戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第146話

パヴァリア光明結社の錬金術師による襲撃を退け、愚者の石捜索を再開したS.O.N.G.の面々だったが、ナナシとレイアによって深淵の竜宮跡地がほとんど更地となって尚愚者の石は発見されていなかった。現在は潜水艦によって吸い上げた大量の泥に大勢で探知機を翳して愚者の石を捜索している。ナナシとレナも海底に直接探知機を翳しながら探索を進めていた。

 

ピピピピピピピッ!!

 

「およ!」

 

すると切歌が持っていた探知機から発見を知らせる電子音が鳴り響き、切歌が興奮したように探知機と目の前の泥の山に交互に視線を向けた。

 

「よし、切ちゃん。まずは落ち着こう…」

 

「およ~!!」

 

ベシャッ!!

 

調は興奮する切歌の様子に嫌な予感がしたため落ち着くように促したが一足遅く、切歌は探知機を放って目の前の泥の山に飛び込み、派手に飛沫を撒き散らした。

 

「デース!!」

 

満面の笑みでその手に掴んだ愚者の石を掲げてポーズを取る切歌。その背後には飛沫をモロに被って顔の半分を泥に覆われた調がしょんぼりした顔で佇んでいた。

 

「見せてくださ~い!」

 

ガッ!

 

「わぁぁぁぁ!?」

 

ガシッ!!

 

「なっ!?エルフナイン何を!!?」

 

ベシャリッ!!!

 

急いで愚者の石を確認しようとしたエルフナインは足元への注意が散漫となり、泥に混じっていた瓦礫に足を引っかけてしまった。その際近くにいたキャロルの服を咄嗟に掴んでしまい、不安定な足場で耐え切れなかったキャロルはエルフナイン諸共に泥の中に倒れ込んでしまった。

 

「こっちは見てらんない…」

 

二人の悲惨な姿に、響は思わず頭を抱えてそう呟いた。

その後オートスコアラー達の手を借りて起き上がったエルフナインは切歌から愚者の石を受け取って観察すると、その顔に笑みを浮かべた。その後ろではキャロルがファラにハンカチで顔を拭かれながら眉間に皺を寄せている。

 

「そうです!コレが賢者の石に抗うボク達の切り札!愚者の石です!!」

 

『おぉ~!!』

 

「すっかり…愚者の石で定着しちゃったね…」

 

周囲が歓声を上げる中、自分の肉体から生まれた石の名がすっかり愚者の石で定着してしまったことに響は肩を落として落ち込んだ。

 

ザバリッ!

 

「見つかったか!」

 

そこに愚者の石発見の連絡を受けたナナシとレナが海面に浮上してきた。ナナシは作業船へと上がり、レナは前回の事を気にして頭部だけを海面から覗かせている。

 

「いやー良かった!どっかに流されているとかだったら実動部隊全員に“血晶”持たせて深海ツアーを開催するところだった!って、お前ら泥だらけじゃないか?泥は服も髪も洗って落とすの大変だぞ?調、ちょっと来い」

 

「え?は、はい」

 

調が呼ばれるがままナナシに近づくと、ナナシは調の髪をひと撫でして付着していた泥を“収納”した。

 

「これで洗う手間が大分減らせるだろ?」

 

「先生、ありがとうございます!」

 

「ナナシさん、ボクにもお願いします!泥を落として頂ければすぐにでもシンフォギアの改修が出来ます!」

 

ナナシが無言で手招きすると、エルフナインが嬉しそうにナナシに近づく。ナナシはエルフナインに手を伸ばして…ひょいっとエルフナインの手から愚者の石を取り上げた。

 

「へ…?」

 

「ホイ、了子。後はよろしくお願いします!」

 

「ハイハ~イ、よろしくお願いされました~♪」

 

事前に連絡していたのか、いつの間にか近づいていた了子が笑顔でナナシから愚者の石を受け取って研究室へと向かって行った。

 

「あ、あの、ナナシさん?ボクも一緒に…」

 

