戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
室内のアルカノイズが一掃されたため、ギアを纏ったクリスと翼が外に出てアルカノイズの群れを殲滅していると、突然無数の光線が翼達に飛来してきた。二人が光線をアームドギアで防いで飛来した方向を見ると、ファウストローブを纏ったカリオストロが立っていた。
「のこのこと誘き出されたわね?」
ポーズを決めながら笑みを浮かべるカリオストロに、翼達は…
「ああ…」
「のこのこと誘き出されたな…」
…何故か、憐みの視線を向けていた。
「へ…?」
その言葉と視線の意味が分からずカリオストロが困惑していると…
ドゴシャッ!!
「ふがっ!!?」
…その横っ面に拳の一撃が直撃して吹っ飛ばされた。
「な、何が…?」
動揺しながら素早く立ち上がって先程まで自分がいた場所を確認すると…仮面の無い素顔を晒したニコニコ笑顔のナナシが立っていた。
「チッ!あーたもいたのね、ジャパニーズホラー!」
「……」
忌々し気に舌打ちするカリオストロに、ナナシは笑顔のまま無言でゆっくりとカリオストロに近づいていった。
「今日はお顔を晒してるのね?それに随分とご機嫌じゃない?ひょっとしてあーしとお話出来ると思ってウキウキしているのかしら?生憎と、あーたとはもう金輪際お話するつもりは…」
ドグシャッ!!
「ガフッ!!?」
カリオストロが手をヒラヒラさせて一瞬ナナシから視線を外した瞬間、一気に踏み込んで接近したナナシの拳が再び顔にめり込んでカリオストロは吹き飛んだ。
「ちょっ!?一体どういう…!!?」
これまでと趣が異なるナナシの行動に困惑しながら顔を上げたカリオストロの視界に入ったのは、既に目前まで振るわれたナナシの拳だった。
ゴシャッ!!
「おごっ!!?」
笑顔のままで振るわれたナナシの拳によって仰向けに倒れ込んだカリオストロに、ナナシは笑顔のままで馬乗りになると…笑顔のままで続けざまにカリオストロの顔面へと拳を振り下した。
「ぐっ!!?」
咄嗟に錬金術の防壁を展開するカリオストロ。しかしそんな物知った事では無いと言わんばかりに笑顔のナナシはカリオストロの顔を目掛けて拳を何度も何度も何度も何度も振り下し続けた。
「待って待って待って怖い怖い怖い!!?!?」
防壁越しに見えるナナシの笑顔と伝わってくる拳の圧にカリオストロが身を震わせる。これまでナナシに感じていた恐怖とは全く異なるベクトルの恐怖をカリオストロは感じていた。何なら無言の笑顔で執拗に顔面を狙う今のナナシはこれまでで断トツに怖い。
そんな状況でもカリオストロがナナシの隙を窺おうと視線を巡らせていると…笑みを浮かべるナナシと目が合った。合ってしまった。
(あっ…仮面…被ってたわ…)
そうカリオストロがストンと納得してしまう程、貼り付けた笑みを浮かべるナナシの瞳には鬼神を思わせる激しい憤怒が宿っており…それに気が付くと同時に、カリオストロの防壁に罅が入った。
「いぃぃぃぃぃぃやぁあああああああ!!?!?」
このままだとヤバいとカリオストロが悲鳴を上げながら短距離転移の術式を構築する。兎にも角にもナナシから距離を離さなければと構築した術式で、カリオストロはナナシ越しに見える背後の空間へと転移して…
「ひっ!!?」
…カリオストロの視線と感情から瞬時に転移先の当たりをつけて駆け出していたナナシが、拳を引いて待ち構えていた。
(こうなったら…!)
顔に迫る拳を前に、カリオストロは覚悟を決めて…素早く膝を曲げてナナシの攻撃を回避、その懐へと潜り込んだ。
「まさかの武闘派ぁあああああ!!」
これまで遠距離攻撃を主体としていたカリオストロが唐突に見せた接近戦の動き。それが決して土壇場の思いつきでは無いことを証明する鋭いアッパーカットが、これまでのお返しとばかりにナナシの顔面へと迫って…
「知ってる」
グシャアッ!!
