級ホテルの一室で、パヴァリア光明結社の統制局長アダム・ヴァイスハウプトが本を片手にベッドの上に座って寛いでいた。そんなアダムに、ティキが猫のように体を擦り付けて甘える姿に、サンジェルマン達は眉根を寄せていた。

 

「申し訳ありません、局長。ラピスの輝きは、イグナイトの闇を圧倒。しかし例のイレギュラーには効果を発揮せず…手を貸して頂き、ありがとうございました」

 

「一歩間違えたらあーし達も、こんがり、サクジュワーだったけれどね?」

 

「しかもその上、仕留め損なっていたワケダ」

 

プレラーティが手を翳した先には、プレラーティが使役するカエルの視界に映されていた。そこには帰還用の車に乗るために移動する装者達と、なまはげの面を被ってクリス達やエルフナインを追い立てるナナシの姿があった。

 

「あ!?やっぱりあのモンスターはあいつだったのね!!?ピンピンしてるじゃない!!」

 

「ちょっとみんな~、せっかくアダムが助けてあげたのに感謝が少なくない?もっとキラキラ笑顔でお礼を言いなさいよ!」

 

不満そうにそう言うティキだったが、三人も危うくアダムの黄金錬成に巻き込まれる寸前であったため、素直に感謝しきれないのが正直な想いだった。そのため最も危機的状況だったサンジェルマン以外は、感謝の言葉を伝えようとも思わなかった。

 

「み~ん~な~!!」

 

「どうどうティキ。だけどもっともだねぇ、プレラーティ達の言い分は。良いとこ見せようと加勢したつもりだったんだ、出てきたついでにね」

 

そう言ってアダムはベッドから降りて、ティキを伴って玄関まで歩みを進め始めた。

 

「でもやっぱり、君達に任せるとしよう、シンフォギア共の相手は」

 

「統制局長、どちらへ?」

 

「教えてくれたのさ、星の巡りを読んだティキが。ね?」

 

「うん!」

 

「成功したんだろう?実験は。なら次は本格的に行こうじゃないか。神の力の具現化を」

 

アダムが玄関から外へ出かけようとして…その直前、サンジェルマン達に背を向けたまま更に言葉を紡いだ。

 

「精々気を付けたまえよ、あの男には。手に余るようだからねぇ、君達には」

 

「…局長、ひょっとしてあの男を知っているのですか?」

 

わざわざ自分達に警告をするなどらしくないと思ったサンジェルマンは、以前アダムが気にかけていたこともあり、何かイレギュラーの男について心当たりがあるのではないかと考えた。

 

「全く知らないよ、彼の事は。今回が初対面だ、紛れもなくね」

 

だがアダムはきっぱりと否定の言葉を残して、そのまま出て行ってしまった。怪訝に思いながらも、サンジェルマン達は次の作戦のための準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

上機嫌にニコニコ笑うティキに抱き着かれながら、アダムは深く被り直した帽子から除く双眸を細めて、ティキにも聞き取れない程小さな声でポツリと呟いた。

 

「何故だろうねぇ、有り得ないはずなのに…ざわつくんだ、彼を見ていると…思い出すんだ、気に食わない連中を…殺してやりたい程の、ね」

 

 

 

 

 

人の気配が不自然なほど感じられない街中で、医療機関から退院したばかりの調と切歌が無数のアルカノイズと対峙していた。二人は少しの間瞳を閉じて集中した後…LiNKERを投与することなくギアペンダントを構えて、聖詠を奏で始めた。

 

Zeios igalima raizen tron

 

シンフォギアを纏った切歌は跳躍して大鎌を振りかぶり、三つに分割した刃を飛来させてアルカノイズを切り裂いていった。間髪入れず切歌はもう一つ鎌を生成して二振りの鎌を融合させることで新たな武器を生み出した。

 

対鎌・螺Pぅn痛ェる

 

調はツインテールを覆うように展開されたアームを操り、その先端にある大型の丸鋸を使って正面のアルカノイズの群れを細切れにする。

 

(シュルシャガナの刃は、全てを切り開く無限軌道!目の前の障害も!!私達の、明日も!!!)

