戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第142話

ナナシの目の前には、暗闇に覆われた世界が広がっていた。

 

それはナナシが“明晰夢”を使用した時のデフォルトの状態だ。眠っている相手にナナシがこの能力を使用すると、相手が自然に夢を見ていた場合でも中断されて一度この状態に移行する。所謂レム睡眠…深い眠りに入った時の状態だ。そこからナナシはイメージした光景をこの空間に映し出して、それを眠っている人間に俯瞰させたり、夢に出てくる登場人物としてその世界を体感させることが可能となる。

 

今回ナナシはその空間にメディカルルームと同じ光景を再現させた後、現実と同じように奏の体を生み出した。そしてその傍に、自分の分身を立たせる。そこまで準備をしたナナシは、覚悟を決めて奏の意識を夢の中の奏に移すように能力を使った後、分身を動かして奏を起こし始めた。

 

「おーい、奏!起きろー!!」

 

「ん…うぅん…」

 

ペチペチとナナシが奏の頬を叩きながら声を掛けると、奏が小さく唸りながら徐々に目を開いて…奏の顔を覗き込むナナシと視線を合わせた。

 

「ナナ、シ…?」

 

「おはよう、奏。体は大丈夫か?」

 

いつもと変わらない様子で、笑いながら奏にナナシが声を掛ける。奏はしばらく呆然としながらナナシのことを見つめた後、その手をゆっくりとナナシに伸ばした。ナナシの顔に触れて、肩に触れて、胸元に触れて…その手に感じる温もりを、鼓動を感じ取る。そうやってしばらくナナシに触れていた奏の手を、不意にナナシが掴み取った。

 

「あっ…」

 

「くすぐったいぞ?確認は充分出来ただろ?ちゃんと生きてるよ…悪かったな、心配かけて」

 

ナナシは奏の手を握ったまま、もう一つの手で奏の頭を優しく撫でる。ナナシに“解析”される度に繰り返されたその所作に、ようやく目の前にいるナナシの存在を実感して…奏は身を起こして、ナナシの体に抱き着いた。

 

「ナナシ…」

 

「おう、どうした?」

 

「ナナシ…ナナシィ…!」

 

「ハイハイ、ナナシはここだぞ。ナナシィは知らない子だから他を当たってくれ」

 

「うぅっ…うわああああああああああああああああ!!!!」

 

 

いつも通りのふざけた調子で言葉を返すナナシに、奏は遂に堪え切れずに大声で泣き始めた。そんな奏を困ったような笑みで見つめながら、ナナシは奏の頭を優しく撫で続けた。

 

それからしばらくして、奏の号泣が徐々に落ち着いてすすり泣き程度になった頃、ナナシは朗らかに奏へと語り掛けた。

 

「心配させて本当に悪かった。俺はこの通りピンピンしてるし、翼達も無事に帰ってきた。お前の無事を知らせて連れてくるから、もう少し眠りながら待っていろ。次に目を覚ましたら、全員お前の前に揃っているから」

 

「あぁ…」

 

ポンポンと背中を叩きながら優しく紡がれるその言葉に、奏はナナシの胸元に頭を押し付けながら息を漏らすようにそう答えて…

 

 

 

「夢の中でも、そうやってお前はあたしを“柔らかく”しようとするんだな…」

 

 

 

…この状況が夢であることを見破った。

 

「…流石は奏だなぁ。やっぱり通じないか。ちなみに、いつこれが夢だって気が付いた?」

 

「…あんたを見た瞬間、分かったよ…ビックリするぐらいリアルで、何もかもいつも通りの…何かを隠そうとするあんたの雰囲気が伝わってきた」

 

「うわ~、いつも通りにし過ぎたか。ってか、察せられるぐらい普段隠し事しまくってる俺が悪いのか。何かスマン…」

 

「フフッ…」

 

困ったように後ろ頭を掻くナナシに、奏は思わず笑ってしまった。そんな奏に、ナナシは焦った様子も無く笑いながら語り掛けた。

 

「お察しの通り、今の奏は夢を見ている状態だ。俺の“明晰夢”は知っているだろ?奏がずっと眠ったまま起きようとしないから起こしに来たんだよ」

 