「ここ数日碌に休まず資料と泥の中から愚者の石を探し続けたエルフナインちゃん様にはご褒美(お仕置き)にオートスコアラー達による熱烈ご奉仕が待っています。丁寧に丸洗いされて来なさい!」

 

「さあ、参りましょう!エルフナイン様!!」

 

「綺麗にするんだゾ!」

 

「え、えぇ~!?」

 

「キャロルお嬢様のことも頼んだぞ、ガリィ」

 

「はぁ~い、承りました~♪」

 

「なっ!?何故オレまで!!?」

 

「エルフナインの家族として連帯責任とオートスコアラー達に対する労いだな。精々主人らしくご奉仕されて来い。ああ、レイアはレナと一緒に服のデザインを考えてくれ。お揃いの衣装が着たいんだってさ」

 

「承知しました!派手な衣装を考えてみせましょう!!」

 

(かわいいのがいい…)

 

キャロルとエルフナイン、オートスコアラー達が大騒ぎしながら移動する光景に苦笑しつつ、響達もその後に続いて行った。

 

 

 

 

 

「か~!五臓六腑に染み渡るデース!!」

 

「流石、石の発見者は言う事が違う」

 

切歌が熱いシャワーを頭から被って至福の声を漏らす。調は切歌から泥を被らされたせいか若干棘を感じる受け答えをしていた。

 

「アワアワ~♪ピカピカにするんだゾ~♪」

 

「ミ、ミカ!?泡が多すぎませんか!!?それに、そんな丁寧に洗わなくても、泥さえ落としてくれれば…」

 

「ええ、砂粒一つ残さないよう泥をしっかり落としましょう。そのためにはじっくりたっぷり時間を掛けて洗い流しましょうね~♪」

 

「ふえええ!?」

 

「そう慌てずとも、あのフィーネならば早々に基礎術式を組み上げるであろう。もう諦めてこいつらの好きなようにさせてやれ」

 

「そうですよ~♪諦めてマスターのように私達にお体を好き勝手弄ばせてくださいな♪」

 

「妙な言い方をするな!!」

 

他のシャワー室では、ミカとファラに泡塗れにされて羊のようになったエルフナインと、最早達観した様子でガリィに髪を洗われるキャロルの姿があった。

 

「あははは、そんなに慌てなくても今頃了子さんが頑張ってくれてるさ!」

 

「泥に塗れた奇跡を、輝かせるために…」

 

「対抗手段、対消滅バリア…愚者の石の特性で、賢者の石を無効化すれば…」

 

「この手に勝機は握られる」

 

ようやく見出した反撃の兆し、否応なく装者達の期待が高まる中で、響だけがその手を握りしめていた。

 

(だとしても、まず…)

 

 

 

 

 

ゆっくりと身を清めた歌姫達が通路を歩いていると、休憩スペースに弦十郎とナナシ、レイアの姿があった。弦十郎は響達を待っていたようで、響達の姿を確認すると立ち上がった。ナナシとレイアはデザイン画らしき物を机に広げて話し合っている。

 

「うむ、揃っているな」

 

「師匠?何ですか、藪から棒に?」

 

「全員、トレーニングルームに集合だ!」

 

『はぁ…?』

 

ようやく愚者の石捜索という大仕事が終わってリラックスしていたところに出された弦十郎の指示に、全員が困惑してしまった。

 

「トレーニングって…おっさん!愚者の石が見つかった今、今更が過ぎんぞ!?」

 

「これが映画だったら、たかだか石ころでハッピーエンドになるはずがなかろう!」

 

「何だよ、それ…」

 

「この暑苦しい感情…諦めた方が良いぞ、クリス。こうなった弦十郎は猪突猛進だから」

 

納得出来ない様子のクリスに、ナナシはそう言ってデザイン画を“収納”しながら立ち上がる。弦十郎はバシンと拳を掌に打ち付けてニヤリと笑った。

 