 

LiNKERを投与せずギアを纏う二人の体からは至る所から放電しているように発光していた。体を襲う激痛に大量の汗を掻きながら調は足に展開したギアでスケートのように突き進み、丸鋸に変化させたスカートでアルカノイズを切り裂く。

 

Δ式 艶殺アクセル

 

(絶対鋭利のイガリマはその気になったら!幽霊だって!!神様だって!!!真っ二つデェス!!!!)

 

左右に三日月形の刃がくっついた鎌を振り回してアルカノイズを次々と切り裂く切歌。どれだけ拒絶反応に苦しめられても、二人は決して…シミュレーションルームを使った命懸けの訓練を辞めようとは思わなかった。

 

そんな二人の元へ、血相を変えたマリアが本部の通路を走って向かっていた。

 

「あの子達、無茶を重ねて!」

 

「マリアさん!!」

 

「もういいのか!?そっちだって大変だったんだろ!!?」

 

そんなマリアの後ろを、響とクリスの二人が後から追いかけていた。

 

三人がシミュレーションルームに辿り着くと、切歌が黄色いバナナのような形態の大型アルカノイズに大技を放とうとして…途中で限界を迎え、ギアが霧散してかなりの高さから地面に落下してしまった。

 

「切ちゃん!」

 

調が慌てて切歌に駆け寄ると、シミュレーションルームの安全装置によって施設の機能が停止して部屋の内部が街中から初期状態に戻っていった。蹲る切歌に、マリア達も急いで駆け寄っていった。

 

「大丈夫?」

 

「調ちゃん!切歌ちゃん!!」

 

「LiNKERも使わず、どうして…」

 

「…私達が、LiNKERに頼らなくても戦えていれば…あんな……」

 

調の脳裏に、仲間がパヴァリアの錬金術師によって追い詰められる光景が蘇る。一歩間違えば、誰かを失っていたかもしれない…そんな想いから、二人はじっとしていることなど出来なかったのだ。

 

二人の想いが分かるため、マリアが言葉を紡げずにいると、クリスが一歩前に出て二人を怒鳴りつけた。

 

「だからって!!」

 

「平気!」

 

「っ!?」

 

しかし、調がクリスの言葉に被せるように反論してきたため、クリスもまたそれ以上言葉を紡げなくなった。

 

「それより、訓練の続行を…」

 

「LiNKERに頼らなくても良いように、適合係数を上昇させなきゃデス…」

 

「駄目だよ!そんな無茶…一歩間違えたら死んじゃうかもしれないんだよ!?」

 

無理矢理訓練を続けようとする調達を、響が必死に止めようとした。

 

「…経緯もよく分からないままに、充分な適合係数を物にした響さんには分からない!!」

 

「っ!!?」

 

調が強い憤りを籠めたその言葉を聞いて、響は息を飲んでしまった。

 

「いつまでも味噌っかす扱いは…死ななくたって…死ぬ程辛くて…死にそうデス…!」

 

切歌の悲痛な想いに、全員が何も言えず沈黙が続いた。少しして、マリアが意を決して言葉を紡いだ。

 

「やらせてあげて」

 

…調達を支持する言葉を。

 

「マリアさん!?」

 

「二人がやりすぎないように、私も一緒に訓練に付き合うから…」

 

「適合係数じゃなく、この場のバカ率を引き上げてどうする!!?」

 

本来二人を止めるべきマリアまでもが無茶をしようとするため、クリスが思わずそう叫んだ。

 

「いつかきっとLiNKERは完成する。だけど、その『いつか』を待ち続けるほど、私達の盤面に余裕はないわ」

 

マリアの強い意志をクリスと響は感じ取ったが、それでもこのまま三人の無茶を許容する訳にはいかず、どうにか止めるべく再度口を開こうとして…

 

 

 

「だが断る!!」

 

 

 

ドガシャアアアン!!!

