戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第15話

「何で、学院に?」

 

「目的地がここだからな」

 

響達を乗せた車が到着したのは私立リディアン音楽院。そこの中央棟付近で車を降りて、響達は建物の中を進んでいた。

 

「てか、やっぱりここの生徒か。制服着ていたからまあそうだろうとは思ったけど」

 

「あ、はい。今年からこの学院に通うことになりました!」

 

「新入生か。やっぱりこのSAKIMORIって学校じゃ人気者なのか?」

 

「サキモリって翼さんのことですか?それはもう!学校どころか今やこの国中、いえ、海外にだってツヴァイウィングのお二人のことは知れ渡っているんですから!そんな憧れのツヴァイウィングのお一人、風鳴翼が同じ学校の生徒として通ってるんですよ!?みんな注目するに決まってるじゃないですか!」

 

「おやおや、それは嬉しいな。二人のファン兼マネージャーとしては、響みたいなファンの子には感謝しかないよ」

 

「お二人のマネージャーなんですか!?」

 

「って言っても基本は補佐だけどな。メインはそこの慎次で、俺は雑用係みたいなものだよ。ああ、これ俺の名刺。一般に出せるレベルの情報なら教えられるから、何か気になったら気軽に連絡してみてよ」

 

「ありがとうございます!!」

 

歩きながらナナシと響だけが会話をしており、その流れでナナシは響に自身の名刺を渡す。手錠で拘束された手で響がそれを受け取ると、会社名や連絡先の記載と、中央に大きく「風鳴 ナナシ」の文字が書かれていた。

 

「風鳴?」

 

「ああ、一応このSAKIMORIの遠縁の人間ってことになっている。色々と話が通りやすいし、それなら人間離れした技能を披露しても関係者に納得されることが多い。俺は自分でそっちを名乗ることは基本無いから、響もナナシと呼んでくれると助かる」

 

「人間離れ?…えっと、分かりました。ナナシさん」

 

「ナナシ、喋り過ぎよ。部外者の前でペラペラと…」

 

「なら代わりに話し相手になってくれよ。不機嫌ですってオーラ全開で、車の中でも終始無言を貫かれて響も居心地悪いだろうが。それに、本当に『部外者』でいられるとでも?」

 

「……」

 

「え、えっと…」

 

「お話し中すみません。こちらに乗ってください」

 

響達がそんな会話をしていると、いつの間にか棟内のエレベーターの前に到着していた。四人は中に入ると、緒川が端末を操作してエレベーター内に手すりを出す。

 

「それじゃ、危ないから手すりをしっかり掴んでくれ」

 

「え?危ないって…?」

 

「まあまあ、とりあえずしばらく構えておいてくれ」

 

ナナシが響の手を手すりにしっかり掴ませると、それを確認した緒川はエレベーターを動かした。

 

「わあああああぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

一気に降下しだしたエレベーターの速度に、響が思わず悲鳴を上げる。少しして慣れたのか、苦笑しながら翼の方に視線を向ける。だが…

 

「愛想は無用よ…」

 

そう翼はにべもなく言った。

そんな翼の態度に響は悲しそうな表情を浮かべるが、翼はそんな響の様子を無視して

 

「これから向かう所に、微笑みなど必要ないから…」

 

と言った。

それを聞いたナナシの口角が吊り上がり、何かを思いついたような悪い笑顔を浮かべる。

それに気が付いた翼は、嫌な予感がして思わずナナシに問いかけた。

 

「…何を企んでいる?」

 

「さあ、何だろうな?」

 

ナナシは翼の質問には答えず受け流す。再度翼が問いかける前にエレベーターは目的地に到着し、その扉が開かれると…

 

パァン!パァン!

 

それと同時にクラッカーの音が鳴り響き、紙吹雪が舞い上がった。

響達の視線の先には「熱烈歓迎!立花響さま☆」「ようこそ二課へ」という看板が見え、部屋の中にいる多くの人間が笑顔で響達のことを見ており、まるで歓迎会のような雰囲気だった。

 

「ようこそ!人類守護の砦!特異災害対策機動部二課へ!!」

 

そして、シルクハットを被りステッキを持った弦十郎が満面の笑みを浮かべた状態で、腕を大きく広げて全身で響を歓迎する態度を表していた。

 

「へ?」

 

響は翼の態度から想像していた場所とは全く異なることに呆然とし、翼は頭を抱え、緒川は苦笑を浮かべる。そしてナナシは…

 

『愛想は無用よ…これから向かう所に、微笑みなど必要ないから…』

 

…“投影”を使用して先程の翼の言動を二課の皆の前に映し出していた。

 

「ねえSAKIMORI?今どんな気分?何か雰囲気作って響にクールなこと言っていたのに、蓋を開ければそこかしこに笑顔が溢れている光景を見せられたSAKIMORIは今どんな気分なのかな?詳しく教えてよ?」

 

ここぞとばかりに悪い笑顔で翼に問いかけるナナシ。翼は必死にナナシと目を合わせないようにしているが、その顔は真っ赤に染まっていた。

そんな翼に助け舟を出したのは、ナナシが出した“投影”の光景に驚いた響だった。

 

