戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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今年もよろしくお願いします。


第159話

目の前で崩れ落ちた仲間の首を見て、サンジェルマンは呆然としていた。

 

「に、人形?…ならば…本当に、カリオストロと、プレラーティは…」

 

(ああ、本当にあいつらは生きている…『今は』な?)

 

ナナシの言葉の意味を悟り、サンジェルマンが再び怒りを籠めた視線をナナシに向けた。

 

「二人は人質、ということか…」

 

(いや?その選択肢もあったけど、あいつらを捕まえた後ジックリOHANASHIした結果…命だけは助けてやるから、俺達に協力するってことで話は纏まった)

 

「っ!!?」

 

驚くサンジェルマンの前で、ナナシがポケットから真っ赤な飴玉のような球体を取り出した。

 

(これは俺の血液を固めた物だ。これを飲んでS.O.N.G.に隔離された状態でちょっとした仕事をしてくれれば、命だけは助けてやるって契約であいつらには自分の意志で(・・・・・・)協力してもらっている。つまり…俺がその気になれば、今この瞬間にもあいつらの命を刈り取れるって訳だ!)

 

生殺与奪を握られた状態で強制的に協力させられている…人質よりも更に質の悪い立場に仲間が置かれていると知り、サンジェルマンのナナシに対する憎悪が膨れ上がっていく。

 

「何が自らの意志だ!?見え透いた嘘を…あの二人が!自分の命惜しさに貴様に協力するなどあり得ない!!力で無理矢理従わせるだけでは飽き足らず、二人の信念さえも貶めるつもりか!!?」

 

(いいや、違う。S.O.N.G.の歌姫達の歌に懸けて、この契約はあいつら自身の意志によって結ばれたものだ)

 

「「「っ!!?」」」

 

その言葉に、サンジェルマンだけでなく響達も驚きを露わにした。ナナシが歌を引き合いに出したと言うことは、ナナシは本当にカリオストロとプレラーティ相手に交渉を成立させたと言うことだ。

 

(あいつらは紛れもなく自らの意志で俺に協力を誓い…その対価としてお前の命(・・・・)を保証することを俺に求めた)

 

「………………えっ?」

 

サンジェルマンには、ナナシの言葉の意味が理解出来なかった。そんなサンジェルマンに、ナナシはキチンと理解出来るように言い直した。

 

 

 

(だから、あいつらはお前の命が助かるなら俺の言いなりになって…用済みになったら自分達は殺されても構わないんだってさ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

「死に方……フン…」

 

「好きにすれば…良いワケダ…」

 

死に方を選べと迫られたカリオストロ達は、自暴自棄になってそんな風にナナシへと言葉を吐き捨てた。

 

「ふ~ん、そっか…それじゃあ、『裏切り者』として死んでもらおう!」

 

「「………は?」」

 

ナナシの言葉の意味が分からず、カリオストロ達は思わず間の抜けた声を出してしまった。

 

「俺の都合良く死んでくれるんだろう?じゃあお前らに適任の仕事が一つあるから、それを終わらせてから死んでくれ!」

 

「…頭おかしいんじゃない?」

 

「何故我々が、貴様に協力など…」

 

「もしその仕事を完遂出来たら、あの屍女の命は保証してやる」

 

「っ!!?」

 

ナナシの提案に、思わず二人が息を飲んだ。

 

「国連が騒ごうが、俺達が拠点にしているこの国トップのジジイが喚こうが、あの屍女本人が拒絶したとしても、あいつの命だけは助けてやる…これなら、お前らは断()ないだろ?」

 

「なっ…くっ…!」

 

「そのような…戯言に…!」

 

追い詰められた状況で下される、守られるかどうかも分からない敵からの甘言…しかしその言葉で、確かにカリオストロ達の瞳には光が戻った。

 

「戯言ねぇ…まあ、そう思われてもしょうがないか?正直な話、俺達にお前ら三人を生かしておくメリットは全く無いからな?」

 

「「っ!?」」

 