 

…力強い叫びと共に、シミュレーションルームの扉が吹き飛んで反対側の壁に突き刺さったのを見て、全員が体を硬直させてしまった。少しして、マリア達がぎこちない動きで入口の方へ視線を向けると…扉を蹴破ったような体勢の怒った顔のナナシと、その周囲で呆然とする奏、了子、ナスターシャ教授、エルフナイン、キャロル、そしてオートスコアラー達四機というそれなりの数の人と人形、“紛い物”の姿があった。

 

「…ナナシ、扉壊すなよ」

 

「後で直す!それよりも、そこのバカ共の性根を叩き直す方が先だ!!」

 

周囲の困惑などお構いなしにナナシがズンズンと部屋の中を突き進み、響達の横を通り過ぎて座り込む調と切歌の元まで辿り着くと…二人の胸倉を掴み上げて無理矢理立ち上がらせた。

 

「ぐっ!?」

 

「うぅっ!?」

 

「黙って聞いていればピーチクパーチク好き勝手なことを囀りやがって…私達の気持ちが分からないくせに?辛くて死にそう?なら今すぐ息の根止めて楽にしてやろうか!!あ゛ぁ゛!!!」

 

無茶な訓練でまともに動けない調達に対して、ナナシはチンピラのようにドスを効かせて威圧した。

 

「ナナシ!?今の二人に乱暴な真似はやめて!!それに戦えない私達の気持ちにも、少しくらい理解を示してくれても…」

 

「はあ!?何ふざけた事言ってんだ!!?お前らが他人に理解を求める資格なんてある訳ないだろ!!!」

 

「「「!!?」」」

 

ナナシが調達を投げ捨てるように放しながら言い捨てた言葉に、マリア達は言葉を失ってしまった。

 

「自分の想いを理由に、お前らを心配する仲間の想いを切り捨てておきながら、自分達の想いだけ相手に理解を求めるなんて図々しい考えをしてんじゃねえよボケが!!自分がやろうとしない事を他人に求めるな!!!」

 

「「「っ!!?」」」

 

ナナシのド正論に、マリア達は反論出来なかった。仲間が自分達を心配する気持ちを無視しながら、自分達の気持ちは汲んで欲しいというのは確かに虫が良すぎると思わず納得してしまったからだ。

 

「周囲の反対を押し切って我を通す、大いに結構!!俺はそんなお前達が気に食わないから邪魔してるだけだ。抗うつもりなら力を示せ。戦力で邪魔者を排除する、交渉で譲歩を勝ち取る、俺を捻じ伏せるだけの力を示せる自信があるならかかってこい!言っとくが、今のお前らのしみったれた歌が交渉材料になるなんて己惚れるなよ?あははははは!!」

 

戦力と交渉、どちらもナナシの得意とすることだ。今のマリア達ではナナシの意思を揺るがすことなど出来ないと、その場の多くは思った。

 

「………私、は……もう、先生が傷つく姿は見たくない!!」

 

…それでも調は、ナナシと交渉する道を選んだ。

 

「治るからって、死なないからって私達を守るためにいつも先生が傷ついて、無茶をして…今回、少し間違えば先生も危なかった!!先生や響さん達が命懸けで戦っているのに、私達だけが守られているなんてもう耐えられない!!私達だって、仲間のためなら辛いことも、傷つくことも…命を懸けたって構わない!!!」

 

…調がやろうとしたことは、先日クリスが行ったことに近い。ナナシなら、きっと自分達の想いを分かってくれる…そう信じて、ありったけの想いを籠めて調は言葉を紡いだ。切歌とマリアも、そんな調に賛同するように真っ直ぐにナナシを見つめて頷いた。そんな三人を見たナナシは…フッと笑みを浮かべた。

 

「そうか…そうだったのか…」

 

その笑みを見た調達は、自分達の想いが伝わったと安堵の笑みを浮かべて…

 

 

 

「お前達が無茶をするのは、俺がゴミみたいに頼りなくて、ガラクタ同然の役立たずなせいだからか!!ようやく理解出来た!!!」

 

 

 

…直後に、三人の笑みが凍り付いた。

 

「そりゃそうか!肝心な時にいつも役に立たない上にツングースカ級程度の攻撃も防げない俺の力に命を預け続けるなんて無理に決まってたな!気が付かなくて悪かった!!」

 

「ち、ちがっ!?そうじゃな…」

 

「いや~納得した!得心が行った!!そりゃあ多少無茶してでも自分で力を付けたくもなるって!!実際お前らが来なかったら響達は危なかったからな!ゴミカスな“紛い物”に大切な仲間と自分の命を預ける事なんて出来る訳ないよな!!」

 

調の否定の言葉など欠片も聞く耳を持たず、ナナシはひたすらに三人の想いを歪めていく。歪曲させた想いに対して満面の笑みで納得していく。

 

「そう言うことなら仕方が無いな!俺がお前らを止めるのはお門違いだ!寧ろ協力しようじゃないか!お前らを止めようとする奴らを追い払ってやる!!」

 

『!!?』

 

調達の協力を申し出たナナシに全員が驚いていると、ニコニコ笑顔のナナシが調と切歌に近づいて…

 

ガシッ!!

