戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第148話

尊厳の確保…弦十郎の言葉の意味を装者達が理解するよりも先に“障壁”の裏から飛び出してきたのは…

 

「やっさいもっさい!!」

 

ブルマ体操着姿のクリスと…

 

「常在戦場!!」

 

スクール水着姿の翼と…

 

「マイターン!!」

 

ミニスカセーラー服姿のマリアだった。

 

「「「だぁああああああああああ!!?!?」」」

 

ズガガガガガズバンズバンジャキキキキン!!!!

 

ナナシの声帯模写によって奇妙な事を叫びながら飛び出してきたコスプレ姿の自分達を、悲鳴に近い叫び声を上げながら翼達が切り刻み蜂の巣にしていく。だが“障壁”の裏からはメイド服、ナース、レースクイーンなどの格好をした翼達が次々と飛び出していた。

 

「おおおおおまっ!?お前!!?お前ぇええええええ!!?!?」

 

「やって良い事と悪い事があるだろうがぁああああ!!?!?」

 

「ルール以前に法律に接触しているわよこの愚か者ぉおおおお!!?!?」

 

(“紛い物”に人権は無い!そして人の法に俺は縛られない!!まあ本気で法廷で争うつもりなら相手してやっても良いぜ?今のお前らの格好と大差ないで完全論破だけどな!!あっははははは!!!)

 

“念話”で高らかな笑い声を伝えながら次々と奇抜な格好をさせた“水鏡”を投入するナナシに、翼達は顔を真っ赤にしながら対処を余儀なくされた。

 

(これは弦十郎から勝利をもぎ取った戦法の一つ、『わいせつ物陳列冤罪』の応用!弦十郎の時は全裸の弦十郎人形を訓練場の外に向かわせようとして動揺させた隙に奇襲を仕掛けた!!)

 

「えげつねえなおい!?」

 

(その次の訓練で受けた格ゲーもビックリな百連コンボ技もえげつなかったな…“水鏡”は“投影”の応用だから、『俺が過去に見た姿』じゃないと精密に再現出来ない弱点がある。一緒にシャワー浴びたりした弦十郎と違って全く同じ戦法は無理だが、再現出来ない部分に衣服を被せればご覧の通り!なお衣服はオートスコアラー達の提供です!!)

 

『私達が作りました!』

 

『時間がある時に作っておくとサブマスターからご褒美が貰えるんだゾ!』

 

『地味に時給が良い』

 

『私達にとっては人間の内職と大差ないですからねぇ♪』

 

『しょうもないことにこいつらを活用するな!!』

 

スピーカーから部屋の外で観戦しているキャロル達の声が聞こえてくる。錬金技術の結晶たるオートスコアラーを使って何をしているんだと呆れつつ、休息を必要としないオートスコアラー達に延々と服を作らせていたのなら、少なくともこの訓練中に尽きることは無いだろう。

 

「くっ、こうなったら…雪音!マリア!末端を相手していても意味が無い!!一気に本体を攻め落としてこの悪夢を終わらせるぞ!!」

 

狼耳を付けた際どい格好をした自分の人形をスルーして、翼がナナシの元へと駆ける。

 

「致し方ないわね…少々のダメージは受け入れましょう!」

 

ヒョウ耳を付けた際どい格好をした自分の人形をスルーして、マリアも翼の後を追う。

 

「くっそ、この怒りはご都合主義に熨斗つけてぶつけてやる!!」

 

クリスもまた、バニーガールの格好をした自分の人形が先程翼達にスルーされた肉食獣アイドルズに言い寄られて満更でもない雰囲気で受け入れ耳たぶを甘噛みされ首筋を舌で舐められる様子を…

 

「「「だぁああああああああああああああ!!?!?!!?」」」

 

…スルー出来なかった。凄まじい勢いでUターンした翼とマリアが己の人形を切り刻みクリスが滅多撃ちにする。流石に今のはコラテラルダメージとして受け入れるには傷が深過ぎる。

 

(あっはははは!家族や後輩達に自分達のあられもない姿を見られる覚悟があるなら無視してかかってこい!!)

 

「「「卑怯者ぉおおお!!!」」」

 

(否!“紛い物”だ!!あっははは!!!)

 

翼達が尊厳を踏み躙られている一方、響達はナナシの協力者であることに心から安堵しつつ弦十郎を相手していた。

 

「はあっ!」

 

パシン!

 

「哈ッ!」

 

ガキィン!

 

「やあっ!」

 

シュバババッ!

 

「ㇶ……波!!」

 

ボン!!

 

こちらは極めて真っ当に戦い弦十郎の動きを抑え込んでいた。布陣は変わらず響が前衛、切歌が“血晶”でサポート、調が手数で翻弄する。

 

それに加えて…

 

(ヘイヘイヘーイ!小声で誤魔化してんじゃねーぞ!ちゃんと技名を叫べよお師匠様!!)

 

(そのようなルールは定めていないはずだ!)

 

(ルールは無くても開発者からのお願いだぜ?弟子の思いついた技を便利に使っておいて利益だけ享受しようってのか〜?ん~~〜?)

 

(くぅっ!?)

 

(中途半端に誤魔化そうとするから恥が出るんだぜ?ほーらお手本を見せてやろう!某世紀末のゴロツキのようにこう叫べは良いんだよ!!)

