戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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一応後半ホラー・グロ描写注意です。
色々詰め込み過ぎてギャグなのかシリアスなのかホラーなのか…混乱させたら申し訳ない。


第153話

サンジェルマンの元へ向かうため、プレラーティが民間人の運転する車などお構いなしに高速道路を巨大けん玉で爆走していると…

 

「現れやがったな、ゲロ子!またカエルみたいにゲロゲロ言わせてやる!!」

 

「ッ!?」

 

突然、背後から忌々しい声が聞こえてきた。

 

「チッ、鬱陶しいのが寄ってきたワケダ…今は貴様も、歌女共もお呼びでないワケ…」

 

プレラーティが舌打ちして、文句を言いながら背後に迫る怨敵を警戒すべく振り返り…

 

 

 

金髪美少女のお面を被って男性用セーラー服を着た不審者が、空中をアスリート走りで爆走して自分に迫る光景を目撃した。

 

 

 

「ダァアアアァァアアアアアアァァァ!!?!?」

 

「待ぁぁぁぁぁぁてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

変質者と怪異が同時に迫ってきたような恐怖と驚愕で思わず速度を上げるプレラーティだったが、不審者…ナナシも速度を上げたため引き離すことが出来ずに遂には並走されてしまった。

 

「ようやく追いついた!てめえらは揃いも揃って大事な場面を邪魔しやがって!!月に代わってお仕置きしてやるから覚悟しやがれ!!」

 

「くっ…煩い!それはこっちのセリフなワケダ!!」

 

プレラーティが錬金術で炎を放つが、“障壁”で自在に道を作れるナナシは速度さえ落とさずに易々と避けてしまった。

 

「何処までもこちらを虚仮にして!貴様のようなふざけた輩が、サンジェルマンの崇高な目的を邪魔するな!!」

 

「あっはははは!知るか!!今更どっちが偉い、偉くない、正しい、正しくないの問答する気はねえよ。あいつの御大層な覚悟、正義、存在意義なんてのは、俺には子供の遊び程度の興味も無い!そんなに正義の味方役がしたいなら好きにしろ。ただお前らの大好きなサンジェルマンちゃんが俺はクソつまらなくて大嫌いだから、ごっこ遊び付き合ってやるつもりは無い!俺の遊び場(世界)を占領しようとするなら追い出す!それだけだ!!」

 

「貴様…!」

 

「そんなごっこ遊び程度のことに、物騒な刃物まで持ち出されたら適わないからな!神の力なんて作らせてやるものか!」

 

「それはこちらも同じなワケダ!」

 

「あぁ…?」

 

プレラーティの発言にナナシは怪訝な表情を浮かべる。神の力の顕現、それがパヴァリア光明結社の目的だったはずだ。少なくとも、サンジェルマンの言葉に嘘は無かったとナナシは認識している。

 

「アダムは危険だと、サンジェルマンに伝えなければならないワケダ!こんなところで、貴様らの相手をしている暇など無いワケダ!!」

 

そう言うとプレラーティは、ナナシを無視して更に速度を上げて道路を突き進んでいった。

 

「誰にもサンジェルマンの邪魔はさせない!サンジェルマンは…私が守るワケダ!!」

 

何一つ偽りの無い、プレラーティの強い覚悟。その感情が籠められた言葉は…

 

「………あ゛ぁ゛?」

 

…“紛い物”の、逆さ鱗に触れてしまった。

 

 

 

 

 

ナナシに遅れて、プレラーティを追跡する翼と調。その道中、翼が前方を進む調に語り掛ける。

 

「ユニゾンだ、月読!イグナイトとのダブルブーストマニューバで捲り上げるぞ!」

 

しかし翼の提案に、調は暗い表情で俯いてしまう。

 

「ユニゾンは、出来ません…」

 

「月読…」

 

「切ちゃんは…やれてる。誰と組んでも…だけど私は、切ちゃんとでなきゃ…!人との接し方を知らない私は、一人で強くなるしかないんです!一人で!!」

 

そんな自分の在り方に、誰よりも自分自身が苦しんでいるような調を見た翼は、かつての自分を思い出して…故にこそ、自分がそうしてもらったように、調に寄り添うための言葉を紡いでいった。

 

「心に壁を持っているのだな?月読は」

 

「壁…」

 

その翼の一言は、まるで宮司との会話を聞いていたのではないかと思う程的確に今の調の問題を見抜いていた。

 

「私もかつて、友を守ることが出来ずに多くの物を失い、失わせ…これ以上失うものかと誓った心が壁となり、目を塞いだことがある」

 

「奏さん、との…」

 