「錬金術の知識なら、俺達は既にキャロルと協力関係にある。わざわざお前らに拘る理由はない。寧ろ他の組織に錬金術の知識が広まれば、世界の勢力バランスが崩れて争いの火種になりかねない。信用も信頼も出来ないのはこっちも一緒だ。いつ暴発するか分からない不発弾なんて抱え込むよりさっさと始末した方がこっちも楽なんだよ」

 

「「……」」

 

「お前らを始末するチャンスなんて幾らでもあったのに、それでもこうやってわざわざ手間暇かけて長々と俺がお前らと交渉しているのは…響があの屍女と手を繋ぐことを諦めていないからだ」

 

「「っ!!?」」

 

「これまでだって何度も何度も痛い目に遭ってきたはずなのに、それでも躊躇う事なく誰彼構わずその手を繋ごうとする。理屈や道理、打算やリスクなんて考えもせず、最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に駆け出していく。全く、実に愚かで度し難い…こういうのを『馬鹿な子ほど可愛い』って言うんだろうな?可愛い妹弟子のためなら、兄弟子として多少手伝うくらいはしてやらないと!」

 

「チッ、急に惚気るんじゃないわよ、鬱陶しい…」

 

「要するに、我々は今貴様が囲っている女のご機嫌取りのために生かされているワケダ…ペッ!!」

 

「妙な言い方するな!?ってか、自分の大切な女のために世界と神様に喧嘩売ろうとしているお前らにとやかく言われる筋合いは無いぞ!!?」

 

舌打ちしたり地面に唾を吐いたりと急にガラが悪くなったカリオストロ達にナナシが不満を露わにするが、周りで見ているOTONA達は正直カリオストロ達の言葉にそれなりの共感を覚えていた。

 

「ゴホン、とにかくだ…さっき話した通り、あの屍女の在り方を変えるにはお前らの存在が鍵になるはずだ。お前らに任せようとしている仕事は別にお前らの協力が必須という訳じゃない。ただ都合が良い事に、明確にお前らの裏切りを示すことが出来るから、お前らが裏切ったという事実を元にあの女の『革命家』としての在り方を変える切っ掛けを作りたいだけだ。切っ掛けさえあれば、響はきっとあの女の手を掴めるからな!」

 

「…ハン、下らない。そんな話、乗れる訳無いわ」

 

話を聞き終えたカリオストロが、ナナシの提案を鼻で笑って拒絶の意を示した。

 

「あーたが自分の女を信じるのは勝手だけど、あーしらにはあの小娘を信じてあげる義理は無い。ただでさえあーたの気分次第で反故に出来る空手形の保証なのに、肝心の根拠があーたの黄色信号ちゃんに対する信頼?そんなものじゃ、騙されてあげる事も出来ないわ!そんな計画に乗せられてサンジェルマンを裏切るくらいなら…あーしはサンジェルマンの勝利を信じて、今ここで死んでやる!!」

 

「全くの同意見なワケダ!!」

 

断固とした拒絶の意志を示す二人に、OTONA達が心配そうな視線をナナシへと向ける。しかしナナシの態度に焦りはなく、ヤレヤレと呆れたようにカリオストロ達へと声をかけ始めた。

 

「いやいや、流石に俺の信頼なんてフワッとしたものに自分と仲間の命を預けろなんて言わねえよ。投資をお願いするなら、確固たる『実績』を示すのは当然だろ?」

 

「はぁ?そんなの、どうやって…?」

 

猜疑心満載でナナシを睨むカリオストロ達に対して、ナナシは…“投影”を起動した。

 

『もうやめよう!キャロルちゃん!』

 

『本懐を遂げようとしているのだ!今更やめられるものか!想い出も、何もかもを焼却してでも!!』

 

「なっ!?」

 

そこに映し出されたのは、万象黙示録の完成を目指すキャロルとそれを止めようとする響…かつての自分達のやり取りに、キャロルは思わず驚きの声を出してしまった。カリオストロ達も訳が分からず驚きと困惑で固まっていると、他にもいくつもの場面がナナシの“投影”によって映し出されていった。

