戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
この物語を読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!
鎌倉のある場所に、広大な土地の上に築かれた巨大な武家屋敷が存在していた。屋敷の門には日本刀と鳥の羽をモチーフにした文様…風鳴家の家紋が描かれた門幕がある。そこは風鳴一族の現当主、風鳴訃堂の住まう屋敷であった。その屋敷の大広間で、弦十郎と八紘は訃堂と面会していた。大広間を仕切る障子の外では、翼が縁側に座して待機している。
「して、夷狄による蹂躙を許したと?」
松代での出来事を弦十郎達から聞いた訃堂が、瞳を閉じた険しい表情でそう話を纏める。大きく距離を離して対面しているにも関わらず、その声は威圧感と共に弦十郎達にはっきりと伝わってきた。
「結果、松代にある風鳴機関本部は壊滅。大戦時より所蔵してきた、機密のほとんどを失うこととなりました」
「外患の誘致、及び撃ち退けることの叶わなかったのは、こちらの落ち度にほかならず、全くもって申し開き…」
「聞くに堪えん」
弦十郎の謝罪を遮り、訃堂は立ち上がってその場を離れようとする。障子の前に立った訃堂は、視線を向けることなく八紘へと語り掛けた。
「分かっておろうな?」
「国土防衛に関する例の法案の採決を、急がせます」
「有事に手ぬるい!即時施行せよ!!」
訃堂が言い切るのと同時に、外にいた翼が障子を開いて訃堂の道を開ける。訃堂が歩みを進めようとして…直前でピタリと止まり、その瞳を弦十郎に向けた。
「あの“紛い物”…夷狄を早々に一蹴してみせたそうだな?端から差し向けていれば夷狄の首を取れたものを…風鳴の名で縛る許しを得ておきながら、御しきれぬとは無様な…」
「彼を民草の守護に遣わせたのは私です」
訃堂の罵倒を遮り、弦十郎ははっきりとそう主張した。
「…アレを庇い立てするか」
「彼は歌姫を危険に晒すことを危惧して風鳴機関本部に戦力を集中することを進言していました。それでも私は彼に民草を守るよう命じた」
「ほう?…それで貴様はその過ちに対する咎を一身に受けると申すつもりか?」
ジロリと弦十郎を見下す訃堂に、八紘と翼が体を硬直させながら弦十郎の身を案じていると…弦十郎は今まで下げていた頭を上げて、訃堂を真っ直ぐ見つめ返して答えた。
「いいえ。此度の一件、我々の力不足が招いた結果を悔いることはあれど…その選択を『過ち』と捉えるつもりは毛頭ありません」
弦十郎がそう発言した瞬間、凄まじいプレッシャーが弦十郎達を襲った。八紘と翼は息をするのも忘れて、歯を食いしばりその圧に耐える。
「小僧に惑わされ図に乗ったか!!」
憤怒を籠めた言葉と共に、訃堂が弦十郎を威圧する。モニターを介した時とは異なり、直接向けられたその圧はまるで体中を何かに貫かれているような感覚を弦十郎に与えていた。
だが…
「乗せられ、導いてもらったのは確かだが…これは紛う事無き、この国を想う俺の『正義』だ、親父」
…弦十郎は臆することなく、訃堂に己が正義を示してみせた。
「果敢無き哉…髄まで毒されおったか」
それだけ言い残して、訃堂は驚き呆然とする翼の横を通り過ぎて大広間を後にした。
(見誤ったか…)
訃堂は歩みを進めながら、先程の弦十郎の態度を思い出していた。
弦十郎はナナシを保護した際、様々な柵から守るために『風鳴』の名を名乗らせることを提案した。本来その名を素性知れぬ童の盾に用いるなど言語道断であったが…その身に宿る力は利用価値が高いと考え、自在に使役するための『枷』として訃堂は許しを出した。
見誤った…それは成長したナナシが国とさえ渡り合える程の力を付けた事…ではない。
