戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
LiNKERが無事完成したため、無茶な訓練をした休息も兼ねてマリア達は出店が並ぶ広場で買った物を食べながら話をしていた。響とクリス、そして未来とエルフナインも一緒に来ている。ナナシは本部で壊した扉の修繕、翼も本部で奏からシミュレーションルームでの諸々を聞いて悶えている所だ。
「うぇぇ~…」
「切ちゃん、心配なのは分かるけど…」
「分かってるデス!全ては分かった上での決断なのデス!」
パクッ!
意を決した様子で手に持ったクレープに切歌が齧りつく。数度クレープを咀嚼した切歌は、口の中に広がった味に身悶えしていた。
「チョコ明太子味なんて大冒険するから…」
「あたしのおごりを残すなよ、常識人。はむ…ん?美味いじゃねぇか」
かなりとんでもない組み合わせだが、クリスの味覚には合ったらしい。
「うぅ~、甘しょっぱ辛いです…」
「ほら、無理しなくて良いからこれで口直しして。残りは私が引き受けるから」
未知の組み合わせに好奇心が働いたエルフナインもチョコ明太子クレープを買ったのだが、一口でその味に固まってしまっていた。そんなエルフナインからクレープを取り上げ、マリアが自分のイチゴとチョコの無難なクレープを手渡した。それを見た切歌は一瞬羨ましそうな視線をエルフナインに向けたが、すぐに気持ちを切り替えて再び自分のチョコ明太子クレープへと視線を向ける。
「これは願掛けなんデス!全部食べられたら、ナナシさんの作戦はきっと上手くいくのデス!」
クレープ一つで大騒ぎする切歌達を未来が微笑ましそうに見ていると、隣にいる響がソフトクリームを手にしたままぼーっとしていることに気が付いた。
「響…ねえ、響!」
「え!?何…?」
「溶けちゃってるけど?」
「うわあああ!?」
未来の指摘で響が慌てて流れて落ちそうなソフトクリームに齧り付く。未来は苦笑しながらポケットからハンカチを取り出してクリームでベトベトになった響の顔を拭った。
「話を聞いたり、隣で溶けたアイスを拭うぐらいはしてあげる。だから、何かあるときは頼ってよね?」
「ありがとう未来。やっぱり未来はわたしの陽だまりだ」
二人は互いの顔を見て微笑むと、未だにチョコ明太子クレープに悪戦苦闘する切歌や、同じクレープを口にして顔を顰めながらエルフナインと会話するマリアの様子を眺めた。
「それにしても相手がエルフナインやマムでも照れくさいのに、大勢で私の愛について考察していたなんて…次にあの男と話す時、私は一体どんな顔をすれば良いのかしら?」
「フフッ…ナナシさんが皆さんの事を理解しようとしているのはいつもの事です。だから、マリアさんもいつも通りに接してあげたら良いとボクは思います」
「それはそれで心穏やかではないのだけれど…」
マリアの言葉に、エルフナインはよく分からないといった風に首を傾げていた。そんなエルフナインに苦笑しながら、マリアはエルフナインの頭を撫でて返答を誤魔化した。
「…例の作戦、上手くいくかしら?」
「不確定要素も多いため断言は出来ません…でも、皆さんで力を合わせればきっと上手くいくと信じています!」
「だと良いんだけどな…」
エルフナイン達の会話を聞いていたクリスが、顔を俯かせてそうポツリと呟いた。
「クリス…?」
「悩んで下した決断が、いつも正しいわけじゃない。それどころか、はじめっから正解がないなんてこともザラにある」
何かを思い悩むようなクリスの言葉に、マリア達が心配そうな視線を向けていると…街中に警報が響き渡った。
「東京湾にアルカノイズ反応!」
S.O.N.G.本部は突如出現したアルカノイズの存在をいち早く察知していた。