 

 

 

『人助けの力で、戦うのは嫌だよ…』

 

『だって…さっきのキャロルちゃん、泣いてた…だったら、戦うよりも、その訳を聞かないと!』

 

『わたしは立花響十六歳!!融合症例なんかじゃない!!ただの立花響が、マリアさんとお話したくてここに来てる!!』

 

『意味なんて、後から探せばいいじゃないですか?だから…生きるのを諦めないで!!』

 

『偽善、か…そう言われちゃっても、仕方ないのかな?』

 

『わたしは神様じゃないから、知らないところで苦しんでいる人達にまで、手を伸ばすことはできない』

 

『だけど、知ったからには、手を伸ばしたい。このまま無かったことにはしたくないんだ』

 

『ねえクリスちゃん、こんな戦いもうやめようよ?ノイズと違って、わたし達は言葉を交わすことができる。ちゃんと話をすれば、きっと分かり合えるはず…だってわたし達、同じ人間だよ!』

 

『できるよ。誰とだって仲良くなれる!』

 

『どうしてあたしにはアームドギアが無いんだろうって、ずっと考えてた。何時までも半人前はヤダなって。でも、今は思わない。何もこの手に握ってないから、二人とはこうして手を取り合える!仲良くなれるからね!』

 

『守りたいものがあるんです。それは…何でもないただの日常。そんな日常を大切にしたいと、強く思っているんです…だけど、思うばかりで、空回りして…』

 

『ノイズに襲われている人がいるなら、1秒でも早く救い出したいです!最速で!最短で!真っ直ぐに!一直線に駆けつけたい!!そして、もしも相手がノイズではなく誰かなら…どうしても戦わなくちゃいけないのかっていう胸の疑問を、わたしの想いを届けたいと考えています!!』

 

 

 

そこに映っていたのは、これまでナナシが直接見聞きした、或いは記録されていた響の姿だった。キャロルと、マリア達と、クリスと、翼と…今は同じ場所で肩を並べる仲間達と言葉を交わし、拳を交わし、傷つき、傷つけて…その果てに、響は全員と笑顔で手を繋ぎ合っていた。

 

「世界全ての分解を一歩手前まで進めた錬金術師キャロル・マールス・ディーンハイム、お前らが焚きつけた元F.I.S.の装者マリア・カデンツァヴナ・イヴ、暁切歌、月読調、ルナアタックの片棒を担いだ雪音クリス、親友の力を他人が扱う事を許容出来ずに刃を向けた風鳴翼…お前が『信号機』とワンセットで括る奴らでさえ、かつては響に紛れもない憎悪、嫌悪、憤怒、殺意を向けていた。それでも響は迷いながら、苦しみながらも決して諦めることなく、最後には全員とその手を繋いでみせた…逆に聞くけど、これだけ確固たる『実績』を持った響が、あの屍女とは手を繋げないと言える根拠がお前らにはあるのか?」

 

「「……」」

 

ナナシが示したその『実績』を前に、カリオストロ達は何も言えなかった。結果論だ、運が良かっただけ…そんな言葉が脳裏に過るが、言葉として発するだけの力は無い。何よりカリオストロ達は既に実感している。長きに渡って『取引相手』であったキャロルは現在、表向きは同じような理由でS.O.N.G.に所属している。しかしそんな枠に収まらない程深い関係を既に構築していることは前回嫌と言う程理解させられた。カリオストロ達が知るキャロルには、そんな関係を築く相手が出来るなど思いもよらなかった。ならば、それならば、もしかすると、サンジェルマンも…

 

カリオストロ達の心に、極々僅かな『期待』が生まれたところで、ナナシは更に畳みかける。

 

「これでもまだ足りないなら…もう一つ、とっておきの『実績』がある」

 

そう言ってナナシが“投影”で映し出したのは…

 

『了子さんに未来を託すためにも、わたしが今を守ってみせますね!!』

 

『…ホントにもう、放っておけない子なんだから…胸の歌を、信じなさい』

 