 

「「「ヒャッハー!!」」」

 

「「「妙なことを叫ばせるな!!!」」」

 

翼達の怒声と共にやたら刺々しいパンクファッションの“水鏡”が破壊される。戦闘中にも関わらず強制的に頭の中へ声を伝えられ、弦十郎の動きは普段より幾分か鈍くなっていた。それでも尚装者三人を相手取れるのは卓越した技量と精神力があってのことだ。

 

一見すると弦十郎が押されているように思えるが、響達の戦法にはある穴があった。それは…

 

ボロッ…

 

「あっ!?マズいデス!!」

 

(調!攻撃密度を上げて気を引け!!その間に響と切歌は役割をスイッチ!!)

 

ナナシの指示によって素早く立ち位置を入れ替える切歌と響。今度は響が切歌への攻撃を“血晶”で防ぎながらナナシに懸念を伝える。

 

(兄弟子!このまま“血晶”が無くなったら長くは保ちません!!)

 

“血晶”があるからこそ弦十郎の攻めに耐えられているが、それが無くなればとても抑えられない。“障壁”越しに感じる拳の圧から響達はそのことを充分に理解していた。

 

(安心しろ!それを踏まえて今そっちに…到着!)

 

「剣だ!!」

 

「ふぇっ!?」

 

響が振り返ると、いつの間にかそこには翼の“水鏡”が近づいていた。恐らくは“認識阻害”を施すことで翼達の猛攻を掻い潜ったのだろう。

 

「あ、そっか、この人形も兄弟子の血で出来ているから、“血晶”と同じ…っ!!?」

 

響が“水鏡”を届けたナナシの意図に納得しかけて…あることに気が付き言葉を詰まらせる。

 

たゆーん…

 

翼の“水鏡”…その胸部が明らかに盛られていた。

 

(その人形に題目を付けるなら…人の夢と書いて、儚い!)

 

ボロボロボロッ!

 

「ブフッ!!」

 

「きっさまああああああ!!!」

 

“水鏡”が服をまくり上げると、大量の“血晶”が零れ落ちて一瞬で胸部が萎んでしまった。その様子を見た響が思わず吹き出し、遠目に見ていた翼が怒りを増幅させる。

 

「最早触れるだけなど生温い!素っ首叩き落してくれる!!」

 

「翼!?落ち着きなさい!冷静さを失ってはあの男の思う壺…」

 

(召喚!メガ盛りアイドル大統領!!)

 

「ごっちゃんです!!」

 

「上等よ!翼が落とした頭をこの左腕で叩き砕いてあげるわああああ!!!」

 

「だぁあああああ!?お前も一瞬で自分を見失うんじゃねぇええええ!!」

 

首から下を雑に力士と入れ替えたような姿のマリア人形を目撃してマリアもまた激昂状態になる。そんな二人に呼びかけながらクリスが現状を打破しようと試みるが、それよりも先に状況が動いてしまう。

 

(あっはははは!お前らがモタモタしている間に第二段階への準備は整った!!果たしてお前らはコレに耐えられるかな?)

 

「だ、第二段階!?これ以上何しようってんだ!!?」

 

「そりゃあ天荒を破るようなビックリドッキリに決まっているではないですかぁ!!」

 

『っ!!?』

 

突如聞こえたその声に、全員が驚き硬直している間に“障壁”が再び黒一色に染まる。その裏から微かに多くの物が蠢くような音が聞こえて…

 

「世界の危機を前に、真の英雄は立ち上がる!」

 

「そう!僕こそが真実の人ぉ!!」

 

「ドクター…」

 

『ウェルゥゥゥゥゥ!!!』

 

ウゾウゾウゾウゾッ!!!

 

『ぎゃああああああ!!?!?』

 

声と共にまるで卵から孵化したように“障壁”の裏から溢れ出てきた大量のウェル博士の姿に、その光景を直視してしまった全員が悲鳴を上げていた。特にマリア、切歌、調の三人は涙目で鳥肌を立てている。

 

「ムリムリムリムリイヤーーーーー!!?!?!!?」

 

「マリア!!?気を確かに持て!!」

 

「こっちまで巻き込むんじゃねえ!!?」

 

半狂乱で我武者羅に短剣を射出して蛇腹剣を振り回すマリア。苛烈な攻撃は次々と迫るウェル人形を破壊していくが、今のマリアは味方の識別すら危うく翼とクリスを巻き込みかけていた。

 

「ひっく…えぐっ…」

 

「し、調、大丈夫デスよ!アタシがついてるデス!(ガタガタ)」

 

「兄弟子やり過ぎです!調ちゃんは本気で泣いてるし切歌ちゃんも慰めているようで調ちゃんを抱きしめて意識を保ってます!結果師匠を止めるためにせっかく追加された“血晶”が湯水の如くぅううう!!?」

 

ガキンガキンガキンガキンッ!!

 

ボロボロボロボロッ!!

 

「本来は隙だらけの二人を狙うべきだが…泣く子に拳を向けるのは気が引ける。精々頑張り給え響君!!」

 

「わたしも泣きそうですよ師匠ぉおおお!!」

 

…ナナシが打った新たな一手は、敵味方問わす混沌とした状況を生み出していた。

 

「ハァ…ハァ…こ、これは過去に失敗した戦法の一つ、『蠱毒の壺体験会』を改良した、その名も『英雄召喚連打!』」

 

「フゥ…フゥ…ほ、本来は、蜘蛛や百足、イニシャルGなどの視覚的不快害虫を模した大量の“水鏡”をけしかける構想だったのですが、操れる限界数と操作性の問題で狙った効果を得られなかった上に脳の負担が激しくボロ負けしました」

 

「ゼェ…ゼェ…そ、その反省を活かして色々な生物を模倣した結果、操りやすさと不自然な動きの方が不気味さが際立つ人型が結局のところ最も優れているという結論に至ったのです」

