戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
響が二課に訪れた翌日、メディカルチェックの結果を聞くために、響達は再び本部の一室に集合していた。
「それでは、先日のメディカルチェックの結果発表♪ 初体験の負荷は若干残っているものの、体に異常は、ほぼ見られませんでした」
「ほぼ、ですか……」
「うん、そうね。あなたが聞きたいことは、こんなことじゃないわよね?」
「教えてください!あの、力のことを!」
そこから始まるシンフォギアについての詳細な説明。かつてナナシも聞かされた説明を聞き、響は…
「全然分かりません…」
…理解することが出来なかった。
「まあ、普通はそうなるか…」
「だろうね」
「だろうとも」
「いきなりは難しすぎちゃいましたね。だとしたら、聖遺物からシンフォギアを作り出す唯一の技術、櫻井理論の提唱者が、このわたくしであることだけは、覚えてくださいね?」
「実際、お世辞抜きで了子は凄いんだけどな。そうやって茶化さなければ、皆もっと了子を尊敬すると思うよ?」
「…相変わらずナナシちゃんは、唐突に女の子の心に突き刺さるセリフを平然と言ってくるわね。別にいいのよ。完璧すぎる女は、逆に近寄りがたく思われちゃうから、少しくらいダメなところを見せないと、誰も相手にしてくれなくなるのよ?」
「なるほど…確かに奏は自分のことをがさつだとか、女らしくないって言っているけど、それで人との距離感を縮めて凄く頼りになるって魅力がよく伝わるから、ファンからも声をかけられることが多い。逆に翼は弱いところ見せようとしないから、皆は遠巻きに見るだけでなかなか近づけずに、本当は可愛くて優しいところがあることに気が付けないのか…」
「…ナナシちゃん、ちょっと響ちゃんのお話が終わるまで静かにしてましょうか?奏ちゃん達が話に集中できなくなるから」
「え?なんで?」
了子の言葉にナナシは疑問を口にするが、ナナシの発言を聞いていた奏と翼は顔を赤くしてナナシから目を逸らしていた。
「あ、あの…わたしはその聖遺物というもの、持っていません。なのになぜ…」
響が自分の疑問を解決するため…そして、ナナシの言葉で何とも言えない雰囲気になった空気を変えるために質問する。すると、モニターに響のレントゲン写真を映し出された。
「これが何なのか、君には分かるはずだ」
「…!はい、二年前の怪我です。奏さんが、わたしを守ろうとした時の…」
「…心臓付近に複雑に食い込んでいるため、手術でも摘出不可能な無数の破片。調査の結果、この影はかつて奏ちゃんが身に纏っていた第三号聖遺物、ガングニールの砕けた破片であることが判明しました」
了子の言葉に、奏達は驚愕の表情を浮かべる。特に翼は、この事実を聞いた後、体をふらつかせながら無言で部屋から出て行った。
「……」
「あ、あの…翼さんは…」
「後で俺が適当に茶化しておくから、今はそっとしてやってくれ」
「は、はい…あれ?そういえばナナシさんはシンフォギアを纏っていませんでしたよね?それに『かつて』奏さんが纏っていたって、今は違うんですか?」
響の疑問に、全員が顔を見合わせる。そして、ナナシが無言で手をあげた。
「俺が説明してもいいか?」
「…ああ、頼む」
ナナシの提案に、奏が許可を出す。弦十郎達も異論を出さないため、ナナシは響の前に来て話し始めた。
「まあ難しい話が続いているから、出来るだけ簡単に話そうと思う。まず奏についてだが…奏は二年前のあのライブの怪我の後遺症で、もうシンフォギアを使えなくなった」
「!!?」
「別に響を守ろうとしたのが原因じゃない。これは慰めでも何でもなく、単なる事実だ。元々奏はシンフォギアを使うために無理をしていて、あのライブの日に体の限界が来ただけ。今の奏はもうシンフォギア装者ではない。ここまではいいか?」
「…はい」
「それじゃあ次に俺についてだけど…正直な話、俺自身よく分かってないんだ」
「…?えっと、それはどういう…」
「俺は、二年前のあのライブの日、気が付いたらあの場所にいた。あの日より前の記憶はあるにはあるけど、俺が明確な意思を持って活動し始めたのはあのライブの日だから、それより前のことは本当によく分かっていないんだ」
そう言ってナナシは、響の前に“投影”で自身の過去を映し出す。
そこには、廃墟のような場所の中から、壊れた壁や天井から空と荒野が覗いている光景が映し出されていた。視界の端に映っている機械のようなものから、何かの研究施設だったのだろうか?