翼も初めは、背中を預けられる存在は奏しかいなかった。そんな奏を守り抜くことが出来ず、二度と失敗しないと一人で抱えこんで、ナナシとさえ役割を分担することはあっても完全に背を預けられない状態が一年も続いていた。響に至っては、そんな自分の心が原因で思い切り拒絶までしてしまった。

 

「月読の壁も、ただ相手を隔てる壁ではない。相手を想ってこその距離感だ」

 

「想ってこその、距離感…」

 

人は誰しも、踏み込まれたくない領域を持つ。その領域に踏み込ませないために隔たりを作り、距離を保とうとする。人と人が関係を築く場合、まずはお互い手探りでその隔たりを埋めていくことになる。

 

多くの人間はその過程で互いに傷つき、一定の距離を埋めたところで近づくことをやめてしまう。一方が平気でも、もう一方が耐えられなければ隔てる壁を大きくされて容易に近づけなくされてしまう。互いの領域に何の抵抗も無く迎えられる特別な存在に出会えることは極めて稀だ。だからこそ、そんな存在を大切に想うことが出来る。

 

しかし、そんな特別な存在への想いがある故に、それ以外の人間から距離を取ろうとしてしまうことがある。大切な人と他人を明確に区別するため、大切な人に近づこうとした他人が無意識に自分の領域に入らないようにするため、大切な人に自分以上に近づく他人が現れないようにするため…そんな想いが、時には大切な人に負担をかけてこれまでの距離を保てなくなることもある。

 

とても簡単に言ってしまえば、嫉妬や依存、独占欲と言った感情だ。自分のそんな想いが周りを傷つけ遠ざけてしまうと理解している。それでもそんな自分の在り方を変えられず、過剰に隔たりを大きくしてしまう。

 

しかしそれは、決して自分を守るためだけの隔たりではない。そんな自分にさえ笑顔を向けてくれる人達を、過剰に傷つけないため。自分と大切な人だけでなく、もっと多くの人達と支え合っていくための距離感を模索するためだ。

 

「それはきっと、月読の優しさなのだろうな…」

 

…それは他ならぬ翼が、自分が傷つけ、それでも諦めず歩み寄ってくれた人達に教えてもらったことだ。

 

そんな翼の言葉に籠められた想いは…調の胸の内へとしっかり届いた。

 

「優しさ…優しいのは私じゃなく、周りの皆です!だからこうして気遣ってくれて…」

 

調の顔から影が消える。自分の悩んでいた意味と、傍に寄り添おうとしてくれた人達の想いを知った調は、笑みを浮かべて宣言する。

 

「私は、皆の優しさに応えたい!」

 

そう調が決意を言葉にしていると…二人が進む道の先で、何やら大きな音が鳴り響いているのが聞こえてきた。

 

 

 

 

 

ガゴォオオオン!!

 

「なっ!!?」

 

突然の事態に、プレラーティが驚愕する。突如目の前に現れた“障壁”に巨大けん玉が衝突して、巨大けん玉と共にプレラーティの体は空中へ投げ出されてしまった。

 

それでもプレラーティは慌てず空中で一度巨大けん玉を収縮させ、態勢を立て直して再びけん玉を巨大化させようとして…

 

「ふざけた事を…抜かしてんじゃねえぞクソがぁあああああああ!!!!」

 

グシャァアアアアアアア!!!!

 

「がぁああああああああ!!?!?」

 

…そんなプレラーティの顔面に、加速の勢いを乗せたナナシの拳が突き刺さり、プレラーティは凄まじい勢いで高速道路の上を跳ねるように転がっていった。

 

「うっ…ぐっ…」

 

ようやく勢いが収まり、ふらつきながらプレラーティが立ち上がろうとする。だが…

 

「今更何を寝ぼけた事をほざいてんだてめぇえええええええ!!!!」

 

ドゴシャアアアアアアア!!!!

 

「ぐああああああああああ!!?!?」

 

…間髪入れずナナシがプレラーティの体に蹴りを叩き込み、立て直す暇を与えずナナシがプレラーティを転がしながら怒鳴り声を上げる。

 

「アダムが危険!?何の躊躇もなくお前ら諸共に邪魔なモノを消し去ろうとする奴だぞ!!?使い捨てにされることなんて分かりきっていただろうが!!サンジェルマンを守る!?死に場所を求めて身の丈に合わない願いを抱き続けるあの屍女を、今まで放置し続けたお前が今更!!?願いを叶えられても!叶えられなくても!!あいつが碌な結末を迎えられない事なんて、てめえは!てめえらは!!分かっていたはずだろうが!!!知らなかったなんて言わせねえぞぉおおおお!!!!」