…ナナシが冷静に繰り出したクロスカウンターによって、カリオストロは大きく吹き飛ばされた。
「ぐふっ!?…な、何故…?」
「射撃の腕と体運びに妥協しないのは良いが、目と感情の動きが殴り合いを生業にしている奴らのソレだ。感情を感知出来るって言っただろ?真っ向から俺の意表を突きたかったら最低でも体を完全に意識から切り離した状態で動かして俺の認識を上回る速度を出せるようにするんだな」
「誰が出来るのよソレ!!?」
「とりあえず忍者の修行から始めるんだな」
「「
「俺の奇襲に心では本気で驚きつつ自動で動く体に首チョンパされた…俺の体質に慣れてからは手足落されることは何度かあったが…地面に落下する前に慌てて生首状態の俺をキャッチして加減出来なかったと本心から謝る慎二は中々に衝撃だったな…」
過去の衝撃的な体験を思い出したせいか、ナナシは一時的にクリスの大事な局面を邪魔された怒りを忘れて遠い目でそう呟くのだった。
「す、凄い…」
建物の壁に空いた穴から遠目にアルカノイズを殲滅するクリス達と、敵とはいえ女の顔を徹底的に攻めるナナシの姿に、ステファンは思わずそう呟いた。すぐ傍でソーニャもステファンと同じ想いで呆けていると…アルカノイズの攻撃によって脆くなった建物の天井が罅割れ、二人の頭上へ瓦礫が降り注いできた。
「「ッ!!?」」
カリオストロが動けない間にクリス達がアルカノイズを一掃して、ナナシも再起動してその瞳に再び怒りを宿し始めたところ…
「大丈夫!?クリスちゃん!…って、あれ?」
「もう終わりデスか?」
響達が現場に到着するも、アルカノイズは既に全滅してカリオストロが追い詰められている状態に肩透かしを食らってしまった。
「ッ!!」
だがカリオストロは響達を認識した瞬間、即座に動いて懐から取り出した『三つ』の水晶を纏めて響達へと投げつけた。
パリンッ!
水晶の一つが翼と調、もう一つが響と切歌、最後の一つがマリアの傍で砕けると、地面に陣が広がって…
「フフッ…」
「っ!?クソ!!」
カリオストロの笑みを見たナナシが即座に駆け出して…よく見ると他の二つとはやや異なる模様の陣の内側にいるマリアの元へ迫った。
「えっ!?」
「ごめん!!」
ドゴッ!!
「がっ!!?」
駆けつけた勢いそのままに、ナナシがマリアを陣の外へと蹴り飛ばした。それと同時に、クリスとマリア以外の姿がその場から消失する。
「何を!?」
「ウフフ、紅刃シュルシャガナと、碧刃イガリマのユニゾン…プレラーティが身をもって教えてくれたの。あのイレギュラー以外では、気を付けるべきはこの二人って」
「それだけじゃねえだろ!?ご都合主義のあの慌てよう…一体あいつに何をしやがった!!?」
「さ~てね~♪」
カリオストロはクリスの問いをおどけて誤魔化しながら、想定以上の結果に笑みを零すのだった。
先程投げた三つの水晶…調達を分断した二つは以前使った亜空間に閉じ込める新型アルカノイズを召喚するのと同じ代物だ。
しかしマリアを閉じ込めようとしてナナシが身代わりになったのは、試作に終わった機能特化型の更に前身…言うなれば、『失敗作』にカリオストロが少々手を加えたものだ。