「空間を切り取るタイプに続き、またしても新たな形状…しかもかなり巨大なタイプのようです」
本部のモニターには、まるでヤマタノオロチのように胴体から複数の首が伸びた大型のアルカノイズが東京湾上を飛行している姿が映し出されていた。
「来たか…罷り通らせる訳には参りません。行きます!」
突然のアルカノイズ襲来に慌てることなく、翼が現場へと向かう。
「翼!負けんじゃねえぞ!!」
「ああ!任せておけ!!」
その背を見送る奏の激励に、翼はしっかりと応えて指令室を後にした。
オロチ型アルカノイズの背を、錬金術によって施された迷彩によって姿を隠した浮遊戦艦の甲板からサンジェルマン達が見下ろしていた。
「オペラハウスの地下には、ティキ以外にも面白い物がゴロゴロ眠っていたのよねぇ♡」
上機嫌に微笑むカリオストロは、目の前のアルカノイズに酷似した竜の彫刻が先端に嵌め込まれた杖を手にしていた。
「勿体ぶってなんていられないワケダ」
「そう、我らパヴァリア光明結社は神の力を以ってして、世の理をあるべき形へと修正する」
アルカノイズの向かう先にある街を見て、これから自分達の行うことを意識したサンジェルマンの脳裏に、いくつかの光景が過った。
『それが誰かのためなら…わたし達はきっと…手を取り合える…』
それは地に倒れ伏しながらも、それを為したサンジェルマンと語り合おうとする響の姿。そして…
『人殺し!!』
…自分の行いに対して、真っ向から侮蔑の言葉を言い放ったナナシの姿。それらを振り払うように、サンジェルマンは瞳を閉じて再度自分の覚悟を口にする。
「大義は…いや、『正義』は我らにこそあるわ。行く道を振り返るものか!たとえ一人で駆けたとしても!!」
「一人じゃない」
サンジェルマンの決意に、間髪入れずにプレラーティが言葉を差し込んできた。
「一人になんてさせないワケダ」
「サンジェルマンのお陰で、あーし達はここに居る。何処だって三人でよ♪」
笑みを浮かべながら共に茨の道を歩む意志を見せてくれる二人に、サンジェルマンはフッと笑みを浮かべた後、迷いの消えた瞳で正面を見据えた。
「分かりました!すぐヘリの降下地点に向かいます!」
付近に設置されたモニターに映し出されるアルカノイズの情報を確認しながら、響は本部からの通信にそう返答していた。
「もたもたは後回しだ!行くぞ!」
「ええ!」
クリスの言葉にマリアが応えて駆け出す。切歌も残ったクレープを一気に頬張り、調と共にクリス達の後を追いかけた。
「ボクも本部へと帰還します。ご武運を!」
残った響に頭を下げて、エルフナインが本部へのテレポートジェムを手に人目の無い場所へと移動を開始した。
「未来も、学校のシェルターに避難してて!」
未来にそう言い残し、響もクリス達の後を追いかけようとした。
「響!」
しかしその背に、未来が響の名を呼んで引き止めた。その心配そうな声音に、響は思わず立ち止まって未来に背を向けたまま胸の想いを言葉に零した。
「誰だって、譲れない想いを抱えている…だからって、勝てない理由になんてならない…」
「勝てなくても良いよ」
「え?」
未来の予想外の返しに、響はキョトンとした顔で振り返った。そんな響に、未来は優しく微笑みかける。
「だけど絶対…負けないで」
未来の言葉に、響は思わず涙が零れそうになった。譲れない想いをぶつけ合うこと、そこで勝利するとは、相手の想いを否定する事に他ならない。そのことに対する葛藤を正しく理解されていることに、響は心が暖かくなるのを感じていた。
「わたしの胸には、歌がある!」
未来の想いに太陽のような笑顔で応えて、響は迷いなく駆け出した。