(元より、生まれ持つ才に驕り錬磨を怠るような者にその名を許し続けるつもりなど無かった。猟犬程度に働くならばと飼うことを許した拾い物が、異国を退けるだけの力を蓄えたのは寧ろ僥倖である。どれだけ力を得たところで、未熟者の愚息が躾けた畜生など如何様にも扱える…そのはずであった)
訃堂が見誤ったのは、ナナシの力ではなく…その心。
(力無き意志など塵芥と同じ、存在することすら許されぬ。そして意志無き力は確固たる意志と力を持つ者に道具として使われる運命…よもや、この儂と真っ向から対峙する意志を示そうとは…)
その証拠が、先程の弦十郎の態度。風鳴の一族として鍛え、兄共々未熟な意志しか宿らぬ故に風鳴の家を継ぐ価値無しと定めて国防の道具として扱い続けてきた。その長年に渡る呪縛に等しい主従関係は組織として力を付けた程度で容易に覆る物では無い。その関係に揺らぎが出たと言うことは…訃堂と同等以上の強い意志に感化されたことを意味する。
(何と忌々しい…そして、それ以上に……惜しい)
老いぬ体、尽きぬ命、果てぬ力への渇望、そして…揺るがぬ心。
それらは訃堂が求める防人の理想と言っても過言ではない。未来永劫、日ノ本の守護として君臨することが可能な素養をナナシは兼ね備えていた。それこそ、ナナシの『正義』が訃堂と同じであったならば…
(不肖の防人を使い、腑抜け共に代わって風鳴の全てを継がせたものを…)
だが全ては後の祭りだ。既にナナシは訃堂さえも認める確固たる意志を以って…訃堂と敵対する道を選んだのだから。
(何か相応の備えを用意しなければ…我が国を脅かす埒外の『敵』を排除するために…)
一方その頃、訃堂から敵と定められたナナシは…
「なあ?お前らには理解出来るか?了子が、エルフナインが、クソガキが、S.O.N.G.の研究者達が、そして何よりお前らの母親が、毎日毎日少しずつ英雄様のデータを解析しながら手探りでLiNKERの配合を調整し続けてようやく、ようやくお前らに吉報を届けられると思った矢先にこんな馬鹿な真似をされたあいつらの気持ちが…」
…正座するマリア達に滾々とOHANASHIを続けていた。
「パヴァリアの連中が現れてからは入れ代わり立ち代わり二十四時間体制で延々と薬品と睨めっこ。俺やオートスコアラー達には分からないが、不摂生な生活は心身共に疲弊する。これは元々真っ当な人間だった了子やクソガキも例外じゃない。主要メンバーは誰かしら研究室に残らないと効率が落ちるからローテーションのスパンも短い。その上どいつもこいつも何かと理由を付けて仕事を続けようとしやがる。了子は贖罪の約束だの聖遺物の融合体だのとうだうだ言ってずっと残ろうとする。ナスターシャ教授は妥協に妥協を重ねて俺が分単位でスケジュール組んでいるにも関わらず交代間際にごねようとするから最近は問答無用で車椅子を“収納”して抱えて連れ戻していたし、エルフナインは天然なのか疲労で頭働いてないのか『ボク…じゃなくて、オ、オレはキャロルだ!さっき交代したんだ!』とか言い始めるし、クソガキさえも『まだ交代したばかりだ。エルフナインとでも見間違えたのだろう』とか打ち合わせでもしたのかって感じの同じ言い訳し始める…別にこいつらの無理無茶無謀はお前らが頼んだわけじゃない。だからお前らにこいつらの想いに寄り添えなんて押し付けるのは筋違いなのは分かっている。でも!でもだ!!裏でそうやって頑張っている奴らが居ることを知った上で、戦えない自分達の気持ちは分からない?味噌っかす扱いは辛くて死にそう?悠長に『いつか』を待っている余裕はない?………舐めてんのか!!?お前らに、いつも女子供が戦っている姿をモニターすることしか出来ないことを酒の席で愚痴る藤尭や友里達オペレーターの気持ちが分かるか!?