「ええっ!?空中に突然映像が!?」

 

その声に反応したナナシは響の近くに移動する。そのことにあからさまに翼はホッとした。

 

「あははは!俺には色んな特技があってな!例えばこんなこととか」(何もない空中から物を出し入れする)

 

「ええっ!?」

 

「こんなこととか」(響の声真似)

 

「わたしの声!?」

 

(こんなことだって出来る)

 

「っ!!?頭の中に声が!!?」

 

「さて、そこにシルクハット被ってステッキを持ったOTONAがいるだろ?あの人が今から俺より凄いことしてくれるから期待するといいよ!」

 

「ナナシ君!?雑に俺のハードルを引き上げないでくれないか!!?これはただのジョークグッズでそんな大それたことはできないぞ!!?」

 

「えー?俺の時は時間が無くてしょぼかったから今度は派手にするって言っていたじゃないか?」

 

「い、いや、だからこうして皆で派手に歓迎会をだな…」

 

「ほらほら、弦十郎にもあるだろう?普通は出来ない凄いこと」

 

そう言ってナナシは弦十郎に“念話”を繋げる。それでナナシの意図を把握した弦十郎は、響のもとまで近づくと、その手をとって…

 

バキバキバキッ!

 

…響を拘束する手錠を素手で破壊して外してしまった。

 

「ええええええええええええええ!!?!?」

 

「窮屈な思いをさせて済まなかったな!俺は風鳴弦十郎、ここの責任者をしている!」

 

そう言って弦十郎が緒川に手錠の残骸を手渡さそうとすると…

 

「…いや、司令。二課の備品を勝手に壊さないでくださいよ」

 

「……あ」

 

「司令のお給料から天引きさせていただきます」

 

緒川の言葉に弦十郎が頭を抱える。そんな弦十郎にナナシが笑いながら声をかけた。

 

「全く弦十郎、いいOTONAが組織の物を勝手に壊しちゃ駄目じゃないか。一体何をやっているんだ?」

 

「…ナナシ君、最近模擬戦をやっていなかったな?俺もお役所仕事ばかりで最近運動出来てなかったし、ちょっとトレーニングルームまで付き合って貰おうか!」

 

「慎次!慎次助けて!!OTONAが!OTONAが暴力に訴えようとしてくる!!」

 

「自業自得です。大人しく諦めてください」

 

「…よーし弦十郎!久しぶりに本気でやろうか!前の俺達の模擬戦を参考に強化されたトレーニングルームなら大丈夫だ!強くなった俺と、輪をかけて強くなった弦十郎の実力を皆に見せてやろう!」

 

「!?」

 

「そうだな!俺も久しぶりに本気を出すとしようか!」

 

「くっ!分が悪いからってナナシさんの標的がこちらに…待ってください!お二人が本気なんて出したらトレーニングルームどころか本部全体が危ない…」

 

男三人がギャーギャー騒がしくしていると、手錠を外した響に了子が近づいていった。

 

「さあ!さあ!笑って笑って!お近づきの印にツーショット写真~♪」

 

そう言って、了子が響と肩を組み、携帯を使ってパシャパシャと写真を撮る。

 

「えっ!?ええっ!?」

 

ナナシ達のやり取りに気を取られていた響は、突然の了子の行動に困惑した声を上げる。

 

「私は出来る女と評判の櫻井了子。よろしくね♪」

 

「は、はあ…」

 

そんなやり取りをしている二人に気が付いたナナシが、響に声をかける。

 

「気を付けろ響!その女が昔俺を皆の前で全裸にひん剥いた張本人だ!」

 

「うえええええぇ!!?」

 

「んもう!ナナシちゃん!人聞きの悪いこと言わないでちょうだい!」

 

「真実だ!証人は弦十郎に慎次に翼!そして裸の俺を連れまわす了子に遭遇した藤尭と友里だ!!」

 

「ああ…あれはびっくりしたな…」

 

「ええ…本当に…」

 

「(ピキピキッ)…ナナシちゃん、最近メディカルチェックしてないわよね?久しぶりにナナシちゃんのことも隅から隅まで徹底的に見てあげましょうか♪」

 

「助けて藤尭!友里!今度こそ殺される!ホルマリン漬けにされちゃう!」

 

「今度こそも何も、一回もそんなことしようとしたことないわよ!!」

 

ナナシ達のやり取りを見て二課の大人達は笑い声をあげる。ナナシが二課に訪れてから約二年、目の前で繰り広げられるような出来事は今までも多々あった。今やナナシが誰かをからかう光景は、二課の中では日常となっていた。

 

「…なああんた、ちょっといいかな?」

 

大騒ぎをするナナシ達を眺めていた響のすぐそばに、いつの間にか近づいてきた人物がいた。響が声をかけられた方に振り返ると…

 

「あっ…」

 

「…久しぶり。それとも初めましての方がいいかな?」

 

「奏、さん…」

 

ツヴァイウィングのもう一人、翼の片翼である天羽奏がそこにいた。

奏の言葉を近くで聞いていた翼は、思わず二人の会話に割って入る。

 