機能特化型アルカノイズの主な機能は『亜空間の生成』、『通常個体のアルカノイズを生産』、『位相差障壁の変質』の三つ。カリオストロが使用したのは試験的に『亜空間の生成』能力を持った個体を作成した時の余りである。
本来であればそこに残りの機能を追加するのだが…カリオストロはその代わりに、亜空間の拡張とアルカノイズの隠密能力を強化していた。
更にカリオストロは、機能とは別にアルカノイズに特別な命令を刻んでいた。それは『性別が男性』と『一定値以上のフォニックゲイン』からは距離を取ること…ナナシとギアを纏った装者からの逃亡である。
あからさまなくらい時間稼ぎに特化させたそのアルカノイズは…しかし上手く事が運べば、高確率でS.O.N.G.の戦力を減らせる可能性を秘めていた。
マリア達のLiNKERは確かに改良を施されて効果時間は伸びているが、リミットがあることには変わりがない。広大な亜空間を逃げ回るアルカノイズをそのリミットまでに見つけられなければ…LiNKERが切れた生身の装者相手なら、たった一体のアルカノイズでも容易く葬る事が出来る。
ナナシはカリオストロの笑みから感じ取った『殺意』によって何らかの策が施されていることに気付き、即座に動いてその感情を向けられていたマリアを窮地から離脱させる事に成功したのだ。
ナナシによってマリアの確殺は阻止されてしまったが、カリオストロにとっては寧ろこの状況は好都合である。
(一番の邪魔者を排除出来た。あとはキャロルンが出しゃばってくる前に残った二人を始末すれば、お釣りがくるわ♪)
そう考えたカリオストロは、咄嗟だったため上手く加減出来なかったナナシの蹴りによって未だ遠くで蹲るマリアを一先ず後回しに、一気にクリスの懐に潜り込んでボディブローを叩き込んだ。
「がっ!?」
クリスはカリオストロのこれまでとは異なる素早い動きに対応出来ず、モロに攻撃を食らって建物の壁を突き破る程の勢いで吹き飛ばされてしまった。
「ガッツポ~ズ♪」
ようやく自分の策が上手く決まり、カリオストロは笑顔で浮足立っていた。
壁を突き破って室内に飛び込んでしまったクリスが目を開けると、目の前の光景にクリスは驚いてしまった。
「まだこんなところに!?」
「天井から瓦礫が…この石が守ってくれたけど、身動きが取れなくて…」
“障壁”が落下する瓦礫からステファン達を守っていたが、ステファン達の頭上に瓦礫が積み上がってしまいステファン達は閉じ込められてしまっていた。すぐさまクリスがステファン達の頭上の瓦礫をボウガンで吹き飛ばすが…
「ごめんね、巻き込んじゃって…」
…その間に、カリオストロがクリスに追いついてしまった。
「すぐにまとめて始末してあげるから…」
「そうはさせ…っ!!」
クリスは立ち上がろうとするが、先程の攻撃によるダメージによって思わず膝をついてしまう。そんなクリスの姿に、カリオストロは獰猛な笑みを浮かべて…
「うおおおおおおおおあああ!!!」
…そんなカリオストロの顔に目掛けて、ステファンがナナシから貰ったサッカーボールを蹴り飛ばした。
「自棄のやっぱち!!?」
当たったところで大した影響は無いが、既に幾度も攻撃を受けた顔への接触を嫌ってカリオストロは腕でボールを弾き飛ばし…
「ナイスキックだ、ステファン!世界だって狙えるぞ!!」
ドグシャアッ!!