「……」

 

「さっきの言葉は別に嘘じゃないぞ?奏が俺の言葉を信じて眠っていれば、俺は能力を解除して皆と一緒にお前が現実で目を覚ますのを待つつもりだったんだから。皆お前を心配しているぞ?早く目を覚まして安心させてやれ。もしかして、まだ俺が騙そうとしているように感じているのか?」

 

「クスッ…多分、本当だと思う…けど、それがあたしの都合の良い“妄想”じゃないって言える自信が無い」

 

奏がナナシを抱きしめる力を強めながら、顔を押し付けたまま自嘲するように笑った。

 

「あたしはさ…お前や翼達が戦場に出る度に、いつも『絶対全員無事に帰ってくる』って信じて待っていた…それが、あんた達のためにあたしが出来ることだって…でも、そんなのは嘘っぱちだ…そう信じてないと、何も出来ないあたしが耐えられなかったんだ」

 

「……」

 

「いつか…いつかナナシがあたしの体を治してくれるって信じていたから、キャロルの提案を断った…ナナシを信じていたから、断ることが出来た…でも…ナナシが死んだって…もう目を覚まさないって言われた瞬間…どうしようもなく後悔して…お前達の傍に行けないこの体が、堪らなく憎らしくなった…あたしが選んだことなのに…大切な、家族との繋がりなのに…」

 

「…ごめんな、俺がいつまでも奏との約束をほったらかしにしているから…」

 

「違う!!」

 

ナナシが謝罪した瞬間、奏は全力でその言葉を否定した。

 

「お前が!あたしのことを!!他人との約束を蔑ろにしたことなんて一度も無い!!!お前が蔑ろにするのはいつだって自分のことだ!!!いつもいつも、お前はあたし達のために、自分を犠牲にして…」

 

「それは、俺がそうしたくて…」

 

「分かってんだよ!そんなことは!!それがお前の…“紛い物”のナナシの在り方だってことは…そんなお前だから、皆はお前を信じていた。何度失敗しても、無茶苦茶で都合の良い“妄想”を語られても、笑いながら本気でその“妄想”を実現させるために足掻き続けるお前を、信じることが出来た…でも…」

 

「……」

 

「そんなお前の事を…あたしは心から信じることが、出来なくなってる…今目の前に現れたお前が、あたしの“妄想”が生み出した幻だったら…目を覚まして、お前がいなくなっていたら…そんなの…耐えられる訳ない」

 

「奏…」

 

「もし…お前が無事だったとしても…お前のことを信じられなくなったあたしは、これからずっとこの恐怖に耐えていくしかないのか?…これまでみたいに、お前らの背中を見送ることしか出来ないのか?…それなら、いっそこのまま…」

 

「奏!!」

 

「嫌だ!聞きたくない!!」

 

奏に呼び掛けるナナシを拒絶するように、奏が大声でナナシの言葉を遮った。

 

「どうせお前は、逃げるなって言うつもりなんだろう!?現実から目を逸らすなって、あたしを叱るつもりなんだろう!!?あたしなら大丈夫だって、信じ続けてくれるんだろう!?あたしは、そんな強い人間じゃない!!あんたのことを…信じてやれない…あたしは…」

 

奏が叫ぶのと同時に、周囲の空間が揺らいで所々に罅が入り始めた。奏の精神が不安定になり、“明晰夢”が解けかけている。もし今の精神状態で能力が解除されたら、奏の心はもう…

 

「もう、嫌だよ…信じられないよ…あたしを置いていかないでよ…」

 

涙を流しながら、奏が必死にナナシの体にしがみ付く。そんな奏に、ナナシは…

 

 

 

「だぁあああああああああ!!よし分かった!!じゃあ信じなくて良い!!!騙されろ!!!」

 

 

 

…奏の肩を掴んで、強引に自分から引き剥がしながら、涙でぐちゃぐちゃになった奏の顔をしっかり見ながらヤケクソみたいな声でそう叫んだ。

 

「騙、され…?」

 