「御託は、ひと暴れしてからだ!」

 

 

 

 

 

パヴァリア光明結社の拠点では、傷ついたプレラーティが錬金術で傷の治療を受けていた。今回の傷はキャロルとナナシに返り討ちに遭った時よりも深く、プレラーティの意識は未だに戻っていなかった。

 

「……」

 

眠るプレラーティを見つめながら、カリオストロは無言で思案していた。

 

 

 

『じゃあ生贄を使えばいいんじゃないかな?』

 

『え…?』

 

『あの二人のどちらかを…』

 

『っ!!?』

 

『充分に足りるはずさ、祭壇設置の不足分だってねぇ…完全な肉体より錬成される生命エネルギーならば…』

 

『局長…!あなたは、どこまで人でなしなのか!?』

 

『選択してもらおうか?君の『正義』を…』

 

 

 

サンジェルマンとアダムのやり取りを、カリオストロは隠れて聞いていた。それによってこれから起こる事態をカリオストロが考えていると、サンジェルマンが部屋に入ってきた。

 

「プレラーティの修復は?」

 

「順調よ。時間は少しかかるけど」

 

カリオストロは心の内を一切表情に表すことなくサンジェルマンの質問に答えた。サンジェルマンはプレラーティに毛布をかけ直しながら心配そうな視線をプレラーティに向けていた。

 

「同じ未来を夢見た仲間を…」

 

 

 

『こいつが今の在り方のまま歩みを進めるつもりなら…いつかきっと、こいつは目的のために仲間を犠牲にする』

 

 

 

傷ついた仲間の姿に、ナナシの言葉がサンジェルマンの頭に過る。それを気取られないように歯噛みするサンジェルマンだったが、カリオストロは雰囲気でサンジェルマンの葛藤を感じ取っていた。

 

「そうね、仲間を傷つける奴は許さない…あーしも腹を括ったわ」

 

故にカリオストロは、現状を打破するためにある決意を固めた。

 

 

 

 

 

弦十郎の呼び掛けによってトレーニングルームに集まった装者達。奏とキャロル、エルフナイン、オートスコアラー達はモニターでその様子を見ていた。すると…

 

「おっまたせ~♪愚者の石の力を引き出す術式、完成したわよ~♪」

 

「皆さん、こちらにいましたか」

 

「お邪魔します」

 

了子が軽い口調で任務達成を報告しながら奏達の前に現れる。了子に付き添うように緒川と未来も一緒に部屋へと入ってきた。

 

「え!?もうですか!!?」

 

「流石は錬金術の祖たるフィーネ、と言ったところか?」

 

「当然よ!この私にかかればこの程度チョチョイのチョイよ!!」

 

「緒川さんと未来も来たのか」

 

「未来さんから皆さんの様子を知りたいとお願いされたので連れてきました」

 

「す、すみません。響から海の中での探し物が終わったって聞いたから、つい…皆の様子はどうですか?奏さん達もお怪我はありませんか?」

 

「多少泥で汚れたから、さっき皆でひとっ風呂浴びてサッパリしてきたところだ」

 

「泥んこになったマスターとエルフナイン様はあたし達でピカピカにしたんだゾ!」

 

「あ、あはは、隅々まで洗われました…」

 

「そうなんだ、確かにピカピカだね?泥だらけだったなんて信じられない」

 

未来がサラサラになったエルフナインの頭を撫でる。未来の言葉にミカ達が誇らしそうに胸を張っていた。

 

「それで、響さん達は何処に?ひょっとしてまだ入浴中ですか?」

 

「いや、それが…」

 

「トレーニングプログラム、開始します!」

 

緒川達が話している途中で、友里が機器を操作してトレーニングルームに街中の光景とアルカノイズの群れを投影させた。

 

「このタイミングで訓練ですか?」

 

「せっかく私が超特急で仕事を仕上げたんだから、早くシンフォギアの改修に取り掛かりたいんだけど?」

 

「それが、その…」

 