 

プレラーティをボールのように転がしながらトンネルに辿り着いたナナシは、プレラーティの後頭部を鷲掴みにして壁面に叩きつけ、プレラーティの顔で壁面を削るように速度を維持して突き進む。

 

「っ~~~!!?」

 

「それでもお前らが!今のあいつを全肯定して!!地獄の底まであいつに寄り添ってやるつもりなら納得出来た!!好きにすれば良いと思った!!だけど…だけど!あの屍女と生きることを!!共に在り続けることを願うと言うならば!!!何で…どうして!!?」

 

ナナシがプレラーティを壁面から引き剥がし、向き合うように両手でその頭を抱え込むと、維持していた速度の勢いを全て籠めるように…

 

ズゴォオオオオオオオン!!!!

 

…自分の額を、プレラーティの額に叩きつけた。

 

「が…あ…!!」

 

その凄まじい衝撃にナナシの面が弾け飛び、両者の額が割れて血が流れる。意識が朦朧とするプレラーティの瞳を、面が無くなって憤怒の表情を露わにしたナナシが睨みつけながら叫んだ。

 

 

 

「どうしてもっと早く、あいつの在り方を否定してやらなかった!!?」

 

 

 

「っ!!?」

 

「分かんねえ!分かんねえよ!!あいつの結末を受け入れられないなら!何故今のあいつの在り方を受け入れ続けた!?あいつの幸せを!笑顔を!!諦めきれないなら!!!どうして自分の未来を諦めたままのあいつを捨て置いた!!?どうして…どうしてだよ!!?」

 

「調、子に…乗るなぁああああああ!!!」

 

ザシュウッ!!

 

一方的に自分を責め立てるナナシの心臓を、プレラーティがけん玉の針で貫く。しかしそれでも、そんな些末事はどうでも良いと言わんばかりに、ナナシは胸と口から血を零しながらプレラーティへと叫び続けた。

 

「どうしてお前らは!自分達にとって一番大切な想いを『妥協』しやがった!!?」

 

「う、るさい…黙るワケダァアアアア!!!!」

 

「うおっ!!?」

 

プレラーティが錬金術で大量の水を放出する。洪水のような濁流に飲み込まれて、ナナシはトンネルの入り口方向に押し戻されてしまった。その隙にプレラーティは再びけん玉を巨大化させて先に進み始める。

 

「クッソ、待てコラァ!!」

 

「先生!!」

 

ナナシが濁流に抗いプレラーティを追いかけようとしていると、ナナシの手を後ろから追いついてきた調が掴み取った。調は丸鋸で濁流を切り裂くように突き進み、翼もその後ろにピッタリと追従して最小限の負担で濁流をやり過ごしていた。

 

「ナナシ、無事か!?」

 

「悪い、助かった!ゲロ子の野郎、今すぐ追い詰めて血祭りに…」

 

「先生!」

 

「っ!?」

 

すぐに駆け出そうとするナナシだったが、そんなナナシを呼び止める調の声と、そこに籠められた感情にナナシが怒りを忘れて動きを止めてしまった。

 

「後の事は任せて、どうか聴いてください!『私達』の歌を!!」

 

「え、えぇ…?一体何が?SAKIMORIに先を越されるなんて、一生の不覚なんだけど?」

 

「何だと貴様!!?」

 

「何だこの安堵と嬉しさと寂しさと不満が入り混じった名状しがたい気持ちは…ああ、自分には何も相談してくれないのに、兄や姉には早々に悩みを打ち明けてあっさり元気になった子供に対しての愚痴を零していたウチの職員共がそんな雰囲気だったっけ?…うぅ、翼ちゃんったらいつの間にこんな立派になって…お母さん、嬉しいけど少し寂しい(了子風の女声)」

 

「ブフッ!!?」

 

「母親視点でしみじみと感傷に浸るな!?懐かしいネタまで引っ張り出しおって!!」

 

「ごちゃつくな!いい加減付け回すのを止めるワケダ!!」

 

背後で漫才のようなやり取りをするナナシ達に、プレラーティが錬金術で炎を放つ。ナナシ達は咄嗟に炎を回避するが、炎は三人の背後にあったトンネル換気用のジェットファンに直撃して大爆発を起こし、三人の姿は背後から迫ってきた炎に飲み込まれてしまった。

 

「ぐうの音も…」

 

その結果に笑みを浮かべるプレラーティだったが、爆炎の中から『ダインスレイフ』の起動音声と共にイグナイトのギアを纏って飛び出してきた翼と調、法被と鉢巻を身に着けたナナシを目撃して笑みを消してしまった。