「Exactly!!ってか完全に予想外だよ!?何だその全面的な信頼!!?俺のやることなんて正直宝くじに当選するくらいの期待値も持たれてないと思ってたよさっきまで!!!失敗続きの“紛い物”を信じられなくなったくらいでそこまで罪悪感垂れ流すとか、お人好しにもほどがあるわ!!!」

 

呆れながら逆切れするように怒鳴り散らすナナシに、奏は一瞬前に感じていた感情を忘れてポカンとしてしまった。

 

「そりゃそれだけ他人に全面の信頼を寄せていたら疲れもするし無理も出るだろ!?丁度良いから疲れたなら全部ほっぽり出して逃げ出してしまえ!でもな、逃げるならこんな眠り続けるなんて中途半端な真似せず楽しい方法に逃げろよ!?ソロでの歌手活動を増やすとかどうだ?叫んで発散したいならロックでもデスメタルでも挑戦してみれば良いだろうが!!」

 

「は、半端って…それに、逃げろだって!!?お前が!?お前がそれを言うのか!!?ずっとあたし達に逃げるなって!!向き合えって想いを伝え続けたお前が!!?」

 

「そ・れ・は!お前らがいっつも!!本当は逃げたくないことから目を逸らそうとしているからだろ!!?マジで逃げたいなら本気出せ!!今みたいな中途半端はやめろバカ!!!」

 

「っ!!?」

 

現実を受け入れられず眠り続ける現状を中途半端と言い切るナナシに、奏は絶句してしまった。

 

「幸せになれない逃避に何の意味がある!?笑顔を生み出せない嘘に何の価値がある!?目を逸らす?耳を塞ぐ?意識を失う?全然足りねえよ!!本気で信じたくないなら、視界に納めた上で気のせいだと思え!聞いた上で戯言だと切り捨てろ!!正気を疑われようと笑い飛ばせ!!!俺の死が奏にとって受け入れられないと言うのなら!脳天貫かれようが!!何年意識を失い続けようが!!!肉片一つ残さず全身消し飛ばされようが!!!!」

 

ガシッ!!

 

途轍もない剣幕で、滅茶苦茶な理屈を並べ立てながら、ナナシが両手で奏の頭を掴んで自分と奏の額を付き合わせる。奏の視界を全て自分の顔で埋め尽くして…

 

 

 

「“紛い物”の俺が死ぬなんてあり得ない…そう自分を騙し続けろ!!」

 

 

 

…とても楽し気な悪い笑顔で、力強くそう言い切ってみせた。

 

「なっ…あっ…」

 

「お前は大雑把なくせに真面目に考え過ぎだっつーの!良いじゃねえか?一つや二つ周りから白い目で見られるような何の根拠もないジンクスを持っていたって?ナナシは死なない!だって“紛い物”だから!!翼達は無事に帰ってくる!これまでだってちゃんと帰ってきたから!!今まで大丈夫だったことはきっと今日も大丈夫!今日駄目だったことは明日になればなんとかなるさ!あはははは!!…そんな風に、都合が良い“妄想”で自分を騙して何が悪い?」

 

「そん、な…そんな、こと…許される訳が…」

 

「自分を騙すのに誰かの許しが必要なのか?だったら俺が許してやる!こちとら“紛い物”とはいえ神だぞ?只人風情に文句なんか言わせない…俺がお前の全てを許してやる」

 

どうしようもなく傲慢に、自分でも碌に信じていない神様設定を都合良く引き合いに出しながらナナシは奏に笑いかけた。そんなあまりにも自分勝手なナナシの振る舞いに、奏は…思わず力が抜けて笑ってしまった。

 

「…フッ、フフフ…無茶苦茶だ…何の解決にも、なってない…」

 

奏の言う通り、その理屈では何一つ解決などされていない。全てが都合の良い言葉遊びで、やっていることは現状維持と変わらない。どうしようもなく軽薄な…人の心を“柔らかく”するためだけに紡がれる、“紛い物”の戯言。

 

だからこそ…

 

「あぁ、もう…これじゃあ、疑うことも出来ないじゃないか…今、あたしと話しているのは間違いなく…“紛い物”のナナシだ」

 

…そこに籠められた想いは、紛うことなく奏の心に届いた。

 

「我ながらややこしいな?その言い方だと結局奏にとってこの俺は本物?偽物?信じたのか?騙されることにしたのか?」

 

