戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第144話

高級ホテルに備え付けられたジャグジーで、アダムがシャンパンを片手にジャグジーで寛いでいた。ジャグジーの縁にはティキが腰かけ、壁際にはまだ怪我が治りきっていないため至る所に包帯を巻いたサンジェルマン達が佇んでいた。

 

「確かに言ったはずだよ?僕は。シンフォギアの破壊をね」

 

「申し訳ありません」

 

アダムからの非難の言葉にサンジェルマンが頭を下げるが、カリオストロとプレラーティはそんなアダムに不快感を露わにしていた。

 

「わざわざ怪我を負ったあーしらを呼びつけてまで言うセリフがそれ?自分だって前回あーしらを巻き込みかけた挙句にあいつらを取り逃したくせに」

 

「いけ好かないワケダ」

 

「聞こえてるわよ、三級錬金術師共!アダムの悪口なんて許さないんだから!!」

 

ティキがアダムに対する二人の態度に苛立ちを見せるが、当のアダムは特に気にした様子もなく手にしたシャンパンを一気に呷ると話を進め始めた。

 

「アスペクトは遂に示された、ティキが描いたホロスコープにね」

 

「ならば、祭壇設置の儀式を…」

 

サンジェルマンが今後の計画をアダムに確認するが、アダムはもう話は終わったとばかりに立ち上がってティキに近づくと、ティキの体を持ち上げて戯れ始めた。

 

「えへへへへ♪」

 

「この手で掴もうか、神の力を!」

 

「いや~ん、ティキ飛んでっちゃう!」

 

既に自分達の事など眼中に無いかの如く、そのままアダムはティキを肩に乗せてその場を離れ始めた。

 

「完全世界の実現のために…」

 

サンジェルマンが離れていくアダム達を尻目に、これまで求め続けた悲願を再度自分の胸に刻み付けるようにポツリと呟いて…

 

 

 

『囀るな、心にも無いことを』

 

 

 

…その脳裏に、“紛い物”の呪詛が過った。

 

『一番騙したい自分自身すら欺き切れない虚飾に、一体何の価値がある?お前は、誤魔化しようのない、ただの…人殺しだ』

 

「っ!!」

 

頭の中でその言葉が繰り返される度に、サンジェルマンは古傷をジワジワ広げられるような痛みをその胸の内に感じていた。

 

サンジェルマンが胸の痛みに耐えていると、アダムとティキの姿が見えなくなったタイミングでカリオストロが忌々し気に口を開いた。

 

「嫌味な奴。あんなのが結社を統べる局長ってんだから、やり切れないね」

 

「そうだね。だけど私達が付いて行くのは、あいつでも結社でもないワケダ」

 

そう言ってカリオストロとプレラーティはサンジェルマンの方を向いて優しく微笑みかけた。二人の優しい笑みを見て、サンジェルマンは胸の痛みが和らいだように感じた。

 

「二人共…」

 

「これ以上、アダムにデカい顔させないためにも、本気出さなくっちゃね?」

 

「しかし、私は祭壇設置の儀式に取り掛からなければならないわ」

 

「元々サンジェルマンはまだまともに動ける体ではないワケダ。シンフォギアの破壊はこちらに任せて欲しいワケダ」

 

「だが…」

 

意気込む二人に、サンジェルマンは心配そうな視線を向ける。自分ほどではないが、二人の怪我も完全に癒えた訳では無い。そして…サンジェルマン達にとって、真に警戒すべき対象は既にシンフォギアではない。

 

「安心して、危ない橋を積極的に渡るつもりはないから。狙うのはあくまでシンフォギア。それ以外の相手は極力避けながら確実に戦力を削るように心がけるわ」

 

「…気を付けて」

 

「サンジェルマンもね?」

 

不安そうなサンジェルマンを置いて、カリオストロ達はホテルを後にした。その道中、カリオストロは真剣な表情でプレラーティに語り掛けた。

 

「極力避けるつもりだけど…もしチャンスがあれば、あーしらのどちらかが道連れにしてでもあの男を始末するわよ」

 

「異論無いワケダ…もうサンジェルマンに、あの男を近づけることだけは絶対にあってはならないワケダ」

 

 

 

 

 

エルフナインの招集によって、S.O.N.G.の一室に装者達と弦十郎達が集まって全員が一つのモニターに注目していた。モニターには何やら鉱石のような物が映し出されている。

 

「これは?」

 

「以前ガングニールと融合し、いわば生体核融合炉と化していた響さんより錬成されたガーベッジです」

 