 

「ワ、ケダ…!?」

 

トンネルを抜けた直後に現れた標識を見て、翼がその意味を理解して慌てて叫ぶ。

 

「このまま行くと、住宅地に!?」

 

「心配するな!」

 

その直後、高速道路の路面を補強して、壁面を延長するような形で“障壁”が出現した。

 

「歌姫が最高の歌を奏でられる環境を用意するのがマネージャーの務めだ!些末事は任せて存分に歌ってくれ!!」

 

リレーのバトンのように両手にサイリウムを持って爆走するナナシに翼と調は苦笑した後、その期待に応えるように美しい歌声を奏で始めた。

 

この道を駆け上がる理由(わけ) 例え逆風がプロテクトしてきたって

 

「奏で合う」こと 忘れず進みゆこう 失ってから気付く涙は 無常の極みだから

 

翼がプレラーティの側面に接近すると、バイクを覆うように展開したギアのブレードを伸ばして回転するけん玉へ押し付ける。

 

「いざ、尋常に!」

 

「邪魔立てを…!」

 

錬金術で翼を攻撃しようとするプレラーティだったが、反対側から近づいた調がギアからチェーンソーのような刃を伸ばして翼と同様にけん玉へと押し付ける。その衝撃でプレラーティはバランスを保てず錬金術を中断させてしまった。

 

「動きに合わせてきたワケダ!」

 

「神の力、そんなものは作らせない!」

 

「それはこちらも同じなワケダ!」

 

プレラーティは跨っていたけん玉の上に両足で立つと、先程ナナシを押し流したのと同じように大量の水を錬金術で生成した。

 

「歌女共には激流がお似合いなワケダ!!」

 

先程よりも大量に生み出された水はもはや津波と言って差し支えない規模で翼達に迫る。しかし、二人の顔に焦りはない。

 

「地を駆けられないなら!」

 

「天翔けるだけの事!」

 

「なっ!!?」

 

その光景にプレラーティが驚愕する。二人は言葉を現実に反映されるように、空中を走って(・・・・・・)津波を乗り越えプレラーティへと迫った。

 

“障壁”を足場とした空中走行。“血晶”の応用的な使い方だ。高機動を誇る二人には、瞬時に道を作り出せるこの使い方が絶大な効果を発揮する。

 

「なんとぉぉぉぉ!」

 

プレラーティはけん玉の持ち手を引き抜きハンマーのように振るって二人の攻撃をいなした。だがそれで自分を乗り越えた翼達に進路を塞がれてしまう。

 

「駆け抜けるぞ!」

 

身を翻してプレラーティと相対した翼達は、二人のギアを合体させてチャリオットを形作った。

 

風月ノ疾双

 

「サンジェルマンに、告げなくてはいけないワケダ!こんなところで!!」

 

プレラーティも二人に対抗して、けん玉の球体に持ち手を突き刺し変形させ、チャリオットを成形した。凄まじいスピードで両者が激突する。

 

教えてくれた

 

私も教わった

 

調べ鳴るこの絆爆ぜよ

 

僅かな間拮抗した両者だったが、歌声と共に翼達が徐々に押し込み、そして…

 

「サンジェルマン…サンジェルマァァァン!!」

 

ドゴォオオオオオン!!!

 

…プレラーティの機体が大破。断末魔と共にプレラーティの姿が爆発の中に飲み込まれて消えていった。翼達は爆炎から弾かれるように飛び出し、道路を覆う“障壁”の上を何度か転がって停止した。

 

「勝てたの…?」

 

「ああ、二人で掴んだ勝利だ!」

 

「素晴らしい歌だったぞ。翼、調!」

 

翼達に近づいたナナシが称賛の言葉をかける。そしてプレラーティを飲み込んだ炎に視線を向けると…ニヤリと邪悪な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

プレラーティが向かっていた社…その付近で、サンジェルマンが大祭壇設置の準備を行っていた。すると突然現れた固定電話がベルの音を鳴り響かせたため、サンジェルマンはこのタイミングの通信を怪訝に思いながら受話器を取った。

 

『プレラーティはカエルのように轢き殺されたよ!お似合いだよ!!』

 

「えっ!!?」

 

受話器を耳に当てた瞬間、ティキの無邪気な声で告げられた情報にサンジェルマンは驚き固まってしまった。

 

『生贄にもならないなんて無駄死にだよね?ざまぁないよね!』

 

『報告に間違いはない。残念ながら…』

 

「一人で…飛び出したの…?」

 

『急ぎ帰投したまえ。シンフォギアに、儀式を気取られる前に』

 