「ふぐぁああああ!!?」
…ボールで死角となった位置から迫ってきた拳の一撃によって、カリオストロは顔面を歪ませながら建物の外へと吹き飛んでいった。
突然の事態に、クリス達が先程までカリオストロがいた場所に視線を向けると…
「「ッ!!?」」
「ご都合主義!?お前大丈夫なのか!!?」
…全身が血で真っ赤に染まった左腕の無いナナシがそこにいた。
「あー大丈夫大丈夫。これ俺の血だけど怪我した訳じゃないから」
「じゃあ何でそんな…」
「飛ばされた先が明らかに前回より広さを嵩増しされた亜空間で、核になっているアルカノイズはコソコソ逃げ回ってるみたいだったから…ちょっと誇張無しで血の雨を降らせただけだ」
ナナシは自分が置かれた状況を理解した後、“収納”から出した血液を操って上空に放出、広範囲に血液を散布することで不可視状態のアルカノイズを見つけ出して響達よりも早く亜空間から脱出を果たしていた。
「お前らは真似するなよ?こんな方法、俺か武〇老師じゃないと普通に失血死だからな?」
「出来るか!ってか、じゃあその腕はどうしたんだよ!?」
「色々イラッとしたからつい本気でアルカノイズをぶん殴っただけ」
「…ああ…そうかよ…」
「それじゃあ俺は一足先にあの雄太郎にお礼参りに行ってくるから!」
それだけ言い残してナナシは早々にカリオストロを追って建物の外へ出てしまった。ふざけたナナシの振る舞いに力が抜けてしまったクリスは何とか気合を入れ直し、唐突に戦いへと介入してきたステファンに睨みを利かせた。
「何のつもりだ!?」
「クリス達があの時助けてくれたから!俺も今、クリスを助けられた!!」
「っ!?」
「過去はどうしたって変えられない!だけどこの瞬間は変えられる!きっと未来だって!!」
「ステファン…」
「姉ちゃんもクリスも、変えられない過去に囚われてばかりだ!」
「「っ!?」」
ステファンの叫びに、クリスとソーニャは思わず目を見開いた。
「ナナシのやり方は乱暴だったかもしれない。でも、それだけ必死に二人の未来を変えようと頑張っていたんだ!だから俺達は今この場に集まった!ナナシが示した道に、俺はこの足で踏み出した!姉ちゃんと、クリスは!?」
必死にクリス達に訴えるステファンの手は震えていた。バルベルデの時も今も、彼は決して恐怖を感じていない訳では無い。恐怖を上回る強い勇気で、望む未来を掴もうと行動してきただけだ。そんな彼だからこそ、脅迫され普通の人間ではないことを察して尚、ナナシと話してその想いに寄り添う事が出来た。
そんなステファンの姿を見て、ソーニャはステファンの震える手を握り…クリスもソーニャの手の上に自分の手を重ねて、お互いの顔を見て笑い合った。
「これだけ発破かけられて、いつまでも足を竦ませる訳にはいかねえじゃねえか!」
ソーニャに…自分の過去に笑顔を向けて、気力を漲らせたクリスがナナシ達に加勢すべく建物を飛び出すと…
「あああああもぉおおおおお!!いい加減あーしらの前から消えなさいよジャパニーズホラァアアアアアア!!!」
「だったら洋モノ要素加えてみようか!!」
ガサガサガサガサッ!!
「いぃぃぃぃぃぃやぁあああああああ!!?!?」
チュンチュンチュンチュンッ!!
…“化詐誣詑”状態のナナシがブリッジしながら高速で光弾を避けてカリオストロに迫る光景を目の当たりにして、再び力が抜けそうになった。そんなクリスに気が付き、短剣を飛ばしてナナシを援護していたマリアが近づく。
「遅い!…だけど良い顔してるから許す!」
「さっきのアレ、この本番にぶつけられるか!?」
「良いわよ!そういうの嫌いじゃない!!」
お互いに力強い笑みを向けながらマリアとそんなやり取りをしたクリスは、時折“浮遊”を交えて何ともキモイ動きでカリオストロを翻弄するナナシへと呼びかける。
「ナナシ!」
「ん?おお!やっと来たかクリス!!」
ガサガサガサガサッ!