 

「ヒィ…ヒィ…あ、後は合理的な人選をした結果、視覚的インパクトを与えられる上にその姿を見た者の記憶に強く焼き付けて後世にその勇姿を残せる我が英雄を選んだ次第です」

 

「攻撃仕掛けてるてめえ自身が一番虫の息じゃねえか!!?」

 

「しょ、正直この技は“念話”を使う余裕さえ消失する諸刃の剣です…それでも状況的面白さと、我が英雄のためならば、無理を押し通すだけの価値はありますねぇ!!」

 

「仮にも信者を名乗る者として後世に残す英雄の姿がそれで良いのか!?要するに害虫の代用なのだろう!!?」

 

「い、一応この人選は妥協でもあるのですよ?試行した中で最も不気味だったのは意外にもエルフナインでした」

 

『ボクですか!!?』

 

「ちっちゃくて可愛いのがワチャワチャしている子猫の群れ的癒しで油断を誘えないかという試みで、実際四、五人の段階なら良い感じだったのですが、十人を超えた辺りから不気味さが際立ってきましたねぇ。最大人数で動かしたらクローンを量産しようとして失敗した人型の化け物みたいになりました。ある程度コメディなイメージがないと特定人物の増殖は狂気が強く出るみたいです。同じ顔であるはずのキャロルではそこまで怖く感じませんでした」

 

『どういう意味だおい!!?』

 

「恐らく分かってても隙が作れそうなのでそちらは後日弦十郎との模擬戦で使わせていただきます!」

 

「不戦敗で構わないから勘弁してくれないかナナシ君!?」

 

ウェル博士の声でふざけた会話をしながらも、ナナシは鉄パイプや釘バットなどの何とも小者感溢れる武器を手にしたウェル人形を操って翼達を襲撃する。

 

「楽しすぎてメガネがずり落ちてしまいそうだぁ!!」

 

「ひやっはーーー!!!願ったり叶ったりぃ…してやったりぃ!!!」

 

「英雄にしてくれえええ!!!英雄にしてくれよおおおおお!!!!」

 

「だぁあああ!きめえ!!うぜえ!!!」

 

「ドクターが一匹…ドクターが二匹…」

 

ザシュザシュザシュザシュッ!!

 

「マリア!?正気を取り戻せ!!目が完全に死んでいるぞ!!?」

 

その圧倒的な物量に押されて翼達はナナシに近づくどころか人形を撃退するので精一杯だ。マリアはもはや目の光を失った無表情で機械的にウェル人形を処理している。

 

「闇に喰われろ!!」

 

「いちご牛乳ー!!」

 

「SかMかで言ったらS!!」

 

「おい何か変なの混じってねえか!!?」

 

「ぐっ、意識が…脳が沸騰しかけてるんだから、そりゃあ変なのが一つや二つくらい混ざりますよぉ!」

 

「そーゆう問題か!!?」

 

赤いコートを着て大剣を持つウェル博士、天然パーマで木刀を振るうウェル博士、ドミノマスクを被り黒マントを翻すウェル博士など、身に付ける物や一部転写した身体的特徴がおかしいウェル人形があるが、きっとナナシの脳にかかる負荷が大きいからに違いないw

 

「「「ヒャッハー!!!」」」

 

「わああああ!!?」

 

「こっちにも来たデェェェス!!?」

 

そして翼達の対処が間に合わず横を抜けていったウェル人形の一部が響達の元まで辿り着き、弦十郎の背後から奇襲を仕掛けた。

 

(フン)ッ!!」

 

「「「ひでぶっ!!?」」」

 

しかしその奇襲に弦十郎は難なく対応して、弦十郎の拳を受けたウェル人形達は奇妙な声を出しながら爆散して血飛沫と化した。

 

「おっさんも大概躊躇しねえなぁ…」

 

“水鏡”は血液で作っているせいか、切ったり撃ったりすると血が噴き出すため割と本気で人間に近い。そういう意味でも撃退するクリス達は精神的に負荷を感じるのだが、弦十郎にはそういった躊躇いが見えないようにクリスは感じた。

 

「この程度で臆していては、ナナシ君と模擬戦など続けられないからな!!」

 

「マジで普段どんな訓練してんだよこのトンデモ師弟!!?」

 

「そりゃもう試行錯誤で色々ですよぉ!櫻井了子の生首を模した人形を投げ渡して動揺したところで中に仕込んだ爆弾を起爆したりぃ!」

 

「犬のおまわりさんコスのエルフナインに手を引かれる迷子の子猫ちゃんコスをした半泣き大人バージョンキャロルを横切らせながら奇襲したら、状況が複雑過ぎたみたいで冷静に反撃されたりぃ!!」

 

「思いつきでキラッキラの着物を着せた緒川慎二を軽快なリズムに合わせて踊らせるマ○ケンNINJAを召喚したら、あまりの面白さにお互い爆笑して弦十郎が酸欠になって勝利したりぃ!!!」

 

『ナナシちゃ〜ん(ジャラジャラ)』

 

『オレ達も…(ポロロン♪)』

 

『訓練に参加しますね(カチャリ)』

 

「ぎゃああああ!?やっべえボスラッシュフラグが立った!!?」

 

失言によって超人三名の逆さ鱗に触れてしまったナナシが思わず素の声で悲鳴を上げる。

 

「は、早くここから逃げないと…こうなったら名残惜しいが、そろそろ勝負を決めに行くか!」

 