…響と了子が、微笑み合う光景だった。

 

「え…?」

 

「まさか…」

 

その意味を察して呆然と呟くカリオストロ達の前で、ナナシが視線で合図を送ると、それを受けた了子がお面を外して…“認識阻害”を解除した。

 

「う、嘘!?そんな事!!?」

 

「馬鹿な!?そんなのあり得ないワケダ!!?」

 

ハッキリと了子の…フィーネの姿を認識したカリオストロ達が、驚愕と言う言葉でさえ表しきれない程の動揺っぷりで狼狽えていた。

 

「うん?何か思ったより反応が激しいな?そんなに了子が…フィーネが生きて俺達に協力しているのが信じられないか?」

 

「当たり前でしょ!!?」

 

「貴様ら、何故我々が…パヴァリア光明結社が、今になって活動を始めたか分かっているワケダ!!?」

 

「えっ?いや、知らないけど…何か都合の良いタイミングだったからとかじゃないのか?」

 

困惑気味にそう返答したナナシに、カリオストロ達は苛立ち混じりに答えてみせた。

 

 

 

「ええそうよ!好機も好機よ!何たって…」

 

「アダムが、結社の宿敵であるフィーネの…リインカーネイションシステムの消滅(・・・・・・・・・・・・・・・・・)を確認したワケダからなあ!!」

 

 

 

「「「「………え?」」」」

 

カリオストロ達の言葉にナナシ達が数秒フリーズした後、バッと勢い良く一斉に了子へと視線を向ける。了子は集まる視線に居心地が悪そうな表情をすると、お面を被り直して俯いてしまった。

 

「アダムが嘘をつかないなんて欠片も思っていないけど、そんな嘘を言う理由なんて無いはずでしょう!?」

 

「それなのに、フィーネが実は生きていたなどと言われたところで信じる事など…ま、まさか貴様ら、アダムを欺き我々を表に炙り出すために策を打ったワケダ!!?」

 

「タイム!!!」

 

ナナシが両手でTの字を作りながら大声でそう言うと、OTONA達を閉じ込めていた“障壁”を解除した。その瞬間に了子は動き出そうとするが、それよりも早く弦十郎と緒川が了子の肩を掴んで引き止める。その間にナナシは困惑するキャロルをカリオストロ達の見張りとして二人の背後へ立たせると、“収納”から素早く机と二つの椅子を取り出した。弦十郎達が了子を椅子の一つに座らせ、もう一つの椅子にナナシが座ると了子に追加で取り出した照明を向けて目の前にカツ丼をコトリと置く…昔のドラマの取り調べのような状況を作った。

 

「さて、了子…どういうことか洗いざらい吐いてもらおうか?」

 

「どう…と、言われてもな…」

 

仮面の下にとても良い笑顔を浮かべながら了子に詰め寄るナナシ。そんなナナシから視線を背けながらお面の下で冷や汗を流す了子。了子の背後ではお面の下に真剣な表情をした弦十郎と緒川が腕を組んで圧を放っている…傍から見ると怪しさと滑稽さが際立つ光景に、キャロルは自分がそちら側であることに抵抗を覚えてお面を外したくなったが、お面の下に浮かべたしかめっ面を見られるのも嫌なので頭を押さえるだけに留めた。

 

「いや~、確かにさ?了子が俺達に協力してくれるのもキャロルと一緒で取引の結果だってことは分かっているよ?自分が不利になる情報を隠すことは何らおかしな事ではないさ。でもな、『例の計画』の進捗は聞いているよな?俺達としては結構頑張っていると思うんだ。百歩譲って俺達に実害が無ければスルーも出来たかもしれないけど、どうやら今回の騒動の引き金になっていたみたいだし…ここまで来たら説明があって然るべきだと思うんだが、そこのところどう思う?」

 