ブリッジしながら迫るナナシにビクリと身を震わせ、多少引き攣りはしたものの笑みを保ったままクリスはナナシに宣言する。
「あたし達の最高の歌を聴かせてやる!だからちょっと引っ込んでろ!!」
「ほう?ここ最近ずっと暗い感情漂わせていた癖に大口を叩くじゃないか?そこまで言っといてシケた歌なんて聴かせてみろ、マリア共々一日猫耳メイドで奉仕させてやるからな!」
「私も巻き添え!?」
「ハン、上等だ!だったらてめえが満足したら一日犬耳執事であたしらの世話させるから覚悟しとけ!!」
「あっはははは!良いだろう!!精々どの犬種の耳が良いか考えておくことだな!!」
「負けること前提!!?」
「いちゃついてんじゃないわよ!そぉぉぉりゃ!!」
カリオストロが空中に大きなハートを描いてその中央に投げキッスと共に小さなハートを飛ばして重ねる。二重のハートにカリオストロが拳を叩き込むと、ハート型の光線がクリス達に迫って爆発した。
煙の中に消えたクリス達に、カリオストロがフッと笑みを浮かべる。しかし徐々に煙が晴れると…そこにはイグナイトを纏ったクリスとマリア、あと法被に鉢巻を身に着け両手にサイリウムを持ったナナシがいた。
「イグナイト!?ラピス・フィロソフィカスの輝きを受けて、どうして!!?」
「昨日までのシンフォギアと思うなよ!!」
クリスとマリアは美しい歌声を響かせながら、カリオストロに向かって一気に駆け出した。
「1000の傷ってのは1000を超える 逃げなかった過去の証なんだよな?」
「戻らない時計があるから その先にある世界へ行けるんでしょう?」
カリオストロは両手にボクシンググローブのような籠手を出現させてジャブの動きで光線を次々放つが、クリス達は難なく躱してマリアが反撃に蛇腹剣を振るう。カリオストロは籠手で攻撃を受け流すが、イグナイトで出力が上昇していることを踏まえても想定以上の力が籠められていることに心の中で驚く。
(これってユニゾン!?ザババの刃だけじゃないの!!?)
これこそが弦十郎の特別訓練の成果。調と切歌の二人のユニゾンがプレラーティを打ち破ったからこそ分断が想定されるため、ギアの特性に頼らずとも如何なる組み合わせでも心を重ねられるよう特訓が行われていたのだ。
「ラピスの輝きを封じたうえでユニゾン…こんなの、サンジェルマン達にやらせるわけには!」
クリスのガトリングをハート型のバリアで防ぎながらカリオストロは思考する。今やクリスとマリアの二人にさえ押されている状況だ。ここに他の装者とキャロル、後方でサイリウムを振り回すナナシまで加わっては、自分達に勝機など無くなってしまう。
「やらせるわけにはあああああ!」
ハート型のバリアのエネルギーから炎を放射してクリス達の動きを止めたカリオストロは、両手の籠手に蒼いエネルギーを収束させる。
「高質量のエネルギー!?まさか、相打ち覚悟で!!?」
「あーしの魅力は…爆・発・寸・前!!」
両手の籠手を重ね合わせ、カリオストロが背中のブースターを使って空へと舞い上がる。それを追いかけるため、クリスとマリアは互いのアームドギアを合体させて戦闘機を生み出した。
“Change †he Future”
蒼いエネルギーを纏って急降下してくるカリオストロに、クリス達はブースターから赤い炎を噴射させて一気に加速し迎え撃つ。空中に蒼と赤の軌跡を残しながら幾度とぶつかり反発しながら、遂に両者は互いの全力を籠めて正面からぶつかり合う。
「うおおおおおあああああ!!!」
カリオストロが絶叫を上げ、クリス達が苦しみながらも歌を奏で続ける。日が沈み暗くなり始めた街が、二つのエネルギーの衝突によって生じたスパークの光で照らし出される。地上からその光を見たソーニャとステファンは、光源の奥で苦しみに顔を歪めるクリスに必死に呼び掛けた。
「今を超える!」
「力を!!」
二人の想いが籠った声を聞き、クリスは受け取った想いも注ぎ込むように全力で歌に力を籠めた。
「ビートよ高まれ!」
「限りなく熱く!!」
「「痛くても泣くなよぉおおおおおおお!!!」」
歌声と共に出力を増したクリス達の力に、カリオストロの体は徐々に飲み込まれて…
「うわああああああああああああ!!!」
ドゴオオオオオオオオオンッ!!!