すると突然、その場に溢れかえっていたウェル人形が全てドロドロと形を失って血溜まりと化した。その過程もとんでもなく気持ち悪かったため全員がそれなりの精神的ダメージを受けるが、これで初期から展開された“障壁”以外に翼達とナナシを遮る物は無くなった。

 

「好機?いや、罠か?」

 

「罠なんてもうあって当たり前だ!こうなりゃ一か八かで一気に行くしかねえ!!」

 

「ウフフフ、セレナったらそそっかしいわねぇ。そんな必死に呼ばなくてもすぐに行くわ。こんな川くらい今の私ならひとっ飛び…」

 

「そっちには行くんじゃねえ!?」

 

「それは招いているのではなく追い返そうとしているのだ!?」

 

ショッキングな光景の連続で口から魂が出かけているマリアの危ない譫言に翼達が慌てていると、再び全員の脳裏にナナシの“念話”が伝わってきた。

 

(クククク…来るなら本気で昇天する覚悟で来い。これから披露するのは、つい最近完成した俺の新たなる奥義…俺でさえ戦慄するほどのその破壊力は“化詐誣詑”をも優に上回る!)

 

『なっ!!?』

 

ナナシの言葉に全員が驚きマリアも正気に戻る。この短期間に更なる奥義、それもあの“化詐誣詑”を超える技を編み出したとなれば、警戒を怠る訳にはいかない。弦十郎さえも手を止めてナナシの出方を窺っていた。

 

(さあ、刮目せよ!俺()が編み出した究極の奥義を!!)

 

全員が全神経を集中して“障壁”から飛び出して来るはずのナナシの奥義を警戒する。しかし全員の予想に反して、“障壁”から出てきたのは非常にゆっくりとした動きの人影が一つだった。

 

「えっ!?」

 

「なっ!?」

 

その姿に、翼と弦十郎が思わず声を漏らす。マリアは驚きと同時に何か疑問を感じているように首を傾げ、残りの者達はいまいちその人物が誰かピンときていない様子だった。

 

その人物とは…

 

「お父様…?」

 

「八紘兄貴…?」

 

『へっ?』

 

翼達の言葉に、響達は思わず困惑の声を零す。そう、“障壁”の裏から現れたのは、風鳴翼の父にして風鳴弦十郎の兄、風鳴八紘だったのだ。

 

状況的に考えて、この八紘が本物である可能性は低い。これもナナシの“水鏡”なのだろう。だが、ナナシが新たな奥義を披露すると宣言した後に出てくる人物としてあまりにも予想外であったために、未だに全員が動揺から復帰出来ないでいた。

 

そんな風に全員が困惑しつつ目の前の八紘を観察していると…この場で唯一身内を除いて直接面識のあるマリアが、ようやく違和感の正体に辿り着いた。

 

「あの翼のパパさん…何だか若くない?」

 

そう、目の前の八紘は肌の皺が無く髪の艶もしっかりとした恐らく二十代くらいの年齢だった。だがそれが分かっても何一つ疑問が解決せず寧ろ増えるばかりだ。何故八紘?何故若い姿?先程ナナシは“水鏡”は過去に見た物しか精密な再現を出来ないと言っていたはずでは?ナナシは若い頃の八紘に会ったことがある?まさか過去に干渉する能力!?などといった憶測がそれぞれの頭に過る中で…その答えが、全員の前に姿を現した。

 

「えっ!!?」

 

「なっ!!?」

 

「はぁあああああああああああ!!?!?」

 

『えええええええええええええ!!?!?』

 

『ぴゃあああああああああああ!!?!?!!?』

 

気付いた響達が驚き、翼が絶叫して、スピーカーから奏の驚愕とファラ(・・・)の奇声が響く。

 

全員の視線が八紘の腰回り…その高さからヒッソリと顔を覗かせるもう一つの人影に注目していた。

 

モミジのような小さな手で八紘の服を掴み…

普段からは想像出来ないような不安と怯えをその瞳に宿し…

八紘に華奢な体を預けて縋りつく…

保護欲を刺激する、とても幼い少女…

 

それを一言で言い表すならば…幼い風鳴翼だった。

 

(これぞ夜通し語り合った時に悪酔いして「もっと可愛がるべきだった」とアルバムを広げて嘆く八紘と、それを見た場酔いした俺が徹底的に拘って生み出した究極奥義『再現体 幼少期風鳴翼人形』…名付けて『ちゅばさ人形』!!)

 

「何をやっているのだ貴様とお父様はぁああああああ!!?!?」

 

翼の絶叫に幼い翼…ちゅばさ人形はビクリと震えて再び八紘の背後に隠れる。しかし子供特有の好奇心故に恐る恐る顔を覗かせて翼達を窺う所作をした。

 

『っ!!?』

 

その自然な動作に、翼以外の装者全員が胸の内に生じた感情が飛び出さないように口元を押さえて身悶える。弦十郎でさえ口を半開きにして呆然としていた。隙だらけなのに攻撃をする余裕が無いのはお互いに幸いな事だっただろう。

 

『待ってヤバイ尊い辛い!美が!!あそこに美の概念が具現化しているぅうううう!!!ちゅるぎちゃああああああん!!!!』

 

『ちょっ!?落ち着きなさい!!?』

 

『危ないんだゾ!?』

 

『ファラが派手に壊れた!?』

 

…そして、感情を抑え込むことに失敗したファラがモニターにしがみ付きヘッドバンキングを繰り返して周囲を動揺させていた。

 

『サブマスター!どうかその子を私に!!私にお世話させてください!!!私の全てを捧げますからぁあああああ!!!!』

 

『人形が人形のために矜持を捨てようとしてんじゃないわよ!?』

 

(全くだ。この人形は渡せない。そもそも既に貴様らへの命令権を持つ俺に対して要求などと、人形風情が己惚れるんじゃない)

 

『ああ…初めて、この身が人形で在ることに絶望しましたわ…』

 

(さて、話は変わるがお前達に新たな仕事を任せる。S.O.N.G.本部に託児所を作る案がある。安全性を証明するために数年掛かりで計画を進める必要があるから、疲労を感じず常に行動出来るお前らに協力してほしい。本物の子供を預かる段階までは子供を模倣した人形を使って想定訓練を続ける必要があるが、長い付き合いになるしデザインくらいは自由に決めさせてやろう!)