 

…二人の髪を掴んで持ち上げた。

 

「「痛っ!!?」」

 

「ナナシ!!?」

 

「“浮遊”使っているから大丈夫だ!立って歩くのも億劫だろ?移動を手伝ってやるよ!あはははは!」

 

笑いながら二人の髪を掴んでフヨフヨと空中を移動したナナシは…二人をナスターシャ教授の前に差し出した。

 

「「「っ!!?」」」

 

「実は道中、ナスターシャ教授に頼まれてたんだ。『無茶をするあの子達を止めてくれ』って。お前ら、母親に強く言えないから反対出来ないだろ?だからまずはナスターシャ教授の説得を手伝ってやるよ!今から俺が言うことをお前達の口で復唱してくれ……『邪魔だから消えろ』」

 

「「っ!!?」」

 

「ナナシ!?やめて!!」

 

ズドン!!

 

マリアが調達を開放しようとナナシに掴みかかるが、ナナシは床に足を突き刺して体を固定することで抗った。掴みかかるマリアも、藻掻く調達も意に介さずナナシはニコニコと笑って言葉を続ける。

 

「『マム達が早くLiNKERを完成させないから悪いんだ』、『いつも後ろで見ているだけのくせに』、『これ以上私達の生き方に口出しするな』、『私達の命は私達の好きなように消費する』…どうした?早く言えよ?間違っていないだろ?現状に不満があるんだろ?さっき俺や響達に言ったみたいに、お前ら自身の想いを籠めてはっきり言ってやれよ!さあ!!さあ!!!さあ!!!!」

 

ナナシはマリア達に圧をかけて言葉を強要する。そんなナナシとマリア達を、ナスターシャ教授は諫めることなく無言で真っ直ぐ見つめていた。三人はナナシから逃げられず、母親も自分達を助けようとしない事を悟った結果…

 

「ひっく…ぐず…」

 

「ごめん…なさい…」

 

「お願い…もう、やめて…」

 

…泣きながら、ナナシに許しを請うた。それを確認したナナシは笑みを引っ込めてつまらなそうに調と切歌をマリアに押し付けるように放り出した。

 

(((((よ、容赦ない…)))))

 

一連のやり取りと見ていた全員が、徹底的にマリア達の心をへし折ったナナシに対してそう思ってしまった。

 

「ナナシ、この子達を止めていただいて…」

 

「言っただろ?俺が気に食わなかっただけだ。だから無理して礼なんて言わなくていい。寧ろ素直にやり過ぎだって言ったらどうだ?」

 

「…そうは参りません。好きに生きろと言っておきながら、私はこの子達を止めるためにあなたにお願いをしたのですから…ありがとうございました」

 

「そうか」

 

ナスターシャ教授の感謝に簡素に答えたナナシは、泣きながら蹲るマリア達に視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

 

「人間はな、簡単に死ぬんだよ」

 

先程までの無理やり押し付けるような荒々しい雰囲気が無くなり、静かに諭すように紡がれたナナシの言葉に、マリア達はゆっくりと顔を上げた。

 

「怪我をすれば死ぬ、病気になれば死ぬ、飯を食わないと死ぬ、眠らないと死ぬ、呼吸しないと死ぬ、何かしないと死ぬ、そして…何もしなくても、人間は必ず死ぬんだよ…俺と違ってな?」

 

「「「……」」」

 

最後にクスリと茶化すように笑いながらそう言うナナシ。マリア達はナナシの静かな…しかし先程よりもずっと重みを感じる言葉を、ただ黙って聞き入った。

 