…断末魔と共に大爆発が起こり、クリスとマリアは爆発に巻き込まれる前に地上へと着地してそのまま疲労で地面に座り込んだ。
「やったわね…」
「ああ…」
その直後、空間の揺らぎの中から亜空間に閉じ込められていた響達が姿を現した。どうやら無事に核となるアルカノイズを倒したらしい。
「クリスちゃん!」
「マリア!」
「無事だったか、皆!」
「まあ、何とかな」
「……」
仲間の無事をそれぞれが喜ぶ中で…調だけが、暗い表情で顔を俯かせていた。
戦闘が終わり、周囲にS.O.N.G.の職員達が到着して事後処理を進める中…ナナシは爆発が起こった空中を眺めて首を傾げていた。
「ん~…?」
「おい、ご都合主義」
そんなナナシに、ギアを解除したクリスが険しい顔で近づいてきた。
「ん?どうかしたか、クリス?疲れているだろう?無理せず休んでいろよ」
ナナシは先程までの思案顔を消し去って優しい笑みでクリスを労わる。そんなナナシに、クリスは険しい顔のまま…顔を僅かに赤く染めて、零すように言葉を伝えた。
「……ありがとよ」
「ん?何に対してだ?」
「…それ、言って良いのか?」
「んぐぇっ!!?い、いやいやいや!別に良いんじゃないか!!?日頃の感謝を伝えるのって良い事だよな!!うん!!!俺もお前に感謝しよう!!いつも素晴らしい歌をありがとう!そして、ありがとう!!」
自分で掘った墓穴を慌てて埋めようとするナナシにクリスは呆れて…フッと笑みを零してしまった。
「クリス!」
そこにソーニャとステファンがクリスの姿を見つけて安否確認のために駆け寄ってきた。そしてソーニャは傍にいるナナシに気が付くと、ナナシに声を掛け始めた。
「ナナシ…今回のこと、本当に…」
「ソーニャ様、少々お待ちください…おい、クリス!いい加減話しても問題ないよな!?駄目なら悪いけど全力で逃げさせてもらうぞ!!?」
「何を今更…あーハイハイ、好きにしろ。ソーニャ姉ちゃんと何話そうがもう別に構わねえよ」
「フゥ…失礼しました。それではソーニャ様、どういったご用件でしょうか?」
「…その口調、やめてもらえないかしら?あなたが私と距離を作りたいのならば、無理強いはしないけれど…」
「敬語って難しいな?俺がきちんと相手に敬意を持ち始めると使用を拒否され始める…それで?一体何の用なんだ?」
クリスに許可を取って口調を崩したナナシがそう問いかけると、ソーニャはナナシに対して頭を下げた。
「ありがとう。あなたのお陰で、クリスと向き合うことが出来た。その上あんなに寄付まで…その、せめて日本の旅費だけでも返させてくれない?それとは別に今回のお礼は必ずさせてもらうから…」
「いらないいらない、全部俺の都合でやったことだ。何か礼がしたいなら、精々突然死なないように日頃から気を付けてくれ。これでお前らにいなくなられたらそれこそ目も当てられない」
「あなたの都合って…それで何故、あなたはここまで私達やクリスにここまでのことを…あなたはその、ひょっとして…クリスの、事を…?」
「ちょっ!?ソーニャ姉ちゃん!!?」
ソーニャの言葉にクリスが慌てる。だがナナシの事を知らないソーニャからすればそれ以外に思い浮かばない。ただ同じ組織の仲間という理由だけとはソーニャにはとても思えなかった。
「本当に俺個人の都合でお前らの問題に首を突っ込んだだけだよ。俺はクリスを含めたS.O.N.G.の歌姫達の素晴らしい歌を聴くためなら何だってやる。そのために今回は金と権力でお前らを脅迫するのが一番手っ取り早かっただけだ」
そんなソーニャの懸念を知ってか知らずか…恐らく知らずに…ナナシは当たり前のようにそう答える。そんなナナシの態度に、ソーニャとステファンは何故か少し残念そうな顔をしていた。クリスは妙な誤解をされなかったとほっとしながら胸を撫でおろして…
「強いて言うなら、俺はクリスの事をもっと知りたいのに、これ以上理解出来ない想いを増やして欲しくなかっただけだ」
「「「っ!!?」」」