オロチ型の大型アルカノイズは、その口から小型のアルカノイズを無数に生み出して街へと進行していた。
「人類が、この星の完全なる霊長となるためには、支配される存在であってはならない。完全を希求する錬金の理念。シンフォギアなどに阻まれる訳にはいかない!」
アルカノイズの群れが本格的に街を襲おうとし始めたその時、一機のヘリがアルカノイズの群れの上空へと辿り着き、そこから数名の人間が飛び降りた。
「Seilien coffin airget-lamh tron」
ヘリから飛び降りたのは…マリア、切歌、調の三名だった。
「あら?ガッカリ団子三姉妹だけ?」
カリオストロが意外そうな声を出してしまった。サンジェルマン達も内心同じ考えだ。これまでは土壇場でもない限り出動すらされなかったLiNKERによる制限がある三名が最初から戦場に出ていることはまだしも、制限の無い響達の姿が見えないことに強い違和感を覚えた。
「サンジェルマン、どうする?」
「…とりあえずは様子見よ。下手に飛び出せば何か罠があるかもしれない」
サンジェルマン達が監視する中で、調と切歌が遠距離攻撃と手数を主体にアルカノイズの数を減らす。しかし攻撃の勢いとアルカノイズの増殖スピードはほとんど拮抗しており、アルカノイズの総数が減る様子はない。そんな状況を打開するためか、マリアが単身でアルカノイズの群れを掻い潜り、オロチ型の大型アルカノイズへと接近していた。
「はあっ!!」
掛け声と共に短剣による一撃を繰り出すマリアだったが、その攻撃はアルカノイズの表面に浅い傷をつけるだけに留まり、その傷もすぐに再生してしまった。それでもマリアは懸命に大型アルカノイズへと攻撃を繰り返していた。
「無駄な事を…それにしてもあの女、以前より攻撃の威力が弱くなっているワケダ?」
「あれでしょ?シンフォギアの『ユニゾン』ってやつ。あのガッカリ団子ちゃん達は三人揃ってようやく一人前なのに、バラバラになってガッカリに磨きが掛かっちゃったんでしょう?」
カリオストロの言葉に、プレラーティ達は納得した。これならわざわざ自分達が出るまでもなく、アルカノイズのみで制圧出来てしまいそうだ。
そんな現状維持が精一杯のマリア達の攻防が少しの間続いたかと思うと…突如、三人の動きが目に見えて悪くなった。
「あーらら、結局何にも出来ずにお薬が切れちゃったみたいね?」
「出来損ないを前に出して、他の装者達は一体何をしているワケダ?……ん?」
プレラーティがマリア達以外の装者を探していると、マリア達が飛び出した後も残っていたヘリから更に飛び降りてくる人間を目撃した。
「Balwisyall Nescell gungnir tron」
飛び出してきたのは響、翼、クリスの三名であった。
「っ!!?最初から、居たワケダ…?」
「何故、今まで静観を…?」
「……」
困惑するサンジェルマンとプレラーティ。カリオストロは黙って響達の事を観察していた。
地上に降りた響達は凄まじい勢いでアルカノイズを打ち滅ぼしながら、動きの鈍ったマリア達へと接近していった。
「マリアさん!後は任せてください!」
「くっ…頼んだわよ!」
響が声を掛けると、マリアが大人しく戦線から離脱する。調と切歌もクリスや翼に後を任せて撤退していた。
「なるほどね…」
「何か分かったワケダ?」
「別に大それたことじゃないみたいよ?ただの時間稼ぎと偵察じゃないかしら?」
「時間稼ぎと、偵察…?」
「ガッカリ団子姉妹でも、アルカノイズを間引くことくらいは出来たでしょ?その間に少しでも民間人の避難を進める。そして可能なら新種のアルカノイズの特性を確認して本命の信号機トリオに情報を渡す…土壇場で出来るかどうか分からない救援よりも、試金石として確実に役立つ立ち回りを選んだんでしょう?」