「あー!あの時のかさぶた!?」

 

何処か見覚えがあると感じていた響はエルフナインの言葉に思わず大きな声を出してしまった。自分の体から生じた物質であるため響にとって馴染み深いどころではない。

 

「とは言え、あの物質にさしたる力は無かったと聞いていたが…」

 

「世界を一つの大きな命に見立てて作られた賢者の石に対して、このガーベッジは響さんという一人の小さな命より生み出されています。つまり、その成り立ちは正反対と言えます。今回立案するシンフォギア強化計画では、ガーベッジが備える真逆の特性をぶつけることで、賢者の石の力を相殺する狙いがあります」

 

「つまりは、対消滅バリアコーティング!」

 

「そうです。錬金思想の基本である、マクロコスモスとミクロコスモスの照応によって導き出された解答です」

 

「なるほどな…確かにそれなら、この物質は賢者の石に対抗する力を有していることに…」

 

「ええ、いけるわ!ナイスアイディアよ、エルフナインちゃん!!」

 

エルフナインの説明に、キャロルと了子が理解を示す。しかし錬金術の知識を持たない面々は少々理解が追い付いていなかった。

 

「誰か、解説してほしいけれど……」

 

「その解説すら分からない気がするデス」

 

「兄弟子、分かるように説明出来ますか!!?」

 

「サラッと無茶振りしてきたな、妹弟子。まあ出来なくはないけど…」

 

「出来るのかよ!!?」

 

響の無茶振りをすんなり受け入れるナナシに奏が思わずツッコミを入れてしまった。そしてナナシが手早く博士帽と白衣、伊達メガネを身に着けて雰囲気を出すと全員の前で何やら講義を始め出した。

 

「それではこれより『響でもギリ理解出来るかもしれない錬金思想の基本講座』を始めるぞ!」

 

「講座名が酷い!?」

 

「それじゃあまずは全員に分かりやすいよう、錬金術によって現代に発展した『化学』をベースに考えてみよう!」

 

響の抗議を聞き流しながら、ナナシは“収納”から両手に何かを取り出して説明していった。

 

「さてさて、今俺の両手に取り出したのは右手に石炭、左手にダイヤモンドだ。見た目も強度も真逆と言ってもいいこの二つの主成分が同じ炭素ってことはあんまり化学が得意ではない響と切歌も知っているだろう?」

 

「そ、それはもう!」

 

「と、当然デス!」

 

ナナシの問い掛けに若干言葉を詰まらせながらも二人は同意した。他の面々も当然問題は無い。

 

「成分だけでなく生成に熱と圧力を必要とするところも共通だ。違うのは求められるエネルギー量が桁違いってことだな。その違いによって同じ炭素から黒くて脆い石炭と、無色透明で自然界最硬のダイヤモンドという真逆の性質を持つ石が生まれるわけだ。それじゃあ次に…」

 

ナナシが両手を一度握って再び開くと、黒と透明の石は赤と青の石へと様変わりした。

 

「今取り出したのはルビーとサファイヤ、どっちも有名な宝石だよな?赤と青の対照的な色をした石だけど…この二つの宝石、実は同じ鉱石だってことは知っているか?」

 

「えっ!!?」

 

「そうなんデスか!!?」

 

「確か、両方ともコランダムという鉱石から出来ていたはずよね?」

 

「含まれる不純物の差で色が変わっているのだったか?」

 

「Exactly!!鉄が多く含まれているのがサファイヤで、クロムが多く含まれているのがルビーだ。ただ多くとは言ってもその差は1パーセント未満、実際は99パーセント以上同じ物質で出来ているんだ」

 

「ほぇ~…」

 

「不思議デス…」

 

「本当…」

 

実物を比較しながら語られる内容に響と切歌、調が興味を引かれたところでナナシが更に語り始めた。

 

「面白いよな?全然違うように見えるものが根本は同じだったり、逆に見た目は同じような物なのに中身は全くの別物だったりする物について学ぶのが化学って分野だ。そしてその原点とも言われる錬金術では、そういった万物の『本質』と『成り立ち』に重要な意味を見出す様々な思想が存在していた訳だ。その思想の中でも広く知られていたのが、さっきエルフナインが言っていたマクロコスモスとミクロコスモス…規模が桁違いなだけで宇宙の法則と人間の体の仕組みって本質は一緒じゃね?って考え方だ」

 

「宇宙と…?」

 

「人間が…?」

 

「一緒…?」

 