“血晶”が出来る前から何一つ拠り所の無い状態でノイズのうろつく戦場を、避難民を探して駆け回っている実動部隊の恐怖が理解出来るか!!?戦うお前らに比べたら大したことないって自分達の葛藤をおくびにも出さないで!お前らに悟られないよう表面上は笑って、裏では歯を食いしばって泣くのを我慢している奏の、未来の、大人達の想いが!!分かった上で言ってんのか!!!いつ俺達がお前達を味噌っかす扱いなんてした!!?限界以上に力を尽くしたお前らを守りたいと!傷ついて欲しくないと思うことがそんなに罪な事か!?仲間が大切で愛おしくてかけがえのないと想う感情がそんなに不快か!!?何でお前らはそう一人で抱え込んだ挙句勝手に暴走するんだよ!!?待っているのが苦痛なら素直に相談しに来い!!お前らが望む『いつか』を掴み取ろうと必死な奴らの補佐とか、今まで心を鬼にして厳しく接した上に好きに生きろと言った手前遠慮して声を掛けづらいお前らそっくりのクッソ不器用な母親の相手とか幾らでもやれることが…」
「あ~…ナナシ?その…そろそろ…」
「あ…?」
奏の遠慮がちな声に反応してナナシが周囲を見ると、ナナシの個人情報ダダ洩れなOHANASHIによって非常にいたたまれない様子の仲間達が視界に映った。それを見たナナシは数秒ほど沈黙すると、盛大に溜息を吐いた。
「はぁ~~~~…しょうがない。正直まだまだ言い足りないけど、今回はこれくらいに収めておくか」
そう言ってナナシが渋々立ち上がり、それに続いてマリア達もゆっくり立ち上が…れなかった。
「うぅ…」
「あ、足が…」
「ビリビリ…デス…」
…三十分以上正座したまま身じろぎ一つ出来ずにナナシのOHANASHIを聞いていたマリア達は、そのまま前のめりに倒れ込んでしまった。
「一体どうしたんだゾ?」
「ギアを纏っていない人間は自分の体重を長時間支えていられないくらい脆弱なんだよ…ああ、丁度良い。手加減機能を追加したお前のお手手で揉み解してやれ。つま先からジックリな?」
「分かったゾ!」
「あら、なら私もお手伝いしましょう」
「私も派手に労うとしよう」
「「「んにゃああああああああ!!?!?」」」
「あらら、私だけ楽しそうなお仕事焙れちゃいました」
「表情筋固そうなクソガキのほっぺたでも揉んだらどうだ?」
「りょーかいでーす♪」
「ひゃめんかばかもにょ!!」
ミカ、ファラ、レイアに痺れた足を揉まれて絶叫するマリア達とガリィにほっぺたを揉まれて憤慨するキャロルを見てナナシがほくそ笑んでいると、そんなナナシにクリスが声を掛けた。
「おい、ご都合主義。ホントにLiNKERは完成したのか?何か数年掛かりそうだとか言ってたじゃねえか?一体どんな手を使ったんだ?」
「ん~?俺は大したことはしてないな。さっき言った通り、頑張ったのは了子達とS.O.N.G.の研究員達だ」
ナナシが笑ったまま軽い口調でそう答える。だがクリス達…了子達研究者組も含めた全員が物言いたげな目でナナシを見てきたため、その圧に苦笑しながらナナシは言葉を続けた。
「俺が手伝い以外でやったことを強いて言うなら…ただ会話をしただけだよ」
「会話…?ひょっとして、ウェル博士とですか?」
響の頭に真っ先に思い浮かんだのは、現在S.O.N.G.に収監されながら治療を受けているウェル博士だった。もしナナシがウェル博士と会話によって情報を聞き出せたのなら、LiNKERの早期完成も頷ける。
「残念!テストならその解答だと花丸は付けられないな、響。三角くらいならあげても良いがな」
しかし、響の答えをナナシは完全には肯定しなかった。
「あの英雄様がマリア達に渡したデータチップ…その大部分は少し前から了子達によって解析されていた。ベースは確かに了子が作り出したLiNKERだけど、もはや別物と言って良い程の改良がされていた。その才覚は決して英雄の名に劣るものでは無い」