「これが俺の一番古い記憶。この“投影”は、自分が過去に記憶した光景を映し出せるんだ。これより前の記憶が無いのは、俺が忘れたのか、俺が“紛い物”になったのがこのタイミングなのかは分からないけど」
そうナナシが話している間に、“投影”の映像が凄まじいスピードで流れていく。建物は風化し、もはや視界には空と荒野以外の何も映さなくなった。
「この能力を使っている俺の感覚でしか分からないけど、多分俺は、この最初の状態から…何年も微動だにせず過ごしている。それも十年とか百年とかじゃなくて、数千年単位で」
「!!?」
「そしてこれが、俺があのライブ会場に行く直前の記憶…」
そこに映し出されたのは、ナナシ自身が震えているためか、小刻みに振動している映像。そして…地面に亀裂が走り、空の、何もないはずの空間に罅が入る。その罅はどんどん広がっていき、そして…次の瞬間には、ナナシは真っ暗な空間にいた。仄かに映る照明の光のようなものから、ライブ会場であると考えられる。
「こんな感じで、気が付いたらあのライブ会場にいて、あの二人の…ツヴァイウィングの歌を聴いたのを切っ掛けに自我みたいなものが生まれたと思っている。それまでは、本当に植物みたいにただじっとしていた。そして分かっている情報だけで仮説を作っていった結果、俺という存在が生まれた経緯は…異世界で人為的に神様みたいな、人を超越した存在を作り出そうと実験をした結果に生まれた『何か』なんじゃないかと考えている」
「異世界…神様、ですか?」
「異世界って言う理由は、さっきの映像に該当する場所が全然分からないことと、空に映った天体の形が色々おかしいってことだな。そして神様って言うのは…“全てを殺せ、全てを喰らえ、命を一つに、世界を一つに、そして大いなる一つの神に”…これが、数千年以上前から俺の中にあった唯一の言葉。この言葉が真実で、了子がこの言葉を聞いて連想した『蠱毒』…一つの入れ物に、複数の生き物を入れて殺し合いをさせることで、強力な個体を作り出す儀式が行われたとしたなら…俺は過去に、多くの命をその手で奪っている。これには恐らく、人間も含まれる。というかメインは人間なんじゃないかな?」
「!!?」
「確証が持てることが少なすぎて、仮説というか妄想の話になるけど、少なくとも普通の人間でないのは確かだ。年を取らず、食事や睡眠が不要で、欲しいと思うだけで変な能力がポコポコ生えてくる。そして何よりノイズを素手でどうにかできる。こんなご都合主義の塊、人間の形をしているだけの“紛い物”は、それぐらいの儀式が行われないと生まれないんじゃないかな?」
そう言ってナナシは言葉を区切る。響は、先程のナナシの話を頭の中で整理するために、しばらくの間黙り込んでいた。それを察したナナシも、黙って響の言葉を待つ。
少しして、響は何かを言おうとしているみたいだが、上手く言葉に出来ないのか、口を開いたり閉じたりしていた。そんな響に対して、ナナシは“念話”を使って問いかける。
(…やっぱり怖いか?)
(!?)