ナナシが非常に活き活きとした様子で了子をネチネチと言葉で責め立てる。お互いの立場を考えればもっと殺伐とした雰囲気になってもおかしくは無いが、ナナシも弦十郎達も了子が何らかの暗躍を企てていたなど考えていない。故に弦十郎達は場合によっては了子を守るために、そしてナナシは了子をからかって遊ぶために尋問しているだけだ。

 

「…因みに、ここで黙秘した場合はどうなる?」

 

「“水鏡”で再現した了子をヒロインにした学園ラブコメドラマを撮影してS.O.N.G.内で配信する」

 

「あなたに人の心は無いのナナシちゃん!!?」

 

「Exactly!!“紛い物”にそんな物備わっている訳ねえだろ!!ってか思いつきで言ったけど超面白そうだな!?櫻井了子さんじゅうなな歳の恋の行方を巡ったドッキドキ学園恋愛ドラマ『リインカーネイションの誓い』!前世で想いを伝えようと誓った想い人の影を追いながら学生生活を送る了子の前に、海外から訪れた謎の転校生フィーネが「あのお方は私のモノだ!」と宣戦布告を…ああ!インスピレーションが溢れてくる!!」

 

「待って待って待って話す!!話すからそんな恐ろしいモノを生み出そうとするのはやめてぇええええ!!!」

 

もはやフィーネの口調すら保てなくなる了子であったが、ナナシの勢いは止まらない。

 

「いやいや無理しなくて良いって!女の秘密を暴こうとして悪かった!さて他のキャストはどうする?クラスメイト役は装者六人に奏と未来だろ?少ないな…でもこれ以上大人を入れると了子達が霞むから出来れば現役の…弓美達も巻き込むか?後はオートスコアラー達にも学生服を着せればイケるな!天才飛び級枠でキャロルとエルフナインも…いや、子供教師ってのもアリだな!?こうしちゃいられない!何処かの廃校でも買い取って今すぐ撮影準備を…」

 

ゴンッ!!!

 

「そろそろ真面目な話に戻ろうか?ナナシ君」

 

「ハイ、サーセン。お師匠様…で?結局どういう訳なんだ?」

 

弦十郎の拳骨を受けたナナシがようやく話を戻す。ナナシのたんこぶが出来た頭とズレた仮面を何とも言えない顔で眺めた後、了子は観念したように口を開いた。

 

「あなた達が、私との約束を守ろうとしてくれているから…了子()も、約束を守るために動いた。ただそれだけの事よ」

 

 

 

『あたしはお前を許さない!!だから…お前がバラルの呪詛の真相を突き止めた後は、その結果がどんなものだったかに関係なく、お前が奪ってきた命に対してできる償いを、お前の全てを掛けて、お前の残り全ての時間を使って償え!!!分かったか!!?』

 

 

 

自分の事を『了子』と呼ぶ奏との間で交わされた約束…だから『了子』として約束を守ろうとした。お面で隠しきれない頬と耳を赤く染めてそっぽを向く了子に、ナナシと弦十郎達は思わず笑みを浮かべてしまった。

 

「あはははは!なるほどな!それで意図せず暗躍する組織を欺くなんて流石は出来る女の了子だ!これは表立ってその功績を称えられない分、せめてS.O.N.G.内では盛大に広めて称賛するべきだな!!」

 

「…ねえ、ナナシちゃん?何もかも大っぴらにするのが良い事とは限らないのよ?胸の内に仕舞い込んだ秘密が女の魅力を引き立てるの。分かるわね?」

 

「そうか…仕方が無いから、せめて恥じらう了子の可愛さを皆に知ってもらうために、ドラマ撮影を頑張らないと!!」

 

「妥協案で処刑しようとしないでよ!?そんな事されたら恥じらう前に心が死ぬわ!!あーもう!こうなったらその恐ろしいアイディアが消えるまで貴様の脳を切り刻んでやる!!!」

 

「ぎゃあああああ!?ヤバいキレてフィーネが出てきた!!?頭蓋の内に仕舞い込んだ脳髄を大っぴらにされちゃううううう!!?!?」

 