 

『一生ついていきますサブマスタァアアアア!!』

 

「ふざけた約束を勝手に結ぶなぁあああ!!新たな奥義と言うから警戒していれば何処までもふざけた真似を…そのような悪ふざけの産物、今すぐ葬ってくれる!はあっ!!」

 

蒼ノ一閃

 

翼が胸の怒りを籠めた斬撃を幼い自分へと放つ。どんな姿形であろうと所詮は“紛い物”の操る人形だ。そこに躊躇いなどあろうはずもない。寧ろ翼は一刻も早く目の前の人形をこの世から消し去りたい。

 

ガキィン!

 

しかし翼の斬撃は、ちゅばさ人形に届く前に“障壁”によって弾かれてしまった。

 

「なっ!?貴重な最後の“障壁”を!!?それほどまでにその人形を守る意味が?…いずれにせよ、もうこれで身を守る術は尽きたはずだ!はあっ!!」

 

再び放たれる斬撃。これでちゅばさ人形の命運は尽きたはずだった。しかし…

 

ガキィン!

 

…再び展開された“障壁”によって、ちゅばさ人形は傷一つ負うことは無かった。

 

「なっ!?おい貴様!!?これは明らかなルール違反だろう!!?三度目の“障壁”を展開するなど!!」

 

(さっきから何一人で騒いでんだ?三度目どころか、俺はまだ二回目の“障壁”すら使ってないぞ?)

 

「は…?」

 

ナナシの指摘に翼の目が点になる。そんな筈ない。確かに今、二度の“障壁”がちゅばさ人形を守ったはずだ。ナナシでないなら一体誰が…

 

「ごめんなさい、翼…」

 

「あたしらがやった…」

 

「何をしているのだ二人共!!?」

 

…仲間の犯行だった。

 

「目を覚ませ!あれは人形!!あれを動かしているのは、未だに“障壁”の裏に隠れてきっとニヤけた顔をしている我らの宿敵なのだぞ!?」

 

「分かって、いる…!」

 

「ああ…頭では、分かってんだよ…!」

 

苦悶の表情でそう答えるマリアとクリスだったが、“障壁”を見つめてコテンと不思議そうに首を傾げるちゅばさ人形に二人は再び口元を押さえて悶える。頭は理解していても、心は鷲掴みにされていた。

 

すると八紘人形が背に隠れるちゅばさ人形を前に優しく押し出す。戸惑うちゅばさ人形に八紘人形がゆっくり頷くと、ちゅばさ人形は意を決したようにトテトテとマリア達の傍に近づき…まるで抱っこしてとでも言うように、両手を精一杯広げて待ち構えた。

 

「ぅ…ぁ…!」

 

「はぁ…はぁ…!」

 

「待て!?待つんだ二人共!!?」

 

ふらふらとちゅばさ人形に近づこうとする二人の手を翼が掴んで必死に呼びかける。

 

「あれは罠だ!深海魚が獲物を誘い出す疑似餌そのものだ!!近づいたら最後、一瞬で飲み込まれてしまうぞ!!?」

 

翼の言葉で僅かに正気を取り戻した二人の動きがピタリと止まる。そのことに翼が少し安堵していると…

 

…ちゅばさ人形の表情が、今にも泣き出しそうに歪んでしまった。

 

「ああああぁぁああああああぁぁ!!!!!」

 

「あっ!?待て!?待つんだマリア!!?」

 

時既に遅く、ちゅばさ人形の顔を見てしまったマリアは翼の手を振りほどき、ちゅばさ人形の元へと一気に駆けつけてその体を全力かつ優しく抱きしめた。

 

マリアの腕に伝わってきたのは人形とは思えない柔らかさと温もり。ふわりと香るのは鉄臭さなどではなく石鹸の優しい匂いだ。マリアからは見えなかったが、ちゅばさ人形の表情はマリアが抱きしめた途端ににへらっとした嬉しさと安堵が混ざったようなものに変わり、ちゅばさ人形もマリアの体を小さな腕で抱きしめ返して、その体の至る所から眩い光の条が溢れ出て…

 

ドゴォオオオオオオン!!!

 

…盛大に爆発した。

 

「マ、マリアァアアアアアア!!?」

 

『ちゅるぎちゃあああああああああああん!!?!?』

 

爆炎と共に天高く吹き飛ぶマリアに翼が叫び、爆散したちゅばさ人形の末路にファラが絶叫した。

 

地面へと落下した煤だらけのマリアに翼達が駆け寄る。シンフォギアを纏ってはいたものの、流石に密着状態での爆発は相応のダメージがあったらしくマリアの意識は混濁しているようだった。

 

「マリア!マリア!!無事か!!?」

 

「フフ、フ…ちゅばさは…柔らかかった、わ…ガクッ…」

 

「この大馬鹿者ぉおおおお!!!」

 

マリア 気絶により敗北

 

「あのような見え見えの誘惑に誑かされおって!戦士ならば鋼のような心で誘惑など跳ね除けないかこの愚か者!!」

 

(お前が奏の部屋を荒らして幼少期のアルバムでも見つけてくれれば、かにゃで人形を作って幻のアイドルユニット『ちゅばいうぃんぐ』を結成してやるぞ?)