「…ぞっとしない話ね」
ようやく足の痺れから解放されたマリアが、ナナシの言葉を聞いてそう呟いた。
「だが了子達が総力を挙げても尚、最後の一ピース…LiNKERがシンフォギアを、装者の脳のどの領域に接続して負荷を抑制しているのかは解明出来なかった。元々のLiNKERが使用者に与える負荷が大きかったのは、了子でさえこの脳領域の正確な位置を解明しきれなかったからだ」
「物凄く癪だけど、正直脱帽ね。私が土壇場で成功させた完全聖遺物との融合を体の一部のみに留めて成功させたことと言い、生化学と聖遺物を組み合わせる技術に関しては世界一でしょうね」
「性格がアレだからなぁ…話聞き出すのに一体どんな無理難題言いやがったんだ?また無茶な条件飲んだんじゃねえだろうな?」
「普通に質問したら普通に答えてくれたな。対価と言えば見舞いに持って行ったお菓子くらいか?」
「……は?」
LINKERの解析があと一歩で停滞した段階で、ナナシはダメ元でウェル博士に質問していた。ナナシとしてはジックリ腰を据えて交渉を進める予定だったのだが…ウェル博士はナナシ達の進捗を確認すると、至極あっさりとナナシの質問に答えたのだった。
「愛!ですよ!!」
「何故そこで愛!!?」
噂を聞きつけた未来や一部のS.O.N.G.女性隊員に請われてナナシが大量生産していたプリンをパクつきながら言ったウェル博士の答えに、ナナシは思わずそうツッコんだ。
「何故も何もない。いつだって人は愛によって奇跡を起こしてきた!シンフォギアという奇跡を身に纏うには、聖遺物に愛を囁いてあげれば良いんですよ!!僕のLiNKERはあくまでその手助けをしているに過ぎない」
「その愛を司る脳領域って具体的に何処だよ?ちょっと今からクソガキが俺の遺伝子情報から錬金術で培養した脳みそのサンプル取り出すから目印を…」
「人がおやつを食べている時にグロテスクな物を出そうとするな!!?それにそこまで親切に教えてやる義理は無い!これは英雄である僕が貴様に課した試練だからな!!」
「試練?」
首を傾げるナナシに、ウェル博士はフンと鼻を鳴らして言葉を続けた。
「“紛い物”とはいえ、この僕の信者を名乗ると言うのならばこの程度容易く解き明かしてみなさい。貴様が真に人を理解したいと望むのなら、愛を知らずして叶うことなど無いのだから」
「我が英雄様にあそこまで言われちゃ引けないからな。だから調べてみることにした。そう…愛とは何ぞや!!」
「…なあ、それってからかわれただけじゃねえか?」
経緯を聞いたクリスが呆れたようにそう言った。
「いいや、それは無い。あの男は確かに嫌がらせで嘘を言うかもしれないが、あいつは『英雄』として俺に試練を与えると言ったんだ。そんな稚拙な思惑であいつの理想である英雄を貶めるような表現をするはずが無い」
「ナナシちゃんはあの狂人のこと、よく理解しているわね?流石は信者…」
「お前らがあいつを疑って見過ぎなんだよ。アレはただ自分に正直なだけだ。少し度し難いだけで『狂っている』なんて可哀想だぞ?どれだけ大多数の人間と異なる思想だったとしても、こっちの言葉に対して特定の答えを返してくるなら会話が成り立つ…諦めなければ理解することは出来るはずだ。ただ、自分と大きく異なる相手を理解するために時間を掛けることは、生に限りある人間には難しいかもな…」
ナナシはクスクスと笑いながら話を続けた。
「LiNKERの完成を以って試練の突破と見なすと言われたから、これ以上の情報をあの英雄様から聞くことは出来ない。だから俺は手始めに、身近な人間から手当たり次第に愛について聞いていった。幸い、S.O.N.G.には大勢の人間がいるし、何より愛ゆえに世界を滅ぼしかけたり救ったり分解しようとしたりした奴らもいて、話し相手に事欠かなかった!」