加減を間違えたナナシが、了子の操る鞭から逃げ回る…その光景を前に、カリオストロ達は信じられない物を見るような表情をしていた。

 

「あれが、アダムが警戒していたフィーネ…」

 

「先史文明期から生き続ける、錬金術の開祖…」

 

パヴァリア光明結社で収集された情報にあるフィーネと完全聖遺物ネフシュタンの特徴、そしてじゃれ合いとはいえ途轍もなく高レベルな攻防を繰り広げるその光景は、目の前のフィーネが偽物である可能性を否定する。しかしあまりにお気楽なやり取りをするフィーネの姿に、二人の頭は現実を受け入れられないでいた。

 

「はぁ…全く、あの男が口を開くと何処までも空気が軽くなる…」

 

「…他人事みたいに言ってんじゃないわよ。そんなお面を被ってあいつらと一緒にいる時点で、充分あーたも同類よ」

 

「キャロルともあろう者が落ちぶれたワケダ」

 

「全くだ。我ながら何故こうなったと自問自答する日々だが…居心地はそう悪く無いと思う程度には、毒されてしまっている。フフッ…」

 

鞭でグルグル巻きにされたナナシが弦十郎達に助けを求める姿にクスリとキャロルが笑みを零す。それさえもカリオストロ達には信じがたい事象であり…

 

「一体、あーしらに…」

 

「何をしろと、言うワケダ…」

 

…話を聞こうと、魔が差してしまう程度には…『期待』が高まってしまった。

 

カリオストロ達の声を聞いたナナシは、無言の視線を了子に送る。それを受けた了子は非常に不満そうにナナシの体に巻き付けた鞭を解いてナナシを解放した。ナナシはゆっくりとカリオストロ達へ近づき、口を開く。

 

「何度も言っているだろう?お前らには死に方を選んでもらう。最期まであの屍女の仲間として、三人仲良く俺に殺されるか。もしくは…」

 

そこでナナシは言葉を区切り、二人に赤い球体を二つ差し出して続きの言葉を口にした。

 

 

 

「今ここであの女に救われた命を俺に差し出して、今度はあいつと一緒に生まれ変わるチャンスを得るか…他人に選択を押し付けず、自分の想いで選んでみせろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

(俺はあいつらに仕事の内容と対価を伝えて、条件を飲むならその証としてこの球体を飲めと言った。意図的に条件を隠すような真似もしていない。俺はちゃんと対価の中にあいつら自身の命が含まれていない事は伝えた。その上であいつらが条件を飲んだ以上…このまま俺達がお前を捕えれば、あいつらを生かしておく理由は無い)

 

「詭弁だ!そんな取引の何処にカリオストロとプレラーティの意志があると言うのだ!?ただ力でねじ伏せて他の道を閉ざしただけだ!!」

 

無慈悲に伝えられる仲間の死…しかしサンジェルマンは縋ることなく反抗的な態度を貫く。

 

「そうやって支配者は自分より力の弱い者達から何もかもを搾取していく!!ふざけるな!!!二人の枷になり続けるくらいならばいっその事!!!!」

 

激情のままにサンジェルマンは、その手に持つ拳銃の銃口を己のこめかみに押し付け、引き金に指をかける。

 

『『サンジェルマン』』

 

「っ!!?」

 

しかし指を引こうとした瞬間に聞こえてきた声に、思わず動きを止めて声の方に視線を向けると、そこには“投影”によって映し出されたカリオストロとプレラーティの姿があった。

 

『これを聞いているってことは、目の前の男からあーしらの現状を…多分悪意マシマシで聞かされているんだと思うわ』

 

『非常に腹立たしいワケダが…その男の話に我々が乗ったのは事実なワケダ』

 

「っ!!?」

 

驚くサンジェルマンの前で、映像の中のカリオストロ達は深々と頭を下げた。

 

『ごめんなさい、何があってもあーしらはサンジェルマンの味方でいるつもりだったのに…』

 

『言い訳をするつもりは無いワケダ。我々は自らの願望のために…サンジェルマンに貰ったこの命を差し出すと決めたワケダ』

 