(口に出すのに躊躇いがあるなら、このまま念じれば俺にだけ伝わる。伝えたくないならそれでもいいけど、人の前で俺について否定的な意見を言うのが嫌ならこのまま伝えてくれればいい)
ナナシの“念話”を聞いて、響はようやく自分の言葉を頭でまとめた後…口を開いた。
「…ナナシさんは、優しいんですね」
「…何でそんな結論になった?」
「だって、ナナシさんは誤魔化すこともできたはずです。鎧を纏わない新種のシンフォギアだとでも言って」
「それは悪手だ。俺達は響の、シンフォギアの力を必要としている。短期間で一つの目的を達成させるとかならともかく、これから仲間として戦って欲しいって交渉するなら、後で嘘がばれたら致命的な亀裂が生まれる」
「それでも、伝え方はもっとあったと思います。良く分かっていないならよく分かっていないで終わらせて、仮説の話はしなくても良かったはずです。わたしがここに連れてこられた時も、わたしのことを気遣ってくれていましたし」
「……」
「…正直、ナナシさんのことについてはどう思っているかは、まだよく分かりません。それでも、この短い間に、わたしはナナシさんが優しくて暖かい人だって感じました」
「…俺はその辺の、自分の感情っていうのが人と同じかよく分からない。俺はあのライブの日、お前が死にかけて、奏が殺されそうになる直前まで動かなかった。もっと早く動いていれば、それだけ助かった命もあったはずだけど、そのことについては罪悪感とか、自己嫌悪なんて自分を責める感情はない。あの日から俺は、自分のやりたいことだけをやっている。俺の行動を優しいと思うなら、それはこの二課の人間の影響だろうな。こいつら、俺の体が異常なこと全然気にしないし、割と最初の方にこの仮説を立てた後も態度を何一つ変えないお人好しの集まりだ。そんな連中と二年も付き合っていれば、多少は影響される」
「フフッ、それなら、わたしは二課の皆さんのことを安心して信用出来ますね。今のナナシさんを育てた人達なら、きっと同じくらい優しい人達です」
「…お前もここの連中に負けないくらいのお人好しだな?」
「あはははは…昨日、奏さんには伝えられましたけど、ナナシさん達にはちゃんと伝えていませんでしたね。あのライブの日、わたしのことを助けてくれて、ありがとうございました!わたしはずっとツヴァイウィングのお二人と、もう一人誰か分からない人に助けられたと思っていました。あれはナナシさんだったんですね?」
「…俺はお前を助けた訳じゃない。ただ奏達の歌が無くなるのが嫌だった。その奏達が必死になってお前を助けようとしていたから、結果的にお前を助けただけだ。礼を言うなら二人に言ってやれ」
「だとしても、わたしが今日まで生きてこられたのは、間違いなくナナシさんがいたお陰です。ツヴァイウィングのお二人にも、当然感謝しています。でも、わたしは同じくらいナナシさんにも感謝しています!」
「…あー、じゃあ、どういたしまして?」
「はい!」
響は元気よく返事をした後、弦十郎達の方を見て話し始めた。
「わたし、戦います。わたしの力で、誰かを助けられるんですよね?」
「うん」
「うん♪」
「ああ」
「…そうだな」
「これからよろしくお願いします。そうだ!まだ翼さんにちゃんとお礼を言えてない!これから一緒に戦うことも伝えないと!わたし、行ってきます!」
響はそう言うと、部屋を飛び出してしまった。大人達も部屋を出ていき、残ったのは奏とナナシだけになった。
「全く、随分元気で真っ直ぐな子が来たもんだ」
「…真っ直ぐ過ぎる気がするけどな」
「あの子の『感情』に何か感じたか?」
「…いいや、あいつの『感情』に、迷いはなかった。ある意味それが異常だけどな」
「なら、後はあんたと翼が上手くフォローしてやりなよ」
「…お前は大丈夫なのか?」
「ん?何がだ?」
「それでとぼけているつもりか?あれはお前のガングニールだろ?」
「あたしの『感情』は無理しているように感じるか?」
「少なくとも平静ではないな」
「…まあ、問題ないとは言わないさ。でも、あれを使うのがあの子で良かったと思ってる」
「…そうか」
「それなら、大丈夫じゃないのはあいつだけか…」