「あの風鳴弦十郎が訳の分からない理屈を並べて強引にあいつらを引っ張っていったのだ」

 

「「あ~…」」

 

キャロルの言葉に、了子と緒川は納得したように声を漏らした。

 

「ん?ちょっと待って。ここにいないってことは…」

 

「もしかして…」

 

「どうかしたんですか?」

 

何やら意味ありげな事を口にする了子と緒川に未来が質問すると、二人は何とも言えない表情で未来を見つめた後、気の毒そうにアルカノイズと戦う装者達を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

プログラムで再現されたアルカノイズを危なげなく全滅させた響達。マリア達も新型のLiNKERによってほとんど支障もなくギアを纏えるため、訓練としてはこれまでにない記録を叩き出していた。

 

「だからって、大人げない!」

 

そんな絶好調なマリアでさえ、アルカノイズの後に現れた訓練相手にはそうぼやかずにはいられなかった。

 

マリアの視線の先には、動きやすいジャージ姿で軽いストレッチをする弦十郎と…弦十郎の隣で同じような動きをするナナシがいた。

 

「今回は特別に、俺達が訓練をつけてやる!遠慮はいらんぞ!!」

 

やる気満々の弦十郎に、クリスが思わずげんなりとした表情をしてしまった。

 

「ちょっと待った弦十郎。始める前に大事な事を確認したい」

 

そう言って今にも飛び出そうとする弦十郎をナナシが引き止める。

 

「誘われたからノリで付いて来たけど、俺は歌姫側で参加するんだよな?まさかとは思うけど俺とお前で組んであいつらを相手しないよな?それはもう訓練と言うよりただのいじめだぞ?」

 

「随分舐めた事言ってくれんじゃねえか!?てめえら二人にあたしら六人じゃ相手にもならねえってか!!?」

 

「おい、言っとくけどこのおっさん“化詐誣詑”状態の俺より強いからな?」

 

「「「え゛っ!!?」」」

 

クリスの文句に対するナナシの返しに、マリア達三人の口から変な声が漏れた。三人は“化詐誣詑”状態のナナシとヨナルデパストーリの戦闘を間近で見ていたが故に、ナナシの言葉が信じられなかったからだ。

 

「えっと…つまり…風鳴司令は、あのヨナルデパストーリ以上の戦闘能力を有している…?」

 

「Exactly!!物理攻撃が有効な時点で、突撃と噛みつきぐらいしか能のない巨大蛇に弦十郎が負ける訳ないだろ?ウチのボス舐めんな」

 

「過大評価が過ぎるぞ、ナナシ君。首を落としても完全に回復される以上、実際に戦ったら最終的には俺が敗北する。精々数日足止めするのが関の山だ」

 

ナナシの言葉に謙遜する弦十郎であったが、決め手が無いだけでギアを纏ったマリア達が手も足も出なかった山程の巨体の化け物相手に数日足止め可能と断言する時点で色々おかしい。

 

「ってことで、戦闘を成立させるつもりなら俺が歌姫達に付くか俺と弦十郎が交代で歌姫達を相手にするべきだと思うんだけど?」

 

「……いや」

 

弦十郎はナナシの言葉を否定して、装者達、ナナシ、そして自分自身と順に指さした。

 

「装者達VSナナシ君VS俺の三つ巴にしよう。一つの戦場に複数の勢力が対立している想定訓練も出来て丁度良いだろう?」

 

「なるほど…それじゃあ最後に質問だけど、これは『稽古』か?それとも『模擬戦』か?」

 

「『模擬戦』だ」

 

「了解、それじゃあまずは…ルールを決めるか!」

 

何やら弦十郎に確認を取ったナナシは、突然そんなことを言い出した。

 

「ルール、ですか…?」

 

「Exactly!!始める前に禁止事項とか細かい取り決めをしておこう。例えば…」

 

「んなまどろっこしい事してないで、とっとと始めようぜ?」

 

ナナシの言葉を遮って、クリスが訓練の開始を希望した。

 