「どれだけ手を尽くしても、足掻いても、どんなに願ったっていつか必ずその時が来る。その『いつか』の時まで何をするか、どう生きるかはお前らの自由だ。周りが何を言おうと、お前らの胸の歌に従って好きにすればいい。ただな…お前達のやろうとしている無理無茶無謀に、お前らは本当に命を懸けるだけの重みを感じているのか?道半ばで死に絶えても後悔しないと断言出来る程、お前らは追い込まれているのか?自らの義を貫くために、他の全てを切り捨ててでも力を欲する狂気が、お前らにはあるのか?」

 

「「「……」」」

 

「“紛い物”の俺に、お前らの気持ちは分からない…それでも、俺の“妄想”では…仲間に置いて行かれるのが怖くて我武者羅に暴れ回った自己満足に、言い訳を重ねて引っ込みがつかなくなったようにしか見えねえよ」

 

「「「……」」」

 

ナナシの言葉を、マリア達は否定出来ない。否定するだけの言葉を出せない。ナナシの“妄想”…きっと、自分達の事を理解しようと全力を尽くした結果ナナシが思い至った、自分達ですら分からなかった『真実』を…

 

「そんなお前らの自己満足のために…俺が世界よりも大切に想うお前らの命を、勝手に懸けさせるつもりはない。お前らの正義を、自由を踏みにじってでも邪魔してやる。以前言った監禁云々が冗談じゃないことを証明してやるから覚悟しろ」

 

「…皆さんに心配かけて、酷いことを言ってすみませんでした」

 

「ゴメンナサイ、デス…」

 

「向こう見ずが過ぎたわ…本当に、ごめんなさい」

 

ようやく冷静になった三人は自分達の行いを反省して…あと、ナナシの脅しに本気を感じ取って改めて全員に頭を下げて謝罪した。

 

「私、また響さんに酷い事言って、八つ当たりして…」

 

「だ、大丈夫だから!わたしも、調ちゃん達の気持ちを分かってあげられなくてごめんね!?こ、これで一件落着ですよね!?兄弟子!!」

 

すっかり意気消沈してしまった調に響が場の空気を変えようと明るくナナシにそう語り掛けると…

 

 

 

「何終わりみたいな雰囲気になってんだ?まだ話は半分も終わってないぞ?寧ろここからが本格的なOHANASHIだ」

 

 

 

「「「っ!!?!?」」」

 

「ええええええええ!!?!?」

 

ナナシの答えにマリア達が絶句し、響が大声で叫んでしまった。

 

「お、おいご都合主義!?もう良いだろ!?こいつらだってもうちゃんと分かって…」

 

「いーや、全然分かっていない。分かる訳がない。俺はどれだけこいつらの今の行いが無駄で、無意味で、無価値だったかを明確な根拠と共に教えるためにわざわざこの大人数で駆けつけて、途中で合流した一番こいつらと共感して穏便に事を収めそうな奏を引き止めたんだからな!!」

 

「あたしに声を掛けたのはそんな理由かよ!!?」

 

マリア達の無茶を止めて、謝罪まで引き出して尚OHANASHIを継続しようとするナナシを、響達が何とか宥めようとする。だが…

 

「…話を、聞くわ」

 

…マリアが自らナナシの話を聞くことを決意した。

 

「あなたが話す必要があると感じた事なら、きっと何か大事な意味があるはず…だから、ちゃんと聞かせて」

 

若干顔色を青くして声が震えているが、マリアは姿勢を正してナナシの前に正座する。調と切歌も互いの顔を見合わせ、覚悟を決めるように頷き合うとマリアに続いてナナシの前に正座した。

 

それを見たナナシもマリア達の前に向かい合うように正座した。少しの間無言で視線を交わし、四人の周囲の緊張感が高まっていくのを感じた響達がゴクリと唾を飲み込むと、ナナシがそっと口を開いて言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

「完成したぞ、新型のLiNKER」

 

『………へ?』

 

 




執筆中は一切考えていなかったのですが、書いた後の文章を改めて読み直していたら…『父親が愛情故に娘達を厳しく説教していたら暴力的になり過ぎて涙ながら母親が止めようとするとある家庭の一幕』みたいなイメージが頭に過ってもうそのようにしか見えなくなってしまいましたw
DVとまでは思えないのは多分作者補正でしょうね
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