笑顔でそう語るナナシの背後で、了子にナスターシャ教授、キャロルが頭を押さえて顔を赤く染めていた。ナナシから根掘り葉掘り話を聞かれたのだろう。
「…それで?お前は愛とやらが理解出来たのか?」
ナナシはLiNKERを完成させたと言った。それは即ち、試練を乗り越え愛を理解したと言う意味だと奏は判断したのだが…
「はっはっは!そんな訳あるか!!」
…ナナシは愉快そうに奏の言葉を否定した。
「え!!?愛が理解出来たからLiNKERが完成したんじゃないんですか!!?」
「いやいや無理無理。理解しようと頑張った結果、俺が辿り着いたのは愛なんて理解不可能って答えだからな。それこそ狂気みたいなものだと思った」
「ええ~…」
ナナシの愛に対するあんまりな評価に響達は微妙な表情をするが、当のナナシは至極真面目な様子だった。
「愛した対象を守りたい、壊したい、独占したい、広く知らしめたい、共に在りたい、共に滅びたい…愛は、ありとあらゆる事象に対する万能の動機だ。どんな物事も、愛故と口にすれば『くだらない』、『そんなことで』と評価されることはあっても『あり得ない』、『嘘だ』と言う人間はほとんどいないだろう?愛は個体毎に様々な形を持ち、時に生ある存在が持つはずの種の存続と自己保存の本能さえも凌駕する強さを持ちながら、時の流れの中で塵芥のように朽ち果てることもある脆さを持つ…愛とは、悠久の時の中で積み上げた歴史さえも刹那に覆す、人間の持つ『矛盾殺し』の概念…愛故に今を生き、愛故に死んでいった仲間達の生き様から、今の俺はそう結論付けた」
一切ふざけた様子を見せず、真顔で人間の愛を語る“紛い物”に、周囲の人間は何も言えなくなった。ナナシが人の世で過ごしてたった数年…人の歴史からすれば刹那に等しい時間の中で積み重ねた経験から導いたその答えは、その場の全員が容易に否定出来ないだけの重みを有していた。
「英雄様の試練が『愛を理解すること』じゃなくて『LiNKERの完成』だった意味が良く分かったよ。星の数に等しい顔を持つ愛を全て理解しろとか無理ゲーにも程がある」
「いや、それじゃあどうやってLiNKERを…」
「まあまあ落ち着け。ちゃんと説明するから…英雄様の言う所の聖遺物に囁きかける愛。それを見つける鍵は、アイドル大統領のアガートラームにあった」
「っ!?白銀の…私のギアに!!?」
「それじゃあ、発見者のエルフナインちゃん様!説明をよろしくお願いします!!」
「は、はい!!」
ナナシに呼ばれてエルフナインが慌てて前に出てきた。そんなエルフナインを補佐するため、ナナシがアダムの錬金術から避難した際、マリア達のギアが銀色に発光した場面の映像を“投影”で映し出した。
「アガートラームの特性の一つに、『エネルギーベクトルの制御』があります。土壇場に度々見られた発光現象…あれは、脳とシンフォギアを行き来する電気信号が、アガートラームの特性によって可視化。そればかりか、ギアからの負荷をも緩和したのではないかと、ボクは推論します。これまでずっと、任務の間に繰り返してきた訓練によって、マリアさん達の適合係数は少しずつ上昇してきました。恐らくは、その結果だと思われます」
「マリアの適合係数は、私達の中でも一番高い数値。それが…!」
「今までの頑張り、無駄ではなかったというわけデスか!!?」
これまでの積み重ねが実を結んだことに、調と切歌は目を輝かせた。
「ええ!マリアさんの脳内に残された電気信号の痕跡を辿っていけば!!」
「LiNKERの作用している場所が判明する…だけど、そんなのどうやって…?」
「そこでさっきの話に戻る訳だ!!」
マリアの疑問に対して、ナナシが笑顔で答え始めた。