呆然と呟くことしか出来ないサンジェルマンに、アダムから指示が下された。サンジェルマンは受話器を降ろして、苦悶の表情を浮かべる。

 

「カリオストロに続き、プレラーティまでもが…くっ…!」

 

『こいつが今の在り方のまま歩みを進めるつもりなら…いつかきっと、こいつは目的のために仲間を犠牲にする』

 

現実となってしまった“紛い物”の呪詛…それを気取られないよう配慮する仲間は既に無く、サンジェルマンは束の間、その瞳から涙を零すのだった。

 

 

 

 

 

夜が明けて、ツキ神社を後にするため調達が宮司に挨拶をしている傍らで、翼とマリアは本部と通信を行っていた。

 

「では、あの錬金術師の向かう先には…」

 

『鏡写しのオリオン座を形成する神社、レイポイントの一角が存在している』

 

「益々絵空事とは言えない訳ね…」

 

『対策の打ち所かもしれないな』

 

これでパヴァリア光明結社の狙いが、神出ずる門であることはほぼ間違いなくなった。それを踏まえて弦十郎は今後の対策を講じることに決めたようだ。

 

「良かったら、ツキ神社にまたいらっしゃい。この老いぼれが生きている間に」

 

「神社ジョーク…笑えない…」

 

翼達が弦十郎と今後の方針を決めている間に、調達も挨拶の締めに入ったようだ。相変わらずあまりよろしいとは思えないジョークを口にする宮司に調が困り顔をしていると、そんな調に宮司が兎の描かれたツキ神社の御守りを手渡した。そんな宮司の気遣いに、調は何処か懐かしさを覚える暖かな気持ちを感じて微笑む。

 

『ありがとうございました!』

 

調達が宮司にお礼を言って翼達の待つ車へと向かう。その途中、切歌が一人立ち止まって神社の名前が刻まれた石柱に注目する。

 

「う~ん、やっぱり不思議デス。こんなの『ツキ』なんて絶対読めないデスよ」

 

「切ちゃん、置いてっちゃうよ!」

 

「わ、分かってるデスよ!」

 

動かない切歌に調がそう言って急かすと、切歌は慌てて返事をしながら駆け出した。先程まで切歌が眺めていた石柱には、切歌の言ったように知らなければ『ツキ』とは読めそうにない表記で神社の名前が刻まれていた。

 

調(ツキ)神社』と…

 

 

 

「あれ?そういえば兄弟子は?」

 

響が車に乗り込む直前、またナナシの姿が見えない事に気が付き車内の空気に緊張が走った。

 

「車の下…いねえな?」

 

「上にも張り付いてないみたい」

 

「荷台にも見えません」

 

「座席の間にも隠れてないデス!」

 

「ボンネットの中は流石に無理よね?座席そのものに化けていたりしない?」

 

「ブフッ…あっはははは!」

 

およそ人探しをしているとは思えない光景に、翼のバイクの傍でその様子を見ていた奏が堪え切れずに笑い出してしまった。

 

「あー可笑しい…ナナシなら翼達を神社に送り届けた後、そのまま何処かへ出かけて行ったよ。宮司の爺さんには挨拶してたし、あたしは朝起きたら皆に連絡するよう頼まれた」

 

「聞いていないぞ!?」

 

「だって誰か気づくまでは内緒にしてくれって頼まれたからな。『どうせ誰も気づいてくれないだろうけどな、シクシク』って出もしない涙を拭ってた」

 

「こ、今回はちゃんと気付きましたよ!?」

 

「一人で…先生、また無茶してないかな…」

 

「ああ、それは大丈夫だ」

 

ナナシを心配する調に、奏では何故か自信満々にそう断言した。

 

「何で分かるんデスか?」

 

「それはな…」

 

 

 

 

 

時は少し戻り、翼達がプレラーティを撃破した後…まだ日も昇りきらない暁時の頃、とある建物の中に二つの人影があった。

 

「うっ…ぐっ…」

 

「手酷くやられたわね〜。ほら、少し休んでなさい。これから沢山働いてもらわなきゃならないんだから」

 

そう声をかけられながら、部屋の壁に背を寄りかかるように座らされたのは、先程翼達に敗れたはずのプレラーティだった。そしてプレラーティをここまで連れてきて治癒の錬金術を施しているのは…クリス達に敗れたはずのカリオストロだった。

 

「カリオストロ…貴様、生きていたワケダ…」

 

「当然でしょ?あーしが簡単にお星様になる訳ないじゃない。キラッキラの魅力はお星様にだって負けないけどね?」

 

「フフッ…」

 

いつものように軽口を叩くカリオストロに、プレラーティは仲間と自分の無事を実感して笑みを零した。

 