「うっさい、茶化すなバカ…あたしの頭だけで、お前のそのバカみたいに都合の良い考え方をここまで再現出来るか」

 

「あっはははは!!まだまだお互い相手への理解が足りないな?だから俺はもっと奏の事を知りたい。奏にも俺の事を知って欲しい」

 

ナナシが奏から額を離して、奏の頭を掴んでいた両手から力を抜いて…そのまま包み込むように奏を抱きしめた。

 

「怖い想いをさせて悪かった。心配してくれてありがとう。お前がまだ俺の事を信じてくれるなら、二度とその信頼を失わないよう努力する。もしそれが叶わないなら、せめてお前が笑顔でいられる都合の良い嘘で騙してやる。だから…これからも、俺達と一緒に生きてくれ…よろしく、お願いします」

 

「…プッ、フフフ…『俺達』、か…」

 

「だ、駄目か?な、なら俺は本当にオマケと言うか、小間使いみたいな感じで“認識阻害”使って隅っこの方に隠れているから、せめて翼達や弦十郎達とは一緒に…」

 

奏の返しに、ナナシが急に不安そうな顔をして慌てて取り繕う。そんなナナシに、奏はクスクスと笑いながら…ナナシを抱きしめ返した。

 

「バーカ、そうじゃねえよ。ただ、凄くお前らしいなと思って…安心しただけだ」

 

「お、おう、そうなのか?」

 

「ああ、あたしはもう大丈夫だ。だから…さっさと目を覚まして、今度は皆を安心させないとな!」

 

奏はナナシから体を離すと、そう言ってニッコリと笑いかけた。

 

「そ、そうか!でも本当に大丈夫か?無理してないか?ちゃんと起きられそうか?」

 

「…正直分からないな。こんな状態になったことなんて無いから…」

 

「あー、それじゃあ一旦“明晰夢”を解除して様子見するか?もしそれで目が覚めないようなら、あんまり気は進まないがちょっと怖い夢を見てもらうことになるかもしれないが…」

 

「怖い夢?」

 

「この能力、精神への負荷が一定を超えると目を覚ますんだよ。加減を間違えると今度は眠れなくなるから気を付ける必要があるけど」

 

「あー、お前の『悪夢』って渾名の由来か。眠れなくって…一体どんな夢見せたんだ?」

 

「最近だとキャロルやエルフナインを熱心に家へ招こうとするロリコン共の頭を冷やすためにプールに入れてやったな」

 

「プール?」

 

「ああ、わざわざ外国から遠路はるばる来てくれたみたいだから、中身の水は特別に『み』を一つ追加してやった」

 

「『みず』に『み』を追加?……あ~分かった、詳しく説明しなくて良い。そしてそんな夢は遠慮したい」

 

どんな内容の夢か察した奏は青い顔でその光景を追い出すように頭を振るった。そんな奏の様子にナナシは苦笑しながら答えた。

 

「幾ら翼から許可されていたって、奏にはそんな真似しないって」

 

「翼から許可…?」

 

「ああ、奏の相棒として、奏が目を覚ますためならあらゆる手段を許容するって言われたんだ」

 

「っ!!?」

 

ナナシの言葉に、奏は驚いたように目を見開いた。

 

「いや、流石にとんでもない悪夢を見せるようなことはしないって。要するに目が覚めるくらい感情を高ぶらせれば良いだけだから、奏に見せるのはもうちょっと娯楽寄りな何かにするよ。ん~生身でスカイダイビングとか?ゾンビパニックの世界を体験してもらう?でも奏は度胸あるから普通に適応して楽しみそう…めっちゃ可愛い路線でライブやるってのはどうだろう!?『キャハ♪』とか『きゅるるん♡』みたいな擬音が付きそうな振り付けや衣装で歌って踊る奏はきっと面白…いや、普段と違う経験が出来る興奮と楽しさでパッチリ目が覚めるはずだ!!」

 

「……」

 

ナナシが嬉々とした様子で奏に見せる夢の内容を語るが、奏は何故か黙して俯いたまま反応しない。怒らせてしまったかとナナシが思ったところで、奏が顔を俯かせたまま口を開いた。