「ルールや法律なんてのはお上に任せりゃ良いんだよ。こっちは戦場で無法者を相手に命懸けで戦ってんだ。邪魔者は全員ぶっ飛ばす、それ以外に何があるってんだ?」

 

「おい、雪音…」

 

「ふーん、そっか。じゃあルールは無しで良いな!」

 

乱暴なクリスの意見を窘めようとする翼だったが、それよりも先にナナシが同意して話を締め括ってしまった。

 

「弦十郎。お願いなんだけど、やっぱり先に俺がこいつらの相手をして良いか?三つ巴はその後ってことで!」

 

「む?別に構わないが、あまり本番前に体力を使うのは…」

 

「大丈夫!こいつらの体力が減るような戦いになんてならないから!!」

 

「なっ!!?」

 

満面の笑みで挑発するような発言をするナナシに、クリスが苛立ちを露わにした。

 

「てめえ…!」

 

「それなら別に問題ないだろ?」

 

「…分かった。ただし、響君は外させてもらう。ガングニールの攻撃が君に当たっては危険だ。本番の三つ巴でも、響君だけは俺のみに集中してもらう」

 

「ありゃりゃ、唯一の勝ち筋まで無くなるのか。俺は別に大丈夫だぞ?」

 

「わ、わたしはちょっと怖いので、師匠に賛成です!」

 

「ハン、てめえなんてあたし様一人でも充分なくらいだ!!そのバカが居なくたって…」

 

カシャンッ!!

 

『っ!!?!?』

 

クリスが激昂して文句の言葉を口にしている途中で…響以外の装者全員が、ナナシの“障壁”に閉じ込められてしまった。

 

「え?え?」

 

「いきなりデスか!?」

 

突然自分達の周囲を完全に囲まれてしまい、調と切歌は困惑しながら“障壁”をペタペタと触ることしか出来なかった。

 

「おい、卑怯だぞご都合主義!」

 

アームドギアを展開するスペースすらなく、クリスも“障壁”を手でゴンゴンと叩いて抗議の声を口にする。しかしナナシは気にした様子もなく“収納”から漫画を取り出して読み始めながらおざなりな様子で答えた。

 

「開始の条件なんて決めてなかっただろ?」

 

「ふざけんな!完全に不意打ちじゃねえか!?」

 

「へえ、お前の言う戦場では不意打ちは一切起こらないのか?無法者ってのは随分と優しい奴らなんだな?」

 

「なっ!!?」

 

「“障壁”の強度は、絶唱の一撃さえも凌ぐほどだ」

 

「これじゃあどう足掻いても出られないわね…クリス、諦めなさい」

 

「ぐぬぬぬぬ……わーったよ!あたしの負けだよ!!さっさと出してくれ!!」

 

不貞腐れた顔で負けを認めるクリス。だが、クリスの敗北宣言を聞いてもナナシは“障壁”を解除することなく漫画を読み続けていた。

 

「おい!?無視してんじゃねーよ!!?参ったって言ってんだから、さっさとあたしらを解放しろよ!!?」

 

怒鳴り続けるクリスに、ナナシはようやくクリスの方に視線を向けると…

 

 

 

「敗北の条件なんて決めてなかっただろ?」

 

 

 

…真顔でそう言ってのけた。

 

「は…?負ける、条件…?」

 

「お前らが降伏するのは勝手だけど、それを俺が受け入れてやる義理は無い。このまま続行だ」

 

「ふざっ!?ふざけんなよ!!?こっちが負けだって言ってんだからそれで良いだろうが!!?」

 

「クリス、本気で言ってんのか?俺達は既に亜空間の檻なんて訳分かんねえ空間に閉じ込められたことがあるんだぞ?もしエルフナインが途中で仕組みに気付かずイグナイトの活動限界が迫ってたら、お前は土壇場で降伏したら出してもらえたとでも思ってんのか?甘えんな」

 

「ぐっ!!?」

 