 

「任せておけ!!…はっ!!?」

 

『おいこら翼ぁ!!?』

 

『ナナシさん!響も!!是非響の人形もお願いします!!!』

 

(未来の写真もセットで提供してくれれば請け負うぞ!!)

 

「ちょっと未来!!?」

 

『F.I.S.のデータベースならば、幼い頃のマリア達の記録も残っている可能性が…』

 

「「マムゥウウウウ!!?」」

 

「……」

 

(S.O.N.G.のデータベースで既にお前の記録は発見してるから仲間外れにはしないから安心しろよクリス)

 

「っ!!?あ、安心なんてしてねえ!!?寧ろガッカリだバカ野郎!!!」

 

遂に姿さえ見せることなく脱落者を出したナナシ。このままではマズいと感じた翼は、クリスに呼び掛けることさえせずにナナシの隠れる“障壁”へと駆けた。

 

「次の策を講じる前に、速攻で決める!!」

 

その決意に相応しく、罠の可能性もかなぐり捨ててブースターを全開にして八紘人形の横を通り、翼は遂に“障壁”の裏へと回り込んで…

 

「これで王手だ!ナナシ!!」

 

剣の切っ先を突き付けた…誰も居ない空間に。

 

「なん…だと…?」

 

“障壁”の裏はもぬけの殻だった。何処にも隠れるスペースなど存在しない。一体いつから?どうやって?何処に逃げた?そんな疑問が頭に押し寄せ呆然としていると…翼の肩がポンと叩かれた。

 

「っ!?」

 

叩かれた、ということはナナシではない。自分達に触れたらナナシの負けだ。雪音が自分に追いついたのかと考え、翼が背後を振り返ると…

 

「えっ?お父さ…」

 

「フンッ!」

 

ゴスッ!!

 

「ま゛っ!!?」

 

…先程追い越した八紘人形に、翼は鳩尾を強打された。完全な不意打ちによって翼は地面に横たわり、朦朧とする意識の中で…八紘の顔半分が崩れて内部に隠れていたナナシの邪悪な笑みを目撃した。

 

「きさ、ま…今…私、に…触れ…」

 

「ルール作りが杜撰過ぎる。“血流操作”で操る血液が接触可能なら…“化詐誣詑”使えばノーリスクじゃねえか?」

 

「あっ…」

 

そう、今のナナシは体表を八紘に似せた“化詐誣詑”状態…全身隙間なく血液で包み込まれた状態だ。翼の体は一切ナナシ本体には触れていない。

 

「無、念…ガクッ…」

 

翼 気絶により敗北

 

翼が意識を失うと同時に、ナナシはこれまで展開していた一回目の“障壁”を解除する。それによって意識を失った翼と、八紘に偽装していた体表を通常の“化詐誣詑”に変化させるナナシの姿をクリスの前に現した。

 

「てめえ…!」

 

(これで俺と敵対する装者はお前一人になったな、クリス。どうする?リタイアするか?)

 

「冗談じゃねえ!こうなったらあたし一人でもおおおお!!」

 

ミサイルは翼を巻き込むかもしれないのでクリスがガトリングでナナシを狙う。ナナシは軽いステップでクリスの弾丸を回避しながら翼から距離を取った。ナナシ達が戦闘を再開したのを見て、響達も慌てて弦十郎の足止めを再開する。

 

ナナシがクリスの周囲を円を描くように動き、気絶した翼とマリアから充分距離を取ったところで、クリスが腰部のミサイルを展開した。

 

「これでほたえな!!」

 

MEGA DETH PARTY

 

一斉に放たれた無数の小型ミサイルは、瞬く間にナナシへと迫って…

 

「…おっさん!!」

 

…その横を素通りして、響達を相手取る弦十郎へと殺到していった。

 

「むっ!?」

 

「えっ!!?」

 

「嘘っ!!?」

 

「ナンデストー!!?」

 

突然のクリスの行動に、弦十郎のみならず響達も驚愕する。確かに弦十郎もナナシと同じターゲットではあるが、これまで執拗に狙っていたナナシを無視してこのタイミングで弦十郎に奇襲を仕掛けた理由は…

 

(おい!分かってんだろうな!?)

 

(もちろん!ちゃんと夢のS.O.N.G.幼稚園が準備出来たら保母体験会にお前を誘ってやるから!!)

 

…やはり買収であった。

 

想定外の相手からの奇襲、それも既に至近距離まで近づいたミサイルだ。調の丸鋸と違って衝撃を与えれば起爆する。そうなれば服に焦げ目程度は出来るはずとナナシとクリスがほくそ笑んだ。

 

しかし…

 

「よっ!ほっ!はっ!とっ!」

 

「嘘だろ!!?」

 

…弦十郎は飛んできたミサイルをひょいひょいと手で掴み、指と指の間に挟んで抑え込み、信管を起動させずに全てのミサイルを受け止めるというとんでもない方法でミサイルに対処していた。

 

「おおおおおりゃあああっ!!!」

 

そして驚き固まるクリスに向かって、まだ炎を噴き出すミサイルを一纏めに投げ返して…

 

「そこだぁああああ!!!」

 

ドゴォオオオオオオン!!!