「カリオストロ…プレラーティ…」

 

『正直、望み薄なのは分かってるんだけどね~?このメッセも何処まで正しく届くことやら…』

 

『届いたところで、相手の姿を模倣した人形を生み出し声まで自在に変えられる化け物相手では信憑性など無いに等しいワケダ。まあ、だからこそ偽造の材料になる心配もするだけ無駄だから、開き直っておっぴろげに語らせてもらうワケダ』

 

二人の姿はボロボロではあるが拘束されていない。その仕草と口調からも行動を強制されている様子は見られない。しかしプレラーティの発言通りこの映像に映っているのが本物の二人である保証もないため、こんな映像を見る意味など…

 

『こんな映像、偽物だって見向きもされないかもしれない。そうでなくても、サンジェルマンを裏切るあーしらの言葉なんて、聞く耳持たないと思われるかもしれない』

 

『それでも…これだけは伝えたくて、まんまとこの男に利用されてやるワケダ』

 

それでもサンジェルマンはその映像を無視出来ない。例え僅かな可能性だとしても、それが本当に仲間が自分に向けた言葉であったなら…それを聞き流すことなど、出来ようはずもない。

 

『サンジェルマンが、これから裏切り者になるあーしらの事を、それでも仲間だと思ってくれたなら…あーしらがどんな結末を迎えたとしても、それをサンジェルマンが背負う必要はないわ』

 

『だから、サンジェルマンは自分が信じる道を貫けば良いワケダ』

 

「っ!!?」

 

『あーしらは、サンジェルマンのためなら何だって出来るし、サンジェルマンのためならどうなっても構わない。だから、あーしらがどれだけ悲惨な目にあったとしても、その重みを背負う必要はない』

 

『我々のたった二つの命でも、サンジェルマンの負担になるのは真っ平御免なワケダ。だから、我々の事など気にすることなく、サンジェルマン自身の想いで道を選んで欲しいワケダ』

 

二人は優しい笑みを浮かべてそう言うと、ナナシが持っているのと同じ球体を自らの手で口に運び、ゴクリと飲み込んでみせた。

 

『あーしらは何十、何百億の人間の未来より、サンジェルマンの未来の方が大切なの』

 

『それを守るために…我々はその男に騙される事にしたワケダ』

 

 

 

『『どうか、私達の選択がサンジェルマンの未来を守ってくれますように…』』

 

 

 

「プレラーティ!!カリオストロ!!」

 

拳銃から離した手をサンジェルマンが伸ばした先で、二人の姿が幻のようにフッと消えてしまった。

 

(偽造の警戒なんて、無駄な心配をしなくても良いのに…本物だろうが偽物だろうが、この屍女がバラルの呪詛を絶対とするなら、どんな想いも伝わる事なんて無いんだから…響、パス)

 

「へっ!?」

 

パシッ!!

 

唐突にナナシが響に赤い球体を投げ渡した。困惑しながらも響がそれを受け取ると、ナナシはスタスタとサンジェルマン達から離れて行ってしまった。

 

(何故俺とあいつらの契約にあいつら自身の命が含まれていないか…少し考えれば分かりそうだけどな?俺が何を言ったところで聞く耳持たないみたいだからもうソレいらない。好きなように処分しといてくれ)

 

「兄弟子…ここまでしておいて、最後だけわたしに投げますか!!?」

 

(ここまでも何も、俺はお前の質問に答えただけで元々お前がその女と話したいって言ったんだろう?なら後始末もお前がするべきだろ?)