「ここは、どういう場所なワケダ?」

 

「あーしが一人で用意してた秘密の隠れ家よ。アダムが胡散臭いのは元からだし、一つぐらいこーゆう拠点があった方が良いと思って前々から準備していたの。ドンピシャだったわね?」

 

「流石は脛に傷を持つ元詐欺師。危険には鼻が利くワケダ」

 

「やーね、女の勘よ、女の勘。道具は一通り揃っているから、出来る限り身支度を整えるわよ。サンジェルマンのために、アダムをどうにかしないと」

 

「サンジェルマンの、ため…」

 

カリオストロの言葉に、プレラーティは未だ痛む頭を手で押さえながら口を閉ざしてしまった。すると、カリオストロは何やら機器を操作しながらそんなプレラーティに声をかけ始めた。

 

「何か抱え込んでるなら、今のうちに吐き出しておいた方が良いわよ?」

 

「っ!?」

 

「またあの男の前に立つつもりなら、胸の蟠りは隠していても多分見つかるわよ?それは今度こそ致命傷になりかねない…口から出るのが言葉なら別にかけられても気にしないから、さっさとゲロッちゃえば?」

 

「チッ…これだから、腹芸を扱う輩は気に食わないワケダ…」

 

悪態をつきながら、プレラーティは観念したようにカリオストロへ胸の想いを零し始めた。

 

「分かっていた、ワケダ…サンジェルマンが求める未来に…サンジェルマン自身の居場所が、無いことなど…」

 

 

 

『分かんねえ!分かんねえよ!!あいつの結末を受け入れられないなら!何故今のあいつの在り方を受け入れ続けた!?あいつの幸せを!笑顔を!!諦めきれないなら!!!どうして自分の未来を諦めたままのあいつを捨て置いた!!?どうして…どうしてだよ!!?』

 

 

 

ナナシの叩きつけてきた言葉は、体に刻まれた傷よりも深くプレラーティの心を蝕んでいた。

 

「私は…私達は…そんなサンジェルマンの願いによって救われたワケダ…サンジェルマンのためなら、どんな未来だって喜んで一緒に付き合うワケダ…だけど…だけど……!」

 

 

 

『どうしてお前らは!自分達にとって一番大切な想いを『妥協』しやがった!!?』

 

 

 

「分かっていたワケダ!私達の行いが!!私達自身の願いの『妥協』であったことなど!!!…私達にとって一番の…『サンジェルマンの幸せ』が…サンジェルマンの求める未来に無いことなんて、分かっていた…それでも、サンジェルマンの願いによって救われた私達が…この想いを押し通すことは…サンジェルマンに対する、この上ない裏切りなワケダ…そんなこと、出来る訳…」

 

「…ホント、好き勝手な事を言ってくれるわ。あのジャパニーズホラー…」

 

プレラーティを救い出すために隙を窺っていたカリオストロも、ナナシがプレラーティに叩きつけた言葉を聞いていた。部外者であるくせに、まるでこれまでの自分達を見ていたかのように語る、どうしようもない『真実』を…

 

 

 

『どうしてもっと早く、あいつの在り方を否定してやらなかった!!?』

 

 

 

「それが出来たら、苦労しないわよ…あーしらが何を言ったところで…」

 

カリオストロはポツリとそう零すと、意識を切り替え再び機器を操作して戦支度を始める。

 

「それでもあーしらは、ここで立ち止まる訳にはいかない。まずはアダムをどうにかして、その次はあのジャパニーズホラーを相手にしなきゃいけないんだから、それまでに色々覚悟を決めておきなさい」

 

「分かっているワケダ…サンジェルマンのために、今度こそあの男を…」

 

 

 

(残念、『次』も『今度』も『いつか』も無い。数百年に渡るお前らの『妥協』は、ここで終わりだよ)

 

 

 

突然脳裏に響いたその言葉に二人が一瞬だけ固まった後、瞬時に周囲を警戒すると…部屋の出入り口に、いつの間にかフルフェイスのヘルメットを被ったナナシが背をかけて立っていた。

 

「なっ…何で、ここに貴様が!?」

 

「どうやって、この場所を!!?」

 

(まあ落ち着けって。ちゃんと説明してやるから)

 

全力で警戒する二人に、ナナシは軽い調子で何故カリオストロ達の隠れ家を特定出来たかを伝え始めた。

 

(まあ、正直言うとここを特定出来たのは予期せぬ幸運による偶然だ。それが無かったら流石にここまで早く隠れるお前らを見つける事なんて出来なかった)

 

「…そもそも、何で当たり前のようにあーしらが生きてる前提で探し回ってんのよ?」

 

(それはお前の断末魔を聴いた時点で分かっていたよ。よりによって『声』で俺を騙そうとしたのがマズかったな?お前の敵も味方も騙してやったって自信の籠った断末魔も、そこのゲロ子の本気の断末魔も、歌姫達の歌を引き立てる伴奏として中々に素晴らしかったぞ!)