…不意に差し込まれたナナシの言葉で、クリス達は驚愕で身を固まらせてしまった。
「ステファンにはさっき少し話したけど、俺は記憶喪失みたいなもので生みの親に育てられた記憶も無ければ、幼い頃に世話になった姉貴・兄貴分と疎遠になるなんて想い出は無い。何なら今がその世話になっている真っ最中か?だからどう足掻いても俺は親を失ったクリスの想いを理解出来ないし、疎遠のまま姉が死ぬ想いも理解出来なければ理解したくもない。クリスの事は全部知りたいのに、これ以上理解出来ないことを増やされたら堪ったものじゃない」
「なっ!?ちょっ!!?おい!!?!?」
…ナナシの言葉に嘘は無い。だが今そんな言葉を聞いたら絶対にソーニャ達が勘違いしそうな言葉を発するナナシにクリスは顔を赤くして慌ててしまった。そんなクリスの態度もあって、ソーニャとステファンはナナシ達にジトッとした疑惑の目を向けてしまった。
「…ねえ、本当にクリスとナナシはただの仲間なの?他に何か二人だけの特別な関係は無いの?」
「ステファン!?な、ななな、何言ってんだ!!?あたしらはただの仲間だ!!そうだろう!?ご都合主義!!?」
「うん?まあ、そうだな。俺とクリスだけの特別な関係なんて他には…あっ!」
途中までクリスに同意していたナナシだったが、何かに気付いたように声を上げた。それに途轍もなく嫌な予感がしたクリスは、慌ててナナシの言葉を止めようとする。
「ご都合主義!!やっぱりてめえは黙って…」
だがクリスが完全に止める前に、ナナシは“収納”からある物を取り出して…
「あるとすれば、男でこいつの家の合い鍵を持つことを許可されているのなんて俺くらいじゃないか?弦十郎や慎次は持っていたっけ?」
…クリスの名前が刻まれた鍵を掲げながら紡がれたナナシの問いに、クリスはソーニャ達と一緒に固まって答えることが出来なかった。
その後、クリス達が動かない間に職員から事後処理の手伝いを申請されたナナシがその場を離脱。直前で硬直から復帰したクリスが引き止めて釈明させようとしたが、同じく硬直から復帰したソーニャにニッコリ笑顔で肩を掴まれて…飛行機が離陸する寸前まで、クリスは根掘り葉掘り話を聞かれることになった。
「絶対にまた来るからぁあああああ!!またいつかねぇえええええ!!!」
「クリス!応援してるから!!頑張ってね!!!」
…飛行機に乗る直前、ソーニャはギリギリまでクリスに声を掛け、ステファンはクリスを激励していた。クリスはそんな二人に、疲れ切った表情で手を振っていた。
その夜、サンジェルマンとアダムは先日の神社とは異なる祠の前で同様の儀式を行っていた。苦悶の表情を浮かべるサンジェルマンの背中に、何かの文様が刻まれていく。
「やーられちゃったー!消えちゃったー!カリオストロはぁ、お星様になられたのよ~?ち~ん!」
するとティキがとても明るい声で茶化すように、カリオストロの敗北をサンジェルマン達に伝えてきた。
「そんな!?カリオストロが…」
「省けたね?選択のひと手間が」
「っ!!?」
「贄と捧げるはプレラーティ…丁度良いね?怪我もしているし」
「あなたは、どこまでも!!」
アダムの言葉に激昂したサンジェルマンは、立場の違いも忘れてアダムに手刀を振り下す。だがアダムはそれを易々と受け止めると、笑いながら言葉を続けた。
「ああ、人でなしさ!全くもって正しいね、君の見立ては」
そう言いながら、アダムはサンジェルマンを地面に突き飛ばした。
「アダムの人でなしー!碌でなしー!悪い男はいつだって、女の子にモテモテなのよね!」
「旧支配者に並ぶ力だよ?神の力は。手に入らないよ、『人でなし』ぐらいじゃないと」
地面に倒れ伏すサンジェルマンは、仲間の死と自身の無力に身を震わせて蹲る。
『こいつが今の在り方のまま歩みを進めるつもりなら…いつかきっと、こいつは目的のために仲間を犠牲にする』
そんなサンジェルマンを更に責め立てるように、その脳裏にナナシの言葉が木霊していた。