 

「もう…本当に兄弟子はしょうがないですね」

 

そう言って響は呆れの混じった苦笑を浮かべながらサンジェルマンへと近づくと、再びサンジェルマンへと手を差し出した。サンジェルマンはその手を忌々し気に睨みつつ…しかし先程と違い、その瞳には強い葛藤が表れていた。

 

「兄弟子の言葉、すっごく痛いですよね?分かります…わたし達も皆、兄弟子の言葉には何度も泣かされてきましたから」

 

そんな事を言いつつ、響がナナシに全く悪い感情を持っていない事はサンジェルマンにも容易に分かった。しかし何故あのような男が周りの人間から慕われているのか、サンジェルマンには全く理解出来なかった。

 

「それでも兄弟子の言葉は、相手の事を知らなければ紡げない言葉なんです。その人が何を悲しんでいるのか、苦しんでいるか、自分でも分かっていない想いに気付かせてくれる…そして最後には、悲しさも苦しさも全部茶化して、誤魔化して、笑顔に変えてしまうような、とても暖かい言葉なんです。だからカリオストロさん達も、兄弟子の言葉に『騙される』気になったんだと思います」

 

「……」

 

「わたしもずっと正義を信じて、握りしめてきた。だけど、拳ばかりでは変えられない事があることも知っている。だから…握った拳を開くのを恐れない」

 

そう言って響が差し出した手の上に、先程渡された赤い球体を乗せた。

 

「そんなわたしの手を取ってもらえる切っ掛けを、兄弟子はいつも作ってくれているんです。サンジェルマンさんには、兄弟子がカリオストロさん達にこれを飲ませた意味が本当に分かりませんか?」

 

 

 

『あいつらは紛れもなく自らの意志で俺に協力を誓い…その対価としてお前の命(・・・・)を保証することを俺に求めた』

 

『俺はちゃんと対価の中にあいつら自身の命が含まれていない事は伝えた。その上であいつらが条件を飲んだ以上…このまま俺達がお前を捕えれば、あいつらを生かしておく理由は無い』

 

『何故俺とあいつらの契約にあいつら自身の命が含まれていないか…少し考えれば分かりそうだけどな?』

 

 

 

(ああ…そうか…)

 

奪うだけなら、簡単に出来たはずだ。

強いるだけなら、同意させる必要などなかったはずだ。

欺くだけなら、あの男は自分に違和感すら抱かせることは無かった。

 

全ては響の言う通り、切っ掛けを作るため…サンジェルマンに、自らの意志で響の手を取る理由を作るためだったのだ。

 

ただそれだけのために、決して裏切らないと信じていた仲間の在り方を変え、そのために必要な方法を自分に見せつけたのだ…お前も仲間のために、命を懸けてみせろと。

 

『サンジェルマンが、これから裏切り者になるあーしらの事を、それでも仲間だと思ってくれたなら…あーしらがどんな結末を迎えたとしても、それをサンジェルマンが背負う必要はないわ』

 

『だから、サンジェルマンは自分が信じる道を貫けば良いワケダ』

 

だから二人は、あのような事を口にしたのだ。自分がどんな選択をしても…それを尊重すると、伝えるために。

 

「人は人のまま変わっていかなきゃいけないんです。わたしはわたしのまま、サンジェルマンさんはサンジェルマンさんのまま…これはそのために、兄弟子が必死になって見つけ出してくれた方法です。どうか、サンジェルマンさんも兄弟子に騙されてくれませんか?」

 

そう言いながら自分に微笑みかける響の顔と、その手に輝く赤い球体を見つめたサンジェルマンは…

 

「…完敗、だな」

 

…そう言って、力を抜くようにフッと小さく笑った。

 

「だとしても…いつだって、何かを変えていく力…だとしてもが、不撓不屈の想いなのかもしれない」

 

そう言って、サンジェルマンが自らの意志でその手を伸ばす。かつては同じ色に染まっていたが故に伸ばせなかったその手が、今は逆に導かれるようにその赤い輝きに伸ばされる…

 

 

 

「そこまでにしてもらうよ、茶番は」

 

 

 

パァン!!

 

…二人の手が重なる寸前に、声と共に飛来してきた何かが響の手に当たり、ナナシの血液は何処かへ弾き飛ばされてしまった。

 

飛来してきた物…白い帽子が弧を描くように持ち主の手に戻ると、その持ち主…アダムは空中から全員を見下ろしながら、ニヤリと笑みを浮かべるのだった。

 

 

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