「Exactly!!宇宙とは大いなる存在の肉体であり、人は大いなる存在を構成する細胞や原子の一つである。そして人の肉体にはその内に納まる小さな宇宙が存在しており、この大小の宇宙は互いに影響を及ぼす程密接な関わりを持っているって感じの考え方だな」

 

「宇宙が、大いなる存在の体…」

 

「人の中には、小さな宇宙が…」

 

「だから人を知ることは万象を知ることに繋がり、万象を理解することで人は人を理解出来るって訳だ」

 

そう話を纏めたナナシは再度両手を閉じて開くと、その手には何の変哲もない石ころと眩い輝きを放つ黄金が現れた。

 

「そういった錬金術の思想から、エルフナインは世界を一つの命として作られた賢者の石と、響という一人の人間の命から作られたガーベッジ。『命から作られた石』という限りなく近い本質を持ちながら…規模という点で真逆の立ち位置にあるこの二つの関係を利用して……錬金術によって二つの石の力を反発………無力化させようって、こと…………だよ、な…?」

 

「はい!その通りです!!」

 

「納得出来ました!先生!!」

 

「何となく分かったデス!」

 

「うん!ギリギリ理解出来た気がする!!」

 

エルフナインが同意して、調が力強く頷き、切歌と響が非常に曖昧な返事をするのを聞いて全員が呆れ顔になる。するとクリスが響を見ながらニヤリと笑って口を開いた。

 

「その物質、どこぞのバカの中から出たってんだから、さしずめ『愚者の石』ってところだな?」

 

「愚者とは酷いよクリスちゃん…」

 

クリスの辛辣な意見に響が苦笑いでそう答えていると…

 

「うむ、なるほど!賢者の石に対抗する、愚者の石!」

 

「えぇ!?まさかの師匠まで!!?」

 

…弦十郎まで理解を示してしまい、響はショックを受けた。その会話を聞いていた切歌が口元を手で押さえて笑うのを堪えている。

 

「それで、その石は何処に?」

 

「一通りの調査を終えた後、無用不要なサンプルとして、深淵の竜宮に保管されていたのですが…」

 

深淵の竜宮…かつてヤントラ・サルヴァスパと呼ばれる聖遺物を巡ってレイアとクリス達が争った深海の施設の名前だ。その時の戦いで、今はもう海の底で瓦礫の山と化している。

 

「……」

 

「少々、厄介だな…」

 

友里の言葉を聞いたクリスが無言で俯き、原因を作ったキャロルが苦々しい表情を浮かべる。海底の瓦礫の中から石ころを一つ見つけるなど、並大抵の労力ではない。

 

「派手にご安心ください、マスター!その任務は、我ら『姉妹』が必ずや成し遂げてみせます!!」

 

すると、そんなキャロルの顔を見たレイアが笑みを浮かべながら自信満々にそう言い切ってみせた。

 

「…ああ、なるほど。確かにあいつには適任の仕事だな?」

 

「ええ、サブマスターに回収して頂き、マスター達によって修復されたあの子ならば派手に役立ってくれるはずです。是非とも活躍の場を与えてあげてください!」

 

「良いだろう。お前も傍で手伝ってやれ」

 

「はっ!」

 

「レイア君達の働きには我々も期待しているぞ。それではこれより、我々は『愚者の石』捜索任務を開始する!」

 

キャロルの命令にレイアは嬉しそうに笑みを浮かべていた。それを皮切りに、弦十郎が号令を出して全員が移動の準備を始めた。

 

「……」

 

「あれ?兄弟子、どうかしましたか?」

 

そこで響は、ナナシが真剣な表情で黙り込んでいることに気が付いた。思えば、講義を締め括った後からナナシは口を開いていない。ナナシの様子から響はナナシが何か重要な事を考えているのではないかと気になった。

 

「…悪い、響…頑張って考えてみたけど、『愚者の石』って名前がピッタリ過ぎて他に良い案が思い浮かばなかった」

 

「っ!?うわああああああん!!スッゴイ真剣に考えられた挙句に諦められたぁああああ!!!」

 

『あはははははは!!』

 

響の嘆きに、全員が思わず笑い声を上げてしまった。だがそのお陰で愚者の石捜索に対する悲観的な雰囲気が和らいだため、弦十郎達は相変わらずナナシは空気を変えるのが上手いと思いながら、明るくなった雰囲気を保つように朗らかに会話をしつつ現場へと移動を開始した。

 

 

 

「……」

 

 




錬金思想の話は独自解釈というか、作者がそういう風に理解しているだけなので間違っててもスルーしてくださいw
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