まさにぐうの音も出ないような正論に、クリスは口を噤んでしまう。そんなクリスに、ナナシは諭すように言葉を続けた。

 

「クリス、お前のその強気な態度は自分を強者だと思わせる一種の自己暗示だってのは大体皆理解している」

 

「なっ!!?」

 

「お前の戦闘センスは装者の中でも相当に高い。実力の高いお前が見せる自信満々な姿は仲間達の士気を上げることになるから、それは決して悪いことでは無い」

 

「へっ!!?」

 

「だけどそれは、それ以外では自分に誇れる物は無いと考えるが故に、執拗に自分の強さを誇示しようとする卑屈さの表れでもある。勉強や人付き合いなんかの慣れないことにも精一杯向き合って努力し続ける心の強さも、感受性が豊かで自身の胸の内に生じた想いを溢れんばかりに言葉に籠められる素晴らしい歌の才能も、碌に手入れもしていないはずなのに世界に通用しそうなほど整った容姿も、周りの平均値が高過ぎて自覚出来ていない!」

 

「ふぁっ!!?!?」

 

「正直今すぐにでもアイドルとしてプロデュースしたい!!ツヴァイウィングや歌姫マリアと肩を並べさせて競わせ組ませて全世界にその歌声を響かせたいぃいいい!!!」

 

「何の話だおい!!?」

 

「おっと悪い、話が逸れた」

 

真顔で紡がれる自分の事を貶めているのか褒めているのか口説いているのか分からないナナシの評価にクリスは目を回して狼狽えていたが、突然ギラギラした瞳で暴走したように願望を叫ぶナナシにようやくツッコミを入れることに成功した。

 

「その話はお前がリディアンを卒業する時期が近づいてから改めてするとして…」

 

「具体的な計画を立てるな!!」

 

「俺が言いたいのは、腕っぷしだけを拠り所にしているとそれが通用しなかったら精神的に追い詰められるぞってことだ。相手の方が自分よりも強かったり、全力を出せない状況に追い込まれた時に取り乱したことは無かったか?」

 

「っ!!?」

 

ナナシの指摘に、クリスが言葉を詰まらせる。自分の力が及ばず無力を嘆いたことは、これまで幾度もあった。

 

「お前の言う無法者って奴らは、無意味に法や秩序を破っている訳じゃない。それ以上に貫きたい自分のルールを持っているんだ。それを守るために動き出した時点で、既にそいつらの覚悟は決まっている。そんな奴らを相手していく上で重要なのが、自分達にとっての『勝利』を明確に意識することだ」

 

「勝利…?」

 

「核兵器で街ごと敵を消し飛ばすのを勝ったって言えるか?人的、物的被害をゼロに抑え込んでも敵に逃げられたら敗北なのか?例え何千、何万回と失敗しても、ただの一度でも成功すれば逆転が可能な勝機があるか、逆にただの一度でも失敗すればどう足掻いても巻き返しは不可能な絶対防衛ラインは何か、そんな風に自分達の勝利と敗北の条件を明確化することで、進んだり避けたりすべき道が見えてくる。その道を迷わず進むための道標が、さっき言った『ルールを定める』ってことだ。自分にとっての勝利がイメージ出来ないから…不意に現れた勝機を、慌てふためいて取り零すことになるんだよ」

 

「なっ!?てめえ!!!」

 

最後の言葉で、クリスはナナシの言葉の意味に気付いて思わず声を荒げてしまった。

 

「どうした?俺の『戦場に立つ上での心構え』は、そんなに納得出来ない考えだったか?」

 

「……チッ」

 

しらばっくれるナナシに、クリスはそれ以上追究することなく舌打ちするだけに留めた。

 

「わざわざ俺と弦十郎がヒントを出してやったのに、碌に考えず突っ走った結果がこの現状だ。不死身()相手にルール無用なんて条件、弦十郎でも絶対に飲まねえよ。迂闊さの罰だと思って精々足掻け。流石に数日閉じ込めるのは勘弁してやる。あるリミットを迎えたら改めてルールを決めて本番に移行してやるよ」