 

「チッ!」

 

伝えられた内容に、カリオストロが思わず舌打ちする。自分の渾身の演技が逆効果だったと知って、屈辱と苛立ちがこみ上げてしまったのだ。

 

(お前が逃げ延びた事は確信していたから特に疑問は無かったんだが…だからこそ、お前が逃げた後に発生した『違和感』の正体が何なのか分からずにしばらく首を傾げていたんだよ)

 

「あーしが逃げた後に、発生した違和感…?」

 

ナナシの言葉に、本気で疑問を感じるカリオストロ。あの時カリオストロはただやられたフリをしてあの場から離れただけで、違和感を覚える痕跡を残すような真似はしなかったはずだ。

 

(お前が分からないのは無理ないさ。俺もしばらく正体が分からなくて…唐突に違和感が『消えた』ことでようやく思い当たったからな)

 

「消えたから、分かった…?」

 

ますます意味が分からなくなるプレラーティとカリオストロ。原因不明の違和感が消失したなら、普通は気のせいと判断するだけではないのだろうか?

 

(お前がクリス達と戦闘を開始する前、俺は全身血塗れの状態でお前をぶん殴った…あの時俺の体に付着していたのは、隠れたアルカノイズを見つけるために敢えて操らずにバラ撒いただけの血液だったから、当然お前の顔にも付着した訳だ…自分から切り離された肉体の位置を、何となく感じ取ることが出来る俺の血液が、な?)

 

「「っ!!?!?」」

 

ナナシの言葉の意味を理解して、カリオストロ達が言葉を失う。つまり、この場所を特定した方法は…

 

(顔に付着した血液なんて、そりゃ洗い流すよな?俺が操ったり固定化しなかった血液は、水とかで希釈すると力を失うってことはキャロル達の実験で判明していた。だからこそ違和感とそれが消えた原因も理解出来て…今度はきちんと『プレゼント』を渡すことを思いついた訳だ)

 

ナナシが自分の首元をチョンチョンと指さす。その意味を理解して、カリオストロがプレラーティの首元に視線を送ると、そこにはナナシがプレラーティに額を叩きつけて流れた血で作り出した赤いチョーカーが…

 

「じ、女性の体に勝手にアクセサリーを付けるなんて、正直どうかと思うわ!」

 

(一網打尽にするために目印付けて巣を特定する。効率的な害虫駆除だ。さて…今度はそっちが話す番かな?)

 

「この期に及んで、まだあーしらとお話しようって言う気!?」

 

「何処までも舐めた考えを…!」

 

(あー違う違う、そうじゃなくて…)

 

怒りを露わにするカリオストロ達に、ナナシはヒラヒラと手を振ってカリオストロ達の言葉を否定して…

 

 

 

(死に方くらい選ばせてやるって言ってんだ。今のお前らを生かしておく気なんてサラサラねえよ、ネクロフィリア共)

 

 

 

…次の瞬間、ナナシから凄まじいプレッシャーが放たれる。これまでに無い本気の『殺意』が、カリオストロ達に襲い掛かった。

 

「あ…あ…オラァアアアアアアア!!!!」

 

ナナシの殺意に飲み込まれかけたカリオストロだったが、背後の傷ついたプレラーティと危険の迫るサンジェルマンの存在を思い出し、叫ぶように自分を奮い立たせてナナシに素早く接近、その顔目掛けて渾身の右ストレートを叩き込み…

 

ズゴンッ!! ゴロゴロゴロ…

 

…アッサリと、ナナシの頭部をヘルメットごと吹き飛ばした。

 

「っ!!?……逃げるわよ!プレラーティ!!」

 

予想外の結末に硬直したカリオストロだったが、今は全ての疑問をかなぐり捨ててプレラーティとの逃走することを優先した。

 

(全く、躊躇なく酷いことをしやがる。頭、頭…)

 

「だぁー!化け物め!!」

 

プレラーティを抱える最中、首の失った体(・・・・・・)が落とした眼鏡でも探すように頭部を求める様子を見たカリオストロが思わず悪態をつきながら部屋から飛び出した。

 

「あーもう!取れないわねこれ!?」

 