 

…ナナシが最後の“障壁”を弦十郎の目の前に展開して、“障壁”にぶつかり至近距離で爆発したミサイルの爆炎の中に弦十郎の姿は消えていった。

 

「やったか!?」

 

「っていうか殺っちまったんじゃねえか!!?幾ら何でも容赦無さ過ぎだろご都合主義!!?」

 

「この程度で弦十郎が死ぬ訳ないだろ!?」

 

「Exactly!!」

 

「「「「っ!!?」」」」

 

爆炎の中から聞こえてきた元気な声にクリス達が驚いていると、次の瞬間爆炎が一気に霧散して…服に焦げ目の一つすらない無傷の弦十郎が姿を現した。

 

「おい…弦十郎…それ、普通のジャージだよな?“解析”でもそう見えるから耐火生地だったり金属繊維でもないよな?何で穴の一つも出来ねえんだよ!!?」

 

「はっはっは!技の応用は君だけの専売特許ではないと言うことだよ!(フン)ッ!!」

 

ボンッ!!

 

掛け声と共に弦十郎が踏み込むと、弦十郎の周囲の大気が震えて離れているはずのナナシ達にも衝撃が伝わってきた。

 

「君が教えてくれた衝撃波を放つ技…アレと発勁のシナジーが中々に高くてな!緊急時に全身を守りつつ攻撃を放てる技を編み出したのだよ!!」

 

「こ、こいつ…遂に全身から衝撃波を放てるようになりやがった…!」

 

「…今の技、名前を付けるなら何になるんだ?」

 

「ヒャッ(ホウ)かな?もしくはヒャッ(ホウ)?」

 

「あっ、こら!?勝手に名付けるんじゃない!!?」

 

奇襲失敗、しかしナナシによって実質五対一の状況に持ち込んだはずなのに、弦十郎は余裕を崩していなかった。

 

「さて、では俺もそろそろ勝負を決めに行こうか!」

 

ダンッ!!

 

「!!?」

 

弦十郎が一気に響の懐へと潜り込む。だがこれまで続けた連携によって、響の少し後ろにいた切歌がすぐさま響と弦十郎の間に“障壁”を展開して…

 

()ッ!!」

 

ガキンッ! ドゴンッ!!

 

「がふっ!!?」

 

…響が弦十郎の拳の一撃を受けて、遠く吹き飛び意識を失った。

 

響 気絶によって敗北

 

「…えっ?」

 

その結果を、切歌は理解出来ないでいた。自分は確かに“障壁”を展開したはずなのに響は退場させられ、気が付けば身に着けていた“血晶”は塵と化して消滅していた。呆ける切歌に、弦十郎は無慈悲にもその拳を振るって…

 

「切ちゃん!」

 

「後ろに飛べ!!」

 

「っ!!?」

 

調によって目の前に“障壁”が展開され、ナナシの呼び掛けによって切歌が尻もちを付くように体を後ろに倒す。すると、“障壁”が消失した後で切歌の眼前をブォンと空気を貫くように突き出された拳が通過していった。

 

調が切歌を抱え更に後ろに跳躍して弦十郎から距離を取る。そのタイミングで調の手に付いていた“血晶”がボロリと崩れて消失した。

 

「今回の訓練で大量の“血晶”を破壊したからな。大体の限界値は測らせてもらった」

 

切歌に攻撃を終えた状態で留まる弦十郎は、両手を連ねて置くような特徴的な構えをしていた。

 

「これは『夫婦手』と呼ばれる空手の型の一つだ。ナナシ君の教えてくれた技の原型となる漫画には、この型を用いた攻防一体の二連撃も登場していたので参考にさせてもらった!」

 

「うわ~遂に俺のアイデンティティまで奪いに来やがったこの自称普通の人間。漫画の技を当たり前のように使い始めた…どうせならかめ〇め波覚えろよ!もしくはレ〇ガン!!手から衝撃波出す技で全身からも出せるようになるならそれで全身からもビーム出せるはずだ!!」

 

「出せるかぁ!!」

 

つまり弦十郎は両拳による二段階攻撃によって初撃で“血晶”を破壊、本命の二撃目で響を戦闘不能にしたらしい。

 

「ふざけていやがる…!」

 

「“血晶”を用いた巧みな連携、そして瞬時に敵対関係を変貌させた奇襲は見事だった!だがまだまだ拙く数をばら撒く方法に頼りがちだ!!重ねなければ積み上がらない!心と意を合わせろ!!爆・心!!!」

 

ドゴンッ!!

 

弦十郎が力強く足を踏み込むと、その衝撃が地面を伝って凄まじい勢いで切歌達の方へと向かって行った。

 

「させるかぁ!!」

 

ドゴンッ!!

 

だが衝撃が切歌達に届く前にナナシが前に出て弦十郎と同じように踏み込み衝撃を飛ばす。伊達に一番弟子を名乗っている訳では無い。ある程度の技の模倣はナナシにも出来る。

 

「やるな、ナナシ君…だが、まだまだ君も拙い!!」

 

ボンッ!!