「なるほど…それで新型アルカノイズの真価すら発揮出来ずにあえなく退場というワケダ」
撤退していくマリア達から視線を外して、錬金術師達は響達へと意識を集中させる。既に大半の小型アルカノイズは一掃され、三人はクリスが出したミサイルに乗ってオロチ型アルカノイズの上空に迫っていた。
「こうも奴らをうじゃつかせてるのは、あいつの仕業か!」
「つまりは狙いどころ!」
「ぶっ放すタイミングはこっちで!トリガーは翼さんに!」
オロチ型アルカノイズの真上で翼と響がミサイルから飛び降りる。落下しながら翼は剣を巨大化、響は右拳のギアを変形させてエネルギーを収束させる。
「目に物見せる!!はあああああ!!」
オロチ型アルカノイズとすれ違う瞬間、翼の剣がアルカノイズの体を切り裂き、響が傷を押し広げるように拳を叩き込むことでアルカノイズの体に大きな亀裂が出来た。
「そしてあたしは、片付けられる女だぁ!!」
“MEGA DETH INFINITY”
その亀裂目掛けて、クリスの展開した十二機の巨大ミサイルが一斉に放たれる。その凄まじい威力に、一気に亀裂が広がってオロチ型アルカノイズの巨大な体が複数に分割され、そのまま消滅する…筈が、アルカノイズの体は分割されたそれぞれが再生を始め、サイズダウンした三体のアルカノイズとして独立した動きをし始めた。
「…仕損じたか」
その光景に軽く眉を顰めた翼達だったが…極めて冷静に、三人はそれぞれ分かたれた三体のアルカノイズに立ち向かっていった。
「さ~て、後はジックリ待つだけよ♡いくらシンフォギアが堅固でも…」
「装者の心は容易く折れるワケダ。その時こそ…」
「総力戦を仕掛けるわ」
ここまでの流れは概ねサンジェルマン達の想定通り。このまま事が進めば、確実に装者達を排除出来る。
(そう、ここまでは計画通り。故に警戒すべきは…イレギュラー)
それはそのまま想定外の意味と…未だ姿を現さない、仮面を被った不気味な存在を示唆する言葉。サンジェルマンの脳裏にその言葉が過った直後…姿が見えないはずの浮遊戦艦目掛けて、何処からかミサイルが二機迫ってきた。
「っ!?勘付かれたワケダ!!」
「でもあの程度の攻撃、どうってこと無いわよ!!」
「……」
バァン! バァン!
プレラーティとカリオストロがそれぞれ錬金術でミサイルを遊撃しようとしていたが、それよりも先にサンジェルマンがラピス・フィロソフィカスのファウストローブを身に纏ってミサイルに緋色の弾丸を二発撃ち放った。
「サンジェルマン!?何でわざわざ…」
明らかにミサイルを撃ち落とすには過剰な攻撃に、カリオストロが驚いていると…突如、二つのミサイルの装甲が剥がれて、それぞれの中から何かが飛び出してきた。
スパン!
それと同時に、弾丸の一発に糸のような物が飛来したかと思うと、弾丸が細切れになって地上へと落下していった。そしてもう一発の弾丸に、ミサイルから飛び出した影の一つが接近して…
「
パキィイイイイン!!
…掛け声と共に繰り出された拳の一撃によって、弾丸が粉々に打ち砕かれた。
そして浮遊戦艦の甲板に、二つの人影が舞い降りる。
一人は豊満で見目麗しい成人女性。その体を覆う紫色の衣は、サンジェルマンの纏うそれと似て非なる物…ダウルダブラのファウストローブを纏う錬金術師、キャロル・マールス・ディーンハイム。
一人は丸い金色の瞳に大きく歪んだ口から牙を覗かせ、額の左右から長い二本の角を生やした禍々しい鬼…所謂『般若』の面を被った男性。何一つ人と変わらぬ体に、人ならざる力を宿した“紛い物”、ナナシ。
戦場に現れたイレギュラー達は、ゆっくりとした歩みで警戒するサンジェルマン達へと近づいて行った。