片手にプレラーティを抱えて走りながら、カリオストロがプレラーティの首に付けられたチョーカーを外そうと試みるが、継ぎ目の存在しないチョーカーを外すことが出来ない。付いている場所が場所故に乱暴な手段を取る訳にもいかず、とにかく一度落ち着いてチョーカーの除去方法を試すためにもカリオストロが全力で廊下を駆けてナナシから距離を取る。

 

「私を、置いていくワケダ…アレの足止めはしておく…だから、お前だけでもサンジェルマンを…」

 

「バカ言ってんじゃないわよ!あーし一人に丸投げしようなんて許さないんだから!!」

 

居場所を伝え続ける自分を置いていくよう主張するプレラーティだったが、カリオストロは決してプレラーティを手放そうとはしなかった。

 

(おーい、一応警告しといてやる。その道を進むのはやめた方が良いぞ?)

 

すると、再び二人の脳裏にナナシの“念話”が響き始めた。

 

(その先は地獄だぞ?少しでも心穏やかに終わりを迎えたいなら、立ち止まるか引き返すことをお勧めするよ)

 

「うっさいわね!あーたがいないなら地獄の方がマジでしょ!?」

 

ナナシの警告に耳を傾けることなく、カリオストロは左右に道が分かれる廊下の突き当りに辿り着き、左に曲がって…その身を硬直させた。

 

(以前ラピスに脳天ブチ抜かれたせいで、俺のなけなしの信用が消滅したからな?単独行動なんて許される訳もなく…今回、俺は『保護者同伴』なんだよ)

 

そこにいたのは、バルベルデで大暴れをしていた戦隊ヒーローのお面を被った弦じゅ…謎の人物。

 

ずんぐりまなこにへの字口をした、山を飛び谷を超えそうな忍者のお面を被った緒が…謎の人物。

 

不思議なキャンディで自在に年齢を変化させそうな女の子のお面を被ったキャロ…謎の人物。

 

魔法のコンパクトで様々な姿に変身しそうな女の子のお面を被ったフィー…謎の人物。

 

“認識阻害”によってカリオストロ達にはお面以外の特徴が捉えられないが、それぞれから先程のナナシ以上のプレッシャーを感じてカリオストロが思わず後退る。それでもカリオストロは崩れ落ちそうになる意志を総動員させて、唯一残された背後の道を駆けるため振り返り…プレラーティ共々、完全に思考と動きを凍り付かせた。

 

赤、赤、赤…床を、壁を、天井を埋め尽くして蠢く、数十…ひょっとすると百にも届きそうな数の“化詐誣詑”を模した人形が、カリオストロ達に注目する。一体でも自分達を恐怖のどん底に突き落とした化け物が視界を埋め尽くす地獄に、カリオストロ達は血の気を失い真っ白になってしまった。

 

(だから言ったのに。その先は地獄だぞって)

 

カリオストロ達が駆けてきた道を、ゆっくりと歩いてきたナナシに視線を向けて…カリオストロ達は、良く分からない納得をしてしまった。

 

首を失った体が変わりない様子で動いて当然だろう。カリオストロによって砕かれたメットの奥には何もない空虚が見える…最初から、あの体に頭など乗っていなかったのだ。

 

ポタッ…ポタッ…

 

頭上から降り注ぐ雫が頬に触れて、カリオストロ達がゆっくりと頭を上げる。心の何処かで「やめておけ!!」と叫ぶ自分がいるが、そんな声も届かない程思考が麻痺した二人はただ呆然と疑問に導かれるままに視線を真上に向けて…

 

(まあ、どんな道を選択したところで…お前らの頭上には、常に『死』が付き纏っているがな…クククク……アハハハハハハハハ♪)

 

…天井にへばり付く赤いヒトデのようなモノに、顔中から血を垂れ流す笑顔の生首が埋め込まれた化け物を直視して、カリオストロ達はその場にへたり込んで動けなくなってしまった。

 




主人公がカリオストロ達に仕掛けた事
・逃走経路にOTONA達と人形を配置
・カリオストロ達の部屋の近くでサックリ斬首
・血管内の血液を操って体を動かし、頭は"浮遊"と"血流操作"、"認識阻害"を併用したヒトデナナシ状態で逃走するカリオストロ達を追跡
・タイミングを見て自分の"認識阻害"を解除、人形を一斉操作して顔面血塗れ状態で存在を主張

"紛い物"が創作物を参考に生み出したガチ怪奇現象w
本当は設置する人形をこう…別作品の聖杯を巡った戦争そっちのけでプレラーティの相方さんがマスターと一緒に励んでいた創作活動の産物みたいなのにするつもりだったんですけど、稚拙な表現で文章ばかりが長くなるので妥協しましたw
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