 

ナナシの言葉に全員が少し安堵する。時間制限を設けてくれるなら、最悪そこまで耐えれば良いと全員が考えて…

 

「お前らの誰か一人がトイレを我慢出来ず限界を超えた時点で解放してやるから、それまで頑張れ」

 

「「「ええええええええええええ!!?!?」」」

 

「「「ちょっと待てぇえええええ!!?!?」」」

 

調、切歌、響が驚愕の声を上げて、翼、マリア、クリスが思わず抗議の声を叫ぶ。

 

「ナ、ナナシ、流石に冗談…よね?」

 

マリアの問いに対するナナシの返答は、ニッコリとした笑顔だった。普段と変わらぬ笑みと、その瞳にマリア達に監禁をほのめかした時と似た光を見たマリア達は「あっ、これ本気(マジ)だ」と理解してしまった。

 

「うわああああん!マズいデス調ぇええええ!!さっきトイレ行こうか迷ったけど訓練後で良いと思って我慢しちゃったデスよぉおおおお!!!」

 

「切ちゃん!?そういうことは大声で言っちゃ駄目だよ!!?」

 

「くっ…心配するな、暁…いざという時は…!」

 

「一応言っとくけど、解放条件は『我慢の限界を超えたら』だから、仲間を庇うために自発的に漏らした場合は放置するからな?」

 

「くっ!?」

 

「とんでもねえ覚悟決めんのが早すぎだろ先輩!?流石にもうちょっと躊躇えよ!!?」

 

「狼狽えるな!!」

 

混乱に陥るクリス達だったが、マリアが凛とした声で全員に呼び掛けた。

 

「落ち着いて考えなさい!その男は厳しい態度を取っていても根はお人好しなのよ!?きっと何らかの打開策はあるはずよ!!その勝機を見つけ出すの!!」

 

マリアが堂々とした振る舞いで…しかし、その足だけは生まれたての小鹿のように震わせて動揺を抑え込んでいる様に、クリス達は落ち着きを取り戻した。マリアの言葉に納得したと言うよりは、自分より動揺した人間を目にして冷静さを取り戻したといった感じだが…ともあれ、全員がこの状況を打開するための勝機を探し始めた。

 

それぞれの視界に、自分と同様に“障壁”に閉じ込められた仲間達、漫画を読み続けるナナシ、苦笑して佇む弦十郎、巻き込まれず安堵しつつどうすれば良いか分からないでオロオロする響の姿が映って…

 

「あっ!?響さん、助けてください!この“障壁”を壊して!!」

 

「ふぇっ!?でも、わたしは…」

 

「はい!響さんが参加すれば、私達の『反則負け』です!!」

 

「な、なるほど!それじゃあ…」

 

「ハイ、正解」

 

パチンッ!

 

響が動き出すよりも先に、ナナシが指を鳴らして閉じ込められた装者達を“障壁”から解放した。

 

「た、助かった!助かったデスよ調ぇえええ!!」

 

安堵して泣きつく切歌を調が宥めている間に、ナナシは漫画を仕舞って再び装者達へと語り掛けた。

 

「さて、それじゃあ本番の準備を始めようか!自分達にとって勝利とは、敗北と何か?そのために定めるべきルールは?弦十郎がこのタイミングで訓練を強行した意味は何か?弦十郎に便乗して俺が講義してやるから頑張ってお勉強していこう!安心しろ!もし頭で理解出来なくても、体と心に嫌でも理解さ(わから)せてやるから!」

 

顔を青くして震える装者達と苦笑する弦十郎を前に、ナナシは悪い笑顔で宣言した。

 

 

 

「力の強弱なんて一笑に付す…“紛い物”の流儀を見せてやる!」

 

 




少々後半が蛇足というか、上手く纏められなかった感じですが、どうしてもここで区切って次回訓練で一話使いたかったんですw
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