「全ての愛を知ることなど不可能!ならば一つに絞れば良い!!そう、アガートラームに強く働きかけ、自分のみならず家族二人の負担さえも背負い軽減してみせた…マリア・カデンツァヴナ・イヴの愛を!!!」
「えええええええええええ!!?!?」
ピンポイントで自身の愛について考察したと聞いて、マリアは顔を真っ赤にして大声で叫んでしまった。
「ナスターシャ教授に全面協力してもらって、それはもう事細かにお前の話を聞かせてもらった!F.I.S.では自分も怖くて震えていたのに、いつも妹達の一歩前に出て涙目になりながら大人達の注目を集めていたとか!我慢出来なくなると、人目の付かない場所に隠れて一人涙を流して、妹達の前では精一杯強がって見せていたとか!!」
「っ!!?!?」
「先生!!もうやめてぇ!!!」
「マリアのハートはもう限界デース!!」
蹲ってしまったマリアを守るように調と切歌が手を広げて立ち塞がる。その様子を見たナナシは一頻り笑った後、今度はマリアに優しい笑みを向けた。
「自分に重責を集めてでも、大切な相手を守ろうとするお前の『家族愛』…そこに歩み寄るためにナスターシャ教授の話を主軸にしつつ、S.O.N.G.の仲間達と…追加で二名の外部協力者の話を参考にして、お前の愛がどんな感情なのか考察させてもらった」
「外部協力者…?」
疑問符を浮かべる響を見ながら、ナナシはクスリと笑った。
「実に都合が良い事に…つい最近、長年すれ違っていた家族との関係を修復させた父親が居たからな?」
「え!!?そ、それって…」
『ふぅ…今日も、疲れた…』
『日雇いのお仕事、お疲れ様です!』
『えっ!!?き、君は…?』
『ああ、正体隠さずに姿を見せたのは初めてでしたね?以前ファミレスであなたを脅迫した者、と言えば分かりますか?』
『なっ!?あ、あの時の!!?』
『その節はどうも。無事奥方と母親とも話を出来たようで何よりです…今回は裏も表もなく、あなたに協力して頂きたいことがありましたので声をお掛けしました』
『きょ、協力…?』
『あまり先入観を持って頂きたくないので、端的にお聞きします…あなたが娘に対して向けている想いについて、可能な限り詳しくお話を聞かせて頂けませんか?』
『娘…響に、ついて…?』
『今回はあなたのことを試す意図はありません。機密の関係上、詳細を伝えることも出来ません。ただ…あなたの想いが、我々の抱える問題を解決する鍵になるかもしれない。間接的ではありますが、あなたの想いが響さんの力となります』
『……』
『無論、お礼はさせて頂きます。近くの高級中華の店を予約していますので、まずは食事でもしながらお話をさせて頂けませんか?』
『お礼、ね…それは君個人に対して要求しても良いのかな?』
『構いません。地に頭を付けて以前の無礼を詫びろと言うのならそうします。足を舐めて媚び諂えと仰るなら即座にでも。私に出来ることなら何でも致します』
『………それなら二つ、良いかな?』
『はい』
『一つは…その言葉遣いはやめてくれ。敬われるような人間じゃない自覚はある。だから無理して敬語なんか使わず、前みたいにタメ口で話してくれれば良い』
『別に無理はしていませんが…良いのか?』
『君については、娘から色々聞いたよ。とても厳しい言葉で大切な想いに気付かせてくれる、本当はとても優しい尊敬する兄弟子だって…そんな君に酷い真似をして、今度こそ響に愛想を尽かされたら困るからね』
『そっか…それで?もう一つの頼みってのは?』
『俺も君にどうしても聞きたいことがあったんだ。それに答えて欲しい』
『聞きたいこと?』
『君に聞きたいこと、それは……何でまだ俺の口座にお金を送ってくるんだ!?あの約束は破棄してくれたんじゃなかったのか!!?』
『オカネ?ナンノコトデショウ?』