「奏はこの子のことを知っているの!?」

 

「奏だけじゃなくて、響は俺やお前とも共通の知り合いだぞ」

 

「っ!?どういうことナナシ!?」

 

「ずっと目を合わせようとしないから分からないんだよ。響の顔を見てよく思い出してみろ」

 

翼はナナシに言われた通り響の顔を見て考える。そして…

 

「っ!?あなたは昼間、顔にご飯粒を付けていた子!」

 

「「は?」」

 

「っ!?うわあああん!やっぱり変な覚え方されてるうううぅぅ!!」

 

「違う!それじゃねえ!!てか響かよお前の心無い行動の被害者は!?」

 

「…この子か、トップアーティストに顔に付いたご飯粒を指摘されるなんてトラウマを植え付けられたのは…」

 

「うわあああん!!奏さんやマネージャーさんにまで話をされてるうううぅぅ!!」

 

「響!ごめん!ウチのSAKIMORIが本当にごめん!何かお詫びを…そうだ!今度こいつがライブに出るときにこっそりご飯粒を顔に張り付けといてやる!憧れのアイドルとお揃いになれるなら嬉しいだろう!?SAKIMORIも食いしん坊キャラが付けばファンが親しみやすさを持ってくれるかもしれないし!」

 

「おい待てナナシ貴様何を考えている!?私はただこの子が気づかず無様を晒さないように指摘してあげただけでしょう!?」

 

「喧しい!ならその無様を指摘される立場になってみろ!何千何万というファンに指摘されれば少しは響の気持ちが理解できるはずだ!」

 

そこから言い争うこと数分、ナナシは仕切り直すために再び翼に言葉をかけた。

 

「俺達が響にあったのは一回だけ、二年前の同じ時、同じ場所でだ。ここまで言っても分からないか?」

 

「二年前って…っ!?まさか!!?」

 

再び翼が響の顔を見る。あの時は色々驚くことがあって、記憶が朧げなところがある。でも、ナナシに言われてよく思い出してみれば、確かに面影がある気がする。

 

「あの時の、ライブ会場にいた女の子…?」

 

「やっと思い出したか。そうだよ。響は多分、お前達が助けた女の子だ」

 

まるで他人事のようにそう言い放つナナシ。あの時のナナシは、ただ奏達の歌を失いたくなかっただけだ。だから、自分が誰かを助けたなんて意識を持っていなかった。

 

「奏は凄いな。俺も響の会話を聞いてもしかしたらって考えたけど、一目見て気が付くなんて」

 

「まあ、ね…」

 

「…あの、奏さん、わたし…っ!?」

 

響が何かを言い終わる前に、奏が響のことを強く抱きしめた。

 

「ありがとう…生きていてくれて…ありがとう…ありがとう…」

 

「お、お礼を言うのはわたしで…わたしが生き残れたのは、奏さん達のおかげで、奏さんが言ってくれた言葉のおかげで…ずっとお礼が言いたくて…えっと、その、ありがとうございました。助けてくれたこと、励ましてくれたこと、諦めないでくれたこと。全部、全部…本当に、ありがとうございました…」

 

「…うん…うん…」

 

奏と響は抱き合い、その目からは涙を流していた。その光景を翼は…とても複雑そうな顔で見ていた。何かを悔いるような、何かに耐えるような、そんな顔で…

 

しばらくして二人は体を離す。二人とも目元を腫れさせていたが、ずっと抱えていたものをやっと下ろすことが出来たような、スッキリとした顔をしているように思えた。成り行きを見守っていた弦十郎は、響に声をかけた。

 

「響君。君をここに呼んだのは他でもない、協力を要請したいことがあるのだ」

 

「協力って……あ!教えてください、あれは一体何なんですか?」

 

響がそう聞くと、今度は了子が響に近づきながら声をかけた。

 

「うん。あなたの質問に答えるためにも、二つばかりお願いがあるの。最初の一つは、今日のことは誰にも内緒。そしてもう一つは……とりあえず脱いでもらいましょうか?」

 

「ひぃっ!?」

 

了子の言葉を聞くと同時に、響が奏の背後に隠れる。そして響達の前に笑顔のナナシが一歩前に出た。

 

「…ナナシちゃん、いい加減このノリはやめましょうよ?」

 

「うーん、でも庇うって約束しちゃったし」

 

「…響ちゃんの体を調べるのは必須事項よ。私達の都合だけじゃなくて本人にとってもね」

 

「うん、だからせめて着替えるのは人目の付かないところで頼む…よろしくお願いします」

 

「そんなのは分かってるわよ!!」

 

ナナシは響達の前から離れ、奏は響を前に進むよう促す。響はまだ若干怯えていたが、ナナシ達の会話を聞いていたので大人しく了子に付いていった。

 

「ではナナシ君、我々はトレーニングルームに行くとするか!」

 

「おう!今日こそ勝たせてもらうぞ!弦十郎!」

 

「…二人とも、程々でお願いします…」

 

しばらくして、二課の施設全体に広がる振動を感じて、メディカルチェックを受けていた響は再び震えあがるのであった。

 

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