 

「…なあ、ナナシ?一つ、試したいことがある」

 

「えっ!?いや、一旦能力を解除して様子見してからでも良くないか?」

 

「いちいち能力解くのも手間だろ?もしこれで駄目だったら大人しく起きるのを待つか、多少荒っぽい方法でも試してみてくれ。さっき言った可愛い衣装のライブでも構わないから」

 

「マジで!!?えっと、奏が無茶しなければ良いけど…どんな夢にすれば良い?」

 

「このままで良い。少し…ジッとしていろ」

 

「…?」

 

奏の言葉に疑問を感じつつ、ナナシが言われた通りジッとしていると、奏が顔を上げてナナシと視線を合わせた。その瞳に、ナナシは奏の強い覚悟と、高まっていく緊張と、他にも複雑に入り混じった名状しがたい感情を感じ取る。

 

そんな奏の感情に気を取られていた内に、奏の手がナナシの頬に触れて…

僅かに朱に染まった奏の、強張った顔が…

ナナシの顔に、ゆっくりと近づいて…

 

 

 

 

 

ナナシが奏に向き合ったまま動きを止めてから、まだ然程時間は経過していない。全員が緊張した面持ちで二人の事を見つめていると…不意に、奏の瞼がパチリと開かれると同時に、ナナシが立ち上がって奏と距離と取った。

 

「奏!!」

 

すぐに翼が目を覚ました奏に抱き着いた。奏は驚きつつ翼を受け止めて、苦笑しながらその背に手を回した。

 

「悪い、心配かけたな?」

 

「奏は何も悪くない!私達こそ…心配させてごめんなさい…」

 

「奏さんが無事目覚めて本当に良かったです!兄弟子なら出来るって信じてました!!」

 

「……」

 

「あれ?兄弟子?」

 

奏の無事を喜び、ナナシのことを称える響だったが、何故かナナシは奏達に背を向けたまま口を閉ざしていた。一同がそんなナナシの様子に疑問を感じていると…奏がジトッとした目でナナシを見ながら、やや不機嫌そうに声をかけた。

 

「おい、ナナシ…『解いた』のか?それとも『解けた』のか?」

 

「そんなの言わなくても分かるだろ?馬鹿みたいに感情高ぶらせて一体何をするかと思えば…そりゃ俺相手にあんなこと試そうとすれば未遂でも拒絶反応で目覚めるだろうさ!!」

 

「ふ~ん…」

 

口調が荒くどこか投げやりな様子でそう答えて自分の頭を掻くナナシ。まるで自然に能力が解けたような…明言を避けるように紡がれた答えに、奏は素っ気ない返事をするだけで追究しようとはしなかった。

 

その代わり…

 

「あたしにはあんたみたいな便利な能力は無いから、あんたが眠ったままになったら現実でさっきの方法を試してみるか?」

 

「何言ってんだおい!!?!?」

 

…奏が悪戯っぽい笑顔で呟き、ナナシが思わず振り返って僅かに赤い顔で奏に詰め寄った。

 

「一体どういう理屈だおい!!?そんなことしても無意味だから俺なんか目覚めるまでその辺にほっぽり出しておけよ!!?」

 

「あんたならあたしにトラウマ刻まないように無理してでも目覚めるかもしれないだろ?嫌なら精々気絶しないように頑張れよ!」

 

「そんな曖昧な理屈でとんでもないこと仕出かそうとするなよ!?このバカナデ!」

 

「んだと!?お前に理屈がどうこう言われる筋合いは無いぞ!この意気地ナナシ!」

 

「あぁ!?怖くて自分の心の中に引っ込んで震えて泣いていたお前に意気地がどうとか言われたくないぞ!この愚カナデ!!」

 

「はぁ!?自分で挑発した挙句にドタマぶち抜かれたマヌケが愚かとかほざくな!この碌でナナシ!!」

 

どんどんヒートアップしてお互いを罵り合う奏とナナシに、翼達は訳が分からぬまま呆然と成り行きを見守ることしか出来なかったが…どこまでも楽しそうに喧嘩する二人を見て、思わず苦笑しながらもう心配はいらないと安堵するのであった。

 

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