『君以外に誰がいるんだ!!?間違っても使わないようにわざわざ新しい口座を用意したら、そっちにまで同額振り込んできたよね!!?一体何の嫌がらせだ!!?早く引き取ってくれ!!!』
『なら日雇いじゃなくてさっさと仕事見つけろ!早くケジメつけて同居の許しをもらって響を安心させてやれ!!』
『なっ!!?い、言われなくても、ちゃんと探して…』
『あのなぁ…ちゃんと自分に合った仕事を見つけるには、ある程度纏まった金が必要なの!日々の生活がギリギリの状態でまともな仕事なんて見つかる訳ないだろ!?無利子で貸しといてやるから余裕がある状態で就活に集中しろ!!』
『ぐっ!!?』
『ほら、その辺も相談乗ってやるからとりあえず飯食いに行くぞ!顔色悪いぞ?どうせ碌な物食べてないんだろう?ほら早く!!』
『ちょっ!!?お、俺の話を聞きに来たんじゃなかったのかああああぁぁ!!?』
「っと言った感じに飯食って酒飲みながら色々OHANASHIしてきた」
「お父さん…」
何とも情けない様子の父親に響は顔を赤くして頭を押さえた。
「あのバカ親父、最後に酔った勢いで『三年以内に就職して借りた金は耳揃えて返してやる!無理だったら娘との交際だろうが結婚だろうが認めてやるバカヤロー!!』ってマジで馬鹿野郎なこと叫びやがったからボコボコにしてお前の実家に預けておいた。『お手数ですが起きたら説教をお願いします。あと不用意な発言の罰として三年以内に就職出来なかったら
「うわああああもう!!何やってるのお父さーん!!!」
恥ずかしさが限界を超えて響は蹲ってしまった。そんな響を尻目に、奏がナナシにあることを尋ねた。
「なあ、ナナシ?ひょっとしてもう一人の外部協力者って…」
「俺の知っている中で一番在り方がそっくりなポンコツ娘の父親だよ」
『おーい八紘!今ちょっと良いか?』
『…こんな夜更けに一体何の用だね?』
『悪いな!お前の仕事の進捗的に今くらいじゃないと時間取れないと思ってな?ちょっと話を聞かせて欲しいんだ!』
『やれやれ…それで?話とは?』
『お前が翼に向けている想いについて聞かせて欲しい!』
『っ!?突然何を!!?』
『LiNKERを完成させるに当たって、その想いが重要な手掛かりになるかもしれないんだ。頼む!協力してくれ!!』
『な、なるほど………そういうことなら、少し待ちなさい』
ガサゴソ…
『ん…?』
『待たせたね』
ゴトン!
『日本酒?』
『私が娘自慢など、柄ではないことは承知しているからね。酒でも入れない事には口を開けそうもない。それに、君とは一度二人で腹を割って話をしたいと思っていたところだ…私だけでなく、君が翼をどう想っているかも聞かせてもらう』
『なるほど!お安い御用だ!!生憎俺は飲み込んだ物が胃で消滅するから酔えないけど、常時悪酔いみたいなテンションだから大丈夫だろ!それじゃあ酒の肴はSAKIMORIの卵焼きでも出そうか!今度はちゃんと美味く出来た物を出すから安心してくれ!』
『それは楽しみだ』
「あの夜は楽しかったな~。アルバム見せてもらいながら昔のSAKIMORIについて話を聞いたり、“投影”で俺が出会ってからのSAKIMORIの醜態を晒したり…ほとんど夜通し語り合ったせいで八紘に負担を掛けたのは悪かったな。まだまだ話したい事は沢山あるし、今度は可能なら数日くらい時間を作りたいくらいだ。でもそんな時間があったらそれこそSAKIMORIと過ごさせるべきか…いっそ三人で集まるか?ああ、その時は奏も来るか?お前も相棒として話を聞いたり語ったりしたい事あるだろ?」
「…遠慮しとく。あと三人で集まるのもやめておいてやれ。その状況を楽しめるのはお前くらいだろ?」
「あーうん、流石に家族水入らずを邪魔するのは無粋だな」