 

『なっ!!?』

 

弦十郎とナナシの衝撃が衝突した結果…そこを起点に弦十郎の衝撃が二分割されて、一つがクリス、もう一つが切歌達へと回り込むように突き進み…着弾した。

 

「だぁあああああ!!?」

 

「わああああああ!!?」

 

「デェェェェェス!!?」

 

クリス、切歌、調の三名は派手に吹き飛ばされて、そのまま気絶してしまった。

 

クリス、切歌、調 気絶により敗北

 

装者六名、全滅

 

その結果を見届けたナナシは、肩を落として深い溜息を吐いてしまった。

 

「ハァ~…ここまでか。どうだ、弦十郎?少しは役に立ったか?」

 

「拙いながらも連携を取ろうとする動きは見えたが…まだまだ追加で特訓が必要だな。君の方も、俺に便乗して自分の想いを伝える…のはオマケで、彼女達をからかって充分に楽しめたか?」

 

「あ、そっちがオマケって察してた?」

 

「君が伝えたかったことは、一番最初のやり取りでほとんど伝えていただろう?勝利の意味を考えること。自身の状況を正確に捉えて、勝利と敗北に繋がるルールを定めること…戦闘力の強弱で定まった勝敗が正しいとは限らないということだ。今回の模擬戦は、それが分からないと酷い目に遭うということをただただ誇張して伝えただけであろう?」

 

「あいつらがそこをちゃんと理解していれば、この戦いにおける最適解が『可能な限り早く、それこそ初手でリタイアすること』だって分かったはずなのにな?だって最初に言ったはずだぜ?負けても罰ゲームは無し、勝ったら何かご褒美を用意してやる…つまり、『破ったところで何のリスクも無いルール』を律儀に守った挙句に、『勝ったところで何が得られるかも分からない』戦いに臨んだ結果この惨状だぜ?戦闘中の取引さえ無かったSAKIMORIとアイドル大統領は負け戦もいいところだ」

 

あれだけルールを定めることに重きを置く発言をしていたナナシの口から出た今回の勝利条件は『ルール破りでも何でもいいから早く負けること』だった。

 

「勝ちとか負けとかって、要するに得るモノと失うモノの大きさだ。その大小を決めるのがルールや決め事で、そういったルールは如何に相手に『守らせるか』じゃなくて『押し付けるか』が重要になる。一番重要な部分が曖昧なルールなんて一体何の意味があるんだよ?俺なら俺と戦うなんて絶対に嫌だぜ?逆に聞きたいけど、あいつら俺や弦十郎に勝った場合何を貰ったら満足したんだろうな?」

 

「この戦い自体に何らかの意味があるように伝えておきながらそういった勝負を仕掛ける時点で相当悪辣なのだがな…まあ、意味もなく君とこのような勝負をすることは避けるべきというのは心から納得するがな」

 

「そうそう、弦十郎は二度と色恋沙汰で女に刃物で刺されたくないから頑張ってるだけだものな?」

 

「言い方!?自分の不甲斐無さが原因で最も大切な局面に敗北したくないからだ!!…それで?ナナシ君、ここからどうする?彼女達が全滅した以上、俺達で勝敗を決するまで続けるか?」

 

過去を思い出して腹部を押さえながら弦十郎が放った問い掛けに、ナナシは笑いながら答えた。

 

「あははははは!当然だろ?折角あいつらの訓練に託けてここまで緩い条件でお前と戦えるんだから、手堅く勝率を上げさせてもらうぜ!」

 

そう言い終わると同時に、部屋中に四散したナナシの血液が蠢いてナナシと弦十郎の周囲に集まり始めた。

 

「あいつらが派手に撒き散らしてくれたお陰で、既にこの部屋は俺の手中にある!精々パンツくらいは死守出来るように足掻いてみせろよ!!弦十…」

 

ポンッ ポンッ ポンッ

 

「郎…?」

 

強気で弦十郎に宣戦布告していたナナシだったが、突然背後から両肩と頭を押さえられたのでゆっくりと振り返ると…そこにはとても良い笑顔を浮かべるネフシュタンの鎧を纏う了子と、ダウルダブラのファウストローブを纏うキャロルと、いつものスーツ姿の緒川が立っていた。

 

「さて、それじゃあ…」

 

「オレ達とも…」

 

「訓練を始めましょうか?」

 

三人を見たナナシは、フッと笑みを零して再び正面を向き弦十郎と視線を合わせると…

 

「リタイアで!」

 

ナナシ リタイアを宣言して敗北

 

勝者 風鳴弦十郎

 

「そうか、ではさっさと始めるぞ」

 

「ちょっ!?リタイア!?リタイアだって!!?死体蹴り禁止!!敗者に干渉したら駄目だろうがぁああああ!!?!?」

 

「オレ達はどの陣営にも所属していないから関係ない」

 

「お前と訓練さえ出来ればそれで良いから細かな決め事も必要ないだろう?」

 

「とりあえず、響さん達が目覚めるまでに手早く終わらせましょう」

 

「ちょっ!!?お師匠!お師匠助けて!!一番弟子がピンチだぞ!?大人げないOTONA達から救い出してくれ弦十郎ぉおおおお!!!」

 

必死に弦十郎へと助けを求めるナナシだったが、弦十郎は爽やかな笑みを浮かべると親指をグッと上に向けて言った。

 

「済まないな、敗北者には干渉出来ないルールだ」

 

「待って!?本気で待って!!?こいつら顔は笑ってるけど目がヤバイ!!?ちょっ、待っ、やめっ…あーーーーーーーーーーー!!?!?」

 

 

 

 

 

その後、目覚めた装者達は弦十郎指導で更に特別訓練を受けることになったのだが、その部屋の片隅にはずっとモザイク配色がされた“障壁”が展開されていたのだとか…

 




メインはギャグ部分なのでちょっと訓練の動機が説明適当な気がするけど許してください。
投稿一時間前まで粘ったけど上手い事纏められなかった…気が向いたら直します。

ギャグ部分…書きたい事出し切って満足という気持ちと、文章がもう少しまともならもっと面白くなりそうというジレンマが…
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