ナナシが見当違いな方向で納得するのを全員が微妙な表情で見ていた。当人を前に赤裸々に語らされる側も、父親と親友達から延々そんな話を聞かされる側も堪ったものではないはずだ。
「そうやって俺が収集した『家族愛』の話をここにいるLiNKER開発の協力者と共有して…どれだけ厳しく、冷酷で、情けない一面を持っていたとしても、相手を想いやる熱くて深い感情が根幹ではないかってエルフナインが出した主張を元に開発を進めていった結果成功した訳だ。感謝しろよ?もし現時点でLiNKERが未完成だったら、最終手段として研究室の片隅に用意した『愛を理解するまで出られない部屋』に問答無用で俺と一緒に入ってもらう所だったからな?」
「「「ありがとうエルフナインちゃん様ああああああ!!!」」」
「ひゃああああああ!!?!?」
エルフナインがマリア達に揉みくちゃにされながら感謝された。
「エルフナインの意見を参考に、想い出という脳の電気信号の扱いが世界一のクソガキがそういった感情を司る脳領域を特定、了子とナスターシャ教授がそこにLiNKERを作用させるためにレシピを修正、あとは俺とオートスコアラー達、そしてS.O.N.G.研究者達がひたすら試行錯誤で調整を繰り返した結果完成したのが…このLiNKERだ」
そう言って、ナナシがマリア達に三本のLiNKERを差し出した。それを受け取ったマリア達は、見た目と大きさは以前と変わらないはずなのにズシリとした重みを感じた気がした。
「お前らの手にあるそれは、お前らを大切に想う大勢の人間の想いの集大成…その想いに応えるか拒絶するかはお前らの自由だ、好きにしろ。ただ、それを自分達だけの問題として完結させるのだけはやめろ。向けられた想いを存在しないように扱うのは、拒絶よりもずっと残酷だ」
「…はい…ナナシ、マム、皆も本当にごめ…いえ、ありがとう」
「ありがとう、ございます…」
「ありがとう、デス…」
マリア達はLiNKERを大切そうに握りしめながら、涙を流して感謝の言葉を口にした。三人の危うい雰囲気が完全に払拭されたため、仲間達は安堵の笑みを浮かべた。
「っ!?扉が、破壊されて!!?」
「何事だ!?」
「皆さん!大丈夫ですか!?」
するとそこに、本部に戻ってきた翼と弦十郎、緒川がシミュレーションルームの異変に気が付いて飛び込んできた。それを見たナナシはニヤリと笑って手を叩き全員の注目を集める。
「さあさあ、丁度良い具合に役者が揃ったな!それでは今後についてOHANASHIをするとしようか!」
突然芝居がかった動きとセリフで場を支配するナナシに全員が困惑するが、そんなことはお構いなしにナナシが話を続ける。
「遂に新型のLiNKERが完成して、我らS.O.N.G.も総力を以ってパヴァリアの錬金術師に対抗出来る!しかしこちらの決戦機能であるイグナイトモジュールはラピスの浄化によって封じられ、敵の首魁は単身で隕石落下に等しい攻撃を繰り出す怪物だ。このままではこの国は血で血を洗う惨劇の舞台になりかねない!!」
クルクルと舞うように動きながら、現状を仲間達に語るナナシはピタリと動きを止めて全員に視線を向ける。ナナシの顔を見た仲間達は、思わず背筋をゾクリと震わせてしまった。
「そ・こ・で!惨劇を喜劇に変えるために…ちょ~っと俺の我儘に協力してもらえないかな?」
そう言うナナシの口元には、まるで三日月のように弧を描いた笑みが浮かんでいた。
さてさて、いよいよAXZ編も佳境というか、ターニングポイントというか…分かりやすく言うと、GX編の第87~88話みたいな…所謂、本格的なOHANASHI展開を今頑張って執筆中です。
大まかな流れはずっと決めていたはずなのに、思った以上に難産ですw
ストックが切れる前には何とか完成するとは思いますが…場合によっては更新が不定期になるかもしれません。